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審決分類 審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1263230
審判番号 不服2010-3186  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-15 
確定日 2012-09-10 
事件の表示 特願2000-526547「新規なポリペプチド、そのポリペプチドをコードするcDNA、およびその用途」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月 8日国際公開、WO99/33873〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成10年12月25日(国内優先権主張 平成9年12月26日)を出願日とする出願であって、 平成20年5月16日付けで特許請求の範囲について補正がなされ、平成21年5月20日付けで拒絶理由通知がなされ、意見書が提出されたが同年11月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

そして本願発明は、平成20年5月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
配列番号7で示されるアミノ酸配列または配列番号7で示される配列の1番目?324番目で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項2】
配列番号10で示されるアミノ酸配列または配列番号10で示される配列の1番目?324番目で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項3】
請求項第1項または第2項に記載されたポリペプチドをコードするcDNA。
【請求項4】
配列番号8または11で示される塩基配列を有する請求項第3項記載のcDNA。
【請求項5】
配列番号9または12に示される塩基配列を有する請求項第3項記載のcDNA。
【請求項6】
請求項第3項から第5項のいずれかの項に記載のcDNAからなる複製または発現ベクター。
【請求項7】
請求項第6項記載の複製または発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項8】
請求項第1項または第2項に記載されたポリペプチドを発現させるための条件下で請求項第7記載の宿主細胞を培養することからなる請求項第1項または第2項記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項9】
請求項第1項または第2項に記載されたポリペプチドに対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体。 」


第2.原査定について
原査定では、本願の請求項1ないし9に係る発明は、特許法第29条第1項柱書、特許法第36条第4項の規定を満たさず特許を受けることができないとされ、また、本願の請求項1ないし9に係る発明は、引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とされた。

第3.当審の判断
1.本願明細書の記載
a.「 本発明者らは、これまで造血系や免疫系で働く増殖分化因子の遺伝子のクローニングを研究してきた。そして、増殖分化因子(例えば、各種サイトカイン等)のような分泌蛋白質やそのレセプターのような膜蛋白質(以下、これらをまとめて分泌蛋白質等と呼ぶ。)の大部分がそのN末端にシグナルペプチドと呼ばれる配列を有していることに着目して、シグナルペプチドをコードする遺伝子を効率的かつ選択的にクローニングする方法を鋭意検討した。その結果、動物細胞を用いて、シグナルペプチドをコードするcDNAを簡単に選抜できる方法(シグナルシークエンストラップ(SST)法)を見出した(特開平6-315380号参照)。さらに同じ概念のもとに、酵母を用いてさらに効率よく簡便にシグナルペプチドをコードする遺伝子を単離する方法(酵母SST法)も開発された(米国特許 No.5,536,637参照)。
発明の開示
本発明者らは、治療、診断、あるいは研究上有益な新規な因子(ポリペプチド)、特に分泌シグナルを有する分泌蛋白質および膜蛋白質に着目してそれを見出すべく、鋭意検討を行なった。
その結果、前記の方法を用いて、多種多様な分泌蛋白および膜蛋白を産生していると予想される細胞株および組織、例えばヒト成人の脳組織および脳組織由来の細胞株、ヒト骨髄由来の細胞株、およびヒト胎児肝臓が産生している新規な分泌蛋白質あるいは膜蛋白質、およびそれをコードするcDNAを見出すことに成功し、本発明を完成した。
本発明が提供するcDNA配列は、クローンOM007およびOMB096として同定され、上記酵母SST法によりヒト成人脳組織から作製したcDNAライブラリーより単離された。クローンOM007およびOMB096は分泌蛋白質(ここではそれぞれOM007およびOMB096蛋白として表される)をコードする完全なcDNA配列を含む全長鎖cDNAである。 核酸配列データベースに登録されている既知の核酸配列に対してBLASTNおよびFASTAにより、またアミノ酸配列データベースに登録されている既知のポリペプチドのアミノ酸配列に対してBLASTX、BLASTPおよびFASTAにより検索した結果、本発明のポリペプチドOM007、OMB096およびそれぞれをコードする核酸配列と一致する配列はなかった。このことから、本発明のポリペプチドは、新規な分泌蛋白質であることが判明した。
本発明が提供するcDNA配列は、クローンOAF0038-LeuおよびOAF038-Proとして同定され、上記酵母SST法により成人のヒト骨髄由来の細胞株(HAS303)から作製したcDNAライブラリーより単離された。クローンOAF0038-LeuおよびOAF038-Proは膜蛋白質(ここではOAF0038-LeuおよびOAF038-Pro蛋白として表される)をコードする完全なcDNA配列を含む全長鎖cDNAである。
核酸配列データベースに登録されている既知の核酸配列に対してBLASTNおよびFASTAにより、またアミノ酸配列データベースに登録されている既知のポリペプチドのアミノ酸配列に対してBLASTX、BLASTPおよびFASTAにより検索した結果、本発明のポリペプチドOAF0038-Leu、OAF038-Proおよびそれぞれをコードする核酸配列と一致する配列はなかった。このことから、本発明のポリペプチドは、新規の膜蛋白質であることが判明した。
本発明が提供するcDNA配列は、クローンOR087Hとして同定され、上記酵母SST法によりヒト胎児肝臓から作製したcDNAライブラリーより単離された。クローンOR087Hは分泌蛋白質(ここではOR087H蛋白として表される)をコードする完全なcDNA配列を含む全長鎖cDNAである。
核酸配列データベースに登録されている既知の核酸配列に対してBLASTNおよびFASTAにより、またアミノ酸配列データベースに登録されている既知のポリペプチドのアミノ酸配列に対してBLASTX、BLASTPおよびFASTAにより検索した結果、本発明のポリペプチドOR087Hおよびそれをコードする核酸配列と一致する配列はなかった。このことから、本発明のポリペプチドは、新規な分泌蛋白質であることが判明した。
本発明が提供するcDNA配列は、クローンOA004-FGおよびOA004-LDとして同定され、上記酵母SST法によりヒトグリア芽腫細胞株T98Gから作製したcDNAライブラリーより単離された。クローンOA004-FGおよびOA004-LDは膜蛋白質(ここではOA004-FGおよびOA004-LD蛋白として表される)をコードする完全なcDNA配列を含む全長銀cDNAである。
核酸配列データベースに登録されている既知の核酸配列に対してBLASTNおよびFASTAにより、またアミノ酸配列データベースに登録されている既知のポリペプチドのアミノ酸配列に対してBLASTX、BLASTPおよびFASTAにより検索した結果、本発明のポリペプチドOA004-FGおよびOA004-LDおよびそれぞれをコードする核酸配列と一致する配列はなかった。このことから、本発明のポリペプチドは、新規な膜蛋白質であることが判明した。
すなわち、本発明は
(1)配列番号1、4、7、10、13、16または19で示されるアミノ酸配
列からなるポリペプチド、
(2)前記(1)に記載したポリペプチドをコードするcDNA、
(3)配列番号2、5、8、11、14、17または20で示される塩基配列を有するcDNA、
(4)配列番号3、6、9、12、15、18または21で示される塩基配列を有するcDNAに関する。」(明細書第2頁3行?第4頁24行、下線は当審が付した。)

b.「 産業上の利用可能性
本発明のポリペプチドおよびそれをコードするcDNAは、一つあるいはそれ以上の効果あるいは生物活性(以下に列挙するアッセイに関連するものを含む)を示すことが考えられる。本発明の蛋白に関して記述される効果あるいは生物活性は、その蛋白の投与あるいは使用により、あるいは、その蛋白をコードするcDNAの投与あるいは使用(例えば、遺伝子療法やcDNA導入に適したベクター)により、提供される。
[サイトカイン活性および細胞増殖/分化活性]
本発明の蛋白は、サイトカイン活性および細胞増殖(誘導あるいは阻害)/分化活性(誘導あるいは阻害)を示す可能性、あるいはある細胞集団に他のサイトカインの産生を誘導あるいは抑制すると考えられる。全ての既知のサイトカインを含む、現在発見されている多くの蛋白性因子は、因子に依存した一つあるいはそれ以上の細胞増殖アッセイ法で、活性を示してきたので、それらのアッセイは、サイトカイン活性の便利な確認法として機能する。本発明の蛋白の活性は、多くの従来の因子依存性の細胞株の細胞増殖アッセイのうちのいずれかによって証明され得る。
[免疫刺激/抑制活性]
本発明の蛋白は、免疫刺激活性および免疫抑制活性をも示すと考えられる。また、ある蛋白は、例えば、Tリンパ球およびBリンパ球あるいはどちらか一方の成長および増殖を制御(刺激あるいは抑制)することや、同様にNK細胞や他の集団の細胞傷害性活性に影響を与えることによって、様々な免疫不全および疾患(severe combined immunodeficiency(SCID)を含む)の治療に効果を示すと考えられる。これらの免疫不全は遺伝性である場合もあるし、例えばHIVのようなウイルスや、同様に細菌やカビの感染が原因で起こる場合もある。あるいは、自己免疫疾患から由来する可能性もある。具体的には、HIV、肝炎ウイルス(hepatitis viruses)、ヘルペスウイルス(herpes viruses)、マイコバクテリア(mycobacteria)、リーシュマニア(leshmania)、マラリア(malaria)およびカンジダ(candida)のような様々なカビ感染を含む、ウィルス、細菌、カビあるいは他の感染による感染症の原因を、本発明の蛋白を用いることによって治療できると考えられる。もちろん、この関連より、本発明の蛋白は、免疫システムが増大していることが一般的に示唆される場所、すなわち癌治療の箇所において効果を示すと考えられる。
本発明の該蛋白は、アレルギー反応および喘息や他の呼吸器系疾患のような状況の治療に効果にも効果を示すと考えられる。免疫抑制が望まれるような他の状態(例えば、喘息や関連呼吸器疾患を含む)にも、本発明の蛋白を用いて治療できると考えられる。
本発明の蛋白は、例えば、敗血病性のショックあるいは全身性炎症反応症候群(SIRS)のような、炎症性大腸炎、クローン病、あるいはIL-11により効果が証明されたTNFやIL-1のようなサイトカインの過剰産生に由来するような感染に関連した慢性あるいは急性の炎症を抑制する可能性もある。
[造血細胞制御活性]
本発明の蛋白は、造血細胞の制御に、またそれに応じて骨髄球様細胞あるいはリンパ球様細胞の欠乏に対する治療にも効果を示すと考えられる。コロニー形成細胞あるいは因子依存性細胞株の援助の下での極く弱い生物活性でさえも、造血細胞の制御に係わることを示唆する。その生物活性とは、次に挙げる例の全てあるいはそのいずれかで例えられるようなものに係わるものである。赤血球前駆細胞のみの成長および増殖を支持、あるいは他のサイトカインとの組み合わせ、また、それが示唆する有効性、例えば様々な貧血の治療、あるいは赤血球前駆細胞および赤血球あるいはそのどちらかの産生を刺激する放射線療法/化学療法と組み合わせての使用;顆粒球および単球/マクロファージのような骨髄球の成長および増殖を支持(すなわち、古典的なCSF活性)、化学療法に伴う骨髄抑制を防ぐための化学療法との併用;巨核球の成長および増殖およびそれに続く血小板の成長および増殖の支持、それによって血小板減少症のような様々な血小板障害を防御および治療を可能とする血小板輸血の際あるいは相補的に一般的使用;上記造血細胞の幾つかあるいは全ての細胞へ成熟可能な造血幹細胞の成長および増殖の支持、従って、様々な幹細胞障害(限定はされないが、再生不良性貧血および発作性夜間血色素尿症を含む、移植で一般的に治療されるようなもの)に治療的効果を見い出せる、また、正常細胞あるいは遺伝子療法のため遺伝的に操作さ
れた細胞をイン・ビトロ(in vitro)あるいはエクス・ビボ(ex vivo) (すなわち、骨髄移植に伴う)どちらかで、放射線療法/化学療法後の幹細胞分画の再構築を行うことも同様である。
本発明の蛋白は、他の方法の中で、以下の方法により測定することが可能である。
[組織生成/修復活性]
本発明の蛋白は、損傷治癒および組織修復、また、火傷、切開、および潰瘍の治療と同様に、骨、軟骨、腱、靭帯、および神経組織成長あるいは再生のいずれかに使用されると考えられる。
骨を正常に形成しない環境での軟骨および骨あるいはいずれかの成長を誘導するような本発明の蛋白は、ヒトおよび他の動物の骨折および軟骨損傷あるいは欠損の治癒に適用される。本発明の蛋白を使用している製剤は、開放骨折と同様に閉鎖骨折の整復、また人工関節の固定の改良に用いられる。骨形成剤により誘導された新生骨形成は、先天性、外傷性、癌切除術により誘発した頭蓋顔面の欠損の修復に貢献する。また、美容形成外科分野にも有効である。
本発明の蛋白は、歯根膜症の治療および他の歯の修復にも使用されると考えられる。そのような薬品は、骨形成細胞を引き寄せ、その細胞の増殖を刺激し、その前駆細胞の分化を誘導する環境を提供すると考えられる。本発明の蛋白は、骨および軟骨あるいはいずれかの修復を刺激することを通して、あるいは炎症あるいは炎症過程で介される組織破壊(コラゲナーゼ活性や破骨細胞の活性)の過程を阻止すことにより、骨粗鬆症および骨関節炎の治療に有効と考えられる。
本発明の蛋白に起因すると考えられる組織再生活性の別のカテゴリーは腱/靭帯形成である。本発明の蛋白は、腱/靭帯様組織あるいは他の組織が正常に形成されない環境でそのような組織形成を誘導するものであるが、ヒトおよび他の動物における腱/靭帯の裂傷、奇形、および他の腱/靭帯の障害の治癒に適用できる。腱/靭帯様組織を誘導する蛋白を使用している製剤は、骨あるいは他の組織への腱/靭帯の固定の改良、および腱/靭帯組織の欠損の修復での使用はもちろん、腱あるいは靭帯の損傷の防御に対して予防的使用も考えられる。本発明の構成物により誘導された新生腱/靭帯様組織形成は、先天性、外傷、あるいは他の起源の腱あるいは靭帯欠損の修復に貢献する。また、腱あるいは靭帯の貼付あるいは修復という美容形成外科でも有効である。本発明の構成物は、腱/靭帯形成細胞を引き寄せ、その細胞の増殖を刺激し、その前駆細胞の分化を誘導する環境を提供すると考えられる。あるいは、組織修復を果たすためイン・ビトロ(in vivo)への返還に備えてエクス・ビボ(ex vivo)で腱/靭帯細胞あるいはその前駆細胞を誘導する。該発明の構成物は、腱炎、毛根トンネル症候群(Carpal tunnel syndrome)、および他の腱あるいは靭帯欠損の治療にも有効である。該構成物には、適当なマトリックスおよびキャリアーと同様に当業者に良く知られているシークエスタリング(Sequest
ering)剤も含まれる。
本発明の蛋白は、神経細胞の増殖、および神経および脳組織の再生、すなわち、神経細胞あるいは神経組織の変性、死、あるいは外傷を含む機械的および外傷的障害と同様に中枢および末梢神経系疾患および神経病の治療に対しても、効果を示すと考えられる。具体的には、ある蛋白は、末梢神経障害、末梢神経症、および局所的神経症のような末梢神経系の疾患、およびアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側策症(amyotropic lateral)、およびシャイ・ドレーガー(Shy-Drager)症候群のような中枢神経系の疾患の治療に有効であると考えられる。更に本発明に応じて治療され得る条件には、脊髄障害、頭部外傷、および脳卒中等の脳血管疾患のような機械的および外傷的障害を含む。化学療法あるいは他の治療に起因する末梢神経症も本発明の蛋白を用いて治療可能である。
本発明の蛋白は、例えば膵臓、肝臓、腸、腎臓、皮膚、内皮を含む臓器、平滑、骨格あるいは心臓筋肉、および血管内皮を含む血管組織のような他の組織を生成する活性、あるいはそのような組織を構成する細胞の増殖を促進する活性を示す可能性も期待される。望まれる効果の一部は、正常組織を再生させる繊維性瘢痕(scarring)の阻害によっても担われると考えられる。
本発明の蛋白は、消化管保護あるいは再生、および肺あるいは肝臓の繊維化、様々な組織の再還流損傷、および全身性サイトカイン障害に起因する状態に対する治療にも有効であると考えられる。
[アクチビン/インヒビン活性]
本発明の蛋白は、アクチビン/インヒビンに関連した活性を示すと考えられる。アクチビンは濾胞刺激ホルモン(FSH)の放出を刺激する活性によって特徴づけられるが、インヒビンは、濾胞刺激ホルモン(FSH)の放出を阻害する活性によって特徴づけられる。よって、本発明の蛋白は、単独あるいはインヒビンαファミリーのメンバーとのヘテロダイマーで、哺乳類動物の雌の受精率を減少させ、雄の精子形成を減少させるインヒビンの活性に基づく避妊調節剤として有効であると考えられる。充分量の他のインヒビンの投与によって、哺乳動物の不妊を誘導可能である。一方、本発明の蛋白は、インヒビンβグループの他の蛋白サブユニットとのホモダイマーあるいはヘテロダイマーで、前脳下垂体の細胞からFSH放出を刺激するアクチビン分子の活性に基づいた治療的な不妊誘導として有効であると考えられる(米国特許 4,798,885を参照)。本発明の蛋白は、牛、羊、および豚のような家畜の生涯出産能力可能な期間を延ばすために、性的に未熟な哺乳類動物における妊娠開始を早めることに有効であると考えられる。
[走化性/化学運動性活性]
本発明の蛋白は、例えば、単球、好中球、T細胞、マスト細胞、好酸球、および内皮細胞、あるいはそのいづれかを含む、哺乳動物の細胞に対して、例えば、ケモカインとして働く走化性/化学運動性活性を有すると考えられる。走化性/化学運動性蛋白は、反応の望まれる部位へ、望まれる細胞集団を固定化あるいは引き寄せるため使用されることが可能である。走化性/化学運動性蛋白は、局所的な感染と同様に、創傷および他の外傷の治療に特別な優位性を提供する。例えば、リンパ球、単球、あるいは好中球を腫瘍あるいは感染部位へ引き寄せることは、腫瘍あるいは感染部位に対する免疫応答を改善する結果となると考えられる。
蛋白やペプチドは、もしそれが直接あるいは間接に特殊な細胞集団に対して指示された方向あるいは運動を刺激可能であれば、そのような細胞集団に対する走化性活性を保持している。望ましくは、その蛋白やペプチドは、細胞の指示された運動を直接的に刺激する活性を保持する。特別な蛋白がある集団の細胞に対し走化性活性を保持するか否かは、どんな既知の細胞走化性のアッセイ法にそのような蛋白あるいはペプチドを使用しても容易に決定できる。
[凝血および血栓活性]
本発明の蛋白は、凝血あるいは血栓活性をも示すと考えられる。結果として、そのような蛋白は、様々な凝固障害(血友病のような遺伝性障害を含む)の治療に有効であると予期される。あるいは、外傷、手術あるいは他の原因により生じた創傷の治療における凝固および他の凝血事象を促進させることが予期される。本発明の蛋白は、血栓の形成の溶解あるいは阻害、および血栓あるいは卒中等により生じる状態の治療および予防にも効果があると考えられる。
[受容体/リガンド活性]
本発明の蛋白は、受容体、受容体/リガンドあるいは受容体/リガンドのインヒビターあるいはアゴニストとしての活性を示す可能性もある。そのような受容体およびリガンドの例として、サイトカイン受容体およびそのリガンド、受容体キナーゼおよびそのリガンド、受容体フォスファターゼおよびそのリガンド、細胞間相互作用に関連した受容体(Selectin、Integurin、およびそのリガンド、受容体キナーゼ等の細胞接着分子を含む)およびそのリガンド、および抗原提示、抗原認識、および細胞性および液性免疫反応の発達に係わる受容体/リガンドの組み合わせが挙げられるが、本発明を制限するものではない。受容体およびリガンドは、その相互作用に対する可能なペプチドあるいは小分子のインヒビターのスクリーニングにも有効である。本発明の蛋白(受容体およびリガンドの断片を含むが、制限されるものではない)は、それ自身受容体/リガンドの相互作用のインヒビターとして有効であると考えられる。
[その他の活性]
本発明の蛋白(ポリペプチド)は、以下に示す付加的な活性あるいは効果の一つあるいはそれ以上を示すと考えられる:細菌、ウイルス、カビ、および他の寄生虫を含む感染性の物質を殺傷する;身長、体重、髪の色、目の色、肌あるいは他の組織の色素沈着、あるいは例えば胸部増量あるいは減量等の器官の大きさ等の身体的特徴を抑制あるいは促進する効果を及ぼす;食餌脂肪、蛋白、あるいは炭水化物の分解に効果を及ぼす;食欲、性欲、ストレス、認識(認識障害)、鬱病、暴力行動を含む行動特徴に効果を及ぼす;鎮痛効果あるいは他の痛みを減少させる効果を及ぼす;胚性幹細胞の造血系以外の他の系統への分化および増殖を促進する;および、酵素の場合、その酵素の欠失を補う、および関連疾患を治療する。
上記活性を有する蛋白は、例えば、B細胞、T細胞、肥満細胞の増殖または細胞死、免疫グロブリンのクラススイッチ促進によるクラス特異的誘導、B細胞の抗体産生細胞への分化、顆粒球前駆細胞の増殖または分化、細胞死、単球・マクロファージ前駆細胞の増殖または分化、細胞死、好中球、単球・マクロファージ、好酸球、好塩基球の増殖または機能亢進、細胞死、巨核球前駆細胞の増殖または細胞死、好中球前駆細胞の増殖または分化、細胞死、BまたはT前駆細胞の増殖または分化、細胞死、赤血球の産生促進、赤血球、好中球、好酸球、好塩基球、単球・マクロファージ、肥満細胞、巨核球前駆細胞の増殖支持、好中球、単球・マクロファージ、B細胞またはT細胞の遊走促進、胸腺細胞の増殖または細胞死、脂肪細胞の分化抑制、ナチュラルキラー細胞の増殖または細胞死、造血幹細胞の増殖または細胞死、幹細胞および各種造血前駆細胞の増殖抑制、間葉系幹細胞からの骨芽細胞、軟骨細胞への分化促進または増殖、細胞死、あるいは破骨細胞の活性化や単球から破骨細胞への分化促進による骨吸収の促進の作用を本発明のポリペプチドのみで、またリガンド-レセプター間の結合を介して、あるいは他の分子と相乗的に働くことにより有すると考えられる。
また本発明のポリペプチドは神経系にも作用することが予測されるので、各種神経伝達物質作動性神経細胞への分化ならびにそれらの生存維持または細胞死、ダリア細胞の増殖促進または細胞死、神経突起の伸展、神経節細胞の生存維持または細胞死、アストロサイトの増殖または分化促進または細胞死、末梢神経の増殖または生存維持、細胞死、シュワン細胞の増殖または細胞死、運動神経の増殖または生存維持、細胞死の作用もあると考えられる。
さらに、本発明のポリペプチドは初期胚の発生過程において、外胚葉誘導作用による表皮、脳、背骨、神経の器官形成、中胚葉誘導作用による背索結合組織(骨、筋肉、腱)、血球細胞、心臓、腎臓、生殖巣の器官形成、あるいは内胚葉誘導作用による消化器系臓器(胃、腸、肝臓、膵臓)、呼吸器系(肺、気管)の形成に促進的または抑制的に作用すると考えられるとともに、生体においても上記器官の増殖あるいは増殖抑制作用を有すると考えられる。
したがって、本発明のポリペプチドはそれ自身で、免疫系または神経系もしくは骨代謝の機能の低下または亢進に関する疾患、または造血系細胞の発育不全または異常増殖、例えば、炎症性疾患(リウマチ、潰瘍性大腸炎等)、骨髄移植後の造血幹細胞の減少症、ガン、白血病に対する放射線照射または化学療法剤投与後の白血球、血小板、B細胞またはT細胞の減少症、貧血、感染症、ガン、白血病、AIDS、骨代謝異常(骨粗鬆症等)、各種変性疾患(アルツハイマー病、多発性硬化症等)、あるいは神経損傷の予防または治療薬として用いることが期待される。
また本発明のポリペプチドは、外胚葉、中胚葉または内胚葉由来器官の分化または増殖作用を有すると考えられるので、各器官(表皮、骨、筋肉、腱、心臓、腎臓、胃、腸、肝臓、膵臓、肺、気管等)の組織修復剤として用いることも期待される。
また、本発明のポリペプチドのポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いて、生体における該ポリペプチドの定量が行なえ、これによってそのポリペプチドと疾患との関係の研究あるいは疾患の診断等に利用することができる。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は該ポリペプチドあるいはその断片を抗原として用いて常法により作製することができる。
また本発明のポリペプチド(好ましくはその細胞外ドメインのポリペプチド)を用いることにより、例えばアフィニティーカラムを作製して、本ポリペプチドと結合する既知または未知の蛋白(リガンド)の同定、精製あるいはその遺伝子クローニングを行うことができる。
また本発明のポリペプチド(好ましくはその膜貫通領域または細胞内ドメインのポリペプチド)を用いて、例えばウエスト-ウエスタン法により、またはそのcDNA(好ましくは該ポリペプチドの膜貫通領域または細胞内ドメインをコードするcDNA)を用いて、例えば酵母2-ハイブリッド法により該ポリペプチドと細胞質内で相互作用する下流のシグナル伝達分子の同定、遺伝子クローニングを行うこともできる。
さらに本発明のポリペプチドを用いることによって、本ポリペプチドレセプターアゴニスト、アンタゴニストおよび受容体-シグナル伝達分子間の阻害剤等のスクリーニングを行なうこともできる。
本発明のcDNAは、多大な有用性が期待される本発明のポリペプチドを生産する際の重要かつ必須の鋳型となるだけでなく、遺伝病の診断や治療(遺伝子欠損症の治療またはアンチセンスDNA(RNA)によって、ポリペプチドの発現を停止させることによる治療等)に利用できる。また、本発明のcDNAをプローブとしてジェノミック(genomic)DNAを分離できる。同様にして、本発明cDNAと相同性の高いヒトの関連ポリペプチドの遺伝子、またマウス以外の生物における本発明ポリペプチドと相同性の高いポリペプチドの遺伝子を分離することも可能である。」(明細書第14頁1行?第23頁1行)

c.「実施例3:クローンOAF038-LeuおよびOAF038-Pro 本発明のクローンOAF038-LeuおよびOAF038-Proに関する実施例は、OM007と同様な手法を用いたが、以下の点のみ異なる。
[poly(A)+RNAの調製]
ヒト骨髄ストローマ細胞株HAS303(東京医科大学第一内科外山圭助教授、相沢信助手より供与)よりTRIzol reagent(登録商標、GIBCOBRLより販売)を用いて全RNAを抽出し、mRNA Purification Kit(商品名、Pharmaciaより販売)を用いてpoly(A)+RNAを精製した。
[全長cDNAのクローニングおよび塩基配列の決定]
全長cDNAのクローニングはMarathon cDNA Amplification Kit(商品名、Clontech社より販売)による3’RACE法を用いて、OM007と同様の方法で行なった。2本鎖cDNAを調製には、各クローンの由来、すなわち、HAS303のpoly(A)+RNAをより作製した。SSTで得られた塩基配列の情報に基づいて推定翻訳開始点ATG領域を含む28merのプライマーOAF038-F1:5’-AGAATGTGGAGCCATTTGAACAGGCTCC-3’(配列番号26)を作製して、該キットに添付されたアダプタープライマーとでPCRを行なった。クローンOAF038に特異的に増幅されたcDNAをOM007と同様な手法でリクローニングし、全塩基配列を決定し、配列番号9および12に示すcDNA配列を得たので、それぞれのクローンをOAF038-LeuおよびOAF038-Proと名付けた。さらにオープンリーディングフレームを決定し、アミノ酸に翻訳して各々配列番号7、8および10、11に示す配列を得た。
核酸配列データベースに登録されている既知の核酸配列に対してBLASTNおよびFASTAにより、またアミノ酸配列データベースに登録されている既知のポリペプチドのアミノ酸配列に対してBLASTX、BLASTPおよびFASTAにより検索した結果、本発明のポリペプチドOAF038-Leu、OAF038-proおよびそれぞれをコードする核酸配列と一致する配列はなかった。このことから、本発明のポリペプチドは、新規の膜蛋白質であることが判明した。しかし、相同性検索の結果、BLASTX、BLASTPおよびFASTAは、クローンOAF038-LeuおよびOAF038-Pro(配列番号7および10のアミノ酸配列5?343間の領域)とラットMCA-32蛋白質(Rat MCA-32protein,Genbank Accession U39546のアミノ酸配列42-268間の領域)の間に有為な相同性があることを示した。ポリペプチドOAF038-LeuおよびOAF038-ProはRat MCA-32proteinと同様に、細胞外領域に1gドメインを、細胞質領域にSH2ドメインを持つタンパクであり、これらの相同性に基づいて、クローンOAF038-LeuおよびOAF038-Proは、少なくとも上記のRat MCA-32proteinと同様な活性を保持すると期待される。
」(明細書第28頁23行?第30頁4行)

上記a?cの記載から、本願明細書に特定される配列番号7、配列番号10のポリペプチドは、クローンOAF0038-LeuおよびOAF038-Proと呼ばれる膜蛋白質であり、これらは、簡便にシグナルペプチドをコードする遺伝子を単離する方法であることが知られている(米国特許 No. 5,536,637 参照)「酵母SST法」を用い、周知(必要であれば、Experimental hematology, 1994, Vol.22, pp.482-487参照)の細胞株「ヒト骨髄由来の細胞株(ヒト骨髄ストローマ細胞株HAS303)」のcDNAライブラリーより、シグナル配列を有する蛋白質をコードするものを単離し、オープンリーディングフレームを決定してアミノ酸に翻訳して示されたものであることが理解される。

2.特許法第29条第1項柱書および同法第36条第4項の要件について
本願の請求項1,2に係る発明は、
「【請求項1】
配列番号7で示されるアミノ酸配列または配列番号7で示される配列の1番目?324番目で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項2】
配列番号10で示されるアミノ酸配列または配列番号10で示される配列の1番目?324番目で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。」
であり、本願明細書には、これらのポリペプチドについて、「酵母SST法」を用い、「ヒト骨髄由来の細胞株」のcDNAライブラリーより、シグナル配列を有する蛋白質をコードするものを単離し、そのアミノ酸配列を決定したことは記載されているが、請求項1,2のポリペプチドの作用・機能については具体的に記載されていない。
たとえ新規なポリペプチドが発見されたとしても、ポリペプチドの配列が決定されるだけでなく、ポリペプチドの作用・機能のような有用性の確認をもって、初めて産業上利用可能な発明であるといえ、また明細書にそのような有用性が具体的に記載されることで、当該明細書は当業者が発明を実施可能に記載しているといえる。
そうすると、請求項1、2に係る発明は、その有用性が明らかでなく、産業上利用することできる発明には該当せず、また本願明細書は、当業者が発明を実施できる程度に記載されているともいえない。

なお、仮に膜蛋白質であることを理由として、請求項1、2に係るポリペプチドは、レセプターとしての機能があることが推認できるとしても、いかなるリガンドに対するレセプターであるかは、明細書の記載からは明らかでない。レセプタの機能は、特定のリガンドが結合することにより奏されるものであるから、そのような機能を奏させるものが不明である以上、請求項1、2に係るポリペプチドの有用性が明らかであるとはいえない。
また、1.cに摘記したとおり、発明の詳細な説明には、「相同性検索の結果、BLASTX、BLASTPおよびFASTAは、クローンOAF038-LeuおよびOAF038-Pro(配列番号7および10のアミノ酸配列5?343間の領域)と ラット MCA-32 蛋白質(rat MCA-32 protein,Genbank Accession U39546のアミノ酸配列42-268間の領域)の間に有為な相同性があること」が記載されているが、平成20年5月16日付け意見書で請求人が説明するとおり、請求項1,2のポリペプチドとラットMCA-32との相同性は低いのであるから、ラットMCA-32の機能から請求項1,2のポリペプチドの機能を推定することもできない。

以上のとおり、請求項1、2係る発明は、その有用性が明らかでなく、産業上利用することできる発明とはいえず、また、本願明細書は、当業者が発明を実施できる程度に記載されているともいえない。

請求人は、審判請求書において、「本願明細書に記載された「免疫刺激/抑制活性」とは、分泌タンパク質やレセプターのような膜タンパク質の有する一般的な作用・機能の1つとして記載されているのではなく、OAF038の機能として記載されている。本願明細書にはOAF038以外に4種類の新規タンパク質が記載されているが、その何れも非免疫組織、例えば、ヒト成人脳組織やヒト胎児肝臓から単離されたものであり、免疫組織若しくは細胞から単離されたのはOAF038のみである。従って、当業者は、本願明細書に記載された「免疫刺激/抑制活性」が、OAF038の機能を指すものであると理解する。
さらに、この「免疫刺激/抑制活性」とは、具体的には、Bリンパ球に対する刺激/抑制活性のことを指し、出願明細書には「Tリンパ球およびBリンパ球あるいはどちらか一方の成長および増殖を制御(刺激あるいは抑制)すること」と明記されている(国際公開9/33873号パンフレット14頁20?21行目)。そして、この機能は、平成21年7月17日付意見書に添付して提出した実験成績証明書において実証されており、本願明細書の記載を十分に補足している。」と主張している。

しかし、上記1.bとして摘記した記載には、「本発明のポリペプチドおよびそれをコードするcDNAは、一つあるいはそれ以上の効果あるいは生物活性(以下に列挙するアッセイに関連するものを含む)を示すことが考えられる。」として「サイトカイン活性および細胞増殖/分化活性」、「免疫刺激/抑制活性」、「造血細胞制御活性」、「組織生成/修復活性」、「アクチビン/インヒビン活性」、「走化性/化学運動性活性」、「凝血および血栓活性」、「受容体/リガンド活性」、「他の活性」という多数の効果・生物活性が列挙されている。そして、ここでいう「本発明」とは、配列番号1、4、7、10、13、16または19で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド全体を指すと考えられ、特定のポリペプチドが特定の活性を有することは記載されていない。しかも、列挙された効果あるいは生物活性は、いずれも可能性を記載するに過ぎず、具体的に確認されたものではない。
また、仮に、「ヒト骨髄由来の細胞株」が免疫組織若しくは細胞であることを根拠に、列挙される活性のうち、「免疫刺激/抑制活性」の項に記載されるような抽象的な活性を持つ可能性を理解できたとしても、実験成績証明書に示された具体的な機能(免疫抑制受容体としての機能)までを理解することはできない。
さらに、免疫組織である骨髄組織が発現している膜タンパク質であれば、いずれも免疫刺激/抑制活性を有するとの技術常識はないし、OAF038が免疫組織のみで発現し、他の組織では発現しないタンパク質であることを確認している訳でもない。
したがって、請求人の示す実験成績証明書は参酌することができず、請求人の主張は採用できない。

よって、本願の請求項1、2に係る発明は、特許法第29条第1項柱書および同法第36条第4項の規定を満たさず、特許を受けることができない。


3.特許法29条第2項について
(1)引用文献1(Genomics, 1996, Vol.37, pp.273-280)
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
a.シングル配列トラップ法(SST法)によって単離された新規な分泌および膜タンパク質の評価(タイトル)

b.「この報告書では、我々は、マウス骨髄ストローマ細胞株ST-2細胞から構築された、およそ5900のクローンからなるSSTのcDNAライブラリーの大規模スクリーニングの概要について述べる。」(第273頁左欄5?9行)

以上より、引用文献1には、マウス骨髄ストローマ細胞株からSST法によって単離した新規な分泌タンパク質を評価したことが記載されている。

(2)対比、判断
本願の請求項1に係る発明は、請求項1に特定されるとおりのものであるが、上記1.のとおり、本願明細書の記載からみて、本願の請求項1のポリペプチドは、シグナルペプチド配列を持つ分泌または膜蛋白質を探索することができるSST法の一つ、「酵母SST法」を用い、「ヒト骨髄由来の細胞株(ヒト骨髄ストローマ細胞株HAS303)」のcDNAライブラリーより、シグナルペプチド配列を有する蛋白質をコードするものを単離し、そのアミノ酸配列を決定することで特定されたものであると認められる。
そこで、本願の請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明を対比すると、両者はいずれもSST法を用い、骨髄ストローマ細胞株のcDNAライブラリーより、シグナルペプチド配列を有する蛋白質をコードするものを単離して、そのアミノ酸配列を決定したポリペプチドである点で共通しており、本願の請求項1に係る発明では、「骨髄ストローマ細胞株」がヒト由来であるのに対して、引用文献1ではマウス由来である点(相違点1)、および本願の請求項1では「配列番号7で示されるアミノ酸配列または配列番号7で示される配列の1番目?324番目で示されるアミノ酸配列からなる」のに対して、引用文献1ではポリペプチドの配列が特定されていない点(相違点2)で相違する。

そこで、以下検討する。
相違点1については、引用文献1の発明ではマウス骨髄ストローマ細胞株がサンプルとされているが、マウス細胞株から新規な分泌および膜蛋白質を取得可能な方法が開示されている場合、同様な手法を用いてヒト細胞から新規な同様の分泌および膜蛋白質を取得しようとすることは、当該技術分野における自明な課題であり、ヒト骨髄ストローマ細胞株は本願優先日当時周知(必要であれば、Experimental hematology, 1994, Vol.22, pp.482-487 参照)であるから、適当なヒト骨髄ストローマ細胞株をサンプルとし、ここから新規な分泌および膜蛋白質タンパク質を探索しようとすることは、当業者が容易になし得ることである。そして本願発明は、このような容易になし得る探索の結果として得られた膜蛋白質の一つに過ぎない。
したがって、相違点1は、当業者が容易になし得ることである。
次に、相違点2について検討すると、SST法は、シグナルペプチド配列を利用して分泌および膜蛋白質タンパク質をコードするcDNAを探索する方法であるから、ヒト骨髄ストローマ細胞株をサンプルとして、引用文献1に記載されるSST法を適用することで、分泌および膜蛋白質タンパク質をコードするcDNAが探索できるのであり、そうして探索されたcDNAのうち、新規なポリペプチドをコードするものを特定すること、またそのようなcDNAがコードする新規なポリペプチドのアミノ酸配列を特定することにも、格別の困難性はない。
そうすると、相違点2も、当業者が容易になし得ることである。
したがって、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、請求項2に係るポリペプチドの発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願明細書には、新規な膜蛋白質として、配列番号7、10で表されるポリペプチドのアミノ酸配列が記載され、またcDNAの塩基配列等について記載されているものの、該ポリペプチドの機能や、該ポリペプチドが生物学的に活性であることや、特定のリガンドのレセプターであること等について何ら具体的に確かめられていない。してみると、請求項1,2のポリペプチドは、当業者が予想し得る範囲を超える格別顕著な効果を奏するものとは認められず、引用文献1に記載された方法を用いてヒト由来の細胞から得られる、多数の新規ポリペプチドの一つに過ぎないものと判断される。

(3)請求人の主張について
請求人は審判請求書において、「仮に、ヒト細胞から新規な分泌タンパク質を同定しようと試みて、引用文献1の方法を採用するとしても、OAF038のような全く新規なタンパク質を同定すること自体が相当困難であった。」と主張している。
しかし、請求人の審判請求書における「タンパク質をコードするヒト遺伝子は約2万2千種類余りであることが解明されているが、そのうち、分泌性タンパク質は47%程度(平成21年7月17日付意見書に添付の参考資料1(Drug Discovery Today, 10(15), 1057-1063 (2005))の1061頁左欄8?10行)、すなわち、約1万種類余り存在すると言われている。」との主張を鑑みれば、ヒト骨髄ストローマ細胞株から新規な分泌および膜タンパク質を探索しようとして引用文献1の方法を採用すれば、多数の新規ポリペプチドが発見されると考えられ、本願の請求項1、2に特定される配列7、10のポリペプチド(OAF038)は、そのような多数のポリペプチドに含まれるものの一つであると認められる。本願明細書の記載をみても、特にクローニング手法に工夫をした旨の記載も認められない。
そして、OAF038が、ヒト骨髄ストローマ細胞から探索されたシグナルペプチド配列を有する他のポリペプチドと比べて、当業者が予期できないような格別の効果を奏するものであるとはいえない。

(4)小活
したがって、本願の請求項1、2に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1、2に係る発明は、特許法第29条第1項柱書にいう産業上利用することができる発明に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、さらに、本願明細書は特許法第36条第4項の規定を満足せず、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-18 
結審通知日 2012-07-20 
審決日 2012-07-31 
出願番号 特願2000-526547(P2000-526547)
審決分類 P 1 8・ 14- Z (C07K)
P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 大輔深草 亜子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 田中 晴絵
中島 庸子
発明の名称 新規なポリペプチド、そのポリペプチドをコードするcDNA、およびその用途  
代理人 林 篤史  
代理人 大家 邦久  

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