ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C |
---|---|
管理番号 | 1262684 |
審判番号 | 不服2011-23537 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-11-01 |
確定日 | 2012-09-06 |
事件の表示 | 特願2001-207770号「押し引きコントロールケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成15年1月24日出願公開、特開2003- 21130号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成13年7月9日の出願であって、平成23年9月29日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年10月4日)、これに対し、同年11月1日に拒絶査定不服審判が請求されると共にその審判の請求と同時に手続補正がされたが、当審において平成24年4月5日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年5月31日に手続補正がされたものである。 そして、その請求項1ないし5に係る発明は、平成24年5月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 芯線と、該芯線の外周を包囲する側線とからなるコアを、コンジット内に配するとともに、隙間にグリースを充填した押し引きコントロールケーブルにおいて、前記側線は、前記コンジットの内壁に摺接するとともに等間隔に配された5本の主側線を有することを特徴とする押し引きコントロールケーブル。」 第2 刊行物 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成13年5月8日に頒布された特開2001-124047号公報(以下「刊行物」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。 (1)「【0002】 【従来の技術】インナケーブルの表面に樹脂製のコーティング層を形成し、アウタチューブ内表面との間の接触抵抗を減少させて高い荷重効率を実現するコントールケーブルが知られており、特開平9-88934号公報に記載されている。特開平9-88934号公報のケーブルでは、インナケーブルの表面とアウタチューブの内表面をともに樹脂製として接触抵抗の減少を図っている。なお、ここでいう荷重効率とは、アウタチューブを固定した状態でインナケーブルの一端に加えられた荷重とインナケーブルの他端に伝達される荷重の比を言い、インナケーブルの表面とアウタチューブの内表面との間の接触抵抗が低いほど高い荷重効率が得られる。 【0003】コントロールケーブルの場合、高い荷重効率が必要とされるばかりでなく、高い荷重効率が長期間に亘って維持されることが必要とされる。そこで、特開平4-92110号公報に記載のコントロールケーブルが開発されている。この公報に記載のコントロールケーブルでは、インナケーブルの表面とアウタチューブの内表面をともに樹脂製とすることで低い接触抵抗を実現するとともに、接触抵抗が低い状態を長期間にわたって維持できるようにするために、インナケーブル表面を構成するコーティング層の表面に螺旋状の溝が残る厚さでインナケーブル表面を樹脂でコーティングする。この技術によると、樹脂製の表面によって高い荷重効率が実現され、螺旋状の溝によって潤滑剤が長期間に亘って保持されて高い荷重効率が長期間に亘って保持される。」 (2)「【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明者らが特開平4-92110号公報に記載の技術を詳細に検討したところ、なおも荷重効率を増大させ、なおも耐久性を向上させられることが見出された。本発明は、インナケーブル表面が樹脂でコーティングされることで高い荷重効率を実現し、このコーティング層の表面に螺旋状の溝を残すことで潤滑剤の保持能力を高めたプッシュプルコントロールケーブルにおいて、より荷重効率を高め、より耐久性を向上させることができるように改良することを目的とする。」 (3)「【0005】 【課題を解決するための手段と作用と効果】本発明のプッシュプルコントロールケーブルは、アウタチューブにインナケーブルが摺動自在に挿通されたものであり、インナケーブルの一端に加えられた押し引き両方向の力をインナケーブルの他端に伝達する。そのインナケーブルは、芯線と、芯線の回りに螺旋巻きされた主側線と、表面を覆うコーティング層を有している。本発明のプッシュプルコントロールケーブルは、特に、螺旋巻きされた主側線同士が離隔しており、コーティング層が略一定の厚みを有し、コーティング層の表面に螺旋状の溝が形成されていることを特徴とする。 【0006】ここでいう主側線とは、インナケーブルの外径を決定する側線をいい、主側線の他にそれよりも小径の副側線が併用されていてもよいし、主側線のみで側線が構成されていてもよい。いずれの場合にも、本発明のコントロールケーブルでは、主側線が螺旋巻きされた状態で相互に接触しあわず、間隔を置いて離隔的に螺旋巻きされている。 【0007】このコントロールケーブルは、インナケーブルの表面がコーティングされており、高い荷重効率を実現する。さらに、コーティング層の表面に螺旋状の溝が形成されており、潤滑剤の保持能力が高く、耐久性が高い。特に、芯線の回りに螺旋巻きされた主側線同士が非接触状態となるように離隔しており、その状態で層厚が略一定のコーティング層で覆われているために、離隔した主側線間のスペースに形成される螺旋状の溝を十分に深く広くすることができ、潤滑剤の保持能力が一層に高められ、より高い荷重効率とより高い耐久性を実現する。 【0008】しかも、このコントロールケーブルでは、潤滑剤の保持能力を十分に確保しながら、インナケーブルの外径とアウタチューブの内径の差を可及的に小さくすることができ、コントロールケーブルの遊び(インナケーブルの一端を押し又は引き操作した距離と、それに伴ってインナケーブルの他端が押出されたり引きこまれたりする距離の差を言う)を可及的に減少することができ、一端側での動きを他端側に正確に伝達し、その操作に要する力を低く押さえることができる。このために、コントロールケーブルが小さな曲率半径で曲げられて使用されるような使用条件の厳しいところでも使用できるプッシュプルコントロールケーブルが実現できる。 【0009】本発明者らが研究した結果、コーティング層の表面に形成されている溝の深さが、インナケーブルの直径の0.077から0.115倍であるときに、特に好ましい結果が得られることを見出した。0.0077(「0.077」の誤記と認める。)以下では潤滑剤の保持能力が不足となり、0.115以上となるとインナケーブル表面とアウタチューブ内表面との間の接触面積が減って接触面圧が高くなり、荷重効率に問題を起すことを確認した。」 (4)「【0010】 【発明の実施の形態】図1は、本発明を具体化した一実施の形態に係わるプッシュプルコントロールケーブル2の端部近傍を示し、インナケーブルは外観で示し、その他の部材は断面で示している。図2は図1の2-2(原文はローマ数字で表記。)線断面を示し、図3は図1の3-3(原文はローマ数字で表記。)線断面を示している。アウタチューブ4は3層構造を有し、最内層は樹脂製のライナ6、中間層はシールド8、最外層はアウタコート10である。ライナ6は、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリ三フッカエチレン、オレフィン、ポリアミド等の滑性に優れた樹脂でチューブ状に形成されている。シールド8は、多数の鋼素線8aを相互に隙間なくライナ6の回りに螺旋状に撚り合わせたものであり、その外周を樹脂製のアウタコート10が被覆している。 【0011】インナケーブル12は、芯線14と、芯線14の回りに螺旋状に巻かれた合計5又は8本の主側線16aと、隣接する主側線16a間にあって同じく芯線14の回りに巻かれた合計5又は8本の副側線16bと、ほぼ一様の厚みで表面を被覆している樹脂製のコーティング層18で構成されている。芯線14は1本の鋼素線で構成されているが、撚線で構成してもよい。それぞれの主側線16aは鋼素線で構成されいるが、撚線で構成してもよい。それぞれの副側線16bは鋼素線で構成されいるが、撚線で構成してもよい。コーティング層18は、66ナイロンで構成したが、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリ三フッカエチレン、オレフィン、ポリアミド等の滑性に優れたその他の樹脂で構成してもよい。コーティングの方法は、静電粉体塗装方法、溶剤塗装方法等が好適に用いられる。あるいは、芯線と側線の周りに樹脂を押出成形して表面を覆うようにしてもよい。 【0012】下記2種類の線径で実施の形態に係わるインナケーブルを作成した。いずれもインナケーブルの直径は2.6mmである。いずれの場合にも、コーティング層の表面に螺旋状の溝19が形成された。前者の場合、インナケーブル12の直径に対する溝19の深さは0.077倍であり、後者の場合、0.115倍であった。 芯線直径 側線直径(本数)副側線直径(本数)コーティング厚み 溝深さ 1.4mm 0.4mm ×8 0.2mm ×8 0.2mm 0.2mm 1.0mm 0.6mm ×5 0.3mm ×5 0.2mm 0.3mm 【0013】比較のために、インナケーブルの直径に対する溝の深さが0.077?0.115倍以外のものを各種用意した。これらのケーブルに対して、初期の荷重効率と、プッシュプル操作を繰返したときに生じる荷重効率の変化を測定した。この結果、溝の深さが0.077倍以下になると、潤滑材の保持能力が低下し、プッシュプル操作回数が比較的少ない回数で荷重効率が低下してしまうことが確認された。一方、溝の深さを0.115倍以上にするとインナケーブル表面とアウタチューブ内表面の接触面積が減って接触圧が高まり、初期の荷重効率が低いことが確認された。高い荷重効率を長期間に亘って保持するためには、インナケーブルの直径に対する溝の深さが0.077?0.115倍の範囲に設定することが有利であることが確認された。 【0014】図5は測定結果を示している。横軸は溝の深さを直径に対する比で示しており、左縦軸が初期荷重効率を示しており、右縦軸が耐久性に関する指標(この場合荷重効率が初期値の90%にまで落ちてしまう操作回数)を示しており、実線のカーブが溝の深さと初期荷重効率の関係を示し、一点鎖線のカーブが溝の深さと荷重効率が初期値の90%にまで落ちてしまう操作回数の関係を示している。溝の深さを直径の0.077?0.115倍の範囲に設定することで、高い荷重効率が長期にわたって確保されることが確認された。」 (5)図2には、5本の主側線16aが芯線14の外周に等間隔に配されることが示されている。 これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下「刊行物に記載された発明」という。)が記載されている。 「芯線14と、該芯線14の外周を包囲する主側線16a及び副側線16bと、その表面を被覆している樹脂製のコーティング層18とからなるインナーケーブル12を、アウターチューブ4内に配するとともに、コーティング層の表面に形成された螺旋状の溝19に潤滑剤を充填したプッシュプルコントロールケーブル2において、前記主側線16a及び副側線16bは、前記アウターチューブ4の内壁に前記コーティング層18を介して摺接するとともに等間隔に配された5本の主側線16aを有するプッシュプルコントロールケーブル2。」 第3 対比 本願発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、後者の「主側線16a及び副側線16b」は前者の「側線」に相当し、以下同様に、「インナーケーブル12」は「コア」に、「アウターチューブ4」は「コンジット」に、「コーティング層の表面に形成された螺旋状の溝19」は「隙間」に、「プッシュプルコントロールケーブル2」は「押し引きコントロールケーブル」にそれぞれ相当する。 また、後者の「芯線14と、該芯線14の外周を包囲する主側線16a及び副側線16bと、その表面を被覆している樹脂製のコーティング層18とからなるインナーケーブル12」と前者の「芯線と、該芯線の外周を包囲する側線とからなるコア」とは、「芯線と、該芯線の外周を包囲する側線と有するコア」という限りで共通し、後者の「潤滑剤」と前者の「グリース」とは、「潤滑剤」という限りで共通する。 したがって、両者は、 「芯線と、該芯線の外周を包囲する側線とを有するコアを、コンジット内に配するとともに、隙間に潤滑剤を充填した押し引きコントロールケーブルにおいて、前記側線は、等間隔に配された5本の主側線を有する押し引きコントロールケーブル。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 本願発明のコアが「芯線と、該芯線の外周を包囲する側線とからなるコア」であり、側線が「前記コンジットの内壁に摺接する」のに対し、 刊行物に記載された発明のインナーケーブル12が「芯線14と、該芯線14の外周を包囲する主側線16a及び副側線16bと、その表面を被覆している樹脂製のコーティング層18とからなるインナーケーブル12」であり、主側線16a及び副側線16bが「前記アウターチューブ4の内壁に前記コーティング層18を介して摺接する」点。 〔相違点2〕 本願発明の潤滑剤が「グリース」であるのに対し、刊行物に記載された発明では特定されていない点。 第4 当審の判断 1 相違点1について 刊行物には、従来、インナケーブルの表面に樹脂製のコーティング層を形成し、アウタチューブの内表面との間の接触抵抗を減少させて高い荷重効率を実現していたが(段落【0002】)、高い荷重効率だけでなく、高い荷重効率が長期間に亘って維持されることも必要であったために、コーティング層の表面に螺旋状の溝が残る厚さでインナケーブル表面をコーティングすることによって、螺旋状の溝に潤滑剤を長期間に亘って保持して高い荷重効率が長期間に亘って保持していたこと(段落【0003】)、こうした従来技術に対して、より荷重効率を高め、より耐久性を向上させることを目的として改良した結果、芯線の回りに螺旋に巻かえれた主側線同士を非接触状態となるように離隔させ、離隔した主側線間のスペースに形成される螺旋状の溝を十分に深く広くすることによって、潤滑剤の保持能力が一層に高められ、より高い荷重効率とより高い耐久性を実現できることを見出したこと(段落【0005】ないし段落【0007】)が記載されている。 この記載からみて、刊行物の「樹脂製のコーティング層」は、従来からインナケーブルとアウタチューブの内表面との間の接触抵抗を減少させ、荷重効率を高めるために用いられていたものであり、主側線同士を非接触として形成された十分に深く広い「螺旋状の溝」は、「樹脂製のコーティング層」を備えたインナケーブルの潤滑剤の保持能力を一層高め、より高い荷重効率とより高い耐久性を実現するためのものといえる。 また、刊行物の「樹脂製のコーティング層」は、「略一定の厚みを有し」(段落【0005】)て被覆されたものであるから、刊行物の「螺旋状の溝」の形状は、主に「主側線及び副側線」によって定まることは明らかである。 一方、刊行物における「樹脂製のコーティング層」は、そもそも「樹脂製のコーティング層」を有しないインナーケーブルを前提技術としており(例えば、刊行物において【従来の技術】の欄に示される特開平9-88934号公報の段落【0002】ないし段落【0004】、表1、及び図5ないし図7参照。)、そのような前提技術の1つである、「芯線と該芯線の外周を包囲する側線とからなるコアがコンジット内に配され、側線が前記コンジットの内壁に摺接する押し引きコントロールケーブル」は、本願出願前に、周知(例えば、実願昭56-38577号(実開昭57-150616号)のマイクロフィルムの第1図及び第2図に示された「実施例」並びに第3図及び第4図に示された「従来例」参照。)である。 このようなインナーケーブルの技術開発の変遷、刊行物における「螺旋状の溝」の機能、及び前記周知技術からみて、刊行物に記載された発明において「樹脂製のコーティング層」を除き、コアを「芯線と、該芯線の外周を包囲する側線とからなるコア」とし、側線を「前記コンジットの内壁に摺接する」ようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。 2 相違点2について 本願出願前に、インナーケーブルとアウターチューブとの間に充填される潤滑剤として「グリース」を用いることは、周知(例えば、実願昭56-38577号(実開昭57-150616号)のマイクロフィルムの第2頁19行目参照。)である。 そうすると、刊行物に記載された発明の「潤滑剤」として「グリース」を用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。 3 本願発明の効果について 押し引きコントロールケーブルの荷重効率は、本願明細書の段落【0012】ないし段落【0022】及び図1ないし図3に記載された各種の測定結果からみて、主側線の本数のみならず、主側線及び芯線の直径、ライナ及び主側線の材質等に左右されるものといえるが、主側線の本数に限れば、刊行物には、「樹脂製のコーティング層」を備えてはいるものの、インナケーブルの主側線を5又は8本とした場合に、高い荷重効率が長期にわたって確保され、それ以外では、潤滑剤の保持能力が低下し、プッシュプル操作回数が比較的少ない回数で荷重効率が低下したり、インナケーブル表面とアウタチューブ内表面の接触面積が減って接触圧が高まり初期の荷重効率が低くなることが記載されている(段落【0012】ないし段落【0014】)。 前述のとおり、刊行物の「螺旋状の溝」の形状は、主に「主側線及び副側線」によって定まることが自明であるから、「樹脂製のコーティング層」を除いても同様の主側線の本数と荷重効率の関係となることは予測可能であったといえる。 そうすると、本願発明の効果は、刊行物に記載された発明及び前記周知技術から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。 したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明及び前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明及び前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-07-03 |
結審通知日 | 2012-07-10 |
審決日 | 2012-07-25 |
出願番号 | 特願2001-207770(P2001-207770) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 瀬川 裕 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
所村 陽一 冨岡 和人 |
発明の名称 | 押し引きコントロールケーブル |
代理人 | 石黒 健二 |