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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1263246
審判番号 不服2011-24157  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-09 
確定日 2012-09-10 
事件の表示 特願2008- 62247「放熱構造体および伝熱シートの使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月28日出願公開、特開2008-199039〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年3月31日に出願した特願2005-100622号の一部を平成20年3月12日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「【請求項1】
膨張黒鉛を素材とする伝熱シートの使用方法であって、
該伝熱シートを発熱体と放熱体との間に配設し、厚さ方向から加わる加圧力が2.0MPa以上の条件で使用する
ことを特徴とする伝熱シートの使用方法。」

2.引用刊行物記載の発明

(2-1)これに対して、当審における、平成24年3月29日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開2002-88171号公報(平成14年3月27日公開、以下「引用例1」という。)には、「熱伝導性シートおよびその製造方法ならびに放熱装置」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【請求項1】高分子中に熱伝導性繊維を含有する熱伝導性シートにおいて、シートの厚み方向に対して熱伝導性繊維が傾斜配向されてなることを特徴とする熱伝導性シート
【請求項2】熱伝導性繊維が、黒鉛化炭素繊維、金属繊維、ポリベンザゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の熱伝導性シート」

・「【0032】本発明の放熱装置は、発熱部材と伝熱部材間に、シートの厚み方向に対して熱伝導性繊維が傾斜配向された熱伝導性シートを介在させることを特徴とする。発熱部材としては、マイクロプロセッサー、ドライブ、メモリーなどの半導体素子、電源、光源、モーター、駆動装置など、伝熱部材としては、通常の放熱器、冷却器、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、ダイパッド、プリント基板、冷却ファン、ヒートパイプ、筐体などが挙げられる。」

これらの記載事項によると、引用例1には、

「熱伝導性シートの使用方法であって、発熱部材と伝熱部材間に、熱伝導性シートを介在させる熱伝導性シートの使用方法。」の発明(以下「引用例1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(2-2)同じく、当審における、平成24年3月29日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平3-70754号公報(平成3年3月26日公開、以下「引用例2」という。)には、「高熱伝導性ゴム組成物」に関する発明が開示されており、そこには、次の事項が記載されている。

・「【特許請求の範囲】
ゴムに、膨張黒鉛を薄片化した黒鉛をチタネートカップリング剤で表面処理したものを添加した高熱伝導性ゴム組成物」

・「(従来の技術)
サイリスタ、パワートランジスタ、ダイオードなどの電子部品は、作動中の発熱のためにその特性が徐々に低下したり、ときには部品自体が破損に至ることもある。そのため、絶縁性を確保しつつ、これら電子部品から発生する熱をすみやかに除去する手段として、以下のようなものが知られている。
電子部品と放熱体との間に、雲母や、ポリエステルシートの絶縁材を介装してこの絶縁材の両面に放熱グリースを塗布したもの。(以下、従来技術Iという)」(第(1)頁左下欄第14行から右下欄第5行)

(2-3)同じく、当審における、平成24年3月29日付けで通知した拒絶の理由に引用した国際公開第99/19908号(1999年4月22日公開、以下「引用例3」という。)には、「熱伝導部品およびそれを用いた熱接続構造体」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「 第2の製造方法では、天然黒鉛を硫酸や硝酸などの酸で処理した後に、加熱処理して得られる膨張黒鉛を圧延成形して膨張黒鉛シートを得る。この膨張黒鉛シートは、可撓性を有しガスケット等に利用できるが、第1の製造方法で得られるグラファイトシートに比べて熱伝導率は、1/10程度であるが、製造コストが非常に小さいという利点がある。」(第19頁第12行から第18行)

・「1.温度の異なる少なくとも2カ所を接続して高温部に発生する熱を効率良く低温部に移動させる熱経路を構成する熱伝導部品であって、
前記熱経路の形状に応じて成形される良熱伝導材質から成る熱伝導手段と、
前記熱伝導手段を収容する、所定の厚さを有する可撓性シートから構成される収容手段とを備え、該可撓性シートを介して前記高温部および低温部に熱的に接続されることを特徴とする熱伝導部品。」(請求の範囲)

(2-4)同じく、当審における、平成24年3月29日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開2000-332472号公報(平成12年11月30日公開、以下「引用例4」という。)には、「電子機器の放熱装置」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0008】第3に、ねじ6,6の締め付けトルクにより電子部品3と放熱部材2との密着力が相違する。例えば締め付けトルクが小さいと電子部品と放熱部材2との密着力が弱くなりすぎ、締め付けトルクを大きくしすぎると電子部品3に過大なストレスが与えられ、電子部品を破損することも有り得る。」

(2-5)同じく、当審における、平成24年3月29日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平9-148497号公報(平成9年6月6日公開、以下「引用例5」という。)には、「ヒートシンク」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0036】図13は締め付けトルクと熱抵抗との関係を示す図である。」

・図13には、締め付けトルクが大きくなるほど熱抵抗が小さくなる傾向を有しており、また、ある一定の締め付けトルク以上になると熱抵抗がほぼ一定になること、および、変曲点は10kg-cm程度であること、が記載されている。

3.対比
本願発明と引用例1記載の発明を対比すると、後者における「熱伝導性シート」、「発熱部材」、「伝熱部材」は、それぞれ、前者における「伝熱シート」、「発熱体」、「放熱体」に相当する。

したがって、両者は、
「伝熱シートの使用方法であって、該伝熱シートを発熱体と放熱体との間に配設して使用する伝熱シートの使用方法。」である点で一致し、次の各点において相違する。

[相違点1]
「伝熱シート」について、本願発明においては、「膨張黒鉛を素材とする」ものであるのに対し、引用例1記載の発明においては、高分子中に黒鉛化炭素繊維などの熱伝導性繊維を含有するものである点。

[相違点2]
本願発明においては、「厚さ方向から加わる加圧力が2.0MPa以上の条件で使用する」のに対し、引用例1記載の発明においては、加圧力については記載されていない点。

4.判断
相違点1について検討すると、引用例2、3には、熱伝導性のシートを、膨張黒鉛を素材として形成することが記載されており、引用例1記載の発明において、熱伝導性シートを、膨張黒鉛を素材とするものとすることが、当業者にとって、格別に想到困難なことであるとは認められない。

相違点2について検討すると、引用例4に、放熱部材の締め付けトルクが小さいと密着力が弱くなりすぎ、締め付けトルクを大きくしすぎると、電子部品に過大なストレスが与えられることが記載されており、引用例5には、図13に、締め付けトルクと熱抵抗の関係が示され、締め付けトルクが大きくなるほど熱抵抗が小さくなる傾向を有しており、また、ある一定の締め付けトルク以上になると熱抵抗がほぼ一定になることが記載されているので、締め付けトルクを、実験的に求めた変曲点以上の適宜な値とすることは、当業者にとって、容易に選択し得ることにすぎない。また、引用例5の図13における変曲点が10kg-cm程度であり、本願発明が、発熱体に対するストレスについてなんら考慮せずに加圧力を2.0MPa以上としていることを考慮すれば、加圧力を2.0MPa以上とすることも、当業者にとって格別なことであるとは認められない。

そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1記載の発明、引用例2?5の記載から当業者が予測し得る程度のものである。

なお、請求人は、平成24年5月30日付け意見書中で、「引用文献5の図13を見た当業者であれば、「変曲点となる加圧力を把握しなければ所定の伝熱性能が得られるようにならない」、と判断するはずである。そして、当業者であれば、「熱抵抗のカーブの変曲点はシートの性質によって変動し、一定ではない」、とも理解するはずである。つまり、引用文献5の図13を見た当業者であれば、「性質(かさ密度)の異なる膨張黒鉛シートでは熱抵抗が一体になる加圧力はそれぞれ異なる」と認識し、「性質(かさ密度)の異なる膨張黒鉛シートに共通して熱抵抗を一定にできる加圧力は不明であり、適切な加圧力は容易に把握できない」と判断すると考えるのが妥当であるから、「加圧力を本願請求項1のような値にすることには格別の困難性が無い」とのご判断は失当である。」と主張しているが、引用例5の記載を参照すれば、性質の異なるシートの変曲点を求め、各変曲点における締め付けトルクのうちの最大値以上の締め付けトルクとすれば、それら性質の異なるシートに対し、熱抵抗を一定にできることは、当業者にとって、容易に想到し得ることにすぎず、本願発明においても、図2を参照すれば、かさ密度1.0Mg/m^(3)以下の異なるシートに対し、シートに応じて変動している変曲点の締め付け圧力を求め、その最大値である2.0MPa以上としているにすぎないので、該請求人の主張は採用できない。さらに、本願図2を参照すると、かさ密度1.0Mg/m^(3)以下のものしかないが、かさ密度が大きくなるに従って、変曲点の締め付け圧力は大きくなっており、かさ密度1.0Mg/m^(3)以上では、変曲点の締め付け圧力が2.0MPa以上である可能性大であり、2.0MPaという数値自体に格別な意味があるか疑問である。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例1記載の発明、引用例2?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-18 
結審通知日 2012-06-26 
審決日 2012-07-19 
出願番号 特願2008-62247(P2008-62247)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 英夫井上 猛  
特許庁審判長 丸山 英行
特許庁審判官 小関 峰夫
杉浦 貴之
発明の名称 放熱構造体および伝熱シートの使用方法  
代理人 山内 康伸  

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