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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1263670
審判番号 不服2010-27558  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-06 
確定日 2012-09-19 
事件の表示 特願2006-506353「補償共振回路を有する多層積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月30日国際公開、WO2004/084405、平成18年11月 9日国内公表、特表2006-525663〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2004年3月17日(パリ条約による優先権主張2003年3月21日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成22年1月29日付けの拒絶理由通知に対して、同年4月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月6日に審判請求がされたものである。


第2.本願発明に対する判断
1.本願発明
本願の請求項1ないし請求項7に係る発明は、平成22年4月26日に提出された手続補正書により補正された請求項1ないし請求項7に記載されたとおりのものであって、そのうち、本願の請求項2及び6に係る発明は次のとおりのものである。

【請求項2】
「第1の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の上方に配置された第2の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の下方に配置された第3の誘電体層と、を備え、
前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層は、前記第1の誘電体層の周囲にあり、
前記第1の誘電体層の誘電率(ε_(medium))は、前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層の誘電率(ε)より大きいことを特徴とする多層積層体。」
【請求項6】
「LTCCプロセスによって製造されることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の多層積層体。」

したがって、請求項2を引用する本願の請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、記載を整理すると、以下の通りになる。
「第1の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の上方に配置された第2の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の下方に配置された第3の誘電体層と、を備え、
前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層は、前記第1の誘電体層の周囲にあり、
前記第1の誘電体層の誘電率(ε_(medium))は、前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層の誘電率(ε)より大きく、
LTCCプロセスによって製造されることを特徴とする多層積層体。」

2.引用例の表示
引用例1:特開2001-351827号公報
引用例2:国際公開第03/017479号

3.引用例1の記載、引用発明と、引用例2の記載
3-1.引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に「引用文献1」として引用された、本願の優先権主張の日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2001-351827号公報(以下「引用例1」という。)には、「複合積層電子部品」(発明の名称)に関して、図1とともに、次の記載がある(下線は、参考のため、当審において付したもの。以下、同様である。)。

ア.発明の属する技術分野
・「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、異種材料からなる未焼結材料層を積層し、焼成することによって一体焼結した積層体を備える、複合積層電子部品に関するもので、特に、たとえば、コンデンサ、インダクタ等の受動素子を内蔵した構造を有する、複合積層電子部品に関するものである。」

イ.課題を解決するための手段
・「【0016】そこで、この発明では、基体層は、SiO_(2) 、MgO、Al_(2) O_(3) およびB_(2)O_(3) を主成分とする結晶化ガラスと、熱膨張係数6.0ppm/℃以上の酸化物セラミックとを主成分としていることを特徴としている。また、機能層は、軟化点800℃以下の非晶質ガラスを主成分としていることを特徴としている。
【0017】このような複合積層電子部品において、接合性は、基体層に含まれる結晶化ガラスと機能層に含まれる非晶質ガラスとによって得ようとしている。この接合によれば、基体層と機能層とを焼結させるにあたって、1000℃以下の低温焼成が可能であるばかりでなく、ガラスのガラス歪み点以上では残留応力を無視できるため、低軟化点ガラスを使用することにより、接合時の熱膨張係数が互いに同じであれば、固相反応による接合と比較して、接合界面にかかる応力(残留応力)を著しく低減できる。」

ウ.発明の実施の形態
・「【0024】
【発明の実施の形態】図1は、この発明の一実施形態による複合積層電子部品1を図解的に示す断面図である。
【0025】複合積層電子部品1は、積層体2を備え、この積層体2上には、半導体デバイスやチップコンデンサ等の実装部品3、4および5が搭載されることによって、セラミック多層モジュールを構成している。
【0026】積層体2は、比誘電率が10以下の低誘電率層からなる基体層6および7と、基体層6および7の間に位置する、比誘電率が15以上の高誘電率層からなる機能層8とを積層した構造を有している。これら基体層6および7ならびに機能層8は、図1では、各々1つの層として図示されているが、通常、複数の低誘電率層および複数の高誘電率層からそれぞれ構成される。
【0027】積層体2に関連して、内部導体膜9および10、ビアホール導体11ならびに外部導体膜12が設けられている。特に、高誘電率層からなる機能層8に関連して設けられた内部導体膜10によって、コンデンサC1およびC2がそれぞれ形成されている。また、内部導体膜9および10、ビアホール導体11ならびに外部導体膜12は、配線導体を構成し、実装部品3?5ならびにコンデンサC1およびC2を相互に電気的に接続している。」

・「【0028】積層体2は、たとえば、以下のようにして作製されることができる。
【0029】まず、基体層6および7の材料として、SiO_(2) -MgO-Al_(2) O_(3) -B_(2)O_(3) を主成分とする結晶化ガラスを準備し、これに、アルミナ等の熱膨張係数が6.0ppm/℃以上の酸化物セラミックを添加し、これらを混合する。次いで、得られた混合粉末に、有機バインダ、分散剤、可塑剤、有機溶剤等を適量添加し、これらを混合することによって、低誘電率層用スラリーを作製する。その後、このスラリーを、ドクターブレード法等によってシート状に成形して、低誘電率層用セラミックグリーンシートを得る。
【0030】他方、機能層8の材料として、BaO-TiO_(2) 系誘電体材料を準備し、これを1000℃で1時間以上仮焼し、得られた仮焼原料を粉砕した後、この仮焼原料に、軟化点800℃以下の非晶質ガラス、たとえばMe_(2) O(Meはアルカリ金属)-MaO(Maはアルカリ土類金属)-SiO_(2) -CuO系ガラスを混合して混合原料を作製した後、有機バインダ、分散剤、可塑剤、有機溶剤等を適量添加し、これらを混合することによって、高誘電率層用スラリーを作製する。次いで、このスラリーを、ドクターブレード法等によってシート状に成形して、高誘電率層用セラミックグリーンシートを得る。
【0031】次いで、得られた低誘電率層用セラミックグリーンシートおよび高誘電率層用セラミックグリーンシートの各々の特定のものに、ビアホール導体11のための貫通孔を設け、これら貫通孔に、導電性ペーストまたは導体粉を充填して、ビアホール導体11を形成する。
【0032】また、低誘電率層用セラミックグリーンシートおよび高誘電率層用セラミックグリーンシートの各々の特定のものに、導電性ペーストを用いて、内部導体膜9および10ならびに外部導体膜12の各々を印刷により形成する。
【0033】なお、これらビアホール導体11、内部導体膜9および10ならびに外部導体膜12を形成するための導電性ペーストまたは導体粉は、導電成分として、Ag、Ag-Pt合金、Ag-Pd合金、Au、NiおよびCuから選ばれた少なくとも1種を主成分とするものが有利に用いられる。
【0034】次いで、上述した低誘電率層用セラミックグリーンシートおよび高誘電率層用セラミックグリーンシートを、それぞれ、所定の順序で所定枚数積層し、その後、積層方向にプレスすることによって、積層体2となるべき積層体ブロックを作製する。なお、必要に応じて、この積層体ブロックを適当な大きさに切断してもよい。
【0035】そして、この積層体ブロックを800?1000℃程度の温度で焼成することによって、図1に示した積層体2を得る。
【0036】次いで、積層体2の一方主面上に、実装部品3?5を搭載することによって、セラミック多層モジュールとしての複合積層電子部品1を完成する。」

・「【0038】図1に示した複合積層電子部品1に備える積層体2において採用された積層構造は、単なる一例に過ぎないものであると理解すべきである。たとえば、基体層6および7の数ならびに機能層8の数は任意に変更でき、また、積層順序も任意に変更することができる。また、機能層8は、磁性体層からなるものに置き換えてもよい。この場合、機能層8に関連して設けられる配線導体は、たとえばインダクタを形成するような形態とされる。また、機能層8として、高誘電率層からなるものと磁性体層からなるものとの双方を備えるようにしてもよい。」

エ.発明の効果
・「【0088】
【発明の効果】以上のように、この発明によれば、1000℃以下の温度で焼成されることによって得られ、また、基体層と機能層といった異種材料間において良好な接合性が得られ、また、クラック等の欠陥が生じにくくすることができるので、信頼性の高い複合積層電子部品を得ることができる。」

オ.図面
図1には、基体層6及び基体層7が、それぞれ、機能層8に隣接して、前記基体層6は前記機能層8の上側に、前記基体層7は前記機能層8の下側に配置されていることが、図示されている。

3-2.引用発明
以上のア?オによれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているといえる。
「結晶化ガラスを含む低誘電率層用セラミックグリーンシート及び非晶質ガラスを含む高誘電率層用セラミックグリーンシートを、それぞれ、所定の順序で所定枚数積層することで作成した、内部に内部導体膜を有する積層体ブロックを、800?1000℃程度の温度で一体焼結することで製造する、
比誘電率が10以下の低誘電率層からなる基体層6及び基体層7と、上側に配置されている前記基体層6及び下側に配置されている前記基体層7の間に位置する、比誘電率が15以上の高誘電率層からなる機能層8とを積層した構造を有することを特徴とする積層体2。」

3-3.引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に「引用文献5」として引用された、本願の優先権主張の日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第03/017479号(以下「引用例2」という。)には、「ELECTRONIC DEVICE AND METHOD OF TESTING AND OF MANUFACTURING」(発明の名称)に関して、次の記載がある(和訳は、引用例2の日本語のファミリー出願の公表特許公報(特表2005-514761号公報)を参照した。)。

ア.“Advantageous examples of substrates exhibiting a high degree of roughness are sintered ceramic substrates, such as alumina, AIN and Low-Temperature Cofired Ceramic - or LTCC - substrates. Such substrates have distinct advantages over substrates of, for example, silicon or glass: the electric losses which occur at high frequencies are lower than the electric losses of silicon substrates; the thermal conduction is better than that of glass substrates, and in addition, said substrates are cheaper.”(明細書の第3頁第19?24行 和訳:高度の粗さを見せる基板の有用な例は、アルミナ、AlN、低温同時焼結セラミック(LTCC)基板のような焼結セラミック基板である。そのような基板は、例えばシリコンあるいはガラスのような基板に優る際立った利点を持っている。即ち、高周波で発生する電気損失は、シリコン基板の電気損失より低く、熱伝導は、ガラス基板の熱伝導よりも良好であり、さらに、当該基板は、より安価である。)

イ.“Since no additional thin layer is necessary for a capacitor electrode, the device of the invention may well be a multilayer structure with copper layers, such as a multilayer interconnect structure of an integrated circuit and a multilayer structure of a multilayer substrate of ceramic or resin material.”(明細書の第4頁第26?29行 和訳:キャパシタ電極のための何らの付加的な薄層も必要ないから、本発明のデバイスは、集積回路の多層相互接続構造や、セラミックあるいは樹脂材料から成る多層基板の多層構造のような、銅層を持つ多層構造に容易にできる。)

ウ.“In yet another embodiment, a micro-electromechanical component - also known as MEMS components - is present. To that end, the device comprises a first MEMS electrode and a second MEMS electrode, the first and the second MEMS electrode being present in, respectively, the first and the second metal film. The first and the second MEMS electrode are separated from each other by the separation layer and a layer of air. Alternatively, the separation layer maybe of air. Microelectromechanical components may be used at various places in the front end of a mobile telephone, inter alia as a switch, a resonator, a filter and an adjustable capacitor. More in particular a MEMS component may be used for adjusting the output impedance of an impedance matching circuit and for adjusting the resonance frequency of a voltage controlled oscillator. (VCO) tank circuit.”(明細書の第6頁第16?25行 和訳:さらに他の一実施例において、超小型電気機械部品(MEMS部品としても知られている)が、存在する。この目的のために、本デバイスは、第1のMEMS電極および第2のMEMS電極を有しており、前記第1および前記第2のMEMS電極が、それぞれ、前記第1および前記第2の金属膜内に存在する。前記第1のMEMS電極と前記第2のMEMS電極とは、前記分離層および空気層によって、互いに分離されている。あるいは、分離層は、空気であってもよい。超小型電気機械部品は、移動電話のフロントエンドの種々の箇所に、とりわけ、スイッチ、共振器、フィルタ、可調キャパシタとして用いてもよい。なかんずく、MEMS部品は、インピーダンス整合回路の出力インピーダンスを調整するために、また、電圧制御発振器(VCO)タンク回路の共振周波数を調整するために、用いてもよい。)

4.対比
(1)対比
次に、本願発明と引用発明とを対比する。

ア.引用発明において、「積層体2」は「上側に配置されている前記基体層6及び下側に配置されている前記基体層7の間に位置」する「高誘電率層からなる機能層8とを積層した構造を有する」から、「基体層6」は「機能層8」に隣接して、その「上側に配置」されているとともに、「基体層7」は「機能層8」に隣接して、その「下側に配置」されていると認められる。
したがって、引用発明の「高誘電率層からなる機能層8」、前記「機能層8」に隣接してその「上側に配置」されている「低誘電率層からなる基体層6」、及び、前記「機能層8」に隣接してその「下側に配置」されている「低誘電率層」からなる「基体層7」は、それぞれ、本願発明の「第1の誘電体層」、「前記第1の誘電体層の上方に配置された第2の誘電体層」、及び、「前記第1の誘電体層の下方に配置された第3の誘電体層」に相当する。

イ.アで述べたとおり、引用発明においては、「積層体2」は「上側に配置されている前記基体層6及び下側に配置されている前記基体層7の間に位置」する「高誘電率層からなる機能層8とを積層した構造を有する」ことで、「基体層6」は「機能層8」に隣接して、その「上側に配置」されているとともに、「基体層7」は「機能層8」に隣接して、その「下側に配置」されている。
ここで、本願明細書の段落【0012】には「「周囲の層」とは、誘電率ε_(medium)を有する層に隣接している層のことを意味している。」と記載されている。
したがって、引用発明においては、「積層体2」は「上側に配置されている前記基体層6及び下側に配置されている前記基体層7の間に位置」する「高誘電率層からなる機能層8とを積層した構造を有する」ことは、本願発明の「前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層は、前記第1の誘電体層の周囲にあ」ることに相当する。

ウ.ある媒質の比誘電率とは、真空の誘電率に対する当該媒質の誘電率の比のことである。すなわち、媒質の比誘電率がより大きいとき、媒質の誘電率もより大きくなる。
したがって、引用発明において、「低誘電率層からなる基体層6及び基体層7」の「比誘電率が10以下」であり、「高誘電率層からなる機能層8」の「比誘電率が15以上」であることは、本願発明において、「前記第1の誘電体層の誘電率(ε_(medium))は、前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層の誘電率(ε)より大き」いことに相当する。

エ.引用発明の「積層した構造を有することを特徴とする積層体2」は、本願発明の「多層積層体」に相当する。

オ.そして、引用発明において、「結晶化ガラスを含む低誘電率層用セラミックグリーンシート及び非晶質ガラスを含む高誘電率層用セラミックグリーンシートを、それぞれ、所定の順序で所定枚数積層することで作成した、内部に内部導体膜を有する積層体ブロックを、800?1000℃程度の温度で一体焼結する」というプロセスで「積層体2」を「製造する」ことと、本願発明において「多層積層体」が「LTCCプロセスによって製造されること」とは、多層積層体を所定のプロセスによって製造する点で共通する。

(2)一致点及び相違点
そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「第1の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の上方に配置された第2の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の下方に配置された第3の誘電体層と、を備え、
前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層は、前記第1の誘電体層の周囲にあり、
前記第1の誘電体層の誘電率(ε_(medium))は、前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層の誘電率(ε)より大きく、
所定のプロセスによって製造されることを特徴とする多層積層体。」

《相違点》
本願発明は、「多層積層体」が「LTCCプロセスによって製造される」のに対して、引用発明は、「積層体2」を「結晶化ガラスを含む低誘電率層用セラミックグリーンシート及び非晶質ガラスを含む高誘電率層用セラミックグリーンシートを、それぞれ、所定の順序で所定枚数積層することで作成した、内部に内部導体膜を有する積層体ブロックを、800?1000℃程度の温度で一体焼結することで製造する」点。

5.当審の判断
(1)相違点に対して
ア.「LTCC」とは、“Low Temperature Co-fired Ceramics”(低温同時焼成セラミックス)の略語である。
そして、電子部品のセラミックは通常は1500℃以上の高温で焼成されていたため、配線導体を同時に焼成するときは前記配線導体に高融点であるもののの導電性に劣る金属材料を使用していたという課題を解決して、前記セラミックに低温焼成が可能なセラミック材料を使用して、配線導体材料と前記セラミック材料とを低温で同時焼成することで、低融点であるが導電性が良好な銀や銅等を前記配線導体材料として使用できるようにしたものを、LTCC(低温同時焼成セラミックス)と呼ぶことは、技術常識である。
したがって、「LTCCプロセス」とは、低温焼成が可能なセラミック材料と低融点金属からなる配線導体材料とを低温で同時焼成してセラミック素体を作るプロセスを指す。

イ.これに対して、引用発明の「積層体2」の「製造」プロセスは、「結晶化ガラスを含む低誘電率層用セラミックグリーンシート及び非晶質ガラスを含む高誘電率層用セラミックグリーンシートを、それぞれ、所定の順序で所定枚数積層することで作成した、内部に内部導体膜を有する積層体ブロックを、800?1000℃程度の温度で一体焼結することで製造する」というものである。
そして、引用例1には、前記「3-1.引用例1の記載」の「イ.課題を解決するための手段」の項において摘記したように、「この接合によれば、基体層と機能層とを焼結させるにあたって、1000℃以下の低温焼成が可能である」と記載されている。したがって、引用発明の「一体焼結する」ときの「800?1000℃程度の温度」は、引用例1においては、「低温」であると認識されていると認められる。
しかし、引用例1には、前記「結晶化ガラスを含む低誘電率層用セラミックグリーンシート及び非晶質ガラスを含む高誘電率層用セラミックグリーンシートを、それぞれ、所定の順序で所定枚数積層することで作成した、内部に内部導体膜を有する積層体ブロックを、800?1000℃程度の温度で一体焼結することで製造する」というプロセスを、LTCCプロセスまたは低温同時焼成プロセスとして行う旨の明示の記載は存在しない。
さらに、前記「3-1.引用例1の記載」の「ウ.発明の実施の形態」の項において摘記したように、「内部導体膜9および10ならびに外部導体膜12を形成するための導電性ペーストまたは導体粉は、導電成分として、Ag、Ag-Pt合金、Ag-Pd合金、Au、NiおよびCuから選ばれた少なくとも1種を主成分とするものが有利に用いられる。」と記載されているところ、前記「Ag-Pd合金」はPdの含有量が多いほど、その融点がPdの融点である1554.9℃に近づき、一般に融点が1100℃を超える高融点金属であることは、電子セラミック部品の製造技術において周知の事項である(要すれば、特開平01-239023号公報の第6頁下右欄第2行?第7頁上右欄第6行を参照のこと。)。そして、前記「Ni」は融点が1455℃である高融点金属である。
したがって、「積層体2」を「製造する」ための「結晶化ガラスを含む低誘電率層用セラミックグリーンシート及び非晶質ガラスを含む高誘電率層用セラミックグリーンシートを、それぞれ、所定の順序で所定枚数積層することで作成した、内部に内部導体膜を有する積層体ブロックを、800?1000℃程度の温度で一体焼結する」というプロセスを、必ず「LTCCプロセス」で行うことは、引用例1には記載されていない。

ウ.しかしながら、引用発明は、「積層体2」を「結晶化ガラスを含む低誘電率層用セラミックグリーンシート及び非晶質ガラスを含む高誘電率層用セラミックグリーンシートを、それぞれ、所定の順序で所定枚数積層することで作成した、内部に内部導体膜を有する積層体ブロック」を、「800?1000℃程度の温度」という「低温」で「一体焼結する」というプロセスによって「製造」しようとするものであり、引用例1には、前記「3-1.引用例1の記載」の「ウ.発明の実施の形態」の項において摘記したとおり、前記「内部導体膜」として低融点金属である「Ag」または「Cu」を用いることも記載されているから、前記プロセスを「LTCCプロセス」で行うことは、引用例1には示唆されていると認められる。
さらに、内部に内部導体膜層が形成された未焼成のセラミック積層体を、「LTCCプロセス」により内部導体膜材料層とともに一体焼成することで、共振器やフィルタ部品となる「LTCC」素体を製造することは、前記「3-3.引用例2の記載」の項、及び、以下のエ?カに記載されるように、周知慣用技術にすぎない。
したがって、引用発明の「積層体2」を「結晶化ガラスを含む低誘電率層用セラミックグリーンシート及び非晶質ガラスを含む高誘電率層用セラミックグリーンシートを、それぞれ、所定の順序で所定枚数積層することで作成した、内部に内部導体膜を有する積層体ブロックを、800?1000℃程度の温度で一体焼結する」というプロセスを、前記「内部導体膜」を形成する材料として低融点金属のみを選択することで、「LTCCプロセス」とすることは、当業者であれば、当然になし得たものと認められる。

エ.周知文献1:特表2002-520878号公報
・「 【0003】
小型化の観点で、モノリシック多層構造を有するセラミック成形体の形の基板が特に有利である。特別な製造方法を用いて、受動素子、例えばインダクタ、キャパシタ又は抵抗は、セラミック成形体の容積内に組み込むことが可能である。このように、今日一連の製品が製造されている。これには例えばセラミックマルチチップ-モジュール(MCM-C)、簡単な高周波部品、例えばLC-フィルタ及びRLC-ネットワークが属する。
【0004】
モノリシック多層構造を有するセラミック成形体の特別な製造方法は、LTCC(低温焼結セラミック;low temperature cofired ceramic)-技術に基づいている(例えば、D.L. Wilcox et al., Proc. 1997 ISHM Philadelphia, p. 17-23参照)。」

オ.周知文献2:特開平10-130051号公報
・「【0010】鉛不含の高誘電性ペーストの使用によって、即ち例えば簡単な方法で静電容量の組込み(Integration von Kapazitaeten)は、例えば電磁的適合性という理由から、鉛含有材料を使用せずに可能である。該ペーストが同時に高誘電性であることによって、セラミック多層回路の場合の場所並びに主として表面取付けされる容量分(oberflaechenmontierte kapazitive Komponenten)は、節約される。電磁的適合性という理由から必要とされる能動素子、例えば高性能フィルタ素子の三次元的配置は、可能となる。
【0011】本発明の実施例は、図に示されておりかつ下記に詳説されている。
【0012】
【実施例】最も簡単に本発明によるペーストは、製造方法によって記述することができ、それというのも、製造方法による記述によってペーストの有利な作用についての理由を最もよく示すことができるからである。鉛不含の高誘電性ペーストの製造に、例えばチタン酸バリウムの微小粉末は、使用される。この場合には該材料が鉛不含でありかつ該材料が粒度D_(50)0.05?0.5μmを有することが重要である。この場合にはD_(50)は、微小粒子の50%の粒子が示された数値より小さな直径を有することを意味する。添加剤として、例えばCu_(2)O、CuO、Fe_(2)O_(3)、Bi_(2)O_(3)、CoO、Sb_(2)O_(3)、Ta_(2)O_(3)、Mn_(2)O_(3)、TiO_(2)は、使用される。この場合には添加剤は、合計で1?15重量%の範囲内で使用される。これまで温度1000℃未満でのチタン酸バリウムの焼結可能性は、鉛含有ガラスの添加によって達成されていた。上記の粒度D_(50)を有する微小粒子材料の使用によって、鉛の添加なしに約900℃での焼結可能性を達成することが可能となる。該材料の焼結可能性及び収縮挙動は、この添加によってなお適合される。さらに、微小粉末と添加剤からなる材料混合物の製造後の適当な磨砕及び適当な熱処理(か焼)によって材料特性は、最適化され、かつ最終的に有機物質(例えばアクリル樹脂、エチルセルロース、テルピン油)の添加によってペーストは得られる。この場合には最適化は、セラミック多層回路への使用の際のペーストにとって必要とされる焼結温度をできるだけ低く維持することを意味する。このような鉛不含の誘電性ペーストは、LTCC-材料(Low Temperatur Cofiring Ceramics)とともに使用することができる。LTCC-材料は、例えば酸化アルミニウムとCaO-Al_(2)O_(3)-B_(2)O_(3)-SiO_(2)-ガラス-もしくはSiO_(2)-Al_(2)O_(3)-CaO-ガラス複合材料とからなる。さらにこのようなLTCC-材料は、典型的に800?1000℃の温度範囲内で焼結されることができる。鉛含有材料と比較して上記の鉛不含の誘電性ペーストは、焼結の場合にはより粘性である。このことによって、セラミック多層回路中に銀が存在する場合には、銀の拡散がより小さくなり、このことによって銀との良好な適合性が説明される。誘電性ペーストの製造のための出発材料が著しく微粒状であることによって、焼結後の亀裂安定性が得られ、材料は、焼結後の冷却の際により均等に収縮する。同様に気孔は、より僅かに形成される。
【0013】図1は、高誘電率の少なくとも1つの領域の製造への鉛不含の誘電性ペーストの使用の実施例を示す。セラミックLTCC-多層回路は、未加工のセラミックフォイル1から構成され、これらセラミックフォイルの予定された特定の場所に孔7が準備されている。該セラミックフォイル上に導体路4ないしはコンデンサ電極5が施与されている。孔は、金属ペースト2で充填され、この場合には該金属ペーストは、セラミック層を貫く電気的な貫通接点として使用される。或いは該孔7は、誘電性ペースト、特に本発明による鉛不含の高誘電性ペースト3で充填することもできる。コンデンサ電極5の間に簡単な方法で高い誘電率を有する領域を形成させることができ、この領域は、高誘電性ペースト3で充填された孔7によって実施されている。図2には、焼結過程後のセラミック多層回路が示されている。この場合にはセラミックフォイル1は、「溶融」されてセラミック多層回路6になっている。導体路4は、1つもしくはそれ以上のセラミック層を貫く貫通接点8を介して別の導体路と電気的に結合しているか、ないしは高い誘電率を有する領域10を介して、その上部もしくはその下部に配置されている別の導体路と静電的に接触している。選択的に、高い誘電率を有する領域10は、鉛不含の誘電性ペーストからなるセラミック多層回路の全体的な層として形成することもできる。図3によれば鉛不含の誘電性ペーストは、プリント方法によって局所的に施与することもできる。この場合には、先ず未加工のセラミックフォイル1上に導体路4及びコンデンサ電極5を配置し、このコンデンサ電極5上に局所的に鉛不含の誘電性ペースト3を塗布し、かつ引き続き、もう1つのコンデンサ電極5を施与する。貫通接点8及び導体路4を有する、適当な方法で工場生産された未加工のセラミックフォイル1を図4によるさらに別の段階の際に、図3による配置の上に施与する。焼結過程後に、図5による、任意に局所的に配置された、高い誘電率を有する領域10を有するセラミック多層回路6が得られる。本発明による鉛不含の誘電性ペーストの使用は、自明のことながら上記の実施例に限定されるのではなく、1000℃未満の温度で焼結し、適合された収縮挙動ないしは適合された熱膨張係数を有しかつその際に鉛を含有していない高誘電性材料が提供されなければならない場合には常に有利であることが判明している。」

カ.周知文献3:特開平11-243307号公報
・「【0012】
【実施例】図1は、多層集積回路パッケージ100を示す図であって、パッケージ100内の1つの誘電性層の上側102を示している。上側102は、導電性被膜104、例えば貴金属で被膜されている。導電性被膜104は選択的にパターン化されていて、パッケージ100の上側層上にランド領域106を形成している。本明細書において使用する「ランド領域」とは、導電性被膜が存在しない領域のことである。第2のランド領域108及び付加的なランド領域(図示してない)も、ミリメートル波モノリシック集積回路110(MMIC)、または他の信号処理回路を配置できる領域を設けるために、選択的にパターン化することによって形成することができる。例えば、MMIC 110に、増幅器、減衰器、スイッチ、またはフィルタの機能を与えることができる。」
・「【0014】パッケージ100の一面を図2に示す。図2は、図1に示した多層集積回路パッケージ100のA-A’矢視断面図である。パッケージ100は、金属ベース202、金属カバー204、リングフレーム206、及び多層集積回路208(以下「回路298」という)を含んでいる。回路208は、誘電性層222-230によって分離された導電性層210-220(例えば、導電性金属で満たすことができる)を含んでいる。直流バイアス及び信号経路を設けるために、どの導電性層も選択的にパターン化できることに注目されたい。好ましい実施例では、回路208は低温共焼成セラミック(LTCC)から作られた誘電性層から形成されている。回路208の導電性層210-220間の信号経路(ミリメートル波信号、直流電力、接地、及びデータを含む)を設けるために、回路208内にバイア232が導入されている。パッケージ100は、図3(図1のB-B’矢視の移行部分124の断面図である)を参照して詳細を以下に説明する導波管構造を更に含んでいる。」

(2)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求の理由として、
・「引用文献1は、上記特徴(iii)」、すなわち、「(iii)接地電極が設けられた平面(以下、「接地平面」という)と共通平面との間の層(第1の誘電体層)の誘電率が、共通平面の上方及び接地平面の下方に位置する周囲の層(第2の誘電体層及び第3の誘電体層)の誘電率より大きい」という特徴に「ついて開示も示唆もしていない。」、
・「本願請求項1及び2は、上記特徴(i)」、すなわち、「、(i)キャパシタ電極とコイルとして機能するライン(以下、「インダクタライン」という)とが共通平面内に配置される」という特徴を「備えるので、簡単なプロセスを用いて、キャパシタ及びインダクタを高密度で形成することができる。」、
と主張している。
しかし、上記の、「接地電極」を設けること、及び、「キャパシタ電極とコイルとして機能するラインとが共通平面内に配置される」ことは、本願の請求項2及び請求項6には何ら記載されていない。
したがって、上記の主張は特許請求の範囲の記載に基づくものではないから、当を得ておらず、これを採用することはできない。

(3)小括
以上から、引用発明を相違点に係る構成とすることは、引用発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。そして、本願発明の効果も、引用発明から、当業者が予期し得たものである。


第3.結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-18 
結審通知日 2012-04-24 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願2006-506353(P2006-506353)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 重田 尚郎  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 松田 成正
近藤 幸浩
発明の名称 補償共振回路を有する多層積層体  
代理人 杉村 憲司  

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