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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1263584
審判番号 不服2011-18353  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-24 
確定日 2012-09-20 
事件の表示 特願2010-261492「無線基地局及びその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月24日出願公開、特開2011- 41330〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年11月28日に出願した特願2005-342176号の一部を平成22年11月24日に新たに特許出願したものであって、平成23年5月19日付けで拒絶査定がなされ、同年8月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、手続補正がなされたものである。

2.平成23年8月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年8月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
2-1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項2は、
「無線通信システムにおける第1の無線基地局の制御方法であって、
当該第1の無線基地局にいる無線通信端末の上り通信速度の上限値に関する情報を、当該無線通信システムにおける第2の無線基地局の上り通信のために、当該第1の無線基地局から当該第2の無線基地局に通知することを開始することを特徴とする制御方法。」
と補正された。
本件補正は、補正前の「上り通信速度」を「上り通信速度の上限値に関する情報」とするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の前記請求項2に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-348007号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の記載がなされている。

(1)「【請求項4】 複数の無線基地局と、前記複数の無線基地局に含まれる第1の無線基地局と無線リンクで接続されネットワーク層プロトコルにより一意の宛先に届けられるパケット通信を行う移動端末装置とを備えた無線移動通信システムにおける無線移動通信方法であって、
前記無線移動端末装置が、その接続する無線基地局を前記複数の無線基地局に含まれる第2の無線基地局へ変更することであるハンドオーバを実現するために、
前記移動端末装置は、
前記複数の無線基地局が送信するビーコン信号を受信しその受信状態がデータ送受信を行うのに十分であり、かつ前記第1の無線基地局からの受信状態よりも十分に良いものを検出無線基地局としてM台選択し、
前記M台の検出無線基地局の無線リンク層識別子およびその受信状態のリストと、前記移動端末装置上で実行中の通信セッションを継続するだけに必要な無線リソース量である要求無線リソース量を含むメッセージである検出無線基地局通知を前記第1の無線基地局に向けて送信し、
前記第1の無線基地局より移動先となり得るN台の無線基地局である移動先候補無線基地局の無線リンク層識別子とそれらが提供可能な無線リソース量のリストを含むメッセージである移動先候補無線基地局通知を受け取ると、前記移動先候補無線基地局の提供可能な無線リソース量とそのビーコン信号の受信状態より移動先となる前記第2の無線基地局を決定し、前記第2の無線基地局の無線リンク層識別子と前記要求無線リソース量とを含むメッセージである移動先無線基地局要請を前記第1の無線基地局に送信し、
前記第1の無線基地局より、前記第2の無線基地局へハンドオーバした後で用いるネットワーク層レベルの識別子である新ネットワーク層識別子と前記第2の無線基地局との通信に使用する無線チャネルの番号である新無線チャネル番号とを含むメッセージである移動先無線基地局広告を受け取ると、前記新ネットワーク層識別子と新無線チャネル識別子を設定することで、ハンドオーバを完了させ、
前記第1の無線基地局は、
前記移動端末装置より前記検出無線基地局通知を受け取ると、前記検出無線基地局通知に含まれる前記M台の検出無線基地局からやはり前記検出無線基地局通知に含まれる要求無線リソース量を満足する前記移動先候補無線基地局をN台選択し、前記移動端末装置に向けて前記移動先候補無線基地局通知を送信し、
前記移動端末装置より前記移動先無線基地局要請を受け取ると、前記移動先無線基地局要請により指定される前記第2の無線基地局に向けて、前記移動端末装置の無線リンク層識別子と前記要求無線リソース量を含むメッセージである無線リソース確保要求を送信し、
前記第2の無線基地局より前記新ネットワーク層識別子と前記新無線チャネル識別子とを含むメッセージである無線リソース確保応答を受信すると、前記無線移動端末装置に向けて前記移動先無線基地局広告を送信し、
前記第2の無線基地局は、
前記第1の無線基地局より前記無線リソース確保要求を受信すると、前記無線リソース確保要求に含まれる前記要求無線リソース量を満足するだけの無線チャネルを確保し、前記第1の無線基地局に向けて前記無線リソース確保応答を送信することによりハンドオーバの手続きを実行することを特徴とする無線移動通信方法。」

(2)「【0010】本発明はこのような事情に基づき提案されたものであり、その第1の目的は、無線通信路を介して無線基地局と通信を行う移動端末装置がハンドオーバ行なう際に、移動先となる無線基地局との間に、移動前に接続していた無線基地局との間で保証されていたものと同一の信頼性のある通信を保証することが可能な無線移動通信方法及び無線基地局並びに無線リソース管理装置及び移動端末装置並びにプログラムを提供することである。」

(3)「【0052】図4は無線リソースの分散管理形態の場合における移動端末装置MNと無線基地局AR-1、AR-2、AR-3とに係るハンドオーバ手続きの概要を示したものである。ハンドオーバ処理は大きく分けて以下の5段階の手続きにより実現される。
【0053】(1)各無線基地局間の無線リソース情報を共有する、無線基地局間無線リソース情報交換手続き(図4の手続きP401)
(2)ハンドオーバの実行を決定し、ハンドオーバ実行の前処理を行う、ハンドオーバ実行開始手続き(図4の手続きP402)
(3)移動先となる無線基地局上に移動端末装置上で実行されている通信
セッションが要求する無線リソースを確保するための、無線リソース確保手続き(図4の手続きP403)
(4)移動先となる無線基地局および移動先無線基地局との通信で用いる無線チャネルを通知する、ハンドオーバ移動先通知手続き(図4の手続きP404)
(5)FMIPに基づくパケット転送処理を実行するFMIPパケット転送手続き(図4の手続きP405)。」

(4)「【0067】次に、図10は図4の無線リソース確保手続きP403の処理手順の例を示したものである。以降では、図2、図36、図37を用いて、無線基地局AR-1が無線基地局AR-2に対して無線リソースの確保を要請する場合の手順について詳細に説明する。
【0068】(ステップ0) 図4のハンドオーバ実行開始手続きP402の結果として、無線基地局AR-1のハンドオーバ処理部230は、移動端末装置MNもしくは無線基地局AR-1の移動先無線基地局判定部260から移動先無線基地局としてAR-2を通知される。
【0069】(ステップ1) 無線基地局AR-1のハンドオーバ処理部230は、移動先無線基地局AR-2に向けたパケット転送のための準備処理を行った後、移動端末装置MNの識別子と移動端末装置MN上の通信セッ
ションが要求する無線リソースに関する情報を含んだ、図36に示す形式のリソース確保要求メッセージを移動先無線基地局AR-2に向けて送信する(図10のメッセージ1001)。」

(5)「【0078】
【第1の実施例】図2と図3と図12と図32と図33と図34と図39を用いて、本発明の第1の実施例の手順を説明する。
……
【0088】(ステップ8) 無線基地局AR-1は、図5として示した手順を用いて、無線基地局AR-2に対して無線リソースの確保を要求する
(図12の手続きP403)。
【0089】(ステップ9) 無線基地局AR-1は、図6として示した手順を用いて、移動端末装置MNに対して、移動先無線基地局との通信で用いる無線チャネルとIPアドレスに関する情報を通知する(図12の手続きP404)。
【0090】図39は、本実施例において用いる、図32に示す形式の検出無線基地局通知メッセージと、図34に示す形式の移動先無線基地局要請
メッセージとに含まれる、移動端末装置上の通信セッションが必要とする無線リソース量に含まれる詳細な情報を示したものである。移動端末装置が要求する無線リソース量には、送受信データのビット誤り率と、送受信データの伝送速度と、送受信データのデータ伝送遅延とが含まれ、さらに各項目の優先順位とが含まれる。」

したがって、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「複数の無線基地局と、前記複数の無線基地局に含まれる第1の無線基地局と通信を行う移動端末装置とを備えた無線移動通信システムにおける無線移動通信方法であって、
前記移動端末装置が、その接続する無線基地局を前記複数の無線基地局に含まれる第2の無線基地局へ変更することであるハンドオーバを実現するために、
前記第1の無線基地局は、
前記移動端末装置より移動先無線基地局要請を受け取ると、前記第2の無線基地局に向けて、前記移動端末装置の要求無線リソース量を含むメッセージである無線リソース確保要求を送信し、
前記要求無線リソース量は、前記移動端末装置上で実行中の通信セッションを継続するだけに必要な無線リソース量である要求無線リソース量であり、
前記移動端末装置上で実行中の通信セッションを継続するだけに必要な無線リソース量には、送受信データの伝送速度が含まれることを特徴とする無線移動通信方法。」

2-3.対比
引用発明の「無線移動通信システム」、「第1の無線基地局」、「移動端末装置」、及び「第2の無線基地局」は、本願補正発明の「無線通信システム」、「第1の無線基地局」、「無線通信端末」、及び「第2の無線基地
局」に、それぞれ対応する。
引用発明の「無線リソース確保要求」は、「要求無線リソース量」を含むメッセージであり、「要求無線リソース量」は移動端末装置上で実行中の通信セッションを継続するだけに必要な無線リソース量で、送受信データの伝送速度が含まれるものであるから、本願補正発明の「無線通信端末の上り通信速度の上限値に関する情報」とは、無線通信端末の上り通信速度に関する情報である点で共通する。
また、その情報を、「前記移動端末装置より移動先無線基地局要請を受け取ると」送信するのであるから、「前記移動端末装置より移動先無線基地局要請を受け取ると」その情報の通知を開始するといえる。
引用発明の無線移動通信方法にはその一部に、「第1の無線基地局」の制御方法が含まれている。
したがって、本願補正発明と引用発明とを対比すると、次の点で一致す
る。

「無線通信システムにおける第1の無線基地局の制御方法であって、
当該第1の無線基地局にいる無線通信端末の上り通信速度に関する情報
を、当該無線通信システムにおける第2の無線基地局の上り通信のために、当該第1の無線基地局から当該第2の無線基地局に通知することを開始することを特徴とする制御方法。」

また次の点で相違する。

相違点
無線通信端末の上り通信速度に関する情報が、本願補正発明は上限値に関する情報であるのに対して、引用発明では通信速度に相当する伝送速度であるが、上限値に関するものであるかどうか明らかでない点。

2-4.相違点に対する判断
通信速度をその上限値で規定することは格別なことではないし、引用発明は、上記(2)に記載されているように、無線通信路を介して無線基地局と通信を行う移動端末装置がハンドオーバを行なう際に、移動先となる無線基地局との間に、移動前に接続していた無線基地局との間で保証されていたものと同一の信頼性のある通信を保証することを課題とするものであるから、移動前の通信速度の上限値が保証されないのでは、課題が解決されたとはいえない。
したがって、引用発明において、その「無線リソース確保要求」に含まれる送受信データの伝送速度を「上り通信速度の上限値に関する情報」を含むものとすることに困難な点はなく、本願補正発明は引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであ
る。

なお、前置報告書を利用した審尋に対する、平成24年4月26日付けの回答書には、以下の記載がされている。
「【回答の内容】
……
(4)本願の請求項1に係る発明と引用文献との対比
上述致しましたように、引用文献1には、「無線基地局AR-1から無線基地局AR-2に対して、無線リソースの確保を要求する」ことが開示されております。
しかしながら、上述致しましたように、送受信データの伝送速度などを含むメッセージは、いずれも、移動端末装置MNから無線基地局AR-1に対して送信されるメッセージであります。
このように、引用文献1においては、送受信データの伝送速度などを含むメッセージは、移動端末装置MNから無線基地局AR-1に対して送信されているに過ぎず、無線基地局AR-1から無線基地局AR-2に対して送信される点については記載されておりません。別な言い方をすれば、引用文献1において、無線基地局AR-1は、無線基地局AR-2に対して、無線リソースの確保を要求しておりますが、どのようなメッセージが無線基地局AR-1から無線基地局AR-2に対して送信されるのかについては全く開示されておりません。
ここで、引用文献1の目的は、[0010]に記載されているように、ハンドオーバにおいて、移動前の通信を保証することであり、このような目的を実現するために、ハンドオーバ後の無線基地局AR-2で無線リソースを確保しております。
これに対して、本願の請求項1に係る発明は、ハンドオーバ後の無線基地局において無線リソースを確保することを目的とするものではなく、ハンドオーバ前の無線基地局(=第1の無線基地局)及びハンドオーバ後の無線基地局(=第2の無線基地局)が互いに独立して上り通信速度を決定することを前提として、“上り通信速度の上限値に関する情報”を引き継ぎ可能とすることを目的としております。
上述致しましたように、無線基地局AR-1から無線基地局AR-2に対して送信されるメッセージの内容が引用文献1に開示されていない点で、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1と相違しております。また、本願の請求項1に係る発明は、その目的/効果の点でも、引用文献1と相違しております。」

しかし、送受信データの伝送速度などを含む、移動端末装置上で実行中の通信セッションを継続するだけに必要な無線リソース量である要求無線リ
ソース量は、移動端末装置MNから無線基地局AR-1に対して送信されるだけでなく、無線基地局AR-1から無線基地局AR-2に対しても送信されることは、第1の無線基地局から第2の無線基地局に向けて、要求無線リソース量を含むメッセージである無線リソース確保要求を送信することが記載された上記(1)の請求項4の記載からも明らかであり、引用発明は2-2.引用例で認定されるとおりのものである。
また、「ハンドオーバ前の無線基地局(=第1の無線基地局)及びハンドオーバ後の無線基地局(=第2の無線基地局)が互いに独立して上り通信速度を決定すること」は、本願の実施例に係る発明がそのようなものであるとしても、本願補正発明では、第1の無線基地局と第2の無線基地局が、それぞれどのようにして通信速度を決定しているのか、何らの特定もなされていない。
そのため、本願補正発明と引用発明とは、上記2-3.対比で示した点で一致するものであり、本願補正発明を特定する事項からは請求人の主張するような前提を読み取ることはできない。
そしてそのような前提がない以上、本願補正発明と引用発明とは、無線通信システムにおける第1の無線基地局にいる無線通信端末が、該無線通信システムにおける第2の無線基地局の上り通信においても、適切な通信を可能とすることを目的とする点で共通するものであり、本願補正発明を特定する事項からは、本願補正発明がそれ以上の課題を解決するものともいえない。

2-5.むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成23年8月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年4月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「無線通信システムにおける第1の無線基地局であって、
当該第1の無線基地局にいる無線通信端末の上り通信速度を、当該無線通信システムにおける第2の無線基地局の上り通信のために、当該第1の無線基地局から当該第2の無線基地局に通知することを開始する通知手段を具備することを特徴とする無線基地局。」

原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-348007号公報の記載事項は、前記のとおりである。
そして、本願発明は、「上り通信速度の上限値に関する情報」を「上り通信速度」とするものであるから、本願補正発明と同様、引用発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-11 
結審通知日 2012-07-17 
審決日 2012-07-30 
出願番号 特願2010-261492(P2010-261492)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 紀之行武 哲太郎  
特許庁審判長 加藤 恵一
特許庁審判官 吉村 博之
近藤 聡
発明の名称 無線基地局及びその制御方法  
代理人 キュリーズ特許業務法人  

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