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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C |
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管理番号 | 1262703 |
審判番号 | 不服2010-18956 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-23 |
確定日 | 2012-09-07 |
事件の表示 | 平成11年特許願第160743号「複合ベアリング構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成12年2月15日出願公開、特開2000-46037号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成11年6月8日(パリ条約による優先権主張1998年6月9日 米国)の出願であって、平成22年4月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年8月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。その後、当審において、平成23年3月23日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成23年9月30日付けで意見書及び手続補正書が提出された。 2.本願発明 本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成20年12月2日付け、平成22年8月23日付け、及び平成23年9月30日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。なお、平成22年1月20日付けの手続補正は、原審において平成22年4月16日付けで決定をもって却下されている。 「開口を有する第1側リンクと、軸線を持つ孔および環状の内向きのベアリング表面を有し、上記第1側リンクの上記開口に固定されているブッシュと、上記第1側リンクの上記ブッシュと軸線方向に整合して位置決めされた開口を有する第2側リンクと、上記第2側リンクの上記開口に上記第2側リンクと一緒に動くように固定されており、且つ上記ブッシュの上記孔を通って延びるヒンジピンとを備え、上記ヒンジピンは上記ブッシュの上記孔の上記内向きベアリング表面と係合している環状の外向き自己潤滑性ベアリング表面を持つ複合ベアリングを有していることを特徴とするリンクチェーン。」 3.引用刊行物とその記載事項 これに対して、当審において平成23年3月23日付けで通知した拒絶理由で引用した刊行物は、次のとおりである。 刊行物1:特開昭63-275831号公報 刊行物2:特開平5-164196号公報 刊行物3:特開平3-347号公報 (1)刊行物1(特開昭63-275831号公報)の記載事項 刊行物1には、「テンタークリップ用駆動チエンの潤滑方法」に関し、次の事項が記載されている。 ア.「第2図において駆動チェン21はチエンボックス22・リンクプレート23・ローラ24・連結ピン25等を主な構成要件にしている。2枚のリンクプレート23はこれに固着したブッシュ26により連結されており、かつチエンボックス22へ固着した垂直かつストレートの連結ピン25がブッシュ26にはめあい部を構成して挿入されていることにより、チエンボックス22とリンクプレート23とは連結されてエンドレスチエンを形成する。」(第1ページ右下欄第19行?第2ページ左上欄第8行) イ.「連結ピン51は直径約18mmの鋼製であって焼入により硬度を高くしてあり、その中央部には表面から深さが0.25mm程度のグリースだまり52が設けてあり、グリースだまり52の上下の表面には複数本の溝又は条こん53が設けてある。」(第2ページ右下欄第15?20行) ウ.「本発明は第2図に示した取付部材45やノズル46は無く従って通常の潤滑油による潤滑は行われていないが、グリースだまり52と溝等53を含む連結ピン51の全体にはフッソ素パウダーを配合した耐熱グリースが塗布されており、この耐熱グリースにより潤滑されている。なお54はブッシュ26に設けたローラ24の内周面に対する給油穴であり、55は連結ピン51をチエンボックス22へ固定するためのピンである。 このように構成されているため、駆動チエン21は耐熱グリースにより連結ピン51とブッシュ26の内面ならびブッシュ26とローラ24の内周面との潤滑が行われ、かつローラ24の外周面に対する潤滑はスプロケット13・14(第4図参照)の歯部に耐熱グリースを塗布することにより行われている。 上述した耐熱グリース潤滑と共に連結ピン51の表面に二硫化モリブデンMos2等を膜厚約3μmとしてドライコーティングすることが好ましい。またグリースだまり52を設けることなく溝等53を上下に分けることなく一部分に形成し、かつブッシュ26の給油穴54も設けないでブッシュ26の内外周をMos2等で約3μmドライコーティングしてもよい。 [発明の効果] 本発明におけるテンタークリップ用駆動チエンの潤滑方法は以上説明したように従来の通常の潤滑油によるリンクプレートへの噴出を止め、その代りに複数本の溝等を設けた連結ピンの全体へグリースを塗布した。この結果グリースによる長期間の潤滑が可能になると共に、オイルミストの発生は解消しフィルムへのオイルミストの付着は絶無になり商品価値を高めた。また連結ピンやブッシュにMos2をドライコーティングすることにより、摩擦面のカジリも無く比較的短時間の運転で鏡面状摩擦面が得られ耐摩耗性が向上した。さらにブッシュのドライコーティングによりローラ内周面への潤滑が不要になり、また潤滑油に対するカバーが不要になってコストが低下する等本発明は多くの利点を有する。」(第3ページ左上欄第2行?左下欄第2行) これらの記載事項を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「開口を有するリンクプレート23と、軸線を持つ孔および環状の内向きのベアリング表面を有し、上記リンクプレート23の上記開口に固着されているブッシュ26と、上記リンクプレート23の上記ブッシュ26と軸線方向に整合して位置決めされた開口を有するチエンボックス22と、上記チエンボックス22の上記開口に固定されており、且つ上記ブッシュ26の上記孔を通って延びる連結ピン51とを備え、上記連結ピン51は「上記ブッシュ26の上記孔の上記内向きベアリング表面と係合している環状の外向きで耐熱グリース潤滑及び耐摩耗性を向上させる二硫化モリブデンのドライコーティング膜からなる表面を持つベアリングを有している駆動チエン。」 4.発明の対比 本願発明と刊行物1発明とを対比すると、その機能又は作用からみて、後者の「リンクプレート23」は前者の「第1側リンク」に相当し、以下同様に、「固着」は「固定」に、「ブッシュ26」は「ブッシュ」に、「チエンボックス22」は「第2側リンク」に、「連結ピン51」は「ヒンジピン」に、「駆動チエン」は「リンクチェーン」に、それぞれ相当する。また、後者の連結ピン51はチエンボックス22の開口に固定されているから、後者の「上記開口に固定されており」の「固定は」、前者の「一緒に動くように固定」に相当する。また、後者の「耐熱グリーズ潤滑及び耐摩耗性を向上させる二硫化モリブデンのドライコーティング膜からなる表面を持つベアリング」と、前者の「自己潤滑性ベアリング表面を持つ複合ベアリング」とは、少なくとも、「潤滑表面を持つベアリング」である点では共通しているといえるから、後者の「上記連結ピン51」の「上記ブッシュ26の上記孔の上記内向きベアリング表面と係合している環状の外向きで耐熱グリース潤滑及び耐摩耗性を向上させる二硫化モリブデンのドライコーティング膜からなる表面」と、前者の「上記ヒンジピン」の「上記ブッシュの上記孔の上記内向きベアリング表面と係合している環状の外向き自己潤滑性ベアリング表面」とは、「上記ヒンジピン」の「上記ブッシュの上記孔の上記内向きベアリング表面と係合している環状の外向きの潤滑表面」である点で共通している。 よって、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、 [一致点] 「開口を有する第1側リンクと、軸線を持つ孔および環状の内向きのベアリング表面を有し、上記第1側リンクの上記開口に固定されているブッシュと、上記第1側リンクの上記ブッシュと軸線方向に整合して位置決めされた開口を有する第2側リンクと、上記第2側リンクの上記開口に上記第2リンクと一緒に動くように固定されており、且つ上記ブッシュの上記孔を通って延びるヒンジピンとを備え、上記ヒンジピンは上記ブッシュの上記孔の上記内向きベアリング表面と係合している環状の外向きの潤滑表面を持つベアリングを有しているリンクチェーン。」である点で一致し、次の点で相違している。 [相違点] ヒンジピンの潤滑表面を持つベアリングが、本願発明は「自己潤滑性ベアリング表面を持つ複合ベアリング」であるのに対し、刊行物1発明は「耐熱グリース潤滑及び耐摩耗性を向上させる二硫化モリブデンのドライコーティング膜からなる表面を持つベアリング」である点。 5.当審の判断 (1)相違点について 刊行物1発明の「耐熱グリース潤滑及び耐摩耗性を向上させる二硫化モリブデンのドライコーティング膜からなる表面を持つベアリング」においても、その表面は自己潤滑性を備えるものであり、チェーンの技術分野において、そのような自己潤滑性を備える部材を複合材料で形成することは、刊行物2(段落【0007】?【0010】を参照。)、刊行物3(第4ページ右下欄第11?17行を参照。)に見られるように周知である。 してみると、刊行物1発明において、上記周知の技術を適用し、「耐熱グリース潤滑及び耐摩耗性を向上させる二硫化モリブデンのドライコーティング膜からなる表面を持つベアリング」に代えて、複合材料にて形成された「自己潤滑性ベアリング表面を持つ複合ベアリング」を適用することは、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、本願発明の効果も、刊行物1発明及び上記周知技術から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。 (2)審判請求人の主張について 審判請求人は、上記の当審の拒絶理由通知に対する平成23年9月30日付けの意見書(以下、「意見書」という。)において、「しかしながら、本願発明は、上記引用例が特定せず、取り組んでいない技術的課題を解決する手段を提供するものであり、上記引用例に記載された発明ないし開示から当業者が容易に想到できるものではなく、特許性を十分具備するものである。 2 本願発明のリンクチェーンは、予測可能で優先的な摩耗が生じる構造を有している。リンクチェーンにおいて摩耗を交換可能な特定の構成要素に向けることによって、本願発明のリンクチェーンは、修理して再び使用することができる。これとは対照的に、従来技術の構成要素は、互いに摩耗する同様な材料をしばしば有していたので、摩耗がチェーン全体に亘って生じていた。このことは、チェーンの伸長をもたらす摩耗が生じたとき、構造全体を交換しなければならないことを意味する。この課題を解決するため、本願発明は、(1)側リンクの一方にこの側リンクと一緒に動くように固定されており、且つ(2)ブッシュの孔の内向きベアリング表面と係合している環状の外向きベアリング表面を有しているヒンジピンを有している。このことは、摩耗が生じるときには、複合ベアリングが比較的耐摩耗材料であるために、摩耗は、犠牲的なブッシング上で生じることを意味する。一定の使用期間後チェーンを分解して磨き直し再組み立てするためには、ブッシュだけを交換すれば足りる。」(「1」「2」の項を参照。)と主張している。 刊行物1ないし3には、特定の構成要素を交換可能とする旨の技術的課題についての記載はないが、部材の再利用は技術分野に関わらず設計、開発に携わる者が考慮することであり、その一手段としてリンクチェーンの特定の部材を交換可能とすることは、当業者が必要に応じて適宜行う設計事項に過ぎず、刊行物1発明に上記周知技術を適用する際に、上記技術課題を考慮した構成とすることに格別の困難性を見いだし得ない。 また、本願の当初明細書には、本願発明のリンクチェーンとブッシュとの関係について「また、リンクチェーン211は、第1左側および右側リンク213、223の開口217、227に例えば圧嵌めにより固定されたブッシュ231を有しており、このブッシュ231は軸線軸線を持つ孔233と、形状が円筒形の環状の内向きのベアリング表面235とを有している。ブッシュ231は鋼のような任意に適当な材料で作製される。」(段落【0012】)との記載があるのみで、ブッシュを交換する際にどのようにリンクに圧嵌めにより固定されたブッシュのみを取り外すのかについて何ら記載がされておらず、審判請求人が主張する作用効果を奏するための根拠となる記載を欠いている。 また、審判請求人は意見書において、「以上に見たように、引用例1(審決注:「刊行物1」を意味する。以下同様。)と引用例2(審決注:「刊行物2」を意味する。以下同様。)は、2つの異なる課題に向けられている。一方は内面領域上に流体潤滑油を均等に分散させることを目指しており、他方は潤滑油の必要を全くなくすチェーンを提供することを目指している。当業者は、それぞれの引用例で異なる課題を解決しようとしているときに他方の引用例を参照しようとはしないであろう。さらには、引用例1及び引用例2の解決手段はいずれも本願発明が解決しようとする課題(チェーンの使用能力を改善するために予測可能で優先的な摩耗を得ること)を解決するものではない。 また、仮に、引用例1と引用例2の発明を組み合わせたとしても、当業者は、許されない後知恵的再構成なしに本願発明に到達することはできないであろう。引用例1は、連結ピン上およびブッシュ上にドライ潤滑コーティングを配置してもよいことを記載しているが、記載されているドライ潤滑コーティング(二硫化モリブデン)は典型的には外部的にスプレーされるコーティングである。引用例2は、すべての部品は高温に適合できる複合材料から作られていると記載している。しかしながら、いずれの引用例にも、なぜ一方の部品を、本願発明の特別な構成のように、複合材料で選択的に形成するのかについて教示はない。かかる選択は、本願発明の構造を見て初めてできることである。 4 同様に、引用例3(審決注:「刊行物3」を意味する。以下同様。)においても、構成要素を、予測可能で優先的な摩耗を生じさせるように配置することは何ら教示も示唆もない。したがって、引用例3のチェーンもまた、本願発明のリンクチェーンを教示し、示唆するものではない。 さらに、引用例3のチェーンは、互いに入れ子になるようにリンクを形成することによってチェーンの強度を増すように設計されている。なかんずく、このことは、リンクの間のブッシュの存在をなくす。これにより、リンク(図13、図14の部品6と部品8)の入れ子部分全体に亘って摩耗は分散するが、摩耗はリンクのすべてに生じ、その結果、一旦チェーンが伸びてしまうと、組立体全体を交換しなければならなくなる。」(「3」「4」の項を参照。)と主張している。 しかしながら、部材同士が擦れあって摩耗する箇所に自己潤滑性を備えるものを用いることは当業者が普通に行う技術事項であり、刊行物2,3は、そのような自己潤滑性を備える部材を複合材料で形成することが周知であることを示すために提示したものであり、その適用に際し阻害要因は認められない。 6.むすび したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明(本願発明)が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-04-04 |
結審通知日 | 2012-04-05 |
審決日 | 2012-04-19 |
出願番号 | 特願平11-160743 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上谷 公治 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
所村 陽一 冨岡 和人 |
発明の名称 | 複合ベアリング構造体 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 村社 厚夫 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |