• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
管理番号 1263747
審判番号 不服2009-9768  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-05-11 
確定日 2012-09-26 
事件の表示 特願2002-589598「潤滑剤としての、1-デセン及び1-ドデセンのコポリマー」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月21日国際公開、WO02/92729、平成16年10月21日国内公表、特表2004-532328〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2002年4月16日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年5月17日 米国(US)〕を国際出願日とする出願であって、平成17年4月18日付けで手続補正がなされ、
平成20年6月18日付けの拒絶理由通知に対し、平成20年11月25日付けで意見書の提出及び手続補正がなされ、
平成21年2月3日付けの拒絶査定に対し、平成21年5月11日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、
平成23年3月30日付けの審尋に対して、平成23年9月5日付けで回答書が提出され、
平成23年12月22日付けの当審による拒絶理由通知に対し、平成24年3月23日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。

2.審判合議体による拒絶の理由
平成23年12月22日付けの当審による拒絶理由通知書(以下、「先の拒絶理由通知書」という。)には、次の理由1?3の拒絶の理由が示されている。
『理由1:本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1?2号の規定に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
理由2:本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
理由3:本件出願の請求項1?32に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』

3.本願発明
本願の請求項1?27に記載された特許を受けようとする発明は、平成24年3月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?27に記載された事項により特定されるとおりのものであり、
その請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものであり、
「(a)50乃至80重量%の1-デセン及び50乃至20重量%の1-ドデセンから実質的になるα-オレフィン供給原料を、BF_(3)、並びに群(i)アルコール類及び群(ii)アルキルアセテート類から選ばれる少なくとも2つの異なる助触媒であり、少なくとも1つの助触媒は(i)の群から選ばれ、少なくとも1つの助触媒は(ii)の群から選ばれる、助触媒の存在下でオリゴマー化する工程並びに続いて
(b)残存する不飽和の少なくとも一部を水素化する工程
を含む、潤滑剤を製造する方法であって、
前記潤滑剤が、改変されたASTM D5800法により決定されたときに5乃至11重量%損失のNoack揮発減量、及び改変されたASTM D5950法により決定されたときに-45℃乃至-60℃の流動点を有し、改変されたASTM D5800法は、温度計の較正を年1回行うことを除いてASTM D5800法であり、改変されたASTM D5950法は、試験される潤滑剤が本方法を行う前に加熱されないことを除いてASTM D5950法であり、
(i)の群及び(ii)の群が、C_(1)-C_(10)アルコール類及びC_(1)-C_(10)アルキルアセテート類から選ばれる、前記潤滑剤を製造する方法。」
その請求項13に記載された特許を受けようとする発明は、次のとおりのものである。
「(a)50乃至80重量%の1-デセン及び50乃至20重量%の1-ドデセンから実質的に成るα-オレフィン供給原料を、BF_(3)、並びに群(i)アルコール類及び群(ii)アルキルアセテート類から選ばれる少なくとも2つの異なる助触媒であり、少なくとも1つの助触媒は(i)の群から選ばれ、少なくとも1つの助触媒は(ii)の群から選ばれる助触媒の存在下でオリゴマー化する工程並びに続いて
(b)残存する不飽和の少なくとも一部を水素化する工程
を含む、潤滑剤を製造する方法であって、
前記潤滑剤が、改変されたASTM D5800法により決定されたときに6乃至10重量%損失のNoack揮発減量、及び改変されたASTM D5950法により決定されたときに-50℃乃至-58℃の流動点を有し、改変されたASTM D5800法は、温度計の較正を年1回行うことを除いてASTM D5800法であり、改変されたASTM D5950法は、試験される潤滑剤が本方法を行う前に加熱されないことを除いてASTM D5950法であり、
(i)の群及び(ii)の群が、C_(1)-C_(10)アルコール類及びC_(1)-C_(10)アルキルアセテート類から選ばれる、前記潤滑剤を製造する方法。」

4.理由1?2について
(1)記載不備に関する指摘事項について
先の拒絶理由通知書に示した拒絶の理由においては、
その「1.(1)」の不備として、『(1)本願請求項1、14及び22に記載された「改変されたASTM D5800法は、温度計の較正を毎年行うことを除いてASTM D5800法であり」及び「改変されたASTM D5950法は、試験される潤滑剤が本方法を行う前に加熱されないことを除いてASTM D5950法である」という発明特定事項について、…実施例1?3の具体例においてもどのよう条件(温度や時間の条件など)で表1?3に示された「Noack揮発減量」を決定しているのか明らかにされていない。…実施例1?3の具体例においてもどのよう条件(予備的予熱の条件など)で表1?3に示された「流動点」を決定しているのか明らかにされていない。しかして、本願請求項1、14及び22に記載された「改変されたASTM D5800法」及び「改変されたASTM D5950法」は、普通一般の「ASTM D5800法」及び「ASTM D5950法」と異なる特殊なパラメータであることから、その具体的な定義ないし測定法が明確に開示されていない以上、本願請求項1、14及び22並びにその従属項に記載された特許を受けようとする発明の範囲を特定することができず、当業者といえども本願請求項1?32に記載された発明を実施できない。』という不備を、
その「1.(6)」の不備として、『(6)本願明細書の「実験の項」に示された具体例は、その「水素化」及び「蒸留」の具体的な条件が明らかにされておらず、…本願請求項1?32に係る発明は、「改変されたASTM D5800法」及び「改変されたASTM D5950法」という通常の製品規格とは異なる改変された特殊パラメータで特許を受けようとする発明を特定していることもあいまって、当業者といえども過度の試行錯誤をしなければ、本願請求項1?32に係る発明の実施をすることができない。』という不備を、
その「1.(2)」の不備として、『(2)…本願請求項14及び26に記載された「本質的」という発明特定事項は、特許を受けようとする発明の範囲を曖昧に記載するものである…よって、…本願請求項14及びその従属項である本願請求項15?21の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。』という不備を、それぞれ指摘した。

(2)本願発明の明確性要件について
先の拒絶理由通知書の「1.(1)」の不備に対して、審判請求人は、平成24年3月23日付けの意見書において、『これらの補正の内容から明らかなように、本願明細書における「改変されたASTM D5800法」は、ASTM D5800法を実質的に変更したものではなく、通常のASTM D5800法と比べて測定結果に実質的な影響を与えない程度の軽微な相違点を有することを明示的に示したものに過ぎません。そのため、その方法によって得られる測定値は、特殊なパラメータではなく、通常のASTM D5800法で得られたものと同等です。従って、当業者は本願明細書に従って特許請求の範囲に記載の発明を実施できると思料致します。』との釈明をしている。
しかして、当該「改変されたASTM D5800法」及び「改変されたASTM D5950法」は、通常の「ASTM D5800法」及び「ASTM D5950法」と何らかの『相違点を有する』ことが明示的に示されたものであるから、その方法によって得られる測定値は「特殊なパラメータ」であって、通常の方法で得られたものと完全に合致するものとは認められない。
そして、上記意見書においても、当該『改変された』方法の具体的な定義ないし測定法の詳細が明らかにされておらず、具体的にどのような条件(温度や時間の条件など)で本願発明の「Noack揮発減量」及び「流動点」を決定し得るのかも依然として不明なままである。
ひっきょう、本願発明の『改変されたASTM D5800法により決定された…Noack揮発減量』及び『改変されたASTM D5950法により決定された…流動点』については、その技術的な内容ないし範囲を明確に特定することができないので、本願の特許請求の範囲の記載は、依然として特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
したがって、本願発明について、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、先の拒絶理由通知書の「理由1」に示した拒絶の理由を解消し得ない。

(3)本願発明の実施可能要件について
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の「Noack揮発減量」及び「流動点」を決定するための具体的な方法の詳細が明らかにされておらず、その測定時の「温度」や「時間」などの条件も明らかにされていない。
また、得られる潤滑剤の「Noack揮発減量」及び「流動点」の性能値は、潤滑剤を製造する際の「水素化」や「蒸留」などの条件設定によっても大きく左右されるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「水素化」及び「蒸留」の具体的な条件も明らかにされていない。
そして、本願発明の『改変されたASTM D5800法により決定された…Noack揮発減量』及び『改変されたASTM D5950法により決定された…流動点』の技術的な内容は、本願明細書の発明の詳細な説明を参照しても不明確であるところ、技術的な内容が明確に定まらない発明を実施することは、当業者といえども一般的に不可能である。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。
したがって、本願発明について、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、先の拒絶理由通知書の「理由2」に示した拒絶の理由を解消し得ない。

(4)本願請求項13に記載された発明の明確性要件について
先の拒絶理由通知書の「1.(2)」の不備に対して、審判請求人は、平成24年3月23日付けの意見書において、『上述しましたように、…「本質的になる」との記載を「実質的になる」に補正し(「実質的」との文言は特許が付与された多数の特許出願の特許請求の範囲において用いられています)、…これらの拒絶理由は解消されたものと思料します。』と主張している。
ここで、補正後の請求項13の項番は、補正前の請求項14の項番に対応するところ、補正前の請求項14の「本質的」との記載部分を、補正後の請求項13において「実質的」との記載に改めたとしても、当該「実質的」という発明特定事項は、前記「本質的」という発明特定事項と同様に、特許を受けようとする発明を曖昧に特定するものであることに変わりはない。
そうすると、補正後の請求項13の記載によっては、本願請求項13に記載された発明の技術的な内容ないし範囲を明確に特定することができないので、本願の特許請求の範囲の記載は、依然として特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
したがって、本願請求項13に記載された発明について、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、先の拒絶理由通知書の「理由1」に示した拒絶の理由を解消し得ない。

5.理由3について
(1)引用刊行物及びその記載事項
ア.刊行物1
先の拒絶理由通知書において「刊行物1」として引用された「特開平6-199708号公報」という刊行物には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1
「炭素数10のオレフィンと、該オレフィンよりも短鎖のオレフィンおよび長鎖のオレフィンとを含む炭素数8?12のオレフィン混合物を、三フッ化ホウ素および三フッ化ホウ素と助触媒との錯体とを含む触媒の存在下に重合させることを特徴とするオレフィンオリゴマーの製造方法。」

摘記1b:段落0002
「粘度指数および流動点は潤滑油の性能を示す重要な規格である。比較的短鎖のα-オレフィンから得られたオレフィンオリゴマーは粘度指数が低く、一方比較的長鎖のα-オレフィンから得られたオリゴマーは流動点が高いという欠点を有しているため、粘度指数、流動点共に優れた潤滑油を製造するためには1-デセンを原料として使用する必要があった。ところで、1-デセンはα-オレフィン製造装置により製造されるα-オレフィンの一留分にすぎず、他の多くの留分が同時生産されるため、1-デセンの生産量には限界がある。そこで、必要に応じて他の留分を原料として併用できる柔軟性のあるオレフィンオリゴマーの製造方法が求められていた。しかし、1-デセンへ短鎖のα-オレフィンを加えると、得られるオリゴマーの粘度指数が低下してしまい、長鎖のα-オレフィンを加えると、得られるオリゴマーの流動点が上昇してしまうため、併用できる他のα-オレフィンは少量であり、原料選択に柔軟性のあるオレフィンオリゴマーの製造方法ではなかった。」

摘記1c:段落0008
「上記オレフィン混合物の重合において用いられる触媒は、三フッ化ホウ素および三フッ化ホウ素と助触媒との錯体を含む。ここに上記助触媒とは、三フッ化ホウ素と錯化し重合活性のある錯体を形成する任意の化合物およびその混合物であり、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール、n-ブタノール、デカノール等)、カルボン酸類(酢酸、プロピオン酸、酪酸等)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等)、酸無水物類(無水酢酸等)、エステル類(酢酸エチル、プロピオン酸メチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アルデヒド類(アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等)等が挙げられる。」

摘記1d:段落0012
「このようにして生成したオレフィンオリゴマーは通常、未反応オレフィンおよび炭素数30未満の低分子量オリゴマーを留去した後、熱的安定性を向上させる目的で水素添加処理が行なわれる。」

摘記1e:段落0014?0015
「実施例1
撹拌機、温度計、ガス導入管およびガス排気管を備えた重合用フラスコを乾燥窒素ガスにて置換後、1-デセン60ml(59mole%)、1-オクテン20ml(24mole%)および1-ドデセン20ml(17mole%)を入れ、20℃まで冷却した。三フッ化ホウ素を吹き込み飽和させた後、三フッ化ホウ素・ブタノール錯体をオレフィン100ml当たり1.1ml添加して撹拌を始め、重合を開始した。20℃に保つように冷却しながら2時間重合した。重合終了後5%アンモニア水100mlを加えて触媒を失活させた後、水洗、乾燥し、未反応オレフィンおよび炭素数30未満の低分子量オリゴマーを留去して目的とするオレフィンオリゴマーを得た。このときのオレフィン転化率、オリゴマー収率およびオリゴマー性状を表1に示す。…
実施例2?3,参考例,比較例1?2
原料オレフィン組成および重合条件を変化させた以外は実施例1と同様の操作を行った。このときの原料オレフィン組成、重合条件、オレフィン転化率、オリゴマー収率およびオリゴマー性状を表1に示す。」

摘記1f:段落0016の表1




イ.刊行物2
先の拒絶理由通知書において「刊行物2」として引用された「特開平4-128242号公報」という刊行物には、次の記載がある。

摘記2a:請求項1
「三フッ化ホウ素を触媒として、オレフィンを重合するに際して、助触媒として、水および/またはアルコールと、カルボン酸無水物とを用いることを特徴とするオレフィンオリゴマーの製造方法。」

摘記2b:第2頁左上欄第5行?左下欄第1行
「これらの方法によれば、比較的低粘度のオレフィンオリゴマーが得られるという利点を有するが、100℃における粘度が4センチストークス(以下cStと略称する)程度の低粘度オレフィンオリゴマーを得ようとする場合、アルコール又は水を助触媒とする方法ではオレフィンオリゴマーの収率がきわめて低いという欠点があった。…
また、低粘度オレフィンオリゴマーを製造するために、触媒として三フッ化ホウ素を用い、助触媒として脂肪族アルコールおよびエチレングリコールなどのポリオールを用い、場合によりさらに脂肪族ケトンを用いるという方法(米国特許第4409415号公報、米国特許第4436947号公報)や、触媒として三フッ化ホウ素を用い、助触媒として水またはアルコールを用い、触媒変性剤としてエステルを添加する方法(米国特許第3997621号公報)も試みられている。前者は重合生成物を蒸留分離して100℃における粘度4cStおよび6cStのオリゴマーを併産する場合において4cStのオリゴマーの得率を向上させることを目的としており、粘度4cStのオリゴマーを直接製造するものではない。後者の方法において触媒変性剤として使用しているエステルは助触媒として使用されており(米国特許第3382291号公報)、後者も助触媒として水またはアルコールとエステルを使用していることになり、実質的には助触媒を多成分使用していることと同等である。この方法により4cStのオリゴマーを比較的高収率で直接製造することは可能であるが、多量の触媒変性剤を必要とし、重合速度が遅いため製造に長時間必要であるなどの不都合があり、効率のよい方法ではなかった。」

摘記2c:第4頁左上欄第11?14行
「このようにして得られた重合生成物はさらに水素添加処理を行って最終生成物とするのが普通である。通常、重合生成物から未反応モノマーと二量体を分離し、ついで水素添加処理を行う。」

摘記2d:第5?6頁の表-1(その1)?(その2)
「 比較例2 … 比較例7 …
オレフィン … 1-デセン … 1-デセン …
(ml) (100) (100)
助触媒…
水…またはアルコール … n-ブタノール … n-ブタノール …
(mol)^((1)) (0.38)^((4)) (1.68)^((4))
その他 … - … 酢酸n-ブチル …
(mol)^((1)) (1.68)
温度(℃) … 60 … 20 …
時間(hr) … 2 … 8 …
オレフィン転化率(%) … 49.2 … 99.4 …
オリゴマー組成^((2)) (%)
C_(20) … 43.8 … 14.2 …
C_(30) … 43.9 … 70.4 …
C_(40)^(+) … 12.3 … 15.4 …
オリゴマー収率^((3)) (%)… 49.2 … 85.3 …
100℃粘度(cSt)… 4.09 … 3.83 …
粘度指数 … 125 … 125 …
注(1):オレフィン100molに対する助触媒の量(mol)を示す。
(2):水洗、乾燥した直後の重合生成物についての分析結果を示す。
(3):三量体以上の収率を示す。
(4):BF_(3)錯体として添加した。」

ウ.刊行物3
先の拒絶理由通知書において「刊行物3」として引用された「特開2000-109876号公報」という刊行物には、次の記載がある。

摘記3a:段落0013?0015
「本発明の緩衝器用油圧作動油組成物において、基油として用いるポリα-オレフィン(c)は、α-オレフィンオリゴマーとも称される合成潤滑油であって、次の一般式〔I〕…

…(式中、Rは炭素数4?12のアルキル基を示し、mは0?30を示す。)で表わされるものである。ここでポリα-オレフィンとしては100℃における動粘度が1.5?45mm^(2)/s、好ましくは1.7?40mm^(2)/sのものが用いられる。ここで、動粘度が1.5mm^(2)/s未満のものは、蒸発量が多いという不都合があり、一方45mm^(2)/sを超えるものでは、低温粘度特性が悪くなるので好ましくない。具体的には1-オクテン,1-デセン,1-ドデセンの2?10量体,好ましくは1-デセンの2?4量体の如き低重合度のポリα-オレフィンを用いることが粘度指数、流動点の点から望ましい。」

摘記3b:段落0021及び0023
「(2)蒸発性 DIN51581に準拠して、温度120℃、3時間の測定条件により、NOACK蒸発量を測定し、蒸発性を評価した。…
表1…
実施例6 実施例7

ポリαオレフィン(c)重量% … 80 80 …
動粘度1.7…@100℃ …
エステル化合物(d)重量% …
動粘度2.4…@100℃ … 20 - …
動粘度4.3…@100℃ … - 20

動粘度…@100℃ … 3.4 3.5 …
粘度指数 … 222 214

NOACK蒸発量(重量%) … 2.2 1.9 」

エ.周知例A
先の拒絶理由通知書において周知例として提示された「特開2000-53595号公報」という刊行物(以下、「周知例A」という。)には、次の記載がある。

摘記A1:段落0002
「ポリα-オレフィン(PAOs)は、合成潤滑剤として有用であることが知られている。PAOベース物質(基剤)は、一般的には、α-オレフィンを重合した後、水素化(hydrogenation)して、残存する不飽和結合をなくすることによって製造されている。α-オレフィンの重合は、促進剤(promoter)、例えば水、アルコール、エステルまたは酸と組み合わせて、ルイス酸触媒、例えば、三フッ化ホウ素または塩化アルミニウムなどを存在させて、通常は行われている。例えば、米国特許第3,742,082号(Brennan)を参照のこと。」

摘記A2:段落0044、0046及び0059
「潤滑剤ベースとして使用するには分子量が小さすぎて、揮発性が高すぎる。…
PAOフルードは、モービル・ケミカル社からSHF61として入手できる。…
【表5】…
PAO …
粘度(100℃,cS) … 5.6 …
粘度指数(VI) … 135 …
流動点(℃) … -62 …
Noack揮発性(重量%) … 8.0 」

(2)刊行物1に記載された発明
摘記1aの「三フッ化ホウ素と助触媒との錯体とを含む触媒の存在下に重合させる…オレフィンオリゴマーの製造方法。」との記載、摘記1cの「上記オレフィン混合物の重合において用いられる触媒は、…三フッ化ホウ素と助触媒との錯体を含む。ここに上記助触媒とは、三フッ化ホウ素と錯化し重合活性のある錯体を形成する任意の化合物およびその混合物であり、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール、n-ブタノール、デカノール等)、…エステル類(酢酸エチル、プロピオン酸メチル等)…等が挙げられる。」との記載、摘記1eの「1-デセン60ml(59mole%)、1-オクテン20ml(24mole%)および1-ドデセン20ml(17mole%)を入れ、…三フッ化ホウ素・ブタノール錯体をオレフィン100ml当たり1.1ml添加して撹拌を始め、…重合終了後…未反応オレフィンおよび炭素数30未満の低分子量オリゴマーを留去して目的とするオレフィンオリゴマーを得た。…原料オレフィン組成…およびオリゴマー性状を表1に示す。」との記載、及び摘記1fの「実施例3」についての記載からみて、刊行物1には、
『1-デセン60モル%、1-オクテン20モル%および1-ドデセン20モル%からなる原料オレフィン組成に、三フッ化ホウ素・ブタノール錯体を添加するオレフィンオリゴマーの製造方法であって、流動点が-50℃のオレフィン性状を有するオレフィンオリゴマーの製造方法。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願特許請求の範囲の記載は、上記4.(2)及び(4)に指摘したように著しく不明確であるため、その対比・判断を厳密にはなし得ないものではあるが、本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「1-デセン60モル%、1-オクテン20モル%および1-ドデセン20モル%からなる原料オレフィン組成」は、各々の「α-オレフィン」の分子量が、140、112、及び168になることから、これを重量%に換算すると、1-ドデセンの場合に(20×168)÷(60×140+20×112+20×168)=24.0重量%、1-デセンの場合に60.0重量%、1-オクテンの場合に残部の16.0重量%と計算されることから、本願発明の「50乃至80重量%の1-デセン及び50乃至20重量%の1-ドデセンから実質的になるα-オレフィン供給原料」と一致する組成を有し、
引用発明の「三フッ化ホウ素・ブタノール錯体を添加する」は、摘記1aの「三フッ化ホウ素と助触媒との錯体とを含む触媒の存在下に重合させる…オレフィンオリゴマーの製造方法」との記載、及び摘記1cの「助触媒とは…アルコール類(…n-ブタノール…)」との記載からみて、その「ブタノール」が「助触媒」としての「アルコール類」であり、その「三フッ化ホウ素」が「BF_(3)」の化学式で表されることも明らかであることから、本願発明の「BF_(3)、並びに群(i)アルコール類…から選ばれる…助触媒の存在下でオリゴマー化する工程」に相当し、
引用発明の「ブタノール」は、炭素数4のアルコール類であることから、本願発明の「(i)の群…が、C_(1)-C_(10)アルコール類…から選ばれる」に相当し、
引用発明の「オレフィンオリゴマー」は、摘記1bの「粘度指数、流動点共に優れた潤滑油を製造する」との記載からみて「潤滑油」の基油として用いられるものであることも明らかであるから、本願発明の「潤滑剤」に相当し、
引用発明の「流動点が-50℃」は、本願発明の「-45℃乃至-60℃の流動点」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明は、『(a)50乃至80重量%の1-デセン及び50乃至20重量%の1-ドデセンを有するα-オレフィン供給原料を、BF_(3)、並びに群(i)アルコール類から選ばれる助触媒の存在下でオリゴマー化する工程を含む、潤滑剤を製造する方法であって、前記潤滑剤が、-45℃乃至-60℃の流動点を有し、(i)の群が、C_(1)-C_(10)アルコール類から選ばれる、前記潤滑剤を製造する方法。』に関するものである点において一致し、
(α)助触媒が、本願発明においては、「群(i)アルコール類及び群(ii)アルキルアセテート類から選ばれる少なくとも2つの異なる助触媒であり、少なくとも1つの助触媒は(i)の群から選ばれ、少なくとも1つの助触媒は(ii)の群から選ばれる」ものであって、なおかつ、「(i)の群及び(ii)の群が、C_(1)-C_(10)アルコール類及びC_(1)-C_(10)アルキルアセテート類から選ばれる」あるのに対して、引用発明においては、「ブタノール」という『C_(4)アルコール類』のみである点、
(β)オリゴマー化する工程に続いて、本願発明は「(b)残存する不飽和の少なくとも一部を水素化する工程」を含むのに対して、引用発明においては含まない点、
(γ)Noack揮発減量が、本願発明においては「改変されたASTM D5800法により決定されたときに5乃至11重量%損失のNoack揮発減量」であるのに対して、引用発明においては「温度計の較正を年1回行うことを除いてASTM D5800法」である「改変されたASTM D5800法」により決定された「Noack揮発減量」を特定するものではない点、
(δ)流動点が、本願発明においては「試験される潤滑剤が本方法を行う前に加熱されないことを除いてASTM D5950法」である「改変されたASTM D5950法」により決定された「流動点」であるのに対して、引用発明においては一般的な方法で決定された「流動点」である点、
(ε)α-オレフィン供給原料の組成が、本願発明においては「50乃至80重量%の1-デセン及び50乃至20重量%の1-ドデセンから実質的になるα-オレフィン供給原料」であるのに対して、引用発明においては、重量%に換算して『60重量%の1-デセン及び24重量%の1-ドデセン並びに残部の1-オクテンからなるα-オレフィン供給原料』である点、
の5つの点において一応相違する。

(4)判断
まず、上記(α)?(ε)の相違点について検討する。

上記(α)の相違点について、刊行物1には、摘記1cの「上記オレフィン混合物の重合において用いられる触媒は、…三フッ化ホウ素と助触媒との錯体を含む。ここに上記助触媒とは、三フッ化ホウ素と錯化し重合活性のある錯体を形成する任意の化合物およびその混合物であり、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール、n-ブタノール、デカノール等)、…エステル類(酢酸エチル、プロピオン酸メチル等)…等が挙げられる。」との記載にあるように、助触媒としてエタノールのような『C_(2)アルコール類』とエチルアセテート(酢酸エチル)のような『C_(2)アルキルアセテート類』の化合物の混合物を使用する場合が明示されている。
してみると、本願発明の「群(i)アルコール類及び群(ii)アルキルアセテート類から選ばれる少なくとも2つの異なる助触媒であり、少なくとも1つの助触媒は(i)の群から選ばれ、少なくとも1つの助触媒は(ii)の群から選ばれる、助触媒」であって、「(i)の群及び(ii)の群が、C_(1)-C_(10)アルコール類及びC_(1)-C_(10)アルキルアセテート類から選ばれる」ものについては、刊行物1に『助触媒がエタノール及びエチルアセテート』の混合物である場合も記載されていることから、本願発明と刊行物1に記載された発明との対比において実質的な差異を構成し得ない。

また、刊行物2には、刊行物公知の従来技術についてのメリットとデメリットの知見として、アルコールのみを助触媒とする方法(比較例2)では「オレフィンオリゴマーの収率がきわめて低いという欠点」があり、アルコールとエステルを助触媒とする方法(比較例7)では「4cStのオリゴマーを比較的高収率で直接製造すること」が可能であることが「比較実験データ」とともに記載されており(摘記2b及び2d)、
特にその「比較実験データ」においては、アルコール(n-ブタノール)のみを助触媒とする「比較例2」の場合に、そのオリゴマー組成が二量体43.8%、三量体43.9%及び四量体以上12.3%、オリゴマー収率49.2%、100℃における動粘度が4.09cStとなるのに対して、アルコール(n-ブタノール)とエステル(酢酸n-ブチル)を助触媒とする「比較例7」の場合に、そのオリゴマー組成が二量体14.2%、三量体70.4%及び四量体15.4%、オリゴマー収率85.3%、100℃における動粘度が3.83となることが示されている。
すなわち、助触媒がアルコール類のみの場合に比べて、n-ブタノールのような『C_(4)アルコール類』と酢酸n-ブチル(n-ブチルアセテート)のような『C_(4)アルキルアセテート類』とを組み合わせて使用した場合の方が、「動粘度が低く」且つ「三量体以上の収率」が高くなるというメリットが得られることは、刊行物2に記載されているように周知ないし公知である。
してみると、仮に本願発明と引用発明との対比において実質的な差異が存在するとしても、本願発明の「群(i)アルコール類及び群(ii)アルキルアセテート類から選ばれる少なくとも2つの異なる助触媒であり、少なくとも1つの助触媒は(i)の群から選ばれ、少なくとも1つの助触媒は(ii)の群から選ばれる、助触媒」であって、「(i)の群及び(ii)の群が、C_(1)-C_(10)アルコール類及びC_(1)-C_(10)アルキルアセテート類から選ばれる」ものについては、刊行物1(摘記1cの『助触媒がエタノール及びエチルアセテート』の混合物である旨の記載を参照。)、及び刊行物2(摘記2dの比較例7の『助触媒がn-ブタノール及びn-ブチルアセテート』の併用である旨の記載を参照。)に記載されるように周知ないし公知であるから、引用発明の「ブタノール」という「助触媒」の種類を当該周知ないし公知のものに置換することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内のことと認められる。

上記(β)の相違点について、刊行物1には、摘記1dの「このようにして生成したオレフィンオリゴマーは通常、未反応オレフィンおよび炭素数30未満の低分子量オリゴマーを留去した後、熱的安定性を向上させる目的で水素添加処理が行なわれる。」との記載にあるように、オリゴマー化する工程に続いて、さらに『水素化する工程』を行う場合が明示されており、刊行物1の「水素添加処理」によって、留去しきれなかった「未反応オレフィン」の不飽和が水素化されることも自明である。
してみると、本願発明の「(b)残存する不飽和の少なくとも一部を水素化する工程」については、これに相当する工程が刊行物1に明示されていることから、本願発明と刊行物1に記載された発明との対比において実質的な差異を構成し得ない。

また、刊行物2の「得られた重合生成物はさらに水素添加処理を行って最終生成物とするのが普通である。」との記載(摘記2c)、周知例Aの「PAOベース物質(基剤)は、一般的には、α-オレフィンを重合した後、水素化(…)して、残存する不飽和結合をなくすることによって製造されている。」との記載(摘記A1)、並びに平成24年3月23日付けの意見書の『水素化及び蒸留は公知の操作であり、90%以上が水素化されるようにそれらの条件等を適切に設定することは当業者であれば実施可能であると考えています。』との主張をも参酌するに、本願発明の「(b)残存する不飽和の少なくとも一部を水素化する工程」については、当業者にとって周知慣用の常套手段であると認められる。
してみると、仮に本願発明と引用発明との対比において実質的な差異が存在するとしても、引用発明の製造方法に当該周知慣用の常套手段の工程を追加することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内のことと認められる。

上記(γ)の相違点について、刊行物3には、ポリ-α-オレフィン系の合成潤滑油の基油は、その動粘度が1.5cSt未満のものは「蒸発量が多いという不都合」があり、一方45cStを超えるものでは「低温粘度特性が悪くなる」ことが記載されているところ(摘記3a)、本願優先権主張日前の技術水準からみて、PAO系の基油の蒸発量(Noack揮発減量)を少なくすると同時に、低温粘度特性(流動点)を良くすることは、動粘度の数値範囲に比例して二律背反する「課題」として普通に認識されていたものと認められる。また、一般に動粘度が高く、分子量が大きく、沸点の高い基油は、蒸発による減量が少なくなるというメリットを有することも、当業者の技術常識であるものと認められる。
ここで、刊行物1の「実施例3」の「オレフィンオリゴマー」の性状は、動粘度@100℃が4.969cStであり、粘度指数が138であり、流動点が-50℃であるのに対して、本願明細書の表2の「実施例番号2」のPAOの性状は、動粘度@100℃が5.00cStであり、粘度指数が139であり、流動点が-54℃であり、Noack揮発減量が7.5重量%である。
してみると、両者のPAO(ポリ-α-オレフィン)の性状は酷似しているので、引用発明の「改変されたASTM D5800法により決定されたNoack揮発減量」は、本願明細書の表2の「実施例番号2」のPAOと同等の「7.5重量%」であると推定され、この点について両者に実質的な差異は認められない。

また、一般的に「Noack揮発減量」を少なくするためには、動粘度を高くする高分子量成分の割合を高め、蒸発しやすい低分子量成分の割合を低めることが有効であることについては、当業者にとって通常の知識の範囲内にあるものと認められ、このような手段として、摘記1bの『長鎖のα-オレフィンを加えると、得られるオリゴマーの流動点が上昇』するという手段、摘記1dの『未反応オレフィンおよび炭素数30未満の低分子量オリゴマーを留去』するという手段、摘記2bの『重合生成物を蒸留分離して100℃における粘度4cStおよび6cStのオリゴマーを併産』して、そのうちの6cStの動粘度の高い留分を用いるという手段、及び摘記2dの「比較例7」のように助触媒としてアルコールとエステルを使用して「三量体以上の収率」を高めるという手段があることについても、当業者にとって通常の知識の範囲内にあるものと認められる。
そして、刊行物3には、本願発明と異なる測定条件(DIN5154に準拠して、温度120℃、3時間の測定条件)で、なおかつ、オレフィンオリゴマーのみの組成ではない混合物(動粘度@100℃が1.7cStのポリαオレフィン80重量%と動粘度2.4cStのエステル化合物20重量%からなる潤滑油)についてではあるが、当該混合物のNOACK蒸発量が2.2重量%であるものが「実施例6」として具体的に記載されており(摘記3b)、例えば、周知例Aには、典型的なPAOフルードの流動点が-62℃で、Noack揮発性が8.0重量%であることが記載されているところ(摘記A2)、本願発明の「5乃至11重量%損失のNoack揮発減量」という数値範囲は、本願優先権主張日前の技術水準からみて、達成が困難なレベルのものとは認められない。
そうしてみると、本願発明の「-45℃乃至-60℃の流動点」という数値範囲の条件を満たしながら、本願発明の「5乃至11重量%損失のNoack揮発減量」という数値範囲(ないしそれよりも更に良好な数値範囲)にPAO系の潤滑油の性能を設定することは、本願優先権主張日前の技術水準からみて、当業者にとって適宜設定可能なことと認められる。
よって、引用発明の「改変されたASTM D5800法により決定されたNoack揮発減量」が、仮に本願発明の数値範囲の範囲外にあるとしても、その数値範囲を本願発明の「5乃至11重量%損失のNoack揮発減量」にしてみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内のことと認められる。

上記(δ)の相違点について、流動点が、本願発明のような「試験される潤滑剤が本方法を行う前に加熱されないことを除いてASTM D5950法」である「改変されたASTM D5950法」により決定されるか、又は、引用発明のように一般的な方法で決定されたかによって、実質的な差異が構成され得るとは認められない。

上記(ε)の相違点について、補正前の請求項1の「を含有する」との記載部分を、補正後の請求項1において「から実質的になる」との記載に改めたことによって、補正後の請求項1の記載は、先の拒絶理由通知書の「1.(2)」に指摘した不備と同様の不備を具備するところとなり、その対比・判断を厳密にはなし得ないものとなっている。
しかして、第一に、引用発明の『α-オレフィン供給原料』の組成に『残部の1-オクテン』が含まれることは、引用発明の「1-デセン」及び「1-ドデセン」の含有量が、本願発明の「50乃至80重量%」及び「50乃至20重量%」という数値範囲を満たした上で、これら2成分よりも少量の残部として「1-オクテン」を含んでいるにすぎないものであるから、このような少量の「1-オクテン」の存在については、本願発明の「から実質的になる」という曖昧な発明特定事項の範囲内に実質的に包含されると解するのが相当であって、曖昧な発明特定事項を含む本願発明と引用発明との対比において実質的な差異を構成するとは認められず、
第二に、平成24年3月23日付けの意見書の『1種類のα-オレフィンのみを原料とすることは材料調達の点において不利であり、1-デセン及び1-ドデセンから後述するように優れた潤滑剤を得る本願発明は、材料調達の点においても技術上の意義があるものと考えます。』との主張からみて、本願発明は、材料調達の点において複数種のα-オレフィンを供給原料として用いることに優位性があるとの技術思想に立脚したものであると解されるから、引用発明に少量の「1-オクテン」が含まれているという点については、材料調達の点における優位性を意図した本願発明と引用発明との対比において実質的な差異を構成するとは認められない。

また、摘記A2の「分子量が小さすぎて、揮発性が高すぎる。」との記載にあるように、Noack揮発減量の値が大きくならないようにするためには、分子量の小さい「1-オクテン」などの使用量を減らして、分子量の大きい「1-デセン」や「1-ドデセン」の使用量を増やせばよいことは、当業者にとって通常の知識の範囲内のことと認められる。
してみると、仮に本願発明と引用発明との対比において実質的な差異が存在するとしても、引用発明の「原料オレフィン組成」の最適化、より具体的には、引用発明の「1-オクテン」の使用量を相対的に減らして潤滑油の揮発減量が少なくなるように設計変更してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内のことと認められる。

次に、本願発明の効果について検討する。

平成24年3月23日付けの意見書の『1種類のα-オレフィンのみを原料とすることは材料調達の点において不利であり、1-デセン及び1-ドデセンから後述するように優れた潤滑剤を得る本願発明は、材料調達の点においても技術上の意義があるものと考えます。』との主張について、刊行物1に記載された発明は、実質的に2種類のα-オレフィンのみを原料としている本願発明よりも、多種類のα-オレフィンを供給原料としているものであるから、本願発明よりも材料調達の点において優れた効果を発揮し得ているものである。
また、同意見書の『単に本出願の優先日の時点でNoack揮発減量と流動点との優れたバランスが実現されていることをもって本願発明の進歩性が否定されるべきではないと思料致します。』との主張について、刊行物1?3には、本願発明の「改変されたASTM D5800法」及び「改変されたASTM D5950法」という通常とは異なる方法により決定された「Noack揮発減量」及び「流動点」を実際に測定し、その性能値を具体的に示した記載がないものの、刊行物1に記載された実施例1?3及び参考例などの具体例(摘記1f)、刊行物2に記載された比較例2及び7などの具体例(摘記2d)、並びに周知例Aに記載されたPAOなどの具体例(摘記A2)について、本願発明の『改変された方法』により「Noack揮発減量」及び「流動点」を実際に測定した場合においては、本願優先権主張日前の技術水準において本願発明よりも優れた性能値のバランスが普通に実現され得ていることをも斟酌するに、本願発明と同等かそれ以上の性能を発揮し得ているものと推認される。
してみると、本願発明に当業者にとって格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。

したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明及び本願優先権主張日前の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上総括するに、本願は特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないものであり、また、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-25 
結審通知日 2012-05-01 
審決日 2012-05-14 
出願番号 特願2002-589598(P2002-589598)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C10M)
P 1 8・ 121- WZ (C10M)
P 1 8・ 536- WZ (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 東 裕子
木村 敏康
発明の名称 潤滑剤としての、1-デセン及び1-ドデセンのコポリマー  
代理人 山崎 行造  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ