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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1263787
審判番号 不服2011-21485  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-05 
確定日 2012-09-27 
事件の表示 特願2010-225852「吸収性物品」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月 6日出願公開、特開2011- 480〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年12月8日に出願した特願2005-355485号の一部を、平成22年10月5日に新たな特許出願としたものであって,平成23年6月30日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成23年10月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「少なくとも一部が液透過性の表面シート部と,液不透過性の裏面シート部と,前記表面シート部と前記裏面シート部との間に配置される吸収体部と,前記表面シート部及び前記吸収体部を圧着する圧着部により形成されてなる複数の防漏溝を有する防漏溝部と,を備える略縦長状で長手方向の後方側に長い吸収性物品であって,
前記防漏溝部は,
該吸収性物品の最も後方側に形成され,後方に突出する最後方突端部を有すると共に,前記最後方突端部の前記幅方向の外側に防漏溝が形成されない略U字状の最後方U字部と,
前記最後方U字部の前方に形成され,該吸収性物品の長手方向における後方に突出する後向突端部を有すると共に,前記後向突端部の該吸収性物品における幅方向の外側に1又は複数本の防漏溝が形成される略U字状の後向U字部と,を備え,
前記後向U字部及び前記最後方U字部は,長手方向に縦長の長方形状に圧着して形成された圧着部が幅方向に略平行に並列配置されて構成され,
前記最後方突端部における前記後方向側の外周部に接する最後方接線と,前記最後方接線に平行で該最後方突端部における内周部に接する最後方平行線との間に配置される前記最後方U字部を形成する圧着部の面積である最後方圧着部面積は,
前記後向突端部における前記後方側の外周部に接する後向接線と,前記後向接線に平行で該後向突端部における内周部に接する後向平行線との間に配置される前記後向U字部を形成する圧着部の面積である後向圧着部面積よりも大きく,
前記最後方突端部の内周部における最後方曲率半径は,前記後向突端部の内周部における後向曲率半径よりも大きく,
前記後向接線と前記後向平行線との間に配置される前記後向U字部を形成する圧着部の前記幅方向における後向圧着部幅は,前記最後方接線と前記最後方平行線との間に配置される前記最後方U字部を形成する圧着部の前記幅方向における最後方圧着部幅よりも狭く,
前記最後方U字部を形成する圧着部の数は,前記後向U字部を形成する圧着部の数よりも少ない吸収性物品。」(下線は補正箇所)
と補正された。

上記補正のうち,補正前の請求項1に記載した発明における「第3」と「第2」を,それぞれ「最後方」と「後向」と言い換えたことは,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明に該当する。
また,上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「1又は複数の防漏溝」,「所定方向」,「幅方向に防漏溝が形成されない」,「幅方向に1又は複数本の防漏溝が形成される」を,それぞれ,「複数の防漏溝」,「後方」,「幅方向の外側に防漏溝が形成されない」,「幅方向の外側に1又は複数本の防漏溝が形成される」と限定し,さらに補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「吸収性物品」,「第3U字溝」,「第2U字溝」について,それぞれ「長手方向の後方側に長い」,「吸収性物品の最も後方側に形成され」,「最後方U字部の前方に形成され」との限定を付加するものである。当該補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.引用文献
(1)引用文献1に記載の事項及び発明
ア.原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-113538号公報(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

1a.「【請求項1】
体液透過性のトップシートと,体液不透過性のバックシートとの間に体液を吸収保持する吸収要素を設け,かつ少なくとも,体液排出口部位を中心としてその左右両脇に複数の圧搾部よりなるエンボス線を少なくとも前後方向に沿って内外二重に設けてなる,体液吸収性物品であって,内側のエンボス線付与部の少なくとも一部の硬さと,外側のエンボス線の少なくとも一部の硬さとを異ならしめたことを特徴とする体液吸収性物品。」

1b.「【0011】
したがって,本発明の主たる課題は,内側エンボス線付与部および外側エンボス線付与部の両方が適切な硬さを有する体液吸収性物品を提供することにある。また他の課題は,体液排出口付近の敏感肌の肌荒れ防止または装着違和感の低減と,漏れ防止とを両立させることにある。」

1c.「【0026】
【発明の実施の形態】
以下,本発明の実施の形態について生理用ナプキンへの適用例を引いて詳述するが,本発明はパンツ型若しくはテープ式紙おむつへの適用も可能である。また生理用ナプキンとしては,実質的に前後対称形状の昼用のものであるか,臀部側に延在し,その臀部側が大きく張り出した形状をした夜用のもの,側部に張り出すウイングを有するいわゆるウイングタイプのものであるか,ウイングを有さない非ウイングタイプの生理用ナプキンであるかは問わず適用できることは当然である。夜用のものやウイングタイプの生理用ナプキンのものは,周知であるのため構造説明は省略する。さらに本発明は,たとえば前述の昼用ナプキンとして好適に使用でき,特に長手方向長さが24?28cmの「長時間用」として好適に提供できるものである。」

1d.「【0036】
(本発明のポイント)
さて本発明は,複数の圧搾部cよりなるエンボス線9A,9Bを,少なくとも,体液排出口部位Zを中心としてその左右両脇に前後方向に延在する形態で内外二重に設けてなるものを対象とする。本第1の形態では,体液排出口部位Zを中心として物品前後方向を長軸とする略楕円状に,内側のエンボス線9Aおよび外側のエンボス線9Bがそれぞれ環状に形成されている。
【0037】
本発明のエンボス線9A,9Bは多数の圧搾部cを並設して形成されるものであり,主に経血の誘導により経血が外方に拡散するのを防止するため及び物品のヨレ耐性を高めるために設けられる。また本発明の圧搾部cは,図2からも明らかなように吸収コア4の変形を伴うものであり,より詳細には吸収コア4の厚みの10%以上の深さを有する凹部を形成するものである。
【0038】
・・・(中略)・・・かかるエンボス線9A,9Bは,各層を重ねた状態で使用面側から加熱しながらエンボスすることにより,いわゆる熱融着エンボスとして形成できる。なお,この基本的条件は全ての形態に共通する。」

1e.「【0048】
<硬さを異ならしめるための各種形態>
本発明は,エンボスによる圧搾部cが高密度化により硬くなることを利用するものである。したがって,本発明においてエンボス線9A,9B付与部の硬さに差異をもたせるために,次の(イ)?(ニ)の手法のいずれか一つまたはこれらを組合せて適用することができる。
・・・(中略)・・・
【0051】
(ロ)エンボス線の単位長さ当たりの圧搾部面積(以下,圧搾部密度ともいう)を異ならしめる手法。
本発明では,図5(a)?(f)に示すようにエンボス線9(図中いずれか一方を内側エンボス線とし他方を外側エンボス線とすることができる)内における圧搾部cの疎密によっても内外エンボス線付与部の硬さに差をもたせることができる。同図(a)の圧搾部cは形状および長手方向中心間隔は共通であり面積のみが異なっている。また同図(b)の圧搾部cは形状は共通するが,長手方向中心間隔および面積が異なっている。同図(c)?(e)は長手方向中心間隔は共通するが形状および面積がそれぞれ異なっている。本形態において,具体的に,硬さに係る他の条件を内外共通にした場合,圧搾部密度の差は1.5?8倍程度,特に2?6倍程度とするのが望ましい。
【0052】
さらに具体的に第1の形態と同様の作用効果を得るためには,内側エンボス線9Aの圧搾部密度は9?19mm^(2)/mm程度とし,外側エンボス線9Bの圧搾部密度は30?45mm^(2)/mm程度とすることを推奨する。また,第2の形態と同様の作用効果を得るためには,内側エンボス線9Aの圧搾部密度は30?45mm^(2)/mm程度とし,外側エンボス線9Bの圧搾部密度は9?19mm^(2)/mm程度とすることを推奨する。」

イ.体液吸収性物品は,図1の記載から,略縦長状であることが分かる。

ウ.これらの記載によれば,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「体液透過性のトップシートと,体液不透過性のバックシートと,前記体液透過性のトップシートと前記体液不透過性のバックシートとの間に設けた体液を吸収保持する吸収要素と,かつ少なくとも,体液排出口部位を中心としてその左右両脇に複数の圧搾部よりなるエンボス線を少なくとも前後方向に沿って内外二重に設けてなり,略縦長状で,臀部側に延在しその臀部側が大きく張り出した形状をした体液吸収性物品であって,
体液排出口部位Zを中心として物品前後方向を長軸とする略楕円状に,内側のエンボス線9Aおよび外側のエンボス線9Bがそれぞれ環状に形成されており,
内側のエンボス線付与部の少なくとも一部の硬さと,外側のエンボス線の少なくとも一部の硬さとを異ならしめた,体液吸収性物品。」

(2)引用文献2に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-265519号公報(以下「引用文献2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

2a.「【0003】この種の吸収性物品にも幾多の改良が重ねられ,体液漏れ等を防止するための手段が種々講じられている。例えば,幅方向への体液の拡散を防止するとともに,吸収体のヨレを防止し,かつ吸収体中央部を隆起させ局部への密着性を向上させるなどの目的で,表面側に熱エンボスによってエンボス溝を形成する技術が存在する。
【0004】たとえば,本出願人による先の特願2000-314592号においては,図6に示されるように,生理用ナプキンNの透液性表面シート面側に略長手方向に沿う方向に長手方向中心線Sを跨いで左右一対の縦方向エンボス溝50,50が形成されるとともに,略幅方向に沿う方向に平面視で円弧状の幅方向エンボス溝51,51が形成され,これら縦方向エンボス溝50及び幅方向エンボス溝51の底面に,図7に示されるように,溝長手方向に沿って高圧搾部53と低圧搾部54とが交互に配置されたものが示されている。
【0005】前記エンボス溝50,51は,生理用ナプキンNの製造過程において,吸収体と表面シートとを積層させた状態で,所定温度に加熱された圧搾ロールと,圧力を受け止めるアンビルロールとの間を通過させることによって,前記透液性表面シート側から前記圧搾ロールの表面に形成されたエンボス溝用突部による圧搾によって形成される。この場合,前記圧搾ロールの表面には,前記縦方向エンボス溝用突部と幅方向エンボス溝用突部とが形成され,前記圧搾ロールに一定の押圧力が加えられた状態で,圧搾ロールが回転しながら,その母線部分が順次生理用ナプキンNと接触し,ナプキンNの長さ方向にエンボス溝が形成される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】前述のように,従来のエンボス加工においては,ナプキンの略長手方向に沿う縦方向エンボス溝と,ナプキンの略幅方向に沿う幅方向エンボス溝とが混在しているにも拘わらず,圧搾ロールに一定の押圧力を作用させているため,エンボス溝のある部分では圧力が高くなり,またある部分では圧力が小さくなる。その結果,表面シートの一部に破れまたは浮きが生じてしまうなどの問題があった。
【0007】具体的に詳述すると,仮にエンボス溝を幅方向に横断する1本の線を引いた場合に,その横断線は“高圧搾部と接触する部分”と“低圧搾部と接触する部分”とに分かれるが,その内,前記“高圧搾部と接触する部分”のみの長さを前記1本の横断線上において合計した長さを「接触線長さ」と定義した場合,ナプキン表面に形成された縦方向エンボス溝部分と幅方向エンボス溝部分とでは,幅方向エンボス溝部分における接触線長さが極端に長くなる。しかし,前記圧搾ロールに作用させる押圧力は一定であるから,前記接触線長さの長い幅方向エンボス溝部分では線圧(圧力)が小さくなり,接触線長さの短い縦方向エンボス溝部分では線圧が大きくなる。したがって,前記縦方向エンボス溝側に適した圧力になるように圧搾ロールの押圧力を設定すると,幅方向エンボス溝部では線圧が足らず,表面シートに浮きが生じることになる。逆に,幅方向エンボス側に適した圧力になるように圧搾ロールの押圧力を設定すると,縦方向エンボス溝部では線圧が大きく成り過ぎて表面シートに破れが生じることになる。」

2b.「【0011】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として,透液性表面シートと,不透液性裏面シートとの間に吸収体が介在され,前記透液性表面シート面側に略長手方向に沿う縦方向エンボス溝が形成されるとともに,略幅方向に沿う幅方向エンボス溝が形成され,これら縦方向エンボス溝及び幅方向エンボス溝の底面に溝長手方向に沿って高圧搾部と低圧搾部とが交互に配置された吸収性物品において,前記エンボス溝を幅方向に横断する1本の線を引いた場合に,この横断線が前記高圧搾部と接触する部分の長さを横断線上において合計した長さをもって「接触線長さ」と定義し,前記幅方向エンボス溝が存在する領域の接触線長さの最大値と,前記縦方向エンボス溝が存在する領域の接触線長さの最大値との差が5mm以下であることを特徴とする吸収性物品が提供される。
・・・(中略)・・・
【0013】更に請求項3に係る本発明として,前記幅方向エンボス溝において,前記接触線長さは,高圧搾部の間隔,高圧搾部の幅および曲率の内のいずれか又は組み合わせによって調整されている請求項1,2いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0014】上記請求項1?3記載の発明においては,幅方向エンボス溝が存在する領域の接触線長さの最大値と,前記縦方向エンボス溝が存在する領域の接触線長さの最大値との差が5mm以下となるように調整してある。従って,圧搾ロールの押圧力を一定としてエンボス加工を行った場合でも,縦方向エンボス溝部分と幅方向エンボス溝部分とにおける極端な圧力(線圧)の違いを緩和することができ,表面シートの浮きや破れを防止しながら,縦方向エンボス溝および幅方向エンボス溝を形成できるようになる。」

2c.「【0027】上記幅方向エンボス領域Hにおける接触線長さと,前記縦方向エンボス領域Vにおける接触線長さとの差を調整する他の方法としては,例えば図5(A)に示されるように,縦方向中心線Sから外方に向かうに従って,高圧搾部12の幅を大きくすることにより,換言すれば幅方向エンボス6の接線が幅方向となる領域,すなわち接触線長さが最大となる領域の高圧搾部幅を小さくすることにより接触線長さを調整する方法や,図5(B)(C)に示されるように,幅方向エンボス領域Hにおける接触線長さの最大値SH maxと,前記縦方向エンボス領域Vにおける接触線長さの最大値SV maxとの差が5mm以下となるように高圧搾幅12の間隔を決定する方法や,図5(D)に示されるように,幅方向エンボス6の円弧の曲率半径を小さくすることにより,幅方向エンボス6の接線が幅方向となる近傍領域において接触線長さが小さくなるように調整する方法などを挙げることができる。」

2d.「【0030】
【表1】


2e.図面の記載(特に,図2,図5)より,吸収性物品の長手方向に突出する略U字状のエンボス溝(幅方向エンボス溝(6))に,長手方向に縦長の長方形状に形成された高圧搾部(12)が,幅方向に略平行に並列配置されていることが見て取れる。

これらの記載によれば,以下の2f?2hの事項が理解される。

2f.圧搾ロールの圧搾によって吸収性物品にエンボス溝を形成する際,圧搾ロールに一定の押圧力を作用させているため,エンボス溝のある部分では圧力が高くなり,またある部分では圧力が小さくなる結果,表面シートの一部に破れまたは浮きが生じてしまうなどの問題があったこと(上記2a【0005】,【0006】参照。)。

2g.縦方向エンボス溝が形成されるとともに,略幅方向に沿う幅方向エンボス溝が形成され,これら縦方向エンボス溝及び幅方向エンボス溝の底面に溝長手方向に沿って高圧搾部と低圧搾部とが交互に配置された吸収性物品において,「幅方向エンボス溝が存在する領域の接触線長さの最大値と,縦方向エンボス溝が存在する領域の接触線長さの最大値との差が5mm以下」とすることによって,縦方向エンボス溝部分と幅方向エンボス溝部分とにおける極端な圧力(線圧)の違いを緩和し,表面シートの浮きや破れを防止すること(上記2b参照。)。なお,「接触線長さ」とは,エンボス溝を幅方向に横断する1本の線を引いた場合に,この横断線が前記高圧搾部と接触する部分の長さを横断線上において合計した長さと定義されている。

2h.上記「接触線長さ」は,高圧搾部の間隔,高圧搾部の幅および曲率の内のいずれか又は組み合わせによって調整できること(上記2b【0013】,2c参照。)。より具体的には,略U字状のエンボス溝(幅方向エンボス溝)の突端部近傍の高圧搾部の間隔を大きくし,高圧搾部の幅を小さくし,あるいは,突端部の曲率半径を小さくすることにより,「接触線長さ」が小さくなること(上記2d参照。)。

2.対比
引用発明の「体液透過性のトップシート」,「体液不透過性のバックシート」,「吸収要素」は,それぞれ,本願補正発明の「少なくとも一部が液透過性の表面シート部」,「液不透過性の裏面シート部」,「吸収体部」に相当する。
引用発明の「複数の圧搾部よりなるエンボス線」は,経血の誘導により経血が外方に拡散するのを防止するために設けられるものであって,各層を重ねた状態で使用面側から加熱しながらエンボスすることにより,いわゆる熱融着エンボスとして形成されるものである(上記1d参照。)ことから,引用発明の「圧搾部」は,本願補正発明の「表面シート部及び吸収体部を圧着する圧着部」に相当し,引用発明の「複数の圧搾部よりなるエンボス線」,「エンボス線付与部」は,それぞれ,本願補正発明の「表面シート部及び吸収体部を圧着する圧着部により形成されてなる複数の防漏溝」,「防漏溝を有する防漏溝部」に相当する。
引用発明の「略縦長状で,臀部側に延在しその臀部側が大きく張り出した形状をした体液吸収性物品」は,本願補正発明の「略縦長状で長手方向の後方側に長い吸収性物品」に相当する。
引用発明の「外側のエンボス線9B」は,引用文献1の図1(上記1d参照。)のように設けられたものであり,同図の記載からみて,外側のエンボス線9B付与部は,吸収性物品の最も後方側に形成され,後方に突出する最後方突端部を有すると共に,前記最後方突端部の幅方向の外側にエンボス線が形成されない略U字状の最後方U字部を備えている。同様に,「内側のエンボス線9A」付与部は,前記最後方U字部の前方に形成され,該吸収性物品の長手方向における後方に突出する後向突端部を有すると共に,前記後向突端部の該吸収性物品における幅方向の外側に2本のエンボス線が形成される略U字状の後向U字部を備えている。よって,引用発明の「体液排出口部位Zを中心として物品前後方向を長軸とする略楕円状に,内側のエンボス線9Aおよび外側のエンボス線9Bがそれぞれ環状に形成されて」いることは,本願補正発明の,「防漏溝部は,
該吸収性物品の最も後方側に形成され,後方に突出する最後方突端部を有すると共に,前記最後方突端部の前記幅方向の外側に防漏溝が形成されない略U字状の最後方U字部と,
前記最後方U字部の前方に形成され,該吸収性物品の長手方向における後方に突出する後向突端部を有すると共に,前記後向突端部の該吸収性物品における幅方向の外側に1又は複数本の防漏溝が形成される略U字状の後向U字部と,を備え」ていることに相当する。
よって,本願補正発明と引用発明との一致点,相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「少なくとも一部が液透過性の表面シート部と,液不透過性の裏面シート部と,前記表面シート部と前記裏面シート部との間に配置される吸収体部と,前記表面シート部及び前記吸収体部を圧着する圧着部により形成されてなる複数の防漏溝を有する防漏溝部と,を備える略縦長状で長手方向の後方側に長い吸収性物品であって,
前記防漏溝部は,
該吸収性物品の最も後方側に形成され,後方に突出する最後方突端部を有すると共に,前記最後方突端部の前記幅方向の外側に防漏溝が形成されない略U字状の最後方U字部と,
前記最後方U字部の前方に形成され,該吸収性物品の長手方向における後方に突出する後向突端部を有すると共に,前記後向突端部の該吸収性物品における幅方向の外側に1又は複数本の防漏溝が形成される略U字状の後向U字部と,を備える
吸収性物品。」

[相違点1]
本願補正発明は,「前記後向U字部及び前記最後方U字部は,長手方向に縦長の長方形状に圧着して形成された圧着部が幅方向に略平行に並列配置されて構成され」と特定されているのに対し,
引用発明は,このような特定がなされていない点。

[相違点2]
本願補正発明は,「前記最後方突端部における前記後方向側の外周部に接する最後方接線と,前記最後方接線に平行で該最後方突端部における内周部に接する最後方平行線との間に配置される前記最後方U字部を形成する圧着部の面積である最後方圧着部面積は,
前記後向突端部における前記後方側の外周部に接する後向接線と,前記後向接線に平行で該後向突端部における内周部に接する後向平行線との間に配置される前記後向U字部を形成する圧着部の面積である後向圧着部面積よりも大きく」と特定されているのに対し,
引用発明は,このような特定がなされていない点。

[相違点3]
本願補正発明は,「前記最後方突端部の内周部における最後方曲率半径は,前記後向突端部の内周部における後向曲率半径よりも大きく」と特定されているのに対し,
引用発明は,このような特定がなされていない点。

[相違点4]
本願補正発明は,「前記後向接線と前記後向平行線との間に配置される前記後向U字部を形成する圧着部の前記幅方向における後向圧着部幅は,前記最後方接線と前記最後方平行線との間に配置される前記最後方U字部を形成する圧着部の前記幅方向における最後方圧着部幅よりも狭く」と特定されているのに対し,
引用発明は,このような特定がなされていない点。

[相違点5]
本願補正発明は,「前記最後方U字部を形成する圧着部の数は,前記後向U字部を形成する圧着部の数よりも少ない」と特定されているのに対し,
引用発明は,このような特定がなされていない点。

3.判断
(1)相違点1について
引用文献1に圧搾部形状の異なる例が示されていること(上記1e,【図5】参照。)も考慮すると,引用発明の圧搾部の形状,配置を,適宜に変更し得ることが明らかである。そして,引用文献2には,U字状のエンボス溝に,長手方向に縦長の長方形状に形成された高圧搾部が幅方向に略平行に並列配置された構成が記載されている(上記2e参照。)。
引用発明の圧搾部と引用文献2に記載の高圧搾部は共に,エンボスを形成するのに必要十分な圧力が作用する領域であり,引用発明の圧搾部について,引用文献2に倣った形状,配置を採用することにより,相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用文献2には,エンボス溝の底面に溝長手方向に沿って高圧搾部と低圧搾部とが交互に配置された吸収性物品について,上記2fのとおりの問題を生じることが示されている。引用発明のような複数の圧搾部よりなるエンボス線を備える体液吸収性物品についても,エンボス線に沿って圧搾部と非圧搾部とが交互に配置されることから,上記問題を生じることは容易に予測できることである。
そして,引用文献2は,上記問題を解決するため,上記2gに示した技術事項を開示するところ,同技術事項は,端的に言えば,圧搾ロールによる圧力が部分によって異なることを,1本の横断線上の高圧搾部の長さ(接触線長さ)の差によって評価し,その差を小さくするものと理解できる。
そうすると,引用発明において,上記問題を解決するため,上記引用文献2に開示された技術事項を適用しようとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。そして,かかる適用にあたって,圧搾ロールが吸収性物品に接触する箇所は,実際には線ではなく吸収性物品の長手方向に幅をもった面状であることを考慮すれば,1本の横断線上の高圧搾部の長さ(接触線長さ)によって圧力を評価することに代えて,吸収性物品の長手方向に適宜の幅をもち,吸収性物品を幅方向に横断する帯状の領域,例えば吸収性物品の長手方向の幅がエンボス線の幅と同じであって吸収性物品を幅方向に横断する帯状の領域(以下「横断領域」という。),における圧搾部の面積によって圧力を評価して,その差を小さくすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
してみれば,引用発明において,外側のエンボス線9Bの突端部の幅方向の外側にエンボス線が形成されておらず,また内側のエンボス線9Aの突端部の幅方向の外側に2本のエンボス線が形成されることを考慮して,引用発明のエンボス線9A,エンボス線9Bの各突端部に接する横断領域内の圧搾部の面積を同じにすることにより,各横断領域内で「内側のエンボス線9Aの突端部の圧搾部面積<外側のエンボス線9Bの突端部の圧搾部面積」とすること,すなわち,相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
なお,引用発明において,上記のとおり「内側のエンボス線9Aの突端部の圧搾部面積<外側のエンボス線9Bの突端部の圧搾部面積」とすることは,引用発明の「内側のエンボス線付与部の少なくとも一部の硬さと,外側のエンボス線の少なくとも一部の硬さとを異ならしめた」構成の妨げになるものではない。

(3)相違点3について
相違点2で検討した「内側のエンボス線9Aの突端部の圧搾部面積<外側のエンボス線9Bの突端部の圧搾部面積」とすることに関し,引用文献2より,突端部の曲率半径を小さくすることにより「接触線長さ」を小さくできること(上記2h参照。),ひいては,圧搾部面積を小さくできることが理解できる。
よって,引用発明において,上記面積の関係とすべく,「内側のエンボス線9Aの突端部の曲率半径<外側のエンボス線9Bの突端部の曲率半径」とすること,すなわち,相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点4について
相違点2で検討した「内側のエンボス線9Aの突端部の圧搾部面積<外側のエンボス線9Bの突端部の圧搾部面積」とすることに関し,引用文献2より,突端部近傍の高圧搾部の幅を小さくすることにより「接触線長さ」を小さくできること(上記2h参照。),ひいては,圧搾部面積を小さくできることが理解できる。
よって,引用発明において,上記面積の関係とすべく,「内側のエンボス線9Aの突端部の圧搾部の幅<外側のエンボス線9Bの突端部の圧搾部の幅」とすること,すなわち,相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである

(5)相違点5について
本願補正発明が相違点5に係る構成を採用した技術的意義について,本願明細書には記載が無い。そして,引用発明において,各エンボス線の各U字部における圧搾部の数については,特に制限が設けられておらず,適宜に設定可能なものである。なお,引用発明の,内側のエンボス線付与部の少なくとも一部の硬さと,外側のエンボス線の少なくとも一部の硬さとを異ならしめることや,相違点2で検討した「内側のエンボス線9Aの突端部の圧搾部面積<外側のエンボス線9Bの突端部の圧搾部面積」とすることを考慮しても,上記圧搾部の数は適宜に設定可能である。
よって,引用発明において,相違点5に係る本願補正発明の構成とすることは,単なる設計事項であって,当業者が適宜になし得たことである。

(6)まとめ
本願補正発明の効果も,引用発明及び引用文献2に開示された技術事項から予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。
したがって,本願補正発明は,引用発明及び引用文献2に開示された技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり,本件補正は,改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成23年1月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「少なくとも一部が液透過性の表面シート部と,液不透過性の裏面シート部と,前記表面シート部と前記裏面シート部との間に配置される吸収体部と,前記表面シート部及び前記吸収体部を圧着する圧着部により形成されてなる1又は複数の防漏溝を有する防漏溝部と
,を備える略縦長状の吸収性物品であって,
前記防漏溝部は,該吸収性物品の長手方向における所定方向に突出する第2突端部を有すると共に,前記第2突端部の該吸収性物品における幅方向に1又は複数本の防漏溝が形成される略U字状の第2U字部と,
前記第2U字部の前記所定方向側に形成され,前記所定方向に突出する第3突端部を有すると共に,前記第3突端部の前記幅方向に防漏溝が形成されない略U字状の第3U字部と,を備え,
前記第2U字部及び前記第3U字部は,長手方向に縦長の長方形状に圧着して形成された圧着部が幅方向に略平行に並列配置されて構成され,
前記第3突端部における前記所定方向側の外周部に接する第3接線と,前記第3接線に平行で該第3突端部における内周部に接する第3平行線との間に配置される前記第3U字部を形成する圧着部の面積である第3圧着部面積は,
前記第2突端部における前記所定方向側の外周部に接する第2接線と,前記第2接線に平行で該第2突端部における内周部に接する第2平行線との間に配置される前記第2U字部を形成する圧着部の面積である第2圧着部面積よりも大きく,
前記第3突端部の内周部における第3曲率半径は,前記第2突端部の内周部における第2曲率半径よりも大きく,
前記第2接線と前記第2平行線との間に配置される前記第2U字部を形成する圧着部の前記幅方向における第2圧着部幅は,前記第3接線と前記第3平行線との間に配置される前記第3U字部を形成する圧着部の前記幅方向における前記第3圧着部幅よりも狭い吸収性物品。」

第4 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献,および,その記載事項は,前記「第2[理由]1.引用文献」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は,前記「第2」で検討した本願補正発明の「最後方」と「後向」をそれぞれ「第3」と「第2」に言い換え,また,本願補正発明の「複数の防漏溝」,「後方」,「幅方向の外側に防漏溝が形成されない」を,それぞれ「1又は複数の防漏溝」,「所定方向」,「幅方向に防漏溝が形成されない」に拡張し,さらに,「吸収性物品」,「第3U字溝」,「第2U字溝」についての「長手方向の後方側に長い」,「吸収性物品の最も後方側に形成され」,「最後方U字部の前方に形成され」との限定事項を省くものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2[理由]3.」に記載したとおり,引用発明及び引用文献2に開示された技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び引用文献2に開示された技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお,請求人は,平成24年4月23日付け回答書において補正案を示しているが,「第2[理由]3.(2)」で判断したように,引用発明のエンボス線9A,エンボス線9Bの各突端部に接する横断領域内の圧搾部の面積を同じにすることは,当業者が容易に想到し得たことである。ここで,各突端部に接する横断領域内の圧搾部の面積を同じにすることは,上記補正案で付加した構成と軌を一にするものである。
よって,上記補正案で付加した構成も,当業者が容易に想到し得たものであるから,上記補正案を考慮しても,結論が左右されるものではない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用文献2に開示された技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-26 
結審通知日 2012-07-31 
審決日 2012-08-14 
出願番号 特願2010-225852(P2010-225852)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (A61F)
P 1 8・ 121- Z (A61F)
P 1 8・ 575- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤平岩 正一  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 長浜 義憲
亀田 貴志
発明の名称 吸収性物品  
代理人 正林 真之  

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