• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1262578
審判番号 不服2010-1587  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-25 
確定日 2012-09-03 
事件の表示 特願2007- 26581「排ガス処理用触媒、その製造方法および排ガス処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月21日出願公開、特開2008-188542〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年2月6日の出願であって、平成21年7月21日付けで拒絶理由通知が通知され、同年9月28日付けで意見書並びに特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、同年10月19日付けで拒絶査定され、これに対し、平成22年1月25日に拒絶査定不服審判が請求されると共に、同日付けで特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書が提出されたものである。その後、当審から平成23年10月17日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、同年12月19日付けで回答書が提出され、更に、当審から平成24年3月6日付けで拒絶理由通知がなされ、同年5月8日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成24年5月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
一酸化窒素、一酸化炭素および揮発性有機化合物を含有する排ガスの処理用触媒を製造する方法であって、
多孔質無機化合物のスラリーを基材表面に塗布した後、乾燥して下層のコート層を形成する工程と、
1種以上の貴金属のコロイド溶液を調製し、これを用いて、上記1種以上の貴金属を多孔質無機化合物に担持させる工程と、
上記1種以上の貴金属を担持した多孔質無機化合物のスラリーを上記下層のコート層上に4?30μmの厚さで塗布した後、乾燥して、上記触媒の表面となる上層のコート層を形成する工程と
を含み、
上記上層のコート層の形成工程における上記貴金属の担持量が0.3?1.5g/Lである排ガス処理用触媒の製造方法。」

第3 引用刊行物の記載事項
1.本願出願前に頒布された刊行物である特開平2-56247号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「内燃機関の排気中の炭化水素、一酸化炭素および窒素酸化物を無害化するための触媒であって、担体上にゼオライトを主成分とする第1触媒層とその上に酸化還元能を備えた貴金属触媒を主成分とする第2触媒層を設けてなることを特徴とする排気浄化用触媒。」(特許請求の範囲、請求項1)
イ 「第1触媒層は、ゼオライトを主成分とする多孔質体層が形成される。・・・そして、ゼオライトの内部構造は、カゴ状の空洞や、それらの空洞を相互に連結する種々の口径のトンネル状の孔路等の間隙からなり、その間隙の存在により、イオン交換能、吸着能、分子ふるい能および触媒能を備えている。なお、第1触媒層には、ゼオライトの他にアルミナ、ジルコニア、希土類酸化物等の耐熱性を有する酸化物を含有してもよい。
また、第1触媒層には、Pt、Pd、Rh等の貴金属触媒を担持してもよい。」(2頁右上欄18行?左下欄13行)
ウ 「第2触媒層は、第1触媒層の上にアルミナ等のコート層を形成した後、このコート層にPt、Pd、Rh等の貴金属触媒をその溶液で担持することにより形成される。これら貴金属は、1種又は2種以上を用いることができ、担持量は、0.1?10g/l(担体1lに対する担持重量)とすることが好ましい。」(2頁左下欄17行?右下欄3行)
エ 「〔作用〕
上述した本発明の排気浄化用触媒によれば、冷間状態で空燃比がリッチの状態のとき、内層の第1触媒層(12)において炭化水素が選択的にゼオライトに吸着される。このため、触媒通過後の排気中のHCが減少する。機関が暖機されると、排気ガスの温度が上昇して触媒の温度も上がるため、第1触媒層(12)のゼオライトからHCが徐々に脱離され、活性の高まった第2触媒層(14)においてHC、COが酸化されるとともに、NOxが還元され、無害化される。」(2頁右下欄18行?3頁左上欄8行)
オ 「(実施例1)
・・・触媒をコーティングする担体として、コーディェライト製のハニカム型モノリス担体10を用いた。モノリス担体10は、断面積で1平方インチ当たり400個の断面正方形のセルを有する見掛は容量が1.3lのものを用い、水前処理後、ウオッシュコートスラリー中に浸漬した。スラリーは、ゼオライト100重量部、シリカゾル80重量部とを水および硝酸とともにボールミリングして生成した。続いてスラリー中からモノリスを引き上げ、圧縮空気をセル面に吹き付けてセル中の過剰スラリーを吹き去り、乾燥(200℃)して遊離水を除去した後、700℃で1時間焼成した。この結果、モノリス担体10上に厚さ約25μmのゼオライトコート層(第1触媒層)12が得られた。
このゼオライトコート層12を形成したモノリス担体10に水前処理を施した後、アルミナを主体とするウオッシュコートスラリー中にモノリス担体を浸漬し、ゼオライトコート層12の形成時と同様に吹き払い、乾燥、浸漬を行い、厚さ約25μmのアルミナコート層を得た。このウオッシュコートスラリーは、アルミナ100重量部、硝酸アルミニウム水溶液14重量部とを水および硝酸とともにボールミリングして生成した。
続いて、アルミナコート層に、常法にしたがい、白金(Pt)、ロジウム(Rh)とともにランタン(La)、セリウム(Ce)を担持して第2触媒層14とした。これらの成分の担持量は、担体1l当たり、Ptを1.5g、Rhを0.3g、Laを0.03モル、Ceを0.3モルであった。」(3頁左上欄19行?左下欄9行)

2.本願出願前に頒布された刊行物である特表2000-511111号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
カ 「1. 触媒相を担体に担持してなる触媒組成物を使用して窒素酸化物の発生を削減させるようにガスを処理するための方法において、該担体が0.1?15%のTi/Ti+Si原子比のシリカ及び酸化チタンをベースにしたことを特徴とする、ガスの処理方法。
・・・
4. 触媒相が白金をベースにする触媒組成物が使用されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
5. 白金がゾルの形で準備された触媒組成物が使用されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
6. 白金が2nm?10nm、特に3nm?8nmのコロイド寸法のゾルの形で準備された触媒組成物が使用されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。」(特許請求の範囲、請求項1?6)
キ 「白金をベースにする、本発明の一つの別法に従う触媒相の特定の場合には、白金は、ゾルの形で準備される。白金ゾルは、好ましくは、それが2nm?10nm、特に3nm?8nmの間のコロイド寸法を有するように選択される。コロイド寸法は、透過電子顕微鏡(TEM)によって決定される。」(6頁28行?7頁2行)
ク 「触媒相がゾルによって準備された白金をベースにし、メソ多孔質の担体を有し且つ上で示した比表面積値を有する組成物の特定の場合には、焼成後の組成物中の白金粒子の寸法は、上記したコロイド寸法に実質的に同等である。」(7頁21行?23行)
ケ 「本発明によって処理するのに好適なガスは、例えば、ガスタービンから、火力発電所のボイラーから、又は内燃エンジンから得られるものである。後者の場合には、これらのエンジンは、特にジーゼルエンジン又はリーンバーンエンジンであることができる。」(8頁3行?6行)
コ 「この系では、触媒組成物は、種々の形状で、例えば種々の寸法のペレット、ビーズ、円筒体又はハニカムであることができる。
また、これらの組成物は、それらを編入した被覆(ウオッシュコート)であって、例えば金属モノリス型の基質又はセラミックス基質に担持させたものを含む触媒系に使用することもできる。」(9頁7?11行)
サ 「実施例
I-触媒の合成
・出発物質
H_(2)PtCl_(6)型の白金溶液(24.88%のpt)と5?7nmのコロイド寸法及び10g/lの濃度の白金ゾルを使用する。
このゾルは、ポリビニルピロリドン、H_(2)PtCl_(6)及びメタノールの混合物を含む溶液を還流させることによって得る。
・・・
・得られた生成物

* ptの%は担体の重量に対する金属の重量として表わす。
** 比表面積はBET測定により決定する。
II-接触試験
石英製の反応器に50mgの粉末状の触媒を装入する。使用した粉末は、予め0.125及び0.250mmに粒状化した。反応器に入るときに、反応混合物は次の組成(容量で)を有する。
・NO=300vpm
・C_(3)H_(6)=300vpm
・CO=350vpm
・O_(2)=10%
・CO_(2)=10%
・H_(2)O=10%
・N_(2)=合計で100%となる量
・・・
HC(C_(3)H_(6))、CO及びNOx(NOx=NO+NO_(2))のシグナルを、反応器における温度と同じように、永久的に記録する。
・・・
・T/(HC)=100(HC^(0)-HC)/HC^(0)(ここで、HC^(0)は時間t=0でのHCのシグナルであり、これは触媒反応器をバイパスしたときに得られる反応混合物によって得られるHCのシグナルに相当し、HCは時間tでのHCのシグナルである)
によって与えられるHC(THC)の転化率%。
・T/(CO)=100(CO^(0)-CO)/CO^(0)
(ここで、CO^(0)は時間t=0でのCOのシグナルであり、これは触媒反応器をバイパスしたときに得られる反応混合物によって得られるCOのシグナルに相当し、COは時間tでのCOのシグナルである)
によって与えられるCO(TCO)の転化率%。
・T/(NOx)=100(NOx^(0)-NOx)/NOx^(0)
(ここで、NOx^(0)は時間t=0でのNOxのシグナルであり、これは触媒反応器をバイパスしたときに得られる反応混合物によって得られるNOxのシグナルに相当し、NOxは時間tでのNOxのシグナルである)
によって与えられるNOx(TNOx)の転化率%。
触媒は試験条件下で活性化されるようになるという事実のために、触媒活性は同じ条件下で第二の連続試験通入の過程で示す。」(9頁17行?12頁12行)
シ 「例1
生成物1(NOxを削減させるために使用する触媒)を使用する。結果を以下の表1に示す。
表 1

」(12頁13行?13頁)
ス 「例3
生成物2(NOxを削減させるために使用する触媒)を使用する。結果を以下の表3示す。
表 3

」(14頁下から4行目?15頁)

3.本願出願前に頒布された刊行物である特開2006-297188号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
タ 「一酸化炭素及び揮発性有機化合物を含有する排ガスの処理用触媒において、多孔質無機化合物より成る担体のコート層を有し、該コート層が単層であり、上記多孔質無機化合物が50m^(2)/g以上のBET式比表面積を有し、粒子径15nm以下の1種以上の貴金属からなる活性金属を、上記コート層の表層より50μm以内に担持したことを特徴とする排ガス処理用触媒。」(特許請求の範囲、請求項1)
チ 「しかし、従来の方法では、高価なPt等の貴金属を多量に担持するため、製造コストが高かった。また、製造コストを減らすため貴金属量を低減すると、処理対象物の燃焼速度が低下し、十分な性能が得られなかった。」(【0004】)
ツ 「本発明によれば、担持する貴金属の少量化を可能とし、製造コストを低減させるようにした排ガス処理用触媒及びその製造方法が提供される。
・・・」(【0008】)
テ 「本発明に係る排ガス処理用触媒は、粒子径15nm以下の1種以上の貴金属からなる活性金属を、上記コート層の表層より50μm以内に担持する。また、コート層表層より深さ30μm以内に、担持量の50重量%以上が含まれることが好適である。これによって、触媒表層に活性成分が存在することとなり、触媒活性を大きく向上させ、排ガス処理を効率的に行うことができる。
上記担持される貴金属としては、Ir、Rh、Ru、Pt、Pd、Ag、Au及びそれらの酸化物から成る群より選ばれる少なくとも一種以上であることが好適である。」(【0015】)
ト 「次に、本発明に係る排ガス処理用触媒の製造方法について、その好適な一実施の形態を説明する。
本発明に係る排ガス処理用触媒の製造方法では、少なくとも一種の金属塩を溶解した金属塩水溶液を調製する。次いで、該金属塩水溶液を還元処理して、金属コロイド溶液を調製する。そして、該金属コロイドを含む水溶液に、担体のコート層を備える基材を浸漬させ、上記した活性金属を、コート層を構成する多孔質無機化合物の担体に担持する。
上記金属塩は、触媒活性を具現する貴金属の金属塩が好適である。・・・さらに好適なものは、Pt、Pd、Ruの硝酸塩、塩化物、酢酸塩、錯塩である。」(【0016】、【0017】)
ナ 「【表1】

」(8頁)

第4 引用刊行物発明
引用刊行物1には、記載事項アに「内燃機関の排気中の炭化水素、一酸化炭素および窒素酸化物を無害化するための触媒であって、担体上にゼオライトを主成分とする第1触媒層とその上に酸化還元能を備えた貴金属触媒を主成分とする第2触媒層を設けてなることを特徴とする排気浄化用触媒。」が記載され、上記「第1触媒層」について、「第1触媒層は、ゼオライトを主成分とする多孔質体層が形成される。」(記載事項イ)、上記「第2触媒層」について、「第2触媒層は、第1触媒層の上にアルミナ等のコート層を形成した後、このコート層にPt、Pd、Rh等の貴金属触媒をその溶液で担持することにより形成される。」(記載事項ウ)と記載されており、実施例1(記載事項オ)として、「コーディェライト製のハニカム型モノリス担体10を・・・用い、・・・ウオッシュコートスラリー中に浸漬した。スラリーは、ゼオライト100重量部、シリカゾル80重量部とを水および硝酸とともにボールミリングして生成した。続いてスラリー中からモノリスを引き上げ、・・・乾燥(200℃)・・・後、700℃で1時間焼成した。この結果、モノリス担体10上に厚さ約25μmのゼオライトコート層(第1触媒層)12が得られた。・・・このゼオライトコート層12を形成したモノリス担体10に水前処理を施した後、アルミナを主体とするウオッシュコートスラリー中にモノリス担体を浸漬し、・・・乾燥、浸漬を行い、厚さ約25μmのアルミナコート層を得た。このウオッシュコートスラリーは、アルミナ100重量部、硝酸アルミニウム水溶液14重量部とを水および硝酸とともにボールミリングして生成した。続いて、アルミナコート層に、常法にしたがい、白金(Pt)、ロジウム(Rh)とともにランタン(La)、セリウム(Ce)を担持して第2触媒層14とした。これらの成分の担持量は、担体1l当たり、Ptを1.5g、Rhを0.3g、Laを0.03モル、Ceを0.3モルであった。」とのように排気浄化用触媒を製造した例が記載されている。
そして、上記実施例1の「常法にしたがい」とは、記載事項ウによれば、「その溶液で担持する」ものといえる。

これらの記載事項を整理すると、引用刊行物1には、
「内燃機関の排気中の炭化水素、一酸化炭素および窒素酸化物を無害化するための触媒の製造方法であって、コーディェライト製のハニカム型モノリス担体を用い、このモノリス担体を、ゼオライト100重量部、シリカゾル80重量部とを水および硝酸とともにボールミリングして生成したスラリー等のウオッシュコートスラリー中に浸漬し、乾燥後、焼成して、モノリス担体上に多孔質体層である厚さ約25μmのゼオライトコート層(第1触媒層)を形成し、このゼオライトコート層を形成したモノリス担体を、アルミナを主体とするウオッシュコートスラリー中に浸漬し、乾燥して厚さ約25μmのアルミナコート層を形成した後、このアルミナコート層に、貴金属触媒であるPt、RhとともにLa、Ceをその溶液で担持して第2触媒層とし、これらの成分の担持量が、担体1l当たり、Pt1.5g、Rh0.3g、La0.03モル、Ce0.3モルである排気浄化用触媒の製造方法」の発明(以下、「引用刊行物発明」という。)が記載されているといえる。

第5 対比
そこで、本願発明と引用刊行物発明とを比較する。
(1)内燃機関の排気中の炭化水素は揮発性有機化合物といえ、窒素酸化物中に一酸化窒素が含まれることは明らかであるから、引用刊行物発明の「内燃機関の排気中の炭化水素、一酸化炭素および窒素酸化物を無害化するための触媒の製造方法」は、本願発明の「一酸化窒素、一酸化炭素および揮発性有機化合物を含有する排ガスの処理用触媒を製造する方法」に相当する。
(2)引用刊行物発明の「モノリス担体」は、本願発明の「基材」に相当する。
(3)引用刊行物発明の「ゼオライト100重量部、シリカゾル80重量部とを水および硝酸とともにボールミングして生成したスラリー等のウオッシュコートスラリー」は「多孔質無機化合物のスラリー」といえ、担体をスラリー中に浸漬するのは、担体へのスラリーの周知の塗布方法の一つであり、本願明細書(【0036】)に「セラミックスハニカム基材・・・上記により得たアルミナスラリーに浸漬させ」と記載のように、本願発明においても浸漬によりスラリーを基材表面に塗布しているから、引用刊行物発明の「モノリス担体を、ゼオライト100重量部、シリカゾル80重量部とを水および硝酸とともにボールミリングして生成したスラリー等のウオッシュコートスラリー中に浸漬し、乾燥後、焼成して、モノリス担体上に多孔質体層である厚さ約25μmのゼオライトコート層(第1触媒層)を形成」する工程は、本願発明の「多孔質無機化合物のスラリーを基材表面に塗布した後、乾燥して下層のコート層を形成する工程」に相当する。
(4)引用刊行物発明において、「アルミナを主体とするウオッシュコートスラリー」も「多孔質無機化合物のスラリー」といえ、ゼオライトコート層の上に、アルミナコート層が形成されることは明らかであるから、引用刊行物発明の「ゼオライトコート層を形成したモノリス担体を、アルミナを主体とするウオッシュコートスラリー中に浸漬し、乾燥して厚さ約25μmのアルミナコート層を形成した後、このアルミナコート層に、貴金属触媒であるPt、RhとともにLa、Ceをその溶液で担持して第2触媒層とする」工程は、下層のコート層上にスラリーを塗布した後、乾燥して上層のコート層を形成して触媒が担持された上層とする点で、本願発明の「多孔質無機化合物のスラリーを上記下層のコート層上に塗布した後、乾燥して、上記触媒の表面となる上層のコート層を形成する工程」と共通する。
(5)したがって、上記(1)?(4)の検討から、両者は、「一酸化窒素、一酸化炭素および揮発性有機化合物を含有する排ガスの処理用触媒を製造する方法であって、多孔質無機化合物のスラリーを基材表面に塗布した後、乾燥して下層のコート層を形成する工程と、多孔質無機化合物のスラリーを上記下層のコート層上に塗布した後、乾燥して、上記触媒の表面となる上層のコート層を形成する工程とを含む排ガス処理用触媒の製造方法。」の発明である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点a>
本願発明は、「1種以上の貴金属のコロイド溶液を調製し、これを用いて、上記1種以上の貴金属を多孔質無機化合物に担持させる工程」を設け、「上記1種以上の貴金属を担持した多孔質無機化合物のスラリーを上記下層のコート層上に塗布し」て「上層のコート層を形成する」のに対して、引用刊行物発明は、「アルミナを主体とするウオッシュコートスラリー中に浸漬し、乾燥してアルミナコート層を形成した後、このアルミナコート層に貴金属触媒であるPt、RhとともにLa、Ceをその溶液で担持して第2触媒層とする」点。
<相違点b>
本願発明は、上層のコート層を形成する工程において「下層のコート層上に4?30μmの厚さで塗布した後、乾燥」するのに対して、引用刊行物発明は、「ゼオライトコート層を形成したモノリス担体を、アルミナを主体とするウオッシュコートスラリー中に浸漬し、乾燥して厚さ約25μmのアルミナコート層を形成」する点。
<相違点c>
本願発明は「貴金属の担持量が0.3?1.5g/Lである」のに対して、引用刊行物発明は「成分の担持量が、担体1l当たり、Pt1.5g、Rh0.3g、La0.03モル、Ce0.3モルである」点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
1.<相違点a>について
ところで、引用刊行物2には、火力発電所ボイラや内燃エンジン等の排ガスを、触媒相を担体に担持してなる触媒組成物を使用して処理する方法において、触媒相として、白金をゾルの形で準備することにより、2?10nmのコロイド寸法の白金粒子を触媒組成物に担持することができること(記載事項カ?ケ)、白金溶液とコロイド寸法の白金ゾルとをそれぞれ用いて製造した触媒組成物の粉末を触媒反応器に装入し、NO、C_(3)H_(6)、COを含む反応混合物と接触させて触媒活性を試験したところ、Pt源としてゾルを用いた触媒組成物粉末である生成物2は、Pt源として溶液を用いた触媒組成物粉末である生成物1に比べて、CO、HC、NOxのそれぞれの転化率であるT_(CO)、T_(HC),T_(NOx)のすべてにおいて、触媒活性が高かったこと(記載事項サ?ス、特に、記載事項シの表1と記載事項スの表3を参照)、当該触媒組成物は、例えば種々の寸法のペレット、ビーズ、円筒体又はハニカム等種々の形状でよく、ウオッシュコートとして金属モノリス型の基質やセラミック基質に担持させて使用することもできること(記載事項コ)が記載されている。
これら引用刊行物2の記載によれば、白金をゾルの形で準備し、白金コロイドを用いることにより、2?10nmのコロイド寸法の白金粒子が担持された触媒組成物粉末が得られ、このようにして得られた触媒組成物粉末は、白金溶液を用いた触媒組成物粉末に比べて触媒活性が高いこと、及び、この触媒組成物粉末をウオッシュコートとしてセラミック基質に担持して使用すること、すなわち、白金をゾルの形で準備してコロイド寸法の白金粒子が担持された触媒組成物粉末を、ウオッシュコートとして用いて、セラミック基質に被覆し触媒層を製造することは、この出願前公知の技術であるといえる。
一方、引用刊行物発明の第2触媒層は、アルミナコート層を形成した後に貴金属触媒の溶液に浸漬する所謂”含浸法”で形成されるものであるが、引用刊行物1全体の記載を検討しても、貴金属触媒が担持された触媒層の形成に含浸法以外の方法は採用できないとまでの格別の事情は見出せない。
してみると、触媒活性の高い触媒を用いて処理を行おうとすることは触媒を用いた処理一般における普遍的な課題であるから、触媒活性を高める目的で、引用刊行物2に開示される公知技術に基づき、引用刊行物発明において第1触媒層の上に形成される第2触媒層を、アルミナコート層を形成した後にこのアルミナコート層に貴金属触媒をその溶液で担持して形成するのに代えて、白金コロイドを用いて2?10nmのコロイド寸法の白金粒子が担持された触媒組成物粉末をウオッシュコートとして第1触媒層上に担持することにより形成することは、当業者の容易になし得ることである。
そして、白金コロイドを用いて白金粒子を担持させることにより触媒活性が高まることは引用刊行物2に開示される事項から当業者であれば容易に予測し得ることである。
また、白金粒子が担持された触媒組成物粉末をウオッシュコートして触媒層を形成した結果、白金粒子はそのウオッシュコートで形成された触媒層内全体に均一に存在することになること、すなわち、引用刊行物2に開示される公知技術を用いて厚さ約25μmの第2触媒層を形成すれば、白金粒子は最上層の表面から約25μmの厚さの範囲に均一に存在することになることも当業者であれば自明な事項である。

2.<相違点b>について
上記「第5 (3)、(4)」の検討より、引用刊行物発明の「セラミックコート層」及び「アルミナコート層」が、それぞれ本願発明の「下層のコート層」及び「上層のコート層」に該当することは明らかであるが、<相違点b>は、上層のコート層(アルミナコート層)の厚さに関するものである。
本願発明では、「下層のコート層上に4?30μmの厚さで塗布した後、乾燥」するので、本願発明の上層のコート層の厚さが4?30μmとは、乾燥前の厚さである。これに対し、引用刊行物発明では、「アルミナを主体とするウオッシュコートスラリー中に浸漬し、乾燥」した後の厚さが「約25μm」であるから、引用刊行物発明のアルミナコート層の厚さは、乾燥後の厚さである。
そうすると、<相違点b>は、上層のコート層(アルミナコート層)の厚さについて、本願発明は乾燥前の厚さが4?30μmであるのに対して、引用刊行物発明では、乾燥後の厚さが約25μmである点に一応相違があるといえる。
しかしながら、塗布後の乾燥により本願発明の上層のコート層がたとえ若干収縮したとしても、その厚さが乾燥前後で著しく変化するとは技術常識上考えがたく、例えば上限値の30μmの厚さで塗布した場合、乾燥後の厚さは25μmより厚いとみるのが自然である。
そうすると、引用刊行物発明のアルミナコート層の乾燥後の約25μmとの厚さは、本願発明において4?30μmの厚さで塗布して乾燥した後の上層のコート層の厚さの数値範囲に含まれることは明らかであり、<相違点b>は実質的な相違点ではない。

3.<相違点c>について
(1)引用刊行物発明において貴金属触媒であるPt、Rhの担持量は担体1lあたりPt1.5g、Rh0.3gであるから、合計すると1.8gとなり、本願発明における貴金属の担持量の0.3?1.5g/Lに比べて担持量が多い。
(2)しかしながら、上記2.で述べたとおり、コロイド寸法の白金粒子が担持された触媒組成物粉末は、白金溶液を用いた触媒組成物粉末に比べて触媒活性が高いことが引用刊行物2に開示されるとおりこの出願前公知であって、引用刊行物発明において第2触媒層を、アルミナコート層を形成した後に貴金属触媒をその溶液で担持して形成するのに代えて、コロイド寸法の白金粒子が担持された触媒組成物粉末をウオッシュコートして形成することにより、触媒活性が高まることが予測されるのであるから、逆に言えば、より少ない触媒成分の担持量で同程度の触媒活性が得られるであろうことは当業者であれば自明である。
(3)貴金属の担持量について、引用刊行物1の記載事項ウには、「これら貴金属は、1種又は2種以上を用いることができ、担持量は、0.1?10g/l(担体1lに対する担持重量)とすることが好ましい。」と記載されている。
(4)ところで、引用刊行物3(記載事項タ?ト)には、一酸化炭素及び揮発性有機化合物を含有する排ガスの処理用触媒において、Pt等の貴金属からなる活性金属を担持するのに金属コロイド溶液を用い、該金属コロイド溶液に、担体のコート層を備える基材を浸漬させて活性金属を担持する触媒の製造方法が記載され、具体的な実施例ではPt等の活性成分の担持量が0.07?0.6g/Lであったこと(【表1】(記載事項ナ))が記載されている。
(5)引用刊行物3の方法は、コート層を備えた基材を金属コロイド溶液に浸漬して貴金属粒子を担持する点で、コロイド寸法の白金粒子が担持された触媒組成物粉末を作製しておいてそれをセラミック基質(基材)にウオッシュコートするものである引用刊行物2に開示の公知技術とは異なるが、担持される貴金属粒子の粒径がコロイド寸法である点では引用刊行物2のものと同様であり、このように貴金属粒子の粒径がコロイド寸法である場合の担持量が0.07?0.6g/Lでよいことは、この出願前公知の事項であったといえる。
(6)そうすると、上記(2)に鑑み、コロイド寸法の貴金属粒子を用いたことによる触媒活性の向上に期待して、どの程度触媒成分の担持量を減じても所望の反応率(排ガス浄化効果)が得られるか、上記(3)?(5)で示される担持量の値を参考にして、種々実験検討することにより、貴金属触媒の担持量の最適な値を導き出すことは、当業者が通常行う創作活動であり、本願発明で規定される数値範囲に特定することに格別の技術的困難性は認められない。
(7)そして、本願明細書全体の記載をみても、貴金属の担持量を0.3?1.5g/Lの範囲に数値限定することにより、その範囲を外れた場合に比べて、本願発明が格別顕著な効果を奏するとはいえないので、0.3?1.5g/Lとの数値限定自体に臨界的意義があるものとも認められない。

4.本願発明の効果について
ここで、本願明細書(【0010】等)に記載される「排ガス処理の反応に大きく寄与する上層に集中して活性成分を担持することができるので、触媒全体の貴金属の使用量を増加することなく、酸化力を向上することができる。」との本願発明の効果について検討する。
ところで、引用刊行物3(記載事項タ?テ)の記載によれば、触媒表層に活性成分が存在することにより、触媒活性を大きく向上し、排ガス処理を効率的に行うことができ、担持する貴金属の少量化を可能とし、製造コストを低減させることができることは、この出願前公知の事項である。
引用刊行物発明は、「アルミナコート層に、貴金属触媒であるPt、RhとともにLa、Ceをその溶液で担持して第2触媒層と」するものであるから、あくまでも、ゼオライトコート層とアルミナコート層(第2触媒層)の2層のうち表層である第2触媒層に担持することを意図しているといえる。
この点について、請求人は平成24年5月8日付け意見書(6頁7?9行)において、「引用刊行物1も、第1触媒層と第2触媒層を形成した後、貴金属溶液に浸漬していますので、同様の深さまで(すなわち、下層の第1触媒層まで)貴金属が存在すると推測できます。」と主張している。
確かに、第1触媒層と第2触媒層を形成した後、貴金属溶液に浸漬することで貴金属溶液が第1触媒層へも浸透していくことは否定できないが、貴金属溶液のすべてが下層の第1触媒層へ達してしまうとは考えがたく、その大部分は、表層である第2触媒層に留まり、貴金属触媒成分の大部分は第2触媒層に担持されると推測される。
そして、上記3.で述べたとおり、引用刊行物発明において引用刊行物2に開示される公知技術を用いて厚さ約25μmの第2触媒層を形成すれば、白金粒子は表層の表面から約25μmの厚さの範囲に均一に存在することになることも当業者であれば自明な事項である。
してみると、上述のとおりの引用刊行物3に開示される公知事項を参酌すれば、引用刊行物発明おいて引用刊行物2に開示される公知技術を用いて形成された第2触媒層であればこそ、活性成分である貴金属が表層である第2触媒層(触媒表層)に存在していることは明らかであって、触媒全体の貴金属の使用量を増加することなく、触媒活性が向上されるとの効果を奏するであろうことは当業者が困難なく予測し得るものといえる。
したがって、本願明細書記載の本願発明の効果も、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2、3に記載される事項に基き、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別なものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものであり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-12 
結審通知日 2012-07-13 
審決日 2012-07-24 
出願番号 特願2007-26581(P2007-26581)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 隆介  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 目代 博茂
小川 慶子
発明の名称 排ガス処理用触媒、その製造方法および排ガス処理方法  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  
代理人 松島 鉄男  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ