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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1263404
審判番号 不服2010-1453  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-22 
確定日 2012-09-12 
事件の表示 特願2005-501687「デジタル周波数オフセット補正を用いてゼロ中間周波数ベースのGSM無線受信機のDCオフセットを除去する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月 6日国際公開、WO2004/038939、平成18年 2月 2日国内公表、特表2006-504368〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成15年10月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年10月25日、アメリカ合衆国;2003年6月3日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」と呼ぶ。)は、平成22年7月22日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載等からみて、次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】
ゼロ中間周波数ベース無線装置においてDCオフセットを補正する方法であって、
デジタル同相信号及び直交位相信号データを受信するステップと、
前記受信されたデジタル同相信号及び直交位相信号データをアナログからデジタルへ変換するステップと、
前記変換されたデジタル同相信号及び直交位相信号データからDCオフセットを推定するステップと、
前記デジタル同相信号及び直交位相信号データから、前記推定されたDCオフセットを除去するステップと、
前記推定されたDCオフセットが除去された前記デジタル同相信号及び直交位相信号データを回転させるステップと、
前記回転されたデジタル同相信号及び直交位相信号データをチャネル・フィルタリングするステップとを含む方法。」

ただし、本願の発明の詳細な説明や図1の記載等を参酌すると、上記請求項1中の「前記デジタル同相信号及び直交位相信号データから、前記推定されたDCオフセットを除去するステップ」という記載における「前記デジタル同相信号及び直交位相信号データ」は、「アナログからデジタルへ変換するステップ」によりデジタルに変換された後の「デジタル同相信号及び直交位相信号データ」、すなわち、上記請求項1中の「前記変換されたデジタル同相信号及び直交位相信号データ」と同じものを指していると解するのが妥当と考えられるので、そのような意味に解釈する。

2.引用例
平成22年4月16日付けの拒絶理由通知書で引用された特開平11-284677号公報(以下、「引用例」と呼ぶ。)には、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、無線通信システムにおける復調器に関し、特にディジタル無線通信システムにおける周波数オフセット制御に用いる角度信号と、誤差信号を用いるDCオフセット制御を設けた復調器に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、無線通信システムとして、マイクロ波やウルトラマイクロ波を用いてアナログばかりでなくデジタル信号の通信システムが盛んに活用されている。特に、携帯電話やPHS等の移動無線通信システムは急激な需要の増大に対応すべく、デジタル化回線のインフラストラクチャーとして技術の開発と設備の投資が活発に成されている。
【0003】しかるに、ディジタル無線通信システムにおける復調器においては、データエラーの削減と、正確な復調のため、従来からも周波数オフセット制御が一般的に行われている。図11は、従来の実施例を示したブロック図である。図11によると、従来の実施例は、乗算器1,2、発振器5、A/Dコンバータ3,4、複素乗算器6、位相検出器7、LPF8、NCO9、DCオフセット制御器11、π/2シフタ12とから構成されている。
【0004】ディジタル無線通信システムの受信機では、無線受信してダウンコンバートされた所望のIF信号を復調器に入力される。復調器の検波方式は準同期検波、入力される変調信号はQPSK、QAM等の直交変調を仮定しており、それぞれの直交成分(チャネル)に関して、一般的な表記である、Ich(In-Phase Channel)、Qch(Quadri-Phase Channel)という表記を用いる。
【0005】発振器5は入力IF信号とほぼ同一周波数のローカル発振器であり、この発振器5の出力及び、発振器5の出力をπ/2シフタ12によって位相をπ/2シフトさせたものを、それぞれIF-INのIF信号と乗算することによって、Ich,Qchのベースバンド信号である各信号成分が得られる。これらは、A/D変換器3,4によって、ディジタル信号に変換されて、Ich1,Qch1として出力される。本復調器は準同期検波を行うので、Ich1,Qch1は完全なベースバンド信号ではなく、キャリアの周波数が含まれている。
【0006】DCオフセット制御器10は、Ich1,Qch1を入力として、デジタル信号中のDCオフセット成分を除去して、信号Ich2,Qch2を出力する。
【0007】また、複素乗算器6は、Ich2,Qch2を入力として、NCO9から入力される回転角情報sin,cosを用いて、Ich2,Qch2に含まれるキャリアの周波数を除去された信号Ich4,Qch4を出力する。
【0008】また、位相検出器7は、複素乗算器6から入力されるIch4,Qch4を用いて、位相誤差信号Pd1を出力する。位相誤差信号Pd1はLPF8で平滑化されて、位相誤差信号Pd2とし、NCO9へ入力される。
【0009】NCO9は、LPF8から入力される位相誤差信号Pd2を、回転角信号sin,cosに変換して出力する。
【0010】複素乗算器6の出力信号Ich4,Qch4は、パラレル/シリアル変換されて、送信されたデジタルデータを得ることができる。
【0011】また、DCオフセット制御器11の別の構成を、図を用いて説明を行う。本構成では、DCオフセットの制御器は複素乗算器6の後から誤差情報を用いずに、複素乗算器6の前の情報のみを用いて、DCオフセットの制御を行う。
【0012】まず、複素乗算器による周波数、位相オフセット補正前の段階で、DCオフセットの影響がどのように見えるかを、図7に示す。図において、Ich1,Qch1それぞれのデジタル信号入力に対して、それぞれ極性判定器121で正負の極性を判断し、加算器123で出力信号と加算され、フリップフロップF/F122で一時記憶して出力する。こうして、結果的に蓄積した極性に応じて、DCオフセットの存在を、正負の極性によって判断する。
【0013】また、図12は、QPSKやQAMなどのように、同心円上にのみ信号点が存在するような変調方式を用いている場合の複素乗算器6による周波数、位相オフセット補正前の段階で、DCオフセットの影響を示したものである。図の点線で示された図が、Ich,Qch共にDCオフセットが存在する場合の信号を示しており、周波数、位相オフセット補正前であるため、信号は中心が原点に対してオフセットを持った位置で円を描いている。この信号のDCオフセットを除去すると実線のように、原点を中心とした円になる。
【0014】これを、Qchのみにしぼって見た図が(Ichのみでも同様)、図13である。図の点線で示された図が、DCオフセットが存在する場合の信号を示しており、信号は直線上を上下に往復するが、I軸に対して偏って分布している。即ち、この図の場合であれば、Qchの値が正の数である確率が、負の数である確率よりも高くなっている。この信号のDCオフセットを除去すると、実線のように、I軸に対して対象に分布するようになる。
【0015】さらに、図14は、従来例におけるDCオフセット制御器11の構成例を示したブロック図である。図14より、DCオフセット制御器11は、加算器111,112及びLPF113,114によって構成されている。DCオフセット制御器11は、Ich1,Qch1それぞれのデジタル信号入力に対して、それぞれ加算器111,112で、LPF113,114により出力成分のDC成分を含む低域成分を除去され、DCオフセットを除去した出力を得ることができる。
【0016】従来の構成では、誤差情報が得られないが、上述したように、DCオフセットが存在する場合には、Ich,Qchの各信号の正負の確率が異なることを利用する。即ち、各信号の極性信号によって制御を行うことが出来る。制御信号として信号の極性のみを用いるので、LPFには、図7あるいは図8に示したものを用いる。ここで、入力信号が正の値であれば減算、あるいはカウントダウン、負の値であれば加算、あるいはカウントアップを行えば、正負の確率が同一になるように制御が行われて、DCオフセットが除去されることになる。」

そして、上記記載事項を関連図面と技術常識に照らせば、上記記載事項中の「複素乗算器6」は、デジタル信号中のDCオフセット成分が除去された信号であるIch2、Qch2を位相誤差信号Pd2に応じて回転させるものと認められるので、引用例には、以下の発明(以下、「引用例記載発明」と呼ぶ。)が記載されているといえる。
「無線装置においてDCオフセットを補正する方法であって、
Ich、Qchのベースバンド信号を受信するステップと、
前記受信するステップにより受信されたIch、Qchのベースバンド信号をアナログからデジタルへ変換するステップと、
前記変換するステップにより変換されたIch、Qchのベースバンド信号(Ich1、Qch1)からDCオフセットを推定するステップと、
前記変換されたIch、Qchのベースバンド信号(Ich1、Qch1)から、前記推定するステップにより推定されたDCオフセットを除去するステップと、
前記除去するステップにより前記推定されたDCオフセットが除去されたIch、Qchのベースバンド信号(Ich2、Qch2)を回転させるステップとを含む方法。」


3.対比
本願発明と引用例記載発明を対比すると、引用例記載発明の「Ich、Qchのベースバンド信号」、「変換されたIch、Qchのベースバンド信号(Ich1、Qch1)」、「推定されたDCオフセットが除去されたIch、Qchのベースバンド信号(Ich2、Qch2)」は、それぞれ、本願発明の「デジタル同相信号及び直交位相信号データ」、「変換されたデジタル同相信号及び直交位相信号データ」、「推定されたDCオフセットが除去された前記デジタル同相信号及び直交位相信号データ」に相当するものということができ、本願発明と引用例記載発明の間には以下の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「無線装置においてDCオフセットを補正する方法であって、
デジタル同相信号及び直交位相信号データを受信するステップと、
前記受信されたデジタル同相信号及び直交位相信号データをアナログからデジタルへ変換するステップと、
前記変換されたデジタル同相信号及び直交位相信号データからDCオフセットを推定するステップと、
前記デジタル同相信号及び直交位相信号データから、前記推定されたDCオフセットを除去するステップと、
前記推定されたDCオフセットが除去された前記デジタル同相信号及び直交位相信号データを回転させるステップとを含む方法。」である点。

(相違点1)
本願発明の方法が実行される無線装置は、「ゼロ中間周波数ベース」の無線装置であるのに対し、引用例記載発明の方法が実行される無線装置は、「ゼロ中間周波数ベース」の無線装置ではない点。

(相違点2)
本願発明は、「回転されたデジタル同相信号及び直交位相信号データをチャネル・フィルタリングするステップ」を含むものであるのに対し、引用例記載発明は、そのようなステップを含むものとは限らない(引用例には、そのようなステップに相当するステップについての記載がない)点。


4.当審の判断

(1)上記相違点について

ア.相違点1について
本願発明でいう「ゼロ中間周波数ベース無線装置」は、「いわゆる『直接ダウンコンバージョン方式』の無線装置」を指すものと解されるが、そのような「ゼロ中間周波数ベース無線装置」自体は、上記平成22年4月16日付けの拒絶理由通知書に引用文献2として提示された国際公開第02/056490号にも示されるように周知である。
そして、該周知の「ゼロ中間周波数ベース無線装置」は、上記国際公開第02/056490号の段落0028にも記載されているように、IFの構成要素に関するコスト、基板領域、電力消費量の点で、いわゆるデュアルコンバージョン方式の無線装置に比してメリットを有するものとして知られており、引用例記載発明の方法を実行する無線装置についても、それを該周知の「ゼロ中間周波数ベース無線装置」とすることが有用な場合があることは当業者に自明である。
さらに、上記国際公開第02/056490号の段落0083やFIGURE8にDCオフセット除去に関する記載があることからも伺い知れるように、DCオフセットの除去は、上記周知の「ゼロ中間周波数ベース無線装置」においても周知の課題であり、その課題解決に引用例記載発明の方法が有効であることも、当業者に自明である。
また、引用例記載発明の方法を実行する無線装置を、該周知の「ゼロ中間周波数ベース無線装置」とすることに対する阻害要因も見当たらない。
してみれば、引用例記載発明の方法が実行される無線装置を「ゼロ中間周波数ベース」の無線装置とすることは、当業者が容易になし得た事というべきである。

イ.相違点2について
チャネル・フィルタリングは、妨害波(必要な周波数以外の信号)を除去するために、無線装置一般においてごく普通に行われている事である。そして、引用例記載発明の「回転させるステップ」により回転させられた信号にも妨害波(必要な周波数以外の信号)が混入している可能性があり、その信号に対しても該チャネル・フィルタリングするステップを付加することが有用な場合があること、そのようなステップを付加することに対する阻害要因がないことは、当業者に自明である。
してみれば、引用例記載発明を「回転されたデジタル同相信号及び直交位相信号データをチャネル・フィルタリングするステップ」を含むものとすることも、当業者が容易になし得た事というべきである。

(2)本願発明の効果について
本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用例の記載事項や周知の事項から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。


5.むすび
以上によれば、本願発明は、引用例記載発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-04 
結審通知日 2012-04-10 
審決日 2012-04-26 
出願番号 特願2005-501687(P2005-501687)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 甲斐 哲雄  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 飯田 清司
本郷 彰
発明の名称 デジタル周波数オフセット補正を用いてゼロ中間周波数ベースのGSM無線受信機のDCオフセットを除去する方法  
代理人 村松 貞男  
代理人 白根 俊郎  
代理人 河野 直樹  
代理人 山下 元  
代理人 河野 哲  
代理人 砂川 克  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 野河 信久  
代理人 峰 隆司  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 竹内 将訓  
代理人 勝村 紘  
代理人 堀内 美保子  
代理人 岡田 貴志  
代理人 佐藤 立志  
代理人 中村 誠  
代理人 市原 卓三  
代理人 福原 淑弘  

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