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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1263297
審判番号 不服2010-28811  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-21 
確定日 2012-09-13 
事件の表示 特願2003-402724「セラミック放電容器を有する金属ハロゲン化物ランプ、 このようなランプのための電極系および電極系の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年7月2日出願公開、特開2004-186155〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【第1、手続経緯の概要】
本願出願手続、及び本件審判請求の概要は、次のとおりである。

平成15年12月 2日:本願出願(優先日:平成14年12月2日)
(優先基礎出願:DE-10256389.6)
平成18年 9月 6日:審査請求
平成21年 8月 5日:拒絶理由の通知
(起案日:平成21年7月28日)
平成21年11月 5日:意見書・補正書提出
平成22年 2月12日:拒絶理由の通知
(起案日:平成22年2月5日)
平成22年 5月11日:意見書・補正書提出
平成22年 9月 3日:拒絶査定の謄本送達
(起案日:平成22年8月30日)
平成22年12月21日:本件審判請求・補正書提出
平成23年 7月 6日:審尋
(起案日:平成23年6月29日)
平成23年10月 3日:回答書提出

【第2、本願発明】
本件審判請求時の補正(以下、「本件補正」という)は、特許請求の範囲についてみると、査定時の請求項1を削除し、査定時の請求項6を新請求項1に繰り上げることに伴い、査定時の請求項7、8、9を各々新請求項6、7、8に繰り上げるものであるから、請求項の削除を目的とするものと認める。よって、本件補正は、適法である。

本願の請求項1?8に係る発明は、本件補正により、補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものであるところ、その請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりのものであると認める。

「セラミック放電容器を有する金属ハロゲン化物ランプのための電極系において、該電極系が異なる直径のピンとして設計されている2つの構造部材を含み、この場合より大きな構造部材は、ニオブピンであり、より小さな構造部材は、ニオブピンの穿孔内に差し込まれている、モリブデンまたはタングステンからなるピンであり、より小さな構造部材の直径とNbピンの直径との比は、30?65%であり、差し込まれたピンは、穿孔内に局部的な圧縮を行なうことにより得られる刻み目の付与によって固定されていることを特徴とする、セラミック放電容器を有する金属ハロゲン化物ランプのための電極系。」

【第3、原査定の拒絶の理由の概要:進歩性欠如】
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明が、平成22年2月12日に通知された拒絶理由通知書に記載されているように、本願優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平11-354076号公報(以下、引用文献1という)及び実願昭57-36314号(実開昭58-139658号)のマイクロフィルム(以下、引用文献2という)に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

【第4、引用文献1に記載された事項-引用発明1】
(4-1、引用文献1に記載された事項)
引用文献1には、次のことが記載されている。
「・・・
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、発光物質を入れた発光管内の開口部に電極部材を封着した放電灯及びその封着方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の放電灯において、透光性セラミックからなる発光管の開口部に1対の電極を有する電極部材を固着することにより、発光管内に水銀、不活性ガス、金属ハロゲン化物等の発光物質を気密に封入するものが知られている。こうした放電灯において、発光管の開口を気密に封止する手段として、例えば、電極部材と発光管の開口との間隙にガラスフリットなどの封着ガラス材を溶融させた後に凝固させる手段がある。
・・・
【0013】
【発明の実施の形態】
・・・
【0016】
上記発光管11の材料としては、アルミナ、アルミナ-イットリアーガーネット、石英ガラス等の透光性材料を用いることができる。なお、発光物質として、DyI_(3)、CsI、TlI、NaIなどを用いる場合には、その反応性の高いことを考慮して、アルミナを主原料として用いることが好ましい。こうした発光管11を製造する方法として、例えば、アルミナを主原料としたスラリを形成し、これを鋳込み成形により大径部12及び小径部13とともに一体に形成することができる。このような鋳込み成形により、大径部12に連続した小径部13を長く形成することも容易である。
【0017】
図2は図1の放電灯10の要部を拡大して示す断面図である。図2に示すように、発光管11の開口部13bは、電極部材15及び封着ガラス材16aで封止されている。電極部材15は、開口部13bに挿入される封止基部15aと、この封止基部15aの端部から細管室13aを通り中空室12aまで設けられているリード部15bと、このリード部15bの先端に設けられた電極部15cとを備えている。上記封止基部15aは、外部リード線(図示省略)に接続される端子を兼用しており、外部リード線に接続されることにより給電される。また、リード部15bは、小径部13の内壁面との間に所定間隙を隔てて、細管室13aの中心部を軸方向に貫通している。また、電極部15cは、リード部15bの先端部にコイル状に巻回されており、対向する電極部15cとの間で放電距離を隔てて放電する。
【0018】
電極部材15の各材料は、以下のものを用いることができる。すなわち、封止基部15aとして、Nb、Re等の金属、Nb-Zr等の合金、金属-B系、金属-C(N)系、金属-Si系等のサーメット等の発光管11の材料と熱膨張係数の近似する材料を用いることができる。また、リード部15b及び電極部15cとして、高融点のW,Moなどを用いることができる。・・・
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施の形態にかかる放電灯10を示す断面図である。
【図2】
図1の放電灯10の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】
封着ガラス材16aの周辺部を示す拡大断面図である。
・・・」

(4-2、引用発明1の認定)
上記の(4-1、引用文献1に記載された事項)の記載事項及び【図2】、【図3】に示された断面図の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という) が記載されていると認められる。
「アルミナ等の透光性セラミックからなる発光管11内に、金属ハロゲン化物等の発光物質を気密に封入した放電灯10の電極部材15において、
電極部材15の封止基部15aとして、発光管11の材料と熱膨張係数の近似するNbを用い、
前記封止基部15aの直径より小さく、封止基部15aの内部に固定して設けられた電極部材15のリード部15bとして、高融点のW、Moを用いた電極部材15。」

【第5、両発明の対比】
本願発明と引用発明1とを対比する。
(5-1、主たる構成要素についての対比)
本願発明と引用発明1の主たる構成要素についての対比をすると、次のとおりである。
引用発明1の「アルミナ等の透光性セラミックからなる発光管11」は、本願発明の「セラミック放電容器」に相当する。
引用発明1の「金属ハロゲン化物等の発光物質を気密に封入した放電灯10」は、本願発明の「金属ハロゲン化物ランプ」に相当する。
引用発明1の「電極部材15」は、本願発明の「電極系」に相当する。
引用発明1の「Nbを用い」た「電極部材15の封止基部15a」は、本願発明の「より大きな構造部材」としての「ニオブピン」に相当する。
引用発明1の「W、Moを用いた」「前記封止基部15aの直径より小さく、封止基部15aの内部に固定して設けられた電極部材15のリード部15b」も、本願発明の「より小さな構造部材」としての「ニオブピンの穿孔内に差し込まれている、モリブデンまたはタングステンからなるピン」も、共に、「ニオブピンの内部に固定して設けられているモリブデンまたはタングステンからなるピン」である点で共通する。

(5-2、総合対比)
上記(5-1、主たる構成要素についての対比)を基礎にして、本願発明と引用発明1との実質的な一致点及び相違点を、本願発明の表現に統一して記述すると、次のとおりである。

(一致点)
「セラミック放電容器を有する金属ハロゲン化物ランプのための電極系において、
電極系が異なる直径のピンとして設計されている2つの構造部材を含み、 より大きな構造部材は、ニオブピンであり、
より小さな構造部材は、ニオブピンの内部に固定して設けられている、モリブデンまたはタングステンからなるピンである、
セラミック放電容器を有する金属ハロゲン化物ランプのための電極系。」

(相違点)
「小さな構造部材の直径とNbピンの直径との比」、及び「ピンの固定」技術に関し、本願発明では「より小さな構造部材の直径とNbピンの直径との比は、30?65%であり、差し込まれたピンは、穿孔内に局部的な圧縮を行なうことにより得られる刻み目の付与によって固定されている」とあるように、両者の比は30?65%であり、両者の固定を、差し込んで局部的な圧縮(すなわち、カシめ)により行なうのに対し、引用発明1は、この点が明らかではない点。

【第6、判断】
(6-1、「ピンの固定」技術について)
引用文献2の第4頁第2?13行には、透光性セラミック管を発光管とする金属蒸気放電灯の電極系を構成する電力導入部材と電極芯との接続構造に関し、次の記載がある。
「そのNb線4の先端には第2図に示すようにWのコイル5とロッド5´とよりなる電極が取付けられる。電極には電子放射性物質としてBaO,CaO,ThO_(2)の固容体が電極コイル5の内側に塗布されている。電極のロッド5´は直径が1.0mmで、このロッド5´ と電力供給導体4とはスリーブ8で接続される。このスリーブ8は材質がZr1%,Nb99%のもので内径1.2φ,内厚0.4mm、長さが10mmのものであり、電極ロッド5´部b側および導入線4部a側をカシめ、さらに抵抗溶接機にて溶接を行った。」

よって、引用文献2の上記記載から、次の発明(以下、引用発明2という)が認定できる。
「金属蒸気放電灯の電極系の接続技術について、より大きな構造部材(Nbを主成分とするスリーブ8)の孔内に、より小さな構造部材(Wからなるロッド5´)を差し込んで圧縮(カシめ)により固定すること。」

そして、引用発明1も引用発明2も、放電ランプの電極系に関する接続技術である点で技術分野が共通するものである。また、引用発明1も引用発明2も、電極系接続部において機械的かつ電気的に安定していることが要求され、そのような作用効果を実現すべきものでもある。さらに、引用発明1も引用発明2も、接続される電極系の主成分が互いにニオブとタングステンとで共通するものでもある。そうすると、引用発明1の「電極部材15の封止基部15a」と「電極部材15のリード部15b」とを接続するために、引用発明2の圧縮接続技術を用いることには、動機付けが有ると言うべきである。

(6-2、「小さな構造部材の直径とNbピンの直径との比」について)
引用文献2の上記記載「・・・電極のロッド5´は直径が1.0mmで、・・・このスリーブ8は・・・内径1.2φ,内厚0.4mm、・・・」は、スリーブ8の外径が2.0mmであって、電極のロッド5´の直径とスリーブ8の直径との比が50%であることを例示するものであるから、本願発明と同じく「小さな構造部材の直径とNbピンの直径との比」が「30?65%」の範囲内にあるものと言える。

また、本願発明の「小さな構造部材の直径とNbピンの直径との比」に関し、固定の安定性や加工の容易性の観点からみて、その比を「30?65%」にすることに、本願明細書や図面等を参酌しても、特別の技術的意義を見出すことはできない。

さらに、本願発明の「小さな構造部材の直径とNbピンの直径との比」に関し、ランプの電力の調整の観点からみて、その比を「30?65%」にすることに、本願明細書の段落【0034】の【表1】を特に参酌しても、特別の技術的意義を見出すことはできない。一般的に、導電体のオーム性電気抵抗は、他の条件を同一にすると、導電体の断面積に依存するものである。よって、本願発明において、他の条件を同一にして、「小さな構造部材の直径」のみを変化させて、ランプの電力の調整ができることも明らかである。

そうすると、引用発明1に引用発明2の圧縮接続技術を適用する際、引用発明1の「電極部材15のリード部15b」と「電極部材15の封止基部15a」との比は、固定の安定性や加工の容易性やランプの電力の調整等を勘案して、当業者が適宜設計すべきことでしかないから、本願発明のように「30?65%」の比とすることに困難性は無いと言わざるを得ない。

(6-3、本願発明の容易想到性についての総合的見解)
上記(6-1、「ピンの固定」技術について)と(6-2、「小さな構造部材の直径とNbピンの直径との比」について)とで説示したように、本願発明と引用発明1との相違点は、引用発明2や引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に想到可能な事項である。
そして、本願発明の作用効果も、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予測可能なものであって、格別のものではない。
よって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【第7、審判請求人の主張について】
審判請求人は、審判請求書において、概略、本願発明と引用発明1との相違点、引用発明1と引用発明2との技術分野の違い、本願発明と引用発明2との相違点、引用発明1と引用発明2とを組み合わせる動機付けの欠如を根拠に、当業者が本願発明を容易に想到できたものではない旨主張している。
しかしながら、これらの点については、上記【第6、判断】で説示したとおりである。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

なお、審尋に対する回答書には、請求項1のランプの発明については補正案が提示されていたが、請求項7の電極系の発明と請求項8の電極系の製造法の発明には補正案は提示されていなかった。

【第8、むすび】
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項1?6、8に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-13 
結審通知日 2012-04-19 
審決日 2012-05-02 
出願番号 特願2003-402724(P2003-402724)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 輝雄小川 亮長井 真一  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 小林 紀史
森 雅之
発明の名称 セラミック放電容器を有する金属ハロゲン化物ランプ、このようなランプのための電極系および電極系の製造法  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  
代理人 星 公弘  

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