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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A47G
管理番号 1263709
審判番号 無効2012-800019  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-03-05 
確定日 2012-09-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第3411951号発明「紙容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯等

1.本件特許第3411951号についての特許出願は、平成8年7月31日になされ、平成15年3月20日に請求項1ないし4に係る発明についての特許が設定登録された。

2.これに対し、平成24年3月5日に、請求人 山崎 宏より、本件特許第3411951号の請求項1、請求項3及び請求項4に係る発明についての特許を無効とするとの審決を求める無効審判(以下「本件審判」という。)の請求がなされた。

3.平成24年5月18日に、被請求人 東洋アルミエコープロダクツ株式会社より審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)が提出された。

4.平成24年7月11日に、請求人から上申書が提出された。

5.平成24年7月13日に、両当事者から口頭審理陳述要領書が提出された。

6.そして、平成24年7月27日に口頭審理が行われたものである。

本件審判は、平成23年法律第63号による改正特許法の施行(平成24年4月1日)前に請求されたものであるから、改正附則第2条第18項によりなお従前の例による。
なお、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない 。

第2.本件発明
本件特許の請求項1、請求項3及び請求項4に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明3」及び「本件発明4」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】一枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成された、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の多角型の紙容器であって、
底部と、
前記底部に接続する側壁部と、
前記側壁部に接続しかつ水平方向に延びるフランジ部と、
前記フランジ部の外周縁に形成された縁巻部とを備え、
前記フランジ部の内、前記曲線部に対応し、折りシワが生じる曲線対応部分の幅は、前記直線部に対応する直線対応部分の幅より大きい、紙容器。」

「【請求項3】前記曲線部に対応した、前記側壁部、前記フランジ部及び前記縁巻部の一部には、前記外縁に向かって放射状に延びる複数のシワが形成される、請求項1又は請求項2記載の紙容器。
【請求項4】 前記シワは、前記板紙原紙に予め形成された放射状の複数の線条に基づいて形成される、請求項3記載の紙容器。」

第3.請求人の主張
1.要点
請求人は、本件特許の請求項1、請求項3及び請求項4に記載された発明についての特許を無効とするとの審決を求めている。
その理由の要点は以下のとおりである(審判請求書第5ページ第7?19行)。

本件特許の請求項1、請求項3及び請求項4に係る発明は、いずれも甲第1号証及び甲第2号証又は甲第3号証に開示された発明等から当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。

2.証拠方法等
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:実願平5-23083号(実開平6-80615号)の願書 に添付した明細書及び図面を記録したCD-ROM
甲第2号証:特開平7-318084号公報
甲第3号証:東洋アルミニウム株式会社五十年史のうち、「ホイルコンテ ナ」の写真のページの写し
評価書1 :平成24年7月13日請求人代理人野崎俊剛作成
評価書2 :平成24年7月13日請求人代理人野崎俊剛作成

以上の証拠方法のうち、甲第1号証ないし甲第3号証は審判請求書(以下単に「請求書」ということがある。)に添付され、評価書1及び評価書2はその後提出されたものである。また、これらの証拠方法について、当事者間に成立の争いはない(口頭審理調書の「被請求人 2」)。

なお、甲第1号証について、請求書においては「実開平6-80615号公報」と標記されていたが、請求人口頭審理陳述要領書にて、上記のように訂正された(請求人口頭審理陳述要領書第3ページ第2?5行)。
さらに、請求書添付にて、以下の参考資料が提出されている。
参考文献1:実願平3-79688号(実開平5-29475号)の願書 に添付した明細書及び図面を記録したCD-ROM
参考文献2:実願平5-47904号(実開平7-17709号)の願書 に添付した明細書及び図面を記録したCD-ROM
参考文献3:実願昭51-42459号(実開昭52-133295号) の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフィル ム

3.主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。ここで、請求人の主張のうち、上申書の(6)ないし(9)の主張は、口頭審理にて取下げられた(口頭審理調書の「請求人 3」)。
なお、原文の「まる数字」は、「まる1」のように記載した。また、<>内のページ番号及び行数の表示は、理解の便宜のため当審で付したものである。

(1)請求書第5ページ第20行?第23ページ第3行
「・・・(前略)
<第10ページ第7?15行>
まる1 本件の請求項1に係る発明の構成要件を分節すると、
A.一枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成された、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の多角型の紙容器であって、
B.底部と、前記底部に接続する側壁部と、前記側壁部に接続しかつ水平方向に延びるフランジ部と、前記フランジ部の外周縁に形成された縁巻部とを備え、
C.前記フランジ部の内、前記曲線部に対応し、折りシワが生じる
D.曲線対応部分の幅は、前記直線部に対応する直線対応部分の幅より大きい、
E.紙容器。
である。
・・・(中略)・・・
<第11ページ第12行?第12ページ第15行>
上記まる2、まる3、まる4のように、本件請求項1に係る発明と甲第1号証に開示された発明とを対比すると、両者は、構成要件A、B、C、及びEを備える点で共通し、本件請求項1に係る発明係る発明(当審注:「本件請求項1に係る発明」の誤記)は、構成要件Dを備えるのに対し、甲第1号証に記載された発明は、構成要件Dを備えない点で、両者は相違する。
しかしながら、甲第2号証又は甲第3号証には、以下のまる5に述べるように、構成要件Dを備える点が記載されている。
しかも甲第2号証又は甲第3号証には、以下のまる6に述べるように、構成要件Eも実質的に記載されており、加えて第2号証(当審注:「甲第2号証」の誤記)又は甲第3号証に記載されたものは容器に関する技術であり、本件請求項1に係る発明及び甲第1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、
更に、本件請求項1に係る発明の課題は、以下のまる7に述べるように、既に公知の課題であったものであるから、
甲第2号証又は甲第3号証に記載された公知の構成要件Dを甲第1号証に記載されたものに適用することはその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に推考し得るものである。

まる5 本件請求項1の構成要件D「曲線対応部分の幅は、前記直線部に対応する直線対応部分の幅より大きい、」は、
甲第2号証の図1には、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の四角型のアルミニウム成型品が示されている。このアルミニウム成型品における外縁(フランジ3)のうち、曲線部には、4本の筋が描かれている。これらの筋は、プレス成形の際に生じたシワであると認められる。以上から、図1には、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の四角型のアルミニウム成型品であって、フランジ3の内、曲線部に対応し、折りシワが生じる曲線対応部分の幅は、直線部に対応する直線対応部分の幅より大きいことが開示されている。
また、甲第3号証の右下に「ホイルコンテナ」の文字が付された頁には、右から3番目、上から8番目の箇所に、本件発明品に形状が酷似するアルミニウム皿が示されている。即ち、甲第3号証には、フランジ部の内、折りシワが生じる曲線対応部分の幅は、直線対応部分の幅より大きい、アルミニウム容器が開示されている。
従って、本件請求項1の構成要件Dは、甲第2号証及び甲第3号証に記載されている。
・・・(中略)・・・
<第13ページ第2?9行>
即ち、成形品である容器において、素材にアルミニウム又は紙を適宜選択できることは、周知の事項であって、成形品である容器の素材の中には「紙」が含まれている。
従って、本件請求項1の構成要件Eは、甲第1号証だけでなく、甲第2号証及び甲第3号証にも記載されている、又は記載されているに等しい事項である。
そうすると、甲第2号証及び甲第3号証に開示された発明は、本件請求項1に係る発明及び甲第1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものである点において、甲第2号証及び甲第3号証に開示された発明と第1号証に記載された発明との組み合わせることに動機づけが存在する。
・・・(中略)・・・
<第13ページ第15行?第14ページ第15行>
上述のとおり、甲第2号証には、フランジ3の内、曲線部に対応し、折りシワが生じる曲線対応部分の幅は、直線部に対応する直線対応部分の幅より大きいことが開示されている。
加えて、甲第3号証には、フランジ部の内、折りシワが生じる曲線対応部分の幅は、直線対応部分の幅より大きい、アルミニウム容器が開示されている。
このような構成を有する甲第2号証記載の発明及び甲第3号証記載の発明からも、折りシワが長く形成され、折りシワの圧縮面積が大きくなって経時変化による戻りがより小さくなり、紙容器の保形性が向上するという本件請求項1に係る発明の効果が生じるものと考えられる。
即ち、本件の請求項1にかかる発明の効果は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明の効果と一致する。
また、参考文献3第1頁第2行には、「1. 考案の名称 紙製トレー」との記載があり、参考文献3第3頁第14行?第4頁第1行には、「更にトレー本体の各角隅部には数条のリブが放射形状に設けられているので、角隅部を補強しトレー本体全体の保形作用の増大が計りうる」との記載がある。
参考文献3を要すれば、紙製トレーにおいて、トレー本体全体の保形作用を増大させることが開示されているということができる。発明の課題と効果とが表裏の関係にあることに鑑みれば、参考文献3には、紙製トレーに高い保形性が求められることが開示されているということができる。
一方、本件公報の段落番号【0023】には、「請求項1から請求項4記載の発明は、成形後において保形性の高い紙容器を提供することを目的としている。」との記載がある。
これらから、本件請求項1に係る発明の課題は、参考文献3に開示された課題と一致するといえる。
そうすると、公知の課題を解決するために、公知の発明を組合わせるという点において、甲第1号証に係る発明に、高い保形性を付与するために、フランジ部の内、折りシワが生じる曲線対応部分の幅を、直線対応部分の幅より大きくした、甲第2号証又は甲第3号証に開示された発明と第1号証に記載された発明との組み合わせることに動機づけが存在する。
・・・(中略)・・・
<第15ページ第25行?第16ページ第1行>
まる1 本件の請求項3に係る発明の構成要件を分節すると、
F.前記曲線部に対応した、前記側壁部、前記フランジ部及び前記縁巻部の一部には、前記外縁に向かって放射状に延びる複数のシワが形成される、
G.請求項1又は請求項2記載の紙容器。
・・・(中略)・・・
<第16ページ第14?22行>
これらをまとめると、甲第1号証には、周壁コーナー部25に放射状に折りシワ(線条17)が形成されている板紙原紙1をプレス成形し、底面部23と、この底面部23の端部から立ち上げられた周壁部21と、周壁部21の上端から略水平に延ばされた鍔部26と、鍔部26の外周端に設けられた縁巻27とからなる紙容器を形成することが開示されているということができる。
放射状に形成されている折りシワは、板紙原紙1をプレス成形し、紙容器が形成された後においても、当然に残存している。折りシワは、周壁コーナー部25に形成されているものであるから、図2に示される紙容器の周壁部21と、鍔部26と、縁巻27のコーナ部25に対応する部位には、折りシワが形成されている。
・・・(中略)・・・
<第17ページ第12?21行>
まる5 以上の通り、請求項3に係る構成要件F?Gは、甲第1号証ないし甲第3号証に開示されたものであり、加えて、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明は、何れも技術分野が同一である。
また、上述のとおり、例えば参考文献3に、紙製トレーには、高い保形性が求められることが開示されている。
これらのことから、本件請求項3に係る発明は、公知の課題を解決するために、公知の発明を組合わせた発明ということができる。公知の課題を解決するために、公知の発明を組合わせることは、当業者であれば当然に考えることである。
即ち、本件の請求項3に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証又は甲第3号証に係る発明の組み合わせに係る発明であり、当業者が容易に想到し得た発明である。
・・・(中略)・・・
<第18ページ下から4行?下から3行>
また、7.5(3)まる2において述べたとおり、紙容器に形成される折りシワは、プレス成形に先立って板紙原紙に放射状に形成された線条に基づいている。
・・・(中略)・・・
<第19ページ第16?20行>
これらのことから、本件請求項4に係る発明は、公知の課題を解決するために、公知の発明を組合わせた発明ということができる。公知の課題を解決するために、公知の発明を組合わせることは、当業者であれば当然に考えることである。
即ち、本件の請求項4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証又は甲第3号証に係る発明の組み合わせに係る発明であり、当業者が容易に想到し得た発明である。
・・・(中略)・・・
<第21ページ第16?20行>
8.3 甲第3号証
甲第3号証 東洋アルミニウム株式会社五十年史の写し
右下に「ホイルコンテナ」の文字が付された頁には、右から3番目、上から8番目の箇所に、本件発明品に形状が酷似するアルミニウム皿が示されている。(ホイルコンテナ写真記載頁)
・・・(後略)」

(2)上申書第2ページ下から1行?第5ページ第2行
「・・・(前略)
<第3ページ下から5行?第4ページ第11行>
(4)保形性を低下させる具体的要因の整理:
段落番号【0017】?【0023】の記載から、請求人は保形性を低下させる具体的要因は次の2つであると思料する。
・・・(中略)・・・
すなわち、第1の要因は、周壁コーナ部125における凹み線117cが開くことにある。結果、図18にて、角度θ1が大きくなり、周壁コーナ部125が実線の位置から想像線の位置へ変位するため、保形性が低下すると、理解される。
第2の要因は、段落番号【0021】に記載されている通りである。すなわち、図18において、第2の要因は、環状の縁巻127が非環状に変形すると、保形性に影響が出る。結果、図18にて、縁巻127の剛性が低下し、角度θ2が多くなり、フランジ部126が実線の位置から想像線の位置へ変位するため、保形性が低下すると、理解される。・・・(後略)」

(3)上申書第6ページ下から6行?第8ページ下から2行
「・・・(前略)
<第8ページ第1?10行>
(11)断面二次モーメント及び材質と保形性の関係:
上記解釈(推論)が支持される場合は、参考図1の曲線対応部分126bの保形性、周壁コーナ部125の保形性及び容器全体の保形性は、曲線対応部分126bの曲げ剛性(EI)によって決まり、縦弾性係数(E)と断面二次モーメント(I)の少なくとも一方を大きくすることで、曲げ剛性を大きくし、保形性を向上させることができる。
すなわち、材質を紙からアルミニウムに変更して、縦弾性係数(E)を大きくすれば、断面二次モーメント(I)が同一であっても、保形性が高まる。
紙製容器に限らず、アルミニウム製容器であっても、縦弾性係数が同一であれば、曲線対応部分126bのフランジ部の長さW2(幅)を大きくすることで、フランジ部の断面二次モーメントを大きくし、保形性が向上する。
・・・(中略)・・・
<第8ページ下から10行?下から2行>
(12)請求項1記載の発明の効果:
・・・(中略)・・・従って、曲線対応部分の幅が直線対応部分の幅と同じものに比べて、曲線対応部分に生じる折りシワの各々は長く形成され、フランジ部の長さを大きくすることで、フランジ部の断面二次モーメントが大きくなり、容器の保形性が向上する。」のように善意に解釈し得るものである。」

(4)請求人口頭審理陳述要領書第3ページ下から6行?第9ページ下から2行
「・・・(前略)
<第5ページ第2?4行>
すなわち、評価書1の図1には「フランジ3のうち、曲線部に対応し、折りシワ(凹み線105)が生じる曲線対応部分の幅Wa,Wb,Wc,Wdは、直線部に対応する直線対応部分の幅W1より大きい」ことが開示されている。
・・・(中略)・・・
<第5ページ第7?11行>
甲第3号証を詳細に評価書2(参考資料2)で説明する。審判請求書第8頁下から第2行目?同頁下から第1行目に記載の「右から3番目、上から8番目の箇所に、本件発明品に形状が酷似するアルミニウム皿」は、評価書2の図1(甲第3号証のホイルコンテナ頁の写しに、本件発明品に形状が酷似するアルミニウム皿を特定する図)の矢印で示す線で囲われたアルミニウム皿である。
・・・(中略)・・・
<第6ページ第3?5行>
評価書2の図2には「フランジ部116のうち、曲線部111に対応し、折りシワ(凹み線117)が生じる曲線対応部分の幅WBは、直線部112に対応する直線対応部分の幅WAより大きい」ことが開示されている。
・・・(中略)・・・
<第7ページ第4?12行>
ここで、技術水準を構成する甲1発明の出願時の技術常識には、審判請求書第13頁第2行目?同頁第3行目で述べたような周知の事項も含まれ、「成形品である容器において、素材にアルミニウム又は紙を適宜選択できること」は、例えば参考文献1、参考文献2の記載を考慮すれば、当業者にとって技術常識である。このような技術常識を有する当業者であれば、ある形状を有するアルミニウムの容器に接した際に、その容器の素材をアルミニウムから紙への変更を試みて、アルミニウムの容器のある形状を紙の容器の形状に適用することは、通常の創作能力の範囲内である。言い換えれば、ある形状を有するアルミニウムの容器に接した際に、その形状を紙の容器の形状に適用又は模倣することは、技術常識を有する当業者の通常の創作能力の範囲内であり、
・・・(中略)・・・
<第7ページ下から5行?第8ページ下から9行>
ところで、甲第2号証は、段落番号【0004】に・・・(中略)・・・段落番号【0047】に「【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、適当な保型性と柔軟性を有する大型の成型品が得られる。そのため、たとえば汁受皿覆いの場合には、種々の異なる形状のガスコンロにフィットさせることが可能となる。」の記載があり、アルミニウムの容器に保形性を付与することも、公知の課題である。・・・(後略)」

(5)口頭審理調書の「請求人」欄4及び5
「4 本件特許の「保形性」とは段落【0019】「長期間保持」、【0 043】「経時変化」、【0020】「時間が経過」の記載から見て 自立性を意味する。
5 甲第2号証における保型性とは、段落【0006】の記載から見て 自立性とプレス後の形体維持性の両者を意味する。」

第4.被請求人の主張
1.要点
これに対し、被請求人は、以下の理由に基づき、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。

2.主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。なお、原文の「まる数字」は、「まる1」のように記載した。また、<>内のページ番号及び行数の表示は、理解の便宜のため当審で付したものである。
(1)答弁書第2ページ第11行?第5ページ下から5行
「・・・(前略)
<第2ページ第18?21行>
・シワの戻りや板紙原紙そのものの復帰力によって、経時につれて容器の形状が変形する虞がある(本件特許発明の明細書(以下「本件明細書」という)【0018】?【0019】)。すなわち、紙容器ではプレス加工後の保形性が重要な課題となる。
・・・(中略)・・・
<第3ページ第9?11行>
以上のように、本件特許発明は、保形性が問題となる紙容器において、曲線対応部分の幅を直線対応部分の幅より大きくする点に特に大きな特徴を有するものであり、特有の効果を奏するものと言える。
・・・(中略)・・・
<第3ページ第18行?第4ページ第17行>
甲第2号証の図1には、外縁が直線部と曲線部とが交互に連続した形状の四角型のアルミニウム成形品が示されており、このアルミニウム成形品におけるフランジ3の曲線部には、プレス成形の際に生じたシワである複数の筋が認められる。よって、請求人が審判請求書12頁5行?8行で述べるように、図1には、フランジ3の内、曲線部に対応し、折りシワが生じる曲線対応部分の幅を、直線部に対応する直線対応部分の幅より大きくした四角形のアルミニウム成形品が示されているとは言える。
しかしながら、構成要件Dは、請求項1の記載全体を踏まえると構成要件Aに示す「紙容器」を前提とした構成要件であると解するべきものである。したがって、上述のようなアルミニウム成形品が示されているだけの甲第2号証に構成要件Dに相当する内容が記載されているとは言えないと思料する。
尚、請求人は参考文献1、2及び3の記載をもって成形品の素材には「紙」が含まれると主張しているが、素材に何が含まれるかは各々の文献における考案の課題によって決まるものである。すなわち、参考文献1、2及び3では素材が紙でも成立する考案を対象としているにすぎない。一方、甲第2号証に示す成形品は「軟質アルミニウム合金箔」を素材とすることが明記されており、その課題からこの素材を対象とするものである(甲第2号証【0005】?【0009】)。したがって、甲第2号証で示す成形品とは種々の素材の中から「軟質アルミニウム合金箔」を選択した成形品を意味するのであって、それ以外の素材よりなる成形品は含まないと解するのが自然と思料する。
すなわち、参考文献1、2及び3の記載をもってしても、甲第2号証に「紙容器」が含まれるとは言えないから、構成要件Dに相当する内容が甲第2号証に記載されているとの請求人の主張は的外れなものであると言える。又、同様の理由により、構成要件Eに相当する内容が甲第2号証に記載されているとの請求人の主張も成り立たないと思料する。
尚、甲第2号証の成形品の形状における構成は構成要件Dに近いものの、甲第2号証の成形品の素材は塑性変形を起こす性質を有する軟質アルミニウム合金箔である。すると、甲第2号証の成形品においては紙容器のようにプレス前の状態に戻るのを阻止しようとする課題が生じる余地が無く、甲第2号証の軟質アルミニウム合金箔の成形品の形状における構成と紙容器における保形性の向上という課題とは結びつき難く、その動機づけとなり得る記載も見当たらない。
・・・(中略)・・・
<第4ページ下から3行?第5ページ第7行>
尚、甲第3号証に示されている成形品の各々は、「ホイルコンテナ」という写真右下の記載からも分かるようにアルミニウム箔よりなるものである。すると、イ.にて述べたように、構成要件D及びEの各々は「紙容器」を前提としたものであるから、甲第3号証に示されている成形品のどれをとっても、構成要件D及びEの各々に相当する内容を記載するものとは言えない。・・・(中略)・・・又、アルミニウム箔は上述のように塑性変形するものであるから、甲第3号証に示されている成形品はいずれも保形性の問題を生じさせ得ない。
・・・(中略)・・・
<第5ページ第13?15行>
本件特許の請求項3は第1発明に従属するものである。又、請求項4に係る発明は第1発明に従属する請求項3に更に従属するものである。よって、これらの請求項に係る発明も第1発明と同様にその進歩性が否定されるものではない。
・・・(後略)」

(2)口頭審理陳述要領書第2ページ第7行?第5ページ第14行
「・・・(前略)
<第3ページ第2?9行>
まず、図2に示す成形容器は甲1発明に相当すると考えられる。この成形容器は、図3に示す板紙原紙1をプレス成形したものよりなる。板紙原紙1は、図3及び【0004】の記載を参照して、周壁コーナー部25が、その外縁である湾曲部9と、その内縁に相当する底面部23との境界部分とが湾曲部中心位置15a、15bを中心とした同心円の円弧形状を有すると共に、周壁部19、21の外縁及び内縁の延長線上に位置しているものとなっている。すなわち、周壁コーナー部25は外縁から内縁までの幅が同一でかつ周壁部21の幅と等しく形成されていると言える。
・・・(中略)・・・
<第3ページ第22?25行>
これらの点と上述した「周壁コーナー部25は外縁から内縁までの幅が同一でかつ周壁部21の幅と等しくなるように形成されている」という点とを合わせて考えると、周壁コーナー部25における鍔部の幅は同一でかつ、周壁部21における鍔部の幅と等しいものであると考えられる。
・・・(中略)・・・
<第5ページ第5?14行>
従来例におけるシワ及び線条は、本件特許の明細書の【0016】の記載のように容器の外観の美観向上を目的とするものであり、成形時に発生するシワを吸収してすっきりとした外観の紙容器を形成するという作用効果を発揮するものである。これに対し、請求項3のシワ及び請求項4の線条は、容器の保形性の向上を目的とするものであって上述したような特有の作用効果を発揮するものである。すると、従来例のシワや線条は一見すると請求項3のシワや請求項4の線条と同様の構成のものではあるが、請求項3のシワや請求項4の線条とは目的を異にし、請求項3のシワや請求項4の線条を採用する動機付けになるものではないと言える。この点からも、請求項3及び請求項4には進歩性があると思料する。」

(3)口頭審理調書の「被請求人」欄5及び6
「5 保形性には自立性とプレス後の形体維持性がある。本件特許はプレ ス後の形体維持性に着目している。その根拠は、段落【0018】な いし【0020】、【0042】及び【0043】である。
6 プレス後において、紙は、アルミよりもプレス時の形体を維持しに くい。」

第5.当審の判断
1.本件発明
本件発明1、本件発明3及び本件発明4は、明細書及び図面の記載からみて、上記第2のとおりと認める。

2.甲各号証及び評価書の記載内容
請求人が提出した証拠である、甲第1号証ないし甲第3号証、並びに評価書1及び評価書2には、以下の発明または事項が記載されている。

(1)甲第1号証
(1-1)甲第1号証に記載された事項
ア.段落【0002】?【0004】
「【0002】
【従来の技術】
図2は従来の紙製縁巻成形された角型容器の斜視図である。図を参照して、成形角型容器は、底面部23と、底面部23の4辺から所定の角度で立脚する周壁部19および21と、周壁部19と周壁部21とが接続される周壁コーナー部25と、周壁部19および21ならびに周壁コーナー部25の上端部に水平方向に形成される鍔部26と、鍔部26の外縁に形成される縁巻27とから構成されている。
【0003】
図3は図2の成形容器を成形するための打ち抜き板紙原紙の外観形状を示す図である。
【0004】
図を参照して、板紙原紙1は、その四隅を丸めた四角形状のシート材よりなってる。破線の部分は成形容器の底面部23に対応した境界部分であり、その上下方向部分は周壁部21に対応しており、その外縁は外周直線部3となっている。底面部23の左右両側の部分は周壁部19に対応した部分となっており、その外縁は外周直線部5となっている。周壁コーナー部25に対応する部分に対して領域Aの範囲に、底面部23に位置する湾曲部中心位置15a,15bを中心とした放射状の線条17が設けられている。周壁コーナー部25の外縁は湾曲部中心位置15a,15bを中心とした円弧状の湾曲部9となっている。この図においてSで示された部分の領域が金型成形等によって絞り加工される部分である。なお、底面部23を規定する破線の部分のコーナー部は、湾曲部中心位置15a,15bを中心とした湾曲部9に対する同心円の円弧によって規定されている。」

イ.段落【0016】?【0019】
「【0016】
図5は、図4の成形装置による板紙原紙の成形工程を概略的に示した工程断面図である。
【0017】
図の(1)に示されている板紙原紙1は、第1の型部材121と、第2の型部材122とによって押圧されて、図の(2)に示されているように形成容器の周壁部19,21,25が形成され、その外縁は平坦部29となっている。
【0018】
次に第2の外枠部材123の下降によって、図の(3)に示されているように、平坦部29は、水平鍔部31と縁巻用脚立部33とに形成される。そして、溝部126a,126bによって縁巻用脚立部33は縁巻成形され、縁巻27が全周に形成される。
【0019】
このようにして、従来の紙製の縁巻成形された角型容器は1枚の板紙原紙から成形加工されていた。」

ウ.段落【0024】
「・・・(前略)言換えれば、周壁コーナー部25は、平面状の周壁部19,21より、圧縮される力が大きくなり、結果として、図8の(3)に示されるように折り皺35の形成とともに、紙面を慣通する方向により大きく伸びることになる。そしてその周壁コーナー部25は、最終的には図8の(4)に示されているような折り皺35が偏平状態にされた状態となって、縁巻加工が行なわれることになる。」

(1-2)甲第1号証記載の発明
まず、摘記事項イ.及びそこで引用されている図4及び図5を合理的に解釈すれば、甲第1号証に記載された「角型容器」は、一枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成された多角型の紙容器、ということができる。
また、摘記事項ウ.の「折り皺35」については、「周壁コーナー部25」に「形成」され、「最終的には」「偏平状態にされた状態となって、縁巻加工が行なわれる」ものであり、また、摘記事項ア.に「周壁コーナー部25の上端部に水平方向に形成される鍔部26と、鍔部26の外縁に形成される縁巻27」とあることからから、該「折り皺35」は、鍔部26の内、曲線部に対応して生じるもの、ということができる。
そこで、上記摘記事項ア.ないしウ.を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認める(以下「甲1発明」という。)。

「一枚の板紙原紙(1)からプレス成形のみによって形成された、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の多角型の紙容器であって、
底面部(23)と、
前記底面部(23)に接続する周壁部(19,21)及び周壁コーナー部(25)と、
前記周壁部(19,21)及び周壁コーナー部(25)に接続しかつ水平方向に延びる鍔部(26)と、
前記鍔部(26)の外周縁に形成された縁巻(27)とを備え、
前記鍔部(26)部の内、前記曲線部に対応し、折り皺(35)が生じる、
紙容器。」

なお、甲1発明の上記認定については、両当事者間で争いはない(口頭審理調書の「当事者双方 1」)。

(2)甲第2号証及び評価書1
(2-1)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】 厚さ50μm以下の軟質アルミニウム合金箔を一体成型加工してなる成型品であって、
前記成型品は、底部と、該底部の周端部に形成された周壁部とを備え、
前記底部を規定する面において、
前記成型品の中心点で互いに直交する第1の軸と第2の軸に対して、
前記底部の外縁が前記第1の軸と交差することによって規定される2点間の距離が170?600mmであり、
前記底部の外縁が前記第2の軸と交差することによって規定される2点間の距離が170?600mmであり、
前記周壁部の高さが20?40mmであり、
前記軟質アルミニウム合金は、アルミニウム以外の主要合金成分として、1.0?1.8%のFeと、0.2?0.75%のMnとを含むことを特徴とする、成型品。」

イ.段落【0002】
「【0002】
【従来の技術】従来、アルミニウム箔を一体成型することにより、たとえば、ガスレンジの汁受皿覆いやトッププレート覆い、またはオーブントースターの下敷用容器等の成型品が製造されていた。」

ウ.段落【0025】
「【0025】図1を参照して、この汁受皿覆いは、長方形形状の底部1と、該底部1の周端部に形成された周壁部2とを備えている。周壁部2の周端部にはさらにフランジ3が形成されており、底部1には、手前に2個、奥に1個のバーナー用孔4a,4b,4cが設けられている。また、フランジ3の端部およびバーナー用孔4a,4b,4cの端部には、安全のために縁巻5が形成されている。」

エ.段落【0047】
「【0047】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、適当な保型性と柔軟性を有する大型の成型品が得られる。そのため、たとえば汁受皿覆いの場合には、種々の異なる形状のガスコンロにフィットさせることが可能となる。」

オ.図1
図1には、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の四角型の成型品が示され、フランジ3のうち、曲線部には、4本の筋が描かれている。また、フランジ3の内、曲線部に対応し、4本の筋が生じている曲線対応部分の幅は、直線部に対応する直線対応部分の幅より大きいことが看て取れる。

(2-2)評価書1に記載された事項
評価書1は、甲第2号証の図1に関して請求人代理人野崎俊剛により作成されたものであるが、甲第2号証の図1における直線フランジ部100の幅:W1、及び4箇所の曲線フランジ部101,102,103及び104の幅:Wa,Wb,Wc及びWdを実測すると、ほぼ以下の比となる旨記載されている。
W1:Wa=1:1.3
W1:Wb=1:2.5
W1:Wc=1:1.3
W1:Wd=1:2.2

(2-3)甲2事項
まず、摘記事項(2-1)ウ.に「汁受皿覆いは、長方形形状の底部1と、該底部1の周端部に形成された周壁部2とを備えている。周壁部2の周端部にはさらにフランジ3が形成されており」とあることから、該「汁受皿覆い」は、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の四角型のものであって、フランジ3を備えるもの、ということができる。また、摘記事項(2-1)ア.及びイ.から、該「汁受皿覆い」は、アルミニウム成型品であるといえる。
さらに、図1及びそれに関する評価書1に記載された事項から、フランジ3の内、曲線部に対応する曲線対応部分の幅は、直線部に対応する直線対応部分の幅より大きいものと認められる。
そこで、上記摘記事項(2-1)ア.ないしエ.及び上記認定事項(2-1)オ.を、図面及び評価書1を参照しつつ技術常識を踏まえると、甲第2号証には以下の技術的事項が記載されていると認める。
「外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の四角型のアルミニウム成型品であって、フランジ3の内、曲線部に対応し、筋が生じる曲線対応部分の幅は、直線部に対応する直線対応部分の幅より大きいこと。」(以下「甲2事項」という。)

(3)甲第3号証及び評価書2
(3-1)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、多数のアルミニウム皿が写った写真の右下に「ホイルコンテナ」の文字が付され、写真中右から3番目、上から8番目の箇所に、フランジを有するアルミニウム皿が掲載されている。

(3-2)評価書2に記載された事項
評価書2は、甲第3号証の写真に掲載された写真中右から3番目、上から8番目の箇所のアルミニウム皿に関して請求人代理人野崎俊剛により作成されたものであるが、写真における当該アルミニウム皿のフランジ部のうち、直線状の部分の幅WAと曲線状部分の幅WBを実測すると、ほぼ以下の比となる旨記載されている。
WA:WB=1:2.3

(3-3)甲3事項
そこで、甲第3号証に記載された事項を評価書2を参照しつつ技術常識を踏まえると、甲第3号証には以下の技術的事項が記載されていると認める。
「多数のアルミニウム皿の写真のうちの一つのアルミニウム皿が、直線状の部分と曲線状の部分とが相互に連続した形状のアルミニウム皿であって、フランジの内、曲線状の部分の幅は、直線状の部分の幅より大きいこと。」(以下「甲3事項」という。)

3.本件発明1
(1)対比
上記2.(1)(1-2)で指摘したように、甲1発明は、
「一枚の板紙原紙(1)からプレス成形のみによって形成された、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の多角型の紙容器であって、
底面部(23)と、
前記底面部(23)に接続する周壁部(19,21)及び周壁コーナー部(25)と、
前記周壁部(19,21)及び周壁コーナー部(25)に接続しかつ水平方向に延びる鍔部(26)と、
前記鍔部(26)の外周縁に形成された縁巻(27)とを備え、
前記鍔部(26)部の内、前記曲線部に対応し、折り皺(35)が生じる、
紙容器。」というものであるところ、本件発明1と甲1発明とを対比すると以下のとおりである。

甲1発明の「板紙原紙(1)」は、本件発明1の「板紙原紙」に相当することは、技術常識に照らして明らかであり、以下同様に、「底面部(23)」は「底部」に、「周壁部(19,21)及び周壁コーナー部(25)」は「側壁部」に、「鍔部(26)」は「フランジ部」に、「縁巻(27)」は「縁巻部」に、「折り皺(35)」は「折りシワ」にそれぞれ相当することも明らかである。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「一枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成された、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の多角型の紙容器であって、
底部と、
前記底部に接続する側壁部と、
前記側壁部に接続しかつ水平方向に延びるフランジ部と、
前記フランジ部の外周縁に形成された縁巻部とを備え、
前記フランジ部の内、前記曲線部に対応し、折りシワが生じる、
紙容器。」
なお、上記一致点については、両当事者間で争いはない(口頭審理調書の「当事者双方 2」)。

そして、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1においては、「曲線部に対応し、折りシワが生じる曲線対応部分の幅は、」「直線部に対応する直線対応部分の幅より大きい」のに対し、甲1発明はその点が不明である点。

(2)相違点1についての判断
ア.「保形性」について
本件発明1は、「紙容器としての保形性を向上させる」(本件明細書【0043】)ためのものであるところ、その「保形性」について当事者間に見解の相違があるので、まず、その技術的意義について検討する。
「保形性」に関し、被請求人は「5 保形性には自立性とプレス後の形体維持性がある。本件特許はプレス後の形体維持性に着目している。」、「6 プレス後において、紙は、アルミよりもプレス時の形体を維持しにくい。」とし(上記第4.2.(5))、本件発明1や甲1発明のような紙容器のプレスにおいては、プレス後の形体維持性としての「保形性」が重要であり、甲2号証記載のようなアルミニウム成型品における「保形性」とは要求される「保形性」が異なる旨主張する。
一方、請求人は、「4 本件特許の「保形性」とは段落【0019】「長期間保持」、【 0043】「経時変化」、【0020】「時間が経過」の記載から見て自立性を意味する。」、「5 甲第2号証における保型性とは、段落【0006】の記載から見て自立性とプレス後の形体維持性の両者を意味する。」とし(上記第3.3.(5))、甲2号証記載のようなアルミニウム成型品においても、形体維持性としての「保形性」が要求され、紙容器のプレスと本質的に異なるものではない旨主張する。
このように「保形性」について両当事者間に争いがあるところ、これにつき検討するに、まず、紙は変形後の戻りを生じやすいが、アルミニウムは塑性変形を生じて戻り難い性質を有することは、技術常識からして明らかである。すなわち、繊維組織たる紙と金属材料たるアルミニウムの両素材においては、塑性変形のしやすさ、弾性率(ヤング率等)等に大きな差があり、これにより紙容器とアルミニウム成型品の間に求められる「保形性」に有意な差が生じるものと考えられる。
したがって、紙容器における「保形性」とアルミニウム成型品における「保形性」とには少なくも定量的に有意な差異が存在し、紙容器における「保形性」の技術的意義は、アルミニウム成型品の「保形性」におけるそれとは異なるものと認められる。
もっとも、「保形性」なる技術的概念を被請求人の主張するように「自立性」と「プレス後の形体維持性」とに区分できることは肯定し得るとしても、「自立性」と「プレス後の形体維持性」とは重畳して徴表することもあり必ずしも明確に峻別できるものではないから、被請求人の主張する「保形性」の性質の区分のみをもって(甲2事項のような)アルミニウム成型品における技術的事項を、(甲1発明のような)紙容器に適用し得ることを明確に阻害し得る程の差があるものとは必ずしもいえない。

イ.甲1発明への甲2事項または甲3事項の適用容易性について
(ア)甲2事項の甲1発明への適用容易性
上記2.(2)(2-3)で指摘したように、甲2事項は、「外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の四角型のアルミニウム成型品であって、フランジ3の内、曲線部に対応し、筋が生じる曲線対応部分の幅は、直線部に対応する直線対応部分の幅より大きいこと。」というものであるところ、これを本件発明1の用語に倣って表現すれば、甲2事項の「四角型」は本件発明1の「多角型」に相当し、同様に、「フランジ3」は「フランジ部」に相当する。
また、甲2事項の「アルミニウム成型品」と本件発明1の「紙容器」とは、物品、である限りにおいて共通する。さらに、甲2事項の「筋が生じる」と本件発明1の「折りシワが生じる」とは、筋が生じる、点で共通する。
したがって、甲2事項は、
「外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の多角型の物品であって、フランジ部の内、曲線部に対応し、筋が生じている曲線対応部分の幅は、直線部に対応する直線対応部分の幅より大きいこと。」と言い換えることができる。
そうすると、仮に甲2事項を甲1発明に適用することが想到容易といえるならば、フランジ部の内、曲線部に対応し、筋が生じている曲線対応部分の幅は、直線部に対応する直線対応部分の幅より大きい点を、甲1発明に適用して、相違点1に係る発明特定事項を本件発明1のものとすることも容易ということもなり得る。
しかしながら、当審は、以下の理由により、甲1発明に甲2事項を適用することは困難との見解である。
第1に、一般にアルミニウム成型品のような物品において、フランジ部の幅を場所によって変えることは、保形性の向上に限らず種々の目的が考えられるところ、甲2事項が「フランジ部の内、曲線部に対応し、筋が生じている曲線対応部分の幅は、直線部に対応する直線対応部分の幅より大きい」ものであるとしても、甲第2号証にそれに関する従来の課題、効果等が一切記載されていないのだから、上記「・・・幅より大きい」ことの技術的意義が不明である。そして、甲第2号証には、その用途として、ガスレンジの汁受皿覆いが例示されているところ、甲2事項の幅の大きいフランジは、吹きこぼれた液体を容器内に保持したまま交換するという機能を達成するために設けられたものと解する方が自然である。
よって、甲1発明において保形性を向上させるために、甲2事項を適用しようとする動機付けを見出すことはできない。

第2に、甲2事項はアルミ二ウム成型品であり、甲1発明は紙容器であるところ、上記ア.で指摘したように、素材の相違を考慮する必要がある。これに関し請求人は、成型品である容器において、素材にアルミニウム又は紙を適宜選択できることは、周知の事項であることをもって、素材の相違を考慮する必要がない旨主張する(上記第3.3.(1))。しかしながら、仮に、成型品である容器において、素材にアルミニウム又は紙を適宜選択できることは周知の事項としても、そのことはアルミニウムにおける技術的事項を紙容器に適用することが容易であることを必ずしも意味するものではない。そして、上記ア.で指摘した繊維組織たる紙と金属材料たるアルミニウムの両素材における、塑性変形のしやすさ、弾性率の違い等に鑑みれば、被請求人が主張するように(上記第4.2.(1))、甲2事項のようなアルミニウム成型品においては、甲1発明のような紙容器のように、成形前の状態に戻るのを阻止しようとする課題が生じにくく、求められる「保形性」の程度に大きな差があるものと認められる。

第3に、甲第2号証において、「曲線対応部分の幅は、」「直線対応部分の幅より大きい」ことは認定できるものの、そもそもかかる認定は、上記2(2)にて指摘したように、甲第2号証の図1のみから辛うじて認定できるものであって、一般に(甲第2号証のような)特許図面は必ずしも寸法の正確さを要求されないことに鑑みると、図1のみでは、当業者が甲2事項を適用することを試みる契機となりにくい。

(イ)甲3事項の甲1発明への適用容易性
次に、甲3事項の甲1発明への適用容易性につき検討する。まず、上記2.(3)(3-3)にて指摘したように、甲3事項は「多数のアルミニウム皿の写真のうちの一つのアルミニウム皿が、直線状の部分と曲線状の部分とが相互に連続した形状のアルミニウム皿であって、フランジの内、曲線状の部分の幅は、直線状の部分の幅より大きいこと。」というものであるところ、甲3事項は(紙ではなく)アルミニウム製の皿に係るものであり、また、フランジの内、曲線状の部分の幅は、直線状の部分の幅より大きくしたことは、写真から認定できる事項であるので、何らその技術的課題が記載されていない。したがって、甲3事項を甲1発明へ適用することは、甲2事項の甲1発明への適用と同様、想到容易とはいえない。
加えて、甲第3号証は種々のフランジ形状を備えた多数のアルミニウム皿類を撮影した写真であるところ、甲第3号証に接した当業者が、殊さら「写真中右から3番目、上から8番目の箇所」の一つのアルミニウム皿に着目するであろうことは、自然なことといえず、さらに、評価書2のようにこれを拡大してフランジ部の幅の大小を確かめることの動機付けはきわめて乏しい。
したがって、甲1発明に甲3事項を適用して、曲線部の幅を直線部の幅よりも大きくすることを、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

ウ.むすび
よって、甲2事項、甲3事項いずれも、甲1発明に適用することは想到容易とはいえず、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項を、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(3)小括
したがって、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1を無効とすることはできない。

4.本件発明3
(1)甲第1号証記載の発明
本件発明3は、本件発明1の紙容器において、さらに「前記曲線部に対応した、前記側壁部、前記フランジ部及び前記縁巻部の一部には、前記外縁に向かって放射状に延びる複数のシワが形成される」という限定を付すものである。
次に、甲第1号証に記載された事項を、特に図6及び上記摘記事項2.(1)(1-1)ア.の「周壁コーナー部25に対応する部分に対して領域Aの範囲に、底面部23に位置する湾曲部中心位置15a,15bを中心とした放射状の線条17が設けられている。」なる記載に着目しつつ、本件発明3に照らして整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明の2」という。)が記載されているものと認められる。
「一枚の板紙原紙(1)からプレス成形のみによって形成された、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の多角型の紙容器であって、
底面部(23)と、
前記底面部(23)に接続する周壁部(19,21)及び周壁コーナー部(25)と、
前記周壁部(19,21)及び周壁コーナー部(25)に接続しかつ水平方向に延びる鍔部(26)と、
前記鍔部(26)の外周縁に形成された縁巻(27)とを備え、
前記鍔部(26)部の内、前記曲線部に対応し、折り皺(35)が生じる、
紙容器であり、
曲線部に対応した、周壁コーナー部(25)、鍔部(26)及び縁巻(27)の一部には、外縁に向かって放射状に延びる複数の折り皺(35)が形成される紙容器。」

(2)対比
上記3.(1)の対応関係を踏まえ、また、甲1発明の2の「折り皺(35)」は本件発明3の「シワ」に相当するから、本件発明3と甲1発明の2とは、以下の点で、一致しているということができる。
<一致点>
「一枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成された、外縁が直線部と曲線部とが相互に連続した形状の多角型の紙容器であって、
底部と、
前記底部に接続する側壁部と、
前記側壁部に接続しかつ水平方向に延びるフランジ部と、
前記フランジ部の外周縁に形成された縁巻部とを備え、
前記フランジ部の内、前記曲線部に対応し、折りシワが生じる、
紙容器であり、
曲線部に対応した、側壁部、フランジ部及び縁巻部の一部には、外縁に向かって放射状に延びる複数のシワが形成される紙容器。」
そして、本件発明3と甲1発明の2との相違点は、上記3.(1)の相違点1のみである。

(3)相違点についての判断
相違点1については、上記3.(2)における検討と同様に、甲1発明の2に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
以下、同様な相違点については、判断が同様である旨の記載を省略する。
(4)小括
したがって、相違点1を想到容易とすることはできないから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明3を無効とすることはできない。

5.本件発明4
(1)対比
本件発明4は、本件発明3の「紙容器」における「シワ」について、さらに「板紙原紙に予め形成された放射状の複数の線条に基づいて形成される」という限定を付すものである。
そこで、本件発明3と甲1発明の2とを対比すると、上記4(2)の一致点、相違点1を有し、さらに、以下の点で相違する。
<相違点2>本件発明4における「シワ」は、「板紙原紙に予め形成された放射状の複数の線条に基づいて形成される」ものであるのに対し、甲1発明の2における「複数の折り皺(35)」は、そのような特定がされていない点。

(2)相違点についての判断
次に、甲第1号証に記載された事項を、特に上記摘記事項2.(1)(1-1)ア.の「板紙原紙1は、・・・放射状の線条17が設けられている。」なる記載に着目して整理すると、甲第1号証には、以下の事項(以下「甲1事項」という。)が記載されているものと認められる。
「複数の折り皺(35)が、板紙原紙1に予め形成された放射状の複数の線条に基づいて形成されること。」
そして、甲1発明の2にかかる甲1事項を適用して、相違点2に係る本件発明4の特定事項とすることも、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)小括
したがって、相違点2は想到容易であるものの、相違点1を想到容易とすることはできないから、結局、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明4を無効とすることはできない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、請求人主張の理由及び証拠方法によっては、本件請求項1、請求項3及び請求項4に係る特許を無効にすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-08-09 
出願番号 特願平8-202512
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A47G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 嘉章  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 藤井 眞吾
長屋 陽二郎
登録日 2003-03-20 
登録番号 特許第3411951号(P3411951)
発明の名称 紙容器  
代理人 葛西 さやか  
代理人 瀧澤 匡則  
代理人 葛西 泰二  
代理人 住吉 勝彦  
代理人 山崎 裕史  
代理人 野崎 俊剛  

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