ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01L |
---|---|
管理番号 | 1262677 |
審判番号 | 不服2011-16720 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-08-04 |
確定日 | 2012-09-06 |
事件の表示 | 特願2006-136526「薄膜トランジスタの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月29日出願公開、特開2007-311404〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成18年5月16日の出願であって,平成23年2月2日付けで拒絶理由が通知され,それに対して,同年3月28日に手続補正されたが,同年7月4日付けで拒絶査定がされ,それに対して,同年8月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 2 本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は,平成23年3月28日付けの手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項1】 基板と,ゲート電極と,ゲート絶縁膜と,活性層として少なくともホモロガス化合物 InMO_(3)(ZnO)_(m)(Mが,In,Fe,GaまたはAl原子であり,mが,1以上50未満の整数である。)を含むアモルファス酸化物半導体と,ソース電極と,ドレイン電極とを備えた薄膜電界効果トランジスタの製造方法であって, 前記酸化物半導体を形成したのち,酸化性ガス雰囲気中において200℃以上600℃以下の温度(ただし,200℃以上300℃以下を除く)で熱処理する工程を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」 3 先願明細書等に記載された発明 (1)原査定の根拠となった平成23年2月2日付けの拒絶理由通知書において提示した,本願出願前の特許出願であって,当該出願日後に出願公開(特開2006-165531号公報)がされた特願2005-325369号特許出願(以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)には,図5とともに以下の記載がある。 ア 「【0012】 また,本発明に係る電界効果型トランジスタの製造方法は,基板を用意する第1の工程,及び 該基板上に非晶質酸化物を含み構成される活性層を形成する第2の工程を備え,且つ該第2の工程後に, 該第2の工程における該活性層の成膜温度よりも高い温度で熱処理する工程,あるいは該活性層を備えている該基板に酸素含有プラズマを照射する工程の少なくともいずれかの工程を含むことを特徴とする。」 イ 「【0027】 その後,本発明に係る非晶質酸化物について,各実施形態に共通する事項について述べる。 (第1の実施形態:成膜前から成膜後) 1-A 本実施形態に係る電界効果型トランジスタの製造方法は,基板を用意した後,該基板上に非晶質酸化物を含み構成される活性層を形成する前に,下記のいずれかの工程を行うことを特徴とする。 該工程とは,該基板表面にオゾン雰囲気中で紫外線を照射する工程,あるいは 該基板表面にプラズマを照射する工程,あるいは 該基板表面を,過酸化水素を含有する薬液により洗浄する工程,あるいは シリコンと酸素を含む膜をコーティングする工程のことである。 【0028】 上記した基板の表面処理工程により,該基板表面に付着していた不純物が除去され,基板表面が清浄化される。 【0029】 上記工程により,TFT(薄膜トランジスタ)などの電界効果型トランジスタを構成する膜中への不純物拡散による性能劣化を低減させることができる。 また,付着物を基板表面から取り除くことにより,基板とトランジスタを構成する膜との密着性向上させることも可能である。 【0030】 1-B また,本発明に係る電界効果型トランジスタの製造方法は, 成膜用の基板を用意した後,所定の雰囲気中で,非晶質酸化物を成膜することを特徴とする。 【0031】 当該所定の雰囲気とは,オゾンガス,窒素酸化物ガス,酸素含有ラジカル,原子状酸素,酸素イオン,酸素ラジカルの少なくともいずれかを含む雰囲気である。 【0032】 なお,前記オゾンガスや窒素酸化物ガスや酸素含有ラジカルや酸素ラジカルは,成膜チャンバーの外部から該成膜チャンバー内に導入することができる。 【0033】 また,酸素含有プラズマを前記基板に照射することで,該成膜チャンバー内に原子状酸素や酸素イオンや酸素ラジカルを生じさせることができる。 【0034】 上記オゾンガス等は,分子状態の酸素よりも酸化力が強いため,酸素欠損が少ない非晶質酸化物を得ようとする場合には好適である。 【0035】 なお,前記非晶質酸化物を電界効果型トランジスタの活性層として使用する場合には,上記本発明により,不要な酸素欠陥を少なくできるので,欠陥準位形成によるトランジスタ特性劣化を抑制することが可能となる。 【0036】 また,本発明において前記非晶質酸化物を絶縁層として使用する場合も包含する。そして,上記方法により当該絶縁層を形成すれば,その絶縁性が向上する,という効果が得られる。 【0037】 なお,本発明は,非晶質酸化物の成膜時に,上記の雰囲気に加え,酸素分子を含む場合をも包含するものである。 【0038】 1-C また,本発明は,基板を用意し(第1の工程),その基板上に非晶質酸化物を含み構成される活性層を形成する第2の工程後に, 下記の後処理工程の少なくとも一つの工程(後処理工程)を行なうことを特徴とする。該後処理工程とは, 該第2の工程における該活性層の成膜温度よりも高い温度で熱処理する熱処理工程,あるいは 該活性層を備えている該基板に酸素含有プラズマを照射する工程である。 【0039】 成膜温度とは,例えば室温である。具体的には,0℃から40℃の範囲である。 前記活性層の成膜時には,室温で成膜を行う場合のように,意図的に基板を加熱しないで成膜を行う場合がある。 【0040】 前記熱処理工程は,前記非晶質酸化物形成後であれば適宜行うことができる。勿論,基板上にゲート絶縁膜形成後,あるいはドレイン電極やソース電極やゲート電極など電極膜を形成した後に前記熱処理工程を行ってもよい。 【0041】 特に,前記電極膜として酸化物を用いる場合は,当該電極膜形成後に熱処理工程を行うことが好ましい。 【0042】 なお,前記熱処理工程時には,オゾンを含む雰囲気や,窒素酸化物ガスを含む雰囲気や,水蒸気を含む雰囲気や,酸素ラジカルを含む雰囲気などで行うことができる。 【0043】 熱処理工程における温度は,例えば室温より高く,600℃以下の温度である。好ましくは,200℃以下である。PET(ポリエチレンテレフタラート)などの可撓性基板を用いている場合には,200℃以下,好ましくは100℃以下,より好ましくは50℃以下である。 【0044】 これにより,不要な酸素欠陥を少なくし,欠陥準位形成によるトランジスタ特性劣化を低減できる。」 ウ 「【0089】 上記酸化物とは,In-Ga-Zn-Oを含み構成され,結晶状態における組成がInGaO_(3)(ZnO)_(m) (mは6未満の自然数)で表され,電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)未満であることを特徴とする。」 エ 「【0103】 なお,上記TFTの構造としては,半導体チャネル層の上にゲート絶縁膜とゲート端子を順に形成するスタガ(トップゲート)構造や,ゲート端子の上にゲート絶縁膜と半導体チャネル層を順に形成する逆スタガ(ボトムゲート)構造を用いることができる。 (第1の成膜法:PLD法) 結晶状態における組成がInGaO_(3)(ZnO)_(m)(mは6未満の自然数)で表される非晶質酸化物薄膜は,mの値が6未満の場合は,800℃以上の高温まで,非晶質状態が安定に保たれるが,mの値が大きくなるにつれ,結晶化しやすくなる。すなわち,InGaO_(3)に対するZnOの比が増大して,ZnO組成に近づくにつれ,結晶化しやすくなる。 【0104】 したがって,非晶質TFTのチャネル層としては,mの値が6未満であることが好ましい。」 オ 「【0156】 上記記載においては,非晶質酸化物膜の酸素量(酸素欠損量)の制御を,成膜時に酸素を所定濃度含む雰囲気中で行うことで制御している。しかし,成膜後,当該酸化物膜を酸素を含む雰囲気中で後処理して酸素欠損量を制御(低減あるいは増加)することも好ましいものである。 【0157】 効果的に酸素欠損量を制御するには,酸素を含む雰囲気中の温度を0℃以上300℃以下,好ましくは,25℃以上,250℃以下,更に好ましくは100℃以上200℃以下で行うのがよい。」 カ 図5には,ガラス基板上に,アモルファスのInGaZnO_(4)チャネル層,その上にドレイン端子5,ソース端子6及びゲート絶縁膜3を設け,ゲート絶縁膜3上にゲート端子4を設けた薄膜電界効果トランジスタが見て取れる。 (2) 上記イ,カによれば,ゲート絶縁膜,ドレイン電極,ソース電極及びゲート電極が薄膜電界効果トランジスタに形成されていることは明らかである。 (3)以上を総合すると,先願明細書には,以下の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。 「基板を用意する第1の工程,及び該基板上に結晶状態における組成がInGaO_(3)(ZnO)_(m)(mは6未満の自然数)で表される非晶質酸化物を含み構成される活性層を形成する第2の工程を備え,ゲート電極,ゲート絶縁膜,ソース電極,ドレイン電極を備えた薄膜電界効果トランジスタの製造方法において,該第2の工程後に,オゾンを含む雰囲気や,水蒸気を含む雰囲気や,酸素ラジカルを含む雰囲気で該第2の工程における該活性層の成膜温度よりも高い温度で熱処理する工程を含むことを特徴とする薄膜電界効果トランジスタの製造方法。」 4 対比 (1)以下,本願発明と先願発明とを対比する。 (2) ア 本願発明の「ホモロガス化合物」とは,「同族化合物」を意味し,そうすると「ホモロガス化合物InMO_(3)(ZnO)_(m)(Mが,In,Fe,GaまたはAl原子であり,mが,1以上50未満の整数である。)」は,「InMO_(3)(ZnO)_(m)(Mが,In,Fe,GaまたはAl原子であり,mが,1以上50未満の整数である。)」の組成をもつ化合物を意味していることは当業者にとって明らかである。 そして,先願発明の「InGaO_(3)(ZnO)_(m)(mは6未満の自然数)」は,本願発明の「InMO_(3)(ZnO)_(m)(Mが,In,Fe,GaまたはAl原子であり,mが,1以上50未満の整数である。)」において,Mとして,In,Fe,GaまたはAlの中からGaを選択し,ZnOの組成比であるmが本願発明の「1以上50未満の整数」の範囲から「6未満の自然数」すなわちm=1,2,3,4,5を選択したものでありその各値は,本願発明のmの値に含まれている。また,先願発明の「非晶質酸化物」は,本願発明の「アモルファス酸化物」に相当するから,先願発明の「結晶状態における組成がInGaO_(3)(ZnO)_(m)(mは6未満の自然数)で表される非晶質酸化物」は,本願発明の「ホモロガス化合物InMO_(3)(ZnO)_(m)(Mが,In,Fe,GaまたはAl原子であり,mが,1以上50未満の整数である。)を含むアモルファス酸化物」に相当する。 また,InGaO_(3)(ZnO)_(m)が「半導体」であることは当該技術分野において周知の技術事項である。 よって,先願発明の「基板を用意する第1の工程,及び該基板上に結晶状態における組成がInGaO_(3)(ZnO)_(m)(mは6未満の自然数)で表される非晶質酸化物を含み構成される活性層を形成する第2の工程を備え,ゲート電極,ゲート絶縁膜,ソース電極,ドレイン電極を備えた薄膜電界効果トランジスタの製造方法」は,本願発明と「基板と,ゲート電極と,ゲート絶縁膜と,活性層として少なくともホモロガス化合物InGaO_(3)(ZnO)_(m)(mは6未満の自然数)を含むアモルファス酸化物半導体と,ソース電極と,ドレイン電極とを備えた薄膜電界効果トランジスタの製造方法」において共通する。 イ オゾン,酸素ラジカル,水蒸気が酸化力があることは当業者にとって明らかであるから,先願発明の「オゾンを含む雰囲気や,水蒸気を含む雰囲気や,酸素ラジカルを含む雰囲気」は,本願発明の「酸化性ガス雰囲気」に相当する。 (3) 以上から,先願発明と本願発明とは, ア 一致点 「基板と,ゲート電極と,ゲート絶縁膜と,活性層として少なくともホモロガス化合物 InGaO_(3)(ZnO)_(m)(mは6未満の自然数)を含むアモルファス酸化物半導体と,ソース電極と,ドレイン電極とを備えた薄膜電界効果トランジスタの製造方法であって, 前記酸化物半導体を形成したのち,酸化性ガス雰囲気中において熱処理する工程を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」 で一致し, イ 相違点 先願発明は「熱処理する工程」が「活性層の成膜温度よりも高い温度で熱処理する工程」であるのに対して,本願発明は「200℃以上600℃以下の温度(ただし,200℃以上300℃以下を除く)で熱処理する工程」である点において一応相違する。 (4) 以下,相違点について検討する。 ア 先願発明は,(1)イによれば,「熱処理工程時には,オゾンを含む雰囲気や,窒素酸化物ガスを含む雰囲気や,水蒸気を含む雰囲気や,酸素ラジカルを含む雰囲気などで行う」(段落【0042】)ことにより,「不要な酸素欠陥を少なくし,欠陥準位形成によるトランジスタ特性劣化を低減できる」(段落【0044】)ものであり,本願発明についても「酸化性雰囲気中の熱処理により、酸化物半導体膜中の酸素空孔が補償され、キャリヤ濃度を制御するとともに、熱処理により構造的に不安定な部分が解消されることによると考えられる」(本願明細書段落【0014】)とあるように,両者における熱処理は同様の目的,効果を奏しているものである。 イ そして,酸素欠陥(空孔)を補償することにより,酸化物半導体が物質として安定することは,当業者にとって明らかであり,そうすると,該酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタを連続駆動した場合のドレイン電流の低下が少なくなることも当然予測されるものである。 ウ また,(1)イによれば,先願明細書には,「熱処理工程における温度は,例えば室温より高く,600℃以下の温度である。」(段落【0043】)なる記載があり,先願発明は,熱処理温度を600℃以下としているものであり,本願発明とその温度範囲の上限は等しいものである。そうすると,先願発明は,酸素雰囲気中で熱処理を行い,酸素欠陥を減少させるという目的・効果を達成するべく,600℃以下の適切な温度範囲を選択しているものと考えられ,その温度範囲の選択肢として,300℃?600℃,すなわち本願発明の「200℃以上600℃以下の温度(ただし,200℃以上300℃以下を除く)」という温度範囲も当然含まれている。 そして,本願発明において,「600℃」以下の温度のうちで,「200℃以上600℃以下の温度(ただし,200℃以上300℃以下を除く)」という温度を選択することにより,当業者の予測を超える格別の効果が生じていないことも,上記ア及びイに照らして明らかである。 エ 以上から,「200℃以上600℃以下の温度(ただし,200℃以上300℃以下を除く)で熱処理する工程」は先願明細書に記載されているに等しい事項といえ,相違点は実質的なものではない。 (5)以上のとおりであるから, 先願発明の 「基板を用意する第1の工程,及び該基板上に結晶状態における組成がInGaO_(3)(ZnO)_(m)(mは6未満の自然数)で表される非晶質酸化物を含み構成される活性層を形成する第2の工程を備え,ゲート電極,ゲート絶縁膜,ソース電極,ドレイン電極を備えた薄膜電界効果トランジスタの製造方法において,該第2の工程後に,該第2の工程における該活性層の成膜温度よりも高い温度で熱処理する工程を含むことを特徴とする薄膜電界効果トランジスタの製造方法。」は, 本願発明の 「基板と,ゲート電極と,ゲート絶縁膜と,活性層として少なくともホモロガス化合物 InMO_(3)(ZnO)_(m)(Mが,In,Fe,GaまたはAl原子であり,mが,1以上50未満の整数である。)を含むアモルファス酸化物半導体と,ソース電極と,ドレイン電極とを備えた薄膜電界効果トランジスタの製造方法であって, 前記酸化物半導体を形成したのち,酸化性ガス雰囲気中において200℃以上600℃以下の温度(ただし,200℃以上300℃以下を除く)で熱処理する工程を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」 に相当するものであり,本願発明と先願発明とは同一である。 また,本願の発明者は先願の発明者と同一ではなく,かつ,本願の出願の時において,その出願人が先願の出願人と同一でもない。 したがって,本願は,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおりであるから,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。 よって,上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-26 |
結審通知日 | 2012-07-03 |
審決日 | 2012-07-23 |
出願番号 | 特願2006-136526(P2006-136526) |
審決分類 |
P
1
8・
161-
Z
(H01L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 河本 充雄、田代 吉成 |
特許庁審判長 |
北島 健次 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 西脇 博志 |
発明の名称 | 薄膜トランジスタの製造方法 |
代理人 | 松本 洋一 |