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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1263753
審判番号 不服2011-7393  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-07 
確定日 2012-09-26 
事件の表示 特願2006-240285「有機電界発光表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月27日出願公開、特開2007-250519〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年(2006年)9月5日(パリ条約による優先権主張 2006年3月14日 大韓民国)を出願日とする特願2006-240285号であって、平成21年10月13日付けで拒絶理由が通知され、平成22年2月19日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされ、同年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年4月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成23年4月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成23年4月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成22年2月19日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「画素領域と非画素領域とに画定され、前記画素領域に有機電界発光素子が少なくとも1つ形成された基板と、
前記基板の非画素領域に形成され、前記有機電界発光素子に信号を印加する駆動ドライバICと、
前記画素領域周辺部に沿い、前記非画素領域の一部に形成される封止材と、
前記封止材によって画素領域全体を密封封止し、かつ前記基板に対し所定間隔を保つように、前記封止材によって接着される導電性を有するメタルキャップと、
前記駆動ドライバICと前記メタルキャップとを接続するために前記基板上に形成されるグランド配線と、
前記メタルキャップと前記グランド配線との間に導電性物質によって形成された導電性ペーストと、
前記メタルキャップの前記密封封止がされた面と反対の面に配置された印刷回路基板と、を含み、
前記駆動ドライバICは、入力端子と出力端子を有し、前記入力端子及び前記出力端子が形成された辺の両端の辺にそれぞれ接地部を形成することを特徴とする有機電界発光表示装置。」が

「画素領域と非画素領域とに画定され、前記画素領域に有機電界発光素子が少なくとも1つ形成された基板と、
前記基板の非画素領域に形成され、前記有機電界発光素子に信号を印加する駆動ドライバICと、
前記画素領域周辺部に沿い、前記非画素領域の一部に形成される封止材と、
前記封止材によって画素領域全体を密封封止し、かつ前記基板に対し所定間隔を保つように、前記封止材によって接着される導電性を有するメタルキャップと、
前記駆動ドライバICと前記メタルキャップとを接続するために前記基板上に形成されるグランド配線と、
前記メタルキャップと前記グランド配線との間に導電性物質によって形成された導電性ペーストと、
前記メタルキャップの前記密封封止がされた面と反対の面に配置された印刷回路基板と、を含み、
前記駆動ドライバICは、入力端子と出力端子を有し、前記入力端子及び前記出力端子が形成された辺の両端の辺にそれぞれ接地部を形成し、前記両端の辺には前記接地部以外の端子を設けないことを特徴とする有機電界発光表示装置。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明における「接地部」の「形成」に関して、「前記両端の辺には前記接地部以外の端子を設けない」と限定して特定する補正事項を含むものである。

2 新規事項追加の違反についての検討
本件補正によって特定された「前記両端の辺には前記接地部以外の端子を設けない」ことが、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書の発明の詳細な説明及び図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項(新規事項)を導入しないものであるかについて検討する。

(1)上記の「前記両端の辺には前記接地部以外の端子を設けない」という事項については、当初明細書等のどこにも直接的には記載されていない。

(2)ア 上記の「接地部」の設置に関しては、当初明細書等においては、次の記載が認められる。
「【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図3は、本発明の一実施形態に係る有機電界発光表示装置の平面図、図4は、前記図3のI‐I’線に沿った断面図である。
【0020】
但し、図3及び図4に示す実施形態では、駆動ドライバICが1チップで実現され、前記駆動ドライバICが基板上に直接形成されるCOG構造からなっている。
【0021】
図3及び図4を参照すれば、本発明の一実施形態に係る有機電界発光表示装置は、画素領域と非画素領域とに画定され、前記画素領域に有機電界発光素子が少なくとも1つ形成された基板30と、前記基板30の非画素領域に形成され、前記有機電界発光素子に信号を印加する駆動ドライバIC31と、前記基板30の非画素領域に塗布された封止材35と、前記封止材によって画素領域全体を密封封止し、かつ前記基板30に対し所定間隔を保つように、前記封止材35により接着されたメタルキャップ32と、前記駆動ドライバIC31と前記メタルキャップ32とを接続するグランド配線33と、前記メタルキャップ32と前記グランド配線33との間に導電性物質で形成された導電性ペースト34と、前記メタルキャップ32の前記密封封止がされた面と反対の面に配置された印刷回路基板38とを含んで構成される。」

「【0032】
前記グランド配線33は、前記基板30の非画素領域に形成されて前記駆動ドライバIC31と前記メタルキャップ32とを接続する。すなわち、前記駆動ドライバIC31に形成されないグランドピンの代わりに、前記駆動ドライバIC31の入力端子の最外郭部の両側に接地部39が別途に形成されている。」

「【0040】
図5は、本発明の他の実施形態に係る有機電界発光表示装置の平面図、図6は、前記図5のII‐II'線に沿った断面図である。
【0041】
但し、図5及び図6に示す実施形態において、駆動ドライバICが2チップで実現され、前記駆動ドライバICがTCP上に形成されるTCP構造になっている。
【0042】
図5及び図6を参照すれば、本発明の他の実施形態に係る有機電界発光表示装置は、画素領域と非画素領域とに画定され、前記画素領域に有機電界発光素子が少なくとも1つ形成された基板40と、前記画素領域周辺部に沿い、前記非画素領域の一部に形成される封止材49と、前記封止材によって画素領域全体を密封封止し、かつ前記基板40に対し所定間隔を保つように、前記封止材49により接着された導電性を有するメタルキャップ41と、前記基板40の有機電界発光素子の信号配線を接続するTCP42、43と、前記TCP42、43と接続されて有機電界発光素子に信号を印加する駆動ドライバIC44、45と、前記駆動ドライバIC44、45と前記メタルキャップ41とを接続するグランド配線46a、46bと、前記メタルキャップ41と前記グランド配線46との間に導電性物質で形成された導電性ペースト47と、前記メタルキャップ41の前記密封封止された面と反対の面に配置された印刷回路基板52とを含んで構成される。」

「【0047】
また、図5に示すように、前記基板40の周辺には、前記有機電界発光素子に信号を印加するために信号配線を延長したTCP42、43が接続されている。
【0048】
このとき、前記スキャン駆動ドライバIC45の入力端子には、グランドピンを形成しないため、入力ピンの個数が少なくなっており、ICの面積減少によりモジュール実装に機構的に有利になっている。
【0049】
ここで、前記スキャン駆動ドライバIC45の入力端子にグランドピンの代わりに、接地部48を直接形成する。」

「【0055】
前記グランド配線46a、46bは、前記スキャン駆動ドライバIC25と前記メタルキャップ41とを接続する配線であり、前記スキャン駆動ドライバ側のTCP43上に形成される。すなわち、前記スキャン駆動ドライバIC45に形成されないグランドピンの代わりに、前記スキャン駆動ドライバICの接地部48と接続されている。」

「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】



イ 上記から、当初明細書等には、実施例における駆動ドライバICにおける接地部以外の端子の設置位置や構造については、何等記載されていない。すなわち、【図3】【図5】等の図面の記載も含め、駆動ドライバICにおける接地部以外の端子の設置位置や構造については記載が省略されているものと認められる。そうであれば、駆動ドライバICにおける接地部以外の端子がどこに設けられているのか記載されていない、すなわち、「両端の辺」に「接地部以外の端子」を設けるか設けないかについても何らの記載がないのであるから、「前記両端の辺には前記接地部以外の端子を設けない」ことについては記載されていないといわざるを得ない。
しかも、【図3】【図5】から、それぞれ、接地部39、48は、駆動ドライバICの辺上に設けられているのではなく、辺から少し内側へ入ったところに設けられていることが見て取れる。そうすると、本願の請求項1における「前記入力端子及び前記出力端子が形成された辺の両端の辺にそれぞれ接地部を形成」の「辺」(に形成)とは、辺上そのものだけでなく、辺から少し内側(に形成すること)まで含むと解釈せざるを得ない。そして、従来技術を示す【図1】【図2】においても、上記の「辺から少し内側へ入ったところ」に端子を設けていないとはいえないから、そのようなところに「接地部以外の端子を設けない」ことについては、従来技術においても記載されていない。すなわち、従来技術の記載を参酌しても、「前記両端の辺には前記接地部以外の端子を設けない」ことについては記載されていない。
よって、本件補正によって特定された「前記両端の辺には前記接地部以外の端子を設けない」は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるといえる。

以上のとおりであるから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてした補正であるということはできない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下する。

3 独立特許要件違反についての検討
(1)上記「2 新規事項追加の違反についての検討」において述べたように、本件補正は、新規事項を追加する補正であることは明らかである。
しかしながら、仮に、本件補正が、新規事項を追加する補正ではないとした場合、本件補正は、特許請求の範囲について、いわゆる限定的に減縮することを目的とする補正、すなわち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正であることになる。その場合に、本件補正後の本願の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)本願補正発明
本願補正発明は、平成23年4月7日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記「第2 平成23年4月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

(3)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-200041号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、発光機能層に有機材料を用いた有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置に関する。」

「【0019】
この発明は前記した技術的な問題点に着目してなされたものであり、EL構造体を封止する前記気密容器を効果的に利用することで、前記した問題点を解消することができる有機EL表示装置を提供することを課題とするものである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかる有機EL表示装置は、請求項1に記載のとおり、基板上に形成された一対の電極間に有機発光機能層を形成し、前記電極と有機発光機能層による有機EL構造体を封止する気密容器を備えた有機EL表示装置であって、前記気密容器には、少なくても1種類以上の電位が与えられている点に特徴を有する。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、この発明にかかる有機EL表示装置について、その好ましい実施の形態を図に基づいて説明する。図3はこの発明にかかる有機EL表示装置の第1の実施の形態を示したものであり、図3(A)はこれを上面側から見た状態で、また、図3(B)はこれを左側面側から見た状態で示している。
【0022】
図3に示す表示装置においては、ガラス製基板1の一面上に、図1に基づいて説明した構成と同様の有機EL構造体2が形成されている。加えて、ガラス製基板1の一面上には、回路構成体としてIC化された陽極ドライバ回路11と、同じく回路構成体としてIC化された陰極ドライバ回路12が搭載されており、したがって、この実施の形態においては前記したCOG手段が採用されている。そして、EL構造体2が形成された領域は、金属製(SUS等の導電性材料)の気密容器20によって封止されている。
【0023】
図3に示す実施の形態においては、前記気密容器20は、その上面から見てほぼ矩形状に形成されており、また側面方向から見てほぼ台形形状になされ、その内部に偏平状の封止空間が形成されている。そして、気密容器20の四辺に形成された鍔部20aが基板1への接合部を構成しており、当該接合部に介在した接着剤(図示せず)により、容器20は基板面に接着され、EL構造体2を気密状態に封止するように構成されている。
【0024】
そして、この実施の形態においては、基板面に搭載された陽極ドライバ回路11における動作上の基準電位点と、基板面に接着された容器20との間に短冊状に形成された導電体21a、例えばアルミ薄膜が配置され、両者が電気的に接続された構成にされている。また、同様に基板面に搭載された陰極ドライバ回路12における動作上の基準電位点と、前記容器20との間にも短冊状に形成された導電体21b、同じくアルミ薄膜が配置され、両者は電気的に接続された構成にされている。
【0025】
斯くして、図3に示す構成によると、金属により構成された気密容器20を介して、基板面に搭載された陽極ドライバ回路11および陰極ドライバ回路12は共通接続され、その電位は各ドライバ回路11,12の基準電位になされる。なお、図3に示す形態においては、基板1面上に陽極ドライバ回路11および陰極ドライバ回路12が搭載されている場合を示しているが、さらに各ドライバ回路11,12に対して画像信号に基づく制御信号を与える前記したコントローラ回路13も、ICの形態で同基板1面上に搭載されることもある。
【0026】
このように、コントローラ回路13も基板1面上に搭載された場合には、コントローラ回路13における基準電位点を、同じくアルミ薄膜等の導電体を介して金属製の気密容器20に接続することが望ましい。
【0027】
図4は、各ドライバ回路11,12並びにコントローラ回路13も含めて、基板1面上に搭載され、金属製の気密容器20を介して各基準電位(アースライン)で共通接続した場合の等価回路を示したものである。なお、図4においては、すでに説明した図2に示す回路構成に相当する部分を同一符号で示しており、したがって、個々の説明は省略する。
【0028】
この構成によると、各ドライバ回路11,12並びにコントローラ回路13のアースラインが金属製の気密容器20により共通接続されているので、各回路のアースラインに発生する抵抗(インピーダンス)の値を極力小さくすることができる。すなわち、図2に等価的に示した抵抗体Rx1?Rx3の存在を無視し得る程度にすることができる。
【0029】
それ故、前記した抵抗体Rx1?Rx3の存在により発生する前記した外来ノイズの問題、不要輻射の問題、クロストーク発光の増大、さらに面内輝度傾斜がより大きく生ずるなどの諸問題を解決することができる。
【0030】
次に図5は、この発明にかかる有機EL表示装置の第2の実施の形態を示したものであり、図5(A)はこれを上面側から見た状態で、また、図5(B)はこれを左側面側から見た状態で示している。図5に示す表示装置においても、ガラス製基板1の一面上に、同様の有機EL構造体2が形成されている。加えて、ガラス製基板1の一面上には、回路構成体としてIC化された陽極ドライバ回路11と、陰極ドライバ回路12が同様に搭載されている。
【0031】
そして、この図5に示す実施の形態においては、所定の厚さを備えたスペーサ23を介して金属製の気密容器20が、EL構造体2が形成された領域を封止するように構成されている。すなわち、前記スペーサ23は基板1の一面上に図示せぬ接着剤を介して接着されると共に、さらにスペーサ23の上面に、図示せぬ接着剤を介して前記気密容器20が接合されるように構成されている。
【0032】
図5に示す実施の形態においては、前記気密容器20は、その上面から見てほぼ矩形状に形成されており、また側面方向から見てほぼ台形形状になされ、その内部に偏平状の封止空間が形成されている。そして、気密容器20の四辺に形成された縁部が前記スペーサ23への接合部を構成しおり、この気密容器20と前記スペーサ23とにより、有機EL構造体2を気密状態に封止するように構成されている。」


「【0038】
図6は、この発明にかかる有機EL表示装置の第3の実施の形態を示したものであり、図6(A)はこれを上面側から見た状態で、また、図6(B)はこれを左側面側から見た状態で示している。なお、この図6に示すEL表示装置の構成は、図5に示した構成と基本的には同一であり、それぞれ同一符号をもって示している。
【0039】
図6に示す第3の実施の形態においては、図5に基づいて説明したEL表示装置と他の回路基板等との好ましい接続構成例を提供するものである。すなわち、EL表示装置の裏面には、他の回路構成が搭載された回路基板27を配置するようになされている場合が多々ある。前記したような構成においては、図6に示すように回路基板27に立設された金属製の導電体28を介して容器20の裏面に接触させることで、回路基板27の例えば基準電位点を、EL表示装置のそれと共通化させることができる。
【0040】
なお、回路基板27に立設される前記導電体28は、図に示す例では短冊状に形成された金属板の先端部をU字状に屈曲した形態のものが使用されているが、これは任意の形態のものが使用し得る。この図6に示す実施の形態においても、図5に示した実施の形態と同様の作用効果を得ることができると共に、さらにEL表示装置以外の他の回路構成との間における例えばアースラインの接続を、低インピーダンスで実現させることができる。
【0041】
なお、以上説明した実施の形態においては、いずれも金属製の気密容器を介して、回路間を基準電位点で相互に接続するように構成している。しかしながら、この発明においては、金属製の気密容器を介して前記基準電位点以外の電位、例えば回路の動作電源を供給するようにも構成することができる。この場合においては、動作電源の供給ラインにおけるインピーダンスを効果的に低下させることができる。」

「【図3】

【図4】

【図5】

【図6】



イ 引用例1に記載された発明の認定
【図6】から、有機EL構造体はガラス製基板1の一面上の中央部の一部に形成されていること、陽極ドライバ回路11は有機EL構造体2の周辺部の外側に配置されること、並びに、陽極ドライバ回路11の周辺方向端の辺に導電体24aが接続されていることが見て取れる。また、【図4】の記載から、陽極ドライバ回路11は、当然に入力端子及び出力端子を有するといえる。
上記記載(図面を含む)から、引用例1には、【図6】に記載されたものとして、
「ガラス製基板1の一面上の中央部の一部に、有機EL構造体2が形成され、ガラス製基板1の一面上には、有機EL構造体2の周辺部の外側に回路構成体としてIC化された陽極ドライバ回路11が搭載され、EL構造体2が形成された領域は、金属製(SUS等の導電性材料)の気密容器20によってその内部の偏平状の封止空間に封止され、
所定の厚さを備えたスペーサ23を介して金属製の気密容器20が、有機EL構造体2が形成された領域を気密状態に封止するように構成され、
基板面に搭載された陽極ドライバ回路11における動作上の基準電位点と、基板面に接着された容器20との間に短冊状に形成された導電体24a、例えばアルミ薄膜が配置され、両者が電気的に接続された構成にされ、
他の回路構成が搭載された回路基板27が、それに立設された金属製の導電体28を介して容器20の裏面に接触させることで、回路基板27の例えば基準電位点を、EL表示装置のそれと共通化させ、
陽極ドライバ回路11は、入力端子及び出力端子を有し、陽極ドライバ回路11の周辺方向の端の辺に導電体24aが接続する有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 原査定の拒絶の理由に周知技術が記載されている刊行物として引用された、本願の優先日前に頒布された特開2006-59544号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。)

「【0001】
本発明は、発光素子を含む電気光学装置及びその製造方法に関し、特に、光プリンタのヘッドに好ましく適用される技術に関する。」

「【0044】
また、素子基板12と封止基板14との接合時、素子基板12上の電源配線41と封止基板14上の補助配線35との接続も同時に行う。すなわち、電源配線41の端子42と補助配線35の端子35aとを導電性接着剤45を介して電気的に接続する。導電性接着剤45としては、例えば、銀、金、銅、白金、炭素粒子などの導電性粒子を含んだ樹脂材などが用いられる。」

エ 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-373777号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、情報端末などのディスプレイや面発光光源として幅広い用途が期待される長寿命で高品質な有機エレクトロルミネッセンス素子、および、高品質で安価な製品を提供するための製造方法に関する。」

「【0048】
ガラス基板5には、電極取り出し用配線パターン6をスパッタや真空蒸着、メッキ、印刷法などにより形成しておいても良い。配線の材質は、金属、金属酸化物、導電性ペーストや導電性高分子といった導電性塗料などが使用できるが、導電性が高く、耐湿性フィルム9との接着を妨げず、ガラスとの密着が良いものが望ましい。例としては、アルミニウム、銅、銀、ニッケル、クロムなどの金属材料、もしくはこれらの金属材料を1 成分以上含む合金材料、インジウムスズ複合酸化物、インジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属酸化物などを、単独もしくは組み合わせて使用することができる。また、ガラス基板5上にカラーフィルタを形成し、取り出し電極を有するカラーフィルターとして使用しても良い。」

「【0066】
上述のガラス基板5によりプラスチック基材1の採光側を被覆した。まず、ガラス基板上に両面テープ7(ニチバン製)にてプラスチック基材を含む積層体を固定し、ガラス基板上に形成した取り出し電極6とプラスチック基材上の取り出し電極2a,2bとを、電気的に接続するために、銀微粒子およびバインダ樹脂からなる銀ペースト配線部材8(日新EM社製シルベストP-255)をスクリーン印刷により200μm形成した。」

(4)対比
ア 対比
ここで、本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明において「有機EL構造体」が形成された領域が本願発明における「画素領域」に相当するものであり、それ以外の領域が非画素領域であることは明らかであるから、引用発明の「(その)一面上の中央部の一部に、有機EL構造体2が形成され」た「ガラス製基板1」が、本願補正発明の「画素領域と非画素領域とに画定され、前記画素領域に有機電界発光素子が少なくとも1つ形成された基板」に相当する。

引用発明の「ガラス製基板1の一面上に」、「有機EL構造体2の周辺部の外側に」「搭載され」た「回路構成体としてIC化された陽極ドライバ回路11」が、本願補正発明の「前記基板の非画素領域に形成され、前記有機電界発光素子に信号を印加する駆動ドライバIC」に相当する。

引用発明の「(それを)介して金属製の気密容器20が、有機EL構造体2が形成された領域を気密状態に封止するように構成され」る「所定の厚さを備えたスペーサ23」が、本願補正発明の「前記画素領域周辺部に沿い、前記非画素領域の一部に形成される封止材」に相当する。

引用発明の「所定の厚さを備えたスペーサ23を介して」、「有機EL構造体2が形成された領域を気密状態に封止するように構成され」た「金属製の気密容器20」が、本願補正発明の「前記封止材によって画素領域全体を密封封止し、かつ前記基板に対し所定間隔を保つように、前記封止材によって接着される導電性を有するメタルキャップ」に相当する。

引用発明の「基板面に搭載された陽極ドライバ回路11における動作上の基準電位点と、基板面に接着された容器20との間に」「配置され、両者が電気的に接続された構成」とする「短冊状に形成された導電体24a、例えばアルミ薄膜」が、本願補正発明の「前記駆動ドライバICと前記メタルキャップとを接続するために前記基板上に形成されるグランド配線」に相当する。

引用発明の「それに立設された金属製の導電体28を介して容器20の裏面に接触させることで」、「(その)基準電位点を、EL表示装置のそれと共通化させ」る「他の回路構成が搭載された回路基板27」が、本願補正発明の「前記メタルキャップの前記密封封止がされた面と反対の面に配置された印刷回路基板」に相当する。

本願補正発明の「接地部を形成する」については、本願明細書の発明の詳細な説明の【0032】並びに図面の【図3】及び【図4】の記載(上記「2 新規事項追加の違反についての検討」の「(2)」の「ア」参照)から、単に、“(駆動ドライバとグランド配線とを)接続する”ことを意味しているにすぎないといえるから、引用発明の「接続する」ことが本願補正発明の「接地部を形成する」ことに相当するということができ、また、技術常識を踏まえると引用発明の「陽極ドライバ回路11の周辺方向の端の辺」と本願補正発明の「前記入力端子及び前記出力端子が形成された辺の両端の辺」とは、「前記入力端子及び前記出力端子が形成された辺の端の辺」を含むものである点で一致しているといえるから、引用発明の「陽極ドライバ回路11は、入力端子及び出力端子を有し、陽極ドライバ回路11の周辺方向の端の辺に導電体24aが接続する」ことと、本願補正発明の「前記駆動ドライバICは、入力端子と出力端子を有し、前記入力端子及び前記出力端子が形成された辺の両端の辺にそれぞれ接地部を形成する」こととは、「前記駆動ドライバICは、入力端子と出力端子を有し、前記入力端子及び前記出力端子が形成された辺の端の辺に接地部を形成する」点で一致する。

引用発明の「有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置」が、本願補正発明の「有機電界発光表示装置」に相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「画素領域と非画素領域とに画定され、前記画素領域に有機電界発光素子が少なくとも1つ形成された基板と、
前記基板の非画素領域に形成され、前記有機電界発光素子に信号を印加する駆動ドライバICと、
前記画素領域周辺部に沿い、前記非画素領域の一部に形成される封止材と、
前記封止材によって画素領域全体を密封封止し、かつ前記基板に対し所定間隔を保つように、前記封止材によって接着される導電性を有するメタルキャップと、
前記駆動ドライバICと前記メタルキャップとを接続するために前記基板上に形成されるグランド配線と、
前記メタルキャップの前記密封封止がされた面と反対の面に配置された印刷回路基板と、を含み、
前記駆動ドライバICは、入力端子と出力端子を有し、前記入力端子及び前記出力端子が形成された辺の端の辺に接地部を形成する有機電界発光表示装置。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1
本願補正発明は、「メタルキャップ」と「グランド配線」との間に「導電性物質によって形成された導電性ペースト」を備えるのに対して、引用発明はその点の特定がない点。

(イ)相違点2
入力端子及び出力端子が形成された辺の端の辺に接地部を形成することに関し、本願補正発明は接地部を「両端の辺」に形成するものであり、また、当該「両端の辺」には「接地部以外の端子を設けない」のに対して、引用発明はその点の特定がない点。

(5)当審の判断
ア 上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
2つの部材を電気的に接続する部材(素材)として「導電性物質によって形成された導電性ペースト」を用いることは、例えば、引用例2,3にも記載されているように、発光素子を用いた電気光学装置においても周知である。
引用発明においても金属製の気密容器(本願補正発明の「メタルキャップ」に相当)と導電体(本願補正発明の「グランド配線」に相当)とを電気的に接続するに当たり、必要に応じて、上記周知の「導電性物質によって形成された導電性ペースト」を用いることは当業者が適宜なし得ることであるから、引用発明に上記の周知技術を採用して上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
ドライバ回路において入力端子、出力端子及び接地部等の各種の端子をどのように配置するかは、ドライバ回路の具体的回路構成に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項である。
引用発明においても、ドライバ回路において各種の端子をどのように配置するかについては当業者が適宜設定し得る事項であるから、接地部を「両端の辺」に形成するものとし、また、当該「両端の辺」には「接地部以外の端子を設けない」とすることは、上記の設計的事項に応じて当業者が容易になし得たことに過ぎない。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(6)むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年4月7日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年2月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成23年4月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成23年4月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「3 独立特許要件違反についての検討」の「(3)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成23年4月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明の「接地部」の「形成」に関して、「前記両端の辺には前記接地部以外の端子を設けない」と限定して特定したものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定して特定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成23年4月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「3 独立特許要件違反についての検討」の「(4)対比」及び「(5)当審の判断」において記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-16 
結審通知日 2012-04-17 
審決日 2012-05-14 
出願番号 特願2006-240285(P2006-240285)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 561- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
吉川 陽吾
発明の名称 有機電界発光表示装置  
代理人 八田国際特許業務法人  

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