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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01J
審判 一部無効 2項進歩性  H01J
管理番号 1263339
審判番号 無効2011-800135  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-08-03 
確定日 2012-06-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第4589993号発明「集束イオンビーム装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第4589993号(請求項の数[12]、以下「本件特許」という。)は、平成9年10月1日を原出願日とする特願2006-159234号の一部を平成20年8月13日に新たな特許出願とした特願2008-280445号に係るものであって、その請求項1ないし12に係る発明について、平成22年9月17日に特許の設定登録がなされた。

これに対して、平成23年8月3日に、本件特許の請求項1に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人(以下「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2011-800135号〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人(以下「被請求人」という。)により指定期間内の同年11月7日付けで審判事件答弁書が提出されたものである。

また、平成24年1月13日に請求人より、同年1月27日に被請求人より、それぞれ、口頭審理陳述要領書が提出され、同年2月3日に口頭審理が行われたものである。

第2.本件特許発明

本件特許発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?12のそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものであり、そのうちの、本件審判事件の対象となる請求項1に記載された発明は次のとおりである。

「【請求項1】
3次元方向に移動でき、試料基板を載置できる試料ステージと;
集束イオンビームを照射する照射光学系と;
デポジションガスを流出するガスノズルと;
集束イオンビーム加工により試料基板から摘出された試料片をデポジション膜により固定する試料ホルダを搭載でき、前記試料ステージに搭載される保持手段と;
デポジション膜により試料片と接続できるプローブを有し、試料室壁に設置され、集束イオンビーム加工により前記試料基板から摘出された試料片を前記試料ホルダに移し変える移送手段と;
前記試料ステージ、前記保持手段、及び前記プローブを、真空状態である内部に設置する試料室と、を備え;
前記試料室の内部において、前記試料基板から摘出された試料片とデポジション膜により接続している前記プローブを退避させ、前記保持手段に搭載された試料ホルダを前記試料ステージの移動により集束イオンビーム照射領域内に移動させ、前記試料ホルダに前記プローブを接近させ、前記試料ホルダに前記試料片をデポジション膜により固定し、前記試料ホルダに固定された前記試料片に対して集束イオンビームを照射して透過電子線顕微鏡観察用の試料片を作製するように構成されている集束イオンビーム装置。」(以下「本件特許発明1」という。)

第3.当事者の主張

1.請求人の主張の概要、及び提出した証拠

請求人は、上記審判請求書において、甲第1号証ないし17号証を提示し、次の無効理由1及び2を主張した。

理由1:本件特許発明1は「集束イオンビーム装置」という「もの」の発明であるところ、請求項1には
「前記試料室の内部において、前記試料基板から摘出された試料片とデポジション膜により接続している前記プローブを退避させ、前記保持手段に搭載された試料ホルダを前記試料ステージの移動により集束イオンビーム照射領域内に移動させ、前記試料ホルダに前記プローブを接近させ、前記試料ホルダに前記試料片をデポジション膜により固定し、前記試料ホルダに固定された前記試料片に対して集束イオンビームを照射して透過電子線顕微鏡観察用の試料片を作製するように構成されている」(以下「特定記載」という。)という、透過電子線顕微鏡観察用の試料片を作成する方法が含まれている。
したがって、特許を受けようとする発明が明確でないから、本件特許の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許発明1に係る特許は特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。
理由2:本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1に係る本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

[証拠方法]

甲第1号証:特開平5-52721号公報

甲第2号証:特開平9-199069号公報

甲第3号証:特開平6-232238号公報

甲第4号証:特開平1-187826号公報

甲第5号証:NEW APPLICATIONS OF FOCUSED ION BEAM TECHNIQUE TO FAILURE ANALYSIS AND PROCESS MONITORING OF VLSI(K.Nikawa他、1989 International Reliability Physics Symposium,43-52)

甲第6号証:特開平2-15648号公報

甲第7号証:特開平3-284826号公報

甲第8号証:特開平2-294644号公報

甲第9号証:Cross-sectional transmission electron microscopy of precisely selected regions from semiconductor devices(E C G Kirk他、Inst.Phys.Conf.Ser.No100:Section7,1989,501-506)

甲第10号証:Micromachining and Device Transplantation Using Focused Ion Beam(Tohru Ishitani他、Japanese Journal of Applied Physics,Vol.29,No.10,October,1990,pp.2283-2287)

甲第11号証:特開平8-304243号

甲第12号証:特開平6-103947号公報

甲第13号証:東京高裁平成14年6月11日判決(判例時報1805号124頁)

甲第14号証:米国判例IPXL Holdings,L.L.C.vs.Amazon.Com,Inc.(430F.3d 1377)

甲第15号証:米国判例Katz Interactive Call Processing Patent Litigation vs. Am.Airlines,Inc.(In re Katz Interactive Call Processing Patent Litigation,639F.3d.1303,February 18,2011)

甲第16号証:米国判例Rembrandt Data Techs.,LP vs.AOL,LLC.(641F.3d.1331,April 18,2011)

甲第17号証:本件特許公報

2.被請求人の主張の概要、及び提出した証拠

これに対して、被請求人は、上記審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書において、乙第1号証ないし8号証を提示し、以下のとおり主張している。
無効理由1に対して:本件特許の請求項1の特定記載は、本件特許発明1の「集束イオンビーム装置」を特定するための事項として、集束イオンビーム装置及びその構成部材が備えるべき機能・特性等を記載したものであり、当該機能・特定等を有する具体的なものを想定できるので、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

無効理由2に対して:本件特許発明1は甲各号証に記載の発明及び周知技術から容易になし得たものではないから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反しない。

以上のとおりであるから、本件特許は無効とすべきものでない。

[証拠方法]

乙第1号証:特許第2774884号公報

乙第2号証:電波新聞 1999年(平成11年)2月27日

乙第3号証:「精密工学会誌Vol.67,2001年12月号」の「2001年度(第21回)精密工学会技術賞受賞業績の紹介」欄の「10μmレベルの微小片を直接摘出する電子顕微鏡用マイクロサンプリング技術の開発」発行者:社団法人精密工学会、発行日:平成13年(2001年)12月5日

乙第4号証:「先端計測技術分野 科学技術・研究開発の国際比較 2008年版」の
表紙、88頁、奥付、発行者:独立行政法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター、発行日:平成20年(2000年)2月

乙第5号証:特開平5-290787号公報

乙第6号証:特開平6-176729号公報

乙第7号証:特開平6-162982号公報

乙第8号証:特許第4185962号無効審判事件の平成23年12月26日付け審決謄本

第4 無効理由についての当審の判断

1.無効理由1について

特許法は、特許出願人が特許請求の範囲の請求項に「物の発明」について特許を受けようとする発明を記載する際に、その特許を受けようとする発明を特定するために、当該物の構成を記載する他、作用・機能・性質・特性・方法・用途その他の様々な記載を用いることを妨げていない。
一方、特許法第36条第6項第1号は「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定しており、同法同条第2号では「特許を受けようとする発明が明確であること。」と規定している。
そこで、上記特定記載によって特定される発明が明確であるかどうかについて検討する。
特定記載中の「試料室」、「試料基板」、「試料片」、「デポジション膜」、「プローブ」、「保持手段」、「試料ホルダ」、「試料ステージ」及び「集束イオンビーム照射領域」の各構成は、特定記載の前に本件特許発明1を特定するための構成として、全て、明確に記載されている。また、特定記載には、それらの構成を用いた動作・機能が記載されているが、それぞれの動作・機能も明確に理解することができる。そして、それ以外にも請求項1の記載に不明確な点は見当たらない。
してみると、請求項1から把握される特許を受けようとする発明は明確である。
したがって、請求人の主張する無効理由1によっては、本件特許を無効とすることはできない。

2.無効理由2について

(1)甲各号証の記載事項

(a)甲第1号証の記載事項

本件の特許出願日前に頒布された甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

(a1)「【0002】
【従来の技術】従来技術としてマイクロスコピー・オブ・セミコンダクティング・マテリアルズ・コンファレンス、オックスフォ-ド大学(1989年)、501?506頁(Microscopy of Semiconducting Materials Conference,Oxford,(1989)pp.501-506)に開示される技術がある。この文献では、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope :略してTEM)分析が可能な薄膜試料を集束イオンビーム(Focused Ion Beam :略してFIB)を利用して切り出した例が述べられている。
【0003】上記文献の開示内容によれば、図7に示すように、半導体集積回路から長さ数mmで幅100 ?500 μmのチップ71をダイアモンド・ソーを用いて切出し、銅製のグリッド72( TEM観察用標準グリッド)に固定し、その後、FIBを利用してチップ71に薄膜試料73を加工・形成し、その薄膜試料73を電子ビーム74を用いてTEM観察している。図中、75は矩形開口部である。」
(a2)「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明に係る試料の分離方法及び分析方法は、上記目的を達成するため、次のように構成される。
1. 本発明に係る試料の分離方法は、試料の表面に対し、少なくとも2つの異なる角度の方向から集束イオンビームを照射し、試料を集束イオンビームで加工し、試料の一部を分離するもので、試料の一部を分離する前に、外部から導入されたプローブを、分離される試料の一部に接続し、当該分離試料をプローブで支持し、任意の位置に分離試料を搬送し、また分離試料の姿勢を任意の姿勢にするものである。
2. 前記分離方法において、好ましくは、試料の一部とプローブの接続を、集束イオンビーム加工により発生したスパッタ粒子による再付着膜により、又はガス雰囲気中での集束イオンビーム照射により形成したビーム誘起堆積膜により行う。
3. 前記の各分離方法において、好ましくは、集束イオンビーム加工が、反応ガス雰囲気中でのガス支援エッチングである。
4. 前記の分離方法において、好ましくは、試料は半導体ウェハーであり、またプローブは半導体製造プロセスを利用して製造される。
5. 本発明に係る試料の分析方法は、試料の表面に対し、少なくとも2つの異なる角度の方向から集束イオンビームを照射して試料を集束イオンビーム加工し、試料の一部を分離して分析する方法であり、試料の一部を分離する前に、外部から導入されたプローブを、分離される一部に接続し、試料の一部を支持し、プローブによるこの支持状態で、観察手段を用いて、分離された試料の一部の断面を像観察するものである。
6. 本発明に係る更なる試料の分析方法は、試料の表面に対し、少なくとも2つの異なる角度の方向から集束イオンビームを照射して試料を集束イオンビーム加工し、試料の一部を分離して分析する方法であり、試料の一部を分離する前に、外部から導入されたプローブを、分離される一部に接続し、試料の一部を支持し、更に、試料の一部を分離する最中又は分離した後に部分的に薄膜化し、この薄膜部を透過型電子顕微鏡で像観察するものである。
7. 本発明に係る更なる試料の分析方法は、試料の表面に対し、少なくとも2つの異なる角度の方向から集束イオンビームを照射して試料を集束イオンビーム加工し、試料の一部を分離して分析する方法であり、試料の一部を分離する前に、外部から導入されたプローブを、分離される一部に接続し、試料の一部を支持し、この支持状態で、更に、二次イオン分析法で分離した試料の成分情報を得るものである。
上記の如く、本発明に係る試料の分離方法及び分析方法によれば、上記目的を達成するため、試料基板表面に対し少なくとも二種類の角度からFIB加工し、分析部を含む試料の一部を分離する分離工程中に別個に外部から導入したプローブに分離試料を機械的に接続するように構成した。従って、試料を分離した後はプローブの移動により分離試料を自由に移動することができる。
【0009】
【作用】本発明では、試料基板表面に対し少なくとも二種類の角度からFIB加工することで、試料基板と分析部を含む微小試料とが機械的に分離するように構成される。またこの試料の一部分離の際において、別個に外部から導入したプローブに分離試料を機械的に接続しておくことで、分離試料が保持でき、プローブの移動により試料を任意の位置に運搬することができる。プローブに保持された分離試料は元の試料基板とは別個に、多種の分析装置に搬入して測定することが可能であり、分析に適した形状に再加工することも可能である。一方、分離後の試料基板は、それ自体破壊されないので、他の分析や追加のプロセスを施すことが可能である。また、FIB加工を利用して試料を分離するため、分離試料の大きさは、従来の機械加工による分離方法に比較して非常に小さくすることができる。そのためTEM観察のための薄膜化加工に要する時間を短くすることができる。」
(a3)「【0010】
【実施例】以下に、本発明の実施例を図1?図6を参照して説明する。図3は、本実施例で用いられるFIB装置の基本構成を示す。液体金属イオン源100から放出したイオンは、コンデンサレンズ101と対物レンズ106によりFIB1となって試料2上に集束される。2つのレンズ101,106の間には、可変アパーチャ102、アライナ・スティグマ103、ブランカ104、デフレクタ105が配置されている。可変アパーチャ102には絞り駆動部102aが、ブランカ104にはブランキング・アンプ104aが、デフレクタ105には偏向制御部105aが、それぞれ付設されている。
【0011】試料2は、2軸(X,Y)方向に移動可能なステージ108上において、このステージ108に装着された試料回転装置120の回転軸に固定されている。ステージ108の移動は、ステージ制御部108aに基づきX及びYの各駆動部を介して行われる。この実施例で、試料回転装置120の回転軸はステージ108と平行に設定されている。
【0012】107はガス源で、ガス源107から発生したガス(W(CO)_(6 ))は、ガスノズル8によりFIB1の試料照射部の近傍に導かれる。ガス源107はガス源制御部107aにより制御される。FIBの照射により試料2の表面から発生した二次電子は、二次電子検出器109により検出される。二次電子検出器109からの二次電子信号をA/D変換し、FIBの偏向制御と同期してコンピュータ110の画像メモリに取り込むことにより、CRT110a上に走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope : 略してSIM) による像が表示される。
【0013】マニピュレータ112は、図4に示すように、3枚のバイモルフ型圧電素子30を90°ずつ方向を回転して接続し、X,Y,Zの3軸の駆動を可能としたものである。マニピュレータの先端には、金属製のプローブ31を装着している。プローブ31の先端部は、板状に加工されている。更に具体的に、プローブ31は、50μm以上の厚みを有するホルダー部と、このホルダー部の片面に先端から突出して設けられた10μm以下の厚みを有するプローブヘッドから構成されることが望ましい。図3に示すように、マニピュレータ112は、マニピュレータ制御部112aを備えている。」
(a4)「【0015】次に、上記構成を有するFIB装置を用いて試料2を加工する。図1は、試料2から分析対象部を含む試料の一部を分離する工程(a)?(g)を示した斜視図である。この実施例で、試料2はシリコン基板であり、分離された試料の一部を、以下「分離試料」という。以下に、分離の手順を工程(a)?(g)に従って説明する。
【0016】(a) 試料2の表面に対しFIB1が直角に照射するように試料2の姿勢を保ち、試料2上でFIB1を矩形に走査させ、試料表面に所要の深さの角穴3を形成する。
(b) 試料2の表面に対するFIB1の軸が約70°傾斜するように、試料2を傾斜させ、底穴4を形成する。試料2の傾斜角の姿勢変更は、試料回転装置120によって行われる。
(c) 試料2の姿勢を変更し、試料2の表面がFIB1に対し再び垂直になるように試料2を設置し、切欠き溝5を形成する。
(d) マニピュレータ112を駆動し、プローブ31の先端を、試料2の分離する部分に接触させる。接触したか否かについての判定方法については、後述される。
(e) ガスノズル6からW(CO)_(6 )ガス7を供給し、FIB1を、プローブ31の先端部を含む領域に局所的に照射し、堆積膜8を形成する。接触状態にある試料2の分離部分とプローブ31の先端は、堆積膜8で接続される。試料2の分離部分とプローブ31の接続については、ガス雰囲気中での集束イオンビーム照射により形成したビーム誘起堆積膜により、又は集束イオンビーム加工により発生したスパッタ粒子による再付着膜により行うことができる。
(f) FIB1で残りの部分を切欠き加工し、試料2から分離試料9を切り出す。切り出された分離試料9は、接続されたプローブ31で支持された状態になる。
(g) マニピュレータ112を駆動し、分離試料9を所要の箇所に移動させる。
上記実施例において、FIB1の加工エリアを指定する際、予め加工エリアを含む領域をFIB1でラスタ走査し、試料2の表面から発生した二次電子(代表的な二次粒子)の信号量を輝度信号として画像化したSIM像を利用した。二次電子の検出は、二次電子検出器109によって行われる。SIM像を利用した試料表面の方向(X,Y軸方向)における加工エリアの設定は比較的簡単に行うことができる。しかし、プローブ31と試料2との接触に関する判定は、Z軸方向の情報が必要であるため、困難である。すなわち、FIB1のフォーカス状態の違いによりZ軸方向に関するある程度の情報が得られるが、ミクロンレベルの判定は困難である。」
(a5)「【0018】切り出した分離試料9は、その後、その断面を再びFIB加工(微細ビームによる仕上げ加工)し、断面構造をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した。また、同様の手法で分離試料8の裏面を仕上げ、その構造を観察することもできる。つまり、本実施例によると、試料表面に平行な断面の観察も可能になる。プローブ31に保持された分離試料9は、試料2とは別個に多種の分析装置に挿入して測定することが可能である。例えば、二次イオン質量分析計で元素分析を行うことができる。また分離試料9は分析に適した形状に再加工することもできる。例えば分析部を頂角部に含むくさび形に分離試料9を加工し、CAT(Composition Analysis by Thickness-fringe) 法により、組成分析することもできる。
【0019】図2は、前記実施例と同様の手法で試料2の一部を分離し、その分離試料9をTEM観察する目的で薄膜化した実施例を示す斜視図である。工程(a)に示されるように分離試料9の一部9aの肉厚が予め薄くされる。更に工程(b)で、分離試料9は、薄肉部9aをFIB1で薄膜化される。分離試料9の一部9aが、TEMの試料になる。本実施例によれば、試料2の任意の場所からTEM試料を容易に取り出すことができる。従って、試料2である基板を割る必要がない。
【0020】図5に半導体ウェハー52に対し多点のTEM分析を行った実施例を示す。この実施例では、分析点50a?50e,51a,51bをそれぞれ含む微小試料を、半導体ウェハー52から分離し、図2と同様の手法により、それぞれの分離試料を薄膜化した後、TEM分析を行った。この実施例で明らかなように、本発明による分離方法では、1枚のウェハーの中から多数の分離試料を得ることができる。この場合、取り出そうとする非常に微小な領域を除いて他の部分には、分離に起因する影響を与えない。従って、任意の箇所の試料部分を分離することができる。また分析点51a,51bは近接しており、ウェハーを割ってTEM試料を作成する従来の手法では、2つの試料を得ることは困難であった。しかし、本発明による分離方法を利用すれば、2つの試料を得ることができ、TEM観察が可能となった。また分析対象の複数の試料部分を分離した後、ウェハー自身については他の分析や追加のプロセスを施すことが可能である。」
(a6)「【0022】図6(a)?(b)は、本発明による分離方法を、トランジスタ素子の移植方法に利用する実施例を説明するための工程図である。移植しようとするトランジスタ素子は、予め本発明による分離方法を利用してチップから分離しておく。以下に、移植の手順を述べる。
【0023】(a) 移植先の基板部分に角穴61をFIB加工する。
(b) 加工角穴61に、分離試料63(例えばトランジスタ等)をマニピュレータを駆動して運搬し、プローブヘッドをFIBにより切断して分離試料63を角穴61内に残す。
(c) 分離試料63上の電極とチップ基板上の配線60を、移植配線62により電気的に接続する。移植配線62は分離試料63と同様にマニピュレータにより運搬し、接続はW(CO)6 ガス雰囲気でのFIB局所照射によるW堆積膜で行う。
【0024】以上のように、本発明による分離方法を利用すれば、別のチップ内に形成されたデバイスを容易に分離し、運搬し、他のチップ内の所要の箇所に融合させることができる。」
(a7)「【0026】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように、本発明によれば、半導体のチップやウェハー内の任意の点を分析する際に、FIBを用いて必要な箇所のみを切出し、且つ分離した部分を支持して任意の箇所に搬送できるように構成したため、チップやウェハ基板を割ることなく、必要とする微少領域をのみを分離できる。また分離後、分離試料はプローブで支持された状態にあるため、任意の箇所に搬送することができ、且つ分離試料の姿勢を任意の姿勢に変更することができるため、TEM観察等の分析が可能となる。更にFIBの加工領域が分析対象部のごく周囲のみであるため基板の総加工体積が少なく、分析のための全所要時間が短縮できる。」

(a8)「【図1】


(a9)「【図2】


(a10)「【図3】


(a11)「【図4】


(a12)「【図5】



上記甲第1号証の摘記事項及び添付図面に図示された事項並びに当業者の技術常識を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「2軸(X,Y)方向に移動可能なステージ(108)上に装着された試料回転装置(120)の回転軸に試料(2)が固定されており;
液体金属イオン源(100)から放出したイオンがコンデンサレンズ(101)と対物レンズ(106)によりFIB(1)となって試料上に集束され;
堆積膜(8)を形成するためのガス(7)を供給するガスノズル(6)を有し;
接触状態にある試料とプローブ(31)の先端が堆積膜で接続され、FIBで切り出された分離試料(9)は接続されたプローブで支持された状態になり;
マニピュレータ(112)を駆動し、分離試料を所要の箇所に移動させることにより、試料を分離した後はプローブの移動により分離試料を自由に移動することができ;
プローブに保持された分離試料はFIBで薄膜化されTEMの試料になる;
ように構成したFIB装置。」

(b)甲第2号証の記載事項

本件の特許出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

(b1)「【0004】また、他の従来例として、メッシュに試料を貼り付けた上で該メッシュをFIB装置の試料台に貼り付けるタイプがあるが、非常に小さい試料を接着剤を用いてメッシュに貼り付ける際に、接着剤が回り込んで観察面に付着する等の不具合が発生し易い為、作業性が悪かった。また、作製した試料を貼り付けたメッシュを試料台に固定する場合、メッシュ自体が薄い為、試料台上に垂直に立てることが難しい。メッシュ自体が傾倒していてもその分試料台を傾けることにより垂長方向(ビームが直交する方向)に位置決めすることは可能であるが、良いTEM試料を作製する為には、FIB装置からのエッチング用のイオンビームの回り込み等を考慮し、垂直姿勢から数度傾けてFIB装置によるエッチングを受け得るようにする必要がある。つまり、この従来例は、メッシュを用いる為、接着剤を付する位置が試料の観察部分に回り込み易く、またメッシュ自体が薄いので傾倒し易く、FIB装置の試料台上に所望の角度で固定することが難しいという問題があった。
【0005】本発明は上記に鑑みてなされたものであり、試料ホルダ-を装置取付部と試料作製台とから構成し、切り出した小片試料をこの試料作製台に取り付けたままFIB装置による加工が行なえ、加工終了後に装置取付部と試料作製台とを容易に合体させることができる試料ホルダーを提供することを目的としている。これにより試料を何度も付け外しする必要がなくなり、作業が容易に短時間で行なえ、試料作製歩留りも向上する。また、試料作製台への試料の取り付けは、そのまま接着剤などにより行えるため、別部材としてのメッシュを使う必要がなくなる。従って、薄いメッシュを使う場合の不具合がなくなる。」
(b2)「【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明のTEM用試料ホルダーについて説明する。図1(a) (b) は本発明の一形態例の試料ホルダーの構成図、図2(a) (b) 及び(c) は試料取付け状態説明図、試料加工後の状態説明図、及び試料を保持した試料作成台と装置取付部とを合体させた状態図である。本発明のTEM用試料ホルダ-10は、試料作製台11と装置取付部12とにより構成され、両者は組立分解自在となっている。図1(a) が本発明のTEM用試料ホルダ-の組立状態の全体図である。この試料ホルダ-10は、図1(b) のように試料作製台11と装置取付部12とに分解することができる。図2(a) に示す様に、試料13を試料作製台1の端面中央部に接着剤等によりを取り付け、この状態で図2(b) のように図示しないFIB装置により試料13を加工する。符号14はFIB装置による加工後のTEM観察部を示す。」
(b3)「【0009】本発明では、従来例の様にメッシュを用いないので、接着剤を付する位置が、試料の観察部分の反対側となり、また試料は厚い試料作製台11に固定されるので、その後のFIB装置の試料台への垂直固定も容易となり、加工精度を高めることができる。TEMを用いた試料の観察方法自体は容易であるが、それに先立つ試料作製作業が極めて困難であり、本発明により初めて試料作製作業性と、作製後の試料をホルダーに保持する作業性を向上したものである。」

上記甲第2号証の摘記事項及び添付図面に図示された事項並びに当業者の技術常識を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

「試料ホルダ-を装置取付部と試料作製台とから構成し、切り出した小片試料をこの試料作製台に取り付けたままFIB装置による加工を行い、加工終了後に装置取付部と試料作製台とを合体させるTEM用試料ホルダー。」

(c)甲第3号証の記載事項

本件の特許出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

(c1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体、磁性体、超電導体材料などの極薄膜構造から成る製品デバイスを初めとする各種試料を、各作製工程における処理直後の状態を正確に保ったまま、もしくは自由な環境下において複数の処理装置間で搬送し、その場動的に任意方向より原子レベルで多角的にかつ迅速にオンライン検査を初めとする処理装置における各種処理を行なうための試料処理装置および試料処理方法に関する。」
(c2)「【0013】
【実施例】(実施例1)以下、本発明の実施例を説明する。図1は本発明の一実施例を示す試料搬送装置の基本構成図である。本実施例においては処理装置として成膜装置(スパッタ装置)と評価装置(TEM)を取り上げた。また制御する環境としては試料温度を取り上げた。試料搬送装置は、試料ホルダ本体1、トランスファロッド9、チャック10、トランスファチャンバ23、バッテリー、または太陽電池駆動の可搬型イオンポンプ24、液体窒素シュラウド(shroud)25、チャンバ電流導入端子26、リード線27、リード線を巻き取るためのリール28、中間排気室30、ゲートバルブ31から構成されている。前記構成部品は図8に示す台車53および架台54に搭載される。トランスファチャンバ23と成膜装置29あるいは評価装置は、成膜装置29あるいは評価装置側のゲートバルブ32と中間排気室30の間で連結される。中間排気室30は連結部にコンフラットフランジを備えており、該フランジ径はゲートバルブ32の径に合わせて変換される。中間排気室30は高速排気を可能とするためできる限り小体積なものとし、ここにターボ分子ポンプ等の排気容量の大きい粗引きポンプを接続する。トランスファロッド9により試料ホルダ本体1をトランスファチャンバ23と成膜装置29あるいは評価装置との間で移動させる。またトランスファロッド9の先端にあるチャック10により、試料ホルダ本体1とトランスファロッド9との物理的かつ電気的着脱を行なう。チャンバ電流導入端子26は外部温度制御回路と接続され、試料ホルダ本体1に設置される試料加熱用ヒータ或いは冷却用素子に通電される。バッテリー駆動の可搬型イオンポンプ24と液体窒素シュラウド25は、試料搬送装置を成膜装置29あるいは評価装置と連結している時、および成膜装置29と評価装置間で移動している時のトランスファチャンバ23内の真空排気を行なう。
【0014】試料ホルダ及びトランスファロッドとの接続部の詳細を、図2と図3にそれぞれ断面図と平面図で示す。試料は試料台6上に固定される。この試料ホルダは2軸傾斜機構および試料温度制御手段を持つ。2軸傾斜機構では、試料台6が試料台軸周りと、それに直交する軸周りに回転することによって2軸傾斜が成される。先ず、試料台軸周りの傾斜動作を以下に示す。試料ホルダ本体1には、軸2とそれに連動したバネ3及び傾斜板4が付けられており、軸受け5を矢印A方向に押すと、軸2と傾斜板4が軸受け5に押され、バネ3が伸びる。試料およびヒータを載せる試料台6が傾斜板4と接触する部分は曲率を持っており、傾斜板4が軸2と共に矢印Aの方向に押されると試料台6は矢印B方向に回転し傾斜する。この時試料台6は、傾斜用バネ7の弾性力を受けている試料台押さえ8によって下側から矢印Bの逆方向への復元力を受ける。そこで、軸受け5を試料ホルダ本体1から離すと、つまり矢印Aの逆方向に動かすと、バネ3により傾斜板4が矢印Aの逆方向に引っ張られ、試料台押さえ8により試料台6の傾斜が元に戻る。もう1つの前記とは直交する軸方向の傾斜は、ピン11を図3の紙面に垂直方向に押して試料ホルダ本体1を回転することにより成される。前記2軸傾斜機構のうち、試料台6、傾斜用バネ7、試料台押さえ8は、後述のように試料台6上に固定されるヒータへの温度制御用電流導入機構と兼用されるので、従来の試料加熱ホルダで用いられたような電流導入線は無い。従って、試料台6のスムーズな傾斜動作が可能である。」
(c3)「【0035】(実施例6)本発明をSi-ULSI等の真空一貫プロセスラインに適用した場合の実施例を図9を用いて以下に示す。試料であるSiウエハは、ウエハテスト室46、ウエハ前処理室47、薄膜形成室48、不純物導入室49、パターン形成室50から成る真空一貫プロセスラインで各プロセスを受けることにより、DRAM、BiCMOS等のデバイスの形態に加工される。前記各プロセス室におけるプロセス条件の仕様からのずれ、あるいはプロセス不良発生の有無をチェックすることは、最終的なデバイス形態での不良を未然に防ぐために必要不可欠である。各プロセスにおけるウエハ状態を正確に評価するために、本発明の試料搬送装置を以下のように用いる。各プロセス室には試料搬送装置40が接続する共通ポートを設けておき、該ポートからウエハを抜き取る。この時、試料搬送装置のトランスファロッドの先端には、実施例1で用いた2軸傾斜試料加熱ホルダではなく、Siウエハ対応の試料ホルダを設置しておく。次に、試料搬送装置で評価装置52へ搬送する。場合によっては試料をウエハ加工装置51に搬送し、劈開やイオンシニング等によってウエハを評価可能な形状に加工できるものとする。これは装置によっては規格の大きさのウエハを挿入することができないことがあるからである。またTEMでは、ウエハ状態では厚すぎて観察できないのでイオンシニングによって薄膜化する必要があることもある。また試料薄膜の積層構造を走査電子顕微鏡(SEM)やオージェ電子分光装置で分析する場合には、ウエハの断面を劈開により作り、観察する。評価装置がTEMである場合には、ウエハ加工装置51内に備えられたマニピュレータによって、加工された試料をSiウエハ対応の試料ホルダから実施例1で用いた2軸傾斜試料加熱ホルダに載せ替える。但しこうしたウエハ加工工程を経ることにより、一部の環境を連続的に維持することができなくなることもあり得るが、なお他の環境は維持可能である。上記加工や試料の載せ替えが不要な場合は、ウエハ加工装置51を経由せず直接評価装置52へ搬送する。」
(c4)「【0039】
【発明の効果】本発明を用いることにより、真空度、温度等の環境を制御しながら目的の試料を複数の処理装置間で搬送可能となる。更に例えばスパッタ、CVD、MBE等の各種の成膜装置で作製した試料における、結晶構造、元素組成、結合状態などを作製直後の状態を保ったまま、その場動的に透過電子顕微鏡、2次イオン質量分析装置、光電子分光装置等の各種の評価装置により多角的に分析することができる。さらに、本発明は各種のプロセス装置および評価装置にフレキシブルに連結可能なので、Si-ULSIを始めとする製品デバイスの作製プロセスラインにおけるプロセス条件のオンライン検査に用いることもできる。」

上記甲第3号証の摘記事項及び添付図面に図示された事項並びに当業者の技術常識を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。

「真空度、温度等の環境を制御しながら目的の試料を複数の処理装置間で搬送可能な試料処理装置において、試料搬送装置で試料を評価装置(52)へ搬送する際に、評価装置がTEMである場合には、ウエハ加工装置(51)内に備えられたマニピュレータによって、加工された試料をSiウエハ対応の試料ホルダから2軸傾斜機構および試料温度制御手段を持つ試料ホルダに載せ替える試料処理装置。」

(d)甲第4号証以下については、省略

(2)甲各発明と本件特許発明1との対比

(a)甲1発明との対比
本件特許発明1と、甲発明とを対比する。
(あ)甲1発明の試料は試料回転装置の回転軸に固定され、試料回転装置はステージ上に装着されているから、結局、試料はステージ上に載置されていることに等しい。また、該試料は本件特許発明1の「試料基板」を含む概念である。してみると、本件特許発明1の「試料ステージ」と甲1発明の「ステージ」は、ともに「所定方向に移動でき、試料基板を載置できる試料ステージ」である点で共通する。
(い)甲1発明はイオンがFIBとなって試料上に集束されるから、「集束イオンビームを照射する照射光学系」を有することは明らかである。
(う)甲1発明の「堆積膜を形成するためのガス」は本件特許発明1の「デポジションガス」に相当し、同様に「堆積膜」は「デポジション膜」に相当する。したがって、甲1発明の「堆積膜を形成するためのガスを供給するガスノズル」は本件特許発明1の「デポジションガスを流出するガスノズル」に相当する。
(え)甲1発明の「FIBで切り出された分離試料」は、本件特許発明1の「集束イオンビーム加工により試料基板から摘出された試料片」に相当する。同様に「接触状態にある試料とプローブの先端が堆積膜で接続され」、「分離試料は接続されたプローブで支持された状態にな」ることは「デポジション膜により試料片と接続できるプローブを有」することに相当する。甲1発明の試料片(本件特許発明1の「分離試料」に相当)が堆積膜(同「デポジション膜」に相当)により固定されることは明らかである。
(お)甲1発明の「マニピュレータ」と本件特許発明1の「移送手段」は、ともに「試料片を所要の箇所に移動することができる」点で共通する。また、当業者の技術常識を参酌すれば甲1発明が真空状態の試料室を有することは明らかであり、両者は、ともに「試料室内に設置されている」点でも共通する。同様に、甲1発明の「ステージ」(本件特許発明1の「試料ステージ」に相当)及びプローブがその内部に設置されていることも明らかである。
(か)甲1発明は、マニピュレータを駆動し分離試料を所要の箇所に移動させ、FIBで薄膜化されるから、「試料室の内部において、試料基板から摘出された試料片とデポジション膜により接続しているプローブを退避させ」る構成を有している。また、甲1発明の「FIB装置」と本件特許発明1の「集束イオンビーム装置」は、ともに「固定された前記試料片に対して集束イオンビームを照射して透過電子線顕微鏡観察用の試料片を作製するように構成されている」点で共通する。

してみれば、両者は、
「所定方向に移動でき、試料基板を載置できる試料ステージと;
集束イオンビームを照射する照射光学系と;
デポジションガスを流出するガスノズルと;
集束イオンビーム加工により試料基板から摘出された試料片をデポジション膜により固定し;
デポジション膜により試料片と接続できるプローブを有し、試料室内に設置され、集束イオンビーム加工により前記試料基板から摘出された試料片を前記試料ホルダに移し変える移送手段と;
前記試料ステージ、及び前記プローブを、真空状態である内部に設置する試料室と、を備え;
前記試料室の内部において、前記試料基板から摘出された試料片とデポジション膜により接続している前記プローブを退避させ、試料片をデポジション膜により固定し、固定された前記試料片に対して集束イオンビームを照射して透過電子線顕微鏡観察用の試料片を作製するように構成されている集束イオンビーム装置。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点1):試料ステージの移動方向が、本件特許発明1では「3次元方向」であるのに対して、甲1発明では「2軸方向」である点。

(相違点2):本件特許発明1が「試料ホルダを搭載でき試料ステージに搭載される保持手段を試料室内に有し」、「保持手段に搭載された試料ホルダを試料ステージの移動により集束イオンビーム照射領域内に移動させ、試料ホルダにプローブを接近させ、試料ホルダに試料片をデポジション膜により固定し、試料ホルダに固定された試料片に対して集束イオンビームを照射して透過電子線顕微鏡観察用の試料片を作製するように構成されている」のに対して、甲1発明は「試料ホルダ」及び「試料ホルダを搭載できる保持手段」を有しておらず、「プローブに保持された分離試料はFIBで薄膜化されTEMの試料になる」ように構成されている点。

(相違点3):移送手段の設置場所が、本件特許発明1では「試料室壁」であるのに対して、甲1発明では、試料室内のどこであるのかが不明な点。

上記相違点2について検討する。
本件特許明細書の段落【0045】の「本発明が目指すような摘出した試料を別の部材(試料ホルダ)に設置して、他の観察装置や分析装置に導入するため・・・」の記載を参酌すれば、本件特許発明1の試料ホルダは、摘出した試料片を試料ホルダに設置したまま、他の観察装置や分析装置に導入することを前提としたものであることがわかる。
本件特許発明1は、そのために「試料ホルダにプローブを接近させ」(プローブに接続された)「試料片を試料ホルダにデポジション膜により固定」するという構成を備えている。
一方、甲第1号証の「プローブに保持された分離試料は元の試料基板とは別個に、多種の分析装置に搬入して測定することが可能であり、分析に適した形状に再加工することも可能である。」(段落【0009】、上記摘記事(a2)参照)、「プローブ31に保持された分離試料9は、試料2とは別個に多種の分析装置に挿入して測定することが可能である。」(段落【0018】、上記摘記事項(a5)参照)及び「また分離後、分離試料はプローブで支持された状態にあるため、任意の箇所に搬送することができ、且つ分離試料の姿勢を任意の姿勢に変更することができるため、TEM観察等の分析が可能となる。」(段落【0026】、上記摘記事項(a7)参照)等の記載から明らかなとおり、試料片は摘出・加工・観察の各工程をとおしてプローブで支持された状態にあることを前提としたものである。すなわち、甲1発明において、試料片をプローブで支持された状態に維持することは必須の構成であって、本件特許発明1のように、プローブに保持されていた試料片を、その保持を解除して試料ホルダに移し替えることは想定されていないというべきである。
そうであるから、たとえ本件特許発明1の属する技術分野において、切り出した試料片を観察用のホルダに移し替えることが周知技術(甲第1号証の段落【0003】上記摘記事項(a1)、甲第2号証、甲第3号証)であったとしても、当該周知技術を甲1発明に適用することが容易であるとすることはできない。
くわえて、本件特許発明1は、当該移し替え手段として「試料ホルダにプローブを接近させ」(プローブに接続された)「試料片を試料ホルダにデポジション膜により固定」する、という構成を有しているところ、請求人の提出した全ての証拠を精査しても、そのような移し替え手段が、本件の出願時点で周知のものであったという事実も認められない。
以上のとおりであるから、上記相違点1及び3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(b)甲2、甲3発明との対比
本件特許発明1は、上記のとおり、甲第2号証及び甲第3号証の記載事項を前提としても、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、甲2、甲3発明と対比するまでもなく、同様の理由により、本件特許発明1は、甲1発明、甲2発明、甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(c)まとめ
したがって、請求人の主張する無効理由2によっては、本件特許を無効とすることはできない。

第5 むすび

以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることができず、同法第123条第1項第4号の規定に該当せず、また、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反するとすることがでず、同法第123条第1項第2号の規定に該当しないから、本件特許を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
 
審決日 2012-02-14 
出願番号 特願2008-208445(P2008-208445)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (H01J)
P 1 123・ 537- Y (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡▲辺▼ 純也本郷 徹西村 直史  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 村田 尚英
橋本 直明
登録日 2010-09-17 
登録番号 特許第4589993号(P4589993)
発明の名称 集束イオンビーム装置  
代理人 磯田 志郎  
代理人 安國 忠彦  
代理人 鷺 健志  
代理人 永島 孝明  
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