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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
管理番号 1263581
審判番号 不服2011-15267  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-14 
確定日 2012-09-20 
事件の表示 特願2009-120029「回路部材接続用異方導電性接着剤」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月10日出願公開、特開2009-203478〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、特許出願(特願平9-52976号)の一部を平成19年12月10日に新たな特許出願とした出願(特願2007-318750号)の一部をさらに平成21年5月18日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成21年 6月 3日 上申書
平成22年 3月 2日付け 拒絶理由通知
平成22年 4月22日 意見書・手続補正書
平成22年11月29日付け 拒絶理由通知(最後)
平成23年 1月12日 意見書・手続補正書
平成23年 4月12日付け 拒絶査定・補正の却下の決定
平成23年 7月14日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成23年 7月25日付け 前置審査移管
平成23年 8月 4日付け 前置報告
平成23年 8月12日付け 前置審査解除
平成23年 9月21日付け 審尋
平成23年11月16日 回答書
平成24年 3月 2日付け 補正の却下の決定
同日付け 拒絶理由通知
平成24年 4月24日付け 意見書・手続補正書
(なお、平成23年1月12日付け及び平成23年7月14日付けの各手続補正は、平成23年4月12日付け及び平成24年3月2日付けの各補正の却下の決定をもって、それぞれ却下された。)

第2 当審が通知した拒絶理由の概要
当審が平成24年3月2日付けで通知した拒絶理由は、概略、以下のとおりのものである。
「理由1:・・(中略)・・
理由2:本願発明1ないし7は、いずれも、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・・(中略)・・
2.理由2について

刊行物:
1.特開平8-315885号公報(上記第2における「引用例1」)
2.特開平9- 53001号公報(上記第2における「引用例2」)
・・(後略)」
(なお、以下、上記2つの刊行物をそれぞれ同様に「引用例1」及び「引用例2」という。)

第3 本願に係る発明
本願に係る発明は、平成22年4月22日付け及び平成24年4月24日付けの各手続補正により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)の記載からみて、平成24年4月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5にそれぞれ記載された事項で特定されるとおりの下記のものである。
「【請求項1】
相対向する回路電極間に介在され、相対向する回路電極を加圧し加圧方向の電極間を電気的に接続する回路部材接続用異方導電性接着剤であって、
ICチップとプリント基板との接続用の接着剤であり、
前記接着剤は、1分子中に少なくとも1個のナフタレン環を含んだ骨格を有するエポキシ樹脂及び潜在性硬化剤を含む接着剤樹脂組成物と、
溶融シリカ、結晶質シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナ及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる平均粒径が3μm以下の無機質充填材と、
導電粒子と、を含有し、
前記接着剤における前記無機質充填材の含有量は、前記接着剤樹脂組成物100重量部に対して20?90重量部であり、
前記接着剤の硬化後の120?140℃での平均熱膨張係数が120ppm以下であることを特徴とする回路部材接続用異方導電性接着剤。
【請求項2】
前記接着剤樹脂組成物がトリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂を含有する、請求項1記載の回路部材接続用異方導電性接着剤。
【請求項3】
前記接着剤樹脂組成物がエポキシ樹脂の他更にアクリルゴムを含有する請求項1又は2記載の回路部材接続用異方導電性接着剤。
【請求項4】
アクリルゴムが、その分子中にグリシジルエーテル基を含有している請求項3記載の回路部材接続用異方導電性接着剤。
【請求項5】
形状がフィルム状である請求項1?4のいずれか一項記載の回路部材接続用異方導電性接着剤。」

第4 当審の判断
上記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願発明」という。)について、当審が通知した拒絶理由2の当否を以下検討する。

1.各引用例に記載された事項
上記第2で示した引用例1及び2には、それぞれ以下の事項が記載されている。

ア.引用例1について
引用例1には、以下の事項が記載されている。

(ア-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】下記(1)?(3)の成分を必須とする接着剤組成物と、導電性粒子よりなる回路接続材料。
(1)フェノキシ樹脂
(2)ナフタレン系エポキシ樹脂
(3)潜在性硬化剤
【請求項2】フェノキシ樹脂の分子量(MW)が10000以上である請求項1記載の回路接続材料。
【請求項3】潜在性硬化剤が、オニウム塩である請求項1または2記載の回路接続材料。
【請求項4】ナフタレン系エポキシ樹脂の含有量が樹脂成分全体に対して、10?80重量%である請求項1乃至3のいずれかに記載の回路接続材料。
【請求項5】ナフタレン系エポキシ樹脂がナフタレンジオール系エポキシ樹脂である請求項1乃至4のいずれかに記載の回路接続材料。
【請求項6】導電性粒子の平均粒径が2?18μmである請求項1乃至5のいずれかに記載の回路接続材料。
【請求項7】導電性粒子の含有量が接着剤組成物100体積に対して、0.1?10体積%である請求項1乃至6のいずれかに記載の回路用接続材料。
【請求項8】形状がフィルム状である請求項1乃至7のいずれかに記載の回路接続材料。」

(ア-2)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は接着剤組成物と導電性粒子を用いた回路接続材料に関する。」

(ア-3)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記特開昭62-141083号公報に示されるフィルム状接着剤は、作業性に優れるものの耐熱性と耐湿性が不十分であるという欠点を有していた。この理由は、短時間硬化性(速硬化性)と貯蔵安定性(保存性)の両立により良好な安定性を得ることを目的として、常温で不活性な触媒型硬化剤を用いているために、硬化に際して十分な反応が得られないためである。すなわち、耐熱性の尺度であるガラス転移点(Tg)は、最高100℃近辺であり、半導体封止レベルで多用される、例えばプレッシャークッカー試験(PCT、121℃-2atm)といったより高温高湿の評価に耐性が不十分であった。なお、耐熱性用途に多用される硬化剤である酸無水物や芳香族アミン、及びポリフェノール等の重付加型の場合では、硬化に数時間以上と長時間が必要であり、作業性が不十分である。本発明の目的は、耐熱性と耐湿性、及び作業性に優れ、特に厳しい信頼性の要求される電気・電子用の回路接続材料を提供することにある。」

(ア-4)
「【0006】本発明に用いるナフタレン系エポキシ樹脂は、1分子内に少なくとも1個以上のナフタレン環を含んだ骨格を有しており、ナフトール系、ナフタレンジオール系等がある。ナフタレン系エポキシ樹脂は、他の高耐熱化用エポキシ樹脂と比較して諸物性に優れ、かつ接着剤組成物の硬化物のTgを向上させ、高温域での線膨張係数(α_(2))を低下させることが可能となるという点からより好ましい。また配合量は、フィルム形成性や硬化反応の点から、樹脂成分全体に対して10?80重量%とするのが好ましい。さらに、このナフタレン系エポキシ樹脂には必要に応じて、例えばエピクロルヒドリンとビスフェノールAやF、AD、S等から誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリンとフェノールノボラックやクレゾールノボラックから誘導されるエポキシノボラック樹脂や、グリシジルアミン、グリシジルエステル、ビフェニル、脂環式、塩素環式等の1分子内に2個以上のグリシジル基を有する各種のエポキシ化合物等を単独にあるいは2種以上を混合して用いることが可能である。上記した混合可能なエポキシ樹脂の中では、ビスフェノール型エポキシ樹脂が分子量の異なるグレードが広く入手可能で、接着性や反応性等を任意に設定できることから好ましい。これらのエポキシ樹脂は、不純物イオン(Na^(+)、Cl^(-)等)や、加水分解性塩素等を300ppm以下に低減した高純度品を用いることが、エレクトロンマイグレーション防止のために好ましい。」

(ア-5)
「【0007】潜在性硬化剤としては、イミダゾール系、ヒドラジド系、三フッ化ホウ素-アミン錯体、スルホニウム塩、アミンイミド、ポリアミンの塩、ジシアンジアミド等、及びこれらの変性物があり、これらは単独または2種以上の混合体として使用できる。これらはアニオンまたはカチオン重合型等のいわゆるイオン重合性の触媒型硬化剤であり、速硬化性を得やすく、また化学当量的な考慮が少なくてよいことから好ましい。硬化剤としては、その他にポリアミン類、ポリメルカプタン、ポリフェノール、酸無水物等の重付加型の適用や前記触媒型硬化剤との併用も可能である。」

(ア-6)
「【0009】上記で得た接着剤組成物中には、通常の添加物等として例えば、充填剤、軟化剤、促進剤、老化防止剤、着色剤、難燃剤、チキソトロピック剤、カップリング剤及びフェノール樹脂やメラミン樹脂、イソシアネート類等の硬化剤等を含有することもできる。これらの中では、導電性粒子やシリカ等の充填剤及びシラン、チタン、クロム、ジルコニウム、アルミニウム等の各系のカップリング剤が特に有効である。」

(ア-7)
「【0011】本発明の接着剤組成物は、一液型接着剤として、とりわけICチップと基板との接着や電気回路相互の接着用のフィルム状接着剤として特に有用である。この場合例えば、上記で得た接着剤組成物を溶剤あるいはエマルジョンの場合の分散液等として液状化して、離型紙等の剥離性基材上に形成し、あるいは不織布等の基材に前記配合液を含浸させて剥離性基材上に形成し、硬化剤の活性温度以下で乾燥し、溶剤あるいは分散液等を除去すればよい。この時、用いる溶剤は芳香族炭化水素系と含酸素系の混合溶剤が、材料の溶解性を向上させるため好ましい。ここに含酸素系溶剤のSP値は、8.1?10.7の範囲とすることが潜在性硬化剤の保護上好ましく、酢酸エステル類がより好ましい。また溶剤の沸点は、150℃以下が適用できる。沸点が150℃を超すと乾燥に高温を要し、潜在性硬化剤の活性温度に近いことから、潜在性の低下を招き、低温では乾燥時の作業性が低下する。このため沸点が、60?150℃が好ましく、70?130℃がより好ましい。」

(ア-8)
「【0012】本発明で得た接続材料を用いた電極の接続について説明する。この方法は、回路接続材料を基板上の相対峙する電極間に形成し、加熱加圧により両電極の接触と基板間の接着を得る電極の接続方法である。電極を形成する基板としては、半導体、ガラス、セラミック等の無機質、ポリイミド、ポリカーボネート等の有機物、ガラス/エポキシ等のこれら複合の各組み合わせが適用できる。」

(ア-9)
「【0013】
【作用】本発明においては、フェノキシ樹脂とナフタレン系エポキシ樹脂及び潜在性硬化剤とを含有することにより、速硬化性との保存性の両立を得ながら、ガラス転移温度の向上、線膨張係数の抑制、及び高温高湿性を得ることが可能である。この理由は、フェノキシ樹脂中の水酸基の存在がナフタレン系エポキシ樹脂の硬化反応を促進して速硬化性を可能とし、またフェノキシ樹脂が高分子量で粘度が比較的高いことから、常温域では潜在性硬化剤と接触しにくいことにより、良好な保存性が得られるためである。フェノキシ樹脂は、分子鎖が長くエポキシ樹脂と構造が類似しており、高架橋密度の組成物中で可とう性材料として作用し、高靱性を付与するので高強度でありながらタフネスな組成物が得られる。本発明における回路接続材料は、用いる接着剤がフェノキシ樹脂とナフタレン系エポキシ樹脂及び潜在性硬化剤を含有し、溶剤の種類と沸点を特定し潜在性硬化剤の活性温度以下で乾燥するため、硬化剤の劣化がなく、安定した保存性が得られる。」

(ア-10)
「【0014】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。なお、それぞれの配合比は表1にまとめてある。
実施例1
フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド株式会社製、商品名PKHC、平均分子量45000)50gを、重量比でトルエン(沸点110.6℃、SP値8.90)/酢酸エチル(沸点77.1℃、SP値9.10)=50/50の混合溶剤に溶解して、固形分40%の溶液とした。ナフタレン系エポキシ樹脂(ナフタレンジオール系エポキシ樹脂、大日本インキ化学工業株式会社製、商品名HP-4032、エポキシ当量149、加水分解性塩素130ppm))50gを、重量比でトルエン/酢酸エチル=50/50の混合溶剤に溶解して、固形分40%の溶液とした。潜在性硬化剤は、ノバキュア3941(イミダゾール変性体を核とし、その表面をポリウレタンで被覆してなる平均粒径5μmのマイクロカプセル型硬化剤を、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂中に分散してなるマスターバッチ型硬化剤、活性温度125℃、旭化成工業株式会社製商品名)を用いた。ポリスチレンを核とする粒子の表面に、厚み0.2μmのニッケル層を設け、このニッケル層の外側に、厚み0.02μmの金層を設け、平均粒径10μm、比重2.0の導電性粒子を作製した。固形重量比で樹脂成分100、潜在性硬化剤50となるように配合し、さらに、導電性粒子を3体積%配合分散させ、厚み80μmのフッ素樹脂フィルムに塗工装置を用いて塗布し、75℃、10分の熱風乾燥により、接着剤層の厚みが30μmの回路接続材料を得た。得られたフィルム状接着剤は、室温での十分な柔軟性を示し、また40℃で240時間放置しても、フィルムの性質には変化がほとんどなく、良好な保存性を示した。
【0015】実施例2?4
フェノキシ樹脂/ナフタレン系エポキシ樹脂の固形重量比を50g/50gに代えて、30g/70g(実施例2)、70g/30g(実施例3)、90g/10g(実施例4)、とした他は、実施例1と同様にして回路接続材料を得た。
【0016】実施例5
潜在性硬化剤をマイクロカプセル型硬化剤に代えて、p-アセトキシフェニルベンジルスルホニウム塩の50重量%酢酸エチル溶液(三新化学工業株式会社製、商品名サンエイドSI-60)とし、かつ固形重量比で樹脂成分100に対して、5となるように配合した他は、実施例1と同様にして回路接続材料を得た。
【0017】実施例6
ナフタレン系エポキシ樹脂の配合量を25gとし、これにビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、油化シェルエポキシ株式会社製、商品名エピコート828、エポキシ当量184)25gを加えた他は、実施例1と同様にして回路接続材料を得た。
【0018】実施例7
平均分子量45000のフェノキシ樹脂(PKHC)に代えて、平均分子量25000のフェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド株式会社製、商品名PKHA)とした他は、実施例1と同様にして回路接続材料を得た。
【0019】実施例8
導電性粒子の配合量を7体積%とした他は、実施例1と同様にして回路接続材料を得た。
【0020】実施例9
導電性粒子の粒径を5μmとした他は、実施例1と同様にして回路接続材料を得た。
【0021】実施例10
導電性粒子を、平均粒径2μm、凝集粒径10μmのニッケル粒子に代えた他は、実施例1と同様にして回路接続材料を得た。
【0022】比較例1
ナフタレン系エポキシ樹脂に代えて、ビスフェノール型エポキシ樹脂(エピコート828)とした他は、実施例1と同様にして回路接続材料を得た。
【0023】(熱機械分析)実施例1?10、比較例1で得た回路接続材料の一部を、170℃で1分間気中で加熱して硬化させて試料とし、これらを熱分析装置(株式会社マックサイエンス製、商品名TMA4000)により、引張荷重法、昇温速度10℃/minで測定して、それぞれについてガラス転移温度(Tg/℃)及び線膨張係数数(α/ppm)を求めた。この結果を表2に示す。実施例1?10の回路接続材料のTgは、いずれも130?140℃近辺に存在し、また高温域におけるαは、約180ppmであった。ナフタレン系エポキシ樹脂の含有量がわずかである比較例2の回路接続材料のTgが105℃、αが約350ppmであることや、ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いた比較例3の回路接続材料のTgが100℃、αが約380ppmであることを考慮すると、実施例1?10の回路接続材料は、高い耐熱性を有すると考えられる。
【0024】(回路の接続)上述の回路接続材料を用いて、ライン幅50μm、ピッチ100μm、厚み18μmの銅回路を500本有するフレキシブル回路板(FPC)同士を170℃、3MPaで20秒間加熱加圧して、幅2mmにわたり接続した。この時、予め一方のFPC上に、回路接続材料の接着面を貼り付けた後、70℃、0.5MPaで5秒間加熱加圧して仮接続し、その後、フッ素樹脂フィルムを剥離してもう一方のFPCと接続した。また、前述のFPCと酸化インジウム(ITO)の薄層を形成したガラス(表面抵抗20Ω/□)とを170℃、3MPaで20秒間加熱加圧して、幅2mmにわたり接続した。この時、上記と同様にITOガラスに仮接続を行った。
【0025】(接続抵抗の測定)回路の接続後、上記接続部を含むFPCの隣接回路間の抵抗値を、初期と、85℃、85%RHの高温高湿槽中に500時間保持した後に、マルチメータで測定した。抵抗値は隣接回路間の抵抗150点の平均(x+3σ)で示した。これらの結果を表2に示す。実施例1で得られた回路接続材料は、良好な接続性を示した。また、初期の接続抵抗も低く、高温高湿試験後の抵抗の上昇もわずかであり、高い耐久性を示した。実施例2?10の回路接続材料も同様に良好な接続信頼性を示している。これらに対して、ナフタレン系エポキシ樹脂にかえてビスフェノール型エポキシ樹脂を用いた比較例1は、硬化反応が不十分であるため接着状態が悪く、初期の接続抵抗もやや高く、高温高湿試験後の抵抗の上昇も大きい。
【0026】
【表1】


【0027】
【表2】




イ.引用例2について
引用例2には、以下の事項が記載されている。

(イ-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 エポキシ樹脂、硬化剤、無機質充填剤を含有してなるエポキシ樹脂組成物において、無機質充填剤としてAl、Si、B及びMgから選ばれる少なくとも一種の金属元素の金属酸化物、複合金属酸化物又は金属チッ化物粉末の表面に銀を被覆又は付着させた粒子を配合することを特徴とする導電性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】 無機質充填剤の熱伝導率が5W/mK以上である請求項1記載の導電性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】 請求項1又は2に記載のダイボンド材用導電性エポキシ樹脂組成物。」

(イ-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱伝導性、電気伝導性及び応力特性に優れた硬化物を与え、半導体業界においてダイボンド材として好適に使用できる導電性エポキシ樹脂組成物に関する。」

(イ-3)
「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、導電性のエポキシ樹脂組成物は、充填剤として銀が多量に充填されているのが代表的なものであり、このため、熱伝導性や電気伝導性には非常に優れている。
【0003】しかしながら、半導体業界においては、チップの大型化に伴い、従来のような銀を多量に充填したエポキシ樹脂組成物(ダイボンド材)は膨張係数が大きいため、応力特性の面から半導体素子に悪影響を与えてしまうことから使用できない状況になっている。それ故、膨張係数が小さく、応力特性に優れ、ダイボンド材として好適な材料が望まれている。
【0004】本発明は上記事情に鑑みなされたもので、熱伝導性、電気伝導性及び応力特性に優れた硬化物を与える導電性エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。」

(イ-4)
「【0007】以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明の導電性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、無機質充填剤を含有するものである。
【0008】ここで、本発明に使用されるエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば如何なるものでも使用可能であるが、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂などが例示されるが、この中でも室温(例えば5?30℃)で液状のエポキシ樹脂が望ましい。
【0009】本発明組成物を半導体素子のダイボンド材として使用する場合は、上記エポキシ樹脂中の水分等で抽出されるハロゲンイオンやアルカリ金属イオンの含有量が10ppm以下、特に5ppm以下であることが好ましい。これらイオンの含有量が10ppmを越えると半導体素子の信頼性、特に耐湿性に悪影響を与える場合がある。」

(イ-5)
「【0016】本発明では、無機質充填剤としてAl、Si、B及びMgから選ばれる少なくとも一種の金属元素の金属酸化物、複合金属酸化物又は金属チッ化物粉末の表面に銀を被覆又は付着させた導電性粒子を使用する。
【0017】ここで、上記金属酸化物、複合金属酸化物及び金属チッ化物として具体的には、アルミナ、ボロンナイトライド、チッ化アルミ、チッ化珪素、溶融シリカ、結晶シリカ、マグネシア、マグネシウムシリケートやAl-Si、Mg-Alなどの複合金属の酸化物(例えばアルミナ-シリカ(ムライト相)、マグネシア-アルミナ(スピネル相)など)等から選択される1種又は2種以上が例示される。これら粉末の中では、特に硬化時における応力を低下させすることが可能な、熱伝導率が大きく、かつ熱膨張係数の小さなアルミナ、ボロンナイトライド、チッ化アルミ、チッ化珪素が望ましい。
【0018】上記金属酸化物、複合金属酸化物又は金属チッ化物粉末に銀を被覆又は付着させて導電性を付与させるためには、金属酸化物、複合金属酸化物又は金属チッ化物粉末100部に対して銀を30?150部、特に40?100部使用して表面をコートすることが望ましく、30部未満では十分な導電性を付与できない場合があり、150部を越えると銀の量が多すぎて価格が非常に高くなる上、熱膨張係数も大きくなってしまう場合がある。
・・(中略)・・
【0020】銀を被覆又は付着させた導電性粒子の粒度分布は、平均粒径が0.5?30ミクロン、特に1?10ミクロンで、最大粒径が74ミクロン以下のものが好ましい。平均粒径が0.5ミクロン未満では粘度が高くなり組成物に多量に充填できない場合があり、30ミクロンを越えると粗い粒径が多くなり、ディスペンサーの細いニードルを塞いでしまう可能性がある。
・・(中略)・・
【0023】銀を被覆又は付着させた導電性粒子の使用量は、通常エポキシ樹脂と硬化剤の総量100部に対して100?1000部、特に200?800部の範囲が好適であり、100部に満たないと満足な導電性付与効果が得られない場合があり、1000部を越えると組成物の粘度が高くなり、作業性に劣ったものとなる場合がある。
【0024】本発明組成物には、無機質充填剤として上記銀を被覆又は付着させた導電性粒子の他に更に導電性を付与するために従来から公知の球状銀粉末や燐片状銀粉末、アルミニウム粉末、金粉末、銅粉末、ニッケル粉末などを添加してもよい。導電性粒子の形状には特に限定はなく、フレーク状、樹枝状、球状等のフィラーを単独でまた混合して用いることができる。また、シリカ、アルミナ、ボロンナイトライド、チッ化珪素、チッ化アルミ等を熱伝導性や低膨張化のために添加してもよい。また、チクソ性付与のためアエロジル等の超微粒子シリカを添加することもできる。なお、これら他の無機質充填剤の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができるが、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量100部に対して1?10部が好適である。」

(イ-6)
「【0029】
【発明の効果】本発明の導電性エポキシ樹脂組成物は、充填剤として銀粉を用いた従来の導電性エポキシ樹脂組成物に比べて熱膨張係数が小さく、優れた応力特性を有し、半導体素子に与える応力による影響を低減することに有効である。」

(イ-7)
「【0030】
【実施例】以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、各例中の部はいずれも重量部である。
〔実施例1?5、比較例1,2〕ビスフェノールA型エポキシ樹脂(RE310:日本化薬社製)90部、硬化剤としてジシアンジアミド(DYCY:日本カーバイド工業社製)8部、シランカップリング剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403:信越化学工業社製)1部、フェニルグリシジルエーテル(PGE-H:日本化薬社製)10部、硬化触媒2,4,6-トリジメチルアミノメチルフェノール(DMP-30:化薬アクゾ社製)0.8部と、表1に示す銀コート充填剤及び銀粉(シルコートAgC-GS:福田金属社製)をそれぞれ表2に示す割合で配合し、3本ロールで均一に混練することにより、7種類のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0031】これらのエポキシ樹脂組成物について下記試験を行った。結果を表2に示す。
試験方法:
Tg、線膨張係数:5×5×15mmの試験片を用いて、TMA(熱機械的分析器)(理学社製商品名TAS200)により毎分5℃の速さで昇温したときの値を測定した。なお、CTE-1は50?80℃の線膨張係数、CTE-2は200?230℃の線膨張係数の値である。
・・(中略)・・
体積抵抗率:それぞれの組成物を175℃で4時間の条件で硬化させて得られた長さ150mm×幅20mm×厚さ1mmの試験片を絶縁板上におき、両端をクリップで固定し、これについて実測した電気抵抗値をもとに下記計算式により体積抵抗率を求めた。
【0032】
【数1】


【0033】熱衝撃性不良率:銅フレームの上に導電性エポキシ樹脂組成物を均一に塗布し、この樹脂上に10×10mmにカットした0.6mm厚のシリコーンウェハーをのせ、175℃で4時間硬化させて試験片を得た。この試験片を-55℃で1分間?160℃で30秒間の熱サイクルを繰り返し、100サイクル後にクラック及び剥離が発生しているものを不良とし、不良率を測定した(試験数20)。
【0034】表2の結果より、本発明の導電性エポキシ樹脂組成物は、熱伝導性、電気伝導性及び応力特性に優れた硬化物を与えることが確認された。
【0035】
【表1】


【0036】
【表2】




2.検討

(1)引用例1に記載された発明
引用例1には、「下記(1)?(3)の成分を必須とする接着剤組成物と、導電性粒子よりなる回路接続材料。(1)フェノキシ樹脂(2)ナフタレン系エポキシ樹脂(3)潜在性硬化剤」が記載され、当該「回路接続材料」が形状として「フィルム状」であることも記載されている(摘示(ア-1)の【請求項1】及び【請求項8】参照)。
そして、引用例1には、上記「回路接続材料」が「通常の添加物等として例えば、充填剤、軟化剤、促進剤、老化防止剤、着色剤、難燃剤、チキソトロピック剤、カップリング剤及びフェノール樹脂やメラミン樹脂、イソシアネート類等の硬化剤等を含有することもでき」、「これらの中では、導電性粒子やシリカ等の充填剤及びシラン、チタン、クロム、ジルコニウム、アルミニウム等の各系のカップリング剤が特に有効である」ことも記載されている(摘示(ア-6)参照)。
また、引用例1には、上記「回路接続材料」がICチップと基板との接着や電気回路相互の接着用のフィルム状接着剤として有用であること(摘示(ア-7)参照)、上記「回路接続材料」を使用した電極の接続方法として、「回路接続材料を基板上の相対峙する電極間に形成し、加熱加圧により両電極の接触と基板間の接着を得る」こと(摘示(ア-8)参照)及び上記「回路接続材料」の硬化物が、高温域において約180ppmの線熱膨張係数を有すること(摘示(ア-10)の【0023】及び【表2】参照)もそれぞれ記載されている。
さらに、引用例1には、上記「ナフタレン系エポキシ樹脂」が、「1分子内に少なくとも1個以上のナフタレン環を含んだ骨格を有しており、ナフトール系、ナフタレンジオール系等がある」ことも記載されている(摘示(ア-4)参照)。
してみると、上記引用例1には、上記摘示(ア-1)ないし(ア-10)からみて、本願発明に倣い表現すると、
「基板上の相対峙する電極間に形成し、加熱加圧により両電極の接触と基板間の接着を得るためのフィルム状の回路接続材料であって、
ICチップとプリント基板との接続用のものであり、
前記回路接続材料は、1分子中に少なくとも1個以上のナフタレン環を含んだ骨格を有するエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂及び潜在性硬化剤を含有する接着剤組成物を含有し、
前記回路接続材料は、シリカなどの充填材及び導電性粒子を含有し、
前記回路接続材料の硬化後の高温域での線熱膨張係数が約180ppmであることを特徴とする回路接続材料。」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「基板上の相対峙する電極間に形成し、加熱加圧により両電極の接触と基板間の接着を得る」は、複数の基板上の各電極を相対峙させた間に回路接続材料の層を形成した後、両基板の外側から加熱しながら圧力を加えて、両電極の接触、すなわち接続と基板の接着を同時に得ることを意味するものと認められるから、本願発明における「相対向する回路電極間に介在され、相対向する回路電極を加圧し加圧方向の電極間を電気的に接続する」に相当するものといえる。
そして、引用発明における「フィルム状の回路接続材料」は、電極間の接続と基板間の接着とを同時に行うものであり、異方導電性(すなわち、加熱加圧方向には導電性を有しそれと直交する方向には絶縁性を有する性質)を有することは当業者に自明であるから、本願発明における「回路部材接続用異方導電性接着剤」に相当するとともに、引用発明における「ICチップとプリント基板との接続用の」が、本願発明における「ICチップとプリント基板との接続用の」に相当することも明らかである。
また、引用発明における「1分子中に少なくとも1個以上のナフタレン環を含んだ骨格を有するエポキシ樹脂・・及び潜在性硬化剤を含有する接着剤組成物」、「シリカなどの充填材」及び「導電性粒子」は、それぞれ、本願発明における「1分子中に少なくとも1個のナフタレン環を含んだ骨格を有するエポキシ樹脂及び潜在性硬化剤を含む接着剤樹脂組成物」、「溶融シリカ、結晶質シリカ・・からなる群より選ばれる・・無機質充填材」及び「導電粒子」に相当することも明らかである。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「相対向する回路電極間に介在され、相対向する回路電極を加圧し加圧方向の電極間を電気的に接続する回路部材接続用異方導電性接着剤であって、
ICチップとプリント基板との接続用の接着剤であり、
前記接着剤は、1分子中に少なくとも1個以上のナフタレン環を含んだ骨格を有するエポキシ樹脂及び潜在性硬化剤を含有する接着剤樹脂組成物を含有し、
前記接着剤は、溶融シリカ、結晶質シリカからなる群より選ばれる無機質充填材と、
導電粒子と、を含有することを特徴とする回路部材接続用異方導電性接着剤」
に係る点で一致し、下記の4点で相違している。

相違点1:「無機質充填材」につき、本願発明では、「平均粒径が3μm以下の」ものであるのに対して、引用発明では、充填材の粒径につき特定されていない点

相違点2:「無機質充填材」につき、本願発明では、「接着剤樹脂組成物100重量部に対して20?90重量部含有」するのに対して、引用発明では、充填材の含有量につき特定されていない点

相違点3:本願発明では、「接着剤の硬化後の120?140℃での平均熱膨張係数が120ppm以下である」のに対して、引用発明では、「回路接続材料の硬化後の高温域での線熱膨張係数が約180ppmである」点

相違点4:引用発明では、接着剤樹脂組成物フェノキシ樹脂が必須に含有されるのに対して、本願発明では、フェノキシ樹脂の含有につき特定されていない点

(3)各相違点に係る検討

ア.相違点1及び2について
上記相違点1及び2につき併せて検討する。
上記引用例2には、「熱伝導性、電気伝導性及び応力特性に優れた硬化物を与え、半導体業界においてダイボンド材として好適に使用できる導電性エポキシ樹脂組成物」(摘示(イ-2)参照)を構成する際に添加使用する無機質充填材について、「硬化時における応力を低下させることが可能な、熱伝導率が大きく、かつ熱膨張係数の小さなアルミナ、ボロンナイトライド、チッ化アルミ、チッ化珪素」及び「シリカ、アルミナ、ボロンナイトライド、チッ化珪素、チッ化アルミ等を熱伝導性や低膨張化のために添加」すること(摘示(イ-5)の【0017】及び【0024】参照)が記載されている。
そして、上記引用例2には、熱伝導性や低膨張化のために無機質充填材を使用する場合において、平均粒径が0.5?30ミクロン、好適には1?10ミクロンのものが使用され、それより粒径が小さいものを使用すると、粘度が高くなり充填材が多量に充填できない場合があり、粒径が大きすぎるとディスペンサーのニードルをふさぐなどの作業性悪化の可能性があることが記載されている(摘示(イ-5)の【0020】参照)。
また、上記引用例2には、熱伝導性や低膨張化のために無機質充填材を使用する場合において、導電性粒子としてのものが「エポキシ樹脂と硬化剤の総量100部に対して100?1000部」であり、「100部に満たないと満足な導電性付与効果が得られない場合があり、1000部を越えると組成物の粘度が高くなり、作業性に劣ったものとなる場合がある」とともに、他の無機質充填材としてのものが「エポキシ樹脂と硬化剤の合計量100部に対して1?10部が好適である」ことも記載されている(摘示(イ-5)の【0023】及び【0024】参照)。
以上の引用例2の記載を総合すると、熱伝導性、電気伝導性及び応力特性に優れた硬化物を与え、半導体業界においてダイボンド材として好適に使用できる導電性エポキシ樹脂組成物を構成する際に添加使用する無機質充填材について、その粒径が小さい及び/又は添加使用量が多い場合に組成物の粘度が上昇し、粒径が大きい場合には作業性が低下する傾向にあることが、本願に係る原出願時に少なくとも当業者に知られた公知の技術知識であったものと認められる。
なお、ダイボンド材は、半導体チップ(ダイ)をフレーム又は回路基板などの支持部材に接着させるためのものであり、引用例2のダイボンド材として好適に使用できる導電性エポキシ樹脂組成物は、導電性(電気伝導性)をも併せ持つものであるから、本願発明におけるICチップとプリント基板とを接着させる回路部材接続用異方導電性接着剤(及び引用発明のICチップとプリント基板とを接着させる回路接続材料)とは、いずれも技術分野を一にするものと認められる。
してみると、引用発明において、熱伝導性、電気伝導性及び応力特性などを改善し回路接続材料全体の低膨張化を意図してシリカなどの無機質充填材を使用するにあたり、上記公知の技術知識に基づき、接続時の粘度及び作業性のバランスを考慮して、無機質充填材の粒径及び添加量を適当な範囲とする、例えば平均粒径3μm以下で接着剤樹脂組成物100重量部に対して20?90重量部と規定することは、当業者が通常の創作能力を発揮することにより、実験的に適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点1及び2に係る事項は、いずれも当業者が適宜なし得ることである。

イ.相違点3について
上記相違点3につき検討する。
上記引用例1には、「(熱機械分析)実施例1?10、比較例1で得た回路接続材料の一部を、170℃で1分間気中で加熱して硬化させて試料とし、これらを熱分析装置(株式会社マックサイエンス製、商品名TMA4000)により、引張荷重法、昇温速度10℃/minで測定して、それぞれについてガラス転移温度(Tg/℃)及び線膨張係数数(α/ppm)を求めた。この結果を表2に示す。実施例1?10の回路接続材料のTgは、いずれも130?140℃近辺に存在し、また高温域におけるαは、約180ppmであった。ナフタレン系エポキシ樹脂の含有量がわずかである比較例2の回路接続材料のTgが105℃、αが約350ppmであることや、ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いた比較例3の回路接続材料のTgが100℃、αが約380ppmであることを考慮すると、実施例1?10の回路接続材料は、高い耐熱性を有すると考えられる。」と記載されている(摘示(ア-10)の【0023】参照)ことからみて、引用発明における「高温域での線熱膨張係数」は、回路接続材料の硬化物のTgを超える温度域(例えば180℃程度)における線熱膨張係数であると理解するのが自然である。
そして、引用例2にも記載されているとおり、半導体業界においてダイボンド材として好適に使用できる導電性エポキシ樹脂組成物を構成する際使用されるシリカなどの無機質充填材は、組成物成形体の低膨張化を意図して使用されるものであり(摘示(イ-5)の【0024】参照)、成形体の低温域における線熱膨張係数が高温域におけるものよりも小さくなるものと認められる(摘示(イ-7)の【表2】参照)から、同一の技術分野に属する回路接続材料である引用発明における「高温域での線熱膨張係数が約180ppmである」ものは、120?140℃における平均熱膨張係数が180ppmを下回るものとなる蓋然性が極めて高いものといえる。
また、引用発明においても、「速硬化性との保存性の両立を得ながら、ガラス転移温度の向上、線膨張係数の抑制、及び高温高湿性を得る」ことを意図するものであるから(摘示(ア-9)参照)、同一の技術分野に属する上記引用例2の公知技術に基づき、120?140℃なる温度域における(平均)熱膨張係数をある程度以下、例えば120ppm以下の低いものと規定し無機質充填材の使用によりそれを達成することも、当業者が適宜なし得ることとも認められる。
したがって、上記相違点3に係る事項は、当業者が適宜なし得ることである。

ウ.相違点4について
上記相違点4につき検討すると、本願明細書には、本願発明において、さらにフェノキシ樹脂をさらに使用することができることが記載されており(【0010】など参照)、本願明細書の本願発明に係る実施例又は参考例についての記載を検討しても、フェノキシ樹脂を併用する場合のみが記載されている(【0013】?【0016】)。
してみると、本願発明においても、さらにフェノキシ樹脂を使用する態様を含むことは明らかであるから、上記相違点4に係る事項は、実質的な相違点ではない。

エ.本願発明の効果について
本願発明の効果は、本願発明の解決課題(本願明細書【0004】及び【0007】参照)からみて、「接続部での接続抵抗の増大や接着剤の剥離がなく、接続信頼性が大幅に向上する」ことなどであるものといえる。
それに対して、上記イ.においても検討したとおり、引用発明においても、回路接続材料において「速硬化性との保存性の両立を得ながら、ガラス転移温度の向上、線膨張係数の抑制、及び高温高湿性を得る」ことを意図するものであり、また、同一の技術分野に属する技術に係る引用例2に記載されているとおり、シリカなどの無機質充填材を添加使用することにより成形体の低膨張化が図られることが公知技術であるから、引用発明に上記引用例2の公知技術を組み合わせた場合、回路接続材料において速硬化性との保存性の両立を得ながら、ガラス転移温度の向上、線膨張係数の抑制、及び高温高湿性を得ることに加えて更に低膨張化が図られ、もって、接続部での接続抵抗の増大や接着剤の剥離がなく、接続信頼性が向上するなどの本願発明に係るものと同様の効果が奏されるであろうことは、当業者に自明である。
してみると、本願発明の効果は、引用発明に上記引用例2の公知技術を組み合わせた場合の効果から、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものであるとはいえない。

オ.小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び上記引用例2に記載された公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年4月24日付け意見書において、
「審判官合議体は、上記相違点3について、130?140℃以上であると考えられる高温域において、引用発明の回路接続材料の線膨張係数が約180ppmであること、及び、引用例2の記載から硬化物の低温域における線膨張係数が高温域におけるものより小さくなるものと認められることから、「引用発明における『高温域での線熱膨張係数が約180ppmである』ものは、120?140℃における平均熱膨張係数が180ppm以下となる蓋然性が極めて高いものといえる。」と認定しています。これについて審判請求人は、以下のとおり意見を申し述べます。
本願発明における「接着剤の硬化後の120?140℃での平均熱膨張係数が120ppm以下」という値は、熱膨張係数としては大変小さな値です。これは、上記相違点1及び2に係る無機質充填材の構成が関与する効果として導かれたものです。
実際、本願明細書の実施例4(段落[0016])では、無機質充填材として平均粒径が0.5μmの溶融シリカ(40重量部)が使用されており、無機質充填材以外の構成が共通する参考例1(段落[0013])と比較すると、120℃?140℃における平均熱膨張係数が180ppmから120ppmへと低下していることが確認されます。このような効果は、引用文献1及び2に記載の発明と比較して際立って優れたものであり、出願当時の技術水準から当業者が予測することができたものではありません。」
と主張している(意見書「(3-2)」「(b)相違点3について」の欄)。
しかるに、この審判請求人の主張につき検討すると、上記2.のイ.及びエ.でもそれぞれ説示したとおり、引用発明においても、回路接続材料において「速硬化性との保存性の両立を得ながら、ガラス転移温度の向上、線膨張係数の抑制、及び高温高湿性を得る」ことを意図するものであり、また、引用例2に記載されているとおり、シリカなどの無機質充填材を添加使用することにより成形体の低膨張化が図られることが公知技術であるから、引用発明に上記引用例2の公知技術を組み合わせた場合、回路接続材料において速硬化性との保存性の両立を得ながら、ガラス転移温度の向上、線膨張係数の抑制、及び高温高湿性を得ることに加えて更に低膨張化が図られ、もって、接続部での接続抵抗の増大や接着剤の剥離がなく、接続信頼性が向上するなどの本願発明に係るものと同様の効果が奏されるであろうことは、当業者に自明であって、例えば120ppm以下の(平均)熱膨張係数が達成できるであろうことも当業者が予期し得る範囲のものである。
してみると、本願発明の効果が「引用文献1及び2に記載の発明と比較して際立って優れたものであり、出願当時の技術水準から当業者が予測することができたものではありません」という主張は当を得ないものというほかはない。
なお、本願明細書に記載された本願発明のものでないシリカなどの無機質充填材を含まない「参考例3」の場合であっても105ppmなる平均熱膨張係数が達成されているのであるから、この点からみても、本願発明の120ppm以下の平均熱膨張係数が際立って優れたものということができない。
したがって、審判請求人の上記意見書における主張は、当を得ないものであり、採用することができず、上記2.で示した当審の検討結果を左右するものではない。

4.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記引用例2に記載された公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
結局、本願の請求項1に記載された事項で特定される本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その余につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-19 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-06 
出願番号 特願2009-120029(P2009-120029)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (C09J)
P 1 8・ 121- WZ (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大熊 幸治木村 敏康  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 橋本 栄和
東 裕子
発明の名称 回路部材接続用異方導電性接着剤  
代理人 城戸 博兒  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 池田 正人  
代理人 平野 裕之  
代理人 清水 義憲  

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