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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C05B
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C05B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C05B
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C05B
管理番号 1263289
審判番号 不服2009-4128  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-26 
確定日 2012-09-13 
事件の表示 特願2002-329833「燐酸肥料用原料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月10日出願公開、特開2004-161544〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年11月13日を出願日とする出願であって、平成20年10月28日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日に意見書が提出されたところ、平成21年 1月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成21年 2月26日付けで審判請求がされ、同年 3月26日に手続補正書及び審判請求書の手続補正書が提出され、平成23年 3月22日付けで審尋がされ、同年 5月26日に回答書が提出され、平成23年12月27日付けで当審において拒絶理由が通知され、平成24年 3月 5日に意見書が提出され、同年 3月21日付けで審尋がされ、同年 5月24日に回答書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成21年 3月26日付け手続補正により補正された請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1?2に係る発明は、次のとおりのものである。

「【請求項1】 高炉で製造された溶銑の予備脱燐処理工程で生成する燐含有スラグであり、スラグ中のP_(2) O_(5) に換算した燐酸濃度(質量%)がスラグ中のフッ素濃度(質量%)に対して下記の(1)式を満足する燐含有スラグからなる燐酸肥料用原料の製造方法であって、予備脱燐処理工程で脱燐処理される前の溶銑の燐濃度を0.15質量%から0.25質量%の範囲内に調整し、該溶銑を、CaO源と酸素源とを脱燐処理容器内の浴面又は浴中の同一位置に供給することにより行われる予備脱燐処理工程で脱燐処理することを特徴とする、燐酸肥料用原料の製造方法。
燐酸濃度≧5.6×フッ素濃度+10…(1)
【請求項2】 高炉で製造された溶銑の予備脱燐処理工程で生成する燐含有スラグであり、スラグ中のP_(2 )O_(5 )に換算した燐酸濃度(質量%)がスラグ中のフッ素濃度(質量%)に対して下記の(1)式を満足する燐含有スラグからなる燐酸肥料用原料の製造方法であって、予備脱燐処理工程で脱燐処理される前の溶銑の燐濃度を0.15質量%から0.25質量%の範囲内に調整し、該溶銑を、CaO源と酸素源とを脱燐処理容器の浴面上方から浴面に投射することにより行われる予備脱燐処理工程で脱燐処理することを特徴とする、燐酸肥料用原料の製造方法。
燐酸濃度≧5.6×フッ素濃度+10…(1)」

(以下、それぞれ「本願請求項1」及び「本願請求項2」という。また、平成21年 3月26日付け手続補正により補正された明細書を「本願明細書」という。)


第3 当審で通知した拒絶の理由
当審で通知した拒絶の理由は、以下の1及び2に示す理由を含むものである。

<拒絶の理由1> この出願は、発明の詳細な説明が下記のとおり不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、同法同条同項に規定する要件を満たしていない。

<拒絶の理由2> この出願は、明細書の特許請求の範囲の記載が下記のとおり不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同法同条同項に規定する要件を満たしていない。


第4 当審の判断
1 拒絶の理由1について
(1)はじめに
特許法第36条第4項1号の規定による委任を受けた経済産業省令である特許法施行規則第24条の2には、発明の詳細な説明は、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない」ことを規定する。
以下、この出願の発明の詳細な説明が該規定に適合するものであるか、検討する。

(2)本願請求項1及び本願請求項2について
ア 本願請求項1及び本願請求項2にはいずれも、
「 燐酸濃度[質量%]≧5.6×フッ素濃度[質量%]+10
…(1)式 」
を満足する燐含有スラグからなる燐酸肥料用原料の製造方法が規定される。

イ 上記(1)式について、発明の詳細な説明には、「スラグ中に含まれるフッ素量と燐酸の溶解性との関係を解明した」結果、「溶解性の燐酸をスラグ中に確保するためには、スラグ中のP_(2)O_(5)に換算した燐酸濃度[質量%]を、少なくともスラグ中のフッ素濃度[質量%]の5.6倍以上確保する必要があるとの知見を得た」、「即ち」「スラグ中のP_(2)O_(5)に換算した燐酸濃度がフッ素濃度の5.6倍未満の場合には、スラグ中の燐酸のほとんどはフルオアパタイトの形態で存在し、水溶性を有する燐酸を得ることができないとの知見を得た」こと(段落【0013】)、及び、肥料として最低限確保することが必要な溶解性燐酸量(10質量%)を考慮して導き出された式であること(【0014】)が文言で記載される。

しかしながら、これらは単なる「結果」の文言での提示にすぎず、
- その「解明」がどのようになされたものであるか
- いかにして、「スラグ中のP_(2)O_(5)に換算した燐酸濃度」が「フッ素濃度の5.6倍」を境に水溶性を有する燐酸をスラグ中に確保することができる/できないといい得る知見を得ることができたか
に関する具体的な説明は、発明の詳細な説明に直接的には記載されていない。

ウ (1)式において、フッ素濃度への係数を5.6とすることについて、発明の詳細な説明に間接的に記載されているか、例えば具体例に実験的根拠があるか見てみるに、従来例を含む試験例はいずれも予備脱燐処理工程で脱燐処理するに際してフッ素含有物質を添加しない製造方法すなわち(1)式が規定される燐含有スラグの原料である脱燐処理される前の溶銑自体においてそもそもフッ素濃度が「ゼロ」の具体例が示されるのみであり、そのような溶銑の予備脱燐工程から得られた燐含有スラグのフッ素濃度もまた「ゼロ」である。
このようにフッ素濃度が「ゼロ」の例しか示されていない該具体例からは、(1)式におけるフッ素濃度への係数「5.6」は導き出せるものとは認められない。

エ (1)式におけるフッ素濃度への係数を5.6とすることについて、発明の詳細な説明に間接的に記載されているか、例えば何らかの理論的根拠が示されるか見てみるに、発明の詳細な説明には(1)式が呈示されるのみであり、その導出過程は記載されていないので、「5.6」という係数が何らかの理論に基づき計算により導き出せたものであるともいえない。

オ また、(1)式におけるフッ素濃度への係数を5.6とすること及び上記段落【0013】に示される「解明」及び「知見」に関する事項は、いずれも本願発明の技術の分野において当業者の技術常識であるともいえない。

カ 以上のとおり、この出願の発明の詳細な説明には、「フッ素濃度」に「5.6」の係数を用いた(1)式を導出することの理論的根拠も実験的根拠も示されておらず、(1)式を用いた規定をなすことが当業者の技術常識であるともいえないため、(1)式を満足することを規定する請求項1及び2に係る発明及びこれら発明を引用する請求項3?9に係る発明に対して、発明の詳細な説明には、その技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえない。

(3)請求人の主張について
ア 請求人は当審による拒絶理由及び審尋に対する意見書及び回答書において、(1)式の技術的意義は本願明細書の段落【0013】?【0014】に記載したとおりであるし、本願出願日後に公開された国際出願(国際出願番号PCT/JP02/04785、国際公開第2002/092537号、国際公開日は2002年11月21日)の公開公報第13頁本文1行目?第14頁第1行目にかけて係数「5.6」について詳細に説明するとおりであるから、(1)式の係数5.6には技術的な根拠があると主張する。

イ しかしながら、本願明細書の全記載を参照しても、上記(2)に示したとおり、(1)式の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえないことに変わりはない。

ウ 請求人が言及した上記国際出願は本願出願後に公開された技術文献ではあるが、本願出願時の技術常識として(1)式、特に係数を「5.6」とする技術的事項が知られていたことを認めるに足る証拠であるかどうか以下検討する。

(ア) 上記国際出願には、スラグ中にフッ化アパタイトとして固定された燐酸のうち、半量がク溶性リン酸であり半量が非ク溶性リン酸である、ということが新たな知見として示される。

このとき、フッ化アパタイトの化学式より、
「 フッ化アパタイトとして固定された燐酸量[濃度]]
=11.2×フッ化アパタイトとして固定されたフッ素量[濃度] 」
であるといえるから、
「 フッ化アパタイトとして固定された燐酸量[濃度]の半量
=(11.2×フッ化アパタイトとして固定されたフッ素量)[濃度] ÷2 」
であり、そうすると
「 フッ化アパタイトとして固定された非可溶性燐酸量[濃度]
=5.6×フッ化アパタイトとして固定されたフッ素量[濃度]
… 式A 」
といえる。これは、上記国際出願における新たな知見を数式で表現したものである。

(イ) 一方、スラグ中の燐酸がスラグ中のフッ素と結合してフッ化アパタイトとして不溶化する(非可溶性となる)こと自体は従前より知られていたから、
「 スラグ中の可溶性燐酸量[濃度]=スラグ中の燐酸量[濃度]-スラ
グ中のフッ化アパタイトとして固定された非可溶性燐酸量[濃度] 」
として見積もることができたことは明らかである。
また、肥料として要求される濃度を7または10mass%とするならば
「 スラグ中の可溶性燐酸量[濃度]≧7または10[mass%] 」
であることを満足する必要があることは明らかである。
そうすると、両関係式より、
「 スラグ中の燐酸量[濃度]-スラグ中のフッ化アパタイトとして固定
された非可溶性燐酸量[濃度]≧7または10[mass%] 」
とする数式が導出され、これを変換して
「 スラグ中の燐酸量[濃度]≧スラグ中のフッ化アパタイトとして固定
された非可溶性燐酸量[濃度]+7または10[mass%]
… 式B 」
であるスラグであれば、肥料として必要な可溶性燐酸量を有するスラグであるといえることも明らかである。

(ウ) そして、国際出願では
上記式Bの「スラグ中のフッ化アパタイトとして固定された非可溶性燐酸量[濃度]」が、上記式A左辺の「フッ化アパタイトとして固定された非可溶性燐酸量」に等しいという前提をおいて、上記式B右辺に式A左辺を代入することで、
「 スラグ中の燐酸量[濃度]≧フッ化アパタイトとして固定された非可溶性燐酸量[濃度]+7または10[mass%] 」
という関係式を得て、これに、式A右辺を代入して
「 スラグ中の燐酸量[濃度]≧5.6×フッ化アパタイトとして固定されたフッ素量[濃度]+7または10[mass%] 」
という関係式を得て、さらに、代入された式A右辺の「フッ化アパタイトとして固定されたフッ素量[濃度]」が、「スラグ中のフッ素量[濃度]」に等しい、という前提をおくことで、

「 スラグ中の燐酸量[濃度]≧5.6×スラグ中のフッ素量[濃度]+7または10[mass%]
… 式D 」
との関係式を得たものと認められる。

(エ) しかしながら、この関係式Dにおける「5.6×スラグ中のフッ素量[濃度]」という項は、上記(ア)に示したとおり、スラグ中にフッ化アパタイトとして固定された燐酸のうち半量がク溶性リン酸であり半量が非ク溶性リン酸であるという、上記国際出願における新たな知見に基づいたものであるから、本願出願前あるいは本願出願時に、技術常識としてそのような事項が知られていたといえるものではない。

(オ) 以上のとおりであるから、請求人の主張する国際出願は、その記載を参照しても本願出願時の技術常識として(1)式、特に係数を「5.6」とする技術的事項が知られていたと認めるに足る証拠であるとはいえないから、そのような技術常識が存在していたと認めることはできない。


2 拒絶の理由2について
(1)はじめに
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、出願人が証明責任を負うと解するのが相当である。
以下、上記の観点に立って、本件について検討することとする。

(2)本願明細書の特許請求の範囲の記載について
本願発明1及び本願発明2に係る本願請求項1及び請求項2には、スラグ中のP_(2) O_(5) に換算した燐酸濃度(質量%)がスラグ中のフッ素濃度(質量%)に対して下記の(1)式を満足する燐含有スラグからなる燐酸肥料用原料の製造方法が記載されている。

「 燐酸濃度[質量%]≧5.6×フッ素濃度[質量%]+10 …(1)式」

(3)本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
本願明細書の発明の詳細な説明には、燐酸を含有するスラグを、燐酸肥料用原料として用いることが、行われ且つ研究されてきたが(段落【0002】)、従前の方法では燐酸含有量の高いスラグを得るために、従来の工程に対して特別な工程を追加する必要があり、脱燐処理コストやスラグ回収コストが高くなるという問題点があったため(段落【0008】)、溶銑の脱燐処理を2回以上に分けて行う必要がなく、1回の予備脱燐処理だけで十分に転炉精錬後の溶鋼中の燐濃度を製品規格以下まで低下させることが可能であり、溶鋼の製造コストを上昇させることなく、燐酸含有量が高く且つ優れた肥料特性を有する、燐酸肥料用原料としてのスラグを溶銑の予備脱燐処理によって製造する方法を提供することを目的として鋭意検討を行ったこと(段落【0010】)が記載される。
そして、そのような従来技術に係る方法は、フッ素がスラグ中に存在すると、フッ素は燐酸及びCaOと結合してフルオアパタイトを形成させるため、燐酸の水溶性が阻害され、このスラグを燐酸肥料用原料として用いた場合に十分な燐酸溶解性が確保されないという課題を有していたこと(段落【0012】)が記載される。
この課題に対して、スラグ中に含まれるフッ素量と燐酸の溶解性との関係を解明した結果、溶解性の燐酸をスラグ中に確保するためには、スラグ中のP_(2)O_(5)に換算した燐酸濃度(質量%)を、少なくともスラグ中のフッ素濃度(質量%)の5.6倍以上確保する必要があるとの知見、即ち、スラグ中のP_(2)O_(5)に換算した燐酸濃度がフッ素濃度の5.6倍未満の場合には、スラグ中の燐酸のほとんどはフルオアパタイトの形態で存在し、水溶性を有する燐酸を得ることができないとの知見を得て(段落【0013】)、その知見並びにスラグが燐酸肥料用の原料であることに基づいて、スラグ中のP_(2)O_(5)に換算した燐酸濃度(質量%)とフッ素濃度(質量%)との関係を上記(1)式の範囲内に定め、この範囲を満足することにより、少なくとも10質量%以上の溶解性燐酸がスラグ中に確保され、燐酸肥料として優れた効果を発揮することができるものとしたこと(段落【0014】)が記載されている。
実施例としては、蛍石等のフッ素含有物質を使用せずに製錬及び精錬した例、すなわち(1)式においてフッ素濃度がゼロであるものが記載されるのみである(段落【0044】等)。

このように、発明の詳細な説明には、従来技術における、フッ素がスラグ中に存在すると、フッ素は燐酸及びCaOと結合してフルオアパタイトを形成させるため、燐酸の水溶性が阻害され、このスラグを燐酸肥料用原料として用いた場合に十分な燐酸溶解性が確保されないという課題を解決するためには、該(1)式の範囲を満足することが燐酸肥料用原料として不可欠であるとされていることが認められるが、上記実施例においてはフッ素濃度がゼロであるものが記載されるのみであり、上記実施例以外には、スラグ中の燐酸濃度とフッ素濃度が該(1)式を満足する関係にあることで当該課題を解決できることを当業者において認識できることを裏付ける記載は存在しない。

(4)発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比
ア 特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきことは上記(1)に示したとおりである。そして上記(2)から明らかなとおり、本願発明は、一定の数式を満たすことを構成要件とするものであるところ、このような発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その数式が示す範囲と得られる効果との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である。

イ そこで、本願明細書の記載が、特許請求の範囲の本願請求項1及び2の記載との関係で、上記アの明細書のサポート要件に適合するか否かについてみると、上記(3)で検討したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、従来の燐酸肥料用原料としてのスラグが有する課題を解決し、燐酸肥料用原料として可溶性燐酸を必要量含んだスラグとするために、本願請求項1及び2に記載された構成を採用したことが記載されているものの、その構成を採用することの有効性を示すための具体例としてはフッ素源を添加しないでスラグを得る方法が記載されているに過ぎない。
他方、本願発明は、スラグ中の燐酸量及びフッ素量を本願請求項1及び2に規定された(1)式の範囲とくにフッ素量の係数を「5.6」とすることにより、上記所望の性能のスラグが得られたというのであるところ、少なくとも、フッ素量に対して係数「5.6」を採用することが、本願出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できるものであったことを認めるに足りる証拠はない。
また、本願出願後に公知となった国際出願の記載は、該係数「5.6」と同じフッ素濃度に対する係数を含む数式で燐酸肥料用原料としてのスラグに関する技術事項を開示するが、該技術事項は新規の知見として示されているものであり、フッ素量に対して係数「5.6」を採用することが、本願出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できるものであったことを認めるに足りる証拠とはならない。
そうすると、本願明細書に接する当業者において、(1)式を満足する関係にあれば、従来の燐酸肥料用原料であるスラグが有する課題を解決し、上記所望の性能を有する燐酸肥料用原料を製造し得ることが、上記実施例により裏付けられていると認識することは、本願出願時の技術常識を参酌しても不可能というべきであり、本願明細書の発明の詳細な説明におけるこのような記載だけでは、本願出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載しているとはいえず、本願明細書の特許請求の範囲の本願請求項1及び2の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない。


第6 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明が不備のため特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから同法同条同項に規定する要件を満たしておらず、また、本願は、明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の記載が不備のため特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから同法同条同項に規定する要件を満たしていないので、その余のことを検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-02 
結審通知日 2012-07-10 
審決日 2012-07-24 
出願番号 特願2002-329833(P2002-329833)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C05B)
P 1 8・ 571- WZ (C05B)
P 1 8・ 574- WZ (C05B)
P 1 8・ 536- WZ (C05B)
P 1 8・ 537- WZ (C05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 東 裕子
齋藤 恵
発明の名称 燐酸肥料用原料の製造方法  
代理人 井上 茂  

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