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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1263645
審判番号 不服2009-17290  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-15 
確定日 2012-09-19 
事件の表示 特願2003-562238「マルチマータンパク質およびマルチマータンパク質を作製および使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月31日国際公開、WO03/62370、平成17年 7月28日国内公表、特表2005-522192〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成14年7月19日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年7月19日 米国,2001年11月30日 米国)とする出願であって,平成21年1月9日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが,同年5月13日付で拒絶査定がなされ,これに対して,同年9月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.平成21年9月15日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年9月15日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により特許請求の範囲の請求項1及び2は,補正前の
「【請求項1】配列番号1?7;配列番号9?37;および配列番号154?163に記載のアミノ酸配列から選択される,マルチマー化ポリペプチド。
【請求項2】請求項1に記載のマルチマー化ポリペプチドの1または数個のアミノ酸の付加,欠失または置換によって,請求項1に記載のマルチマー化ポリペプチドから得られるポリペプチドであって,該ポリペプチドが,マルチマー化可能である,ポリペプチド。」から
「【請求項1】配列番号154および配列番号161に記載のアミノ酸配列から選択される,マルチマー化ポリペプチド。
【請求項2】請求項1に記載のマルチマー化ポリペプチドの1または数個のアミノ酸の付加,欠失または置換によって,請求項1に記載のマルチマー化ポリペプチドから得られるポリペプチドであって,該ポリペプチドが,マルチマー化可能である,ポリペプチド。」に補正された。
上記補正は,補正前の請求項1において選択肢として記載された発明を特定するために必要な事項であるアミノ酸配列について一部の選択肢を削除し配列番号154および配列番号161に記載のアミノ酸配列に限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,請求項2は請求項1を引用しているから請求項2についても減縮されたといえる。
そこで,本件補正後の前記請求項2に記載された発明(以下,「本願補正発明2」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

(2)特許法第29条第2項
(2-1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるScience, 1993年, vol. 262, no. 5138, p. 1401-1407 (以下,「引用例1」という。)には,
(i)「らせん状に巻かれたコイル蛋白はa位とd位が疎水性残基で一般的に他が極性残基である特徴的な7残基繰り返し(a-b-c-d-e-f-g)nを有する。この共有されるHPパターンにかかわらず,らせん状に巻かれたコイル配列は二量体(4,5),三量体(6-8)及び逆平行四量体(9)の立体構造をとる。加えて,平行二量体のらせん状に巻かれたコイル蛋白は7個繰り返しの疎水的なa位とd位において特定のアミノ酸を強く選好する。顕著な例がbZIPを二量化する役割を果たすロイシンジッパーモチーフによって提供される。」(第1401頁左欄第11行?第25行),
(ii)「らせん状に巻かれたコイル蛋白ファミリーの構造的多様性とロイシンジッパー配列の機能的要件は,埋没した非極性アミノ酸の構造的性質がらせん状に巻かれたコイル蛋白の全体構造に影響を及ぼすことを示唆している。この可能性を研究するために,我々はロイシンジッパー分子の疎水性中心を協調した方法で変え,派生物の構造を特徴付けた。
疎水性中心の変異体は2,3または4らせん構造を形成する。我々は二量化ロイシンジッパーペプチドGCN4-p1の疎水性コアにシステマチックに変異を導入した(12)。ほぼ例外なく,疎水性残基がGCN4-p1配列のa及びd位を占め,極性残基がb,c,e,f及びg位に現れることで特徴的な(H-P-P-H-P-P-P)nパターンを生じる。」(第1401頁中欄第1行?第20行),
(iii)「我々はGCN4-p1の4つのa残基(Val9,Asn16,Val23,Val30)及び4つのd残基(Leu5,Leu12,Leu19,Leu26)をロイシン,バリンまたはイソロイシンに変えた(第1のa位のMet2は変えなかった。図1)(14)。」(第1401頁中欄下から第12行?下から第7行),
(iv)「平衡分析超遠心(16)は,ペプチドがそれぞれ二量体,三量体,四量体として沈殿するp-IL,p-II及びP-LIの3つの分子量のクラスに分かれることを示した(表1)。」(第1401頁右欄第8行?第13行),
(v)「最後に,短いモジュラーペプチドp-IL,p-II及びP-LIは,取り付けられた配列の二量体,三量体及び四量体をデザインするのに利用できるかも知れない。」(第1405頁中欄本文下から第9行?下から第6行),と記載され,
(vi)図1にはGCN4-p1の構造(第1401頁),
(vii)表1には各変異体の二量体,三量体あるいは四量体の形成(第1403頁),
が記載されている。
また,原査定の拒絶理由の引用文献2として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるJ. Biol. Chem., 1994年, vol. 269, no. 2, p. 1159-1165(以下,「引用例2」という。)には,
(i)図1b(第1161頁)にATF-aのロイシンジッパードメインの配列が記載されている。
(2-2)対比
本願補正発明2は,配列番号154および配列番号161に記載のアミノ酸配列から選択される,マルチマー化ポリペプチドの1または数個のアミノ酸の付加,欠失または置換によって得られるポリペプチドであって,該ポリペプチドが,マルチマー化可能である,ポリペプチド,である。
そこでまず,本願補正発明2において選択肢によって記載されているアミノ酸配列のうち配列番号154のアミノ酸配列を選択した場合と引用例1に記載された事項を比較する。引用例1記載事項(i)?(iv),(vi)及び(vii)により引用例1には,ロイシンジッパーGCN4-p1の最初のa位を除くa位及びd位をそれぞれロイシン,イソロイシンとしたGCN4-p1変異体P-LIの四量体ポリペプチド,が記載されている。また,引用例1の四量体ポリペプチドは本願補正発明2のマルチマー化可能なポリペプチドに相当する。また,本願補正発明2は配列番号154のアミノ酸配列のマルチマー化ポリペプチドの1または数個のアミノ酸の付加,欠失または置換によって得られるポリペプチドであるから,配列番号154のアミノ酸配列の最初のa位をロイシンに代えてメチオニン,5番目のd位をセリンに代えてイソロイシンとしたものも本願補正発明2に包含される。
そうすると,本願補正発明2と引用例1に記載された発明とは,共に,ロイシンジッパーの最初のa位を除くa位及びd位をそれぞれロイシン,イソロイシンとしたポリペプチドであってマルチマー化可能なポリペプチドである点,で共通し,前者がロイシンジッパーとしてATFαが用いられているのに対して,後者ではロイシンジッパーとしてGCN4-p1が用いられている点,で相違する。
(2-3)判断
上記引用例1記載事項(i)(ii)により引用例1においてGCN4-p1はロイシンジッパーの具体的な例として用いられており,引用例1記載事項(v)により融合された配列のマルチマーをデザインするのに利用することが示唆されているから,当該記載事項に接した当業者であれば,融合配列のマルチマー化にロイシンジッパーを用いることを目的に,具体的なロイシンジッパーとして他の公知のロイシンジッパーを用いてみることも自然な発想である。引用例2記載事項(i)のATF-aのロイシンジッパードメインはそのb,c,e,f,g位の配列が配列番号154と同一であることから本願明細書におけるATFαに相当する。よって,引用例1に記載されたロイシンジッパーGCN4-p1の最初のa位を除くa位及びd位をそれぞれロイシン,イソロイシンとしマルチマー化可能なポリペプチドを作成することを,引用例2によりロイシンジッパーとして公知のATF-aのロイシンジッパードメインに適用することは当業者が容易になし得ることである。また,その結果得られるマルチマー化可能なポリペプチドは(2-2)で言及した5番目のd位以外に,C末端にKQLがある点で配列番号154のアミノ酸配列と相違するが,本願補正発明2は配列番号154のアミノ酸配列のマルチマー化ポリペプチドの1または数個のアミノ酸の付加,欠失または置換によって得られるポリペプチドであるから当該ポリペプチドを包含する。
そして,本願補正発明2に係るポリペプチドが引用例1及び2から予測される以上の格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
したがって,本願補正発明2は,引用例1及び2の記載から当業者が容易になし得たものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
(2-4)審判請求人の主張
上記(2-3)においては,本願補正発明2において選択肢によって記載されているアミノ酸配列のうち配列番号154のアミノ酸配列を選択した場合について検討しているため,配列番号154のアミノ酸に関連する請求人の主張について以下検討する。
請求人は,平成21年9月15日付け審判請求書において「実施例11に記載されているように,このベクターを用いた場合,「ATFα(1)-LI(配列番号1)は,C末端セリンの付加によって改変された(配列番号154)。このマルチマー化ドメインが抗ICAM抗体キメラ(CFY196)において使用された場合,精製されたタンパク質マルチマー(テトラマー)は,例外的に狭い分布の沈降係数を与える(図3C,実施例6)ことが見出され,これは,マルチマーを含むサブユニットに対するより緊密なマルチマー化を示す(すなわち,KDが減少する)。」と記載されています。」(審判請求書第5頁第13行?第19行)に基づいて進歩性を有する旨主張しており,また,平成24年1月5日付け回答書において「(2)本願明細書の実施例11に記載されるように,配列番号154のアミノ酸配列には,4個半のロイシンジッパードメインの反復配列が存在し,5つの位置aのすべてがロイシンで置換され,5つの位置dのうち4つがイソロイシンで置換されていますが,最後の半個のロイシンジッパードメインの位置dは,セリンで置換されています。
そして,本願明細書の段落0210には,「この位置におけるセリンは,コイルドコイルのC末端に親水性末端を提供する,一連の水媒介性水素結合の形成を可能にすることによって,マルチマー化ドメインの折り畳みを安定化し得る」ことが,明確に記載されています。このことは,図3C(CFY196は最後の反復配列の位置dにセリンを有するLIペプチド)と図3B(CFY192Bは最後の反復配列の位置dにセリンを有さないLIペプチド)との比較からも明らかです。つまり,図3Cに示す,最後の反復配列の位置dにセリンを有する配列番号154のマルチマー化ポリペプチドから形成されるテトラマーは,図3Bに示す,位置dにセリンを有さないテトラマーと比較して,沈降係数は例外的に狭い分布となり,均一なマルチマー化を示しています(段落0209?0211の記載をご参照ください)。
これに対して,いずれの引用文献にも,最後の反復配列の位置d以外の位置aやdのアミノ酸をロイシンやイソロイシンに置換することに加えて,最後の反復配列の位置dのアミノ酸をセリンにすべきことなど,一切開示されていません。
それにもかかわらず,前置報告においては,配列番号154のアミノ酸配列と引用文献に開示されるアミノ酸配列との違いが指摘されていませんが,実際にはこの違いによって,本願発明においては,マルチマーの優れた安定性と改善された均一性という従来技術からは予測できない顕著な効果が奏されるのです。」(回答書第8頁第10行?第9頁第3行)と主張している。
しかしながら,(2-2)で述べたように本願補正発明2は配列番号154のアミノ酸配列のマルチマー化ポリペプチドの1または数個のアミノ酸の付加,欠失または置換によって得られるポリペプチドであるから,配列番号154のアミノ酸配列の5番目のd位をセリンに代えてイソロイシンとしたものも本願補正発明2に包含されるから,請求人の主張する効果が本願補正発明2全体の奏する効果であるとはいえない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。

(3)むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年9月15日付の手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1及び2に係る発明は,平成21年1月9日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】配列番号1?7;配列番号9?37;および配列番号154?163に記載のアミノ酸配列から選択される,マルチマー化ポリペプチド。
【請求項2】請求項1に記載のマルチマー化ポリペプチドの1または数個のアミノ酸の付加,欠失または置換によって,請求項1に記載のマルチマー化ポリペプチドから得られるポリペプチドであって,該ポリペプチドが,マルチマー化可能である,ポリペプチド。」
(1)引用例
原査定に引用した引用文献1,2及びその記載事項は,上記2.(2)(2-1)に記載したとおりである。
(2)対比,判断
そして,本願の請求項2に係る発明(以下「本願発明2」という。)は上記本願補正発明2を包含するものであり,本願補正発明2は上記2.(2)(2-3)に記載した理由によって,引用例1及び2の記載から当業者が容易になし得たものであるから,本願発明2も引用例1及び2の記載に基づき当業者が容易に発明することができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから,本願請求項2に係る発明は,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないので,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-19 
結審通知日 2012-04-24 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願2003-562238(P2003-562238)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 あい  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 伏見 邦彦
冨永 みどり
発明の名称 マルチマータンパク質およびマルチマータンパク質を作製および使用する方法  
代理人 田中 玲子  
代理人 伊藤 奈月  
代理人 大野 聖二  
代理人 森田 耕司  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  
代理人 北野 健  
代理人 金本 恵子  
代理人 山本 秀策  
代理人 松任谷 優子  

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