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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1263660 |
審判番号 | 不服2010-18402 |
総通号数 | 155 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-16 |
確定日 | 2012-09-19 |
事件の表示 | 特願2003-278831「静電放電から保護される薄膜共振器」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日出願公開、特開2004- 64088〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成15年7月24日(パリ条約に基づく優先権主張 2002年7月30日、アメリカ合衆国)の特許出願であって、平成20年2月22日付けの拒絶理由通知に対して同年5月26日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年11月27日付けの最後の拒絶理由通知に対して平成21年6月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年4月14日付けで、平成21年6月2日に提出された手続補正書による補正が却下されるとともに拒絶査定がなされた。 それに対して、同年8月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、平成23年11月16日付けで審尋がなされ、平成24年2月15日に回答書が提出された。 第2.補正の却下の決定 【補正の却下の決定の結論】 平成22年8月16日に提出された手続補正書による補正を却下する。 【理由】 1.補正の内容 平成22年8月16日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?10(平成20年5月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10)を補正して、補正後の特許請求の範囲の請求項1?8とするものであり、補正前後の請求項1は各々次のとおりである。 (補正前) 「【請求項1】 半導体基板上に製造された薄膜共振器と、 不活性材料からなる、前記薄膜共振器上に製造された保護層と、 前記薄膜共振器に接続されたボンディングパッドであって、静電放電から前記薄膜共振器を保護するために、前記半導体基板とともにショットキーダイオードを形成するボンディングパットと を備える装置。」 (補正後) 「【請求項1】 半導体基板上に製造された薄膜共振器であって、底部電極及び頂部電極によってサンドイッチ状に挟まれた圧電部分を備え、当該圧電部分が窒化アルミニウムを含み、前記底部電極及び前記頂部電極がモリブデンを含む、薄膜共振器と、 不活性材料からなる、前記薄膜共振器上に製造された保護層と、 前記薄膜共振器に接続されたボンディングパッドであって、静電放電から前記薄膜共振器を保護するために、前記半導体基板とともにショットキーダイオードを形成するボンディングパットと を備える装置。」 2.補正事項の整理 本件補正による補正事項を整理すると次のとおりである。 (1)補正事項1 補正前の請求項1の「半導体基板上に製造された薄膜共振器」を、「半導体基板上に製造された薄膜共振器であって、底部電極及び頂部電極によってサンドイッチ状に挟まれた圧電部分を備え、当該圧電部分が窒化アルミニウムを含み、前記底部電極及び前記頂部電極がモリブデンを含む、薄膜共振器」と補正して、補正後の請求項1とすること。 (2)補正事項2 補正前の請求項5及び6を削除するとともに、当該削除と整合するように請求項の番号及び引用する請求項の番号を修正すること。 (3)補正事項3 補正前の請求項7の「基板上に薄膜共振器を製造するステップ」を、「基板上に薄膜共振器を製造するステップであって、当該薄膜共振器が、底部電極及び頂部電極によってサンドイッチ状に挟まれた圧電部分を備え、当該圧電部分が窒化アルミニウムを含み、前記底部電極及び前記頂部電極がモリブデンを含む、ステップ」と補正して、補正後の請求項5とすること。 3.新規事項の追加の有無、及び補正の目的の適否についての検討 (1)補正事項1について 補正事項1により補正された部分は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲(以下「当初特許請求の範囲」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」といい、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)の請求項5及び6、並びに当初明細書の0014段落及び0015段落に記載されているものと認められるから、補正事項1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。 したがって、補正事項1は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たす。 また、補正事項1は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項と認められる「半導体基板上に製造された薄膜共振器」に対して技術的限定を加えるものであるから、当該補正事項1は、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。 (2)補正事項2について 補正事項2は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。 したがって、補正事項2は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。 また、補正事項2が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。 (3)補正事項3について 補正事項3により補正された部分は、当初特許請求の範囲の請求項5及び6、並びに当初明細書の0014段落及び0015段落に記載されているものと認められるから、補正事項3は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。 したがって、補正事項3は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。 また、補正事項3は、補正前の請求項7に係る発明の発明特定事項と認められる「基板上に薄膜共振器を製造するステップ」に対して技術的限定を加えるものであるから、当該補正事項3は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 したがって、補正事項3は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。 (4)新規事項の追加の有無、及び補正の目的の適否についてのまとめ 以上検討したとおりであるから、本件補正は特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たす。 そして、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて、以下において更に検討する。 4.独立特許要件についての検討 (1)本願の補正後の発明 本願の本件補正による補正後の請求項1?8係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記1.の「(補正後)」の箇所に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。 「【請求項1】 半導体基板上に製造された薄膜共振器であって、底部電極及び頂部電極によってサンドイッチ状に挟まれた圧電部分を備え、当該圧電部分が窒化アルミニウムを含み、前記底部電極及び前記頂部電極がモリブデンを含む、薄膜共振器と、 不活性材料からなる、前記薄膜共振器上に製造された保護層と、 前記薄膜共振器に接続されたボンディングパッドであって、静電放電から前記薄膜共振器を保護するために、前記半導体基板とともにショットキーダイオードを形成するボンディングパットと を備える装置。」 (2)引用刊行物に記載された発明 (2-1)本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開昭61-127217号公報には、第1図?第5図と共に次の記載がある(ここにおいて、下線は当合議体が付加したものである。以下同じ。)。 a.「〔発明の技術分野〕 この発明はUHF帯のフィルタや発振子として用いる圧電薄膜共振子に関するものである。」(1ページ右下欄2行?4行) b.「〔発明の技術的背景とその問題点〕 近年、材料技術や加工技術の進歩にともない半導体素子の高密度集積化が推し進められている。 これに対して共振器やフィルタ等の受動部品は半導体素子に比べて小型化の開発が立ち遅れており、電子通信機器等の分野においてはUHF帯で使用可能な小型の受動部品の開発が望まれている。 (途中略) これに対して、1982年に米国IEEEUHrasonic Sympsium Proceeding 82 CH1823-4で開示されているように、GaAs等の半導体結晶基板に選択性エッチングにより厚さ十数μm以下の誘電膜または不純物濃度の高い半導体薄膜を振動板の一部として残し、下部より細い穴を設け、この上に励振用下部電極を金属の蒸着で形成し、さらにその上に十数μm以下のZnO,AlN等の圧電薄膜をマグネトロンスパッタ法等により形成し、最上部に励振用上部電極を蒸着して形成し、振動部全体の厚さが数十μm以下になるような構造の圧電薄膜共振子の研究が推し進められている。 (途中略) この圧電薄膜共振子の特徴として・・・第3に、一般的な集積回路と同様に写真蝕刻、蒸着などの技術を用いて半導体ウエファ上に薄膜共振器を形成することができるため、トランジスタ等の能動素子との一体化および集積化が可能となる。」(1ページ右下欄5行?2ページ右上欄13行) c.「〔発明の実施例〕 以下、図面を参照してこの発明の一実施例を説明する。 第1図はダイヤフラム型複合共振子にこの発明を適用させたものである。図において1はSi基板で、このSi基板1の両面にCVの法またはスパッタ法等の手段を用いてSiO_(2)膜2,3を形成する。そして基板1の裏側に形成したSiO_(2)膜3の中央部分を正方形に取り除き、SiO_(2)膜2,3をマスクとして第2図に示すようにSiO_(2)膜2に達するまでPED(パイロカテコール,エチレンジアミン,水の混合液)等の異方性エッチング液を用いて異方性エッチングを行ない凹部4を形成する。この凹部4と対向するSiO_(2)からなる基底膜2a上にAuまたはAlを主成分とする金属膜により第1電極5を形成する。さらに、この上にRFマグネトロンスパッタ法等の手段を用いてZnO圧電導膜(審決注:「ZnO圧電薄膜」の誤記)を形成し、フォトリソグラフィ技術を用いて所望の位置にレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクとして酢酸を主剤とするエッチング液を用いてエッチングを行ない、基底膜2aの上方に所定の大きさの圧電薄膜6を形成する。このとき、圧電薄膜6の端部が第3図、第4図に示すようにSi基板1の面に対して傾斜角θが60°以下になるようにテーパをかける。例えば酢酸,水およびエチレンジアミンからなるエッチング液のエチレンジアミン溶液の量を変えてエッチング液のPHに対してZnO圧電薄端部の傾斜角を調べた結果第5図に示すようにエッチング液のPHを6以下で使用することにより圧電導膜(審決注:「圧電薄膜」の誤記)端部の傾斜角を60°以下に設定することができる。この実施例ではエッチング液のPHを4.6以下で使用して傾斜角を45°以下に抑えた。 最後に、圧電薄膜6の上からAl等の金属膜により金属マスク法またはリフトオフ法等の手段を用いて第2電極7を第1電極5と直交する方向に所定の大きさに形成する。このとき、第1電極5と第2電極7はZnO圧電薄膜6を挾んで少なくとも一部が互いに対向して配置される。 ここで8,9は電極5,7から導出してSiO_(2)膜2上に形成したボンディングパッドである。」(3ページ左下欄10行?4ページ左上欄10行) (2-2)ここにおいて、上記摘記事項c.並びに第1図及び第2図の記載から、上記摘記事項c.に「発明の一実施例」として記載された「ダイヤフラム型複合共振子」(以下「引用例のダイヤフラム型複合共振子」という。)は、「Si基板1」上に形成されていることが明らかである。 また、上記摘記事項c.並びに第1図及び第2図の記載から、引用発明のダイヤフラム型複合共振子は、Si基板1上に形成されたSiO_(2)からなる基底膜2aにおける凹部4と対向する部分に、Au又はAlを主成分とする第1電極5、ZnO圧電薄膜6及びAl等の第2電極7が形成され、第1電極5と第2電極7がZnO圧電薄膜6を挾んで少なくとも一部が互いに対向して配置される構造であることが明らかである。 さらに、上記摘記事項c.並びに第1図及び第2図の記載から、引用発明のダイヤフラム型複合共振子は、第1電極5及び第2電極7から各々ボンディングパッド8及び9が導出される構造であることも明らかである。 (2-3)したがって、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「Si基板1上に形成されたダイヤフラム型複合共振子であって、 前記Si基板1上に形成されたSiO_(2)からなる基底膜2aにおける凹部4と対向する部分に、Au又はAlを主成分とする第1電極5、ZnO圧電薄膜6、及びAl等の第2電極7が形成され、 前記第1電極5と前記第2電極7が前記ZnO圧電薄膜6を挾んで少なくとも一部が互いに対向して配置され、 前記第1電極5及び前記第2電極7から各々ボンディングパッド8及び9が導出されているダイヤフラム型複合共振子。」 (3)補正発明と引用発明との対比 (3-1)引用発明の「Si基板1」、「ダイヤフラム型複合共振子」は、各々補正発明の「半導体基板」、「薄膜共振器」に相当する。 したがって、引用発明の「Si基板1上に形成されたダイヤフラム型複合共振子」は、補正発明の「半導体基板上に製造された薄膜共振器」に相当するとともに、補正発明と引用発明とは、「半導体基板上に製造された薄膜共振器」「を備える装置」である点で一致する。 (3-2)引用発明の「Au又はAlを主成分とする第1電極5」、「ZnO圧電薄膜6」、「Al等の第2電極7」は、各々補正発明の「底部電極」、「圧電部分」、「頂部電極」に相当する。 そして、引用発明は、「前記第1電極5と前記第2電極7が前記ZnO圧電薄膜6を挾んで少なくとも一部が互いに対向して配置され」るものであるから、引用発明の「ZnO圧電薄膜6」は、「前記第1電極5」及び「前記第2電極7」によって「ZnO圧電薄膜6」がサンドイッチ状に挟まれる構造となっていることが明らかである。 したがって、補正発明の「薄膜共振器」と引用発明の「ダイヤフラム型複合共振子」とは、「底部電極及び頂部電極によってサンドイッチ状に挟まれた圧電部分を備え」ている点で一致する。 (3-3)引用発明の「ボンディングパッド8及び9」は、各々「前記第1電極5及び前記第2電極7から」「導出されている」から、補正発明と引用発明とは、「前記薄膜共振器に接続されたボンディングパッド」を備えている点で一致する。 (3-4)以上を総合すると、補正発明と引用発明とは、 「半導体基板上に製造された薄膜共振器であって、底部電極及び頂部電極によってサンドイッチ状に挟まれた圧電部分を備えた薄膜共振器と、 前記薄膜共振器に接続されたボンディングパッドと を備える装置。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 補正発明は、「薄膜共振器」の「当該圧電部分が窒化アルミニウムを含み、前記底部電極及び前記頂部電極がモリブデンを含む」ものであるのに対して、引用発明は、「ダイヤフラム型複合共振子」の「圧電薄膜」が「ZnO」からなるものであり、「第1電極5」及び「第2電極7」が、各々「Au又はAlを主成分とする」もの及び「Al等」からなるものである点。 (相違点2) 補正発明は、「不活性材料からなる、前記薄膜共振器上に製造された保護層」を備えているのに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。 (相違点3) 補正発明は、「前記薄膜共振器に接続されたボンディングパッド」が、「静電放電から前記薄膜共振器を保護するために、前記半導体基板とともにショットキーダイオードを形成する」ものであるのに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。 (4)相違点についての当審の判断 (4-1)相違点1について (4-1-1)一般に、薄膜共振器において、圧電部分の材料及び電極部分の材料として、各々窒化アルミニウム及びモリブデンを用いることは、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である下記周知例1にも記載されているように(圧電部分の材料として窒化アルミニウムを用いることについては、引用例における従来技術の説明である上記(2)(2-1)摘記事項b.にも記載されている。)、当業者における周知技術である。 a.周知例1:特開2001-177365号公報 上記周知例1には、図2と共に次の記載がある。 「【0005】図2は、ブリッジ構造を有するバルク音波共振器の1例を示している。この構造は、基板200の上にデポジットされた薄膜130を含む。該共振器は、更に、該薄膜上の下側電極110と、圧電層100と、上側電極120とを含む。基板の一部を上側からエッチング除去することによって該薄膜と基板との間にギャップ210が作られている。該ギャップは音響アイソレータとして作用し、本質的に、振動する共振器構造を基板から絶縁する。」 「【0010】圧電層は、例えばZnO、AlN、ZnS、或いはその他の、薄膜として作ることの出来る圧電材料であってよい。別の例として強誘電体セラミックスを圧電材料として用いることができる。例えば、PbTiO3及びPb(ZrxTi1-x)並びにいわゆるランタンジルコニウム酸チタン酸鉛族に属するものを用いることができる。 【0011】好ましくは、電極層を形成するために用いられる材料は、高い音響インピーダンスを有する電導性材料である。電極は、例えばタングステン(W)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、銀(Ag)、金(Au)、及びタンタル(Ta)などの、任意の適当な金属から成っていてよい。基板は、通常は、例えば、Si、SiO2,GaAs、ガラス、或いはセラミック材料で構成される。」 上記記載から、上記周知例1には、薄膜共振器であるブリッジ構造を有するバルク音波共振器において、圧電部分の材料として窒化アルミニウム(AlN)を用い、電極部分の材料としてモリブデン(Mo)を用いることが記載されているものと認められる。 (4-1-2)したがって、引用発明に接した当業者にとって、「ダイヤフラム型複合共振子」の「圧電薄膜」を窒化アルミニウム(AlN)とし、「第1電極5」及び「第2電極7」をモリブデンとすること、すなわち、補正発明のように、「薄膜共振器」の「当該圧電部分が窒化アルミニウムを含み、前記底部電極及び前記頂部電極がモリブデンを含む」ものとすること自体に格別の困難性がないことは明らかである。 そして、補正発明において、「当該圧電部分が窒化アルミニウムを含み、前記底部電極及び前記頂部電極がモリブデンを含む」ものとすることによる当業者の予測を超えた効果も認められない。 よって、引用発明において、補正発明のように、「薄膜共振器」の「当該圧電部分が窒化アルミニウムを含み、前記底部電極及び前記頂部電極がモリブデンを含む」ものとすることは当業者が容易になし得たことであるから、相違点1は当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。 (4-2)相違点2について (4-2-1)一般に、半導体基板上に種々の素子が形成された装置(半導体装置)において、製造途中や製造後に有害な物質が素子に接することにより性能が劣化することを防止するために、当該装置の表面をシリコン酸化膜やシリコン窒化膜等の不活性材料からなる保護膜で覆うことは当業者における周知技術である。 半導体基板上に形成された圧電素子についても当然例外ではなく、表面を不活性材料からなる保護膜で覆うことは、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である下記周知例2にも記載されているように、当業者において従来から行われてきているところである。 a.周知例2:特開平10-32454号公報 上記周知例2には、図3と共に次の記載がある。 「【0027】次に図3に本発明の第2の実施の形態に係るマイクロ圧電振動子の構成を示し説明する。同図に示されるように、本実施の形態と第1の実施の形態との違いは、圧電振動子2形成面側に水素ガスの侵入を防止する保護膜14としてシリコン窒化膜或いは圧電振動子を構成する圧電厚膜と同じ材料、例えばPZT若しくはビスマス層状強誘電体等の層を含む絶縁膜が形成されていることにある。」 上記記載から、上記周知例2には、圧電素子であるマイクロ圧電振動子の表面を不活性材料であるシリコン窒化膜からなる保護膜で覆うことが記載されているものと認められる。 (4-2-2)したがって、引用発明に接した当業者にとって、補正発明のように、「不活性材料からなる、前記薄膜共振器上に製造された保護層」を備える構成とすること自体に格別の困難性がないことは明らかである。 なお、付言すれば、その際に、「ボンディングパッド8及び9」の部分には保護層を設けないようにすることは、当該「ボンディングパッド8及び9」が外部と接続するために設けられるものであることからみても、また、一般に、ボンディングパッドを避けて保護層を設けることが、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である下記周知例3にも記載されているように当業者において常とう的に行われていることからみても、当業者が当然になし得たことである。 a.周知例3:特開昭58-58757号公報 上記周知例3には、第1図と共に次の記載がある。 「一般に、半導体装置は水分等の影響を受け故障しやすいため半導体素子表面に絶縁保護膜が形成されている。 (途中略) 第1図は従来の半導体装置の一例の断面図である。 半導体基板10に絶縁膜11を設けて開口し、拡散層12を形成する。この拡散層12の所望部分に白金珪化物層14を形成し、ショット接合又はオーミック接合を得る。しかる後、スパッタ法あるいは蒸着法等により全表面をアルミニウムで覆い、所望部分を残す選択エッチングを行って所望のアルミニウム配線15及び電極16を得る。更に全表面を絶縁膜17で覆い、電極16を露出させ内部リード18を取り付ける。」(1ページ右下欄2行?2ページ左上欄4行) 上記記載から、上記周知例3には、半導体装置において、電極16におけるリード18が接続される部分、すなわちボンディングパッドの部分を避けて、全表面を絶縁保護膜である絶縁膜17で覆うことが記載されているものと認められる。 (4-2-3)そして、補正発明において、「不活性材料からなる、前記薄膜共振器上に製造された保護層」を備えることによる当業者の予測を超えた効果も認められない。 したがって、引用発明において、補正発明のように、「不活性材料からなる、前記薄膜共振器上に製造された保護層」を備える構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるから、相違点2は当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。 (4-3)相違点3について (4-3-1)一般に、半導体装置、特に薄膜を用いた半導体装置が静電放電に伴う過電圧により容易に破壊されてしまうことは当業者の技術常識であり、そのような破壊を防止するということは、当業者における周知の技術課題である。 薄膜圧電素子を用いた半導体装置についても当然例外ではなく、静電放電に伴う過電圧による破壊を防止するという技術課題は、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である下記周知例4にも記載されているように、当業者において従来から認識されてきているところである。 a.周知例4:特開平4-343280号公報 上記周知例4には次の記載がある(ここにおいて、特許庁の事務処理システムでは丸付き数字を使用できないので、丸付き数字を「○」とそれに続く数字で代用している。)。 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、圧電体で駆動するマイクロアクチェエーターに係り、特に圧電体の電圧破壊を保護する手段を有した微小変位素子及びその製造方法、さらには、かかる微小変位素子を用いた情報処理装置、走査型トンネル顕微鏡に関する。」 「【0004】しかしながら、微小変位駆動させる圧電薄膜はZnOが用いられており、特に薄膜においては、その破壊電圧は数V程度で有り、静電気や帯電等で圧電体薄膜の破壊が起こりやすく、極めて外部環境に弱い。このため、微小変位素子の故障が多く、STMのプローブ交換も頻繁に行われ、かつ慎重を要した。」 「【0010】 【発明が解決しようとする課題】以上のような従来例の問題点に鑑み、本発明の目的とするところは、 ○1.微小変位素子の耐久性をたかめる。 ○2.帯電等による電圧破壊を保護する。 【0011】上記○1及び○2を同時に満足し得る微小変位素子を提供することにある。」 上記記載から、上記周知例4には、圧電薄膜が形成された半導体装置において、帯電等による電圧破壊、すなわち静電放電に伴う過電圧による破壊を防止するという技術課題が記載されているものと認められる。 (4-3-2)したがって、引用発明に接した当業者であれば、「ダイヤフラム型複合共振子」の静電放電に伴う過電圧による破壊を防止するという技術課題は直ちに察知し得たことである。 そして、一般に、半導体装置における過電圧による破壊を防止するための手段として、ボンディングパッドと半導体基板表面により形成されるショットキーダイオードを利用することは、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である下記周知例5にも記載されているように、当業者における周知技術である。 a.周知例5:特開平3-58468号公報 上記周知例5には、第1図及び第2図と共に次の記載がある。 「〔産業上の利用分野〕 本発明は半導体集積回路装置に関し、特に端子電圧が電源電圧以上に上る半導体集積回路装置のボンディングパッドの構造に関する。」(1ページ左下欄15行?右下欄1行) 「〔実施例〕 次に本発明の実施例について図面を参照して説明する。 第1図は本発明の一実施例を示す半導体集積回路装置のチップの縦断面図である。本実施例では、シリコンからなるP型半導体基板6及びN型エピタキシャル層4を含んでなるチップのエピタキシャル層4の表面からP型基板7(審決注:「P型基板6」の誤記)にかけて選択的に設けられたP^(+)型分離領域3によりそれぞれの素子形成領域に区画されている。N型エピタキシャル層4とボンディングパッド用電極1とが電気的に接続され、図面には示していないが、N型エピタキシャル層4上には複数個のP型拡散領域が形成され素子を形成しており、電極1と接続している。更に、ボンディングパッド用電極1をアノード、N型エピタキシャル層4をカソードとする保護ダイオードとしてのショットキーバリヤーダイオードを構成し、かつ、N型エピタキシャル層4をN^(+)型高濃度拡散領域7を介して電源電圧用アルミ電極で電源電圧でバイアスされた構成を有するものである。第2図はその等価回路図である。 上記の構成で、ボンディングパッド用アルミ電極の電位が電源電圧以上になると、上記ショットキーバリヤーダイオードが導通し、端子に流入する電流は保護ダイオードとなる上記ショットキーバリヤーダイオードを介してN^(+)高濃度拡散領域及び電源電圧用アルミ電極を介して電源端子に流入する。」(2ページ右下欄1行?3ページ左上欄9行) 上記記載から、上記周知例5には、半導体集積回路装置において、過電圧による破壊を防止するための手段として、ボンディングパッド用電極1と半導体基板表面のN型エピタキシャル層4により形成されるショットキーダイオード(ショットキーバリヤーダイオード)を利用することが記載されているものと認められる。 (4-3-3)したがって、引用発明に接した当業者にとって、「ダイヤフラム型複合共振子」の静電放電に伴う過電圧による破壊を防止するという課題を解決するために、「ボンディングパッド8及び9」と「Si基板1」の表面により形成されるショットキーダイオードを利用すること、すなわち、補正発明のように、「前記薄膜共振器に接続されたボンディングパッド」が、「静電放電から前記薄膜共振器を保護するために、前記半導体基板とともにショットキーダイオードを形成する」構成とすること自体に格別の困難性がないことは明らかである。 そして、補正発明において、「前記薄膜共振器に接続されたボンディングパッド」が、「静電放電から前記薄膜共振器を保護するために、前記半導体基板とともにショットキーダイオードを形成する」構成とすることによる当業者の予測を超えた効果も認められない。 よって、引用発明において、補正発明のように、「前記薄膜共振器に接続されたボンディングパッド」が、「静電放電から前記薄膜共振器を保護するために、前記半導体基板とともにショットキーダイオードを形成する」構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるから、相違点3は当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。 (4-4)相違点についての判断のまとめ 以上検討したとおり、相違点1?3は、いずれも周知の課題及び技術を勘案することにより、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものであるから、補正発明は、周知の課題及び技術を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)独立特許要件についてのまとめ 以上のとおりであるから、補正発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 したがって、本件補正は、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項をいう。以下同じ。)の規定に適合しない。 5.補正の却下の決定のむすび 本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 平成22年8月16日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下され、平成21年6月2日に提出された手続補正書による補正は原審において却下されているので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成20年5月26日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記第2.1.の「(補正前)」の箇所に記載したとおりのものである。 一方、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開昭61-127217号公報(引用例)には、上記第2.4.(2)に記載したとおりの事項及び発明(引用発明)が記載されているものと認められる。 そして、本願発明に対して技術的限定を加えた発明である補正発明は、上記第2.4.において検討したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も当然に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-04-11 |
結審通知日 | 2012-04-17 |
審決日 | 2012-05-08 |
出願番号 | 特願2003-278831(P2003-278831) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池渕 立 |
特許庁審判長 |
北島 健次 |
特許庁審判官 |
加藤 浩一 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 静電放電から保護される薄膜共振器 |
代理人 | 中村 綾子 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 河村 英文 |
代理人 | 吉田 尚美 |
代理人 | 深川 英里 |
代理人 | 西山 清春 |
代理人 | 森本 聡二 |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 古谷 聡 |
代理人 | 溝部 孝彦 |