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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1263417
審判番号 不服2011-12241  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-08 
確定日 2012-09-12 
事件の表示 特願2002-546090号「ディスクブレーキのピストン‐シリンダーユニットの保護ブーツ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月 6日国際公開、WO02/44580、平成16年5月20日国内公表、特表2004-514858号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、2000年11月30日を国際出願日とする出願であって、平成23年2月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年6月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その審判の請求と同時に明細書についての手続補正がなされたものである。

II.平成23年6月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年6月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「シリンダー(9)内をスライドしてブレーキパッド(14)に作用するピストン(10)を含む、ディスクブレーキ(1)のピストン-シリンダーユニット(19)を保護する可撓性ブーツ(100)であって、
前記可撓性ブーツは、パッドの壁(30)と向き合うことができる部分を備える表面(103)を有し、
前記表面と関連し、用いられているときに前記パッドの前記壁と接触して、前記表面の部分を前記パッドの前記壁から離間した状態に維持することを意図する少なくとも1つのスペーサ部材(105)を備え、
前記ピストン(10)が実質的に前記シリンダー(9)の内部にあるときは、捲れ上がった形態をとり、前記ピストンが前記シリンダーから延出しているときは、展延された形態をとるように、複数の接続された環状バンド(106、107、108、111、112)と少なくとも1つのプリーツ部(109;110)とを有する点を特徴とする可撓性ブーツ(100)。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、新規事項を追加するものではなく、補正前の請求項1(平成22年11月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された発明を特定するために必要な事項である「可撓性ブーツ」について、「前記ピストン(10)が実質的に前記シリンダー(9)の内部にあるときは、捲れ上がった形態をとり、前記ピストンが前記シリンダーから延出しているときは、展延された形態をとるように、複数の接続された環状バンド(106、107、108、111、112)と少なくとも1つのプリーツ部(109;110)とを有する」との限定を付加したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.刊行物
(1)特開平7-180734号公報
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-180734号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「ディスクブレーキ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両を制動するブレーキに関し、特にディスクブレーキに関するものである。」
イ.「【0007】
【実施例】本発明の第1実施例について、図1に基づいて以下に説明する。1はディスクブレーキ、2は図示しない車体側に支持されるキャリパである。キャリパ2の内部には一端が開口端のシリンダ3が形成され、このシリンダ3にはピストン4が摺動可能となるように配置されている。5は図示しない車輪に固定されたディスクロータであり、このディスクロータ5の両側には、一対のパッド6が配置されている。このパッド6は、図示しないブレーキペダルが踏まれた時、ピストン4に押され、ディスクロータ5に押しつけられることで、ディスクロータ5の回転を抑制し、制動力を得るものである。一対のパッド6は、それぞれパッド裏金7に固定されており、パッド裏金7のパッド6に当接している側と反対の側には、ブレーキ時におけるブレーキ鳴きの発生防止に効果のあるシム8が当接している。上述したパッド6とパッド裏金7およびシム8は、請求項1で述べたパッド要素である。
【0008】シリンダ3の内周面とピストン4の外周面を覆うように、環状のダストブーツ9が介装されており、シリンダ3とピストン4の摺動面にほこりなどが侵入するのを防止する役割を果たしている。ダストブーツ9の材質としては、耐老化性、耐オゾン性、耐寒性に優れたものが好ましく、例えば、EPDM(エチレンプロピレン共重合体)が挙げられる。図2は、ディスクロータ5側からみたこのダストブーツ9の構造を示す正面図である。ダストブーツ9には、耐熱性が高い部分であるダストブーツ肉厚部10が一体成形されており、図2のように、ダストブーツ9の形状に沿って環状に形成されている。このダストブーツ肉厚部10が設けられる場所は、ダストブーツ9がシム8に向かう方向に膨らんだ時に、ダストブーツ9の中でシム8に接触する場所であり、この時、ダストブーツ肉厚部10のみがシム8に接触する。ダストブーツ9とシリンダ3の内周面およびピストン4の外周面に囲まれた密閉部11は、外気から密閉されており、この密閉部11の空気が温められて膨張すると、ダストブーツ9がシム8に向かう方向に膨らむようになっている。」
ウ.「【0011】次に、本発明の第2実施例について、図4に基づいて以下に説明する。図4は本発明の第2実施例のディスクロータ5側からみたダストブーツ12の構造を示す正面図である。ダストブーツ12には、第1実施例で設けられていたダストブーツ肉厚部10を突起状にした、耐熱性が高い部分であるダストブーツ突起部13が、周方向に等間隔に6箇所設けられている。このダストブーツ突起部13が設けられる場所は、ダストブーツ12がシム8に向かう方向に膨らんだ時に、ダストブーツ12の中でシム8に接触する場所であり、したがって、図1および図3のように、ダストブーツ12がシム8側に膨らんだ時には、このダストブーツ突起部13のみがシム8に接触する。
【0012】ここで本発明の第2実施例の実際の動作について説明すると、ダストブーツ突起部13がシム8に接触するまでは、第1実施例と同じであるので省略する。ダストブーツ12がシム8に向かう方向に膨らみ、等間隔に6箇所設けられたダストブーツ突起部13がシム8に接触するので、ダストブーツ12のダストブーツ突起部13以外の部分はシム8に接触しない。ダストブーツ突起部13は、シム8に接触し、シム8の熱により溶解するが、肉厚になっているために、耐熱性が高くなっており、ダストブーツ12は破れるまでは至らず、シリンダ3とピストン4の摺動面にほこりなどが入ることは防止され、ピストン4の摺動性は悪くならない。また、突起状のダストブーツ突起部13を設けたことで、第1実施例の一周に渡ってダストブーツ肉厚部10を設けた時に比べ、必要とされるEPDMの量は少なくでき、コストを低くすることができる。また、第2実施例ではシム8との接触部分をダストブーツ突起部13のみにしているため、第1実施例と比べて、接触して直接シム8から伝わってくる熱量を少なくすることができるため、シム8に接触しない部分のダストブーツ12の熱劣化が抑えられる。」
エ.図1,3の記載から、ダストブーツ9がシム8と向き合う面を有することは、明らかである。
オ.図1,3の記載から、ダストブーツ9には、ダストブーツ9がシム8に向かう方向に膨らんだ時に、シム8側に2つの突出する頂部を有するものであることが看取される。
カ.図1,3の記載から、ダストブーツ9には、ダストブーツ9の端部から、前記頂部に至るまでに、前記端部と前記頂部を接続する2つの接続部を有するものであることが看取される。

これら記載事項及び図1,3の記載を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリンダ3内をスライドしてパッド6に作用するピストン4を含む、ディスクブレーキ1のピストン-シリンダーユニットを保護するダストブーツ9であって、
前記ダストブーツ9は、パッド裏金7に当接するシム8と向き合うことができる部分を備える表面を有し、
前記表面と関連し、用いられているときにパッド裏金7に当接するシム8と接触して、前記表面の前記部分をパッド裏金7に当接するシム8から離間した状態に維持するダストブーツ突起部13を備え、
前記ピストン4が実質的に前記シリンダ3の内部にあるときは、捲れ上がった形態をとり、2つの接続部と2つの頂部を有するダストブーツ9。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「シリンダ3」は、その意味又は機能などからみて、前者の「シリンダー」に相当し、以下同様に、「パッド6」は「ブレーキパッド」に、「ピストン4」は「ピストン」に、「ディスクブレーキ1」は「ディスクブレーキ」に、「ダストブーツ9」は「可撓性ブーツ」に、「パッド裏金7に当接するシム8」は「パッドの壁」に、「ダストブーツ突起部13」は「スペーサ部材」に、「接続部」は「環状バンド」に、「頂部」は「プリーツ部」にそれぞれ相当するから、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は、
[一致点]
「シリンダー内をスライドしてブレーキパッドに作用するピストンを含む、ディスクブレーキのピストン-シリンダーユニットを保護する可撓性ブーツであって、
前記可撓性ブーツは、パッドの壁と向き合うことができる部分を備える表面を有し、
前記表面と関連し、用いられているときに前記パッドの前記壁と接触して、前記表面の部分を前記パッドの前記壁から離間した状態に維持することを意図する少なくとも1つのスペーサ部材を備え、
前記ピストンが実質的に前記シリンダーの内部にあるときは、捲れ上がった形態をとり、複数の接続された環状バンドと少なくとも1つのプリーツ部とを有する可撓性ブーツ。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明は、可撓性ブーツが「前記ピストンが前記シリンダーから延出しているときは、展延された形態をとるように、複数の接続された環状バンドと少なくとも1つのプリーツ部とを有する」のに対し、引用発明は、ピストン4がシリンダ3から延出しているときのダストブーツ9の形態が明らかではない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
引用発明のようなディスクブレーキにおいて、パッド6がディスクロータ5との摩擦により摩耗し、その摩耗により離れたパッド6とディスクロータ5との間隔をピストン4のシリンダ3からの延出により補うものであることは、その構成から明らかであり、ピストン4の延出に伴い、ダストブーツ9が展延された形態をとるものであることは、例えば実願平1-95469号(実開平3-35331号)のマイクロフィルムの図2にあるように技術常識であるから、引用発明において、ダストブーツ9がピストン4がシリンダ3から延出しているときは展延した形態をとることは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願補正発明の奏する効果も、引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、審尋に対する平成23年12月27日付けの回答書において特許請求の範囲の補正案を提示するとともに、「前置報告書において、提示された引用文献1(審決注:「刊行物1」を意味する。)(特開平7-180734号公報)、引用文献2(実願平1-95469号(実開平3-35331号)のマイクロフィルム)には、補正案の請求項1の発明特定事項である『複数の前記スペーサ部材は、前記環状部分の至るところに隣接する対の各々間に距離を持って区分して対をなして形成されており、2つの隣接するスペーサ部材が形成される各対は、各隣接する対間の距離よりも互いに近接して配置されていること』について、開示も示唆もありません。」((2)b)の項を参照。)と主張する。
しかしながら、スペーサ部材の数、配置等は、スペーサ部材とパッドの壁との接触形態等に応じて当業者が適宜選択すべき設計事項に過ぎず、上記審判請求人の主張は認められない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成22年11月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「シリンダー(9)内をスライドしてブレーキパッド(14)に作用するピストン(10)を含む、ディスクブレーキ(1)のピストン-シリンダーユニット(19)を保護する可撓性ブーツ(100)であって、
前記可撓性ブーツは、パッドの壁(30)と向き合うことができる部分を備える表面(103)を有し、
前記表面と関連し、用いられているときに前記パッドの前記壁と接触して、前記表面の部分を前記パッドの前記壁から離間した状態に維持することを意図する少なくとも1つのスペーサ部材(105)を備える点を特徴とする可撓性ブーツ(100)。」

2.刊行物
刊行物1の記載事項並びに引用発明は、前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、「可撓性ブーツ」についての限定である「前記ピストン(10)が実質的に前記シリンダー(9)の内部にあるときは、捲れ上がった形態をとり、前記ピストンが前記シリンダーから延出しているときは、展延された形態をとるように、複数の接続された環状バンド(106、107、108、111、112)と少なくとも1つのプリーツ部(109;110)とを有する」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3.及び4.に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-05 
結審通知日 2012-04-10 
審決日 2012-05-02 
出願番号 特願2002-546090(P2002-546090)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 立花 啓  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 冨岡 和人
所村 陽一
発明の名称 ディスクブレーキのピストン‐シリンダーユニットの保護ブーツ  
代理人 岡田 貴志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 福原 淑弘  
代理人 峰 隆司  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 井関 守三  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 竹内 将訓  
代理人 白根 俊郎  
代理人 野河 信久  
代理人 中村 誠  
代理人 砂川 克  
代理人 高倉 成男  
代理人 河野 直樹  
代理人 村松 貞男  
代理人 佐藤 立志  
代理人 河野 哲  

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