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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1264039
審判番号 不服2011-16106  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-26 
確定日 2012-10-04 
事件の表示 特願2008- 89666「ヘモグロビン濃度測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月28日出願公開、特開2008-194488〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成12年11月30日(優先権主張 平成11年11月30日、平成12年9月21日、平成12年11月29日)に出願された特許出願(2000年特許願第366152号)の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成20年3月31日に新たな特許出願(2008年特許願第89666号。以下「本件出願」という。)として出願したものであって、平成23年4月18日付けで拒絶査定(発送日:同月26日)がなされたところ、これに対し、同年7月26日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成23年7月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
1 補正却下の決定の結論
平成23年7月26日付けの手続補正を却下する。

2 補正却下の決定の理由
(1)平成23年7月26日付けの手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は、本件出願明細書の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり補正することを含むものである。

ア 本件補正前(平成23年2月21日付け手続補正書)の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
異なる複数の光波長を発する光源と、
前記光源から発せられ患者の生体組織を透過または反射した光を受光する受光手段と、
血液の脈動に起因して前記受光手段からの各波長における受光出力信号の変動に基づいて、各波長間における減光度比Φを演算する減光度比演算手段と、
前記減光度比演算手段からの出力に基づいて少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する濃度比演算手段と、
前記患者が一酸化炭素中毒の疑いのあるときに一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段とを具備し、
前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示していない状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算し、
前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示している状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる3波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
異なる複数の光波長を発する光源と、
前記光源から発せられ患者の生体組織を透過または反射した光を受光する受光手段と、
血液の脈動に起因して前記受光手段からの各波長における受光出力信号の変動に基づいて、各波長間における減光度比Φを演算する減光度比演算手段と、
前記減光度比演算手段からの出力に基づいて少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する濃度比演算手段と、
前記患者が一酸化炭素中毒の疑いのあるときに、操作することにより、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段とを具備し、
前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示していない状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算して表示し、
前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示している状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる3波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算して表示することを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。」
(なお、下線部は、補正された箇所である。)

(2) 本件補正の適否について
本件補正において、本件補正前の請求項1に係る発明について、「、操作することにより、」の構成を付加することは、本件補正前の「一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段」の構成を特定し、減縮するものであり、さらに、「して表示」の構成、及び「して表示表」の構成を付加することは、それぞれ「酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比」の構成、及び「酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比」の構成を特定し、減縮するものである。
そうすると、本件補正は、特許請求の範囲を減縮する補正であり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前(以下「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当する。

(3) 独立特許要件について
そこで、本件補正は、特許請求の範囲を減縮する補正であるから、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(ア)引用刊行物記載の発明
(3A)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先権主張の日前に頒布された特表平11-510722号公報(以下、引用刊行物A」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与したものである。以下、同様である。)

(3A-1)「【特許請求の範囲】
1.血液中に含有されている、異なった種類のヘモグロビン、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビン及び/もしくは染料成分の相対的濃度の決定のための、またはそれらの組成を識別するための、異なったヘモグロビン種及び/もしくは染料成分によりもたらされる光吸収を用いる非-侵襲性の方法であって、光シグナルを少なくとも2つの予め定められた波長で、患者の血液循環中に含まれる組織に伝送し、測定下の標的を通って伝送される光シグナル及び/または該組織から反射される光シグナルを受け取り、各波長で受け取られた鼓動を打つ光シグナルの強度の割合を、前記組織を通って伝送される光または前記組織から反射される光の全強度に関連して決定する方法であって、前記組織中の血液ヘモグロビン誘導体及び/または染料成分の有効吸光係数を、ランバート-ベール理論と一致する血液染料成分吸光係数からの数学的変換によって、各光シグナル及び/または光シグナル対について決定し、
血液中に含有される全量のヘモグロビンに関連して、特殊な血液ヘモグロビン誘導体の割合を異なった波長範囲で受け取られたシグナルの強度によって決定することを特徴とする方法。
・・・
29.異なったヘモグロビン種、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビン、並びに/または血液に含有された染料成分の相対的濃度または組成を、非-侵襲的な方法で、異なったヘモグロビン種及び/または染料成分によりもたらされた光吸収を用いて決定するための測定装置であって、前記装置はセンサー測定装置に接続する手段(1)、少なくとも2つの予め定められた中位の波長で光シグナルを発光する光源(2)及び測定下の標的を通過して伝送及び/または反射された光を受け取るために配置されたレシーバー(3)、並びに前記受け取ったシグナルの処理のためのシグナル処理装置(10)を具備するものであって、前記センサーは、予め定められたセンサー特異的データの格納用の格納装置(4)を具備し、前記測定装置は計算装置(11)並びに、センサーに格納されたデータを読み取り、そして計算装置にデータを伝送するために計算装置及びセンサーに接続された読み取り装置(12)を具備することを特徴とする装置。」(2頁1行?7頁16行)

(3A-2)「本発明は、血液中の酸素飽和率の非-侵襲性の測定のための請求項1の序文に記載された方法及び請求項29の序文に記載された測定装置に関する。さらに、本発明は請求項20の序文に記載された、本発明の測定装置とともに患者についての測定値を収集するのに用いるために設計されたセンサーに関する。」(9頁3?6行)

(3A-3)「すなわち、パルス酸素濃度計は、酸素飽和の評価にたった2つの異なった波長しか用いないので、たった2つの異なった種類の血液ヘモグロビン、すなわち、オキシヘモグロビン(HbO2)及びデオキシヘモグロビンをこの方法により正確に測定できる。」(10頁8?11行)

(3A-4)「危篤の病気の患者の血液組成は、薬物治療、病気の性質または医療の治療もしくは測定の結果として、健康な人の血液組成と異なることがある。この型の新規で、重要な治療はいわゆる酸化窒素(NO)治療であって、これは患者のメタヘモグロビン(MetHb)レベルを有意に上昇させ得る。他の普通の場合の不正確な測定は一酸化炭素中毒であり、これは患者における高一酸化炭素ヘモグロビン(HbCO)レベルを伴う。酸素飽和の実際の程度の連続的な非-侵襲性の監視は、ジスヘモグロビンレベルは比較的急速に上昇することがあり、これは血液試料に基づく分析が十分でないことを意味するから、特にNO治療の間に重要である。酸素飽和率の測定は、救出手術及び一酸化炭素ヘモグロビン中毒後の追跡監視においても非常に重要である。」(10頁15?25行)

(3A-5)「本発明の1態様では、未知と定めたヘモグロビン種はオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンで、少なくとも1つの染料成分は血液ジスヘモグロビン種、たとえば HbCO,MetHbまたはNbNOである。」(17頁下から4?2行)

(3A-6)「 本発明によると、波長選択における矛盾を減少させることができ、かつ、各血液酸素付加状況において、異った風に正しい変調比を加重させることによりより良い選択正確性を達成できる。たとえば、低酸素血症の場合、波長900nm,690nm及び 658nm及びこれらから計算された変調比が常に用いられ、酸素飽和率は波長 630nmまたは 645nmについての量よりも多く加重されている。この場合には、波長 630/645nm を主に MetHbの存在を検出するのに用いるが、DysHbの量の測定は他の波長を用いて達成する。HbCO及び MetHbの両方が、この変調比に同じように影響を及ぼすから、好ましい波長の対は 690nm及び 900nmである。・・・
図3は、本発明による好ましいセンサーを示し、それは患者の血液循環に含まれる組織による非-侵襲性測定における測定データを収集するための本発明の方法に用いられる。このセンサーは、センサーを測定する装置に接続する手段1を具備する。この態様では、センサーはシグナルの伝達のために設計された自体公知の、ケーブルによって測定装置に接続されている。さらに、センサーはそれの必須の部分を生成する光源2を具備しており、それが少なくとも2つ、この態様では予め定められた4つの中位の波長で光シグナルを発光する。光源は多数の光素子2^(1),…,2^(4)を具備し、その各々が他と異なった選択された波長で発光する。センサーはレシーバー3も具備し、それは典型的には発光ダイオードまたはいわゆる PINダイオードで、測定下の標的を通って伝送され、及び/または測定下の標的により反射された光シグナルを受け取るように手配されている。センサーはさらに予め定められたセンサー特異的データの格納のための格納装置4を具備し、そこでセンサー特異的データは、各光源並びに測定することができる各血液のHb種及び/または染料成分について独立に決定された吸光係数を含むものである。図3に提示されたセンサーはさらにセンサー端子14を具備し、そこに格納装置が据えられ、それに光素子2^(1),…,2^(4)及びレシーバー3が接続されている。センサー端子14により、たとえば測定装置によりセンサーを制御し、及び格納装置4に含有されているデータを読むことが可能である。」(25頁下から15行?26頁24行)

(3A-7)「 本発明の好ましい態様(図示しない)では、2つの別のセンサーを異った測定点で用いる。センサーの1つは好ましくは慣用のパルス酸素濃度計センサーである。他のセンサーについては、1つの共通の波長を選択し、斜め方式で計算されたセンサー間の変調比の目盛を補正するのに用いる。したがって、2つの別個のセンサーで、4つの代りに少なくとも5つの LEDを用いねばならない。しかしながら、この構造は、センサーの1つが、ジスヘモグロビンレベルを測定するために短期間だけ用いられ、他のセンサーは連続的に、たとえば機能的な酸素飽和の測定のために用いられる場合ですら好ましい。」(28頁18?25行)

(3A-8)「 図6は本発明の測定装置の好ましい態様を示す。図6の測定装置は、センサー端子14といっしょに図3に関して上記したセンサーを具備する。測定装置は好ましくは少なくともシグナル処理装置10を具備し、それはマイクロプロセッサーまたは自体公知の相当するプログラム可能な構成要素であってもよい。さらにこの態様では光素子2^(1),…,2^(4)は、マイクロプロセッサーで制御された2つの両極式回路(図示しない)により制御される。光素子2^(1),…,2^(4)により発光された光は組織を通るか、組織から反射してセンサーの光検出機3へ、そして、そこから、シグナルはセンサー端子14を経て、装置の前置増幅器の直流電圧変換器(図示しない)へ通過する。この後、シグナルをマイクロプロセッサー10により制御する方法で増幅する。図6では測定装置及びセンサーは、測定装置で用いられるほとんどの技術が当業者を公知のエレクトロニックスから成るため、大きく変えた形で提示されていることをさらに言及しておく。使用者インターフェイス及びディスプレイ機能並びに測定装置の他の一般的な特性はマイクロプロセッサー10により規定されている。本発明によると、図6に提示された測定装置はさらに計算装置を具備し、それは、センサーの助けにより本発明の測定方法を実行するようにプログラムされている。測定装置の他の必須の構成要素は、リーダー装置12と識別装置13であって、それらによりセンサーのメモリー素子4に格納された情報を読み取り、センサーの型を識別する。この文脈では、現代の技術を以って、すべての上記構成要素、すなわち、シグナル処理装置10、計算装置11、読み取り装置12及び識別装置13が単一の用途特異的集積回路(ASIC)中にプログラムされている、ハードウェアの導入(implementation)ですら可能であることにも注目すべきである。
本発明の好ましい態様は、図6に提示された測定装置において、測定時間がチャンネル間で柔軟に分割されるものである。この場合、たとえば、ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされ、明らかにより短い時間がジスヘモグロビンの測定のために取っておかれるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される。測定において用いられる時間分割は固定された分割であることができるか、それとも各状況に応じて柔軟に変えることができる。
・・・
式中、%mod iは、波長iで測定した光透過についての変調パーセント、すなわち、全光透過のパーセントとしての、心拍数で変化する光透過の割合であり、ε-マトリックスのij要素は波長iについての動脈血のヘモグロビン成分jの吸光係数であり、そして、ヘモグロビン成分の%はこの順序jで、縦のベクター(HbX1,HbX2,…HbXj)に入れる。」(29頁10行?30頁下から4行)

(3A-9)「図7に関して、波長660nm(R)及び940nm(IR)で決定した変調%の比(R/IR)を関数とする理論的及び実験的な酸素飽和の補正を描く下記において、いくつかのHbの種類、すなわち、HbO2,Hb,HbCO,MetHb及びHbx(Hbxは特殊な状況の患者の血液に現れるヘモグロビン成分、たとえば、ニトロシルヘモグロビンHbNOまたはスルホヘモグロビン HbSである)についての変調比の助けを用いる系の式(1)の解き方を表示する。」(32頁6?11行)

(3A-10)「さて、我々はこの変換の式を計算する。
次のように変調比を式(5)で割る。

%mod k ε_(kl)*HbO2+ε_(k2)*(1-HbO2-DysHb)+ε_(k3)*DysHb
???? = ??????????????????????????
%mod l ε_(ll)*HbO2+ε_(l2)*(1-HbO2-DysHb)+ε_(l3)*DysHb

式中、k,l=1,2,3,4でK # 1である。4つの波長の場合、この割り算は6つの異なった方法で行うことができる。すなわち、6つの式(8)があるだろう。
〔(%mod k)/(%mod l)〕=Zと記載し、HbO2について各式(8)を解こう。

(1-DysHb)*(ε_(k2)-Z*ε_(l2))+DysHb*(ε_(k3)-Z*ε_(l3))
HbO2=?????????????????????????? (9)
Z*(ε_(kl)-ε_(ll))-(ε_(k2)-ε_(l2))

理論的変換比Zを実験的に測定された変調比Z′を用いて、Z=fk1(Z′)(10)と表わすことができ、それは変換 逆(T):Z′→Zを決定する。実験的に正しい酸素飽和率を、式(10)をZについて置換することにより、式(9)から得る。結果として、波長が 660nm及び 940nmであるとき、関数f(660,940)は図7における実験的に測定された曲線を、関数f(660,940)により決定されたように数値を縦軸上に変えることにより、ランバート-ベール曲線上に移す。関数fは波長k及びlで現われる全吸収及び散乱に依存するが、もはや異なったHb種に依存しない。したがって、関数fは、たとえば正常なHbCO及び MetHb濃度を用いた低酸素血症試験で見い出すことができる。これは、飽和率測定の校正をかなり容易にする。関数fは波長R=660nm 及びIR=900nm(または940nm)での慣用のパルス酸素濃度計測定のための校正データにより既知である。変換 逆(T)の式が、たとえば、波長630nm,660nm及び 900nmで、次のように

R=f660,900(R’)
Q=f660,990(Q’) |%mod1 | |%mod1|´
P=f630,990(P’) |%mod2 | |%mod2|
S=f690,900(S’) ⇔ |%mod3 | =(T^(-1))|%mod3|
T=f630,660(T’) |%mod4 | |%mod4|
U=f630,900(U’)

指定されたなら、1つのHb種の濃度を変え、したがって当該波長についての全吸収を変えることによって、すべての関数fを決定することができる。表現R′-R,Q′-Q,P′-P,S′-S,T′-T及びU′-Uは既知であるので、式(3)及び式(4)が解かれ、酸素飽和率レベルは反復して系の式(9)からの3?6変調比について解かれ、酸素飽和率レベルHbO2、ジスヘモグロビン DysHbの全濃度及びジスヘモグロビン種の組成は適合する方法で決定できる。計算はすべてのHb種の合計が 100%であるという式に組み込まれた条件に対して、それを点検することによる結果の確認を包含し得る。」(33頁下から3行?35頁7行)

(3A-11)上記(3A-9)には、波長kで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod kと波長lで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod lの変調比を求める式が記載されている。
また、表1(25頁)には、一酸化炭素ヘモグロビン血症の患者の症状に対して、900nm及び690nmの波長の光を用いることが記載されている。

上記摘記事項(3A-1)?(3A-11)の記載を参照すると、上記引用刊行物Aには、
「その各々が他と異なった選択された波長で発光する多数の光素子2^(1),…,2^(4)を具備する光源と、
光素子2^(1),…,2^(4)により発光され、患者の組織を通るか、組織から反射した光を受け取るセンサーの光検出機3と、
ディスプレイ機能と、
計算装置11と、
シグナル処理装置10とを具備し、
波長kで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod kと波長lで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod lの変調比を求め、
この3?6変調比について解くことにより、酸素飽和率レベルHbO2、ジスヘモグロビン DysHbの全濃度、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンの相対的濃度を、異なったヘモグロビン種によりもたらされた光吸収を用いて決定するとともに、
ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される測定装置。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

(イ)本願補正発明と引用発明との対比・判断
(イ-1)本願補正発明と引用発明とを対比する。
(i)引用発明の「その各々が他と異なった選択された波長で発光する多数の光素子2^(1),…,2^(4)を具備する光源」は、その構成及び機能からみて、本願補正発明の「異なる複数の光波長を発する光源」に相当する。

(ii)引用発明の「光素子2^(1),…,2^(4)により発光され、患者の組織を通るか、組織から反射した光を受け取るセンサーの光検出機3」は、その構成及び機能からみて、本願補正発明の「前記光源から発せられ患者の生体組織を透過または反射した光を受光する受光手段」に相当する。

(iii)引用発明の「波長kで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod k」は、患者の血液の脈動に起因して変化するセンサーの光検出機3の受光出力信号の変動によるものであることは明らかであるから、引用発明の「波長kで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod kと波長lで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod lの変調比を求め」ることは、本願補正発明の「血液の脈動に起因して前記受光手段からの各波長における受光出力信号の変動に基づいて、各波長間における減光度比Φを演算する」ことに相当する。
さらに、引用発明の測定装置は、「波長kで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod kと波長lで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod lの変調比を求め」ていることから、引用発明の測定装置が、「波長kで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod kと波長lで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod lの変調比を求め」るための手段を有することは明らかであり、この手段が、本願補正発明の「血液の脈動に起因して前記受光手段からの各波長における受光出力信号の変動に基づいて、各波長間における減光度比Φを演算する減光度比演算手段」に相当する。

(iv)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-3)に、
「すなわち、パルス酸素濃度計は、酸素飽和の評価にたった2つの異なった波長しか用いないので、たった2つの異なった種類の血液ヘモグロビン、すなわち、オキシヘモグロビン(HbO2)及びデオキシヘモグロビンをこの方法により正確に測定できる。」
と記載されていることから、引用発明のジスヘモグロビンには少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンが含まれることは明らかである。
また、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-9)には、「波長kで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod kと波長lで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod lの変調比」を求め、求めた変調比から、式(9)のように、HbO2を演算で求めることが記載され、さらに、引用発明の測定装置は、「酸素飽和率レベルHbO2、ジスヘモグロビン DysHbの全濃度、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンの相対的濃度を、異なったヘモグロビン種によりもたらされた光吸収を用いて決定する」装置であるから、引用発明の「この3?6変調比について解くことにより、酸素飽和率レベルHbO2、ジスヘモグロビン DysHbの全濃度、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンの相対的濃度を、異なったヘモグロビン種によりもたらされた光吸収を用いて決定する」ことと、本願補正発明の「前記減光度比演算手段からの出力に基づいて少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する濃度比演算手段」こととは、「前記減光度比演算手段からの出力に基づいて少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算する濃度演算手段」である点で共通する。

(v)上記(iv)において検討したように、引用発明のジスヘモグロビンには、少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンが含まれることは明らかである。
また、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-3)には、
「すなわち、パルス酸素濃度計は、酸素飽和の評価にたった2つの異なった波長しか用いないので、たった2つの異なった種類の血液ヘモグロビン、すなわち、オキシヘモグロビン(HbO2)及びデオキシヘモグロビンをこの方法により正確に測定できる。」
と記載され、さらに、同摘記事項(3A-7)に、
「本発明の好ましい態様(図示しない)では、2つの別のセンサーを異った測定点で用いる。センサーの1つは好ましくは慣用のパルス酸素濃度計センサーである。他のセンサーについては、1つの共通の波長を選択し、斜め方式で計算されたセンサー間の変調比の目盛を補正するのに用いる。・・・しかしながら、この構造は、センサーの1つが、ジスヘモグロビンレベルを測定するために短期間だけ用いられ、他のセンサーは連続的に、たとえば機能的な酸素飽和の測定のために用いられる場合ですら好ましい。」
と記載され、また、(3A-9)に、
「図7に関して、波長660nm(R)及び940nm(IR)で決定した変調%の比(R/IR)を関数とする理論的及び実験的な酸素飽和の補正を描く下記において、いくつかのHbの種類、すなわち、HbO2,Hb,HbCO,MetHb及びHbx(Hbxは特殊な状況の患者の血液に現れるヘモグロビン成分、たとえば、ニトロシルヘモグロビンHbNOまたはスルホヘモグロビン HbSである)についての変調比の助けを用いる系の式(1)の解き方を表示する。」
と記載されていることから、引用発明の「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」構成のうちで、「ほとんど時間は」、慣用のパルス酸素濃度計と同様に、2つの異なった波長を用いて、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求め、酸素飽和率を求めていることは明らかであり、さらに、「ジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」の構成は、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求めるほかに、ジスヘモグロビンレベルのうちの、少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を求める構成を新たに加えて測定していることから、引用発明の「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」ことと、本願補正発明の「前記患者が一酸化炭素中毒の疑いのあるときに、操作することにより、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段とを具備」することとは、「一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示する選択手段とを具備」する点で共通する。

(vi)上記(v)において検討したように、引用発明の「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」構成のうちで、「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされる」ことが、慣用のパルス酸素濃度計と同様に、2つの異なった波長を用いて、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求め、酸素飽和率を求めていることであるのは明らかであるから、引用発明の「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされる」構成と、本願補正発明の「前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示していない状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算して表示する」構成とは、「前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示していない状態においては、前記濃度演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度を演算する」点で共通する。

(vii)上記(v)において検討したように、引用発明の「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」構成のうちで、「ジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」の構成は、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求めるほかに、ジスヘモグロビンレベルのうちの、少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を求める構成を新たに加えて測定していることから、引用発明の「ジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」構成と、本願補正発明の「前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示している状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる3波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算して表示する」構成とは、「前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示している状態においては、前記濃度演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる複数波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算する」点で共通する。

(viii)引用発明の「測定装置」は、波長kで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod kと波長lで測定した心拍数で変化する光透過の割合%mod lの変調比を求め、この3?6変調比について解くことにより、酸素飽和率レベルHbO2、ジスヘモグロビン DysHbの全濃度、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンの相対的濃度を、異なったヘモグロビン種によりもたらされた光吸収を用いて決定していることから、ヘモグロビンの濃度を測定しているものといえ、本願補正発明の「ヘモグロビン濃度測定装置」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「異なる複数の光波長を発する光源と、
前記光源から発せられ患者の生体組織を透過または反射した光を受光する受光手段と、
血液の脈動に起因して前記受光手段からの各波長における受光出力信号の変動に基づいて、各波長間における減光度比Φを演算する減光度比演算手段と、
前記減光度比演算手段からの出力に基づいて少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算する濃度演算手段と、
一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示する選択手段とを具備し、
前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示していない状態においては、前記濃度演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度を演算し、
前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示している状態においては、前記濃度演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる複数波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算するヘモグロビン濃度測定装置。」
である点で一致し、次の相違点(あ)?相違点(う)において相違する。

・相違点(あ)
少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算する濃度演算手段が、本願補正発明では、「少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する濃度比演算手段」であるのに対して、引用発明では、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンのうちの少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を決定する点。

・相違点(い)
一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示する選択手段が、本願補正発明では、「前記患者が一酸化炭素中毒の疑いのあるときに、操作することにより、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段」であるのに対して、引用発明では、必要な時にのみジスヘモグロビンレベルのうちの少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を決定する点。

・相違点(う)
「前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示していない状態においては、前記濃度演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度を演算し、前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示している状態においては、前記濃度演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる複数波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算する」ことが、本願補正発明では、「前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示していない状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算して表示し、前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示している状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる3波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算して表示する」ことであるのに対して、引用発明では、「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされる」ことが、慣用のパルス酸素濃度計と同様に、2つの異なった波長を用いて、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求め、酸素飽和率を求めていることであり、「ジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」の構成は、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求めるほかに、ジスヘモグロビンレベルのうちの、少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を求める構成を新たに加えて測定している点。

(イ-2)当審の判断
そこで、上記相違点(あ)及び相違点(い)について判断する。

・相違点(あ)について
引用発明において、「この3?6変調比について解くことにより、酸素飽和率レベルHbO2、ジスヘモグロビン DysHbの全濃度、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンの相対的濃度を、異なったヘモグロビン種によりもたらされた光吸収を用いて決定する」ことは、各オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンの各濃度に関して相対的濃度を決定してしていることは明らかである。
ところで、例えば特開平10-262957号公報に、
「【0002】
【従来技術】緊急評価、外科および他の医療手続き中に、医師等はしばしば血液の酸素濃度並びに他の因子を知りたいと考える。パルス式酸素測定において、オキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンの相対濃度は、患者の血液の酸化に関するデータを与えることから、全ヘモグロビンに対する割合として測定される。」
と記載されて、また、特表平11-511855号公報(平成11年10月12日公表)に、
「血液サンプルの吸収スペクトルを1nmの分解能で測定し、HHb、O_(2)Hb、COHbおよびMetHbの割合を方程式(42)の最小2乗解によって計算した。結果は次の通りである。
・・・
各列は1サンプルに対応し、各行はそれぞれHHb、O_(2)Hb、COHbおよびMetHbの相対濃度を示している。」(25頁14?下から4行)
と記載されているように、血液における、オキシヘモグロビン、及びデオキシヘモグロビンなどの相対濃度が、全ヘモグロビンに対する濃度の割合を意味することは技術常識であり、さらに、「割合」とは、「ものとものとの比。歩合(ぶあい)。比率」(広辞苑第5版)を意味することから、引用発明の「キシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンのうちの少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度」が、「キシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンのうちの少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの全ヘモグロビンに対する濃度比」を意味しているといえ、引用発明の「この3?6変調比について解くことにより、酸素飽和率レベルHbO2、ジスヘモグロビン DysHbの全濃度、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンの相対的濃度を、異なったヘモグロビン種によりもたらされた光吸収を用いて決定する」構成が、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンのうちの少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する演算手段を用いていることは明らかであり、本願補正発明と実質的な差異は認められない。

・相違点(い)について
(い-1)引用発明において、一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を決定することが、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを意味することは、上記「・相違点(あ)について」において検討したとおりである。

(い-2)また、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-4)に、
「危篤の病気の患者の血液組成は、薬物治療、病気の性質または医療の治療もしくは測定の結果として、健康な人の血液組成と異なることがある。この型の新規で、重要な治療はいわゆる酸化窒素(NO)治療であって、これは患者のメタヘモグロビン(MetHb)レベルを有意に上昇させ得る。他の普通の場合の不正確な測定は一酸化炭素中毒であり、これは患者における高一酸化炭素ヘモグロビン(HbCO)レベルを伴う。酸素飽和の実際の程度の連続的な非-侵襲性の監視は、ジスヘモグロビンレベルは比較的急速に上昇することがあり、これは血液試料に基づく分析が十分でないことを意味するから、特にNO治療の間に重要である。酸素飽和率の測定は、救出手術及び一酸化炭素ヘモグロビン中毒後の追跡監視においても非常に重要である。」
と記載され、また、同摘記事項(3A-11)に、
「表1(25頁)には、一酸化炭素ヘモグロビン血症の患者の症状に対して、900nm及び690nmの波長の光を用いる」
と記載され、さらに、同摘記事項(3A-6)に、
「HbCO及び MetHbの両方が、この変調比に同じように影響を及ぼすから、好ましい波長の対は 690nm及び 900nmである。・・・
と記載されているように、一酸化炭素中毒における患者については、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度測定が必要であることは明らかである。
ところで、同摘記事項(3A-8)に、
「本発明の好ましい態様は、図6に提示された測定装置において、測定時間がチャンネル間で柔軟に分割されるものである。この場合、たとえば、ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされ、明らかにより短い時間がジスヘモグロビンの測定のために取っておかれるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される。測定において用いられる時間分割は固定された分割であることができるか、それとも各状況に応じて柔軟に変えることができる。」
と記載されていることから、同摘記事項(3A-8)には、上記(a)「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされ、明らかにより短い時間がジスヘモグロビンの測定のために取っておかれる」ことは、測定において用いられる時間分割は固定された分割であり、(b)「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされ、ジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」ことは、各状況に応じて柔軟に変えることができる記載されているものと認められる。
そして、前者(a)は、酸素飽和率の測定とジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビンの測定とが、時間的に固定分割されて測定され、後者(b)は、通常は酸素飽和率の測定が行われ、ジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビンの測定が必要になったときのみ、すなわち、通常行われる酸素飽和率の測定の結果から、ジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビン血症の患者の症状の監視が必要になったときのみ、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度測定を行うものであることは明らかであり、後者(b)のジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビン血症の患者の症状の監視が必要になった時は、前者(a)のように、酸素飽和率の測定とジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビンの測定とが、予め、時間的に固定分割されて測定する場合と異なり、通常の酸素飽和率の測定に加えて、一酸化炭素ヘモグロビンの測定を行うことになるから、後者(b)の、必要な時にのみジスヘモグロビンレベル測定する際には、通常の酸素飽和率の測定に加えて、人的操作により、ジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビンの測定を測定装置に指示し、一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を決定することになることは明らかである。
そうすると、引用発明の「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定され」る構成は、本願補正発明と同様に、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示する選択手段が、「前記患者が一酸化炭素中毒の疑いのあるときに、操作することにより、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段」の構成を意味し、本願補正発明と実質的な差異は認められない。

・相違点(う)について
(う-1)引用発明の「この3?6変調比について解くことにより、酸素飽和率レベルHbO2、ジスヘモグロビン DysHbの全濃度、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンの相対的濃度を、異なったヘモグロビン種によりもたらされた光吸収を用いて決定する」構成が、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンのうちの少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する演算手段を用いることを意味するものでああることは、上記「・相違点(あ)について」において検討したとおりである。
そうすると、引用発明の、「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」構成のうちで、「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされる」ことが、慣用のパルス酸素濃度計と同様に、2つの異なった波長を用いて、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求め、酸素飽和率を求めていることであり、「ジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」の構成は、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求めるほかに、ジスヘモグロビンレベルのうちの、少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を求める構成を新たに加えて測定していることであって、このことは、引用発明も本願補正発明と同様に、「前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示していない状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算し、前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示している状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる3波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する」ことを意味する。

(う-2)そうすると、本願補正発明と引用発明の実質的な相違点は、「『酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算し』、『酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算』することが、本願補正発明では、『酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算して表示し』、『酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算して表示する』しているのに対して、引用発明では、『酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算して表示し』、『酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算して』いるものの、『演算して表示する』構成を備えていない点」であることになるので、この点について検討する。
上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-8)に、
「 図6は本発明の測定装置の好ましい態様を示す。・・・使用者インターフェイス及びディスプレイ機能並びに測定装置の他の一般的な特性はマイクロプロセッサー10により規定されている。」
と記載されていることから、引用発明においても、ディスプレイ機能で何らかの表示を行うことは明らかである。
ところで、血液の各種のヘモグロビンを演算して求めた濃度を表示することは、周知である。
たとえば、特開平8-322822号公報に、
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は血液中のヘモグロビン濃度を無侵襲的かつ連続的に測定する装置に関する。
・・・
【0056】・・・そして図2のステップ106 に相当するステップでは、4種類のΦすなわち、Φ12、Φ32、Φ42、Φ52を求め、図2のステップ107 に相当するステップでは、求めたΦ12、Φ32、Φ42、Φ52と(10)?(12)式、(18)式および(19)式を代入した(14)?(17)式の連立方程式を計算し、So、Sc、Ex2 、Hbを求める。図2のステップ108 に相当するステップではCPU12は、求めたこれらの値を表示装置19に表示させる。
【0057】本実施例では、総ヘモグロビン濃度Hbの他に総ヘモグロビン中の酸化ヘモグロビン濃度So、一酸化炭素ヘモグロビン濃度Sc、還元ヘモグロビン濃度Sr(Sr=1-So-Sc より) も求めたが、図2のステップ107 に相当するステップにおいて、これらの濃度のすべてではなく、これらの濃度のうちの1つまたは複数を求め、図2のステップ108 に相当するステップにおいて、求めたそれらの濃度を表示するようにしても良い。」
と記載され、また、特開平7-255709号公報に、
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、生体中に存在する成分の濃度を光により非侵襲的に測定する濃度測定装置に関するものである。
・・・
【0034】を算出する。なお、同グラフの横軸は光照射点から光検出点までの距離d、縦軸は光吸収量OD(λ)を示しており、横軸の距離dは区画1?nで目盛ってある。
【0035】CPU14は、算出されたこの値をもとに、後述する,式を解き、ヘモグロビン酸素飽和度SO_(2)[%]、HbO_(2) 、Hb、CyOxの濃度変化を表示部15にグラフ表示する。」
と記載され、さらに、特開平10-318915号公報に、
「【0001】
【発明の属する分野】本発明は、サンプル中の複数の分析物の各々の濃度を測定するための分光光度分析に関する。特に、本発明は、血液中のいろいろなヘモグロビン種の濃度を決定するための分光光度分析に関する。
・・・
【0016】最後に、サンプルホールド変換器30に置かれた信号は、アナログ情報がディジタル値に変換されるアナログ-ディジタル変換器34を通って通過される。その後、生じたディジタル値は、メモリ42にこれらの値を記憶するマイクロプロセッサ38に送られる。それは、マイクロプロセッサ38が本発明による血液の分析物の値を計算するために用いるこれらの値であり、その結果はユーザーへ出力するための表示モジュール46へ送られる。表示モジュール46の右側に示された4つのヘモグロビンの値は、本発明によって計算された分析物の値の概算である。図2のフローチャートは、本発明によるMetHb,O_(2) Hb,RHbおよびCOHbの濃度を連続的に評価するための構成係数のいろいろな組において達成される高レベルステップを記載する。対象物間のO2 Hb,RHb,COHbおよびMetHbの濃度に変化がある場合、特に、ステップ104において、テストの対象物の母集団が決定される。好ましくは、変化は一般の母集団における変化と実質的に同様である。ステップ108において、テスト主題に対して、(a)4つのエミッターの各々から健康な組織を冒さない光プレチスモグラフィックデータ;および(b) O_(2 )Hb,RHb,COHbおよびMetHbの各々の濃度に対して健康な組織を冒す測定値を同様に集める。特に、健康な組織を冒さない光プレンチスモグラフィックデータに対して、チャネルに対応する4つの中心波長が、例えば632nm,671nm,813nmおよび957nmである場合、異なるスペクトル内容の測定値が4つのチャネルの各々から得られる。」
と記載されている。
そして、引用発明も上記周知例もともに血液中の各種のヘモグロビン濃度を算出して求めている点で共通することから、引用発明において、「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」構成により、2つの異なった波長を用いて、求めたオキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度や、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンのほかに、ジスヘモグロビンレベルのうちの、少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンを新たに加えて求めた相対的濃度を、上記周知例のごとく、「求めたヘモグロビンの濃度を表示する」構成を採用して、ディスプレイ機能に表示させることにより、本願補正発明のごとく、「酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算し」、「酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算」することが、「酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算して表示し」、「酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算して表示する」ように構成することは、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知の技術事項から予測される範囲内のものであって、格別のものではない。

なお、請求人は、当審から通知した審尋に対する回答書において、
「引用文献1の第28頁第19-26行には、『センサーの1つが、ジスヘモグロビンレベルを測定するために短時間だけ用いられ、他のセンサーは連続的に、例えば機能的な酸素飽和度の測定のために用いられる場合ですら好ましい。』と記載されております。また、引用文献1の第30頁第5-10行には、『測定時間がチャネル間で柔軟に分割されるものである。この場合、たとえば、ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされ、明らかにより短い時間がジスヘモグロビンの測定のためにとっておかれるか、またはジスヘモグロビンは必要な時に決定される。測定において用いられる時間分割は固定された分割であることができるか、それとも各状況に応じて柔軟に変えることができる。』と記載されております。
以上の記載にはセンサーの駆動に関し、操作することは何ら示されておりません。まして、『患者が一酸化炭素中毒の疑いのあるときに、操作することにより、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段』については何ら開示・示唆がないものであります。
更に、第32頁-第36頁には、『センサーの駆動を操作する手段』という文言は全く現れません。」
旨の主張をしている。
確かに、引用刊行物Aには、「センサーの駆動を操作する手段」の記載はないものの、上記「相違点(い)について」の(い-2)において検討したように、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-4)、(3A-11)及び(3A-6)の記載から、一酸化炭素中毒における患者については、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度測定が必要であることは明らかであり、さらに、同摘記事項(3A-8)の、
「本発明の好ましい態様は、図6に提示された測定装置において、測定時間がチャンネル間で柔軟に分割されるものである。この場合、たとえば、ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされ、明らかにより短い時間がジスヘモグロビンの測定のために取っておかれるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される。測定において用いられる時間分割は固定された分割であることができるか、それとも各状況に応じて柔軟に変えることができる。」
という記載のうち、「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされ、ジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」ことは、通常は酸素飽和率の測定が行われ、ジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビンの測定が必要になったときのみ、すなわち、通常行われる酸素飽和率の測定の結果から、ジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビン血症の患者の症状の監視が必要になったときのみ、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度測定を行うものであることは明らかであり、この「一酸化炭素ヘモグロビン血症の患者の症状の監視が必要になったときのみ、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度測定を行う」ことは、通常の酸素飽和率の測定に加えて、一酸化炭素ヘモグロビンの測定を行うことになるから、人的操作により、ジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビンの測定を測定装置に指示し、一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を決定するものであることは明らかである。
そうすると、引用発明の「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定され」る構成は、本願補正発明と同様に、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示する選択手段が、「前記患者が一酸化炭素中毒の疑いのあるときに、操作することにより、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段」の構成を意味するから、請求人の主張は採用できないものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4) 補正却下の決定についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下しなければならないものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年7月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成23年2月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 2 (1)」の「ア 本件補正前(平成22年12月22日付け手続補正書)の特許請求の範囲の請求項1」に記載したように、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
異なる複数の光波長を発する光源と、
前記光源から発せられ患者の生体組織を透過または反射した光を受光する受光手段と、
血液の脈動に起因して前記受光手段からの各波長における受光出力信号の変動に基づいて、各波長間における減光度比Φを演算する減光度比演算手段と、
前記減光度比演算手段からの出力に基づいて少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する濃度比演算手段と、
前記患者が一酸化炭素中毒の疑いのあるときに一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段とを具備し、
前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示していない状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算し、
前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示している状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる3波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。」

2.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項は上記「第2 2 (3)」の(ア)に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比・判断
(3-1)本願発明と引用発明との対比
上記「第2 2 (3)」の(イ)で検討した本願補正発明は、上記本願発明に、「、操作することにより、」の構成、「して表示」の構成、及び「して表示」の構成を付加したものであるから、上記「(イ)本願補正発明と引用発明との対比・判断」の(イ-1)の本願補正発明と引用発明とを対比を参考にして、本願発明と引用発明を対比すると、本願発明と引用発明とは、

「異なる複数の光波長を発する光源と、
前記光源から発せられ患者の生体組織を透過または反射した光を受光する受光手段と、
血液の脈動に起因して前記受光手段からの各波長における受光出力信号の変動に基づいて、各波長間における減光度比Φを演算する減光度比演算手段と、
前記減光度比演算手段からの出力に基づいて少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算する濃度演算手段と、
一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示する選択手段とを具備し、
前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示していない状態においては、前記濃度演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度を演算し、
前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示している状態においては、前記濃度演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる複数波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算するヘモグロビン濃度測定装置。」である点で一致し、次の相違点(え)?相違点(か)において相違する。

・相違点(え)
少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算する濃度演算手段が、本願発明では、「少なくとも酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する濃度比演算手段」であるのに対して、引用発明では、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンのうちの少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を決定する点。

・相違点(お)
一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示する選択手段が、本願発明では、「前記患者が一酸化炭素中毒の疑いのあるときに一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段」であるのに対して、引用発明では、必要な時にのみジスヘモグロビンレベルのうちの少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を決定する点。

・相違点(か)
「前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示していない状態においては、前記濃度演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度を演算し、 前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示している状態においては、前記濃度演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる複数波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算する」ことが、本願補正発明では、「前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示していない状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算し、前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示している状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる3波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する」ことであるのに対して、引用発明では、「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」構成のうちで、「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされる」ことが、慣用のパルス酸素濃度計と同様に、2つの異なった波長を用いて、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求め、酸素飽和率を求めていることであり、「ジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」の構成は、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求めるほかに、ジスヘモグロビンレベルのうちの、少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を求める構成を新たに加えて測定している点

(3-2)当審の判断
・相違点(え)について
相違点(え)は、上記(イ-1)の本願補正発明と引用発明との相違点(あ)と同じ相違点であることから、上記(イ-2)の「・相違点(あ)について」において検討したと同様の理由、すなわち、引用発明の「この3?6変調比について解くことにより、酸素飽和率レベルHbO2、ジスヘモグロビン DysHbの全濃度、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンの相対的濃度を、異なったヘモグロビン種によりもたらされた光吸収を用いて決定する」構成が、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンのうちの少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する演算手段を用いていることは明らかであり、本願発明と実質的な差異は認められない。

・相違点(お)について
上記(イ-1)の本願補正発明と引用発明との「・相違点(い)」と比較すると、相違点(お)は、本願補正発明において、「、操作することにより、」の構成を削除した構成と引用発明との相違点であることを考慮して判断する。
(お-1)引用発明において、一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を決定することが、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを意味することは、上記「・相違点(え)について」において検討したとおりである。

(お-2)また、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-4)に、
「危篤の病気の患者の血液組成は、薬物治療、病気の性質または医療の治療もしくは測定の結果として、健康な人の血液組成と異なることがある。この型の新規で、重要な治療はいわゆる酸化窒素(NO)治療であって、これは患者のメタヘモグロビン(MetHb)レベルを有意に上昇させ得る。他の普通の場合の不正確な測定は一酸化炭素中毒であり、これは患者における高一酸化炭素ヘモグロビン(HbCO)レベルを伴う。酸素飽和の実際の程度の連続的な非-侵襲性の監視は、ジスヘモグロビンレベルは比較的急速に上昇することがあり、これは血液試料に基づく分析が十分でないことを意味するから、特にNO治療の間に重要である。酸素飽和率の測定は、救出手術及び一酸化炭素ヘモグロビン中毒後の追跡監視においても非常に重要である。」
と記載され、また、同摘記事項(3A-11)に、
「表1(25頁)には、一酸化炭素ヘモグロビン血症の患者の症状に対して、900nm及び690nmの波長の光を用いる」
と記載され、さらに、同摘記事項(3A-6)に、
「HbCO及び MetHbの両方が、この変調比に同じように影響を及ぼすから、好ましい波長の対は 690nm及び 900nmである。・・・
と記載されているように、一酸化炭素中毒における患者については、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度測定が必要であることは明らかである。
ところで、同摘記事項(3A-8)に、
「本発明の好ましい態様は、図6に提示された測定装置において、測定時間がチャンネル間で柔軟に分割されるものである。この場合、たとえば、ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされ、明らかにより短い時間がジスヘモグロビンの測定のために取っておかれるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される。測定において用いられる時間分割は固定された分割であることができるか、それとも各状況に応じて柔軟に変えることができる。」
と記載されていることから、同摘記事項(3A-8)には、上記(a)「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされ、明らかにより短い時間がジスヘモグロビンの測定のために取っておかれる」ことは、測定において用いられる時間分割は固定された分割であり、(b)「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされ、ジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」ことは、各状況に応じて柔軟に変えることができる記載されているものと認められる。
そして、前者(a)は、酸素飽和率の測定とジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビンの測定とが、時間的に固定分割されて測定され、後者(b)は、通常は酸素飽和率の測定が行われ、ジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビンの測定が必要になったときのみ、すなわち、通常行われる酸素飽和率の測定の結果から、ジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビン血症の患者の症状の監視が必要になったときのみ、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度測定を行うものであることは明らかであり、後者(b)のジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビン血症の患者の症状の監視が必要になった時は、前者(a)のように、酸素飽和率の測定とジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビンの測定とが、予め、時間的に固定分割されて測定する場合と異なり、通常の酸素飽和率の測定に加えて、一酸化炭素ヘモグロビンの測定を行うことになるから、後者(b)の、必要な時にのみジスヘモグロビンレベル測定する際には、通常の酸素飽和率の測定に加えて、人的操作により、ジスヘモグロビンのうちの、例えば、一酸化炭素ヘモグロビンの測定を測定装置に指示し、一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を決定することになることは明らかである。
そうすると、引用発明の「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定され」る構成は、本願補正発明と同様に、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を演算することを指示する選択手段が、「前記患者が一酸化炭素中毒の疑いのあるときに一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示する選択手段」の構成を意味し、本願発明と実質的な差異は認められない。

・相違点(か)について
相違点(か)は、上記(イ-1)の本願補正発明と引用発明との相違点(う)において、本願補正発明の「して表示」の構成、及び「して表示」の構成を削除した構成と引用発明との相違点であることを考慮して判断する。
引用発明の「この3?6変調比について解くことにより、酸素飽和率レベルHbO2、ジスヘモグロビン DysHbの全濃度、たとえば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンの相対的濃度を、異なったヘモグロビン種によりもたらされた光吸収を用いて決定する」構成が、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン及びジスヘモグロビンのうちの少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する演算手段を用いることを意味するものでああることは、上記「・相違点(え)について」において検討したとおりである。
そうすると、引用発明の、「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされるか、またはジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」構成のうちで、「ほとんどの時間は、酸素飽和率の測定に費やされる」ことが、慣用のパルス酸素濃度計と同様に、2つの異なった波長を用いて、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求め、酸素飽和率を求めていることであり、「ジスヘモグロビンレベルは必要な時にのみ決定される」の構成は、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビンの相対的濃度を求めるほかに、ジスヘモグロビンレベルのうちの、少なくとも一酸化炭素ヘモグロビンの相対的濃度を求める構成を新たに加えて測定していることであって、このことは、引用発明も本願発明と同様に、「前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示していない状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた異なる2波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの濃度比を演算し、前記選択手段が一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算することを指示している状態においては、前記濃度比演算手段は、前記光源により発せられた少なくとも異なる3波長の光が生体組織を透過または反射した光を前記受光手段により受光することにより出力された受光出力信号の変動に基づいて、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンおよび一酸化炭素ヘモグロビンの濃度比を演算する」ことを意味することから、本願発明と実質的な差異は認められない。

してみると、本願発明の発明特定事項は、すべて引用刊行物Aに示されているものであって、本願発明は、引用刊行物Aに記載された発明である。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-17 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-20 
出願番号 特願2008-89666(P2008-89666)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 113- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼場 正光  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 小野寺 麻美子
信田 昌男
発明の名称 ヘモグロビン濃度測定装置  
代理人 本田 崇  

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