• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1263767
審判番号 不服2010-16532  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-23 
確定日 2012-09-27 
事件の表示 特願2004- 19121「多次元ハイブリッド型および転置型有限時間インパルス応答フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月19日出願公開、特開2004-236319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成16年1月28日(パリ条約による優先権主張 2003年1月28日、アメリカ合衆国 2003年6月30日、アメリカ合衆国)の出願であって、その特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年7月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「 【請求項1】
所定数Nの乗算器を有するデジタル・フィルタであって、
複数の遅延素子であって、その数がN以下かつN-1以上である遅延素子、
それぞれ少なくとも1つのベクトル加算を行う複数の加算器、
入力データを該フィルタの乗算器の各々に伝達する第1のパスであって、前記入力データは受信された多重チャネル信号である、第1のパス、及び
該複数の加算器からデータをその出力に伝達する第2のパスを備え、前記複数の遅延素子のうち少なくとも1つの遅延素子が前記第2のパス上に配置され、前記複数の遅延素子のうちの残りの遅延素子が前記第1のパス上に配置され、前記加算器が前記第2のパス上に配置され、前記乗算器の各々が前記第1のパスと前記加算器の各々の間に結合され、前記乗算器の各々はマトリックス係数を前記第1のパスからの前記入力データである多重チャネル信号に乗算するものであり、前記所定数の乗算器の各々はマトリックス乗算を行うことを特徴とするデジタル・フィルタ。」

2.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第5181198号明細書(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。
「It should be emphasized that the combination of the two echo cancelers and the two NEXT cancelers constitutes a two-dimensional generalization of a conventional echo canceler.This combination of cancelers is driven by the two-dimensional vector that is transmitted on the two pairs and it subtracts a sequence of two-dimensional sampled responses from the input to the two-pair receiver. This combination may therefore be considered as a matrix echo canceler.The matrix canceler may be treated as a vector tapped delay line. The signal being filtered by the tapped delay line is a sequence of two-dimensional vectors. The taps in the vector delay line are two-by-two networks. The tap weights are matrices. The diagonal elements of these tapmatrices are the sampled values of the conventional single line echoes. The off-diagonal elements are the sampled values of the NEXT unit pulse responses.」(第7欄第55行-第8欄第3行)
(当審訳:
2つのエコーキャンセラと2つのNEXT(近端漏話)キャンセラの組合せが、従来のエコーキャンセラの2次元への一般化を構成するということが、強調されるべきである。この複数のキャンセラの組合せは、2対の伝送路上を伝送する2次元ベクトルによってドライブされる。複数のキャンセラの、この組合せは、2対の受信器への入力から一連の2次元のサンプル化された応答値を引き算する。それゆえ、この組合せは、1台のマトリクス・エコーキャンセラとして考えても良い。この1台のマトリクス・エコーキャンセラは、1本のタップ付きベクトル遅延線として取り扱われても良い。そのタップ付き遅延線によってフィルタリングされた信号は、一連の2次元ベクトルである。そのベクトル遅延線の複数のタップは、2×2のネットワークである。複数のタップの重みは、複数のマトリクスである。これらの複数のタップマトリクスの対角要素は、従来のシングル・ラインの複数のエコーのサンプル値である。また非対角要素は、NEXTユニット・パルス応答のサンプル値である。)

そして、上記記載を、引用例の関連図面と関連図面について説明した箇所の記載及び技術常識に照らせば、以下のことがいえる。
ア.引用例のFIG.4に示される「ECHO CANCELER 1」(440)、「NEXT CANCELER 1」(450)、「ECHO CANCELER 2」(441)、「NEXT CANCELER 2」(451)の組合せは、「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」として構成され得るものである。
イ.上記「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」は、「2対の伝送路上を伝送する2次元ベクトル」によってドライブされ、「タップ付き遅延線によってフィルタリングされた一連の2次元ベクトル信号」を出力するものである。したがって、該「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」は、「デジタル・フィルタ」と呼ばれるものの一種である。そして、「デジタル・フィルタ」は、複数の「遅延素子」と、所定数の「重みを乗算する乗算器を有するタップ」と、タップの出力を加算する「加算器」と、入力データを上記「乗算器」の各々に伝達する「第1のパス」と呼び得る経路と、データを出力に伝達する「第2のパス」と呼び得る経路と、を有しているのが普通であって、上記「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」がそれらの構成要素を有していないと考えるべき理由はないから、上記「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」も、当然にそれらの構成要素を有していると考えるのが妥当である。
ウ.上記「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」をドライブする、「2対の伝送路上を伝送する2次元ベクトル」は、引用例のFIG.4に示される2つの結合器(「combiner 420」と「combiner 421」)の出力であり、該2つの結合器(「combiner 420」と「combiner 421」)の出力は、「DATA SOURCE 1」からの信号と「DATA SOURCE 2」からの信号を多重化したものということができ、「多重チャネル信号」とも呼び得るものである。
エ.上記「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」の「タップ」が当然に有していると考えられる「重みを乗算する乗算器」は、上記「2対の伝送路上を伝送する2次元ベクトル」に「マトリクス係数」である重みを乗算するものであり、その出力は、当然にベクトルであると考えられる。また、上記「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」が当然に有していると考えられる「加算器」は、上記「タップ」の出力を加算するものであるから、当然にベクトル加算を行うものである。

したがって、引用例には次の発明(以下、「引用発明」と呼ぶ。)が記載されているといえる。
「所定数の乗算器を有するデジタル・フィルタであって、
複数の遅延素子、
ベクトル加算を行う加算器、
入力データを該フィルタの乗算器の各々に伝達する第1のパスであって、前記入力データは受信された多重チャネル信号である、第1のパス、及び
該加算器からデータをその出力に伝達する第2のパスを備え、前記乗算器の各々はマトリックス係数を前記第1のパスからの前記入力データである多重チャネル信号に乗算するものであり、前記所定数の乗算器の各々はマトリックス乗算を行うことを特徴とするデジタル・フィルタ。」

3.対比
本願発明と引用発明を対比すると、両者の間には、以下の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「所定数の乗算器を有するデジタル・フィルタであって、
複数の遅延素子、
ベクトル加算を行う加算器、
入力データを該フィルタの乗算器の各々に伝達する第1のパスであって、前記入力データは受信された多重チャネル信号である、第1のパス、及び
該加算器からデータをその出力に伝達する第2のパスを備え、前記乗算器の各々はマトリックス係数を前記第1のパスからの前記入力データである多重チャネル信号に乗算するものであり、前記所定数の乗算器の各々はマトリックス乗算を行うことを特徴とするデジタル・フィルタ。」である点。

(相違点1)
本願発明においては、「複数の遅延素子」の数が「乗算器の数をNとしてN以下かつN-1以上」であり、該「複数の遅延素子」のうちの少なくとも1つは第2のパス上に配置され、残りは第1のパス上に配置されるのに対し、引用発明においては、それらの点が定かでない(引用例には、デジタル・フィルタ(「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」)中に設けられる複数の遅延素子についての具体的記載がない。)点。

(相違点2)
本願発明においては、「加算器」が「それぞれ少なくとも1つのベクトル加算を行う複数の加算器」であり、該「加算器」が「第2のパス上」に配置され、「乗算器」の各々が「第1のパスと前記加算器の各々の間」に結合されるのに対し、引用発明においては、それらの点が定かでない(引用例には、デジタル・フィルタ(「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」)中に設けられる加算器や乗算器についての具体的記載がない。)点。

4.当審の判断
(1)上記相違点について
以下の事情を勘案すると、引用発明において、上記相違点1、2に係る本願発明の構成を採用すること、すなわち、引用発明において、「『複数の遅延素子』の数を『乗算器の数をNとしてN以下かつN-1以上』とし、該『複数の遅延素子』のうちの少なくとも1つは第2のパス上に配置し、残りは第1のパス上に配置し、『加算器』を『それぞれ少なくとも1つのベクトル加算を行う複数の加算器』とし、該『加算器』を『第2のパス上』に配置し、『乗算器』の各々を『第1のパスと前記加算器の各々の間』に結合されるようにすること」は、当業者が容易に推考し得たことというべきである。
ア.「『複数の遅延素子』の数が『乗算器の数をNとしてN以下かつN-1以上』であり、該『複数の遅延素子』のうちの少なくとも1つは第2のパス上に配置され、残りは第1のパス上に配置されるデジタル・フィルタであって、『複数の加算器』が『第2のパス上』に配置され、『乗算器』の各々が『第1のパスと前記加算器の各々の間』に結合されるデジタル・フィルタ」(以下、「周知のデジタルフィルタ」と呼ぶ。)は、平成21年3月17日付けの拒絶理由通知書で刊行物2として引用された米国特許5983254号明細書のFIG.7や、拒絶査定で周知の通信システムを例示するものとして引用された国際公開第00/28663号のFIG.3A、FIG.3Bにも示されるように、周知である。
イ.引用発明のデジタル・フィルタ(「1台のマトリクス・エコーキャンセラ」)において、その各構成要素の具体的接続関係をどのようにするかは、引用発明の所期の目的を達成し得る範囲で当業者が適宜決定し得たことというべきであるところ、上記周知のデジタルフィルタの構成に照らせば、引用発明の各構成要素の具体的接続関係を上記周知のデジタルフィルタのようにしても引用発明の所期の目的を達成し得ることは、当業者に自明である。
ウ.引用発明の各構成要素の具体的接続関係を上記周知のデジタルフィルタのようにしようとした場合に、引用発明の「加算器」が「それぞれ少なくとも1つのベクトル加算を行う複数の加算器」とされるべきことは、当然のことである。
エ.以上のことは、取りも直さず、引用発明において、「『複数の遅延素子』の数を『乗算器の数をNとしてN以下かつN-1以上』とし、該『複数の遅延素子』のうちの少なくとも1つは第2のパス上に配置し、残りは第1のパス上に配置し、『加算器』を『それぞれ少なくとも1つのベクトル加算を行う複数の加算器』とし、該『加算器』を『第2のパス上』に配置し、『乗算器』の各々を『第1のパスと前記加算器の各々の間』に結合されるようにすること」が、当業者が容易に推考し得たことであったことを意味している。

(2)本願発明の効果について
本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用例の記載事項や周知の事項から当業者が容易に予測し得た効果の域を出るものとはいえず、本願発明の進歩性を根拠付けるに足りるものとはいえない。

(3)まとめ
以上によれば、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-26 
結審通知日 2012-05-01 
審決日 2012-05-18 
出願番号 特願2004-19121(P2004-19121)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 昌秋  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 江口 能弘
近藤 聡
発明の名称 多次元ハイブリッド型および転置型有限時間インパルス応答フィルタ  
代理人 岡部 讓  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 朝日 伸光  
代理人 岡部 正夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ