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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F02D |
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管理番号 | 1262704 |
審判番号 | 不服2011-15493 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-07-19 |
確定日 | 2012-09-07 |
事件の表示 | 特願2006-349486「エンジン制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月10日出願公開、特開2008-157178〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件出願は、平成18年12月26日の出願であって、平成22年7月9日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、平成22年9月9日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書及び意見書がそれぞれ提出されたが、平成23年4月12日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成23年7月19日付けで拒絶査定不服審判が請求され、当該審判の請求と同時に同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成24年3月21日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成24年5月25日付けで回答書が提出されたものである。 第2.平成23年7月19日付けの手続補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年7月19日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 平成23年7月19日付けで提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成22年9月9日付けで提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし5を、下記(2)に示す請求項1及び2へと補正するものである。 (1)本件補正前の特許請求の範囲 「 【請求項1】 エンジンの過回転時に点火カットをするとともに、キャブレータ(6)からエンジン燃焼室への燃料供給を停止する燃料カットをしてエンジン回転数を低減させるエンジン制御装置において、 前記燃料カットがソレノイド(4)を駆動源として行われ、該ソレノイド(4)は通常は非通電であり、燃料カット指令の出力に応答して通電されるように構成されており、 点火カットおよび点火カット解除、並びに燃料カット及び燃料カット解除のためのエンジンの目標回転数として、点火カット指令を出力するための点火カットオン目標回転数Ne(IGCUTH)および点火カット指令の出力を停止するための点火カットオフ目標回転数Ne(IGCUTL)、並びに燃料カット指令を出力するための燃料カットオン目標回転数Ne(FCUTH)および燃料カット指令の出力を停止するための燃料カットオフ目標回転数Ne(FCUTL)を設け、これらエンジンの目標回転数が、Ne(IGCUTH)>Ne(FCUTH)>Ne(IGCUTL)>Ne(FCUTL)の関係に設定されていることと、 前記燃料カット指令の出力から前記点火カット指令までの時間が、前記点火カット指令の出力停止から前記燃料カット指令の出力停止までの時間より長くなるように、前記各エンジンの目標回転数が設定されていることと、 前記点火カットおよび燃料カットが、それぞれ、点火の間引きおよび燃料供給の間引きを含んでいることとを特徴とするエンジン制御装置。 【請求項2】 エンジンの過回転時に点火カットをするとともに、キャブレータ(6)からエンジン燃焼室への燃料供給を停止する燃料カットをしてエンジン回転数を低減させるエンジン制御装置において、 前記燃料カットがソレノイド(4)を駆動源として行われ、該ソレノイド(4)は通常は非通電であり、燃料カット指令の出力に応答して通電されるように構成されており、 点火カットおよび点火カット解除、並びに燃料カット及び燃料カット解除のためのエンジンの目標回転数として、点火カット指令を出力するための点火カットオン目標回転数Ne(IGCUTH)および点火カット指令の出力を停止するための点火カットオフ目標回転数Ne(IGCUTL)、並びに燃料カット指令を出力するための燃料カットオン目標回転数Ne(FCUTH)および燃料カット指令の出力を停止するための燃料カットオフ目標回転数Ne(FCUTL)を設け、これらエンジンの目標回転数が、Ne(IGCUTH)>Ne(FCUTH)>Ne(IGCUTL)>Ne(FCUTL)の関係に設定されていることを特徴とするエンジン制御装置。 【請求項3】 前記燃料カット指令の出力から前記点火カット指令までの時間が、前記点火カット指令の出力停止から前記燃料カット指令の出力停止までの時間より長くなるように、前記各エンジンの目標回転数が設定されていることを特徴とする請求項2記載のエンジン制御装置。 【請求項4】 前記点火カットおよび燃料カットが、それぞれ、点火の間引きおよび燃料供給の間引きを含んでいることを特徴とする請求項2または3記載のエンジン制御装置。 【請求項5】 前記キャブレータ(6)が、ベンチュリ部の負圧が導入される負圧室(9)の圧力と、大気が導入されるフロートチャンバ(10)の圧力との差で燃料供給量を調整するように構成されており、 前記フロートチャンバ(10)と前記負圧室(9)とを連通させて該フロートチャンバ(10)内圧力と該負圧室(9)内圧力との差をなくすることにより前記燃料カットが行われるように構成したことを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のエンジン制御装置。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 「 【請求項1】 エンジンの過回転時に点火カットをするとともに、キャブレータ(6)からエンジン燃焼室への燃料供給を停止する燃料カットをしてエンジン回転数を低減させるエンジン制御装置において、 前記燃料カットがソレノイド(4)を駆動源として行われ、該ソレノイド(4)は通常は非通電であり、燃料カット指令の出力に応答して通電されるように構成されており、 点火カットおよび点火カット解除、並びに燃料カット及び燃料カット解除のためのエンジンの目標回転数として、点火カット指令を出力するための点火カットオン目標回転数Ne(IGCUTH)および点火カット指令の出力を停止するための点火カットオフ目標回転数Ne(IGCUTL)、並びに燃料カット指令を出力するための燃料カットオン目標回転数Ne(FCUTH)および燃料カット指令の出力を停止するための燃料カットオフ目標回転数Ne(FCUTL)を設け、これらエンジンの目標回転数が、Ne(IGCUTH)>Ne(FCUTH)>Ne(IGCUTL)>Ne(FCUTL)の関係に設定されていることと、 前記点火カット指令の出力停止から前記燃料カット指令の出力停止までの時間が、前記燃料カット指令の出力から前記点火カット指令までの時間より短くなるように、前記各エンジンの目標回転数が設定されていることと、 前記点火カットおよび燃料カットが、それぞれ、点火の間引きおよび燃料供給の間引きを含んでいることとを特徴とするエンジン制御装置。 【請求項2】 前記キャブレータ(6)が、ベンチュリ部の負圧が導入される負圧室(9)の圧力と、大気が導入されるフロートチャンバ(10)の圧力との差で燃料供給量を調整するように構成されており、 前記フロートチャンバ(10)と前記負圧室(9)とを連通させて該フロートチャンバ(10)内圧力と該負圧室(9)内圧力との差をなくすることにより前記燃料カットが行われるように構成したことを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。」 (なお、下線は本件補正箇所を示すために、本件審判請求人が付したものである。) 2.本件補正の適否(新規事項の追加について) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1における「前記点火カット指令の出力停止から前記燃料カット指令の出力停止までの時間が、前記燃料カット指令の出力から前記点火カット指令までの時間より短くなるように、前記各エンジンの目標回転数が設定されている」と補正する点(以下、「補正事項」という。)について以下に検討する。 本件出願の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)における「【0016】 図2は、点火カット指令IG-CUTおよび燃料カット指令F-CUTの出力タイミングを示す図である。図2において、ヒステリシスHFを有する点火カット目標回転数Ne(IGCUT)と、ヒステリシスHIGを有する燃料カット目標回転数Ne(FCUT)とが設けられる。点火カット目標回転数Ne(IGCUT)の幅の下部と燃料カット目標回転数Ne(FCUT)の幅の上部とは重複しているが、全体としては燃料カット目標回転数Ne(FCUT)の方が、点火カット目標回転数Ne(IGCUT)より低く設定されている。 【0017】 エンジン回転数Neが上昇している場合、まず、エンジン回転数Neが燃料カット目標回転数Ne(FCUT)の上値Ne(FCUTH)を越えると燃料カット指令F-CUTがオンになる。その結果、エンジン回転数Neの上昇程度は鈍る。その後、エンジン回転数Neが点火カット目標回転数Ne(IGCUT)の上値Ne(IGCUTH)に至ると点火カット指令IG-CUTがオンになる。その結果、エンジン回転数Neは下降に転じ、エンジン回転数Neが点火カット目標回転数Ne(IGCUT)の下値Ne(IGCUTL)まで低下すると、点火カット指令IG-CUTがオフになり、続いて、エンジン回転数Neが燃料カット目標回転数(FCUT)の下値Ne(FCUTL)に低下すると、燃料カット指令(F-CUT)がオフになる。」(段落【0016】ないし【0017】)の記載に加え、図2の時間tの経過に伴い各目標回転数に関連して傾きをもって上下するエンジン回転数の記載からみて、「点火カット指令の出力停止」から「燃料カット指令の出力停止」までの時間が、「燃料カット指令」の出力から「点火カット指令」の出力までの時間より短いことは図2より看取できる。しかしながら、当初明細書等は、前記した時間に関する状態が存在することを開示するに留まり、「前記点火カット指令の出力停止から前記燃料カット指令の出力停止までの時間が、前記燃料カット指令の出力から前記点火カット指令までの時間より短くなる」ことを達成すべく、「各エンジンの目標回転数を設定」するものでないことは、技術的にみて明らかである。してみると、上記補正事項は、当初明細書等に記載されていたとは認められず、かつ、当初明細書等の記載から自明であったとも認められない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。 3.むすび 上記2.のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成23年7月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年9月9日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2.[理由]1.(1)の【請求項1】に記載のとおりのものである。 2.刊行物に記載された発明 A.引用文献に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平10-47143号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。 なお、下線は、発明の理解の一助として当審において付したものである。 (A)「【請求項1】 エンジン回転数検出装置と、気化器内の燃料通路を開閉するソレノイド開閉弁と、入力部を上記エンジン回転数検出装置に接続すると共に出力部をソレノイド開閉弁に接続し、エンジン回転数検出装置からのエンジン回転数検出信号を入力し、燃料が制限されていない通常運転時にエンジン回転数が燃料制限回転数N^(+)を越えると制御信号によりソレノイド開閉弁を作動させて燃料を制限し、燃料制限運転時にエンジン回転数が燃料制限解除回転数N^(-)(<N^(+))より下がると制御信号によりソレノイド開閉弁を開いて燃料制限を解除する制御装置を備えたことを特徴とする内燃機関の燃料制限装置。 【請求項2】 請求項1記載の内燃機関の燃料制限装置において、ソレノイド開閉弁による燃料制限として、燃料を停止するようにしていることを特徴とする内燃機関の燃料制限装置。」(【請求項1】及び【請求項2】) (B)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は内燃機関の燃料制限装置に関し、特に、メインジェットやフロート等を備えた通常の機械式の気化器を備えた内燃機関の燃料制限装置に関する。」(段落【0001】) (C)「【0005】 【発明の目的】本願発明は、エンジンの過回転を速やかに防止しつつ、触媒部の機能を維持し、寿命を向上させ、エンジン性能を良好に維持できるようにすることを目的としている。 【0006】 【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本願請求項1記載の発明は、エンジン回転数検出装置と、気化器内の燃料通路を開閉するソレノイド開閉弁と、入力部を上記エンジン回転数検出装置に接続すると共に出力部をソレノイド開閉弁に接続し、エンジン回転数検出装置からのエンジン回転数検出信号を入力し、燃料が制限されていない通常運転時にエンジン回転数Nが燃料制限回転数N^(+)を越えると制御信号によりソレノイド開閉弁を作動させて燃料を制限し、燃料制限運転時にエンジン回転数Nが燃料制限解除回転数N^(-)(<N^(+))より下がると制御信号によりソレノイド開閉弁を開いて燃料制限を解除する制御装置を備えたことを特徴としている。ここで、「燃料制限」とは、燃料量を調整して燃料流量を減少させることを意味するが、燃料量をその最低値「0」として燃料停止することも上記「燃料制限」の概念に含んでいる。すなわち、燃料量の減量及び燃料停止の両概念を含む意味で使用している。以下、同様である。 【0007】請求項2記載の発明は、請求項1記載の内燃機関の燃料制限装置において、ソレノイド開閉弁による燃料制限として、燃料を停止するようにしていることを特徴としている。」(段落【0005】ないし【0007】) (D)「【0018】 【発明の実施の形態】 (内燃機関全体の共通の構成)図1と図2は、全請求項で共通して適応される内燃機関の基本構造であって、自動二輪車用複数気筒エンジンの概略図と気化器の縦断面図を示しており、まずこれらの構造を説明する。 【0019】図1において、エンジン本体1は前倒形(ダウンドラフト形)であって、その後面吸気口には、吸気連絡管2を介して気化器3が接続し、前面排気口には排気管5が接続し、該排気管5はエンジン本体1の下方を後方へと延び、排気マフラ6に接続している。排気マフラ6の入口近傍には、白金及びロジウム等の触媒をを塗布したプレートを渦巻き状に形成してなるメタルハニカム形式の触媒部7が嵌着されている。31は点火プラグである。 【0020】過回転防止及び触媒保護のための共通の機器として、電気制御装置(ECU)10を備えると共に、燃料制限用のソレノイド開閉弁12を気化器3に設けている。 【0021】気化器の縦断面図を示す図2において、気化器通路にはベンチュリーを形成するためのピストンバルブ14を備えると共に下流側にしぼり弁(バタフライ弁)15を備えており、気化器通路の下側には、メインジェット16及び燃料ニードル弁17等を備えている。 【0022】気化器本体の下端にはチャンバーケース18が固着され、これによりチャンバー室19が形成されており、該チャンバー室19内には、燃料が貯溜されると共に、前記ニードル弁17を開閉するためのフロート20が配置され、フロート20の作用により適宜ニードル弁17を開き、燃料入口21からニードル弁17を介してチャンバー室19に燃料を流入し、チャンバー室19内を常に一定レベルに保っている。 【0023】チャンバー室19の下端は、環状の燃料通路22及びL字形の燃料通路23を介してメインジェット16に接続し、メインジェット16は調節ニードル24等を介してベンチュリーに開口するジェットノズル29に連通している。 【0024】前記ソレノイド開閉弁12はチャンバーケース18の下部側壁に装着されており、ソレノイド内の可動鉄芯25は前記L字形燃料通路23の入口部に対向し、燃料供給の時は図示のように可動鉄芯25は後退して燃料通路23を全開し、燃料停止時に可動鉄芯25は突出して燃料通路23を閉じるようになっている。なお、燃料を停止する場合の他に、燃料量を減量させる場合には、デューティ制御や鉄芯突出量の調整をする。また、ソレノイド開閉弁12の構造としては、通電状態で鉄芯25を突出させて燃料を停止する構造と、反対に非通電状態で鉄芯25を突出させて燃料を停止する構造のいずれの構造も採用可能である。 【0025】触媒部の機能低下を防止するための各種パラメータ検出手段としては、図1のエンジン本体1のクランクケース部に設けられるエンジン回転数検出装置11と、排気マフラ6に設けられる排気温度検出装置13と、排気マフラ6あるいは排気管5内に設けられる排気ガスの空燃比検出装置26と、メーターに取り付けられる車速検出装置27と、点火系電気回路としてのイグナイター30のオン,オフを行うスイッチ装置(いわゆるキルスイッチ)28があり、これらは各請求項に対応させてそれぞれ単独に、あるいは適宜組み合わせて使用し、その組合わせ内容によって、制御装置10内の記憶回路の設定値あるいは演算回路等による制御機能を各種設定するものであり、それら個々の例を以下に説明する。なお、図1に示す各種信号経路について、破線は入力用の検出信号、太い実線は制御信号の経路である。また、前記マフラ6に配置される触媒部7は、メタルハニカム形式のものには限定されず、その他の形式のものを備えることも可能である。 【0026】(請求項1,2又は3を適用した例)図3及び図4は請求項1,2又は3記載の発明を適用した例であり、パラメータの検出手段として、図1のエンジン回転数検出装置11を利用しており、電気制御装置10には、通常運転時に有効な燃料制限回転数N^(+)と、燃料制限状態の運転時に有効な燃料制限解除回転数N^(-)(<N^(+))が、ソレノイド開閉弁切換用に設定されている。 【0027】該実施の形態では、請求項2を適用していることにより、燃料制限として燃料を停止するようになっているが、勿論、請求項2の発明を適用しない場合には、前述のようにデユーティ制御あるいは鉄芯の突出量調整により、燃料量を一定量に減量させるようにすることも可能である。 【0028】通常運転時、すなわち図1のソレノイド開閉弁12が開いて通常運転を行っている時に、エンジン回転数検出装置11からのエンジン回転数(入力値)Nが燃料制限回転数N^(+)を越えると、全気筒に対応するソレノイド開閉弁12に制御信号を送り、図2の可動鉄芯25を突出させ、全気化器の燃料通路23を閉じるようになっている。すなわち、図3(又は図4)に示すように、通常運転時にエンジン回転数Nが燃料制限回転数N^(+)を越えると、全気筒の燃料は停止(燃料量が0である)され、過回転が防止される。 【0029】一方、図1のソレノイド開閉弁12が閉じた燃料停止状態の運転時に、エンジン回転数Nが燃料制限解除回転数N^(-)を下まわると、全気筒に対応するソレノイド開閉弁12に制御信号を送って、図2の可動鉄芯25を後退させ、全気化器の燃料通路23を開くようになっている。すなわち、図3(又は図4)に示すように、燃料停止状態の運転時に、エンジン回転数Nが燃料制限解除回転数N^(-)を下まわると、全気筒が一斉に通常の燃料供給状態となり、通常運転に戻る。 【0030】この例においては、過回転防止として燃料を停止しているので、未燃焼ガスはほとんど発生せず、上記のように過回転を防止できると同時に、図1の触媒部7の発熱あるいはアフターファイア現象を防止できる。 【0031】請求項1及び2記載の発明については、勿論、単気筒のエンジンにも適用可能である。」(段落【0018】ないし【0031】) (E)「【0042】(請求項6記載の発明を適用した例)図8は請求項6記載の発明を適用した例であり、図1の制御装置10内にイグナイター30を備え、過回転防止及び触媒部保護の対策として、上記燃料停止による制御に加え、燃料停止後、さらに回転数が上がる場合に、失火させるように制御している。 【0043】すなわち、図1の点火プラグ31も制御装置10による制御対象としており、制御装置10及びイグナイター30の機能により、図8のようにエンジン回転数Nが点火カット回転数N^(+)_(f)(図は第1気筒を示すのでN^(+)_(1f)と表示)を越えると失火させ、失火状態の運転中に、エンジン回転数Nが点火カット解除回転数N^(-)_(f)(図は第1気筒を示すのでN^(-)_(1f)と表示)より下がると点火カットを解除するように点火制御する。この場合、N^(+)_(f)>N^(-)_(f)を条件としている。 【0044】さらに、上記点火カット回転数N^(+)_(f)及び点火カット解除回転数N^(-)_(f)と、燃料制限回転数N^(+)及び燃料制限解除回転数N^(-)との間には、同一気筒について必ずN^(+)<N^(+)_(f)と、N^(-)<N^(-)_(f)の関係が成り立つように設定されており、これにより、失火による制御は、必ず燃料停止が行われた後、回転数が上昇した場合に実施され、かつ、必ず失火が解除された後に、回転数が低下した場合に燃料停止解除がなされる。 【0045】このように失火制御を加えることにより確実に過回転防止機能を向上させることができると共に、上記失火制御の前段階として燃料停止制御を行っているので、失火制御による未燃焼ガスの発生を抑制することができ、図1の触媒部7の劣化を抑制することができる。」(段落【0042】ないし【0045】) B.上記A.の記載及び図面の記載から分かること (F)気化器3が、エンジン燃焼室への燃料供給を行うものであることは技術常識であることから、上記A.の記載及び図面の記載から、燃料制限は、気化器3からエンジン燃焼室への燃料供給を停止するものであることが分かる。 (G)検出信号及び制御信号を用いた電気制御装置(ECU)10による制御において、指令の出力及び指令の出力の停止等がなされることは技術常識であるから、上記A.の記載及び図面の記載から、次の(G-1)及び(G-2)のことが分かる。 (G-1)燃料制限がソレノイド開閉弁12におけるソレノイド内の可動鉄芯25の駆動により行われ、該ソレノイドは通常は非通電であり、燃料制限指令の出力に応答して通電されるように構成されていることが分かる。 (G-2)点火カットおよび点火カット解除、並びに燃料制限及び燃料制限解除のためのエンジンの目標回転数として、点火カット指令を出力するための点火カット回転数N^(+)_(f)および点火カット指令の出力を停止するための点火カット解除回転数N^(-)_(f)、並びに燃料制限指令を出力するための燃料制限回転数N^(+)および燃料制限指令の出力を停止するための燃料制限解除回転数N^(-)を設けることが分かる。 C.引用発明 上記A.及びB.の記載並びに図面の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「エンジンの過回転時に点火カットをするとともに、気化器3からエンジン燃焼室への燃料供給を停止する燃料制限をしてエンジン回転数を低下させる内燃機関の燃料制限装置において、 前記燃料制限がソレノイド開閉弁12におけるソレノイド内の可動鉄芯25の駆動により行われ、該ソレノイドは通常は非通電であり、燃料制限指令の出力に応答して通電されるように構成されており、 点火カットおよび点火カット解除、並びに燃料制限及び燃料制限解除のためのエンジンの目標回転数として、点火カット指令を出力するための点火カット回転数N^(+)_(f)および点火カット指令の出力を停止するための点火カット解除回転数N^(-)_(f)、並びに燃料制限指令を出力するための燃料制限回転数N^(+)および燃料制限指令の出力を停止するための燃料制限解除回転数N^(-)を設け、 これらエンジンの目標回転数が、 「点火カット回転数N^(+)_(f)」>「燃料制限回転数N^(+)」、 「点火カット解除回転数N^(-)_(f)」>「燃料制限解除回転数N^(-)」、 及び、「燃料制限回転数N^(+)」>「燃料制限解除回転数N^(-)」 の関係に設定されている内燃機関の燃料制限装置。」 3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「気化器3」は、その機能及び構造からみて、本願発明における「キャブレータ(6)」に相当し、以下同様に、「燃料制限」は「燃料カット」に、「エンジン回転数が低下」は「エンジン回転数を低減」に、「内燃機関の燃料制限装置」は「エンジン制御装置」に、 「点火カット回転数N^(+)_(f)」は「点火カットオン目標回転数Ne(IGCUTH)」に、 「点火カット解除回転数N^(-)_(f)」は「点火カットオフ目標回転数Ne(IGCUTL)」に、 「燃料制限回転数N^(+)」は「燃料カットオン目標回転数Ne(FCUTH)」に、 「燃料制限解除回転数N^(-)」は「燃料カットオフ目標回転数Ne(FCUTL)」にそれぞれ相当する。 そして、引用発明及び本願発明は、ソレノイドへの通電により燃料カットを行うことで技術が共通しており、引用発明の「燃料制限がソレノイド開閉弁12におけるソレノイド内の可動鉄芯25の駆動により行われ」は、「燃料カットがソレノイドにより行われ」の限りにおいて、本願発明の「燃料カットがソレノイド(4)を駆動源として行われ」に相当する。 してみると、本願発明と引用発明とは、次の<一致点>で一致し、次の<相違点>で相違又は一応相違する。 <一致点> 「エンジンの過回転時に点火カットをするとともに、キャブレータからエンジン燃焼室への燃料供給を停止する燃料カットをしてエンジン回転数を低減させるエンジン制御装置において、 前記燃料カットがソレノイドにより行われ、該ソレノイドは通常は非通電であり、燃料カット指令の出力に応答して通電されるように構成されており、 点火カットおよび点火カット解除、並びに燃料カット及び燃料カット解除のためのエンジンの目標回転数として、点火カット指令を出力するための点火カットオン目標回転数および点火カット指令の出力を停止するための点火カットオフ目標回転数、並びに燃料カット指令を出力するための燃料カットオン目標回転数および燃料カット指令の出力を停止するための燃料カットオフ目標回転数を設けるエンジン制御装置。」 <相違点> a)相違点1 本願発明においては、燃料カットがソレノイド(4)を駆動源として行われるのに対し、引用発明においては、燃料制限がソレノイド開閉弁12におけるソレノイド内の可動鉄芯25の駆動により行われる点。(以下、「相違点1」という。)。 b)相違点2 エンジンの目標回転数において、 本願発明においては、 Ne(IGCUTH)>Ne(FCUTH)>Ne(IGCUTL)>Ne(FCUTL)の関係に設定されているのに対し、 引用発明においては、 「点火カット回転数N^(+)_(f)」>「燃料制限回転数N^(+)」、 「点火カット解除回転数N^(-)_(f)」>「燃料制限解除回転数N^(-)」、 及び、「燃料制限回転数N^(+)」>「燃料制限解除回転数N^(-)」 の関係に設定されている点(以下、「相違点2」という。)。 c)相違点3 本願発明においては、燃料カット指令の出力から点火カット指令までの時間が、点火カット指令の出力停止から燃料カット指令の出力停止までの時間より長くなるように、各エンジンの目標回転数が設定されているのに対し、引用発明においては、「燃料制限指令」の「出力」、「点火カット指令」の「出力」、「点火カット指令の出力」の「停止」及び「燃料制限指令の出力」の「停止」を行うものではあるものの、時間に関する構成を有しない点(以下、「相違点3」という。)。 d)相違点4 本願発明においては、点火カットおよび燃料カットが、それぞれ、点火の間引きおよび燃料供給の間引きを含んでいるのに対し、引用発明においては、点火カットおよび燃料制限を行うものである点(以下、「相違点4」という。)。 4.判断 a)相違点1について 両者は、ソレノイドへの通電により燃料カットを行うという技術で共通するものであり、本願発明の「燃料カットがソレノイドを駆動源として行われ」は、引用発明の「燃料制限がソレノイド開閉弁12におけるソレノイド内の可動鉄芯25の駆動により行われ」を、単に言い換えたものにすぎないといえる。また、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明のソレノイド開閉弁12のソレノイドを含め、他の周知・慣用技術といえる燃料供給・停止に際し直接的又は間接的にソレノイドを用いるすべての手段を包含するものであるといえる。したがって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。 特に、相違点1に係る本願発明の発明特定事項における「ソレノイド」が、本願発明の発明の詳細な説明におけるキャブレータ6に設けられた大気開放弁29のソレノイド4を意味するとしても、燃料カットがソレノイドを駆動源として行われることで両者の技術が共通することに変わりはなく、該検討においても、相違点1は実質的な相違点とはいえない。 さらに、相違点1に係る本願発明の発明特定事項が、仮に、本願発明の詳細な説明に記載される具体化された装置のみを意味するとしても、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平9-4515号公報(以下、「引用文献2」という。)には、キャブレター1に設けられた大気と負圧を切り換える電磁切り換えバルブ22のON及びOFFにより燃料カット及び燃料カットの解除を行うことが記載されているし(以下、「参考技術」という。例えば、段落【0021】及び【0026】並びに図1及び2参照。)、ON及びOFF作動の電磁切り換えバルブとしてソレノイド駆動は一般的な手段であるから、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び参考技術に基づき当業者が容易に想到し得たものである。 b)相違点2について 本願発明の発明特定事項の記載を参考にして、相違点2に係る技術的事項を整理すると、本願発明と引用発明とは、次の1)ないし3)の関係において共通するといえる。 1)「点火カットオン目標回転数」>「燃料カットオン目標回転数」 2)「点火カットオフ目標回転数」>「燃料カットオフ目標回転数」 3)「燃料カットオン目標回転数」>「燃料カットオフ目標回転数」 そして、上記1)ないし3)の事項について、 「点火カットオン目標回転数」を「1」、 「燃料カットオン目標回転数」を「2」、 「点火カットオフ目標回転数」を「3」、 「燃料カットオフ目標回転数」を「4」として、さらに整理すると、本願発明においては、「1」>「2」>「3」>「4」の関係に設定されているのに対し、引用発明においては、「1」>「2」、「3」>「4」、及び、「2」>「4」の関係に設定されているものの「2」と「3」の上下関係が不明であることで両者は実質的に相違していることが分かる。 そこで、「2」と「3」の上下関係、すなわち、引用発明の「燃料制限回転数N^(+)」と「点火カット解除回転数N^(-)_(f)」の上下関係について、以下に検討する。 上記1)の関係における引用発明の「点火カット回転数N^(+)_(f)」及び「燃料制限回転数N^(+)」は、共にエンジンが過回転状態であることを判断して過回転を解消するための制御を行うための目標回転数である。これに対し、上記2)の関係における引用発明の「点火カット解除回転数N^(-)_(f)」及び「燃料制限解除回転数N^(-)」は、共に過回転時制御により過回転状態が解消された状態を判断して通常運転へ移行させるための目標回転数である。してみると、過回転領域の下限近傍に設定されることが通常である「燃料制限回転数N^(+)」よりも、過回転が解消されて通常運転に移行させる「点火カット解除回転数N^(-)_(f)」を下方に設定することは、当業者の格別の創意工夫無しになし得ることである。特に、過回転等の異常状態を解消した後の通常運転時において、安定した運転を継続可能とする目標値として設定すること、すなわち「燃料制限回転数N^(+)」に対し「点火カット解除回転数N^(-)_(f)」を所定の余裕をみた下方の低い目標回転数として設定することは当業者が容易になし得ることである。 したがって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明に基づき当業者が容易に想到し得たものである。 c)相違点3について 引用発明は、「エンジンの過回転を速やかに防止しつつ、触媒部の機能を維持」するという技術課題(上記第3.2.A.(C)段落【0005】参照。)を達成するために、点火カット制御の前段階として燃料制限(燃料カット)制御を行い、点火カット制御による未燃焼ガスの発生を抑制して触媒部の劣化を抑制することで、本願発明と技術が共通するものである。してみると、前記技術課題を達成可能な範囲内において、各指令の出力及び各指令の出力停止に係る時間等を考慮して目標回転数を設定することは、当業者が適宜なし得る設計事項である。また、エンジン回転数低下時における(点火カット指令の出力を停止するための)点火カット解除後の(燃料制限指令の出力を停止するための)燃料制限解除は、点火開始後の燃料供給開始であり触媒劣化の問題は生じないことから、点火開始後に速やかに燃料供給を開始すべく目標回転数を設定することに、当業者の格別の創意は要しないといえる。 したがって、相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明に基づき当業者が容易に想到し得たものである。 d)相違点4について 引用文献1には、「燃料制限とは」「燃料量の減量及び燃料停止の両概念を含む意味で使用している。」(上記第3.2.A.(C)段落【0006】参照。)、及び、「燃料量を減量させる場合には、デューティ制御や鉄芯突出量の調整をする。」(上記2.A.(D)段落【0024】参照。)と記載されており、デューティ制御は間引き制御といえるものである。また、燃料カット及び点火カットに係る間引き制御は周知技術(以下、「周知技術」という。例として、特開2003-176743号公報の特に段落【0007】、特開平8-121227号公報の特に【請求項3】、特開平1-216051号公報の特に第3ページ右下欄10ないし12行参照。)であり、引用発明の点火カット及び燃料制限の制御において、周知技術を含むものとして構成することに困難性はない。 したがって、相違点4に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び周知技術に基づき当業者が容易に想到し得たものである。 そして、本願発明を全体としてみても、その作用効果は、引用発明、参考技術及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 5.むすび したがって、本願発明は、上記のとおり、引用発明、参考技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 <付言> なお、仮に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、新規事項を追加するものでないとしても、以下に述べるとおり、本願補正発明は進歩性を有しない。 1.本件補正の適否 特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、補正前の「前記燃料カット指令の出力から前記点火カット指令までの時間が、前記点火カット指令の出力停止から前記燃料カット指令の出力停止までの時間より長くなるように、前記各エンジンの目標回転数が設定されていること」を、補正後に「前記点火カット指令の出力停止から前記燃料カット指令の出力停止までの時間が、前記燃料カット指令の出力から前記点火カット指令までの時間より短くなるように、前記各エンジンの目標回転数が設定されていること」とすること、すなわち、補正前に、「A」時間が「B」時間より長くなるとしていたものを、補正後に、「B」時間が「A」時間より短くなるとしたものであるから、請求項1についての本件補正は、表現を変更したものであって、内容に変更はないものといえる。さらに、本件補正は、補正前の請求項2ないし4を補正後に削除し、補正前の請求項1を引用して記載する請求項5を補正後に繰り上げて新請求項2とするものである。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。 2.本願補正発明 本願補正発明は、上記第2.[理由]1.(2)の【請求項1】に記載のとおりのものである。 2.刊行物に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平10-47143号公報)の記載事項及び引用発明は、上記第3.2.に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願補正発明は、前記1.に記したように、本願発明の表現を変更したものであって、内容を変更したものではない。 そうすると、本願補正発明を特定する事項をすべて含むものに相当する本願発明が、上記第3.4.に記載したとおり、引用発明、参考技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明も、同様の理由により、引用発明、参考技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、参考技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 |
審理終結日 | 2012-07-04 |
結審通知日 | 2012-07-11 |
審決日 | 2012-07-25 |
出願番号 | 特願2006-349486(P2006-349486) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 平田 信勝 |
特許庁審判長 |
小谷 一郎 |
特許庁審判官 |
藤原 直欣 金澤 俊郎 |
発明の名称 | エンジン制御装置 |
代理人 | 田邉 壽二 |
代理人 | 阪本 清孝 |
代理人 | 田中 香樹 |