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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1262722
審判番号 不服2009-15456  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-24 
確定日 2012-09-05 
事件の表示 特願2002-500722「ケモカイン、神経ペプチド前駆体または少なくとも一つの神経ペプチドをコードする核酸配列を含んでなる核酸分子」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月 6日国際公開、WO01/92530、平成16年 7月22日国内公表、特表2004-521607〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001(平成13)年6月1日を国際出願日(パリ条約による優先権主張2000年6月2日、ドイツ)とする出願であって、平成19年7月26日付で特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされたが、平成21年4月21日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

第2 平成21年8月24日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年8月24日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により補正前の請求項9は、
「【請求項9】
以下の配列から選択されるアミノ酸配列を含んでなる、ポリペプチド分子:
(i)配列番号5で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号12で表されるアミノ酸配列、
(iii)配列番号12の第20アミノ酸?第119アミノ酸からなるアミノ酸配列、
(iv)配列番号22で表されるアミノ酸配列、
(v)前記(i)、(ii)、(iii)または(iv)に示される配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列(ただし、この配列を有するポリペプチドは、抗CXCR4抗体で処理した一次星状細胞および/または神経細胞における細胞内カルシウム濃度を上昇させるものとする)、
(vi)配列番号6で表される配列、またはこれに対して少なくとも85%の同一性を有する配列(ただし、この配列を有するポリペプチドは、抗CXCR4抗体で処理した一次星状細胞および/または神経細胞における細胞内カルシウム濃度を上昇させるものとする)、を含むアミノ酸配列(ただし、配列番号13で表されるアミノ酸配列、ならびに下記のアミノ酸配列:(配列省略)を除く)、
(viii)配列番号8で表される配列、またはこれに対して少なくとも85%の同一性を有する配列(ただし、この配列を有するポリペプチドは、抗CXCR4抗体で処理した一次星状細胞および/または神経細胞における細胞内カルシウム濃度を上昇させるものとする)、を含んでなるアミノ酸配列(ただし、配列番号13で表されるアミノ酸配列、ならびにアミノ酸配列:(配列省略)およびアミノ酸配列:(配列省略)を除く)、
(ix)配列番号9で表される配列、またはこれに対して少なくとも90%の同一性を有する配列(ただし、この配列を有するポリペプチドは、抗CXCR4抗体で処理した一次星状細胞および/または神経細胞における細胞内カルシウム濃度を上昇させるものとする)、を含んでなるアミノ酸配列(ただし、配列番号13で表されるアミノ酸配列を除く)、
(x)配列番号10で表される配列を含むアミノ酸配列(ただし、配列番号13で表されるアミノ酸配列、ならびに以下のアミノ酸配列:(配列省略)を除く)。」
から、請求項1として、
「【請求項1】
配列番号5、配列番号6、配列番号8、および配列番号12からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、ポリペプチド分子。」
と補正された。

2.補正の目的要件について
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド分子」を「選択されるアミノ酸配列からなるポリペプチド分子」と限定するものであり、また、選択肢で記載されたアミノ酸配列の一部を削除して、「配列番号5、配列番号6、配列番号8、および配列番号12からなる群から選択されるアミノ酸配列」に補正するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、当該補正事項は平成18年改正前特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報である、Database DDBJ/EMBL/GenBank, 2000年4月13日, Accession No.AF217564, URL,,(なお,当該URLは、平成24年3月30日現在、下記のように変更されている。<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF217564)(以下、「引用例1」という。)には、アクセッション番号が「AF217564」である塩基配列に関し、以下の事項が掲載されている。
(1)生産物がラット由来のSDF-1γの完全長mRNAであること(DEFINITIONの欄)。
(2)推定アミノ酸配列が、「MDAKVVAVLALVLAALCISDGKPVSLSYRCPCRFFESHVARANV KHLKILNTPNCALQIVARLKSNNRQVCIDPKLKWIQEYLDKALNKGRREEKVGKKEKIGKKKRQKKRKAAQKKKN」であること(FEATURESのCDSの欄)。

3.本願補正発明1について
(1)引用例1に記載された事項
上記記載事項によると、引用例1には、アミノ酸配列「MDAKVVAVLALVLAALCISDGKPVSLSYRCPCRFFESHVARANV KHLKILNTPNCALQIVARLKSNNRQVCIDPKLKWIQEYLDKALNKGRREEKVGKKEKIGKKKRQKKRKAAQKKKN」からなるラット由来のSDF-1γポリペプチド分子が記載されているものと認められる。

(2)対比
本願補正発明1のうち、選択肢で記載されている「配列番号12」を選択した場合の「配列番号12のアミノ酸配列からなるポリペプチド分子」という態様の本願補正発明1について検討する。
本願補正発明1と引用例1に記載された事項を対比する。
本願明細書の「hSDF-1γ-H6(成熟ヒトSDF-1γ/Hisタグ)。この構築物は、SDF-1γのアミノ酸1?119(配列番号12)の後にC末端Hisタグを含む。」(段落【0063】)という記載からみて、本願補正発明1の「配列番号12」とは、ヒト由来のSDF-1γのアミノ酸配列であるから、両者は、SDF-1γポリペプチドである点で一致し、本願補正発明1は、ヒト由来の配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるものであるのに対し、引用例1は、ラット由来のアミノ酸配列「MDAKVVAVLALVLAALCISDGKPVSLSYRCPCRFFESHVARANV KHLKILNTPNCALQIVARLKSNNRQVCIDPKLKWIQEYLDKALNKGRREEKVGKKEKIGKKKRQKKRKAAQKKKN」からなるものであって、両者は119アミノ酸のうち、8箇所で異なる点で相違する。

(3)判断
ところで、ラットにおいて、あるポリペプチドをコードする遺伝子がクローニングされた場合に、ヒトの対応する遺伝子をクローニングすることは、本願優先日前既に自明の技術的課題であり、その際、一般にヒトとラット間では遺伝子の配列相同性が高いという技術常識に基いて、その公知のラット遺伝子の一部をプローブ又はプライマーとして、ヒトの対応する組織から調製したcDNAライブラリー、あるいはヒトのゲノムライブラリーから、ラット遺伝子に対応するヒト遺伝子をクローニングすることは、本願優先日前既に周知技術である。

そうすると、そのような手法によるヒトSDF-1γ遺伝子のクローニングを困難とするような格別の事情が認められない限り、引用例1に記載されたラットのSDF-1γ mRNAの塩基配列を基にして、ヒトの対応する遺伝子をクローニングし、当該遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を決定することは当業者が容易になし得ることである。
そして、ラットSDF-1γとヒトSDF-1γの塩基配列の相同性は、約91%であるから、このような高い相同性を有するDNAであれば、上記の周知技術により取得することが特に困難であったとは認められない。

(4)効果について
本願明細書において、ヒトSDF-1γは培養星状細胞の細胞内カルシウム濃度を上昇させることを確認している(実施例5)。細胞内カルシウム濃度の上昇とは、カルシウムを情報伝達分子としたシグナル伝達が生じていることを示すものではあるが、このことは、これらのポリペプチドが何らかのシグナル伝達に関連していることを示したに過ぎず、ポリペプチドの具体的な機能を明らかにしたとは到底いえるものではないから、格別顕著な効果として評価することはできない。
また、SDF-1αは、細胞内カルシウム濃度を上昇させる機能を有することは、本願優先日前の技術常識であることを考慮すると(要すれば、例えば、J.Neurochem.,1999,Vol.73,p.2348-2357、及びJ.Biol.Chem.,1998,Vol.273,p.4282-4287参照。)、SDF-1の新しいイソ型であるSDF-1γ(本願明細書【0059】及び図4参照。)が同様の作用を有することは、当業者が予測し得る範囲のことであるともいえる。

(5)小括
したがって、本願補正発明1は、引用例1に記載された事項から当業者が容易に発明し得たものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4.請求人の主張
請求人は、審判請求の理由において、以下のように主張する。
「配列番号5、配列番号6および配列番号8にそれぞれ示されるアミノ酸配列からなるペプチドについては、「星状細胞における細胞内カルシウム濃度を上昇させる」という有利な効果が、本願明細書の段落0103?0106(実施例6)の記載から認められます。」
「このように、補正後の請求項1に記載されている配列番号5、6および8からなるペプチドは、いずれも当業者の予測し得ない有利な効果を奏するものです。また、補正後の請求項2に係る断片も配列番号5、6または8からなるペプチドを必ず含む断片ですので、同様に当業者の予測し得ない有利な効果を奏するものです。」

しかしながら、上記3.(4)で述べたとおり、細胞内のカルシウム濃度を上昇させることを確認しただけでは、ポリペプチドの具体的な機能を明らかにしたとはいえず、格別顕著な効果であるとは認められない。
また、SDF-1αは、細胞内カルシウム濃度を上昇させる機能を有することは、本願優先日前の技術常識であることを考慮すると、SDF-1の新しいイソ型であるSDF-1γが同様の作用を有することは、当業者が予測し得る範囲のことであるともいえる。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成21年8月24日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項9に係る発明(以下、「本願発明9」という。)は、平成19年7月26日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項9】
以下の配列から選択されるアミノ酸配列を含んでなる、ポリペプチド分子:
(i)配列番号5で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号12で表されるアミノ酸配列、
(iii)配列番号12の第20アミノ酸?第119アミノ酸からなるアミノ酸配列、
(iv)配列番号22で表されるアミノ酸配列、
(v)前記(i)、(ii)、(iii)または(iv)に示される配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列(だだし、この配列を有するポリペプチドは、抗CXCR4抗体で処理した一次星状細胞および/または神経細胞における細胞内カルシウム濃度を上昇させるものとする)、
(vi)配列番号6で表される配列、またはこれに対して少なくとも85%の同一性を有する配列(だだし、この配列を有するポリペプチドは、抗CXCR4抗体で処理した一次星状細胞および/または神経細胞における細胞内カルシウム濃度を上昇させるものとする)、を含むアミノ酸配列(ただし、配列番号13で表されるアミノ酸配列、ならびに下記のアミノ酸配列:(配列省略)を除く)、
(viii)配列番号8で表される配列、またはこれに対して少なくとも85%の同一性を有する配列(だだし、この配列を有するポリペプチドは、抗CXCR4抗体で処理した一次星状細胞および/または神経細胞における細胞内カルシウム濃度を上昇させるものとする)、を含んでなるアミノ酸配列(ただし、配列番号13で表されるアミノ酸配列、ならびにアミノ酸配列:(配列省略)およびアミノ酸配列:(配列省略)を除く)、
(ix)配列番号9で表される配列、またはこれに対して少なくとも90%の同一性を有する配列(だだし、この配列を有するポリペプチドは、抗CXCR4抗体で処理した一次星状細胞および/または神経細胞における細胞内カルシウム濃度を上昇させるものとする)、を含んでなるアミノ酸配列(ただし、配列番号13で表されるアミノ酸配列を除く)、
(x)配列番号10で表される配列を含むアミノ酸配列(ただし、配列番号13で表されるアミノ酸配列、ならびに以下のアミノ酸配列:(配列省略)を除く)。」

そして、本願発明9は、本願補正発明1をそのままの態様で選択肢として包含するものであるから、上記第2の3.に記載した本願補正発1に関する理由と同様の理由により、本願発明9は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項9に係る発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-06 
結審通知日 2012-04-10 
審決日 2012-04-23 
出願番号 特願2002-500722(P2002-500722)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 亜希子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 六笠 紀子
冨永 みどり
発明の名称 ケモカイン、神経ペプチド前駆体または少なくとも一つの神経ペプチドをコードする核酸配列を含んでなる核酸分子  
代理人 紺野 昭男  
代理人 中村 行孝  
代理人 横田 修孝  
代理人 吉武 賢次  

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