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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1263243
審判番号 不服2011-16622  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-02 
確定日 2012-09-11 
事件の表示 特願2007-501863「トルクを磁気的に伝達するための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日国際公開、WO2005/086330、平成19年 9月13日国内公表、特表2007-526738〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2005年2月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年3月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年3月29日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月2日に拒絶査定不服審判請求がなされると共に、同日付手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.進歩性について

(1)本願の発明
本願の請求項14に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年8月2日付の手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、次の事項により特定されるとおりのものと認められる。
「一次側ロータリー部材と二次側ロータリー部材とを備えるトルクを磁気的に伝達させるための装置であって、
前記一次側ロータリー部材が前記二次側ロータリー部材と軸方向に重なり合い、
前記二次側ロータリー部材が前記一次側ロータリー部材により囲まれ、
前記一次側ロータリー部材が、強磁性を有さない導電性要素及び強磁性を有さない磁気透過性材を有し、かつ、永久磁石を有さず、
前記二次側ロータリー部材に永久磁石が取り付けられ、
前記二次側ロータリー部材は前記一次側ロータリー部材と軸方向に重なり合い、前記二次側ロータリー部材に対して、前記一次側ロータリー部材の軸上の位置を変化させる手段が変形可能であって、
前記一次側ロータリー部材がトルク生成装置に接続されるとともにトルク生成装置により駆動され、
前記二次側ロータリー部材は、前記永久磁石から発生する磁束線の一部又は全体により、前記一次側ロータリー部材の回転により前記二次側ロータリー部材の回転を引き起こすトルク活用装置に接続され、
前記永久磁石は前記二次側ロータリー部材に装着され、
前記一次側ロータリー部材は前記二次側ロータリー部材上で前記導電性要素を通過し、これにより前記二次側ロータリー部材が前記一次側ロータリー部材と軸方向で重なり合う総領域の割合に応じて前記二次側ロータリー部材におけるトルク及び回転を発生させることを特徴とする装置。」

なお、請求項1及び14の記載内容は、拒絶査定時点(即ち、平成22年12月15日付手続補正書)の請求項1及び14の記載内容と同一であるから、請求項1及び14に関する限りにおいて、本件補正と平成22年12月15日付手続補正書による手続補正とは、補正内容に変わりがないものである。
さらに、上記手続補正書の請求項14には、「一次側トルク駆動ロータリー部材」と「一次側ロータリー部材」、及び、「二次側駆動ロータリー部材」と「二次側ロータリー部材」のように、同じ部材に対して異なる表記が混在している(上記「2.(1)参照」)が、これらを「一次側ロータリー部材」、及び、「二次側ロータリー部材」に統一して表記することにより本願発明を上記のように認定した。

(2)引用文献
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-252800号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、渦電流継手を利用した、例えば自動車エンジンに備えられたオルターネータ、コンプレッサ等の補機に、エンジンからの動力を調整して伝達するようにした動力伝達装置の制御方法及び装置に関するものである。」

・「【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の動力伝達装置の制御方法は、相対回転可能な2軸のうちの一方に磁石を、かつ他方に、前記磁石と対向して、該磁石により誘起される渦電流により磁石につれ回されるようにした非磁性導体板を設けるとともに、前記導体板における磁石と反対側の面に対向するように磁性体のヨークを配設してなる渦電流継手における前記2軸の一方を、回転手段に、かつ他方を被回転手段にそれぞれ接続し、前記磁石、導体板及びヨークのうちいずれか1又は2の部材を、残りの部材との対向距離又は対向面積が変化するように移動可能とした動力伝達装置の制御方法であって、被回転手段に要求される回転数と被回転手段に接続された軸の実際の回転数との差に基づいて、その差が大きいほど、前記対向距離を小とし、又は対向面積を大とするように前記磁石、導体板及びヨークのうちいずれか1又は2の部材を、残りの部材に対して移動させることを特徴としている。」

・「【0032】図2は、請求項3及び4記載の発明の制御方法を実施するのに用いる請求項7、8及び9記載の発明の装置の実施例(第2実施例)を示す。第2実施例、及び以下に説明する他の実施例において、図1に示す第1実施例のものと同一の構成部材には、同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0033】第2実施例においては、第1の軸(5)に固着した円筒体(30)の内面に、上記導体板(10)と同材質で同様の作用をする円筒形の導体板(31)を固着するとともに、第2の軸(6)にスプライン結合により軸線方向に摺動可能で、かつ相対回転不能として外嵌した移動筒(32)の左端部外周面に、円筒形又は複数の扇形断面の棒状のものを円周方向に配設することにより、全体として円筒形となるようにした永久磁石(33)を固着して、永久磁石(33)と導体板(31)とを微小間隙を置いて内外に対向させ、移動手段(34)により移動筒(32)を軸線方向に移動させることによって、永久磁石(33)と導体板(31)との対向面積(W)を変化しうるようにしてある。円筒形(30)を導磁性材料により形成してヨークとするとともに、第1の軸(5)及び移動筒(32)も導磁性材料とするのがよい(請求項4及び8記載の発明)。
【0034】移動手段(34)は、この実施例においては、移動筒(32)の右端部外周に形成した円筒状ラック部(32a)に、ケース(4)の右側面に設けたブラケット(35)に枢支したピニオン(36)を噛合し、このピニオン(36)を、ブラケット(35)に固着したモータ(37)により正逆回転させるようにしたものとしてある。
【0035】制御装置(38)は、回転手段(2)に接続された第1の軸(5)の回転数(Na)を検知するセンサ(39)と、このセンサ(39)により検知された回転数が大きいほど、対向面積(W)を小とするように移動手段(34)のモータ(37)を制御する制御回路(制御手段)(40)とからなっている。
【0036】第2実施例の装置を用いると、自動車の急加速時等に、エンジン回転数が増大し、第1の軸(5)の回転数(Na)が大となると、制御回路(40)によりモータ(37)が作動させられて、移動筒(32)が右方に移動させられ、対向面積(W)が小となる。
【0037】すると、導体板(31)を通る磁力線の数が少なくなり、第1の軸(5)から第2の軸(6)への渦電流の誘起によるつれ回り力が小となるので、第2の軸(6)は、(Na)が急上昇する前とほぼ同程度の回転数(Nb)で回転し続けることができ、被回転手段(3)に常時安定した回転力を供給し続けることができるともに、この動力伝達装置(1)による負荷が小となるのでエンジンの回転力を自動車走行用の駆動力として有効に使用することができる。」

・「【0048】
【発明の効果】以上から明らかなように、本発明によると、被回転手段に必要な回転力を、回転手段の回転数の大小に拘らず、常に過不足なく安定して回転手段から取出すことができ、エネルギーロスを少なくすることができる。」

・図2には、回転移動筒32が回転円筒体30により囲まれて、両者が軸方向に重なり合う構成、及び、回転円筒体30が導体板31を有するが永久磁石を有さない構成が示されている。
さらに、回転円筒体30が回転手段2に接続されるとともに回転手段2により駆動される点、及び、前記回転円筒体30は前記回転移動筒32に対向する導体板31の軸上の位置が移動される点が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には図2の第2実施例に対応する次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「回転円筒体30と回転移動筒32とを備える動力を渦電流継手を利用して伝達させるための動力伝達装置1であって、
前記回転円筒体30が前記回転移動筒32と軸方向に重なり合い、
前記回転移動筒32が前記回転円筒体30により囲まれ、
前記回転円筒体30が、非磁性の導体板31及び導磁性材料により形成したヨークを有し、かつ、永久磁石を有さず、
前記回転移動筒32に永久磁石33が固着され、
前記回転移動筒32は前記回転円筒体30と軸方向に重なり合い、前記回転円筒体30に対して、前記回転移動筒32の軸上の位置を移動させる移動手段34が円筒状ラック部32aに正逆回転するピニオン36を噛合してなるものであって、
前記回転円筒体30が回転手段2に接続されるとともに回転手段2により駆動され、
前記回転移動筒32は、前記永久磁石33から発生する磁力線により、前記回転円筒体30の回転により前記回転移動筒32の回転を引き起こす被回転手段に接続され、
前記永久磁石33は前記回転移動筒32に固着され、
前記回転円筒体30は前記回転移動筒32に対向する前記導体板31の軸上の位置が移動され、これにより前記回転移動筒32が前記回転円筒体30と軸方向で重なり合う対向面積を変化して前記回転移動筒32に動力を伝達させる動力伝達装置1。」

(3)対比
本願発明と引用発明を対比する。

最初に、「強磁性を有さない磁気透過性材」の定義、及び、その技術的意義について検討する。
(ア)「強磁性体」の定義について、「きょうじせい(強磁性)[Ferromagnetism]鉄のように磁石に強く引きつけられる物質を強磁性体、その性質を強磁性とよぶ。室温で強磁性の元素はFe,Ni,Co,Gdの四つだけである。ただし合金、化合物には非常に多く存在する。・・・。従って、強磁性体とは自発磁化を持つ物質であるということができる。」(「エレクトロニクス用語辞典」トヨタ技術会発行 昭和61年12月26日発行、第104頁左欄第4行から同欄第16行)と記載されているように、強磁性とは、自発磁化をもつ物質のことと解され、これは、請求人が、平成24年2月27日付けのファックスの第3頁第17行?同頁第22行において認めるように、「『強磁性』が外部磁場が作用すると磁化され、外部磁場が作用しなくなっても磁化された状態が維持される性質(自発磁化)を意味することは当業者にとって技術常識である。」との主張とも整合するものである。
(イ)さらに、「工業材料大辞典」(1997年11月20日初版第1刷発行 高橋清他3名監修 (株)工業調査会発行)には、以下の点が記載されている。
「磁石材料[magnet materials]永久磁石として用いられる材料。硬質磁性材料ともいわれ、透磁率が小さく磁化し難いが、いったん磁化すると逆向きの大きな外部磁界を加えないと磁化が除かれない。」(第504頁左欄第7行?同欄第12行)と記載され、
「磁芯材料[core materials]磁芯材料は変成器や継電器などの中でコイルの芯として用いられ、小さな外部磁界でも容易に磁化する高い透磁率を持つものが要求される。純鉄、ケイ素鋼板、パーマロイなどの合金のほか、圧粉磁芯、酸化物(フェライト)などがある。」(第504頁右欄第9行から同欄第16行)と記載されている。
この記載からみて、自発磁化を持つ物質である強磁性体である磁石材料は、透磁率が小さく、磁路を完全に通すことが求められる箇所に使用される材料は、高い透磁率であることが技術常識であるといえる。
(ウ)一方、本願の出願当初の明細書の【0011】には、「磁気透過性材」の目的として、「磁気透過性材を使用する目的は、磁極面の間に連続的な磁路を提供し、これにより最適な磁路の配置を生じせしめることである。」及び「導電性の層及び磁石の裏に磁路を完全に通すことが、磁性体の目的である。」、及び、「鉄又はスチール等の磁気透過性材から製造される」と記載されており、請求人が主張するように、自発磁化を持つ物質である強磁性体である磁石材料は、透磁率が小さく、磁路を完全に通すことが求められる箇所に使用される材料は、高い透磁率であることが技術常識であることを踏まえると、本願発明の磁気透過性材は、自発磁化を持つ物質である強磁性体である磁石材料ではなく、高い透磁率である材料であるといえる。
(エ)さらに、請求人による、平成24年2月27日付けのファックスの第2頁第16行?第2頁第18行に「『ステンレスがスチールの範疇に含まれること』及び『ステンレスの一種であるオーステナイト系ステンレスが常磁性体であって強磁性体ではない(強磁性を有さない)こと』は、当業者にとって自明な技術常識である」と記載されているように、高い透磁率である材料に各種のものが含まれることは技術常識であるといえる。

(オ)後者の「回転円筒体30」は前者の「一次側ロータリー部材」に、後者の「回転移動筒32」は前者の「二次側ロータリー部材」に、後者の「動力を渦電流継手を利用して伝達させる」態様は前者の「トルクを磁気的に伝達させる」態様に、後者の「動力伝達装置1」は前者の「装置」に、それぞれ相当している。

(カ)次に、後者の「非磁性の導体板31」は前者の「強磁性を有さない導電性要素」に相当し、後者の「導磁性材料により形成したヨーク」と前者の「強磁性を有さない磁気透過性材」とは、「所定の性質の磁気透過性材」との概念で共通するから、結局、後者の「回転円筒体30が、非磁性の導体板31及び導磁性材料により形成したヨークを有」する態様と前者の「一次側ロータリー部材が、強磁性を有さない導電性要素及び強磁性を有さない磁気透過性材を有」する態様とは、「一次側ロータリー部材が、強磁性を有さない導電性要素及び所定の性質の磁気透過性材を有」するとの概念で共通している。

(キ)続いて、後者の「回転移動筒32に永久磁石33が固着され」る態様は前者の「二次側ロータリー部材に永久磁石が取り付けられ」る態様に相当している。

(ク)また、後者の「回転円筒体30に対して、回転移動筒32の軸上の位置を移動させる移動手段34」と前者の「二次側ロータリー部材に対して、一次側ロータリー部材の軸上の位置を変化させる手段」とは、「二次側ロータリー部材と一次側ロータリー部材の軸上の相対的な位置を変化させる手段」との概念で共通し、後者の「円筒状ラック部32aに正逆回転するピニオン36を噛合してなるもの」は前者の「変形可能」な態様に相当するから、結局、後者の「回転円筒体30に対して、回転移動筒32の軸上の位置を移動させる移動手段34が円筒状ラック部32aに正逆回転するピニオン36を噛合してなるもの」と前者の「二次側ロータリー部材に対して、一次側ロータリー部材の軸上の位置を変化させる手段が変形可能」な態様とは、「二次側ロータリー部材と一次側ロータリー部材の軸上の相対的な位置を変化させる手段が変形可能」との概念で共通している。

(ケ)さらに、後者の「回転手段2」は前者の「トルク生成装置」に、後者の「永久磁石33から発生する磁力線」は前者の「永久磁石から発生する磁束線の一部又は全体」に、後者の「被回転手段」は前者の「トルク活用装置」に、後者の「回転円筒体30は回転移動筒32に対向する導体板31の軸上の位置が移動され」る態様は前者の「一次側ロータリー部材は二次側ロータリー部材上で導電性要素を通過し」とする態様に、後者の「回転移動筒32が回転円筒体30と軸方向で重なり合う対向面積を変化して前記回転移動筒32に動力を伝達させる」態様は前者の「二次側ロータリー部材が一次側ロータリー部材と軸方向で重なり合う総領域の割合に応じて前記二次側ロータリー部材におけるトルク及び回転を発生させる」態様に、それぞれ相当している。

したがって、両者は、
「一次側ロータリー部材と二次側ロータリー部材とを備えるトルクを磁気的に伝達させるための装置であって、
前記一次側ロータリー部材が前記二次側ロータリー部材と軸方向に重なり合い、
前記二次側ロータリー部材が前記一次側ロータリー部材により囲まれ、
前記一次側ロータリー部材が、強磁性を有さない導電性要素及び所定の性質の磁気透過性材を有し、かつ、永久磁石を有さず、
前記二次側ロータリー部材に永久磁石が取り付けられ、
前記二次側ロータリー部材は前記一次側ロータリー部材と軸方向に重なり合い、前記二次側ロータリー部材と前記一次側ロータリー部材の軸上の相対的な位置を変化させる手段が変形可能であって、
前記一次側ロータリー部材がトルク生成装置に接続されるとともにトルク生成装置により駆動され、
前記二次側ロータリー部材は、前記永久磁石から発生する磁束線の一部又は全体により、前記一次側ロータリー部材の回転により前記二次側ロータリー部材の回転を引き起こすトルク活用装置に接続され、
前記永久磁石は前記二次側ロータリー部材に装着され、
前記一次側ロータリー部材は前記二次側ロータリー部材上で前記導電性要素を通過し、これにより前記二次側ロータリー部材が前記一次側ロータリー部材と軸方向で重なり合う総領域の割合に応じて前記二次側ロータリー部材におけるトルク及び回転を発生させる装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「所定の性質の」磁気透過性材に関し、本願発明は、「強磁性を有さない」磁気透過性材と特定しているのに対し、引用発明は、かかる特定がなされていない点。
[相違点2]
「二次側ロータリー部材と一次側ロータリー部材の軸上の相対的な位置」を変化させる手段に関し、本願発明が「二次側ロータリー部材に対して、一次側ロータリー部材の軸上の位置」を変化させるとしているのに対し、引用発明は、「一次側ロータリー部材に対して、二次側ロータリー部材の軸上の位置」を変化させるようにしている点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1について
上記「(3)対比」の「ウ」に記載したように、本願発明の磁気透過性材は、自発磁化を持つ物質である強磁性体である磁石材料ではなく、高い透磁率である磁芯に使用される材料であるといえる。
引用発明における「導磁性材料により形成したヨーク」は、ヨークとしての機能を有するものであり、さらに、磁路を形成する材料が「(1)保磁力が小さいこと、(2)透磁率が高いこと、(3)飽和磁束密度が高いこと」が求められることは技術常識であり、(たとえば、特開平4-13850号公報の第2頁左上欄第7行から同欄第12行参照)ので、透磁率が高く、かつ、保持力が小さい材料である、「強磁性を有さない」磁気透過性材を使用することが示唆されているといえる。
一方、上記「(3)対比」の「エ」に記載したように、「請求人による、平成24年2月27日付けのファックスの第2頁第16行?第2頁第18行に「『ステンレスがスチールの範疇に含まれること』及び『ステンレスの一種であるオーステナイト系ステンレスが常磁性体であって強磁性体ではない(強磁性を有さない)こと』は、当業者にとって自明な技術常識である」と記載されているように、透磁率が高い材料に各種のものが含まれることは技術常識であるといえるから、引用発明の導磁性材料により形成したヨークに「自発磁化を有さない磁気透過性材」を採用することが当業者にとって格別困難であるとは認められない。

そうすると、引用発明において、上記の技術常識を踏まえて、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎないものというべきである。

・相違点2について
引用例の段落【0005】の「磁石、導体板及びヨークのうちいずれか1又は2の部材を、残りの部材との対向距離又は対向面積が変化するように移動可能とした」との記載に基づけば、引用発明において、「一次側ロータリー部材」に対して「二次側ロータリー部材」の軸上の位置を変化させる代わりに、「二次側ロータリー部材」に対して「一次側ロータリー部材」の軸上の位置を変化させるように改変することで、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎないものというべきである。

そして、本願発明の全体構成により奏される効果も、引用発明、及び、上記技術常識から当業者が予測し得る範囲内のものである。

したがって、本願発明は、引用発明、及び、上記技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成24年2月27日付けのファックスの第4頁第11行?同頁第12行において、「引用発明では、『導磁性材料により形成したヨーク』が『強磁性』であるものを含んでいる」と主張するが、引用例には、例えば、【0019】に、「磁力線の強度を増すため、移動筒(9)、特にその円板(9a)の部分を導磁性材料により形成してヨークとするとともに、第1の軸(5)及び円板(7)をも導磁性材料により形成し、永久磁石(8)から円板(7)-第1の軸(5)-円板(9b)-導体板(10)を通って永久磁石(8)に戻る閉ループの磁路を形成するのがよい。」と記載されているように、「磁力線の強度を増すため、移動筒(9)、特にその円板(9a)の部分を導磁性材料により形成してヨークとする」点が記載されているのみであり、強磁性のものであることは記載されていないので、請求人の上記の主張を採用することができない。

4.まとめ
以上のとおり、本願の請求項14に係る発明は、引用発明、及び、上記技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し拒絶をされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-28 
結審通知日 2012-04-02 
審決日 2012-05-02 
出願番号 特願2007-501863(P2007-501863)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉浦 貴之  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 藤井 昇
大河原 裕
発明の名称 トルクを磁気的に伝達するための装置  
代理人 清原 義博  

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