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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1262730
審判番号 不服2009-25279  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-21 
確定日 2012-09-05 
事件の表示 特願2005-366391「植物水からヒドロキシチロソール富化組成物を得る方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月20日出願公開、特開2006-101885〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年8月31日(パリ条約による優先権主張2000年9月1日、米国)を国際出願日とする特願2002-523428号の一部を平成17年12月20日に新たな特許出願としたものであって、平成21年8月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年12月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成21年12月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成21年12月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項4は、
「【請求項4】
約10:1と約100:1との間の、オレウロペインに対するヒドロキシチロソールの重量比を含有するオリーブの水性抽出物を含有する、組成物であって、該組成物が粉末組成物を提供するように乾燥される、組成物。」
(下線は、補正箇所を示す。)と補正された。

上記補正は、補正前の請求項3及び6を削除し、補正前の請求項5を請求項4に繰り上げるとともに、発明を特定するために必要な事項である「組成物」が「粉末組成物を提供するように乾燥される」ものであることに限定したものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものである。

そこで、本件補正後の前記請求項4に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物1ないし4には以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)刊行物1:Journal of Food Science(1992),Vol.58,No.2,pp.347-350

(1a)「ABSTRACT
The effects of cultivar, salt concentration and temperature on changes in phenolic compounds during storage of ripe olives were studied, using a 2^(3) factorial design. ・・・(中略)・・・Through storage there was hydrolysis of glucosides intially in flesh (oleuropein, verbascoside and luteolin 7- glucoside due to the acidic conditions. This effect caused the content of oleuropein in brines to always be lower than 1.5mM and resulted in a continous increase in level of hydroxytyrosol.」(第347頁左欄ABSTRACTの項目)
(日本語訳:アブストラクト
熟したオリーブの保存中におけるフェノール化合物の変化について、栽培品種や塩濃度および温度の影響を2^(3)の要因分析法を用いて研究した。・・・(中略)・・・保存を通じて、酸性のコンディションに起因し、最初に、果肉中のグルコシド(オレウロペイン(oleuropein)、ベルバコシド(verbascoside)およびルテオリン7-グルコシド(luteolin 7- glucoside)の加水分解が起こった。この結果、塩水中のオレウロペイン(oleuropein)の含有量が1.5mMより常に低くなり、ヒドロキシチロソール(hydroxytyrosol)の水準が持続的に増加した。)

(1b)「Experimental design
The effects of the different variables (cultivar, salt concentration and temperature) were studied by means of the 2^(3) factorial design (Box et al., 1978) shown in Table l. In all cases, 50 kg of olives and 50 L of brine were used. Air was bubbled as described by Brenes et al. (1986). Initial pH of brines was corrected to 4.0 by adding 0.4% (w/v) acetic acid. Fermentations were monitored by the usual physicochemical and microbial analyses (Fernandez et al., 1985). Treatments were carried out in duplicate. Thus, the internal error was used to test the significance of the effects.」(第348頁左欄Experimental designの項目)
(日本語訳:実験計画
異なる変数(栽培品種、塩濃度および温度)の影響について、表1に示す2^(3)の要因分析法(ボックスら、1978年)を用いて研究した。すべてのケースにおいて、50kgのオリーブおよび50Lの塩水を用いた。Brenesら(1986)が記述しているように、空気を導入した。塩水の最初のpHは0.4%(w/v)の酢酸を加えることにより4.0に修正された。発酵は、通常の物理化学的・微生物の分析(Fernandezら、1985年)の方法によってモニターされた。処理は2つ組で実行された。したがって、内部エラーは結果の有意性をテストするために使用された。)

(1c)「Changes in phenolic content in the flesh during 7 mo brine storage were compared (Fig.1). There were considerable differences between raw material and olives after brining. Hydroxytyrosol increased and oleuropein diminished, due to formation of the alcohol by acid hydrolysis of the glucoside, as the alcohol is a part of the structure of oleuropein.」(第348頁右欄第3行目?第8行目)
(日本語訳:7ヶ月間塩水中で保存した果肉中のフェノール類含有量の変化が比較された(Fig.1)。生の原料と塩水に漬けた後のオリーブとの間では相当な違いがあった。アルコールはオレウロペインの構造の一部であるから、グルコシドの酸加水分解によるアルコールの生成により、ヒドロキシチロソールは増加し、オレウロペインは減少した。)

(1d)Fig.1(図1)



(1e)「Possible oleuropein hydrolysis during brine storage (Fig.2) indicates a more detailed study of its changes is needed. 」(第348頁右欄第13行目?第15行目)
(日本語訳:塩水保存中におけるオレウロペイン加水分解の可能性は(図2)、その変化のさらなる詳細な研究が必要であることを示す。)

(1f)Fig.2(図2)



(1g)「Olerupein content in the brine decreased with time, indicating hydrolysis of the compound and hydroxythrosol, its hydrolysis product, increased in brines (Fig.3). 」(第349頁左欄第1行目?第3行目)
(日本語訳:塩水中のオレウロペインの量は時間とともに減少し、化合物の加水分解を示し、そして、その加水分解によってできたヒドロキシチロソール塩水中で増加した(Fig.3)。)

(1h)Fig.3(図3)



(2)刊行物2:特開平9-78061号公報の記載事項

(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 オリーブ植物溶媒抽出物の加水分解物を有効成分としてなる抗酸化剤。
【請求項2】 オリーブ植物溶媒抽出物がオリーブの葉の、水、低級アルコール、アセトン、酢酸エチルおよびこれらの混合溶媒から選ばれる溶媒による抽出物である請求項1記載の抗酸化剤。
【請求項3】 オリーブ植物溶媒抽出物がオリーブの果肉の、水、低級アルコール、アセトン、酢酸エチルおよびこれらの混合溶媒から選ばれる溶媒による抽出物である請求項1記載の抗酸化剤。
【請求項4】 加水分解物が酵素加水分解物または酸加水分解物である請求項1?3のいずれか1項記載の抗酸化剤。
【請求項5】 食用油用の抗酸化剤である請求項1?4のいずれか1項記載の抗酸化剤。
【請求項6】 他の抗酸化剤と併用する請求項1?4のいずれか1項記載の抗酸化剤。
【請求項7】 他の抗酸化剤がトコフェロールである請求項6記載の抗酸化剤。」

(2b)「【0005】
【発明の実施の形態】本発明の抗酸化剤に用いるオリーブ植物は、オリーブ属の常緑樹、典型的にはオリーブ(Olea europaea)の葉、果肉、オリーブ油搾りかすなどのいずれの部位またはそれらの混合物でもよいが、抽出、加水分解により、特に抗酸化作用に優れた成分が得られるところから、葉および果肉が好ましい。
【0006】これらは、生そのまま、または適宜乾燥し、あるいは適宜細刻し、水、炭素数1?4の低級アルコール(例、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、アセトン、酢酸エチルおよびこれらの混合溶媒から選ばれる溶媒により抽出する。抽出は、オリーブ植物を適当量の溶媒で行うことができ、抽出物を濃縮して粗抽出物を得る。抽出条件は特に限定するものではないが、常圧?減圧下、常温?30℃にて8?16時間の抽出を2?4回行えば効率良く抽出が行える。濃縮も公知の方法が用いられるが、抽出物に与える損傷が少ない等の点から、凍結乾燥や、常温?40℃における減圧濃縮が好ましい。
【0007】得られた粗抽出物をさらに加水分解に付す。加水分解としては、エステラーゼのような酵素や、塩酸、硫酸、酢酸等の酸による加水分解が採用できる。加水分解条件も特に限定するものではないが、酵素加水分解の場合は、適宜の酵素濃度で、使用する酵素の至適温度、pH、通常、30?55℃、pH4?8にて、10?24時間程度加水分解を行う。酸加水分解の場合は、通常、2?10重量%の酸濃度で常温?60℃にて2?24時間程度加水分解を行う。明確に実証されたものではないが、この加水分解により、オリーブ植物中のポリフェノール成分が分解され、より抗酸化力の強いヒドロキシチロソール(JAOCS,Vol.68,No.9(September 1991))が生成したことにより、抗酸化作用が向上したものと考えられる。」

(2c)「【0008】本発明においては、かくして得られた加水分解物をそのまま抗酸化剤としてもよく、また、さらに、自体公知の方法、例えば、クロマトグラフィー、膜分離、多孔性樹脂分離で精製して使用してもよい。また、本発明においては、これらと、食品、化粧料、医薬品等に許容される公知の賦形剤や、その他適当な添加剤、例えば、乳糖、デキストリン、ガム類、グリセリン酸エステル等を用い、自体公知の方法で固体または液体の形態、例えば、粉末、ペースト、乳化液、オイル液、水溶液剤のような剤形として用いることもできる。このような製剤中の加水分解物の量は、使用対象、目的とする抗酸化作用等に応じて適宜選択されるが、通常、70?80重量%まで、好ましくは、10?20重量%である。
【0009】本発明の加水分解物は果実等が食用に供されるオリーブから得られ、毒性は極めて少ないものと考えられ、したがって、本発明の抗酸化剤は、食品、飼料、化粧料、医薬品およびそれらの原料等の抗酸化剤として用いることができる。例えば、食品等の製造工程で添加、混和、湿潤その他の方法によって使用することができる。その使用量は所望の目的に応じて適宜選択できるが、通常、加水分解物の濃度が所望の製品中に0.01?0.05重量%となるようにする。特に、本発明の抗酸化剤は食用油用の抗酸化剤として優れた抗酸化作用を発揮し、DHAなどの高度不飽和脂肪酸を含有する油脂の抗酸化剤としても好適である。」

(2d)「【0011】
【実施例】つぎに、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
オリーブの葉(100g)にメタノール(1リットル)を加え、60℃にて15分間抽出する操作を3回繰り返した。抽出液を集め、40℃で抽出溶媒を蒸発させ、凍結乾燥機により乾燥してオリーブ葉の抽出物(36.6g)を得た。この抽出物(36.6g)に、0.5N塩酸を0.2%の濃度で加え、混合し、室温にて一夜撹拌してオリーブ葉の溶媒抽出物加水分解物を得た。加水分解物を水酸化ナトリウムでpH3.0に調整した後、ODS(C18)を充填したカラムを用いてカラムクロマトグラフィーに付し、20%メタノール水溶液溶出画分を集め、上記と同様に、溶媒蒸発、凍結乾燥を行って、加水分解精製物(7.0g)を得た。」

(3)刊行物3:Biochemiacl Pharmacology (1999),Vol.57,No.4,pp445-449

(3a)「Abstract
Interest in the health-promoting effects of virgin olive oil, an important part of the ‘Mediterranean diet’, prompted us to determine the anti-eicosanoid and antioxidant effects in leukocytes of the principal phenolic compounds from the ‘polar fraction’: oleuropein, tyrosol, hydroxytyrosol, and caffeic acid. In intact rat peritoneal leukocytes stimulated with calcium ionophore, all four phenolics inhibited leukotriene B4 generation at the 5-lipoxygenase level with effectiveness hydroxytyrosol > oleuropein > caffeic acid > tyrosol (approximate ec50 values: 15, 80, 200, and 500 μM, respectively). ・・・略・・・」
(第971頁アブストラクトの項目)
(日本語訳:「地中海ダイエット」の重要な役割を果たすバージンオリーブオイルの健康を促進する影響に対する関心から、「極性分画」からの主要なフェノール化合物(オレウロペイン、チロソール、ヒドロキシチロソールおよびコーヒー酸)の白血球中のアンチーエイコサノイドおよび酸化防止効果を決定することが促された。カルシウムイオノフォアで刺激された損傷を受けていないネズミの腹膜の白血球において、4つのフェノールはすべて、ヒドロキシチロソール>オレウロペイン>コーヒー酸>チロソール(おおよそEC50バリュー: それぞれ15、80、200および500μM)の順で、5-リポキシゲナーゼ・レベルで、ロイコトリエンB4の生成を阻害した。・・・略・・・)

(4)刊行物4:J.Pharm. Pharmacol.(1999), Vol.51,No.8,pp.971-974

(4a)「Abstract
Secoiridoides (oleuropein and derivatives), one of the major classes of polyphenol contained in olives and olive oil, have recently been shown to inhibit or delay the rate of growth of a range of bacteria and microfungi but there are no data in the literature concerning the possible employment of these secoiridoides as antimicrobial agents against pathogenic bacteria in man.
In this study five ATCC standard bacterial strains (・・・中略・・・) and 44 fresh clinical isolates (・・・中略・・・), causal agents of intestinal or respiratory tract infections in man, were tested for in-vitro susceptibility to two olive (Olea europaea) secoiridoides, oleuropein (the bitter principle of olives) and hydroxytyrosol (derived from oleuropein by enzymatic hydrolysis and responsible for the high stability of olive oil).The minimum inhibitory concentrations (MICs) calculated in our study are evidence of the broad antimicrobial activity of hydroxytyrosol against these bacterial strains (・・・略・・・).
・・・中略・・・
These data indicate that in addition to the potential employment of its active principles as food additives or in integrated pest-management programs, Olea europaea can be considered a potential source of promising antimicrobial agents for treatment of intestinal or respiratory tract infections in man.」(第971頁アブストラクトの項目)
(日本語訳:オリーブとオリーブオイルに含まれるポリフェノールの主成分の1つであるセコイリドイド(オレウロペインと由来物)は、近年、一連のバクテリアおよびミクロ菌の成長率を抑制するあるいは遅らせることが示されている。しかし、人の中の病原菌に対する抗菌剤として、これらのセコイリドイドの利用の可能性に関する論文で発表されたデータはない。
本研究では、人間の腸や呼吸器の感染症の起因物となる、5つのATCC標準のバクテリア株(・・・中略・・・)、及び、44の新鮮な臨床分離株(・・・中略・・・)について、2のオリーブのセコイリドイドである、オレウロペイン(オリーブの苦味成分)およびヒドロキシチロソール(酵素加水分解によってオレウロペインから得られ、オリーブオイルの高い安定性に寄与するもの)に対する感染性に関して生体外でテストされた。私たちの研究で計算された最小発育阻止濃度(MIC)は、これらのバクテリア株(・・・略・・・)に対するヒドロキシチロソールの広い抗菌作用の証拠である。・・・中略・・・
これらのデータは、食品添加物として、あるいは害虫管理プログラムにおける、その有効成分の潜在的な利用に加え、オリーブ(Olea europaea)が人間の腸や呼吸器の感染症の治療用抗生物質として機能する潜在的な原料となる可能性を示すものである。)

3 対比・判断
刊行物1には、熟したオリーブの保存中のフェノール化合物の変化を研究したものであって(1a)、50kgのオリーブおよび50Lの塩水を用い、空気を導入し、塩水に酢酸を加えることにより塩水の最初のpHを4にしたこと(1b)、7ヶ月間塩水でオリーブを保存したこと(1c)、果肉中のグルコシド加水分解が起こり、この結果、得られた塩水中のオレウロペインの含有量が低くなり、ヒドロキシチロソールが増加したこと(1a)が記載されている。
そうすると、刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a),(1b),(1c),(1g))から、刊行物1には、
「50kgのオリーブおよび50ポンドの塩水を用い、空気を導入し、酢酸を加えることによりpHを最初4に修正した塩水中にオリーブを保存し、果肉中のグルコシドの加水分解が起こり、この結果得られた、塩水中のオレウロペインの含有量が低くなり、ヒドロキシチロソールが増加した、7ヶ月間オリーブ果肉を保存した塩水」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明は、果肉中のグルコシドの加水分解が起こり、この結果、塩水中のオレウロペインの含有量が低くなり、ヒドロキシチロソールが増加するものであり、オリーブの果肉中のグルコシドの加水分解によって生じたオレウロペインが塩水に存在しているものであって、オリーブの果肉から抽出されたオレウロペインが塩水に含まれているものである。
そうすると、刊行物1発明の「50kgのオリーブおよび50Lの塩水を用い、空気を導入し、酢酸を加えることによりpHを最初4にした塩水中にオリーブを保存し、果肉中のグルコシド加水分解が起こ」った「塩水」は、本願補正発明の「オリーブの水性抽出物を含有する、組成物」に相当する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
「オレウロペインとヒドロキシチロソールを含有するオリーブの水性抽出物を含有する組成物」である点

(相違点1)
「オリーブの水性抽出物を含有する組成物」が、本願補正発明では、「約10:1と約100:1との間の、オレウロペインに対するヒドロキシチロソールの重量比を含有するオリーブの水性抽出物」を含有するのに対し、刊行物1発明では、オレウロペインに対するヒドロキシチロソールの重量比を特に規定していない点

(相違点2)
「組成物」が、本願補正発明では「粉末組成物を提供するように乾燥される」ものであるのに対し、刊行物1発明では、塩水である点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物1には、オリーブを塩水に保存した間の塩水中の、オレウロペインの量の変化が図2に、ヒドロキシチロソールの量の変化が図3に示されている。また、オレウロペインの分子量は540.518、ヒドロキシチロソールの分子量は154.165である(日本化学物質辞書Web:http://nikkajiweb.jst.go.jp/nikkaji_web/pages/top.html オレウロペイン(日化辞番号J17.724E),ヒドロキシチロソール(日化辞番号 J246.008D)による(検索日:2012年4月9日))。
図2と図3を参照すると、オリーブの品種(HOJIBLANCA、CACERENA)や温度によって傾向は異なる。このうち、例えば、CACERENAの品種(図中●)の35℃のものでは、オレウロペインの量を示す図2から、日数(横軸)の最小の点における量(縦軸:mM)は約1.5mMであって、日数(横軸)の最大の点(約200日経過後)における量(縦軸:mM)は約0.28mMであり、これに対応するヒドロキシチロソールの量を示す図3では、日数(横軸)の最小の点における量(縦軸:mM)は約1.7mMであって、日数(横軸)の最大の点(約200日経過後)における量(縦軸:mM)は約8.0mMであることから、当初、オレウロペイン:ヒドロキシチロソール=約1.5mM:約1.7mM、上記分子量から計算すると、約0.81g:約0.26g=約1:約0.32であったものが、約200日経過後には、オレウロペイン:ヒドロキシチロソール=約0.28mM:約8.0mM=約0.15g:約1.23g=約1:約8.2 と変化したことがわかる。
同様に、例えば、HOJIBLANCAの品種(図中○)の20℃のものを見てみると、オレウロペインの量を示す図2では、日数(横軸)の最小の点における量(縦軸:mM)は約0.073mMであって、日数(横軸)の最大の点(約200日経過後)における量(縦軸:mM)は約0.08mMであり、これに対応するヒドロキシチロソールの量を示す図3では、日数(横軸)の最小の点における量(縦軸:mM)は約1.4mMであって、日数(横軸)の最大の点(約200日経過後)における量(縦軸:mM)は約8.1mMであることから、当初、オレウロペイン:ヒドロキシチロソール=約0.073mM:約1.4mM=約0.039g:約0.22g=約1:約5.6であったものが、約200日経過後には、オレウロペイン:ヒドロキシチロソール=約0.08mM:約8.1mM=約0.04g:約1.25g=約1:約31.3 と変化している。
いずれも日数が経過するほど、オレウロペインに対するヒドロキシチロソールの重量比が大きくなり、また、HOJIBLANCAの品種では、約200日経過後にはオレウロペインに対するヒドロキシチロソールの重量比は約10:1と約100:1の間に含まれるものとなることが示されている。
そうすると、刊行物1には、約10:1と約100:1の間のオレウロペインに対するヒドロキシチロソールの重量比を含有する、オリーブの水性抽出物を含む塩水が記載されているし、さらに、ヒドロキシチロソールが抗酸化作用を有すること(2b)、5-リポキシゲナーゼ・レベルで、ロイコトリエンB4の生成を阻害する機能を有すること(3a)、抗菌作用を有し、食品添加物としてあるいは害虫駆除に用いられ、さらに治療用抗生物質として用いられること(4a)ことは、刊行物2?4に記載された通りに本願優先日前の公知の事項であるので、こうした作用を有するヒドロキシチロソールをより多く得ることを考えて、刊行物1の記載から、オリーブの保存の日数を選択し、オレウロペインに対するヒドロキシチロソールの重量比を約10:1と約100:1の間との数値範囲を規定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
刊行物2には、オリーブ植物溶媒抽出物の加水分解物を有効成分としてなる抗酸化剤であって(2a)、加水分解物をそのまま抗酸化剤としてもよいが、公知の方法で固体の形態、例えば粉末として用いることもできること(2c)、加水分解物について、溶媒蒸発、凍結乾燥を行って、加水分解精製物を得ること(2d)、が記載されている。
刊行物1発明のオリーブ果肉中からの抽出物を含む塩水について、乾燥させて粉末の形態とすることは、オリーブ植物溶媒抽出物の加水分解物を有効成分として用いる際に、凍結乾燥させ、また、粉体として用いるとの刊行物2の記載事項を参照して、当業者が容易に想到し得たことである。

(発明の効果について)
ヒドロキシチロソールが抗酸化作用を有すること(2b)、5-リポキシゲナーゼ・レベルで、ロイコトリエンB4の生成を阻害する機能を有すること(3a)、抗菌作用を有し、食品添加物としてあるいは害虫駆除に用いられ、さらに治療用抗生物質として用いられること(4a)は、刊行物2?4に記載の通りに本願の優先日前に公知の事項であるので、ヒドロキシチロソールが(i)天然の殺菌剤、抗ウイルス薬、ならびに/または農業用および/もしくは害虫の制御への適用のための殺真菌性物質として、ならびに(ii)種々の健康目的のための治療薬および/または抗酸化剤として用いることができるとの本願補正発明の効果は、刊行物1?4の記載事項から当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年12月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成21年7月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項5に係る発明は以下のとおりのものである。

「【請求項5】
約10:1と約100:1との間の、オレウロペインに対するヒドロキシチロソールの重量比を含有するオリーブの水性抽出物を含有する、組成物。」
(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?4及びその記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の「組成物」が、「粉末組成物を提供するように乾燥される」ものであるとの構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含んだ本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり、刊行物1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-12 
結審通知日 2012-04-13 
審決日 2012-04-24 
出願番号 特願2005-366391(P2005-366391)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
P 1 8・ 575- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
菅野 智子
発明の名称 植物水からヒドロキシチロソール富化組成物を得る方法  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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