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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 F24C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F24C
管理番号 1264054
審判番号 不服2012-4646  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-12 
確定日 2012-10-04 
事件の表示 特願2005-263389号「電子レンジ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年3月29日出願公開、特開2007-78199号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年9月12日の出願であって、平成23年12月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年3月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされたものである。

第2 平成24年3月12日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年3月12日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「被加熱物を収容する加熱室と、前記加熱室の開口部を開閉する扉と、前記扉に設けられたチョーク構造を有するドアフレームとチョークカバーと、前記被加熱物を加熱する加熱手段と、前記チョークカバーに装着され閉成状態の前記扉と前記加熱室の前記開口部縁との間をシールする弾性材からなる中空状のガスケットと、前記ガスケットの内周側に設けられ前記ドアフレームと前記チョークカバーとの間をシールする小突条とを備え、前記ガスケットと前記チョークカバーとの間に空隙を形成するように前記ガスケットに傾斜面を設け、前記ガスケットはゴムからなり中空部を有しかつ長手方向に対し垂直な断面が半円形状であり、外面長手方向にひれ状の突条を一体に形成され前記扉に略矩形環状に装着されて、前記ひれ状の突条と前記中空部とが変形し前記開口部縁に接触密着して前記ドアフレームと前記開口部縁との間をシールするものであって、
前記ひれ状の突条は前記ガスケットの半円形状断面における中心線上に位置し、前記空隙は前記ガスケットの半円形状断面における中心線から外側にわたって形成され、前記ドアフレームは前記扉が閉成時に前記チョークカバーより前記開口縁に接近して位置し、前記小突条は、前記ガスケットの中空部が変形しても前記ドアフレームに対し隙間を生じない位置に形成された電子レンジ。」と補正された。
上記請求項1に係る補正は、発明を特定するための事項である、ガスケットに関し、「前記ガスケットの内周側に設けられ前記ドアフレームと前記チョークカバーとの間をシールする小突条とを備え、前記ガスケットと前記チョークカバーとの間に空隙を形成するように前記ガスケットに傾斜面を設け」るものであって、その断面が「長手方向に対し垂直な断面」であり、「前記ひれ状の突条と前記中空部とが変形し」て前記開口部縁に接触密着し、「前記ひれ状の突条は前記ガスケットの半円形状断面における中心線上に位置し、 」「前記空隙は前記ガスケットの半円形状断面における中心線から外側にわたって形成され、前記小突条は、前記ガスケットの中空部が変形しても前記ドアフレームに対し隙間を生じない位置に形成された 」ることを限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用出願
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願2005-230092号(特開2007-46657号公報参照)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下「先願明細書等」という。)には、図1?3とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
弾性材料からなり、中空部分を有する筒部と、該筒部に形成され取付に寄与する係止部と、上記筒部の上記係止部と反対側に形成されたヒレ部とからなるパッキンにおいて、
上記筒部と上記係止部とが断面略コの字形状をなすように形成されているとともに、略コの字形状開口部分において、上記筒部には上記係止部と上記筒部との間隔が広くなるように傾斜部が形成されていることを特徴とするパッキン。
【請求項2】
上記筒部と上記係止部の境界部分近傍において、上記略コの字形状開口部と反対側に突出部が形成されていることを特徴とする請求項1記載のパッキン。
【請求項3】
上記弾性材料がシリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のパッキン。」(特許請求の範囲)
(2)「本発明は、例えば、電子レンジ・・・(中略)・・・に好適に使用可能なパッキンに係り、特に、軽微な押圧でも充分な気密性が得られるものに関する。」(段落【0001】)
(3)「図1に示すように、・・・(中略)・・・パッキン1がある。中空部2aを有する筒部2には、断面略コの字形状となるように係止部3が形成され、また、係止部3の反対側には、ヒレ部4が形成されている。」(段落【0011】)
(4)「パッキン1の成形に際しては、・・・(中略)・・・押出成形により成形することが好ましい。このようにして所定形状に成形した後、加熱することで架橋をし、パッキン1とする。
本発明においては、上記したように、ヒレ部4、筒部2に形成された中空部分2a、筒部2に形成された傾斜部2b、を有している。そのため、「ヒレ部4が筒部2側に倒れることによるクッション」「中空部分2aが潰れることによるクッション」「傾斜部2bにより筒部2全体が倒れることによるクッション」の3つのクッション要素を得ることができる。そのため、軽微な力であっても、充分な気密性を得ることが可能となる。
尚、図1に示すように、筒部2と係止部3の境界部分近傍において、略コの字形状開口部と反対側に突出部5を形成しても良い。こうすることで、パッキン1の略コの字形状開口部と反対側に隙間が生じた場合でも、突出部5によりこの隙間を塞ぐことができる。」(段落【0014】?【0016】)
(5)「図3は、図1に示すパッキン1を上記のようにリング状とし、電子レンジ10に使用されるパッキンとして適用した例である。電子レンジ10の扉11の内側は、樹脂製の基板12が扉11に嵌め込まれる構造となっており、この基板12にパッキン1が取付けられる。基板12へのパッキン1の取付けは、図3(B)に示すように、筒部2と係止部3とによる断面略コの字形状部分に基板12を嵌入することによりなされる。このようにパッキン1が取付けられた状態で扉11を閉めると、パッキン1は押圧を受けることになるが、この押圧は基材12が歪まないように、触れる程度の軽微な押圧となる。本発明によるパッキン1であれば、上記したように、中空部分2a、ヒレ部4、傾斜部2bの3つのクッション要素を有していることから、このような軽微な押圧であっても充分な気密性を得ることができる。そのため、電子レンジ10のスチーム機能を実際に使用してみたが、水蒸気が漏れるようなことは全くなかった。
尚、本発明は、上記した図1に示すようなパッキンに限定されるものではない。例えば、図2に示すように、ヒレ部4を垂直に形成しても良い。又、図1に示すパッキンではヒレ部4は、略コの字形状開口部側が先端となるように形成されているが、図1に示すパッキンとは逆に、略コの字状開口部側が根元となるようにヒレ部4を形成しても良い。」(段落【0019】及び【0020】)
(6)図1のパッキンの断面図及び図3には、パッキン1の断面が中空部分2aを有する筒部2が略半円状であること、
ヒレ部4が、全体として、筒部2の係止部3の反対側で、略半円状の筒部2の中心線上に位置し、筒部2から突出するように設けられること、
突出部5が、係止部3の略コ字状開口部に反対側で、筒部2との境界付近であって、中空部分2aには至らない場所に成形されること、そして、
ヒレ部4は、具体的には係止部3の略コ字状開口部側が先端となり、略中心線近傍で略コ字状開口部の反対側にその根元が取り付けられていることが図示される。
(7)図3(b)は図3(a)のB-B’斜視図であることから、図3(b)には、ヒレ部4の先端が扉11の外側であって外向きに傾斜することや、
傾斜部2bにより基板12と空隙を生じ、その空隙及び傾斜部12bは略半円状の筒部2の中心線から外側にわたって形成されること、
扉11が、垂直の外側の外壁板と、その内側の垂直の部分及びその部分の上面で内側へと水平に延びる部分からなる板を有し、基板12が、その板の間で上面に水平に嵌め込まれること、
突出部5は内側に設けられ扉11の内側の垂直板に接することが図示される。
(8)図3(a)には、内部が空間で、開口部に扉11を有する電子レンジ1であって、扉11にパッキン1が略矩形で環状につながって配置される様子が図示される。
(9)図2のパッキンの断面図には、ヒレ部4が、筒部2の係止部3の反対側で、略半円状の筒部2の中心線上に取り付けられて、その中心線上に位置することが図示される。
これらの記載事項(1)?(5)及び(6)?(9)の図示内容を総合すると、上記先願明細書等には、「電子レンジ10の内部の空間と、
前記空間の開口部に設けられる扉11と、
扉11が、垂直の外側の外壁板と、その内側の垂直の部分及びその部分の上面で内側へと水平に延びる部分からなる板を有し、基板12が、その板の間で上面に水平に嵌め込まれるものであり、
前記基板12に取り付けられ扉11を閉めると押圧を受けて電子レンジ10の気密性を得る中空部分2aを有する筒部2を有するパッキン1と、
パッキン1の内側に設けられ前記扉11の内側の垂直の板の隙間を塞ぐ突出部5とを備え、
前記パッキン1と前記基板12との間に空隙が生じるように前記パッキン1に傾斜部2b形成され、
前記パッキン1はシリコーンゴムからなり中空部分2aを有する筒部2を有しかつ断面が略半円状であり、筒部2の係止部3の反対側にヒレ部4が突出するように設けられるものであって、パッキン1は押出成形により所定形状に成形され、前記扉11に略矩形で環状につながって配置されて、『ヒレ部4が筒部2側に倒れることによるクッション』『中空部分2aが潰れることによるクッション』『傾斜部2bにより筒部2全体が倒れることによるクッション』の3つのクッション要素により開口部の扉11を閉めたことによる押圧を受けて電子レンジ10の気密性を得るものであって、
ヒレ部4は全体として、パッキン1の筒部2の係止部3の反対側で、略半円状の筒部2の中心線上に位置し、
空隙及び傾斜部12bは略半円状の筒部2の中心線から外側にわたって形成され、
突出部5が、係止部3の略コ字状開口部に反対側で、筒部2との境界付近であって、中空部分2aには至らない場所に成形される電子レンジ10。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「電子レンジ10の内部の空間」は、その機能・構造からみて、前者の「被加熱物を収容する加熱室」に相当し、以下同様に、後者の「前記空間の開口部に設けられる扉11」は前者の「前記加熱室の開口部を開閉する扉」に、後者の「垂直の外側の外壁板と、その内側の垂直の部分及びその部分の上面で内側へと水平に延びる部分からなる板」は前者の「ドアフレーム」に、後者の「基板12」は前者の「カバー」に、後者の「扉11が、垂直の外側の外壁板と、その内側の垂直の部分及びその部分の上面で内側へと水平に延びる部分からなる板を有し、基板12が、その板の間で上面に水平に嵌め込まれるものであ」る態様は前者の「扉に設けられた」「ドアフレームと」「カバー」からなる態様に、後者の「前記基板12に取り付けられ扉11を閉めると押圧を受けて電子レンジ10の気密性を得る中空部分2aを有する筒部2を有するパッキン1」は前者の「カバーに装着され閉成状態の前記扉と前記加熱室の前記開口部縁との間をシールする弾性材からなる中空状のガスケット」に、後者の「前記パッキン1と前記基板12との間に空隙が生じるように前記パッキン1に傾斜部2b形成され」る態様は前者の「前記ガスケットと前記」「カバーとの間に空隙を形成するように前記ガスケットに傾斜面を設け」る態様に、後者の「パッキン1はシリコーンゴムからなり中空部分2aを有する筒部2を有」する態様は前者の「ガスケットはゴムからなり中空部を有」する態様に、後者の「断面が略半円状であり、筒部2の係止部3の反対側にヒレ部4が突出するように設けられるものであ」る態様は前者の「長手方向に対し垂直な断面が半円形状であり、外面長手方向にひれ状の突条を」「形成され」る態様に、後者の「前記扉11に略矩形で環状につながって配置され」ることは前者の「扉に略矩形環状に装着さ」れることに、後者の「ヒレ部4は全体として、パッキン1の筒部2の係止部3の反対側で、略半円状の筒部2の中心線上に位置」することは前者の「ひれ状の突条は前記ガスケットの半円形状断面における中心線上に位置」することに、後者の「空隙及び傾斜部12bは略半円状の筒部2の中心線から外側にわたって形成され」ることは前者の「前記空隙は前記ガスケットの半円形状断面における中心線から外側にわたって形成され」ることにそれぞれ相当する。
また、後者のパッキン1は「扉11に略矩形で環状につながって配置され」ているから、後者の「パッキン1の内側に設けられ前記扉11の内側の垂直の板の隙間を塞ぐ突出部5」は前者の「ガスケットの内周側に設けられ前記ドアフレームと前記」「カバーとの間をシールする小突条」に相当し、後者のパッキン1は「押出成形により所定形状に成形され」るものであるから、後者の「シリコーンゴムからなり中空部分2aを有する筒部2を有しかつ断面が略半円状であり、筒部2の係止部3の反対側にヒレ部4が突出するように設けられる」パッキン1は、前者と同様に一体に形成されるものである。
さらに、後者の扉11は「空間の開口部に設けられ」、「扉11が、垂直の外側の外壁板と、その内側の垂直の部分及びその部分の上面で内側へと水平に延びる部分からなる板を有し、基板12が、その板の間で上面に水平に嵌め込まれるものであり」、パッキン1は「前記基板12に取り付けられ扉11を閉めると押圧を受けて電子レンジ10の気密性を得る」ものであるから、後者のパッキン1は、前者のガスケットが「開口部縁に接触密着して前記ドアフレームと前記開口部縁との間をシール」ことと同様の作動をなすものといえる。
そうすると、後者のパッキン1についての「『ヒレ部4が筒部2側に倒れることによるクッション』『中空部分2aが潰れることによるクッション』『傾斜部2bにより筒部2全体が倒れることによるクッション』の3つのクッション要素により開口部の扉11を閉めたことによる押圧を受けて電子レンジ10の気密性を得るもの」であることは前者のガスケットについての「前記ひれ状の突条と前記中空部とが変形し前記開口部縁に接触密着して前記ドアフレームと前記開口部縁との間をシールするもの」であることに相当する。
また後者は電子レンジ10であるから、当然加熱するための手段を有するものであり、前者の「被加熱物を加熱する加熱手段」に相当する構成を有する。
したがって、両者は、「被加熱物を収容する加熱室と、前記加熱室の開口部を開閉する扉と、前記扉に設けられたドアフレームとカバーと、前記被加熱物を加熱する加熱手段と、前記カバーに装着され閉成状態の前記扉と前記加熱室の前記開口部縁との間をシールする弾性材からなる中空状のガスケットと、前記ガスケットの内周側に設けられ前記ドアフレームと前記カバーとの間をシールする小突条とを備え、
前記ガスケットと前記チョークカバーとの間に空隙を形成するように前記ガスケットに傾斜面を設け、
前記ガスケットはゴムからなり中空部を有しかつ長手方向に対し垂直な断面が半円形状であり、外面長手方向にひれ状の突条を一体に形成され前記扉に略矩形環状に装着されて、前記ひれ状の突条と前記中空部とが変形し前記開口部縁に接触密着して前記ドアフレームと前記開口部縁との間をシールするものであって、
前記ひれ状の突条は前記ガスケットの半円形状断面における中心線上に位置し、
前記空隙は前記ガスケットの半円形状断面における中心線から外側にわたって形成された電子レンジ。」である点で一致する。
そして、以下の点で、一応相違すると認められる。
相違点A:ドアフレームとカバーに関して、本願補正発明は「チョーク構造を有するドアフレームとチョークカバー」であるのに対して、引用発明は電子レンジ10の「空間の開口部に設けられる扉11」であって「扉11が、垂直の外側の外壁板と、その内側の垂直の部分及びその部分の上面で内側へと水平に延びる部分からなる板を有し、基板12が、その板の間で上面に水平に嵌め込まれるものであ」るものの、上記のようなものか否か明確でない点。
相違点B:ドアフレームについて、本願補正発明が「扉が閉成時に前記チョークカバーより前記開口縁に接近して位置」するのに対して、引用発明はそのようなものではない点。
相違点C:小突条に関して、本願補正発明が「ガスケットの中空部が変形しても前記ドアフレームに対し隙間を生じない位置に形成され」ているのに対して、引用発明は「係止部3の略コ字状開口部に反対側で、筒部2との境界付近であって、中空部分2aには至らない場所に成形される」ものの上記のような位置か否か明確でない点。

そこで、上記一応の相違点について検討する。
(1)相違点Aについて
電子レンジにおいて、ドアの、加熱室の開口部の開口部縁に近接する部分を、チョーク構造を有するドアフレームとチョークカバーとすることは、例えば、特開平2-178524号公報や特開平5-26459号公報等に示されるように、当業者が通常なす程度の従来より周知の事項にすぎずない。そして、引用発明の扉11の「垂直の外側の外壁板と、その内側の垂直の部分及びその部分の上面で内側へと水平に延びる部分からなる板」及び「その板の間で上面に水平に嵌め込まれる」基板12は上記周知のものと同様の構造であることからも、引用発明の扉11の上記構造を、チョーク構造を有するドアフレームとチョークカバーとすることは、当業者が直ちになす程度の設計事項といえ、そのことによる何ら格別の効果もない。
したがって、相違点Aに関し、本願補正発明と引用発明とは実質的に相違しない。

(2)相違点Bについて
上記特開平2-178524号公報及び特開平5-26459号公報には、さらに、電子レンジにおいて、ドアフレームを、扉が閉成時に前記チョークカバーより開口縁に接近して位置させて電波漏洩を防止すること示されており、当該事項も電子レンジにおいては従来より周知の事項である。
そして、この構成について電波漏洩を防止すること以外には本願補正発明が格別の効果も奏しないことから、引用発明に、単に上記周知の事項を適用することは、当業者が適宜採用し得た単なる設計上の事項にすぎず、相違点Bについても本願補正発明と引用発明とは実質的に相違しない。

(3)相違点Cについて
引用発明の突出部5は「係止部3の略コ字状開口部に反対側で、筒部2との境界付近であって、中空部分2aには至らない場所に成形される」ものであって、変形する中空部分2aより下方で基板12に係止される境界部分であるから、中空部分2aの変形ではその取り付けられる部分が変形しないことを想起させるものである。
また、中空部分2aの変形により突出部5の形成される部分が移動したり傾斜すると、突出部5の「扉11の内側の垂直の板の隙間を塞ぐ」との基本的作用が失われることも当業者にとって自明であって、そのような変形をしない位置に設けることも当業者が当然行う筈の設計的事項である。
さらに、本願補正発明の「ガスケットの中空部が変形しても前記ドアフレームに対し隙間を生じない位置に形成され」る小突条の具体的な位置は、図4?6に示される、中空部11を有するチューブ状の部分であって、チョークカバー10に係止装着する部分に隣接し、且つ中空部11に至らない部分であり、この具体的な位置においても引用発明は本願補正発明と同じである。
そうすると、相違点Cに関し、本願補正発明と引用発明とは実質的に相違しない。
付言すると、出願当初の明細書及び特許請求の範囲には、小突条についての「ガスケットの中空部が変形しても前記ドアフレームに対し隙間を生じない位置に形成され」るとの記載、つまり、小突条の形成される位置が変形を防止する要因であるとの直接的記載はない。そして、図4?6では小突起とその取付部が変形していないことから、その位置が、「ガスケットの中空部が変形しても前記ドアフレームに対し隙間を生じない位置」とするものであるので、同様の位置である引用発明においても同様の作用をなす位置であるといえる。

そして、上記相違点A?Cを合わせみても、本願補正発明と引用発明とに実質的な相違はなく、本願補正発明は、引用発明と実質的に同一である。

なお、上記第2の2.の(6)で述べたとおり、「ヒレ部4が、全体として、筒部2の係止部3の反対側で、略半円状の筒部2の中心線上に位置」するものであって、本願補正発明と同じく「中心線上に位置」するものであるが、仮に本願補正発明が中心線上で取り付けられるものであるとしても、引用発明の「ヒレ部4は、具体的には係止部3の略コ字状開口部側が先端となり、略中心線近傍で略コ字状開口部の反対側にその根元が取り付けられている」ものであるから、略中心線上に取り付けられるものであって適宜変更できる設計上の微差にすぎず、さらに、上記第2の2.の(5)及び(9)で摘示したように、ヒレ部4を中心線上に取り付ける例も記載されていて、この例によると、実質的な相違点とはならない。
また、回答書における補正案をみても、上記第2の2.の(5)や(7)で摘示したように外向きに傾倒したものが記載されていて、補正案に係る発明と先願明細書等に記載された発明とは実質的に同一であるといわざるを得ない。

4.むすび
上記したように、本願補正発明は、引用発明と実質的に同一であり、しかも、本願補正発明の発明者が引用発明の発明者と同一であるとも、また本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願補正発明は特許法第29条の2の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年6月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「被加熱物を収容する加熱室と、前記加熱室の開口部を開閉する扉と、前記扉に設けられたチョーク構造を有するドアフレームとチョークカバーと、前記被加熱物を加熱する加熱手段と、前記チョークカバーに装着され閉成状態の前記扉と前記加熱室の前記開口部縁との間をシールする弾性材からなる中空状のガスケットとを備え、
前記ガスケットはゴムからなり中空部を有しかつ断面が半円形状であり、外面長手方向にひれ状の突条を一体に形成され前記扉に略矩形環状に装着されて、前記開口部縁に接触密着して前記ドアフレームと前記開口部縁との間をシールし、前記ドアフレームは前記扉が閉成時に前記チョークカバーより前記開口縁に接近して位置する電子レンジ。」

1.引用出願
原査定の拒絶の理由に引用された先願明細書等の記載事項は、前記「第2の2.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記「第2の1.」で検討した本願補正発明を特定するための事項である、ガスケットに関し、「前記ガスケットの内周側に設けられ前記ドアフレームと前記チョークカバーとの間をシールする小突条とを備え、前記ガスケットと前記チョークカバーとの間に空隙を形成するように前記ガスケットに傾斜面を設け」るものであって、その断面が「長手方向に対し垂直な断面」であり、「前記ひれ状の突条と前記中空部とが変形し」て前記開口部縁に接触密着し、「前記ひれ状の突条は前記ガスケットの半円形状断面における中心線上に位置し、 」「前記空隙は前記ガスケットの半円形状断面における中心線から外側にわたって形成され、前記小突条は、前記ガスケットの中空部が変形しても前記ドアフレームに対し隙間を生じない位置に形成された 」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2の3.」に記載したとおり、引用発明と実質的に同一であるから、本願発明も、同様に、引用発明と実質的に同一である。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明と実質的に同一であり、しかも、本願発明の発明者が引用発明の発明者と同一であるとも、また本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-01 
結審通知日 2012-08-07 
審決日 2012-08-21 
出願番号 特願2005-263389(P2005-263389)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (F24C)
P 1 8・ 575- Z (F24C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一ノ瀬 覚  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 長浜 義憲
亀田 貴志
発明の名称 電子レンジ  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 永野 大介  
代理人 藤井 兼太郎  

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