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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800104 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1263181
審判番号 無効2011-800158  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-09-02 
確定日 2012-08-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4125875号発明「電気・電子機器用シール材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4125875号の請求項1ないし10に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯等
1 特許第4125875号及びその手続の経緯の概要
特許第4125875号及びその設定登録までの手続の経緯の概要は、次のとおりである。
平成13年 4月13日に出願
出願番号 :特願2001-115071
(以下、「本件出願」という。)
平成20年 5月16日に設定登録
特許番号 :特許第4125875号
(以下、「本件特許」という。)
発明の名称:電気・電子機器用シール材
特許権者 :日東電工株式会社
請求項数 :11

2 本件審判の手続の経緯の概要
本件特許の請求項1ないし11に係る発明についての特許を無効とすることについての審判の請求が、鈴江正二及び木村俊之の両人(以下、「請求人ら」という。)によってなされた。
本件審判の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成23年 9月 2日付け 審判請求書・甲第1?17号証提出
平成23年11月25日付け 審判事件答弁書・訂正請求書提出
平成24年 1月 6日付け 審判事件弁駁書提出
平成24年 1月26日付け 通知書
平成24年 3月13日付け 上申書・甲第18?29号証提出
(請求人ら)
上申書提出(被請求人)
平成24年 3月27日付け 口頭審理陳述要領書提出(請求人ら)
平成24年 4月10日付け 口頭審理陳述要領書・乙第1号証提出
(被請求人)
平成24年 4月20日付け 口頭審理陳述要領書(2)提出
(請求人ら)
平成24年 4月24日付け 証拠提出書・乙第2号証提出
(被請求人)
平成24年 4月24日 口頭審理
平成24年 5月18日付け 上申書(2)・乙第3号証提出(被請求人)
平成24年 6月 1日付け 上申書(2)・甲第30?32号証提出
(請求人ら)
平成24年 6月 8日付け 上申書(3)・乙第4?9号証提出
(被請求人)
平成24年 6月14日付け 審理終結通知

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成23年11月25日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを求める、というものであり、その訂正内容は、以下の「(1)特許請求の範囲についての訂正」及び「(2)明細書についての訂正」からなるものと認められる(以下、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項11を、それぞれ「訂正前請求項1」…「訂正前請求項11」という。)。

(1)特許請求の範囲についての訂正
ア 訂正1
訂正前請求項1における、「0.1?500μm」を、「0.1?200μm」に訂正する。
イ 訂正2
訂正前請求項1における、「5.0N/20mm幅以上」を、「15?30N/20mm幅」に訂正する。
ウ 訂正3
訂正前請求項1において、「幅である」の後に「、ディスプレイ外周部のシール用に使用される」を挿入し、訂正前請求項11を削除する。
エ 訂正4
訂正前請求項2ないし訂正前請求項10において、上記訂正1ないし3のとおりの訂正をする。
(審決注:訂正前請求項2ないし訂正前請求項10は、訂正前請求項1を直接又は間接に引用するものである。そうすると、上記訂正1ないし3に伴い、訂正後請求項2ないし10についても、上記訂正1ないし3のとおりの訂正をすることになるため、明示した。)

(2)明細書についての訂正
ア 訂正5
本件特許明細書の段落【0008】を、「すなわち本発明は、熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径が0.1?200μmである発泡構造体の少なくとも一方の面に、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上である粘着剤組成物からなる層が設けられ、粘着力が15?30N/20mm幅である、ディスプレイ外周部のシール用に使用されることを特徴とする電気・電子機器用シール材(請求項1)に係るものであり、特にその粘着剤組成物が、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上、室温での粘着力が5.0N/20mm幅以上である粘着剤組成物からなることを特徴とする請求項1に記載の電気・電子機器用シール材(請求項2)に係るものであり、特に粘着剤組成物からなる層の厚さが2?100μmであることを特徴とする(請求項3)。」に訂正する。
イ 訂正6
本件特許明細書の段落【0010】を、「また本発明は、上記平均気泡径が0.1?200μmである発泡構造体が、熱可塑性ポリマーに高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成されることを特徴とする(請求項5)、または熱可塑性ポリマーからなる未発泡成形物に高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成されることを特徴とする(請求項6)、または溶融した熱可塑性ポリマーに不活性ガスを加圧状態下で含浸させた後、減圧とともに成形に付して形成されることを特徴とする(請求項7)、電気・電子機器用シール材に係るものである。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)特許請求の範囲についての訂正の適否
ア 訂正1について
(ア)訂正1は、訂正前請求項1において、発泡構造体の平均気泡径が、「0.1?500μm」の範囲であったものを、「0.1?200μm」の範囲に限定するものである。
したがって、訂正1は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成23年改正前特許法」という。)第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)そして、本件特許明細書には、例えば、段落【0016】に「本発明において用いられる発泡構造体は、熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径が0.1?500μmである発泡構造体であり、…平均気泡径を500μm以下、好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下とすることで、発泡構造体の形状維持性が確保され、細幅、薄層の発泡構造体であっても加工が容易となる。また平均気泡径を0.1μm以上、好ましくは10μm以上とすることで、クッション性を付与することができる。」と記載されている。
そうすると、発泡構造体の平均気泡径を「0.1?200μm」の範囲とすることは本件特許明細書に記載されていたことであるといえる。
したがって、訂正1は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(ウ)また、訂正1は、平均気泡径の範囲を限定するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
(エ)したがって、訂正1は、平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

イ 訂正2について
(ア)訂正2は、訂正前請求項1において、シール材の粘着力が、「5.0N/20mm幅以上」の範囲であったものを、「15?30N/20mm幅」の範囲に明確化ないし限定するものであるといえるから、平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮又は同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)そして、本件特許明細書には、例えば、段落【0037】及び段落【0038】に「また本発明の電気・電子機器用の定型シール材は、粘着力が5.0N/20mm幅以上、好ましくは10.0N/20mm幅以上、更に好ましくは15N/20mm幅以上(通常は30.0N/20mm幅以下)に設定されているものであるので、加熱処理などの繁雑な工程を必要とすることなく、高い接着力を発揮するというというユニークでかつ有用な特性を備えている。粘着力が5.0N/20mm幅未満であると、被着体より容易に剥離してしまい、好ましくない。」、「この様な粘着特性を示すために、本発明で用いられる粘着剤組成物は、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上、好ましくは50N/cm^(2)以上(通常は、500N/cm^(2)以下)に設定されているとともに、室温での粘着力が5.0N/20mm幅以上、好ましくは10.0N/20mm幅以上(通常は30.0N/20mm幅以下)である粘着剤組成物を最表面に用いることが好ましい。」と記載されている。
そうすると、シール材の粘着力を、「15?30N/20mm幅」の範囲に明確化ないし限定することは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(ウ)また、訂正2は、シール材の粘着力を明確化ないし限定するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項2に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
(エ)したがって、訂正2は、平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

ウ 訂正3について
(ア)訂正3は、訂正前請求項1において、実質的に訂正前請求項11に規定していた用途を付することにより、用途を限定し、これに伴い訂正前請求項11を削除するものであるといえる。
そうすると、訂正3は、平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえ、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項5に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
(イ)したがって、訂正3は、平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

エ 訂正4について
訂正4は、訂正前請求項2ないし10が訂正前請求項1を直接又は間接に引用するものであったところ、訂正前請求項2ないし10について、訂正前請求項1についてするのと同じ内容の訂正をするものである。
そして、訂正4について上記アないしウと同じ理由が適用できるから、訂正4は、平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものであるといえる。

(2)明細書についての訂正の適否
ア 訂正5及び訂正6は、それぞれ、本件特許明細書における訂正前請求項1ないし及び訂正前請求項3、訂正前請求項5ないし及び訂正前請求項7の内容を引き写した記載部分と認められる、段落【0008】及び段落【0010】において、訂正1ないし訂正3に対応する箇所について、それぞれ訂正1ないし訂正3と同じ記載とする訂正をするものである。
そうすると、これら訂正5及び訂正6は、訂正1ないし訂正3に伴い不整合となり明瞭でないものとなる段落【0008】及び段落【0010】の記載を明瞭にすることを目的としているといえ、平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
イ そして、訂正5及び訂正6は、上記(1)のとおり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。
ウ したがって、訂正5及び訂正6は、平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

3 本件訂正請求についてのまとめ
上記のとおり、訂正1ないし訂正6は、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、本件訂正は、平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件訂正発明
本件審判請求に係る特許第4125875号の発明は、第2のとおり本件訂正が認められたから、本件訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された、以下のとおりのものである(それぞれ「本件訂正発明1」…「本件訂正発明10」といい、これらを併せて「本件訂正発明」ということがある。また、本件訂正後の明細書を「本件訂正明細書」という。)。

【請求項1】
熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径が0.1?200μmである発泡構造体の少なくとも一方の面に、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上である粘着剤組成物からなる層が設けられ、粘着力が15?30N/20mm幅である、ディスプレイ外周部のシール用に使用されることを特徴とする、電気・電子機器用シール材。
【請求項2】
室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上、室温での粘着力が5.0N/20mm幅以上である粘着剤組成物からなる層が最表面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項3】
粘着剤組成物からなる層の厚さが2?100μmであることを特徴とする請求項1または2の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項4】
粘着剤組成物が次の式;
【化1】

(式中、Rは炭素数2?20の直鎖状または分枝状の炭化水素基である)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート構造を持つポリマーを含むことを特徴とする請求項1?3の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項5】
熱可塑性ポリマーに高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成される発泡構造体で構成されていることを特徴とする請求項1?4の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項6】
熱可塑性ポリマーからなる未発泡成形物に高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成される発泡構造体で構成されていることを特徴とする請求項1?4の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項7】
溶融した熱可塑性ポリマーに不活性ガスを加圧状態下で含浸させた後、減圧とともに成形に付して形成される発泡構造体で構成されていることを特徴とする請求項1?4の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項8】
減圧後、さらに加熱することにより形成された発泡体で構成されている請求項5?7の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項9】
不活性ガスが二酸化炭素である請求項5?7の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項10】
含浸時の不活性ガスが超臨界状態である請求項5?7の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。

第4 本件審判請求・答弁の趣旨及び当事者の主張の概要並びに提出された証拠方法
1 本件審判請求の趣旨及び無効理由の概要並びに提出された証拠方法
(1)審判請求時の請求の趣旨及び無効理由の概要
請求人らは、請求の趣旨の欄を
特許第4125875号の請求項1?11に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」
とする請求をし、概略以下の理由1ないし3を主張した。
なお、請求時の請求項1?11(訂正前請求項1?11)に記載された発明を、それぞれ「本件発明1」…「本件発明11」として記載した。

【理由1】
本件発明1ないし4は、本件出願前に頒布された刊行物(甲第2号証として提出。以下「甲2」という。他の証拠方法も同様にそれらの証拠番号を用いて略称する。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1ないし4についての特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

【理由2】
本件発明1ないし11は、本件出願前に頒布された甲2等に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1ないし11についての特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

【理由3】
本件発明1ないし11は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1ないし11についての特許は、同法同条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(2)第1回口頭審理における無効理由の主張の整理
平成24年4月24日の第1回口頭審理において、請求人らは、本件訂正後の本件特許について、請求の趣旨及び無効理由を以下(3)のとおりに整理した。なお、被請求人はこれに同意した(第1回口頭審理調書参照)。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件審判の請求の趣旨及び無効理由は、以下のとおりである。

請求の趣旨:
特許第4125875号の請求項1ないし10に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。

無効理由:
【無効理由1】
本件訂正発明1ないし4は、本件出願前に頒布された甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1ないし4についての特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

【無効理由2】
本件訂正発明1ないし10は、甲2に記載された発明及び甲3若しくは甲4ないし甲17に記載された発明又は周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1ないし10についての特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

【無効理由3】
本件訂正発明1ないし10は本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正発明1ないし10についての特許は、同法同条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(4)請求人らによって提出された証拠方法
[審判請求書に添付]
甲第1号証:特許第4125875号公報
甲第2号証:WO96/28519号
甲第3号証:特開2000-248101号公報
甲第4号証:特開2000-169615号公報
甲第5号証の1:Daniel Klempner and Kurt C.Frisch著,「Handbook of Polymeric Foams and Foam Technology」,HANSER,1991年,p34?35
甲第5号証の2:同文献のp35「Table 1.」の和訳
甲第6号証:特開平10-173364号公報
甲第7号証:特開平11-288229号公報
甲第8号証の1:米国特許第6088069号明細書
甲第8号証の2:同文献の名称及び第4欄第57?66行の和訳
甲第9号証の1:WO99/47573号
甲第9号証の2:同文献全文の和訳
甲第10号証:特開2001-13971号公報
甲第11号証:特開平7-121019号公報
甲第12号証:特開平3-149235号公報
甲第13号証:Donatas Satas 編著,水町浩監訳,「粘着技術ハンドブック」,日刊工業新聞社,1997年3月31日,p14?17,p863
甲第14号証:福沢敬司著,「新高分子文庫13 粘着技術」,第7刷,高分子刊行会,1987年3月20日,p140?141
甲第15号証:山口章三郎監修,「接着・粘着の事典」,第5刷,朝倉書店,1997年9月10日,p344?345,p524?525,p530?531
甲第16号証:特表平6-506724号公報
甲第17号証:特開平6-322168号公報

[平成24年3月13日付けの上申書に添付]
甲第18号証:特開2000-239427号公報
甲第19号証:特開平7-164307号公報
甲第20号証:特開平10-176076号公報
甲第21号証:新保實,Daniel F.Baldwin,Nam P.Suh,「マイクロセルラープラスチックの機械的・粘弾的特性に及ぼすセルサイズの影響」,成形加工,プラスチック成形加工学会,1994年,Vol.6,No.12,p863?868
甲第22号証:株本昭,「発泡技術による高付加価値の実現 微細発泡成形の展開」,プラスチックスエージ,株式会社プラスチックス・エージ,2002年3月1日,Vol.48,p83?87
甲第23号証:畑敏雄,「剥離の力学(接着力の剥離試験法に関する研究)I?III」(審決注:旧字体(学、験)は新字体に改めた。以下同様),高分子化学会,法人高分子化学協会,昭和22年6,7月,第33・34号,第4巻,第6・7冊,p67?81
甲第24号証:Donatas Satas編著,水町浩監訳,「粘着技術ハンドブック」,日刊工業新聞社,1997年3月,p103?111
甲第25号証:ポリマー辞典編集委員会編,「ポリマー辞典」増補8版,株式会社大成社,平成18年7月31日,p134?135
甲第26号証:財団法人日本規格協会編,「JIS工業用語大辞典 第3版」,財団法人日本規格協会,1991年11月20日,p352
甲第27号証:新村出編,「広辞苑 第4版」,株式会社岩波書店,1991年11月15日,p602?603
甲第28号証の1:岡田吉美,「新規性進歩性,記載要件について(上)?数値限定発明を中心にして?」,特許研究,独立行政法人工業所有権情報研修館,2006年3月,第41号,p28?56
甲第28号証の2:岡田吉美,「新規性進歩性,記載要件について(下)?数値限定発明を中心にして?」,特許研究,独立行政法人工業所有権情報研修館,2006年9月,第42号,p21?43
甲第29号証:特開平11-241056号公報

[平成24年6月1日付けの上申書(2)に添付]
甲第30号証:L.J.Gibson外1,大塚正久訳,「セル構造体」,内田老鶴圃,1993年6月30日,p169?191
甲第31号証:特開平7-227930号公報
甲第32号証:周知・慣用技術集(発泡成形),特許庁,昭和57年8月3日,p348?349

2 答弁の趣旨、被請求人の主張の概要及び提出された証拠方法
被請求人は、
「本件審判は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」
とし、請求人らが主張する無効理由のいずれにも理由がない旨の反論をしている。

被請求人によって提出された証拠方法
[平成24年4月10日付けの口頭審理陳述要領書に添付]
乙第1号証:Donatas Satas編著,水町浩監訳,「粘着技術ハンドブック」,日刊工業新聞社,1997年3月,p80?83,p90?97

[平成24年4月24日付けの証拠提出書に添付]
乙第2号証:Donatas Satas編著,水町浩監訳,「粘着技術ハンドブック」,日刊工業新聞社,1997年3月,表紙,目次,奥付

[平成24年5月18日付けの上申書(2)に添付]
乙第3号証:新保實,Daniel F.Baldwin,Nam P.Suh,「マイクロセルラープラスチックの機械的・粘弾性的特性に及ぼすセルサイズの影響」,成形加工,プラスチック成形加工学会,1994年,vol.6,No.12,p863?868

[平成24年6月8日付けの上申書(3)に添付]
乙第4号証:特開平10-259268号公報
乙第5号証:特開平9-19977号公報
乙第6号証:特開平9-141770号公報
乙第7号証:特開平11-291434号公報
乙第8号証:特開平6-330021号公報
乙第9号証:特開平7-188442号公報

第5 当審の判断
当審は、本件訂正発明1ないし10についての特許は、無効理由3によって無効とすべきものである、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 無効理由3の概要
無効理由3の概要は、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない、というものであり、具体的には、
本件訂正発明1ないし10は、当該発明の課題の一つである、発泡構造体の形状維持性が確保され、加工等が容易であるシール材の提供という課題について、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえないから、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし10の記載は明細書のサポート要件に適合するものではない、というものである。

2 検討
(1)特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かについては、知的財産高等裁判所特別部判決(平成17年11月11日判決言渡,平成17年(行ケ)10042号判決)の観点、すなわち、
「特許請求の範囲に記載された発明が,…発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」
の観点に立って判断する。

(2)特許請求の範囲に記載された発明
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、第3に示したとおりである。
すなわち、請求項1に記載された特許を受けようとする発明(本件訂正発明1)は、
「熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径が0.1?200μmである発泡構造体の少なくとも一方の面に、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上である粘着剤組成物からなる層が設けられ、粘着力が15?30N/20mm幅である、ディスプレイ外周部のシール用に使用されることを特徴とする、電気・電子機器用シール材。」
という、「発泡構造体」の少なくとも一方の面に「粘着剤組成物からなる層」が設けられ、特定粘着力、特定用途に使用される、「シール材」であって、
その「発泡構造体」について、「熱可塑性ポリマーからなり」及び「平均気泡径が0.1?200μm」であることが規定され、
その「粘着剤組成物からなる層」について、特定の「貯蔵弾性率」であることが規定されるものである。
そして、請求項2ないし4に記載された特許を受けようとする発明(本件訂正発明2ないし4)は、それぞれ、「粘着剤組成物からなる層」に関して、さらに規定するものである。
また、請求項5ないし10に記載された特許を受けようとする発明(本件訂正発明5ないし10)は、それぞれ、「発泡構造体」に関して、どのような方法で形成されたものかをさらに規定するものである。

(3)発明の課題
ア 本件訂正明細書の発明の詳細な説明の【発明が解決しようとする課題】の欄に、
「本発明は、この様な事情に照らし、発泡体に粘着剤層を設けたシール材であってもごみやほこりが付着せず、取り扱いが容易な電気・電子機器用の定型シール材を提供することを目的とする。」(段落【0005】)
と記載されている。
そうすると、発明が解決しようとする課題には、「ごみやほこりが付着せず」の課題と、「取り扱いが容易」の課題とがあることが認められる。
そして、請求人らは、上記のとおりの主張からみて、本件訂正発明は、後者の「取り扱いが容易」の課題を当業者が解決できると認識できる範囲とはいえないものである、と主張するものと認められる。
そこで、この「取り扱いが容易」の課題とは具体的にどのようなことを意味するかについて、発明の詳細な説明の記載を検討する。

イ 「取り扱いが容易」の課題に関する記載
「取り扱いが容易」の課題に関して、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
・摘示a「【0004】
また近年、電気・電子機器用途においては小型化の傾向があり、それに用いるシール材も細幅化、薄層化が必要となってきている。このためシール材自体の形状維持が困難となり、取り扱い性が問題になる。」

・摘示b「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的に対し鋭意検討した結果、微細セル発泡体の表面に貯蔵弾性率が20N/cm^(2)以上である粘着剤組成物からなる層を設け、粘着力が5.0N/20mm幅以上であるシール材であれば、細幅、薄層の加工が容易であり、上記粘着剤はタックをもたないため端部へのごみやほこりの付着が低減でき、かつ貼り付け後は粘着力を発揮しシール材を固定できることを見出した。」

・摘示c「【0016】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられる発泡構造体は、熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径が0.1?500μmである発泡構造体であり、従来公知の独立気泡、連続気泡、半独半連気泡構造の発泡体を使用できる。平均気泡径を500μm以下、好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下とすることで、発泡構造体の形状維持性が確保され、細幅、薄層の発泡構造体であっても加工が容易となる。また平均気泡径を0.1μm以上、好ましくは10μm以上とすることで、クッション性を付与することができる。
【0017】
上記のような内部に気泡を有する発泡体を形成する方法として、…。
【0018】
このような発泡構造体の製造には、…方法などを使用することができる。
【0019】
また本発明においては、上記発泡構造体を得る方法として、特定ポリマーに不活性ガスを高圧下で含浸させた後、減圧することにより得ることが好ましい。」

・摘示d「【0053】
本発明の電気・電子機器用シール材は、その形状を特に限定するものでなく、その使用目的に合わせ、適宜裁断、打ち抜き等の加工が施されてもよい。」

・摘示e「【0056】
電気・電子機器用シール材1は液晶ディスプレイ2の外周部に沿うように粘着剤層12を介して固定(仮止め)される。この時、電気・電子機器用シール材1は平均気泡径が細かいので腰があって形状を保持しやすく、作業性がよい。」

・摘示f「【0059】
【発明の効果】
本発明の電気・電子機器用シール材は、熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径を500μm以下としているので、発泡構造体の形状維持性が確保され、細幅、薄層の発泡構造体であっても加工が容易となる。」

・摘示g「【0062】
実施例1
密度が0.9g/cm^(3)、230℃のメルトフローレートが4であるポリプロピレン50重量部と、JIS-A硬度が69のエチレンプロピレン系エラストマー50重量部及び多面体状のMgO・ZnO・H_(2)O(平均粒径1.0μm、アスペクト比4)100重量部を、ローラ型の翼を設けた混錬機(…)により170℃の温度で混練した後、180℃に加熱した熱板プレスを用いて厚さ0.5mm、Φ80mmのシート状に成形した。
このシートを耐圧容器に入れ、150℃の雰囲気中、15MPa/cm^(2)加圧下で、10分間保持することにより、二酸化炭素を含浸させた。10分後に急激に減圧することにより、平均気泡径100μmの発泡構造体を得、これを厚さ1mmにスライスした。
【0063】
一方、…重量平均分子量が55,000となるポリエステルを得た。
【0064】
このポリエステルを…を加えて、粘着剤組成物を調製した。
【0065】
このように調製した粘着剤組成物を、アプリケ?タにより、前記の発泡構造体の片面に塗布し、130℃で5分間乾燥して、厚さが30μmの粘着剤組成物からなる層を形成し、本発明のシール材を作製した。…
【0066】
実施例2
…重量平均分子量が78,000となるポリエステルを得た。
【0067】
このポリエステルを…を加えて、粘着剤組成物を調製した。この粘着剤組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のシ?ル材を作製した。…
【0068】
比較例1
…粘着剤組成物を調製した。この粘着剤組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、シ?ル材を得た。…
【0069】
比較例2
下記の配合組成物をミキシングロ?ルで混練し、この混練物をオ?ブンで160℃,30分の条件で加熱して加硫発泡させ、オ?ブンから取り出し、平均粒子径800μmの発泡構造体を得た。
【0070】
<発泡構造体の配合組成>
エチレン・プロピレン・ターポリマー 100部
亜鉛華 5部
ステアリン酸 1部
カーボン 40部
ポリエチレン 20部
重質炭酸カルシウム 180部
ポリブテン 40部
硫黄 2部
メルカプトベンゾチアゾール 1部
ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛 2部
アゾジカルボン酸アミド 13部
【0071】
この発泡構造体を用いた以外は、実施例1と同様にしてシール材を得た。
【0072】
上記各実施例および比較例において、…シール材を用い、ごみ付着性、加工・作業(取り扱い)性について確認した。結果を表1に示した。」

・摘示h「【0077】
<加工性>
得られたシール材サンプルを、厚さ1mm、幅2mmで一辺50mmの長さの額縁状サンプルを作成し、所定の位置への設置作業性の容易さ、困難さを評価した。取り扱いが容易なものを「○」、加工性に難があり、取り扱いが困難なものを「×」と評価した。
【0078】
【表1】



・摘示i「【0079】
表1の結果から明らかなように、本発明の実施例の定型シール材は、いずれも発泡構造体に設けた粘着剤組成物からなる層が室温でタックを示さないため、ゴミやほこりの付着が少ないと共に、大きな粘着力を示すためシール材の固定ができる。または発泡構造体の平均粒子径が小さいため、薄層、細幅に加工しても形状維持ができ、作業(取り扱い)性も容易であることを示すものである。
【0080】
これに対し、発泡構造体に本発明と異なる特性を示す粘着剤層を設けた比較例1のシール材は、上記粘着剤層が室温でタックを示すため、ゴミ付着が大きく電気・電子機器用途のシール材として性能が劣る。また比較例2のシール材では、平均粒子径が大きいため発泡構造体に腰がなく、薄層、細幅の加工性に劣るものである。」

ウ 以上の記載、特に、「近年、電気・電子機器用途においては小型化の傾向があり、それに用いるシール材も細幅化、薄層化が必要となってきている。このためシール材自体の形状維持が困難となり、取り扱い性が問題になる」(摘示a)、「微細セル発泡体の表面に貯蔵弾性率が…からなる層を設け、粘着力が…であるシール材であれば、細幅、薄層の加工が容易であり」(摘示b)との記載からみて、
「取り扱いが容易な」とは、近年の電気・電子機器用途における小型化の傾向からシール材の細幅化、薄層化に起因するシール材自体の形状維持困難化に伴う取り扱い性、加工性の問題、が低減されることを意味し、
さらに具体的には、「その使用目的に合わせ、適宜裁断、打ち抜き等の加工が施され」(摘示d)、「<加工性>…シール材サンプルを、厚さ1mm、幅2mmで一辺50mmの長さの額縁状サンプルを作成」(摘示hの段落【0077】)、「発泡構造体の平均粒子径が小さいため、薄層、細幅に加工しても形状維持ができ、作業(取り扱い)性も容易であることを示すものである」(摘示iの段落【0079】)などの記載からみて、
「厚さ1mm、幅2mmで一辺50mmの長さの額縁状」程度の薄層、細幅のシール材の裁断、打ち抜き等の加工における加工性の問題と、「液晶ディスプレイ2の外周部に沿うように…固定(仮止め)」(摘示e)など設置作業等における作業性の問題とが低減されることをいうと認められる。

エ 以上によれば、「取り扱いが容易」の課題とは、
「電気・電子機器のディスプレイ外周部のシール材の細幅化、薄層化に起因するシール材自体の形状維持困難化に伴う加工性や作業性の問題が低減された、電気・電子機器のディスプレイ外周部のシール用に使用される電気・電子機器用シール材を提供すること」(以下、「本件課題」という。)
ということができる。

(4)本件訂正発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対比
ア 発明の詳細な説明の記載
本件課題の解決に関して発明の詳細な説明の記載をみると、上記(3)イに摘示したとおりの記載があり、具体例以外の記載において、「好ましくは200μm以下とすることで、発泡構造体の形状維持性が確保され、細幅、薄層の発泡構造体であっても加工が容易となる」(摘示cの段落【0016】)と記載され、さらに、「この時、電気・電子機器用シール材1は平均気泡径が細かいので腰があって形状を保持しやすく、作業性がよい」(摘示e)、「熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径を500μm以下としているので、発泡構造体の形状維持性が確保され、細幅、薄層の発泡構造体であっても加工が容易となる」(摘示f)などと記載されている。
そして、具体例として、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2のシール材サンプルについて記載されている。

イ そこで、まず、発明の詳細な説明の明示の記載により、本件訂正発明が、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて検討する。

(ア)具体例以外の記載について
発明の詳細な説明(具体例以外)の記載には、「発泡構造体」の「平均気泡径を500μm以下、好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下とすることで、発泡構造体の形状維持性が確保され、細幅、薄層の発泡構造体であっても加工が容易となる」(摘示cの段落【0016】)との記載が一応されており、この記載によれば、発泡構造体が特定の平均気泡径以下であれば発泡構造体の形状維持性が確保されるため、本件課題の加工性の問題を解決できる、とされていることが認められる。
しかし、以下ウにおいて述べるとおり、発泡構造体の形状維持性などの機械的性質には、発泡構造体の骨格構造やセル密度等が影響するとの技術常識があると認められるところ、発明の詳細な説明(具体例以外)の記載には、発泡構造体の骨格構造やセル密度によらず、どうして「発泡構造体が特定の平均気泡径以下であればその形状維持性が確保される」といえるのか、について説明する記載はない。

また、本件訂正発明の発泡構造体の材料は「熱可塑性ポリマーからなり」と規定されるところ、この「熱可塑性ポリマー」について、発明の詳細な説明には「本発明において、発泡体の素材である熱可塑性ポリマーとしては、熱可塑性を示すポリマーであって、高圧ガスを含浸可能なものであれば特に制限されない」(段落【0021】)との記載があり、続いて多種の熱可塑性ポリマーが挙げられていることが認められる(段落【0021】ないし段落【0024】)。このように、発泡構造体材料の「熱可塑性ポリマー」材料として多種の熱可塑性ポリマーが使用可能であることが記載されているが、それらの機械的性質を特に限定する旨の記載はない。
そうすると、本件訂正発明の発泡構造体の材料には広範な機械的性質を有する「熱可塑性ポリマー」材料が使用可能であると認められる。
しかし、発明の詳細な説明(具体例以外)の記載には、発泡構造体の「熱可塑性ポリマー」材料の機械的性質によらず、どうして「発泡構造体が特定の平均気泡径以下であればその形状維持性が確保される」といえるのか、について説明する記載もない。

さらに、本件訂正発明のシール材は、発泡構造体について「平均気泡径」、「熱可塑性ポリマーからなり」と規定されるほか、その発泡構造体の少なくとも一方の面に特定の「粘着剤組成物の層」を有すると規定されるものであり、また、各層及び全体の厚み、サイズ、形状については規定されないものである。
しかし、発明の詳細な説明(具体例以外)の記載には、本件訂正発明のシール材が、その「粘着剤組成物の層」の材料、性質(規定される以外の)によらず、また、各層の厚み、サイズ、形状によらず、どうして、発泡構造体が特定の平均気泡径以下で、その他本件訂正発明の特定事項を有するものであれば、本件課題を解決できるといえるのか、すなわち、
「電気・電子機器のディスプレイ外周部のシール材の細幅化、薄層化に起因するシール材自体の形状維持困難化に伴う加工性や作業性の問題が低減された、電気・電子機器のディスプレイ外周部のシール用に使用される電気・電子機器用シール材を提供する」ことができるといえるのか、について説明する記載もない。

以上によれば、発明の詳細な説明(具体例以外)の記載には、どうして発泡構造体が特定の平均気泡径以下であればその形状維持性が確保されるといえるのか、さらに、どうしてその発泡構造体を用いた本件訂正発明のシール材であれば本件課題を解決できるといえるのか、について説明する記載はないから、発明の詳細な説明(具体例以外)の明示の記載によっては、本件訂正発明が当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものである、ということはできない。

(イ)具体例の記載について
そこで、発明の詳細な説明に記載される具体例によって、発泡構造体が特定の平均気泡径以下であればその形状維持性が確保されるといえるか、さらに、その発泡構造体を用いた本件訂正発明のシール材であれば本件課題を解決できるといえるか、について検討する。
実施例1、実施例2及び比較例1のシール材は、同じ、厚さ1mmにスライスした平均気泡径が100μmである発泡構造体、の片面に、それぞれ別の粘着剤組成物の30μmの層を形成した(摘示gの段落【0062】?段落【0068】)、厚さ1mm、幅2mmで一辺50mmの長さの額縁状シール材(摘示hの段落【0077】)である。ただし、これらの例の発泡構造体の平均気泡径以外、セル密度ないし発泡倍率や骨格構造などは明らかにされてはいない。
これらのサンプルの「所定の位置への設置作業性の容易さ、困難さ」が、いずれも「○」であった(摘示hの【表1】)ことが示されている。
他方、比較例2のシール材は、実施例1のシール材と同じ粘着剤組成物層、厚み、形状であるが、別の発泡構造体で平均気孔径が800μmであるもの(摘示gの段落【0062】ないし段落【0067】)から作成したものであって、このサンプルの「所定の位置への設置作業性の容易さ、困難さ」が「×」であった(摘示hの【表1】)ことが示されている。
しかし、比較例2の発泡構造体は、実施例1の発泡構造体とは、材料も、発泡方法や発泡条件も全く異なるものであるから、両者の発泡構造体は平均気泡径のほか、その骨格構造やセル密度なども異なると認められる。
したがって、実施例1と比較例2のシール材は、その発泡構造体が、平均気泡径が100μmと800μmである点で異なるのみならず骨格構造もセル密度が異なると認められるものであり、さらに材料も異なるものであるから、実施例1と比較例2のシール材の「所定の位置への設置作業性の容易さ、困難さ」が、実施例1が「○」で比較例「×」であるという結果が示されたとしても、当業者は、その結果がシール材の発泡構造体が特定の平均気泡径以下であることに起因するものである、と認識するとはいえない。

すなわち、性質bがある要素aに起因するものであるという因果関係について、理論的に説明することができないときであっても、具体例によってそのことを示すことが可能な場合はある。
しかし、このような因果関係を具体例によって示すためには、要素aの有無や程度のみを変え、性質bに影響を与える可能性がある他の要素の変動は(できるだけ)排除した、複数の具体例等を示し、要素aの有無や程度に連動して性質bが変化することを示す必要がある。
本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、要素a(発泡構造体の平均気泡径)については、実施例1の「100μm」の場合と、比較例2の「800μm」の場合のわずか2つの具体例が挙げられるにすぎず、しかもこれらの例においては、性質b(シール材の所定の位置への設置作業性の容易さ、困難さ)に影響を与える可能性がある他の要素(発泡構造体の材料、発泡方法、発泡条件)が異なると認められるうえ、通常発泡構造体を特定するために用いられる、セル密度ないし発泡倍率等を示すデータも欠落しているのである。
このような不適切かつ不十分な具体例の記載によっては、性質b(シール材の所定の位置への設置作業性の容易さ、困難さ)が要素a(発泡構造体の平均気泡径)に起因するものである、ということはできない。すなわち、発泡構造体の形状維持性が確保されることが特定の平均気泡径以下であることに起因するものである、ともいえないし、その発泡構造体を用いた本件訂正発明のシール材であれば本件課題を解決できるともいえない
そうすると、発明の詳細な説明(具体例)の明示の記載によっては、本件訂正発明が当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものである、ということはできない。

(ウ)小括
以上によれば、発明の詳細な説明の明示の記載によっては、本件訂正発明が当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものである、ということはできない。

ウ 次いで、その記載や示唆がなくとも、本件訂正発明が、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて検討する。

(ア)本件訂正発明のシール材の加工性や作業性へ影響を及ぼし得る要素としては、シール材における、発泡構造体、粘着剤組成物各層の及びシール材全体の厚み、サイズ、形状、粘着剤組成物層の材料の性質など様々なものがあると考えらる。
とりわけ、シール材の基材である、発泡構造体の形状維持性は、本件訂正発明のシール材の加工性や作業性へ影響を及ぼし得る要素の一つであること、その発泡構造体の形状維持性へ影響を及ぼし得る要素として、その構造や材料などがあることは認められる。
そして、本件訂正発明の特定事項のうち、特定平均気泡径と特定材料とで発泡構造体の性質(形状維持性)が特定され、その発泡構造体の性質(形状維持性)がシール材の加工性や作業性へ影響を及ぼす主要な要素であり、しかも、その他の要素の影響は無視できる程度であるという技術常識があるときは、本件訂正発明は、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである、ということができると解される。

(イ)発泡構造体の構造と性質について
(イ-1)発泡構造体の構造と性質についての技術常識の検討
甲30は、「セル構造体」と題する書籍の、「5.3フォームの機械的性質(圧縮変形の場合)」と題する項の前段部分であると認められ、この部分には、「フォームの機械的性質(圧縮変形の場合)」の「(a)線形弾性」(p169?184頁)と「(b)非線形弾性および緻密化」(184頁?)の性質について記載されている。
そして、「(a)線形弾性」の項に、フォームには「等方的」なものと「非等方的」なものとがあり、「等方的」フォームを検討対象としたこと、さらに「等方的」フォームについて、
「線形弾性の機構はセルが開いているか閉じているかによって異なる.オープンセル型フォームに力が加わると図5.5(a)に示されるようにセルエッジが曲がる….クローズドセル型フォーム状況はもっと複雑になる.…以上寄与を模式的に示したものが図5.5である.」(169頁下から4行?170頁図の下から8行)こと、及び「図5.5」が記載されている。


なお、「オープンセル型」フォームは、171頁図5.6示されるもの、

「クローズドセル型」フォームは、180頁図5.12に示されるもの、

である。
そして、それらの「フォームの変形機構」は、「クローズドセル型」であるときは、「オープンセル型」における「セルエッジの曲げ変形」の要素に加え、「内部ガス圧」と「セルフェースの伸張」の要素があることが示され(図5.5及びそのタイトル参照)、それぞれのタイプ別に項立てして、「線形弾性」を検討していることが認められる。
その「クローズドセル」の項に、発泡構造体の骨格構造の機械的性質の一つである「剛性」(曲げやねじりの力に対する、寸法変化(変形)のしづらさの度合い)に関して、
「クローズドセル型フォームでは多くの場合液体を発泡させて作られるが,この方法では,表面張力の作用で物質がセルエッジに引き寄せられるため,セルフェースには薄くて,壊れやすい膜だけが残ることになる.それゆえ,はじめから閉じたセルより成っているフォームでも,剛性の大半はセルエッジの剛性に由来しており,弾性率はオープンセル型フォームのそれと変わらない.しかし,クローズドセル型フォームのすべてがこのような特性を示すわけではない.例えば,ある種のポリマーフォームやガラスフォームではかなりの量の固体がセルフェースに残るので,剛性も大きい.」(177頁4?12行)
と記載されている。

これらの記載によれば、フォーム、すなわち発泡構造体の剛性は、発泡構造体が、「オープンセル型」であるか、「クローズドセル型」であるかで異なるといえ、また、そのモデル図から、「セルエッジ」(及び「クローズドセル型」の場合はさらに「セルフェース」)は、発泡構造体の骨格を形成する構造(骨格構造)であるから、発泡構造体の剛性は、主に骨格構造の剛性に依存することがみてとれる。
そして、同タイプの骨格構造の場合に、その骨格構造を構成する「セルエッジ」の幅がより大きい(及び「クローズドセル型」の場合はさらに「セルフェース」の厚さがより厚い)とき、骨格構造の剛性がより大きくなるから、発泡構造体の剛性、したがって、発泡構造体の形状維持性が大きくなると認められる。

そうすると、発泡構造体の形状維持性は、同材料の発泡構造体の場合に、骨格構造のタイプにより異なること、及び、その骨格構造、さらにそれを構成する「セルエッジ」の幅(及び「クローズドセル型」の場合はさらに「セルフェース」の厚さ)に依存すること、が認められる。

(イ-2)クローズドセル型発泡構造体の性質についての技術常識の検討
乙3は「マイクロセルラープラスチックの機械的・粘弾的特性に及ぼすセルサイズの影響」と題する文献である。
乙3における「マイクロセルラープラスチック」とは、
「セル直径が0.1?10μm,セル密度が10^(9)?10^(15)cells/cm^(3),そして相対密度が0.1?0.95の値をもち,かつこれらの値を自由に変え得ることを特徴としている」(863頁右欄下から7?4行)、
プラスチックの微細気泡の発泡構造体(以下「MCP発泡構造体」という。)をいう。
MCP発泡構造体の具体的な製法については、
「試料を圧力容器に入れ,物理的発泡剤としてCO_(2)ガスを用い,このガス室温(25℃),6.3MPaの圧力下に飽和させた.飽和状態に達した後,圧力容器を減圧して試料を取り出し,…発泡させた.」(864右欄10?16行)
と記載されている。
このMCP発泡構造体は、そのサンプルのSEM写真(864頁Fig.2)

によれば、「クローズドセル型」に類別されるものと認められる。
「クローズドセル型」発泡構造体の形状維持性は、上記(イ-1)のとおり、同材料であれば、主に骨格構造に依存すると認められるから、同材料のMCP発泡構造体の形状維持性も、主に骨格構造、さらにそれを構成する「セルエッジ」の幅及び「セルフェース」の厚さに依存すると認められる。
ここで、MCP発泡構造体について、その気泡を均一径球に単純化しその直径をDとし、セル密度(単位容積当たりの気泡数)をNとすれば、単位容積当たりの気泡が占める総体積Vは、
V=N×(4/3)π×(1/2D)^(3) =NπD^(3) /6
と計算される。
単位容積のうちのVの余の容積が骨格構造材料の容積であるから、MCP発泡構造体の骨格構造材料の容積は、DとNとによって決まるものである。
すると、同タイプの骨格構造のMCP発泡構造体において、気泡直径D、すなわち平均気泡径を特定の値に限定しても、単位容積当たりの骨格構造材料の容積は、セル密度Nにより変化し、セル密度Nは広範な値(10^(9)?10^(15)cells/cm^(3))を取り得るものであるから、特定されないといえる。
そして、平均気泡径を特定するとき、MCP発泡構造体の単位容積あたりの骨格構造材料の容積は、大きければ、その骨格構造を構成する「セルエッジ」の幅が広く「セルフェース」は厚く、発泡構造体の剛性はより大きくなるといえ、少なければ逆のことがいえるから、MCP発泡構造体において、単位容積あたりの骨格構造材料の容積も特定されないと、発泡構造体の形状維持性も特定されないといえる。

以上のとおり、クローズドセル型という同タイプの骨格構造であっても、発泡構造体の形状維持性は、その平均気泡径のみによっては特定はされないと認められる。

(イ-3)本件訂正発明5ないし10について
本件訂正発明5ないし10は、それぞれ、本件訂正発明1の「発泡構造体」に関して、どのような方法で形成されたものかをさらに規定するものである。
それらの形成方法は、「熱可塑性ポリマーに高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成」(本件訂正発明5)する方法、「熱可塑性ポリマーからなる未発泡成形物に高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成」(本件訂正発明6)する方法、「溶融した熱可塑性ポリマーに不活性ガスを加圧状態下で含浸させた後、減圧とともに成形に付して形成」(本件訂正発明7)する方法であり、さらにこれらの方法において、「減圧後、さらに加熱することにより形成」(本件訂正発明8)し、「不活性ガスが二酸化炭素」(本件訂正発明9)と特定し、「含浸時の不活性ガスが超臨界状態」(本件訂正発明10)と特定するものである。
本件訂正発明5ないし10に規定される形成方法は、(イ-2)に示す乙3に記載されるMCP発泡構造体の形成方法と同等ないし類似の方法であることが認められる。
そうすると、本件訂正発明5ないし10のシール材における発泡構造体の骨格構造のタイプは、主に「クローズドセル型」であると認められるところ、(イ-2)に示したとおり、「クローズドセル型」の発泡構造体の形状維持性は、その平均気泡径のみによっては特定されないと認められる。
したがって、本件訂正発明5ないし10のシール材における同材料の発泡構造体の形状維持性は、仮にクローズドセル型に限られるとしても、また、材料を同じとしても、その平均気泡径のみによっては特定されないと認められる。

(イ-4)本件訂正発明1ないし4について
本件訂正明細書の発明の詳細な説明に、発泡構造体の骨格構造について、「従来公知の独立気泡、連続気泡、半独半連気泡構造の発泡体を使用できる」(摘示cの段落【0016】)と記載されるとおり、少なくとも、本件訂正発明1ないし4のシール材における発泡構造体の骨格構造には、独立気泡(クローズドセル型)のほか、連続気泡、半独半連気泡構造などの骨格構造も含まれることが認められる。
そして、「クローズドセル型」とは異なるタイプの「オープンセル型」などの骨格構造の発泡構造体の機械的性質は、「クローズドセル型」とは異なることは、(イ-1)に示したとおりである。
そうすると、(イ-3)のとおり、同材料の発泡構造体の形状維持性は、仮にクローズドセル型に限られるとしても、その平均気泡径のみによっては特定されないのであるから、機械的性質が異なるその他のタイプの骨格構造を含む本件訂正発明1ないし4のシール材における発泡構造体の形状維持性は、その平均気泡径のみによっては特定されないと認められる。

(イ-5)小括
以上のとおり、本件訂正発明1ないし10(本件訂正発明)の発泡構造体の形状維持性は、材料を同じとしても、その平均気泡径のみによっては特定されないと認められる。

(ウ)発泡構造体の材料と性質について
本件訂正発明の発泡構造体について、「平均気泡径」のほか、「熱可塑性ポリマーからなり」と材料が規定されている。
そして、その発泡構造体の材料には広範な機械的性質を有する「熱可塑性ポリマー」材料が使用可能であると認められることは、イ(ア)において示したとおりである。
そうすると、(イ-5)のとおり、発泡構造体の形状維持性は、材料を同じとしても、その平均気泡径のみによって特定はされないのであるから、機械的性質が異なるポリマー材料を用いたものを含む本件訂正発明のシール材における発泡構造体の形状維持性は、その平均気泡径、材料の規定によっては特定されないと認められる。

(エ)シ-ル材のその他の要素について
本件訂正発明のシール材は、その構成要素の一つである発泡構造体について、上記(イ)、(ウ)のとおり、その平均気泡径、材料の規定によってはその形状維持性は特定されないと認められる。
そして、本件訂正発明のシール材は、発泡構造体について「平均気泡径」、「熱可塑性ポリマーからなり」と規定されるほか、その発泡構造体の少なくとも一方の面に特定の「粘着剤組成物の層」を有すると規定されるものであり、また、各層及び全体の厚み、サイズ、形状については規定されないものである。
ところで、シール材の発泡構造体の形状維持性が、シール材の加工性や作業性へ影響を及ぼす主要な要素であることや、さらに、本件訂正発明のシール材の上記の要素、すなわち、その「粘着剤組成物の層」の性質、各層の厚み、サイズ、形状の影響などが無視できる程度であること、という技術常識は、全証拠を検討しても、見あたらない。

(オ)まとめ
以上によれば、特定の平均気泡径と特定の材料とで発泡構造体の性質(形状維持性)が特定されるとの技術常識も認められず、発泡構造体の性質(形状維持性)がシール材の加工性や作業性へ影響を及ぼす主要な要素であり、その他の要素の影響は無視できる程度であるという技術常識があるともいえない。
したがって、本件訂正発明は、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである、ということはできない。

(5)被請求人の主張
ア 被請求人は、「シール材の加工性や取り扱い性は主に発泡構造体の平均気泡径によって規定される」と主張し(平成24年5月18日付けの上申書(2)第1)、根拠として乙3を提出した。

乙3は、(4)ウ(イ)(イ-2)において既に参照した「マイクロセルラープラスチックの機械的・粘弾的特性に及ぼすセルサイズの影響」と題する文献である。
乙3には、セル密度Nを「10^(9)」と一定にした場合の「セル直径を3.5,5.0,7.0そして9.5μmと変えた」MCP発泡構造体の「試料の粘弾性挙動ならびに引張特性を測定し,それら諸特性に及ぼすセル直径の影響を検討した」(864頁左欄下から3行から右欄下2行)結果が記載されている。
しかし、被請求人が主張するとおり、仮にその結果によりセル直径が粘弾性挙動や引張特性などの機械的性質に影響することがいえるとしても、その結果は、MCP発泡構造体のセル密度Nを特定値にしたときにセル直径Dが機械的性質に影響することをいうに過ぎないものである。
そして、乙3には、発泡構造体の形状維持性が、セル密度Nによらず、セル直径Dによって主に規定されること、については記載も示唆もされてはいないし、さらに、シール材の加工性や作業性が、発泡構造体の平均気泡径によって主に規定されること、についての記載や示唆もされてはいない。
したがって、乙3を根拠に、本件訂正発明の発泡構造体の形状維持性が主に平均気泡径によって規定されるということも、まして、本件訂正発明の「シール材の加工性や取り扱い性は主に発泡構造体の平均気泡径によって規定される」ということもできない。
他の全証拠を検討しても、被請求人のこの主張を採用するに足るものは見あたらない。

イ 被請求人は、また、「シール材として用いられる発泡体の発泡倍率は、一般に2?50倍程度」であり、「常識的な発泡倍率を採用する限り、平均気泡径を0.1?200μmの範囲に規定すれば」、本件課題を解決することができる旨を主張し(平成24年6月8日付けの上申書(3)6頁10?23行)、根拠として乙4ないし9を提出した。

しかし、被請求人が主張するとおり、仮に「シール材として用いられる発泡体の発泡倍率は、一般に2?50倍程度」であったとしても、本件訂正発明のシール材における発泡構造体の発泡倍率について、発明の詳細な説明には何ら開示されてはいないから、その発泡倍率が「2?50倍程度」である、とは直ちにはいうことができない。
さらに、たとえ本件訂正発明のシール材における発泡構造体の発泡倍率が「2?50倍程度」であるとしても、本件訂正発明の発泡構造体には、発泡倍率範囲が「2?50倍程度」、平均気泡径範囲が「0.1?200μm」と広範であり、その骨格構造にも熱可塑性ポリマー材料の機械的性質にも広範なものが包含されるのであるから、その形状維持性は依然として特定されず、加えて、本件訂正発明のシール材には、「粘着剤組成物の層」の材料、性質(規定される以外の)及びシール材における各層の厚み、サイズ、形状は規定されておらず、広範なものが包含されるのであるから、本件訂正発明のシール材の加工性や作業性は特定されないと認められる。
それにもかかわらず、「常識的な発泡倍率を採用する限り、平均気泡径を0.1?200μmの範囲に規定すれば」、本件訂正発明のシール材が本件課題を解決することができる、といえる根拠は、他の全証拠を検討しても、見出すことができない。

ウ 被請求人の主張は、いずれも採用することはできない。

(6)まとめ
以上検討したところによれば、本件訂正発明が、発明の詳細な説明の記載によっては当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。
したがって、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。

3 無効理由3についてのまとめ
以上によれば、本件訂正発明1ないし10は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載した発明ということはできないから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1項に適合するものではない。
したがって、本件訂正発明1ないし10についての特許は、特許法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

第6 むすび
以上のとおり、請求人らが主張する無効理由3は理由があるから、その余の理由を検討するまでもなく、請求項1ないし10に係る発明についての特許は、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電気・電子機器用シール材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径が0.1?200μmである発泡構造体の少なくとも一方の面に、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上である粘着剤組成物からなる層が設けられ、粘着力が15?30N/20mm幅である、ディスプレイ外周部のシール用に使用されることを特徴とする電気・電子機器用シール材。
【請求項2】室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上、室温での粘着力が5.0N/20mm幅以上である粘着剤組成物からなる層が最表面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項3】粘着剤組成物からなる層の厚さが2?100μmであることを特徴とする請求項1または2の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項4】粘着剤組成物が次の式;
【化1】

(式中、Rは炭素数2?20の直鎖状または分枝状の炭化水素基である)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート構造を持つポリマーを含むことを特徴とする請求項1?3の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項5】熱可塑性ポリマーに高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成される発泡構造体で構成されていることを特徴とする請求項1?4の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項6】熱可塑性ポリマーからなる未発泡成形物に高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成される発泡構造体で構成されていることを特徴とする請求項1?4の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項7】溶融した熱可塑性ポリマーに不活性ガスを加圧状態下で含浸させた後、減圧とともに成形に付して形成される発泡構造体で構成されていることを特徴とする請求項1?4の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項8】減圧後、さらに加熱することにより形成された発泡体で構成されている請求項5?7の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項9】不活性ガスが二酸化炭素である請求項5?7の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【請求項10】含浸時の不活性ガスが超臨界状態である請求項5?7の何れかの項に記載の電気・電子機器用シール材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気・電子機器(携帯電話、携帯端末、デジタルカメラ、ビデオムービー、パーソナルコンピューター、その他家電製品など)用の定型シール材に関する。
【0002】
【従来の技術】
ゴム発泡体は、すぐれたクッション性を有し、クッション材、パット材などに有用である。例えば携帯電話やデジタルカメラ等の電気・電子機器の液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどの防塵、緩衝材として使用されている。特に貼り合わせ作業時にその位置合わせを簡便にするため、粘着剤層を設けたシール材がよく使用されるが、従来の粘着剤層を付設したシール材では、シール材端部より粘着剤層がはみ出し、ごみ、ほこりが付着し、製品の外観不良や機能低下といった問題を生じる場合がある。
【0003】
この問題を解決する手段として、シール材の端部から粘着剤層がはみ出さないように部分的に粘着剤層を設けたり、粘着剤層を設けず使用する方法が知られている。しかしながら、前者は加工コストへの負担が大きくコストアップを招き、後者ではシール材の位置固定が困難となる、または位置固定様の別の方法が必要となるといった問題を抱えている。
【0004】
また近年、電気・電子機器用途においては小型化の傾向があり、それに用いるシール材も細幅化、薄層化が必要となってきている。このためシール材自体の形状維持が困難となり、取り扱い性が問題になる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な事情に照らし、発泡体に粘着剤層を設けたシール材であってもごみやほこりが付着せず、取り扱いが容易な電気・電子機器用の定型シール材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的に対し鋭意検討した結果、微細セル発泡体の表面に貯蔵弾性率が20N/cm^(2)以上である粘着剤組成物からなる層を設け、粘着力が5.0N/20mm幅以上であるシール材であれば、細幅、薄層の加工が容易であり、上記粘着剤はタックをもたないため端部へのごみやほこりの付着が低減でき、かつ貼り付け後は粘着力を発揮しシール材を固定できることを見出した。
【0007】
更に本発明者らは、このような微細セル発泡体は、特定ポリマーに不活性ガスを高圧下で含浸させた後、減圧することにより得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち本発明は、熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径が0.1?200μmである発泡構造体の少なくとも一方の面に、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上である粘着剤組成物からなる層が設けられ、粘着力が15?30N/20mm幅である、ディスプレイ外周部のシール用に使用されることを特徴とする電気・電子機器用シール材(請求項1)に係るものであり、特にその粘着剤組成物が、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上、室温での粘着力が5.0N/20mm幅以上である粘着剤組成物からなることを特徴とする請求項1に記載の電気・電子機器用シール材(請求項2)に係るものであり、特に粘着剤組成物からなる層の厚さが2?100μmであることを特徴とする(請求項3)。
【0009】
また本発明は、上記粘着剤組成物が次の式;
【化2】

(式中、Rは炭素数2?20の直鎖状または分枝状の炭化水素基である)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート構造を持つポリマーを含むことを特徴とする電気・電子機器用シール材(請求項4)に係るものである。
【0010】
また本発明は、上記平均気泡径が0.1?200μmである発泡構造体が、熱可塑性ポリマーに高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成されることを特徴とする(請求項5)、または熱可塑性ポリマーからなる未発泡成形物に高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成されることを特徴とする(請求項6)、または溶融した熱可塑性ポリマーに不活性ガスを加圧状態下で含浸させた後、減圧とともに成形に付して形成されることを特徴とする(請求項7)、電気・電子機器用シール材に係るものである。
【0011】
また本発明は、上記発泡体の製造工程において、減圧後、さらに加熱することを特徴とし(請求項8)、不活性ガスが二酸化炭素であることを特徴とし(請求項9)、含浸時の不活性ガスが超臨界状態であることを特徴とする(請求項10)、電気・電子機器用シール材に係るものである。
【0012】
また本発明の電気・電子機器用シール材は、特にディスプレイ回りのシール用に好適に使用されるものである。
【0013】
なお、本明細書において、粘着剤組成物の貯蔵弾性率〔G´〕とは、上記組成物の剪断貯蔵弾性率を指し、これは、外部からの応力を歪みとしてエネルギ?の貯蔵する弾性成分というべきものであって、レオメトリツク社製の動的粘弾性測定装置RDS-IIを用い、サンプル厚さ約1.5mm、直径7.9mmのパラレルプレ?トの治具により、周波数1Hzで測定される値である。
【0014】
また、本明細書において、シール材の粘着力は、サンプルを被着体としてのアクリル板(ポリメチルメタクリレ?ト)に貼り付けて、雰囲気温度23℃、貼り付け時間30分、剥離速度300mm/分の条件で測定される90°剥離粘着力を意味するものである。
【0015】
また粘着剤組成物の粘着力は、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に粘着剤組成物を塗布後、乾燥して厚さ30μmの粘着剤層を設け、これをサンプルとしてアクリル板(ポリメチルメタクリレ?ト)に貼り付けて、雰囲気温度23℃、貼り付け時間30分、剥離速度300mm/分の条件で測定される180°剥離粘着力を意味するものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられる発泡構造体は、熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径が0.1?500μmである発泡構造体であり、従来公知の独立気泡、連続気泡、半独半連気泡構造の発泡体を使用できる。平均気泡径を500μm以下、好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下とすることで、発泡構造体の形状維持性が確保され、細幅、薄層の発泡構造体であっても加工が容易となる。また平均気泡径を0.1μm以上、好ましくは10μm以上とすることで、クッション性を付与することができる。
【0017】
上記のような内部に気泡を有する発泡体を形成する方法として、一般的には物理発泡法及び化学発泡法が行われている。物理発泡とは、炭化水素系あるいはクロロフルオロカーボン系の低沸点液体をポリマーに含浸させた後、ポリマーを加熱することで、内部に含浸させた低沸点液体をガス化させ、これを駆動力としてポリマーを発泡させる手法である。また化学発泡とは、ポリマーに熱分解型発泡剤を添加した樹脂組成物を加熱し、該分解型発泡剤の分解により発生したガスにより気泡形成を行う手法である。
【0018】
このような発泡構造体の製造には、天然ゴムまたは合成ゴム(クロロプレンゴム、エチレン・プロピレン・ターポリマーなど)、加硫剤、発泡剤、充填剤などをバンバリーミキサーや加圧ニーダなどの混練り機で混練したのち、カレンダ、押し出し機、コンベアベルトキャスティングなどにより連続的に混練しつつシート状、ロッド状に成型し、これを加熱して加硫、発泡させさらに必要によりこの加硫発泡体を所定形状に裁断加工する方法や、天然ゴムまたは合成ゴム、加硫剤、発泡剤、充填剤などをミキシングロールで混練し、この混練組成物をバッチ式により、型で加硫、発泡ならびに成形する方法などを使用することができる。
【0019】
また本発明においては、上記発泡構造体を得る方法として、特定ポリマーに不活性ガスを高圧下で含浸させた後、減圧することにより得ることが好ましい。すなわち上記物理発泡による技術には、発泡剤として用いる物質の可燃性や毒性、及びオゾン層破壊などの環境への影響が懸念される。また、化学発泡法では、発泡ガスの残渣が発泡体中に残存するため、特に低汚染性の要求が高い電子機器用途においては、腐食性ガスやガス中の不純物による汚染が問題となる。なお、これらの物理発泡法及び化学発泡法では、いずれにおいても微細な気泡構造を形成することは難しく、特に300μm以下の微細気泡を形成することはできないとされている。
【0020】
すなわち本発明は、上記平均気泡径が0.1?500μmである発泡構造体が、熱可塑性ポリマーに高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成される方法、または熱可塑性ポリマーからなる未発泡成形物に高圧の不活性ガスを含浸させた後、減圧する工程を経て形成される方法、または溶融した熱可塑性ポリマーに不活性ガスを加圧状態下で含浸させた後、減圧とともに成形に付して形成される方法が好ましく用いられる。
【0021】
本発明において、発泡体の素材である熱可塑性ポリマーとしては、熱可塑性を示すポリマーであって、高圧ガスを含浸可能なものであれば特に制限されない。このような熱可塑性ポリマーとして、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンとの共重合体、エチレン又はプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ビニルアルコール等との共重合体などのオレフィン系重合体;ポリスチレンなどのスチレン系重合体;ポリアミド;ポリアミドイミド;ポリウレタン;ポリイミド;ポリエーテルイミドなどが挙げられる。
【0022】
また、前記熱可塑性ポリマーには、常温ではゴムとしての性質を示し、高温では熱可塑性を示す熱可塑性エラストマーも含まれる。このような熱可塑性エラストマーとして、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、ポリイソブチレン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー;スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレン共重合体、それらの水素添加物ポリマーなどのスチレン系エラストマー;熱可塑性ポリエステル系エラストマー;熱可塑性ポリウレタン系エラストマー;熱可塑性アクリル系エラストマーなどが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーはガラス転移温度が室温以下(例えば20℃以下)であるため、シール材としたとき柔軟性及び形状追随性に著しく優れる。
【0023】
熱可塑性ポリマーは単独で又は2種以上混合して使用できる。また、発泡体の素材(熱可塑性ポリマー)として、熱可塑性エラストマー、熱可塑性以外の熱可塑性ポリマー、熱可塑性エラストマーと熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性ポリマーとの混合物の何れを用いることもできる。
【0024】
前記熱可塑性エラストマーと熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性ポリマーとの混合物として、例えば、エチレン-プロピレン共重合体等のオレフィン系エラストマーとポリプロピレン等のオレフィン系重合体との混合物などが挙げられる。熱可塑性エラストマーと熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性ポリマーとの混合物を用いる場合、その混合比率は、例えば、前者/後者=1/99?99/1程度(好ましくは10/90?90/10程度、さらに好ましくは20/80?80/20程度)である。
【0025】
本発明で用いられる不活性ガスとしては、上記熱可塑性ポリマーに対して不活性で且つ含浸可能なものであれば特に制限されず、例えば、二酸化炭素、窒素ガス、空気等が挙げられる。これらのガスは混合して用いてもよい。これらのうち、発泡体の素材として用いる熱可塑性ポリマーへの含浸量が多く、含浸速度の速い二酸化炭素が好適である。
【0026】
熱可塑性ポリマーに含浸させる際の不活性ガスは超臨界状態であるのが好ましい。超臨界状態では、ポリマーへのガスの溶解度が増大し、高濃度の混入が可能である。また、含浸後の急激な圧力降下時には、前記のように高濃度であるため、気泡核の発生が多くなり、その気泡核が成長してできる気泡の密度が気孔率が同じであっても大きくなるため、微細な気泡を得ることができる。なお、二酸化炭素の臨界温度は31℃、臨界圧力は7.4MPaである。
【0027】
発泡体を形成する際、熱可塑性ポリマーに、必要に応じて添加剤を添加してもよい。添加剤の種類は特に限定されず、発泡成形に通常使用される各種添加剤を用いることができる。このような添加剤として、例えば、気泡核剤、結晶核剤、可塑剤、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、補強剤、難燃剤、帯電防止剤等が挙げられる。添加剤の添加量は、気泡の形成等を損なわない範囲で適宜選択でき、通常の熱可塑性エラストマー等の熱可塑性ポリマーの成形に用いられる添加量を採用できる。
【0028】
発泡体は、熱可塑性ポリマーに不活性ガスを高圧下で含浸させるガス含浸工程と、該工程後に圧力を低下させて樹脂を発泡させる減圧工程、及び必要に応じて加熱により気泡を成長させる加熱工程を経て形成される。この場合、予め成形した未発泡成形物を不活性ガスに含浸させてもよく、また、溶融した熱可塑性ポリマーに不活性ガスを加圧状態下で含浸させた後、減圧の際に成形に付してもよい。これらの工程は、バッチ方式、連続方式の何れの方式で行ってもよい。
【0029】
バッチ方式によれば、例えば以下のようにして発泡体を形成できる。すなわち、まず、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用してポリオレフィン樹脂、熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性ポリマーを押し出すことにより、未発泡成形物(発泡体成形用樹脂シート等)を形成する。或いは、ローラ、カム、ニーダ、バンバリ型の羽根を設けた混練機を使用して、ポリオレフィン樹脂、熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性ポリマーを均一に混練しておき、これを熱板のプレス機を用いてプレス成形し、熱可塑性ポリマーを基材樹脂として含む未発泡成形物(発泡体成形用樹脂シート等)を形成する。そして、得られた未発泡成形物を耐圧容器中に入れ、高圧の不活性ガスを導入し、該不活性ガスを未発泡成形物中に含浸させる。この場合、未発泡成形物の形状は特に限定されず、ロール状、板状等の何れであってもよい。また、高圧の不活性ガスの導入は連続的に行ってもよく不連続的に行ってもよい。十分に高圧の不活性ガスを含浸させた時点で圧力を解放し(通常、大気圧まで)、基材樹脂中に気泡核を発生させる。気泡核はそのまま室温で成長させてもよく、また、必要に応じて加熱することによって成長させてもよい。加熱の方法としては、ウォーターバス、オイルバス、熱ロール、熱風オーブン、遠赤外線、近赤外線、マイクロ波などの公知乃至慣用の方法を採用できる。このようにして気泡を成長させた後、冷水などにより急激に冷却し、形状を固定化する。
【0030】
一方、連続方式によれば、例えば以下のようにして発泡体を形成できる。すなわち、熱可塑性ポリマーを単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用して混練しながら高圧の不活性ガスを注入し、十分にガスを熱可塑性ポリマー中に含浸させた後、押し出して圧力を解放し(通常、大気圧まで)、発泡と成形とを同時に行い、場合によっては加熱することにより気泡を成長させる。気泡を成長させた後、冷水などにより急激に冷却し、形状を固定化する。
【0031】
前記ガス含浸工程における圧力は、例えば6MPa以上(例えば6?100MPa程度)、好ましくは8MPa以上(例えば8?100MPa程度)である。圧力が6MPaより低い場合には、発泡時の気泡成長が著しく、気泡径が大きくなりすぎて防音効果が低下しやすい。これは、圧力が低いとガスの含浸量が高圧時に比べて相対的に少なく、気泡核形成速度が低下して形成される気泡核数が少なくなるため、1気泡あたりのガス量が逆に増えて気泡径が極端に大きくなるからである。また、6MPaより低い圧力領域では、含浸圧力を少し変化させるだけで気泡径、気泡密度が大きく変わるため、気泡径及び気泡密度の制御が困難になりやすい。
【0032】
ガス含浸工程における温度は、用いる不活性ガスや熱可塑性ポリマーの種類等によって異なり、広い範囲で選択できるが、操作性等を考慮した場合、例えば10?350℃程度である。例えば、シート状などの未発泡成形物に不活性ガスを含浸させる場合の含浸温度は、バッチ式では10?200℃程度、好ましくは40?200℃程度である。また、ガスを含浸させた溶融ポリマーを押し出して発泡と成形とを同時に行う場合の含浸温度は、連続式では60?350℃程度が一般的である。なお、不活性ガスとして二酸化炭素を用いる場合には、超臨界状態を保持するため、含浸時の温度は32℃以上、特に40℃以上であるのが好ましい。
【0033】
前記減圧工程において、減圧速度は、特に限定されないが、均一な微細気泡を得るため、好ましくは5?300MPa/秒程度である。また、前記加熱工程における加熱温度は、例えば、40?250℃程度、好ましくは60?250℃程度である。
【0034】
本発明の発泡構造体は、発泡体が熱可塑性エラストマー等の熱可塑性ポリマーからなるため柔軟性に優れるとともに、発泡剤として二酸化炭素等の不活性ガスを用いるので、従来の物理発泡法及び化学発泡法と異なり、有害物質が発生したり汚染物質が残存することがなくクリーンである。そのため、特に精密な電気・電子機器等の内部に用いる定型シール材として好適に利用できる。
【0035】
本発明の電気・電子機器用の定型シール材は、この様な発泡構造体の少なくとも一方の面に、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上である粘着剤組成物からなる層が設けられ、粘着力が5.0N/20mm幅以上であるものである。
【0036】
本発明において用いられる粘着剤組成物は、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上、好ましくは50N/cm^(2)以上(通常は、500N/cm^(2)以下)に設定されているものである。このような粘着剤組成物は、タックを示さず、また加工後の糊はみ出しが少ないため、ごみやほこりが付着しにくい。また貼り付け後数秒程度の短時間であれば、被着体を損傷することなく再剥離でき、したがって位置合わせ、位置直しが容易であるという(いわゆるリワーク性)、特徴を備えている。
【0037】
また本発明の電気・電子機器用の定型シール材は、粘着力が5.0N/20mm幅以上、好ましくは10.0N/20mm幅以上、更に好ましくは15N/20mm幅以上(通常は30.0N/20mm幅以下)に設定されているものであるので、加熱処理などの繁雑な工程を必要とすることなく、高い接着力を発揮するというというユニークでかつ有用な特性を備えている。粘着力が5.0N/20mm幅未満であると、被着体より容易に剥離してしまい、好ましくない。
【0038】
この様な粘着特性を示すために、本発明で用いられる粘着剤組成物は、室温での貯蔵弾性率〔G´〕が20N/cm^(2)以上、好ましくは50N/cm^(2)以上(通常は、500N/cm^(2)以下)に設定されているとともに、室温での粘着力が5.0N/20mm幅以上、好ましくは10.0N/20mm幅以上(通常は30.0N/20mm幅以下)である粘着剤組成物を最表面に用いることが好ましい。
【0039】
このような特性を備える粘着剤組成物は、上記の貯蔵弾性率〔G´〕および上記の粘着力を有する限り、組成上の限定は特にない。一般には、粘着剤構成用のポリマーにポリイソシアネート化合物などの架橋剤を加えて架橋処理し、上記ポリマーの選択と架橋処理の程度などによつて前記の貯蔵弾性率〔G´〕および粘着力に設定したものが、好ましく用いられる。ここで、粘着剤構成用のポリマ?としては、ポリカ?ボネ?ト構造を持つポリマ?として、つぎの式;
【化3】

(式中、Rは炭素数2?20の直鎖状または分枝状の炭化水素基である)で表わされる繰り返し単位を有するポリマー、とくにポリカーボネートジオールと二塩基酸とから合成されるポリエステルが好ましく用いられる。また、ガラス転移温度(損失弾性率;G”ピ?ク)が-35℃以下であるポリエステルも好ましく用いられる。さらに、このような脂肪族ポリエステルのほか、アクリル系ポリマーなども使用することができる。
【0040】
ポリカ?ボネ?ト構造を持つポリマ?としては、ポリカ?ボネ?トジオ?ル(またはその誘導体)とジカルボン酸(またはその誘導体)とから合成されるポリエステル、ポリカ?ボネ?トジカルボン酸とジオ?ルとから合成されるポリエステル、ポリカ?ボネ?トジオ?ルとジイソシアネ?トとから合成されるポリウレタンなどがあり、その中でも、とくにポリカ?ボネ?トジオ?ルとジカルボン酸とから合成されるポリエステルが好ましい。この種のポリエステルは、ポリカ?ボネ?トジオ?ルを必須としたジオ?ル成分と炭素数が2?20の脂肪族または脂環族の炭化水素基を分子骨格とするジカルボン酸を必須としたジカルボン酸成分とから合成される、重量平均分子量が1万以上、好ましくは3万以上、とくに好ましくは5万以上(通常、30万まで)のものである。
【0041】
ここで用いられるポリカ?ボネ?トジオ?ルは、つぎの式;
【化4】

(式中、Rは炭素数2?20の直鎖状または分枝状の炭化水素基である)で表わされる繰り返し単位を有するジオ?ルで、数平均分子量としては、400以上、好ましくは900以上(通常1万まで)であるのがよい。このようなポリカ?ボネ?トジオ?ルとしては、ポリヘキサメチレンカ?ボネ?トジオ?ル、ポリ(3-メチルペンテンカ?ボネ?ト)ジオ?ル、ポリプロピレンカ?ボネ?トジオ?ルなど、それらの混合物またはそれらの共重合物などがある。市販品としては、ダイセル化学工業(株)製の「PLACCEL CD205PL」、「同CD208PL」、「同CD210PL」、「同CD220PL」、「同CD205HL」、「同CD208HL」、「同CD210HL」、「同CD220HL」などが挙げられる。
【0042】
ジオ?ル成分としては、上記のポリカ?ボネ?トジオ?ルのほか、必要により、エチレングリコ?ル、プロピレングリコ?ル、ブタンジオ?ル、ヘキサンジオ?ル、オクタンジオ?ル、デカンジオ?ル、オクタデカンジオ?ルなどの直鎖状のジオ?ルや分枝状のジオ?ルなどの成分を併用してもよい。これらの他のジオ?ルは、ジオ?ル成分全体の50重量%以下、好ましくは30重量%以下の使用量とするのがよい。また、ポリマ?を高分子量化するために、3官能以上のポリオ?ル成分を少量添加してもよい。
【0043】
また、ジカルボン酸成分は、炭素数が2?20の脂肪族または脂環族の炭化水素基を分子骨格としたもので、上記の炭化水素基が直鎖状のものでも分枝状のものであってもよい。具体的には、コハク酸、メチルコハク酸、アジピン酸、ピメリツク酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12-ドデカン二酸、1,14-テトラデカン二酸、テトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、これらの酸無水物や低級アルキルエステルなどが挙げられる。
【0044】
ジカルボン酸成分としては、上記の炭素数が2?20の脂肪族または脂環族の炭化水素基を分子骨格としたジカルボン酸をこれ単独で用いるのが望ましいが、場合により、このジカルボン酸とともに、芳香族の炭化水素基を分子骨格としたジカルボン酸を、適宜混合して使用してもよい。これら芳香族の炭化水素基を分子骨格としたジカルボン酸の使用量としては、ジカルボン酸成分全体の50重量%以下、とくに好ましくは30重量%以下の少量であるのがよい。また、合成されるポリエステルを高分子量化するなどの目的で、3官能またはそれ以上の多価カルボン酸成分を少量添加することもできる。
【0045】
ポリエステルは、上記のジオ?ル成分とジカルボン酸成分とを、常法にしたがい、無触媒または適宜の触媒などを用いて、エステル化反応させることにより、得られる。その際、ジオ?ル成分とジカルボン酸成分とは、等モル反応が望ましいが、エステル化反応を促進するため、どちらかを過剰に用いて反応させてもよい。このようにして得られるポリエステルは、前記分子量を有していることが望ましい。これは、分子量があまり低いと、高度に架橋した粘着剤は架橋密度が高くなり、非常に硬い性質を有したり、逆に架橋密度を低く設定しようとすると、未架橋成分の分子量が低いため、耐熱性などの面で好ましくないためである。
【0046】
本発明では、通常、このようなポリエステルをはじめとするポリカ?ボネ?ト構造を持つポリマ?を適宜の手段で架橋処理して、室温での貯蔵弾性率〔G´〕および接着力が前記範囲となる粘着剤組成物とする。架橋手段は任意でよいが、架橋剤としてポリイソシアネ?ト化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、金属キレ?ト化合物、金属アルコキシド化合物などの多官能性化合物を用い、これと上記ポリマ?(中に含まれる水酸基やカルボキシル基)とを反応させて架橋する方法が一般的である。多官能性化合物としては、とくにポリイソシアネ?ト化合物が好ましい。
【0047】
ポリイソシアネ?ト化合物としては、エチレンジイソシアネ?ト、ブチレンジイソシアネ?ト、ヘキサメチレンジイソシアネ?トなどの低級脂肪族ポリイソシアネ?ト類、シクロペンチレンジイソシアネ?ト、シクロヘキシレンジイソシアネ?ト、イソホロンジイソシアネ?トなどの脂環族ポリイソシアネ?ト類、2,4-トリレンジイソシアネ?ト、4,4´-ジフエニルメタンジイソシアネ?ト、キシリレンジイソシアネ?トなどの芳香族ポリイソシアネ?ト類などがある。そのほか、トリメチロ?ルプロパンのトリレンジイソシアネ?ト付加物〔日本ポリウレタン(株)製の「コロネ?トL」〕、トリメチロ?ルプロパンのヘキサメチレンジイソシアネ?ト付加物〔日本ポリウレタン(株)製の「コロネ?トHL」〕なども用いられる。
【0048】
これらの多官能性化合物は、単独でまたは2種以上の混合系で用いられる。使用量は、架橋するポリマ?とのバランスにより、また粘着剤組成物の使用目的によって適宜選択される。一般には、ポリカ?ボネ?ト構造を持つポリマ?100重量部あたり、0.5重量部以上、好ましくは1?5重量部程度配合して、架橋処理するのがよい。これにより、上記ポリマ?の溶剤不溶分が10?90重量%、好ましくは15?80重量%、より好ましくは20?70重量%となる粘着剤組成物が得られる。ポリマ?の溶剤不溶分が小さすぎると、粘着剤の凝集力が不足して、十分な弾性率や耐熱性,耐久性が得られない。
【0049】
他の架橋手段として、ポリマ?に架橋剤として多官能モノマ?を配合し、これを電子線などで架橋させる方法がある。多官能モノマ?には、エチレングリコ?ルジ(メタ)アクリレ?ト、ペンタエリスリト?ルトリ(メタ)アクリレ?ト、テトラメチロ?ルメタンテトラ(メタ)アクリレ?ト、トリメチロ?ルプロパントリ(メタ)アクリレ?トなどがある。これらの多官能モノマ?の使用量は、電子線などで架橋したのちのポリマ?の溶剤不溶分が前記同様の値となるように、前記のポリマ?100重量部あたり、多官能モノマ?が1?5重量部、好ましくは2?4重量部となるようにするのがよい。
【0050】
本発明の粘着剤組成物には、従来公知の各種の粘着付与剤を配合してもよい。粘着付与剤の配合により、粘着性と耐熱性のバランスがとりやすくなる場合もある。また、無機または有機の充てん剤、金属粉、顔料などの粉体、粒子状、箔状物などの従来公知の各種の添加剤を任意に配合できる。さらに、各種の老化防止剤の配合により、耐久性のより一層の向上を図ってもよい。
【0051】
本発明においては、上記粘着剤組成物からなる層を通常2?100μm、好ましくは10?100μmの厚さに設けてなるものである。これら粘着剤層は、なるべく薄層とすることで端部のごみやほこりの付着を防止できるため、好ましい。粘着剤層の設け方は、直接塗布方式でもよいし、離型紙上に設けたのちこれを貼り合わせる方式でもよい。上記の粘着剤組成物からなる層は、発泡構造体の片面だけでなく両面に設けてもよい。また、上記の粘着剤組成物からなる層を設けるにあたり、下層として他の粘着剤層や基材を設けるなどの複合層としてもよい。
【0052】
また、上記の粘着剤組成物からなる層を発泡構造体の片面にのみ設ける場合、発泡構造体の反対側の面に、上記の粘着剤組成物とは異なる粘着剤層、たとえば汎用のアクリル系粘着剤層またはゴム系粘着剤層を設けるようにしてもよい。この場合、片面側に設けたタックを有しない前記の粘着剤組成物からなる層を利用して位置合わせ、位置決めを容易に行うことができるとともに、上記反対側の汎用の粘着剤層の特徴をも発揮させることができる。
【0053】
本発明の電気・電子機器用シール材は、その形状を特に限定するものでなく、その使用目的に合わせ、適宜裁断、打ち抜き等の加工が施されてもよい。
【0054】
以下、本発明の電気・電子機器用シール材の実例を図面にもとづいて説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0055】
図1は本発明の電気・電子機器用シール材の使用の一例を模式的に示している。図1において、1は本発明の電気・電子機器用シール材を額縁状に打ち抜いたシール材を示しており、発泡構造体11の両面に粘着剤層12、13を設けた構造を示している。2は液晶ディスプレイを、3は外枠部をそれぞれ示している。
【0056】
電気・電子機器用シール材1は液晶ディスプレイ2の外周部に沿うように粘着剤層12を介して固定(仮止め)される。この時、電気・電子機器用シール材1は平均気泡径が細かいので腰があって形状を保持しやすく、作業性がよい。また粘着剤層12は、室温での貯蔵弾性率が20N/cm^(2)以上のものであり、粘着剤としての高いタックを示さず、したがって数秒程度の短時間ではほとんど接着しない。このため短時間であれば、一度剥がして、再度使用すること可能で、被着体を損傷することなく貼り合わせ位置の修正が可能である。
【0057】
また粘着剤層12は、上記高弾性でタックフリーでありながら、接着力が5N/20mm幅以上となるものであり、加熱処理などの煩雑な工程を要することなく高い接着力を発揮するというユニークでかつ有用な特性を備えており、この特性によって、次の工程までの間に電気・電子機器用シール材1が液晶ディスプレイ2から剥離することはない。
【0058】
電気・電子機器用シール材1を固定した液晶ディスプレイ2は、外枠部3と粘着剤層13を介して固定される。この時、適度に加圧された状態で固定されることで電気・電子機器用シール材1はクッション性を示し、衝撃に対する緩衝機能や防塵、防水などのシール機能を発揮する。
【0059】
【発明の効果】
本発明の電気・電子機器用シール材は、熱可塑性ポリマーからなり、平均気泡径を500μm以下としているので、発泡構造体の形状維持性が確保され、細幅、薄層の発泡構造体であっても加工が容易となる。また粘着剤として貯蔵弾性率が20N/cm^(2)以上であり、粘着力が5.0N/20mm幅以上としているので、シール材端部へのごみやほこりの付着が低減でき、かつ貼り付け後は粘着力を発揮しシール材を固定できる。
【0060】
また、発泡体が熱可塑性エラストマー等の熱可塑性ポリマーからなるため柔軟性に優れるとともに、発泡剤として二酸化炭素等の不活性ガスを用いるので、従来の物理発泡法及び化学発泡法と異なり、有害物質が発生したり汚染物質が残存することがなくクリーンである。そのため、特に携帯電話やビデオカメラ等の電気・電子機器に使用されている液晶ディスプレイ等のシール材として好適に利用できる。
【0061】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0062】
実施例1
密度が0.9g/cm^(3)、230℃のメルトフローレートが4であるポリプロピレン50重量部と、JIS-A硬度が69のエチレンプロピレン系エラストマー50重量部及び多面体状のMgO・ZnO・H_(2)O(平均粒径1.0μm、アスペクト比4)100重量部を、ローラ型の翼を設けた混錬機(東洋精機(株)製、商品名「ラボプラストミル」)により170℃の温度で混練した後、180℃に加熱した熱板プレスを用いて厚さ0.5mm、Φ80mmのシート状に成形した。
このシートを耐圧容器に入れ、150℃の雰囲気中、15MPa/cm^(2)加圧下で、10分間保持することにより、二酸化炭素を含浸させた。10分後に急激に減圧することにより、平均気泡径100μmの発泡構造体を得、これを厚さ1mmにスライスした。
【0063】
一方、攪拌機、温度計および水分離管を付した四つ口のセパラブルフラスコに、液状のポリカ?ボネ?トジオ?ル〔ダイセル化学工業(株)製の「PLACCEL CD210PL」、水酸基価115KOHmg/g〕250g(水酸基:0.512当量)、セバシン酸51.8g(酸基:0.512当量)、触媒としてのジブチルチンオキサイド(以下、DBTOという)127mgを仕込み、反応水排出溶剤としての少量のトルエンの存在下、攪拌を開始しながら180℃まで昇温し、この温度で保持した。しばらくすると、水の流出分離が認められ、反応が進行し始めた。約24時間反応を続けて、重量平均分子量が55,000となるポリエステルを得た。
【0064】
このポリエステルをトルエンで固形分濃度40重量%に希釈したのち、ポリエステル100部(固形分)あたり、架橋剤としてトリメチロ?ルプロパンのヘキサメチレンジイソシアネ?ト3量体付加物〔日本ポリウレタン(株)製の「コロネ?トHL」〕2部(固形分)を加えて、粘着剤組成物を調製した。
【0065】
このように調製した粘着剤組成物を、アプリケ?タにより、前記の発泡構造体の片面に塗布し、130℃で5分間乾燥して、厚さが30μmの粘着剤組成物からなる層を形成し、本発明のシール材を作製した。また粘着剤の粘着力測定用に、上記粘着剤組成物をアプリケーターにより厚さ25μmのPETフィルム上に塗布し、130℃で5分乾燥して厚さ30μmの粘着剤層を形成し、アフターキュアとして50℃の雰囲気で5日間エージングを行ない粘着力測定用のテープサンプルを作製した。また上記と同様にして、貯蔵弾性率測定用に粘着剤組成物を剥離紙上に塗布し、厚さが50μmの粘着剤層を形成した。
【0066】
実施例2
攪拌機、温度計および水分離管を付した四つ口のセパラブルフラスコに、液状のポリカ?ボネ?トジオ?ル〔ダイセル化学工業(株)製の「PLACCEL CD220PL」、水酸基価56.1KOHmg/g〕250g(水酸基:0.25当量)、アゼライン酸23.5g(酸基:0.25当量)、触媒としてのDBTOを62mg仕込み、反応水排出溶剤としての少量のトルエンの存在下、攪拌を開始しながら180℃まで昇温し、この温度で保持した。しばらくすると、水の流出分離が認められ、反応が進行し始めた。約25時間反応を続けて、重量平均分子量が78,000となるポリエステルを得た。
【0067】
このポリエステルをトルエンで固形分濃度40重量%に希釈したのち、ポリエステル100部(固形分)あたり、架橋剤としてトリメチロ?ルプロパンのトリレンジイソシアネ?ト3量体付加物〔日本ポリウレタン(株)製の「コロネ?トL」〕1.5部(固形分)を加えて、粘着剤組成物を調製した。この粘着剤組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のシ?ル材を作製した。また、実施例1と同様にして、粘着力測定用のテープサンプルおよび貯蔵弾性率測定用の粘着剤層を形成した。
【0068】
比較例1
攪拌機および温度計を付した反応容器に、アクリル酸n-ブチル95部、アクリル酸5部、トルエン150部、アゾビスイソブチロニトリル0.1部を入れ、窒素ガス雰囲気中、60℃で約7時間溶液重合して、ポリマ?溶液を得た。このポリマ?100部(固形分)あたり、架橋剤としてトリメチロ?ルプロパンのトリレンジイソシアネ?ト3量体付加物〔日本ポリウレタン(株)製の「コロネ?トL」〕2部(固形分)を加えて、粘着剤組成物を調製した。この粘着剤組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、シ?ル材を得た。また、実施例1と同様にして、粘着力測定用のテープサンプルおよび貯蔵弾性率測定用の粘着剤層を形成した。
【0069】
比較例2
下記の配合組成物をミキシングロ?ルで混練し、この混練物をオ?ブンで160℃,30分の条件で加熱して加硫発泡させ、オ?ブンから取り出し、平均粒子径800μmの発泡構造体を得た。
【0070】
<発泡構造体の配合組成>
エチレン・プロピレン・ターポリマー 100部
亜鉛華 5部
ステアリン酸 1部
カーボン 40部
ポリエチレン 20部
重質炭酸カルシウム 180部
ポリブテン 40部
硫黄 2部
メルカプトベンゾチアゾール 1部
ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛 2部
アゾジカルボン酸アミド 13部
【0071】
この発泡構造体を用いた以外は、実施例1と同様にしてシール材を得た。
【0072】
上記各実施例および比較例において、貯蔵弾性率測定用として形成した粘着剤層を用いて貯蔵弾性率を測定した。また粘着力測定用のテープサンプルおよびシール材を用いて、粘着力を測定した。さらに、シール材を用い、ごみ付着性、加工・作業(取り扱い)性について確認した。結果を表1に示した。
【0073】
<貯蔵弾性率>
レオメトリツク社製の動的粘弾性測定装置RDS-IIを用い、サンプル厚さ約1.5mm、直径7.9mmのパラレルプレ?トの治具により、周波数1Hzで測定した。
【0074】
<粘着剤粘着力>
得られた粘着力測定用のテープサンプルを長さ150mm、幅20mmに裁断し、アクリル板(ポリメチルメタクリレ?ト)に重さ2kg重のゴムローラーを1往復させる方法にて貼り合わせ、23℃下に30分放置後、23℃、65%RH雰囲気中にて引張試験機にて180°の剥離角度、300m/分の剥離速度で測定を行った。
【0075】
<シール材粘着力>
得られたシール材を長さ150mm、幅20mmに裁断し、アクリル板(ポリメチルメタクリレ?ト)に重さ2kg重のゴムローラーを1往復させる方法にて貼り合わせ、23℃下に30分放置後、23℃、65%RH雰囲気中にて引張試験機にて90°の剥離角度、300m/分の剥離速度で測定を行った。
【0076】
<ゴミ付着性>
得られたシール材サンプルを、室温にて1週間放置し、糊面端部へのゴミやほこりの付着度合いを目視にて確認した。ゴミやほこりがほとんど付着していない物を「○」、多く付着しているものを「×」と評価した。
【0077】
<加工性>
得られたシール材サンプルを、厚さ1mm、幅2mmで一辺50mmの長さの額縁状サンプルを作成し、所定の位置への設置作業性の容易さ、困難さを評価した。取り扱いが容易なものを「○」、加工性に難があり、取り扱いが困難なものを「×」と評価した。
【0078】
【表1】

【0079】
表1の結果から明らかなように、本発明の実施例の定型シール材は、いずれも発泡構造体に設けた粘着剤組成物からなる層が室温でタックを示さないため、ゴミやほこりの付着が少ないと共に、大きな粘着力を示すためシール材の固定ができる。または発泡構造体の平均粒子径が小さいため、薄層、細幅に加工しても形状維持ができ、作業(取り扱い)性も容易であることを示すものである。
【0080】
これに対し、発泡構造体に本発明と異なる特性を示す粘着剤層を設けた比較例1のシール材は、上記粘着剤層が室温でタックを示すため、ゴミ付着が大きく電気・電子機器用途のシール材として性能が劣る。また比較例2のシール材では、平均粒子径が大きいため発泡構造体に腰がなく、薄層、細幅の加工性に劣るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電気・電子機器用シール材の使用の一例を示した模式図である。
【符号の説明】
1 電気・電子機器用シール材
2 液晶ディスプレイ
3 外枠部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-06-14 
結審通知日 2012-06-19 
審決日 2012-07-03 
出願番号 特願2001-115071(P2001-115071)
審決分類 P 1 113・ 537- ZA (C09J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 小石 真弓
橋本 栄和
登録日 2008-05-16 
登録番号 特許第4125875号(P4125875)
発明の名称 電気・電子機器用シール材  
代理人 後藤 幸久  
代理人 後藤 幸久  

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