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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04H |
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管理番号 | 1262676 |
審判番号 | 不服2011-16641 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-08-03 |
確定日 | 2012-09-06 |
事件の表示 | 特願2004-361064号「制振装置を埋設して成るコンクリート造建物のコンクリート壁」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月29日出願公開、特開2006-169754号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成16年12月14日の出願であって,平成23年5月13日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成23年8月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされた。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は,平成22年8月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。 「制振装置を埋設して成るコンクリート造建物のコンクリート壁において、 前記制振装置は、その全体形状が長さと幅と厚さとを有する扁平で細長い板状の形状であり、その両側面に、該制振装置をコンクリートに定着させてコンクリートから該制振装置へ剪断力を伝達させるための剪断力伝達手段が設けられており、 前記制振装置は、その両側面を画成する一対の板材と、それら板材の間に設けられた振動エネルギ吸収手段とを備え、該振動エネルギ吸収手段によって、前記一対の板材が該制振装置の長手方向に相対変位する際に抵抗力が得られるようにしてあり、 前記制振装置は、コンクリート壁を構築するための型枠を建て込む際に該制振装置の幅方向が前記コンクリート壁の厚さ方向と一致するように配設して該型枠の内部に該制振装置を取付け、該型枠にコンクリートを打設することにより、当該コンクリート壁に埋設されており、 前記制振装置は、該制振装置の埋設箇所において当該コンクリート壁が完全に分断されるようにして埋設されており、 地震発生時に前記コンクリート造建物が変形することにより、前記一対の板材が前記制振装置の長手方向に相対変位するようにしてある、 ことを特徴とするコンクリート造建物のコンクリート壁。」(以下,「本願発明」という。) 3.刊行物に記載された発明 (1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2002-201814号公報(以下,「刊行物1」という。)には図面と共に,次の記載がある。 (1a)「【請求項1】 高層建物の柱・梁又はスラブ架構に設ける制振壁を左右に分割して連立させ、該両分割制振壁はそれぞれ異なる一方の柱と上下の梁又はスラブとに3辺で連結させるとともにその厚み方向に隙間をあけて該柱・梁又はスラブ架構の幅方向中央部で所定幅に亘って対面させて設け、該対面する隙間に両分割壁に定着された粘弾性体を介在させたことを特徴とする高層建物の制振壁構造。 【請求項2】 前記両分割制振壁がRC壁でなり、前記粘弾性体は一対の鋼板に挟まれて接着剤で結合され、各鋼板はアンカーボルトで該両分割制振壁に一体化されて定着されていることを特徴とする請求項1記載の高層建物の制振壁構造。 【請求項3】 前記請求項2に係る高層建物の制振壁構造を施工するに際して、前記粘弾性体を挟んでその両面に前記鋼板を接着剤で一体的に結着すると共に該各鋼板の外面に前記アンカーボルトを多数立設して、これらを予め制振ユニットとして形成しておき、前記両分割制振壁を形成するための型枠にはその対向面に該制振ユニット装着用の開口部を形成し、該装着用開口部に該制振ユニットを装着して該型枠の開口部を塞ぎ、爾後該型枠内にコンクリートを打設して該制振ユニットを介して該両分割制振壁を結合した制振壁を形成することを特徴とする高層建物の制振壁施工方法。」 (1b)「【0006】この構成によれば、風や地震により高層建物に振動が入力されて曲げ変形が発生すると、これに伴って分割制振壁の対面部分に大きな上下変位成分を有した相対移動が生じ、この相対移動力は粘弾性体に入力されて振動エネルギーが吸収される。これにより高層建物の曲げ変形を抑制してその曲げモードの振動を制振することができる。」 (1c)【図1】(a),(b)及び【図2】を参照すると,制振ユニットはその全体形状が(上下方向に相当する)長さと幅と厚さとを有する扁平で板状の形状である点が見てとれる。また,高層建物に振動が入力されると,上下方向である長手方向に制振ユニットが装着された分割制振壁同士が相対変位するといえる。 上記記載事項(1a)?(1c)及び図面の記載から,刊行物1には,次の発明が記載されているものと認められる。 「対面する隙間に両分割壁に定着された粘弾性体を介在させた高層建物の制振壁構造において,高層建物の柱・梁又はスラブ架構に設ける制振壁を左右に分割して連立させ,その厚み方向に隙間をあけて該柱・梁又はスラブ架構の幅方向中央部で所定幅に亘って対面させて設け,該対面する隙間に両分割壁に定着された粘弾性体を介在させ,前記粘弾性体は一対の鋼板に挟まれて接着剤で結合され,各鋼板はアンカーボルトで該両分割制振壁に一体化されて定着されており,前記粘弾性体を挟んでその両面に前記鋼板を接着剤で一体的に結着すると共に該各鋼板の外面に前記アンカーボルトを多数立設して,これらを予め制振ユニットとして形成しておき,その全体形状が長さと幅と厚さとを有する扁平で板状の形状であり,両分割制振壁を形成するための型枠に該制振ユニットを装着して該型枠の開口部を塞ぎ,爾後該型枠内にコンクリートを打設して該制振ユニットを介して該両分割制振壁を結合した制振壁を形成し,風や地震により高層建物に振動が入力されて曲げ変形が発生すると,これに伴って制振ユニットが装着された分割制振壁の対面部分に大きな上下変位成分を有した長手方向の相対移動が生じ,この相対移動力は粘弾性体に入力されて振動エネルギーが吸収される高層建物の制振壁構造。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。) (2)刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用された,本願出願前に頒布された刊行物である,国際公開第98/30771号(以下,「刊行物2」という。)には,次の記載がある。 (2a)「第1図および第2図において、柱1や梁2は躯体の荷重を支える基本的な主構造部材であり,地震や風などの外乱によって変形振動する部分である。本発明において耐震壁3やブレース4は補助構造部材であり,原則として補助構造部分の上端または下端を主構造部分の床ダイアフラムに固定し,固定しない他端が減衰要素5を挟んで別の床ダイアフラムと接合している。減衰要素は荷重を支持しつつ減衰性を有する高減衰ゴムなどの材料を挟んで別の床ダイアフラムと接合する。」(明細書第3頁第19行?第4頁第2行) (2b)「図3を参照に本発明の作用について説明する。ビルなど多層の構造物が地震や風などによって振動する場合、図のように躯体の水平変形は主に上下床ダイアフラム6の間のせん断変形になって現われる。この層間の僅かなせん断変形を、容易には変形しない補助構造部材を利用して薄い減衰要素5の部分に集中させ、図のように減衰要素に大きなせん断歪みを与えて高い減衰性能を発揮させようとする制振方法である。 ・・・ 図4は,床ダイアフラムの一部である梁2に,減衰要素5を介して耐震壁と結ぶための部材構造の例であり,耐震壁とはフランジ7に固定されたスタッド8よって結合される。」(明細書第4頁第9行?第21行) (2c)「減衰要素には,減衰定数10%以上の合成ゴムである高減衰ゴムが適当と考えられる。ただし,どのような部材を用いるかは,構造物の利用性や躯体の構造が鉄筋コンクリート造か鉄骨造かなどの条件によって最適な組合せを選択すべきである。」(明細書第4頁第26行?第5頁第3行) (2d)第1図及び第3図を参照すると,減衰要素は細長い板状の形状であって,その幅方向は耐震壁の厚さ方向と略一致するように配設してある点,及び地震によって振動する場合,構造物が変形することにより減衰要素が長手方向に変形する構成が図示されている。 4.対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると, 刊行物1記載の発明の「壁に定着された粘弾性体を介在させた高層建物の制振壁構造」が,「粘弾性体」は「制振ユニット」の一部であり,制振壁を形成するための型枠にコンクリートが打設され定着されて制振壁構造としたものであるから,本願発明の「制振装置を埋設して成るコンクリート造建物のコンクリート壁」に実質的に相当している。 次に,刊行物1記載の発明の「制振ユニット」が,本願発明の「制振装置」に相当しており,以下同様に, 「アンカーボルト」が「剪断力伝達手段」に, 「一対の鋼板」が「一対の板材」に, 「粘弾性体」が「振動エネルギー吸収手段」に, 「両分割制振壁を形成するための型枠に該制振ユニットを装着して」,「爾後該型枠内にコンクリートを打設して該制振ユニットを介して該両分割制振壁を結合した制振壁を形成し」が「制振装置は、コンクリート壁を構築するための型枠を建て込む際に該制振装置を配設して該型枠の内部に該制振装置を取付け、該型枠にコンクリートを打設することにより、当該コンクリート壁に埋設されており」に,それぞれ相当している。 さらに,刊行物1記載の発明の「制振ユニットを介して該両分割制振壁を結合した」が,本願発明の「制振装置は、該制振装置の埋設箇所において当該コンクリート壁が完全に分断されるようにして埋設されており」に実質的に相当している。 また,刊行物1記載の発明の「風や地震により高層建物に振動が入力されて曲げ変形が発生すると,これに伴って分割制振壁の対面部分に大きな上下変位成分を有した長手方向の相対移動が生じ,この相対移動力は粘弾性体に入力されて」が,本願発明の「地震発生時に前記コンクリート造建物が変形することにより、前記一対の板材が前記制振装置の長手方向に相対変位する」に相当する。 したがって,両者は,以下の点で一致している。 「制振装置を埋設して成るコンクリート造建物のコンクリート壁において、 前記制振装置は、その全体形状が長さと幅と厚さとを有する扁平で板状の形状であり、その両側面に、該制振装置をコンクリートに定着させてコンクリートから該制振装置へ剪断力を伝達させるための剪断力伝達手段が設けられており、 前記制振装置は、その両側面を画成する一対の板材と、それら板材の間に設けられた振動エネルギ吸収手段とを備え、該振動エネルギ吸収手段によって、前記一対の板材が相対変位する際に抵抗力が得られるようにしてあり、 前記制振装置は、コンクリート壁を構築するための型枠を建て込む際に配設して該型枠の内部に該制振装置を取付け、該型枠にコンクリートを打設することにより、当該コンクリート壁に埋設されており、 前記制振装置は、該制振装置の埋設箇所において当該コンクリート壁が完全に分断されるようにして埋設されており、 地震発生時に前記コンクリート造建物が変形することにより、前記一対の板材が前記制振装置に相対変位するようにしてある、 ことを特徴とするコンクリート造建物のコンクリート壁。」 そして,以下の点で相違している。 (相違点1) 本願発明は,制振装置が,「その全体形状が長さと幅と厚さとを有する扁平で細長い板状の形状」で,「一対の板材が長手方向に相対変位する」のに対して, 刊行物1記載の発明は,細長い形状かどうか不明であり,上下方向である長手方向に相対移動する点。 (相違点2) 型枠を建て込む際に,本願発明は,「制振装置の幅方向がコンクリート壁の厚さ方向と一致するように配設」しているのに対して, 刊行物1記載の発明は,制振ユニットを両分割制振壁の厚み方向に隙間をあけて柱・梁又はスラブ架構の幅方向中央部で所定幅に亘って対面させて設けている点。 5.判断 (相違点1について) 刊行物2に記載の「減衰要素」,「フランジ」及び「スタッド」が,本願発明の「振動エネルギー吸収手段」,「板材」及び「アンカーボルト」にそれぞれ相当する。次に,刊行物2に記載の「減衰要素」,「フランジ」及び「スタッド」を一体化した部材は,「フランジ」は一対ではないものの,減衰性能を有し,細長い形状で長手方向に相対変位する。刊行物1記載の発明と刊行物2に記載の減衰性能を有する部材は,制振装置という同一の技術分野に属するから,刊行物1記載の発明の制振ユニットに,刊行物2記載の減衰性能を有する部材を細長い形状で,長手方向に相対変位する構成を採用し,本願発明の相違点1の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものである。 (相違点2について) 刊行物2に記載の「減衰要素」は,その幅方向は耐震壁の厚さ方向と略一致するように配設してあるから,本願発明の,「制振装置の幅方向がコンクリート壁の厚さ方向と一致するように配設」している構成に実質的に相当するものである。そして,刊行物1記載の発明と刊行物2に記載の構造物は,共に剪断力伝達手段を有する制振装置を埋設したコンクリート壁という共通の技術分野に属しており,制振装置は,刊行物1記載の発明において,両分割制振壁の厚み方向に隙間をあけて柱・梁又はスラブ架構の幅方向中央部で所定幅に亘って対面させて設けているが,建物の構造及び壁や梁の位置関係,組合せ等に応じて,設置個所を適宜選択し得るものであるから,刊行物2に記載されているように,減衰要素の幅方向は耐震壁の厚さ方向と一致するように配置する構造を採用して,本願発明の相違点2の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものである。 また,本願発明の作用効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2の記載事項から当業者が予測し得る程度のことである。 したがって,本願発明は刊行物1記載の発明及び刊行物2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 6.むすび 以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-07-09 |
結審通知日 | 2012-07-10 |
審決日 | 2012-07-24 |
出願番号 | 特願2004-361064(P2004-361064) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E04H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 洋行 |
特許庁審判長 |
高橋 三成 |
特許庁審判官 |
鈴野 幹夫 横井 巨人 |
発明の名称 | 制振装置を埋設して成るコンクリート造建物のコンクリート壁 |
代理人 | 野田 茂 |