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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02J
審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 H02J
管理番号 1262557
審判番号 不服2010-8780  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-26 
確定日 2012-09-25 
事件の表示 特願2005-505005「電力システム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月26日国際公開、WO2004/073136、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成16年2月13日(優先権主張平成15年2月13日、日本国)を国際出願日とする出願であって、同18年3月22日に手続補正がなされ、同21年6月10日付けの拒絶理由に対して同21年8月12日付けで意見書及び手続補正書が、また同21年10月13日付けで手続補正書が提出されたが、同22年1月22日付けで拒絶査定がされ、同22年4月26日に本件審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
そして、平成23年6月16日に、本件審判の請求は成り立たないとする審決がなされたところ、同23年7月28日に、当該審決に対する訴えが知的財産高等裁判所に提起された(平成23年(行ケ)第10241号)。そして、知的財産高等裁判所において、審決取消の判決(平成24年2月28日判決言渡)があった。
その後、当審において本件についてさらに審理し、平成24年6月27日付けで拒絶の理由を通知し、それに対して同年8月9日付けで、特許請求の範囲及び明細書を補正対象とする手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願発明は、平成24年8月9日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書、願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりの次のものと認める。
「 【請求項1】
少なくとも1つの発電機器、少なくとも1つの蓄電機器および少なくとも1つの電力消費機器と、電力需給制御機器とを備えた電力需給家の複数が夫々の電力需給制御機器において従来の電力系統に拠らない電力需給線路により相互接続されてなる電力システムにおいて、
前記電力需給制御機器は、
当該電力需給制御機器が備えられた前記電力需給家において電力不足が生じるか否か、または電力余剰が生じるか否かを判断し、
当該電力需給家において電力不足が生じる場合には、前記発電機器および/または前記蓄電機器を備えた他の電力需給家から電力需給線路を介して電力を受け取り、
当該電力需給家において電力余剰が生じる場合には、他の電力需給家に前記電力需給線路を介して電力を渡す、
ことを特徴とする電力システム。
【請求項2】
少なくとも1つの発電機器、少なくとも1つの蓄電機器および少なくとも1つの電力消費機器と、電力需給制御機器とを備えた電力需給家の複数が夫々の電力需給制御機器において従来の電力系統に拠らない電力需給線路により相互接続されてなる電力システムにおいて、
前記複数の電力需給家は、複数の群に区分され、
各群に属する電力需給制御機器は、
当該群において電力不足が生じるか否か、または電力余剰が生じるか否かを判断し、
当該群において電力不足が生じる場合には、前記発電機器および/または前記蓄電機器を備えた電力需給家が属する他の群から電力需給線路を介して電力を受け取り、
当該群において電力余剰が生じる場合には、他の群に電力需給線路を介して電力を渡す、
ことを特徴とする電力システム。
【請求項3】
複数の前記電力需給家は、分枝状電力需給線路、数珠つなぎ状電力需給線路、放射状電力需給線路、網状電力需給線路またはこれらを組み合わせた電力需給線路に接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電力システム。
【請求項4】
前記電力需給制御機器は、他の電力需給家の前記電力需給制御機器との間で電力の需給情報のやり取りをデータ通信ネットワークを介して行うことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の電力システム。
【請求項5】
複数の前記電力需給家は、相互にDC接続されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の電力システム。」(以下、「本願発明1ないし5」という。)

第3.先願、及び刊行物に記載された発明
1 先願に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された特願2002-125290号(特開2003-324850号)(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「当初明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 特許請求の範囲の請求項1
「送配電線網を介して電力を相互に融通するとともに、通信網を介して相互に各種情報をやり取りすることにより電力の融通を制御する制御装置を有する複数の電力需要家からなり、当該電力需要家の電力需給状況に応じて他の電力需要家との間で、それぞれの制御装置により各種情報をやり取りすることにより、前記送配電線網を介して電力を融通する電力需給調整システムであって、
前記各電力需要家の制御装置は、
当該電力需要家で発電している電力と当該電力需要家で消費している電力との電力差を計測する需給計測手段と、
前記需給計測手段により得られた電力差に基づき、当該電力需要家での電力余剰に応じた他の電力需要家に対する受電要求、または当該電力需要家での電力不足に応じた他の電力需要家に対する送電要求の要否を判定するとともに、当該要求が必要な場合には前記通信網を介して他の電力需要家へ当該要求を送信する要求制御手段と、
前記通信網を介して受信した他の電力需要家からの受電要求または送電要求に応じて、前記需給計測手段により得られた電力差に基づき当該要求への応否を判定し、当該要求へ応じる場合には前記通信網を介してその要求元の電力需要家へ当該要求へ応じる旨の受電応答または送電応答を送信する応答制御手段と、
前記通信網を介して受信した他の電力需要家からの受電応答または送電応答に応じて、前記送配電線網を介した当該応答の送信元となる電力需要家との間での送電または受電を制御する電力送受制御手段とを備えることを特徴とする電力需給調整システム。」
イ 段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、電力需給調整システムおよび電力需要家制御装置に関し、特に原子力発電、火力発電、あるいは大規模水力発電といった従来からの商用電源ではなく、特に太陽光発電、風力発電、内燃機関発電、小規模水力発電、あるいは燃料電池発電といった小規模な自家発電装置を持つ多数の電力需要家が送配電線網を介して他の電力需要家との間で電力を融通するのに用いる電力需給調整システムおよび電力需要家制御装置に関するものである。」
ウ 段落【0020】?【0025】
「【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施の形態にかかる電力需給調整システムの構成を示すブロック図である。この電力需給調整システムは、送配電線網1、通信網2、複数の電力需要家3,4から構成されている。以下の各実施の形態では、電力需要家が2つの場合を例として説明するが、実際に用いられる電力需給調整システムでは、通常、3つ以上の多くの電力需要家が存在し、必要なときに必要な分だけ電力を融通するユビキタス電力供給モデルを構成する。
送配電線網1は、送電線、配電線、変電所および変圧器など多くの設備から構成され、電気エネルギーを流通するための電力設備群である。通信網2は、例えばインターネットなどのコンピュータ通信網や移動体通信網などであり、通信網2に接続する装置の1つが通信網2に接続する他の複数の装置へ、一括して同一情報を送信可能とするための配信機能を備える。この配信機能としては、例えばブロードキャスト通信機能やマルチキャスト通信機能などが挙げられる。
電力需要家3は、送配電線網1を介して電力の取引を行う企業や個人や団体が保有する建物および装置群からなり、自家発電装置31と、通信網2に接続する制御装置(電力需要家制御装置)32とを備える。制御装置32には、需給計測手段321、要求制御手段322、応答制御手段323および電力送受制御手段324が設けられている。
需給計測手段321では、自家発電装置31が発生している電力と電力需要家3において消費している電力との電力差を計測する。要求制御手段322では、需給計測手段321により得られる電力差の値をもとに他の電力需要家に対して電力が余剰しているため受電を要求する旨の受電要求情報Aを送信するか、電力が不足しているため送電を要求する旨の送電要求情報Bを送信するか、あるいは何も情報を送信しないかを判定し、送信する判定をした場合に受電要求情報Aまたは送電要求情報Bを他の電力需要家に対して通信網2を介して送信し、他の電力需要家からの受電に応じる旨の受電応答情報Cまたは送電に応じる旨の送電応答情報Dの受信を待ち受ける。
応答制御手段323では、需給計測手段321により得られる電力差の値をもとに他の電力需要家より送信された受電要求情報Aまたは送電要求情報Bに応じるか否か判定し、応じると判定した場合は、受電に応じる旨の受電応答情報Cまたは送電に応じる旨の送電応答情報Dを、受電要求情報Aまたは送電要求情報Bを送信した電力需要家に対して通信網2を介して送信する。電力送受制御手段324では、要求制御手段322が待ち受けた受電に応じる受電応答情報Cまたは送電に応じる旨の送電応答情報D、あるいは応答制御手段323が送信した受電に応じる旨の受電応答情報Cまたは送電に応じる旨の送電応答情報Dをもとに、受電または送電を行う電力を制御する。
電力需要家4は、送配電線網1を介して電力の取引を行う企業や個人や団体が保有する建物および装置群からなり、電力需要家3と同様に、自家発電装置41および制御装置42を備える。また、制御装置42には、制御装置32と同様に、需給計測手段421、要求制御手段422、応答制御手段423および電力送受制御手段424が設けられている。送配電線網1と通信網2には、電力需要家3,4以外にも、電力需要家3と同様に自家発電装置と制御装置を備えた多数の電力需要家が接続することも可能である。なお、送配電線網1と通信網2には、自家発電装置を備えない電力需要家が接続することも可能である。」
エ 段落【0043】?【0044】
「次に、図5を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかる電力需給調整システムについて説明する。図5は第3の実施の形態にかかる電力需給調整システムの構成を示すブロック図であり、前述した図1と同じまたは同等部分については同一符号を付してある。本実施の形態では、第1の実施の形態(図1参照)の構成に加えて、各電力需要家3,4にエネルギー蓄積装置33,43が設けられている。また、自家発電装置31,41はその出力の制御が不可能である。なお、出力制御が不可能な自家発電装置とは、例えば太陽光発電装置や風力発電装置など、出力電力が天候などの自然条件によってのみ変動するなどの特性を持ち、その出力を装置外からの制御により変化させることのできないものを指す。
エネルギー蓄積装置33,43は、電力を熱エネルギー、化学エネルギー、運動エネルギー、あるいは位置エネルギーに変換して蓄積する装置である。なお、エネルギー蓄積装置は、蓄積されているエネルギーを電力に変換可能な装置とすることもでき、あるいは、蓄積されているエネルギーを電力に変換することができない装置とすることもできる。電力を熱エネルギーに変換して蓄積する装置としては、例えば電気温水器など、電力を用いて物質を加熱または冷却し、その物質を保温可能な環境下で保存するシステムが挙げられる。電力を化学エネルギーに変換して蓄積する装置としては、例えば鉛蓄電池のような二次電池や、水を電気分解して水素を発生し水素吸蔵金属を用いた装置により水素を保存するシステムなどが挙げられる。なお、保存されている水素は、燃料電池発電装置により電力に変換することも可能である。」
オ 上記摘記事項ウに、「電力需要家3において消費している電力」とあるから、電力需要家は少なくとも1つの電力消費機器を有している。
また、複数の電力需要家は送配電線網で相互接続されていることは明らかである。
カ 先願発明
上記アないしエの記載事項、及びオの認定事項からみて、先願の当初明細書等には、
「自家発電装置、エネルギー蓄積装置および少なくとも1つの電力消費機器と、制御装置を備えた電力需要家の複数が送配電線網により相互接続されてなる電力需給調整システムにおいて、
前記制御装置は、
当該制御装置が備えられた前記電力需要家において電力が不足するか、または電力が余剰しているかを判定し、
当該電力需要家において電力が不足すると判定した場合には、前記自家発電装置および前記エネルギー蓄積装置を備えた他の電力需要家から送配電線網を介して受電し、
当該電力需要家において電力の余剰と判定した場合には、他の電力需要家に送配電線網を介して送電する、
電力需給調整システム。」との発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。

2 刊行物に記載された発明
平成24年6月27日付けの当審からの拒絶の理由として引用された本件出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-152976号公報には、以下の発明が記載されている。
「少なくとも1つの太陽電池1又は燃料電池2(発電機器)、少なくとも1つの蓄電池3(蓄電機器)および少なくとも1つの負荷8(電力消費機器)と、システム制御手段7(電力需給制御機器)とを備えた分散電源システム16(電力需給家)の複数が系統電力線路により相互接続されてなる電力システムにおいて、
各分散電源システム16は、通信ネットワーク12を介して接続されたシステム管理手段15を有し、
システム管理手段15は各分散電源システム16から電力情報を収集し、電力需要の少ない時間帯に、蓄電池3の充電を分散電源システム16に指示し、電力需要の多い時間帯に逆潮流を各分散電源システム16に指示することにより、負荷の平準化に寄与する分散電源電力供給システム(電力システム)。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。(なお、括弧内は、本願発明で用いられている用語を示す。)

第4.対比・判断
1 本願発明1と先願発明との対比・判断
本願発明1における「従来の電力系統に拠らない電力需給線路」は、平成23年(行ケ)第10241号判決の第4の1イで判示されているように、本願図面の図8(従来の電力系統)が示すような、大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備は含まず、各「電力需給家」が備える「電力需給制御機器」を接続するものであるから、「電力需給線路」は、「従来の電力系統」とは異なるとともに、電圧等の整合を行うための構成を含んでいないと解するのが相当である。
そうすると、本願発明1における、電力需給家の複数が夫々の電力需給制御機器を相互接続するための「従来の電力系統に拠らない電力需給線路」は、「従来の電力系統」(図8が示すような、大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備)を排除しているものと解すべきである。
他方、先願発明の「送配電線網」については、モノや設備の集合体としての設備群ないし「送電線、配電線、変電所および変圧器などの多くの設備から構成され、電気エネルギーを流通するための電力設備群」である。また、先願明細書によれば、「電力送受制御手段324では、要求制御手段322が待ち受けた受電に応じる受電応答情報Cまたは送電に応じる旨の送電応答情報D、あるいは応答制御手段323が送信した受電に応じる旨の受電応答情報Cまたは送電に応じる旨の送電応答情報Dをもとに、受電または送電を行う電力を制御する。」等の記載(摘記事項ウ参照。)があるものの、電力需要家間での電力を送電し受電する際の具体的な制御や必要となる電圧等の整合に係る制御についての具体的な記載はない。先願図面の図5には、先願発明の「制御装置」(本願発明1の「電力需給制御機器」に相当する。)は、「通信網」とは接続されているが、「送配電線網」とは接続されていない様子が明確に示されている。したがって、先願発明では、「既存の系統を利用することなく、別個に送電及び受電を行うための技術的構成」は示されていないというべきである。
以上によれば、本願発明1の「従来の電力系統に拠らない電力需給線路」は、従来の電力系統でないとともに「電力需給制御機器」とも区別されているのであって、電圧等の整合を行うための構成を含んでいないのに対して、先願発明における「送配電線網」は、従来の電力系統として変電所等の電圧等の整合を行うための構成を示すにとどまり、これを超える構成を示すものではないから、両者が相当するということはできない。
以上のとおり、本願発明1における「従来の電力系統に拠らない電力需給線路」は、先願発明の「送配電線網」とは異なるのであるから、本願発明1と先願発明とは同一であるとすることはできず、本願発明1は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。
2 本願発明2と先願発明との対比・判断
本願発明2においても、本願発明1についてと同様、「従来の電力系統に拠らない電力需給線路」は、先願発明の「送配電線網」とは異なるのであるから、本願発明2と先願発明とは同一であるとすることはできず、本願発明2は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。
3 本願発明3ないし5と先願発明との対比・判断
本願発明3ないし5は、いずれも、本願発明1ないし2を引用しているから、本願発明1ないし2が、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない以上、本願発明1ないし2を引用する本願発明3ないし5についても、同様に、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。
4 本願発明1と引用発明との対比・判断
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「太陽電池1又は燃料電池2」、「蓄電池3」、「負荷8」、「システム制御手段7」、「分散電源システム16」、「分散電源電力供給システム」は、それぞれ、本願発明1の「発電機器」、「蓄電機器」、「電力消費機器」、「電力需給制御機器」、「電力需給家」、「電力システム」に相当する。
引用発明の「系統電力線路」は、「電力需給線路」という限りで、本願発明1の「従来の電力系統に拠らない電力需給線路」と共通する。
引用発明の「システム管理手段15は各分散電源システム16から電力情報を収集」することは、「制御機器が電力の過不足を判断」する限りにおいて、本願発明1の「電力需給制御機器は、当該電力需給制御機器が備えられた電力需給家において電力不足が生じるか否か、または電力余剰が生じるか否かを判断」することと共通する。
引用発明の「電力需要の少ない時間帯に、蓄電池3の充電を分散電源システム16に指示し、電力需要の多い時間帯に逆潮流を各分散電源システム16に指示することにより、負荷の平準化に寄与する」ことは、本願発明1の「電力需給家において電力不足が生じる場合には、発電機器および/または蓄電機器を備えた他の電力需給家から電力需給線路を介して電力を受け取り、当該電力需給家において電力余剰が生じる場合には、他の電力需給家に電力需給線路を介して電力を渡す」ことに相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有している。
<一致点>
「少なくとも1つの発電機器、少なくとも1つの蓄電機器および少なくとも1つの電力消費機器と、電力需給制御機器とを備えた電力需給家の複数が電力需給線路により相互接続されてなる電力システムにおいて、
制御機器が電力の過不足を判断し、
当該電力需給家において電力不足が生じる場合には、前記発電機器および/または前記蓄電機器を備えた他の電力需給家から電力需給線路を介して電力を受け取り、
当該電力需給家において電力余剰が生じる場合には、他の電力需給家に前記電力需給線路を介して電力を渡す、電力システム。」
<相違点1>
電力需給線路に関して、本願発明1では、「電力需給制御機器において従来の電力系統に拠らない電力需給線路により相互接続されてなる」と特定しているのに対して、引用発明では、分散電源システム16の複数が系統電力線路により相互接続されてなるものである点。
<相違点2>
電力の過不足を判断する制御機器に関して、本願発明1では、「電力需給制御機器は、当該電力需給制御機器が備えられた電力需給家において電力不足が生じるか否か、または電力余剰が生じるか否かを判断」するとしているのに対して、引用発明では、システム管理手段15が各分散電源システム16から電力情報を収集して行うものである点。
(2) 相違点についての当審の判断
上記相違点のうち、特に<相違点1>について検討する。
本願発明1における「従来の電力系統に拠らない電力需給線路」は、上記判決で判示されているように、本願図面の図8(従来の電力系統)が示すような、大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備は含まず、各「電力需給家」が備える「電力需給制御機器」を接続するものであるから、「従来の電力系統に拠らない電力需給線路」は、「従来の電力系統」とは異なるとともに、電圧等の整合を行うための構成を含んでいないと解するのが相当である。
そうすると、本願発明1における、電力需給家の複数が夫々の電力需給制御機器を相互接続するための「従来の電力系統に拠らない電力需給線路」は、「従来の電力系統」(図8が示すような、大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備)を排除しているものと解すべきである。
それに対して、引用発明においては、分散電源システム16の複数が系統電力線路、すなわち、従来の電力系統により相互接続されているものであって、大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備に接続されていることを前提とするものである。
以上のように、引用発明は、従来の電力系統に接続されることを前提とするものであるから、分散電源システム16の複数の接続をこの電力系統に接続されない構造とすることは、前提を無視するものであって、これを直ちに容易になし得たものとすることはできない。
平成24年6月27日付けの当審からの拒絶の理由には、その他に、刊行物2ないし5として、特開平10-42472号公報、特開2002-51465号公報、特開平4-312318号公報、特開平4-8122号公報を引用している。
しかしながら、特開平10-42472号公報に記載された発明では、商用電力系統11へ接続されることを前提とした電力需給線路を有するものであり、特開2002-51465号公報に記載された発明も、電力会社の電力系統1に接続されることを前提とした電力需給線路を有するものであり、特開平4-312318号公報に記載された発明も、50/60Hz買電するもの、すなわち、商用電力系統への接続を前提とするものであり、特開平4-8122号公報に記載された発明も、商用電力源11へ接続されていることを前提とするものであって、これらの先行技術を参照しても、引用発明において、分散電源システム16の複数の接続を、系統電力線路に代えて、従来の電力系統に拠らない電力需給線路で行うことを容易になし得たものとすることはできない。
その他に、引用発明において、分散電源システム16の複数の接続を、系統電力線路に代えて、従来の電力系統に拠らない電力需給線路で行うことを容易になし得たとする先行技術は見当たらない。
したがって、<相違点2>について検討するまでもなく、本願発明1を引用発明から容易になし得たものとすることはできない。
5 本願発明2と引用発明との対比・判断
本願発明2においても、本願発明1についてと同様、「従来の電力系統に拠らない電力需給線路」の点については、上記4(2)で判断したのと同様の理由により、引用発明から容易になし得たものとすることはできない。
6 本願発明3ないし5と引用発明との対比・判断
本願発明3ないし5は、いずれも、本願発明1ないし2を引用しているから、本願発明1ないし2が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない以上、本願発明1ないし2を引用する本願発明3ないし5についても、同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

第5.むすび
以上のとおり、本願発明1ないし5は、原査定に拒絶の理由として引用された先願に記載された発明と同一ではなく、また、当審の拒絶理由で引用された刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-09-06 
出願番号 特願2005-505005(P2005-505005)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02J)
P 1 8・ 16- WY (H02J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石川 晃  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
菅澤 洋二
発明の名称 電力システム  
代理人 樋口 盛之助  

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