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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1262839
審判番号 不服2011-14901  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-11 
確定日 2012-09-05 
事件の表示 特願2006-136604「層状掃気2サイクルエンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月29日出願公開、特開2007-309128〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年5月16日の出願であって、平成22年10月28日付けの拒絶理由通知に対して平成23年2月4日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成23年4月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年7月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けの手続補正書によって特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成24年3月21日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成24年5月28日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年7月11日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成23年7月11日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正について
(1)本件補正の内容
平成23年7月11日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年2月4日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記Aを、下記Bと補正するものである。

A 本件補正前の明細書の特許請求の範囲
「 【請求項1】
ピストンと、
ピストンが往復動可能に設けられ、ピストンにより開閉する排気ポート及び掃気ポートが内壁に開口するシリンダと、
クランク室に沿って延在する部分と、シリンダに沿って延在する部分とを有し、前記掃気ポートと前記クランク室とを接続する掃気通路と、
前記掃気通路の中間部位に接続され、前記掃気通路内に先導空気を導入するための外気導入路と、を備え、
ピストンが上死点付近にあるときに前記クランク室が前記掃気ポートを介して前記掃気通路に接続される、ことを特徴とする層状掃気2サイクルエンジン。
【請求項2】
前記外気導入路が、掃気通路の、シリンダに沿って延在する部分の、最もクランク室側開口部に近い位置に接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の層状掃気2サイクルエンジン。
【請求項3】
前記掃気通路のクランク室側開口部が、クランクウェイトの外周面が通過する軌道に最も近い位置において開口しており、前記クランクウェイトが、前記掃気通路のクランク室側部分内へ先導空気が流入する際の抵抗となるように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の層状掃気2サイクルエンジン。」

B 本件補正後の明細書の特許請求の範囲
「 【請求項1】
ピストンと、
ピストンが往復動可能に設けられ、ピストンにより開閉する排気ポート及び掃気ポートが内壁に開口するシリンダと、
クランク室に沿って延在する部分と、シリンダに沿って延在する部分とを有し、前記掃気ポートと前記クランク室に開口するクランク室側開口部とを接続する掃気通路と、
前記掃気通路の中間部位に接続され、前記掃気通路内に先導空気を導入するための外気導入路と、を備え、
ピストンは、側壁部と、前記側壁部に設けられた切欠又は穴とを有し、
ピストンが下死点付近にあるときに、前記掃気通路内の先導空気と前記クランク室内の混合気が前記掃気ポートを介してシリンダ内に流入し、
ピストンが上死点付近にあるときに、前記クランク室が前記切欠又は穴及び前記掃気ポートを介して前記掃気通路に接続されるとともに前記クランク室側開口部と前記クランク室との連通を妨げることにより、前記掃気通路内に残留している混合気が前記外気導入路から導入される先導空気によって押し出され前記掃気ポートを介してクランク室内に流入するよう構成した、ことを特徴とする層状掃気2サイクルエンジン。
【請求項2】
前記シリンダは、ピストンにより開閉する吸気ポートを更に備え、
前記外気導入路は、前記吸気ポートに接続される吸気通路に対して下死点側に設けられると共に、
前記外気導入路が、掃気通路の、シリンダに沿って延在する部分の、最もクランク室側開口部に近い位置に接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の層状掃気2サイクルエンジン。
【請求項3】
前記掃気通路のクランク室側開口部が、クランクウェイトの外周面が通過する軌道に最も近い位置において開口しており、前記クランクウェイトが、前記掃気通路のクランク室側部分内へ先導空気が流入する際の抵抗となるように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の層状掃気2サイクルエンジン。」(なお、下線は審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

2 新規事項の追加について
特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、(a)特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「掃気通路」について、本件補正前の「前記掃気ポートと前記クランク室とを接続する掃気通路」を、本件補正後の「前記掃気ポートと前記クランク室に開口するクランク室側開口部とを接続する掃気通路」と限定し、(b)同じく「ピストン」について、「ピストンは、側壁部と、前記側壁部に設けられた切欠又は穴とを有し」と限定するとともに、(c)本件補正前の「ピストンが上死点付近にあるときに前記クランク室が前記掃気ポートを介して前記掃気通路に接続される」を、本件補正後の「ピストンが下死点付近にあるときに、前記掃気通路内の先導空気と前記クランク室内の混合気が前記掃気ポートを介してシリンダ内に流入し、ピストンが上死点付近にあるときに、前記クランク室が前記切欠又は穴及び前記掃気ポートを介して前記掃気通路に接続されるとともに前記クランク室側開口部と前記クランク室との連通を妨げることにより、前記掃気通路内に残留している混合気が前記外気導入路から導入される先導空気によって押し出され前記掃気ポートを介してクランク室内に流入するよう構成した」と限定するものである。
しかし、上記の事項のうち、(b)の「ピストンは、側壁部と、前記側壁部に設けられた切欠又は穴とを有し」という事項は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されていない。当初明細書の段落【0018】には、「図2に示すように、ピストン8が上死点付近にあるときに掃気ポート7をクランク室9側に開口させる切欠8aがピストン8の下縁に形成されている」と記載されているが、ピストンの下縁部以外の部分、例えば、中間部や上部等を含む「側壁部」に「切欠又は穴」を設けることは記載も示唆もされていない。
また、上記事項のうち(c)の「前記クランク室側開口部と前記クランク室との連通を妨げる」という事項も本願の当初明細書等には記載されていない。当初明細書の段落【0020】には「クランクウェイト15が、掃気通路4のクランク室側部分4a内へ先導空気が流入する際の抵抗となり」と記載され、段落【0022】には「クランクウェイト15の外周面が15aクランク室側開口部13近傍の空間を横切るように構成されているため、掃気通路4のクランク室側部分4a内へ先導空気が流入する際にクランクウェイト15が抵抗となり」と記載されているが、「抵抗となる」ことは、必ずしも「妨げる」ことを意味しない。また、クランクウェイト以外のもの、例えば開閉弁、絞り弁、切換弁、加圧装置等によって「妨げる」ものを含む、「前記クランク室側開口部と前記クランク室との連通を妨げる」という事項は、当初明細書等には記載も示唆もされていない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件についての検討
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、新規事項の追加を含むものであるが、仮に、新規事項の追加を含むものでなく、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合に、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

3-1 引用発明
原査定の拒絶理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-186560号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、クランク室圧縮式2サイクルエンジン、特に層状掃気式2サイクルガソリンエンジンに関する。」(段落【0001】)

(b)「【0011】
【発明が解決しようとする課題】図8に示す層状掃気2サイクルガソリンエンジンにあっては、ピストン4が上昇して排気ポート13aが閉じた圧縮始め時期においては、燃焼室25内の混合気が層状状態にあることから、エンジンの運転回転数によって点火プラグ8の周辺における混合気の形成態様が異なり、全回転数領域で安定した燃焼が得られ難いという問題点を有している。
【0012】また、かかる従来技術にあっては、掃気通路9の長さが短いため、吸気行程時、掃気通路9内に留まるべき空気がクランク室15a内に侵入して、混合気を希薄化する等の不具合の発生をみるという問題点も有している。
【0013】本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、エンジンの運転回転数の全域において、点火プラグの周辺に濃度が均一かつ充分な量の混合気を充填でき、かつ掃気作用を充分になし得る層状掃気2サイクルエンジンを提供することを目的とする。」(段落【0011】ないし【0013】)

(c)「【0014】
【課題を解決するための手段】本発明は、かかる課題を解決するため、請求項1記載の発明として、シリンダに排気ポートと掃気ポートとを設けて該掃気ポートとクランク室とを連通し、該クランク室には絞り弁によって流量を制御された混合気の供給口が設けられてなる層状掃気2サイクルエンジンにおいて、前記掃気ポートは、シリンダの円周方向において前記排気ポートに対してほぼ直角方向に設けられた第1の掃気ポートと、該排気ポートに対向する部位に設けられた第2の掃気ポートとよりなり、前記第1の掃気ポートとクランク室との間の掃気通路に空気を供給する空気供給通路を設けるとともに、該第1の掃気ポートとクランク室との間の掃気通路の容積を、エンジンの1サイクル中に前記空気供給通路から該第1の掃気ポートに流入する空気量以上の容積になるように充分に大きく設定したことを特徴とする層状掃気2サイクルエンジンを提案する。
【0015】請求項2記載の発明は、請求項1において、前記第1の掃気ポートに連通される掃気通路を、シリンダ内の縦方向に設けられた掃気通路と、クランクケースの上面に水平方向に設けられた掃気通路と、クランクケースの外周壁内に弧状に形成された掃気通路とにより構成してなる
【0016】かかる発明によれば、掃気作用時において、空気供給通路からの空気が第1の掃気ポートから燃焼室内に流入して、該燃焼室内の燃焼ガスを排気ポートに押し出すことにより充分な掃気がなされ、次いでエンジンの運転回転数において開口タイミングの一定な第1の掃気ポート及び第2の掃気ポートからクランク室内の混合気が燃焼室内に充填されるので、混合気が直接排気ポートへ吹き抜けることなく点火プラグの周辺に充填される。
【0017】また、第1の掃気ポートに通じる掃気通路が、空気供給通路からの流入空気量以上の容積を有するように充分長く形成されているので、前記空気供給通路からの空気がクランク室内に侵入して混合気を希薄化させるのが阻止される。
【0018】以上により、エンジンの各回転数領域に適合した量で、かつ濃度が均一な混合気を点火プラグの周辺に充填させることができ、安定した着火をなすことが可能となり、安定燃焼がなされる層状掃気2サイクルエンジンを提供できる。
【0019】請求項3記載の発明は、請求項1または2に加えて、前記空気供給通路と前記第1の掃気ポートとの間に、該空気供給通路から該第1の掃気ポートに向かう流れのみを許容する逆止弁を備えてなる。
【0020】かかる発明によれば、第1の掃気ポートから混合気が燃焼室内に供給される際において、前記逆止弁によって空気供給通路から掃気ポートへ流れようとする空気を遮断でき、かかる空気の混入の無い安定した濃度の混合気を燃焼室内い供給できる。」(段落【0014】ないし【0020】)

(d)「【0025】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がないかぎりは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0026】図1は、本発明の第1実施形態に係る層状掃気2サイクルガソリンエンジンのシリンダ中心を含みクランク軸心に沿う断面図、図2は図1のA-A線断面図、図3は図2のB-B線断面図である。
【0027】図1?図3において、2はシリンダ、4はピストン、6はクランク軸、5はクランクケース、3は前記ピストン4とクランク軸6とを連結するコネクティングロッド、7はシリンダヘッド、8は点火プラグ、11はエアクリーナ、12は気化器、15は混合気供給通路、14は該混合気供給通路15の開度を変えて混合気の流量を制御する絞り弁である。また、51,51は主軸受である。
【0028】25は燃焼室、15aは前記クランクケース5の内部に形成されたクランク室、16は前記クランク室15aと前記混合気供給通路15との間を開閉する逆止弁である。該逆止弁16は、混合気供給通路15からクランク室15aに向かう流れのみを許容するように構成されている。13aは、前記シリンダ2の側部に開口された排気ポートで、排気通路13に接続されている。9aは前記シリンダ2の排気ポート13aに対向する部位に開設された掃気ポート、9は該掃気ポート9aと前記クランク室15aを接続する掃気通路である。」(段落【0025】ないし【0028】)

(e)「【0029】以上の基本構成は図8に示す従来技術と同様である。本発明の実施形態においては、掃気作用をなす空気の供給手段及び掃気通路を改良している。
【0030】即ち、図1?図3において、109a,109aは前記シリンダ2の前記排気ポート13aの左右の該排気ポート13aとほぼ直角方向の部位に2個対応するように設けられた掃気ポートである。該掃気ポート109a,109aの夫々は、掃気通路109e,109eに連通されている。該掃気通路109e,109eはシリンダ2に縦方向に内接され、その下端がクランクケース5の上部に水平方向に設けられた掃気通路109cに接続されている。
【0031】109dはクランクケース5の壁内に弧状に形成された掃気通路であり、その上端が前記水平方向の掃気通路109に連通されるとともに、その下端が掃気連通孔109bを介してクランク室15aに連通されている。従って、上記掃気ポート109a,109a側の掃気通路は、シリンダ2に設けられた縦方向の掃気通路109eからクランクケース5に設けられた水平方向の掃気通路109c、弧状の掃気通路109d、掃気連通孔109bを経てクランク室15aに接続される長さの長い掃気通路に構成されることとなる。該掃気通路の容積は、エンジンの1サイクル中に後述する空気供給通路10から供給される空気量よりも大きくなるように設定される。
【0032】10は前記エアクリーナ11の空気出口と前記対をなす掃気孔109aに連通する掃気通路109eとを接続する空気供給通路であり、その上流側には該通路10を通る空気量を制御する空気制御弁20が設けられている。該空気供給通路10は、図2?図3に示すように、途中で2方向に分岐されて、左右の掃気ポート109a,109aへの掃気通路109e,109eに連通されている。そして該空気供給通路10,10の掃気通路109e,109eへの開口部には、上記掃気通路109e,109e側に向かう流れのみを許容する逆止弁17,17が設けられている。また、かかる実施形態において、前記左右の掃気ポート109a,109aがピストンの下降時に排気ポート13aに次いで開口し、次いで前記掃気ポート9aが開口するように配置されている。」(段落【0029】ないし【0032】)

(f)「【0033】かかる構成からなる層状掃気2サイクルガソリンエンジンの運転時において、燃焼室25内の爆発圧力によりピストン4が下降し、排気ポート13aが開かれると、燃焼室25内の燃焼ガス(排気ガス)は、排気ポート13aを通って排気通路13へ排出される。さらにピストン4が下降すると、左右の掃気ポート109a,109aが開口し、空気供給通路10を経た空気が燃焼室25内に流入して燃焼ガスを排気ポート13a側に押し出す。
【0034】次いで前記左右の掃気ポート109a,109aの開口から一定タイミング遅れて排気ポート13aに対向する掃気ポート9aが開口し、クランク室15a内の混合気が掃気通路9を経て該掃気ポート9aから燃焼室25内に流入せしめられる。一方、左右の掃気ポート109a,109aからも、クランク室15aから掃気連通孔109b、掃気通路109d、掃気通路109c及び掃気通路109eからなる長さの長い掃気通路を経た混合気が流入せしめられる。
【0035】前記ピストン4が下死点に達した状態では、排気ポート13a、3つの掃気ポート109a,109a,9aは開口していて、燃焼室25内への新気、混合気の供給は終了、あるいは終了しようとしている。そして、該ピストン4が下死点から上昇すると、該ピストン4によって掃気ポート9aが閉じて、次いで掃気ポート109a,109aが閉じて、クランク室15a内が密閉空間となり、容積膨張即ち圧力低下が始まる。
【0036】さらにピストン4が上昇すると、排気ポート13aが閉じられ、燃焼室25内のガスの圧縮が始まる一方、クランク室15a内の圧力はさらに低下する。これによって、リード弁からなる逆止弁16が開弁し、混合気供給通路15から混合気がクランク室15a内に供給される。前記クランク室15a内の圧力低下は、掃気連通孔109b、掃気通路109d,109c及び109eを経て掃気ポート109aにも伝達されるので、リード弁からなる逆止弁17,17も開弁し、空気供給通路10,10からの空気が該逆止弁17,17を経て掃気通路109e,109e内に流入せしめられる。
【0037】前記ピストン4が圧縮上死点近傍になると、点火プラグ8によって燃焼室25内の混合気に火花放電され、これにより混合気の着火、燃焼が行なわれる。かかる燃焼による圧力で、ピストン4は押し下げられ、クランク軸6に仕事をする。
【0038】かかる掃気作用時において、吸入行程時に空気供給通路10から左右の逆止弁17,17を介して、掃気通路109e,109e、109c,109cに貯えられていた空気が、掃気孔109a,109aから燃焼室25内に導入されることによって燃焼室25内を空気で充分に掃気した後に、クランク室15a内の混合気が、掃気通路9を経て排気ポート13aに対向する側の掃気ポート9a、及び掃気連通路109bから長さの長い掃気通路109d,109c及び109eを経て、左右の掃気ポート109a,109aの双方から燃焼室25内に流入されて充填されるので、混合気が直接排気ポート109a側へ吹き抜けるのが抑制され、点火プラグ8の周辺に安定した濃度の混合気が充填される。
【0039】また、前記掃気作用時に、空気供給通路10に連通していることによって、該通路10からの空気が掃気通路109e,109c,109dに流入するが、該掃気通路の長さが長く、流入空気量以上の容積を有しているため、該空気はこの長い掃気通路内に溜められて、クランク室15a内に侵入して混合気を希薄化させることはない。これによって、混合気濃度を運転条件に適合した濃度に安定して維持できる。従って、エンジンの全ての運転回転数領域において、点火プラグ8の周辺における混合気の形成が安定してなされ、安定した燃焼が得られる。」(段落【0033】ないし【0039】)

(g)「【0044】
【発明の効果】以上記載のごとく、本発明によれば、掃気作用時において、吸入行程時に空気供給通路から第1の掃気ポートに通じる掃気通路に貯えた空気を、燃焼室内に導くことにより充分な掃気をなすことができるとともに、エンジンの運転回転数において開口タイミングの一定な複数の掃気ポートからクランク室内の混合気が燃焼室内に充填されるので、混合気が直接排気ポートへ吹き抜けることなく、点火プラグの周辺に充填せしめることができる。
【0045】また、第1の掃気ポートに通じる掃気通路が、空気供給通路からの流入空気量以上の容積を有するように充分に長く形成されているので、前記空気供給通路からの空気がクランク室内に侵入して混合気を希薄化させるのを阻止できる。
【0046】以上により、エンジンの各回転数領域に適合した量で、かつ濃度が均一な混合気を点火プラグの周辺に充填させることができ、安定した着火をなすことができ、安定した着火をなすことが可能となり、安定燃焼がなされる層状掃気2サイクルエンジンを提供できる。
【0047】また、請求項3記載の発明によれば、第1の掃気ポートから混合気が燃焼室内に供給される際において、前記逆止弁によって、空気供給通路から掃気ポートへ流れようとする空気を遮断でき、かかる空気の混入の無い、安定した濃度の混合気を燃焼室内に供給できる。」(段落【0044】ないし【0047】)

上記(a)ないし(g)及び図面の記載を参酌すると、以下のことが分かる。

(ア)上記(a)ないし(g)及び図面(特に図1ないし図3を参照。)の記載から、引用文献1には、ピストン4と、ピストン4が往復動可能に設けられ、ピストン4により開閉する排気ポート13a及び掃気ポート9aが内壁に開口するシリンダ2と、クランク室15aに沿って延在する部分109dと、シリンダ2に沿って延在する部分109eとを有し、前記掃気ポート109aと前記クランク室15aに開口する掃気連通孔109b[クランク室側開口部]とを接続する掃気通路109b,109c,109d,109eと、前記掃気通路109b,109c,109d,109eに接続され、前記掃気通路109b,109c,109d,109e内に空気[先導空気]を導入するための空気供給通路10[外気導入路]と、を備える、層状掃気2サイクルエンジンが記載されていることが分かる。

(イ)上記(a)ないし(g)及び図面の記載から、引用文献1に記載された層状掃気2サイクルエンジンにおいて、ピストンは、側壁部を有していることが分かる。(また、本願補正発明とは目的が異なるが、ピストンの側壁部に凹部4a(切欠き)を設けることも記載されている。)

(ウ)上記(a)ないし(g)及び図面の記載から、引用文献1に記載された層状掃気2サイクルエンジンにおいて、ピストン4が下死点付近にあるときに、前記掃気通路109b,109c,109d,109e内の空気[先導空気]と前記クランク室15a内の混合気が前記掃気ポート109aを介してシリンダ2内に流入することが分かる。

上記(a)ないし(g)、(ア)ないし(ウ)及び図面の記載を参酌すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ピストン4と、ピストン4が往復動可能に設けられ、ピストン4により開閉する排気ポート13a及び掃気ポート109aが内壁に開口するシリンダ2と、クランク室15aに沿って延在する部分109dと、シリンダ2に沿って延在する部分109eとを有し、前記掃気ポート109aと前記クランク室15aに開口する掃気連通孔109bとを接続する掃気通路109b,109c,109d,109eと、前記掃気通路109b,109c,109d,109eに接続され、前記掃気通路109b,109c,109d,109e内に空気を導入するための空気供給通路10と、を備え、
ピストンは、側壁部を有し、
ピストン4が下死点付近にあるときに、前記掃気通路109b,109c,109d,109e内の空気と前記クランク室15a内の混合気が前記掃気ポート109aを介してシリンダ2内に流入する、層状掃気2サイクルエンジン。」

3-2 引用文献2記載の技術
原査定の拒絶査定において周知技術を示すために用いられた、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-21571号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、請求項1の前提部に記載の、特にパワーチェーンソウ、刈払機、研削切断機等の携帯可能な手動式作業機械における駆動原動機としての二行程原動機およびこの二行程原動機の運転方法に関する。」(段落【0001】)

(b)「【0002】
【従来の技術】このような二行程原動機は一般に周知である。当該系に必然的に生ずる負荷交換時の掃気損失を低減するために、新鮮な混合気を燃焼室内に流入する前に燃料の少ないまたは燃料を含むことのない空気を予め貯えておくことがすでに提案されている。これにより、スリット制御の開放出口のために主として燃料を含まないガスによる不可避的な掃気損失が形成される。
【0003】貯え空気を持ち込むために、溢流口の近くにて空気管路を溢流体内に開口させ、それにより吸入位相の間クランクケーシング内の負圧により混合気を入り口を介して吸入するのみならず、同時に空気管路を介して溢流口からクランクケーシングの方向に燃料を含まない空気が流入するようにすることは周知である。掃気サイクルの始めに、クランクケーシングから溢流する新鮮混合気は、まず空気を溢流体から燃焼室内に押しやらねばならない。この場合、吸入位相の間吸入された貯え空気は、直接吸入位相に関連して掃気のため燃焼室内に押し込められる。
【0004】溢流管路にまじりけのない空気を供給するための構造上の経費は比較的高い。このためには、溢流管路になお存在する新鮮混合気の残存部分を吸入位相の間に流入する燃料を含まない空気により完全にクランクケーシングの方に掃気するように考慮しなければならない。溢流管路に新鮮混合気部分が残っていると、掃気損失はエネルギーの豊富なものとなり、排気ガス品質は劣化する。」(段落【0002】ないし【0004】)

(c)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、上に述べた形式の二行程原動機を改良し、構造上の経費が少なく、溢流管路を燃料を含まない空気により完全に掃気することを保証する二行程原動機およびその運転方法を提供することである。」(段落【0005】)

(d)「【0013】図1に図式的に示す二行程原動機は、主としてシリンダ2およびクランクケーシング3よりなる。シリンダ2内には、上下動するピストン1により境界される燃焼室4が形成されている。ピストン1は連接棒5を介してクランク軸6と結合され、このクランク軸は軸芯8の周りに回転可能にクランクケーシング3内に装着されている。クランク軸6は、特に重量バランスのために、両端面側にクランク側部7を有する。
【0014】燃焼室4は、図示しない出口を介して、排気ガス消音器または排気ガス導出装置と接続されている。運転に必要な新鮮混合気が、クランクケーシング3から燃焼室4に供給される。このためクランクケーシング3は、気化器のような混合気形成装置と接続された入口9を備えており、この入口は本実施例ではピストン1によりスリット式に制御されている。入口9は、膜弁等として構成するのが有利である。
【0015】吸入された新鮮混合気は、クランクケーシング3から溢流管路10を介して燃焼室4に供給される。このため溢流管路10は、その第1の端部11にシリンダ壁13に構成した溢流口12を有する。本実施例では、溢流口12はピストン1によりスリット式に制御されている。溢流管路10は、その他の端部14では流入開口部15を介してクランクケーシング3内に開口している。
【0016】図示の実施例において、クランク側部7の端面側17とクランクケーシング3の壁部18との間に貯蔵室20が形成されており、この貯蔵室はその1端部19にてクランクケーシング3と接続し、その他端部16にて空気管路21と接続している。空気管路21は、流動方向にクランクケーシング3に開口する膜弁を介して燃料を含まないガス、特に空気を供給する。
【0017】流入開口部15、流入口を開けている空気管路21、貯蔵室20の端部16は流動結節点を形成し、ここに流動結合の切り替えを行う弁23が配置されている。弁23を介して、溢流管路10の流入開口部15は、貯蔵室20を介して間接的にクランクケーシング3と接続され、または図3に示すように、流入開口部15は直接にクランクケーシング3と接続される。弁23はクランク軸6の回転位置に依存して制御される弁であり、特に機械的にクランク軸6により強制制御される多路弁である。このため本実施例では、クランク側部7がその周囲にて、クランク側部7自体が制御される弁23の弁部材24を形成するように構成されるのが有利である。
【0018】図示の実施例では、弁部材24が回転スライダーの形式に構成され、その際図3に対応するクランク側部7の第1の回転位置では、弁部材24が流入開口部15を空気管路21および貯蔵室20から分離し、そして溢流管路10とクランクケーシング3との直接接続を生成する。この位置では、空気管路21は貯蔵室20と接続し、その場合空気管路はほぼ流入開口部15の高さにて貯蔵室20の端部に位置する。
【0019】図1に示すクランク側部7の第2の回転位置では、弁23はその第2の切り替え位置にあり、この位置では流入開口部15が弁部材24によりクランクケーシング3に対し閉鎖され、単にクランクケーシング3への間接的な接続、すなわち貯蔵室20を介しての接続が存在する。弁構成は次のように、すなわち図3の第1の弁位置では貯蔵室20がその空気管路側端部16にてクランクケーシング3に対し閉鎖され、従って貯蔵室20は専らクランクケーシング3の底部範囲にある端部19を介してクランクケーシング3の内部空間と連結している。」(段落【0013】ないし【0019】)

(e)「【0020】図1に示す二行程原動機の構成により、以下に詳細に説明する運転が可能となる。図2では、二行程原動機のピストン1が矢印方向30に上部死点の方向へ上昇する。燃焼室4内の混合気は圧縮され、そしてシリンダヘッドの対応する受容部25に配置された点火栓により点火される。ピストン1が上方へ走行するので、クランクケーシング3内では負圧が生成し、よって入口9が開いたとき新鮮混合気14がクランクケーシング3内に吸入される。新鮮混合気は、管路を介し入口9に接続されている気化器で形成される。
【0021】新鮮混合気14の流入と同時に、空気管路21の膜弁22を経て燃料を含まないガス、すなわち空気50がクランクケーシング3への流動方向に流れ込む。これは、クランクケーシング3内にある負圧が貯蔵室20の開放端部19を介して空気管路21内にも生じているからである。溢流口12は閉鎖されているので、流動するガスは溢流管路10内にたまった空気量51へ影響することはない。その空気量の準備のやり方を以下になお詳細に説明する。
【0022】矢印方向30に上部死点への上昇運動の間、ピストン1は溢流口12を閉鎖しつづける。弁23はその第2の切り替え位置にあり、この位置で流入開口部15を貯蔵室20を介して間接的にクランクケーシング3と接続する。弁部材24は、流入開口部15のクランクケーシング3への直接接続を遮断する。
【0023】上部死点にて、ピストン1はその運動方向を逆にし、矢印方向31にクランクケーシング3の方向へ下降運動する。ピストン1が下降運動し、図3に示すように、溢流口12が開放するとき、弁23はその第1の切り替え位置へ切り替わり、この位置で弁部材24は空気管路21と貯蔵室20とを流入開口部15から分離する。弁部材24は、この切り替え位置にてクランクケーシング3から溢流管路10の流入開口部15への直接の経路を開放する。ピストン1の下降運動により圧縮された新鮮混合気は、矢印方向41に弁23と流入開口部15とを経て溢流管路10内に流入し、そして燃料を含まないガス、すなわち空気51を溢流管路10から燃焼室4内に押しやる。空気51がほぼ燃料を含まないために、新鮮混合気の掃気損失は明らかに低減することができ、排気ガス品質は良好となる。
【0024】弁23を図2の第2の位置から図3の第1の位置へ切り替えると、貯蔵室20も空気管路21に向いたその端部16にてクランクケーシング3に対し閉止され、従って吸入位相にて貯蔵室20内に吸入された空気52は貯蔵室20内にとどまる。クランクケーシング3およびこれに向いて開放されている貯蔵室20の端部19が過圧であるので、貯蔵室20内および空気管路21内も過圧であり、この圧力のために空気を導くべき膜弁22は閉じている。
【0025】掃気位相の終り近く、すなわちピストンがなお矢印方向31に下方へ移動しかつ溢流口12が開いているとき、弁23は図3の第1の位置から図2または図4に示す第2の位置へ戻し切り替えを行う。このとき、流入開口部15は弁部材24を介してクランクケーシング3に対し分離されており、ただ貯蔵室20を介してクランクケーシング3と接続している。貯蔵室20内にある圧力および矢印方向42に開放端部19を経て貯蔵室20内に流動する新鮮混合気は、貯蔵室20内に吸入された燃料を含まない空気52を溢流管路10内に押し出す。溢流管路10内になおある新鮮混合気41は、後から流入する燃料を含まない空気52により燃焼室4内に押し出される。しかし、後から流入する燃料を含まない空気52が燃焼室4内に流入し得る前、溢流口12は矢印方向30に上部死点の方向へ移動するピストン1により閉鎖されるので、後から流入する新鮮混合気42により貯蔵室20から溢流管路10内に押し込まれた燃料を含まない空気は、溢流管路10内にて貯蔵空気51として保持される。この貯蔵空気51は、次の掃気サイクルのとき始めて燃焼室4内に流入する。図2で始まる該サイクルは繰り返される。」(段落【0020】ないし【0025】)

(f)「【0026】新鮮空気による溢流管路10の掃気のための時間が短いものに過ぎないとき、図6に示すように、上部死点直前に溢流口12が特にピストン側部61の開口部60を介して、またはピストン下縁部からも自由となり、それにより溢流管路10がクランクケーシング3と接続するようにするときは、掃気を改善することができる。貯蔵室の開放端部19は、溢流口12の開放の時点に有利に閉鎖されている。クランクケーシング3と開放された膜弁22との間のなおある圧力差により、空気50は直接溢流管路10を通ってクランクケーシング3内に流れる。適宜の手段により、クランク側部7をポンプとして構成するときは、上部死点直前に新鮮空気を貯蔵室20から溢流管路10内にポンプ送りすることができる。貯蔵室20から溢流管路10および溢流口12を通ってクランクケーシング3内への前記の流動運動により、溢流管路10の掃気はさらに改善される。」(段落【0026】)

上記(a)ないし(e)並びに図面の記載を参酌すると、以下のことが分かる。

(ア)上記(a)ないし(e)並びに図面(特に図6を参照。)の記載から、引用文献2には、ピストン1と、ピストン1が往復動可能に設けられ、出口及び溢流口12が内壁に開口するシリンダ2と、クランクケーシング3に沿って延在する部分と、シリンダ2に沿って延在する部分とを有し、前記溢流口12と前記クランクケーシング3に開口する開放端部19とを接続する溢流管路10と、前記溢流管路10の中間部位に接続され、前記溢流管路10内に空気を導入するための空気管路21とを備えた二行程原動機が記載されていることが分かる。

(イ)上記(a)ないし(e)並びに図面(特に図6を参照。)の記載から、引用文献2に記載された二行程原動機において、ピストン1は、ピストン側部61と、前記ピストン側部61に設けられた開口部60とを有し、ピストン1が上死点付近にあるときに、前記クランクケーシング3が前記開口部60及び前記溢流口12を介して前記溢流管路10に接続されるとともに前記開放端部19と前記クランクケーシング3との連通を妨げることにより、前記溢流管路10内に残留している新鮮混合気が前記空気管路21から導入される空気によって押し出され前記溢流口12を介してクランク室内に流入するよう構成したことが分かる。

(ウ)上記(a)ないし(e)並びに図面(特に図4を参照。)の記載から、引用文献2に記載された二行程原動機において、ピストン1が下死点付近にあるときに、前記溢流管路10内の空気52と前記クランクケーシング3内の新鮮混合気が前記溢流口12を介してシリンダ2内に流入することが分かる。

上記(a)ないし(e)及び(ア)ないし(ウ)並びに図面の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「ピストン1と、ピストン1が往復動可能に設けられ、出口及び溢流口12が内壁に開口するシリンダ2と、クランクケーシング3に沿って延在する部分と、シリンダ2に沿って延在する部分とを有し、前記溢流口12と前記クランクケーシング3に開口する開放端部19とを接続する溢流管路10と、前記溢流管路10の中間部位に接続され、前記溢流管路10内に空気を導入するための空気管路21とを備え、
ピストン1は、ピストン側部61と、前記ピストン側部61に設けられた開口部60とを有し、
ピストン1が上死点付近にあるときに、前記クランクケーシング3が前記開口部60及び前記溢流口12を介して前記溢流管路10に接続されるとともに前記開放端部19と前記クランクケーシング3との連通を妨げることにより、前記溢流管路10内に残留している混合気が前記空気管路21から導入される空気によって押し出され前記溢流口12を介してクランク室内に流入するよう構成した技術。」

3-3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ピストン4」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「ピストン」に相当し、以下同様に、「排気ポート13a」は「排気ポート」に、「掃気ポート109a」は「掃気ポート」に、「シリンダ2」は「シリンダ」に、「クランク室15a」は「クランク室」に、「クランク室15aに沿って延在する(掃気通路の)部分109d」は「クランク室に沿って延在する部分」に、「シリンダ2に沿って延在する(掃気通路の)部分109e」は「シリンダに沿って延在する部分」に、「掃気連通孔109b」は「クランク室側開口部」に、「掃気通路109b,109c,109d,109e」は「掃気通路」に、「空気」は「先導空気」に、「空気供給通路10」は「外気導入路」に、それぞれ相当する。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「ピストンと、
ピストンが往復動可能に設けられ、ピストンにより開閉する排気ポート及び掃気ポートが内壁に開口するシリンダと、
クランク室に沿って延在する部分と、シリンダに沿って延在する部分とを有し、前記掃気ポートと前記クランク室に開口するクランク室側開口部とを接続する掃気通路と、前記掃気通路に接続され、前記掃気通路内に先導空気を導入するための外気導入路と、を備え
ピストンは、側壁部を有し、
ピストンが下死点付近にあるときに、前記掃気通路内の先導空気と前記クランク室内の混合気が前記掃気ポートを介してシリンダ内に流入する、層状掃気2サイクルエンジン。」
の点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点>
(1)本願補正発明においては、外気導入路が「前記掃気通路の中間部位に接続され」ているのに対し、引用発明においては、本願補正発明の外気導入路に相当する「空気供給通路10」が「前記掃気通路の中間部位に接続され」ているかどうか明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。
(2)本願補正発明においては、ピストンが「側壁部に設けられた切欠又は穴とを有し」、「ピストンが上死点付近にあるときに、前記クランク室が前記切欠又は穴及び前記掃気ポートを介して前記掃気通路に接続されるとともに前記クランク室側開口部と前記クランク室との連通を妨げることにより、前記掃気通路内に残留している混合気が前記外気導入路から導入される先導空気によって押し出され前記掃気ポートを介してクランク室内に流入するよう構成した」のに対し、引用発明においては、そのような構成を備えていない点(以下、「相違点2」という。)。

3-4 判断
相違点について検討する。
(1)相違点1について
本願補正発明における「掃気通路の中間部位」とは、外気導入路11が掃気通路4、4a、4b、4cに接続される部分であるから、図1における「接続部分11a」に対応する。また、本願の明細書においては、「外気導入路11が、掃気通路4の中間部位(掃気ポート7よりもクランク室側開口部13に近い位置)に接続されている。」(段落【0014】)と記載されており、このことから、「中間部位」とは、「掃気ポート7よりもクランク室側開口部13側」であると解される。他方、引用発明においても、空気供給通路10と掃気通路109c、109d、109eとの接続部分は、掃気ポート109aよりも掃気連通孔109b側に設けられている。そうすると、引用発明においても、本願補正発明の外気導入路に相当する「空気供給通路10」が「前記掃気通路の中間部位に接続され」ているといえる。
してみると、前記相違点1は、実質的な相違点ではない。
また、「中間部位」が、本件出願の図1に記載された「接続部分11a」の接続位置を意味するとしても、外気導入路を「前記掃気通路の中間部位に接続され」るようにすることは、周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、平成22年10月28日付け拒絶理由通知書において「先行技術文献」として記載された特開昭58-5423号公報の図1及び図2を参照。)にすぎず、引用発明及び周知技術1に基づき、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
本願補正発明と引用文献2記載の技術とを対比すると、引用文献2記載の技術における「ピストン1」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「ピストン」に相当し、以下同様に、「出口」は「(ピストンにより開閉する)排気ポート」に、「溢流口12」は「掃気ポート」に、「シリンダ2」は「シリンダ」に、「クランクケーシング3」は「クランク室」に、「開放端部19」は「クランク室側開口部」に、「溢流管路10」は「掃気通路」に、「空気」は「先導空気」に、「空気管路21」は「外気導入路」に、「ピストン側部61」は「側壁部」に、「開口部60」は「切欠」に、それぞれ相当する。
したがって、引用文献2記載の技術は、本願補正発明の用語を用いて、
「ピストンと、ピストンが往復動可能に設けられ、ピストンにより開閉する排気ポート及び掃気ポートが内壁に開口するシリンダと、クランク室に沿って延在する部分と、シリンダ2に沿って延在する部分とを有し、前記掃気ポートと前記クランク室に開口するクランク室側開口部とを接続する掃気通路と、前記掃気通路の中間部位に接続され、前記掃気通路内に先導空気を導入するための外気導入路とを備え、
ピストンは、側壁部と、前記側壁部に設けられた切欠とを有し、
ピストンが上死点付近にあるときに、前記クランク室が前記切欠及び前記掃気ポートを介して前記掃気通路に接続されるとともに前記クランク室側開口部と前記クランク室との連通を妨げることにより、前記掃気通路内に残留している混合気が前記外気導入路から導入される先導空気によって押し出され前記掃気ポートを介してクランク室内に流入するよう構成した技術。」
と言い換えることができる。
そして、引用発明と引用文献2記載の技術は、2サイクルエンジンにおいて、混合気の吹き抜けを防止するために、混合気の供給の前に空気を供給するという共通の課題解決手段を有する発明又は技術であるから、引用発明において、上記引用文献2に記載された技術を採用することより、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び引用文献2記載の技術並びに周知技術1から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

以上のように、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術並びに周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-5 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

4 むすび
よって、2又は3の理由により結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 手続の経緯及び本願発明
平成23年7月11日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成23年2月4日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の〔理由〕1(1)のAの請求項1に記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の〔理由〕3の3-1に記載したとおりである。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1’」という。)が記載されているといえる。
「ピストン4と、
ピストン4が往復動可能に設けられ、ピストン4により開閉する排気ポート13a及び掃気ポート9aが内壁に開口するシリンダ2と、
クランク室15aに沿って延在する部分109dと、シリンダ2に沿って延在する部分109eとを有し、前記掃気ポート109aと前記クランク室15aとを接続する掃気通路109b,109c,109d,109eと、
前記掃気通路109b,109c,109d,109eに接続され、前記掃気通路109b,109c,109d,109e内に空気を導入するための空気供給通路10と、を備える、
層状掃気2サイクルエンジン。」

3 対比
本願発明と引用発明1’とを対比すると、引用発明1’における「ピストン4」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願発明における「ピストン」に相当し、以下同様に、「排気ポート13a」は「排気ポート」に、「掃気ポート109a」は「掃気ポート」に、「シリンダ2」は「シリンダ」に、「クランク室15a」は「クランク室」に、「クランク室15aに沿って延在する(掃気通路の)部分109d」は「クランク室に沿って延在する部分」に、「シリンダ2に沿って延在する(掃気通路の)部分109e」は「シリンダに沿って延在する部分」に、「掃気通路109b,109c,109d,109e」は「掃気通路」に、「空気」は「先導空気」に、「空気供給通路10」は「外気導入路」に、それぞれ相当する。
そうすると、本願発明と引用発明1’とは、
「ピストンと、
ピストンが往復動可能に設けられ、ピストンにより開閉する排気ポート及び掃気ポートが内壁に開口するシリンダと、
クランク室に沿って延在する部分と、シリンダに沿って延在する部分とを有し、前記掃気ポートと前記クランク室とを接続する掃気通路と、前記掃気通路に接続され、前記掃気通路内に先導空気を導入するための外気導入路と、を備える
層状掃気2サイクルエンジン。」
の点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点>
(1)本願発明においては、外気導入路が「前記掃気通路の中間部位に接続され」ているのに対し、引用発明1’においては、本願発明の外気導入路に相当する「空気供給通路10」が「前記掃気通路の中間部位に接続され」ているかどうか明らかでない点(以下、「相違点1’」という。)。
(2)本願発明においては、「ピストンが上死点付近にあるときに、前記クランク室が前記掃気ポートを介してクランク室内に接続される」のに対し、引用発明1’においては、「ピストンが上死点付近にあるときに、前記クランク室が前記掃気ポートを介してクランク室内に接続される」かどうか明らかでない点(以下、「相違点2’」という。)。

4 判断
相違点について検討する。
(1)相違点1’について
前記第2の2-4において判断したように、相違点1’は実質的な相違点ではないと解される。
また、相違点1’に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1’及び周知技術1に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2’について
層状掃気2サイクルエンジンにおいて、「ピストンが上死点付近にあるときに、前記クランク室が前記掃気ポートを介してクランク室内に接続される」ようにすることは、周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、本願の明細書において従来技術を示す【特許文献1】として記載されている特開平10-121973号公報(特に段落【0021】、【0023】及び図1を参照。)、拒絶査定において周知技術を示す文献として記載した特開2002-21571号公報(前記引用文献2)、同じく特開2000-240457号公報(特に段落【0019】及び図2、3、5を参照。)等の記載を参照。)にすぎない。
そして、引用発明1’と周知技術2は、ともに2サイクルエンジンにおいて、混合気の吹き抜けを防止するために、混合気の供給の前に空気を供給するという共通の課題解決手段を有する発明又は技術であるから、引用発明1’において、上記周知技術2を採用することより、上記相違点2’に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明1’並びに周知技術1及び2から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1’並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-22 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-17 
出願番号 特願2006-136604(P2006-136604)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
P 1 8・ 561- Z (F02B)
P 1 8・ 575- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 淳  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 藤原 直欣
金澤 俊郎
発明の名称 層状掃気2サイクルエンジン  
代理人 武田 賢市  
代理人 武田 明広  

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