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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する G01N 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する G01N 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する G01N |
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管理番号 | 1264529 |
審判番号 | 訂正2012-390086 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2012-07-03 |
確定日 | 2012-09-21 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3377209号に関する訂正審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3377209号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり,請求項7?13について,訂正することを認める。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件審判の請求の趣旨は,特許第3377209号(平成4年6月8日国際特許出願,平成14年12月6日設定登録)の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり,すなわち,下記訂正事項1および2のとおり訂正することを求めるものである。 1 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項7において「・・・形成されていることを特徴とする分光分析装置。」とあるのを,「形成されており、 前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記スリットを通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記スリットにおいて焦点を結ばず、 前記サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ、 前記光検出器は電荷結合素子であることを特徴とする分光分析装置。」と訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8?13も同様に訂正する)。 2 訂正事項2 本件特許明細書の「本発明は、また、この方法を実施する装置を提供する。」(特許公報5欄5?6行)を,「また、本発明は、サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と、前記スペクトルを分析する手段と、光検出器と、前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段とを具備する分光分析装置であって、前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし、前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されており、前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記スリットを通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記スリットにおいて焦点を結ばず、前記サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ、前記光検出器は電荷結合素子であることを特徴とする分光分析装置を提供する。」と訂正する。 第2 当審の判断 1 訂正の目的等について (1)訂正事項1 訂正事項1は,特許請求の範囲の請求項7において,特定事項として,「前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記スリット30を通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記スリットにおいて焦点を結ばず」(以下「特定事項a」という),「前記サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ」(以下「特定事項b」という)および「前記光検出器は電荷結合素子である」(以下「特定事項c」という)を追加するものである。 ア まず,特定事項aは,訂正前の特定事項である「スリット」による共焦点作用を説明するものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるいえる。 そして,本件特許明細書には「空間フィルタ14は2つのレンズ32,34と、紙面に鉛直に延びるスリット30を有するスクリーン31とを備えている。レンズ32は散乱された光の平行ビームをスリット30を通過する非常に緊密な焦点に絞り込まれ、レンズ34はこの光を再び平行化して平行ビームに戻す。入力レーザビーム10は同様に非常に小さいスポットに絞り込まれてスリット30を通過する。このスリット30の効果は顕微鏡対物レンズ16が共焦点的に作用することにある。すなわち、実質的にレンズ16の焦点19で散乱された光だけがスリット30を通過する。破線36で示したように、焦点19の前または後で散乱される光は穴30で焦点を結ばないため、実質的にスクリーン31により遮断される。」(特許公報4頁7欄3?14行,下線は当審にて付与する)と記載されていることからみて,特定事項aが,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであり,特定事項aの追加は,この記載に基づくものであるといえる。 イ 次に,特定事項bは,訂正前の特定事項である「サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段」において,その照射と集光とに「同一のレンズ」を用いることを限定しようとするものである。 そして,本件特許明細書には「第1図に示される装置の第1の実施例はWO90/07108号公報に示された装置に基づいており、引用によりここに導入される(詳細については同公報参照)。入力レーザビーム10は光路に45゜に置かれたダイクロイックフィルタ12により90゜反射される。次いで、このレーザビームは顕微鏡対物レンズ16に送られる。このレンズはこのレーザビームをサンプル18上の焦点19におけるスポットに焦点を結ばせる。光はこの照射されたスポットでサンプルにより散乱され、顕微鏡対物レンズ16により集光され、平行ビームに平行化(コリメート)され、ダイクロイックフィルタ12に戻る。フィルタ12は入力レーザビーム10と同じ周波数を持つレーリー散乱光を遮断し、ラマン散乱光を伝送する。ラマン散乱光は次いでラマン分析器20に送られる。」(特許公報3頁5欄20?33行,下線は当審にて付与する)と記載され,また,同書には「第1図のものと同じエレメントに空間フィルタ14を加えた第4図の実施例を使用することにより克服できる。第1図で使用したのと同じ参照番号が使用されている。」(特許公報3頁6欄49行?4頁7欄2行,下線は当審にて付与する)と記載されており,該「レンズ16」が照射と同時に集光していることは明らかであり,特定事項bの追加は,これらの記載に基づくものであるといえる。 ウ さらに,特定事項cは,訂正前の特定事項である「光検出器」を「電荷結合素子である」と限定するものである。 そして,本件特許明細書には「いずれの場合も、分析器20からの光はレンズ22により適当な光検出器上に焦点を結ぶ。2次元光検出器アレイが好ましい。本実施例では、電荷結合素子(CCD)24が使用される。CCDはピクセルの2次元アレイからなり、コンピュータに接続される。コンピュータは各ピクセルからデータを獲得し、それを必要に応じて分析する。」(特許公報3頁5欄39?45行,下線は当審にて付与する)と記載されており,特定事項cの追加は,この記載に基づくものであるといえる。 エ そうすると,訂正事項1は,特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する明りょうでない記載の釈明および同項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,また,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,訂正事項1は,特許法第126条第5項および第6項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2 訂正事項2は,訂正事項1の訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合をとるためのものであり,訂正事項2は,特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,また,同法第126条第5項および第6項の規定に適合するものである。 2 訂正後の発明 本件訂正により訂正された本件特許の請求項7?13に係る発明は,次のとおりのものである。 「【請求項7】 サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と、 前記スペクトルを分析する手段と、 光検出器と、 前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段と を具備する分光分析装置であって、 前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし、 前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されており、 前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記スリットを通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記スリットにおいて焦点を結ばず、 前記サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ、 前記光検出器は電荷結合素子であることを特徴とする分光分析装置。 【請求項8】 前記光検出器の前記所与の領域が細長いことを特徴とする請求項7に記載の分光分析装置。 【請求項9】 前記光検出器の前記所与の領域が前記スリットを横切る方向に延在していることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の分光分析装置。 【請求項10】 前記光検出器はピクセルのアレイを備えたことを特徴とする請求項7から請求項9の何れかに記載の分光分析装置。 【請求項11】 前記所与の領域の前記ピクセルの一部からのデータを選択的にまとめて貯蔵する手段を有することを特徴とする請求項10に記載の分光分析装置。 【請求項12】 前記光検出器はピクセルの二次元アレイを備え、前記アレイにより与えられるイメージを表すデータを受け、このイメージデータを処理して合焦される前記光を検出する計算手段を有することを特徴とする請求項10または請求項11に記載の分光分析装置。 【請求項13】 前記スペクトルがラマン散乱光のスペクトルであることを特徴とする請求項7から請求項12の何れかに記載の分光分析装置。」 3 独立特許要件1 請求人は,本件特許に係る侵害訴訟(東京地方裁判所,平成22年(ワ)第42637号事件)において同裁判所に提出された引用文献として,特開平4-99929号公報(甲第1号証,以下「甲1」という)および「谷野他,高感度ラマン分光法の最近の動向と半導体超薄膜への応用,電気学会電子材料研究会資料EFM-90-30,1990年」(甲第2号証,以下「甲2」という)を提出している。 (2)先願同一(29条の2の規定)について ア 先願明細書の記載内容 甲1は,本件国際出願日前の他の特許出願であって当該国際出願後に出願公開された出願(特願平2-218497号)の特許公開公報であり,「高感度ラマン分光装置,調整方法,および測定方法」に関して,図面とともに,以下の事項が記載されている。 (甲1-ア) 「2.特許請求の範囲 1)励起光を試料に照射してラマン信号の検出を行うラマン分光装置において、 前記試料からの散乱光を集光する集光光学系と、 前記集光光学系からの出力光を入射スリットを介して受光し、その受光した光に対して、ラマン・シフトが10?1000cm^(-1)と比較的に低波数のスペクトル領域でも、レイリー散乱による迷光を十分除去して良好なスペクトルを測定することができる、フィルタ用の差分散型ダブル分光器および該ダブル分光器の次段に配置されたシングル分光器を有するトリプル・ポリクロメータの形態の分光光学系と、 マイクロ・チャンネルプレートおよびその後段の二次元の位置検出機構を有し、高エネルギー粒子線などによるパルス・ノイズの影響をうけないフォトン・カウンティング用の低雑音光電子増倍管であって、前記マイクロ・チャンネル・プレートによって前記分光光学系からの出力光を受光して増幅し、その増幅出力信号を二次元の位置検出機構に導き、微小領域の二次元配列としてイメージを検出して各微小領域でのダーク・ノイズを著しく低く抑えた位置検出型光電子増倍管と、 前記試料上の微小な照射領域からの各波長の信号光が、前記分光器の収差による像ぼけを受けることなく前記位置検出型光電子増倍管の受光面上の各微小領域上に1対1対応で転送されるようにするシリンドリカル・レンズを有する非点収差補正光学系と、 前記非点収差補正光学系の微調を行うときに切り替えミラーで位置検出型光電子増倍管の前記受光面と等価な位置に配置される調整用テレスコープと、 前記位置検出型光電子増倍管の受光面が前記分光器の焦点面に正確に位置するように位置と方位について微調整を行う微調整機構と を具え、前記位置検出型光電子増倍管の受光面上の各微小領域が各波長の信号に相当する形で、極限的に低いノイズ・レベルでラマンスペクトルが同時計測されるようにしたことを特徴とする高感度ラマン分光装置。」(1頁左下欄5行?2頁左上欄8行) (甲1-イ) 「[産業上の利用分野] 本発明は、半導体、金属、無機材料、有機材料、生体等のラマン散乱測定方法および装置に関し、特に、半導体や有機材料の超薄膜、または表面や界面上の微量な原子や分子からの、微弱なラマン信号の検出と評価に好適な高感度ラマン分光装置、ラマン分光器の調整方法および測定方法に関する。」(3頁左上欄2?9行) (甲1-ウ) 「即ち、フォトン・カウンティングでは、検出器のノイズ・レベルが1-20力ウント/秒存在するため、それ以下の強度の信号は検出不可能であるが、多重検出を行うと分光器が停止しているため積算によるノイズの除去が効率良く行え、冷却されたイメージ・インテンシファイヤ付きフォトダイオード・アレイ(以下II-PDAと略す)や電荷結合素子検出器(以下CCDと略す)や位置検出型光電子増倍管を用いると、通常の光電子増倍管換算で0.1力ウント/秒程度の信号も現在検出可能である。 上記のようなシステムにより、様々な薄膜のラマン検出が可能になった。たとえばラングミュア・プロジェット膜の1モルイヤからの信号検出について、トリプル分光器とII-PDA、あるいはトリプル分光器と冷却された電荷結合素子検出器(以下CCDと略す)による報告がある。またゲルマニウムの数モルレイヤからのラマン信号検出が、トリプル分光器と位置検出型光電子増倍管によりなされている。 このように、ダブル分光器とフォトン・カウンティング用光電子増倍管を用いた旧来の方法に対し、トリプル・ポリクロメータとII-PDAまたはCCDまたは位置検出型光電子増倍管のいずれかの多重検出器を用いることにより、従来よりも2-3桁弱い、光電子増倍管換算で0.1力ウント/秒程度の信号の検出ができるようになってきている。」(3頁右下欄3行?4頁左上欄10行) (甲1-エ) 「そこで、本発明の目的は、トリプル分光器と多重検出器を用いたラマン分光において、なかでも位置検出型光電子増倍管の特性と付加光学系の吟味検討により、従来の最高水準よりもさらに2-3桁以上の超高感度すなわち0.001力ウント/秒あるいは0.0001力ウント/秒レベルでの、高精度の高感度ラマン分光装置および測定方法を提供せんとするものである。本発明の他の目的は、超高感度での、二次元データを持っラマン分光を可能とし、通常の一次元データによるラマン分光では不可能な高速測定や、精度の高い差分ラマン分光を可能とすることにある。」(4頁右上欄5?16行) (甲1-オ) 「多重検出器のうち、アナログ検出器であるII-PDAやCCDは、強いパルス・ノイズに対してそのエネルギーに比例した応答を示すので、通常は、長時間微弱な信号を積算しているうちにパルス・ノイズがスペクトルのあちこちに現れ、無視できない数になってしまう。経験的にはこれは光電子増倍管換算でチャンネルあたり0.001-0.01力ウント/秒のノイズになる。これらは主として宇宙からの高エネルギー粒子線によるものなので、避けることは困難である。ひとつの対策として測定を数回繰り返し、再現しないピークについてはこれを取り除く、ソフトウェアによる解決方法があるにはあるが、信号そのものを損なうおそれもあり、抜本的な解決策とはいえない。これに対して、位置検出型光電子増倍管のようなデジタル検出器においては、信号は常にフォトン・カウンティングによってひとつひとつ数えられており、普通は波高弁別器によってエネルギーの高いもしくは低いノイズと正しい信号とを選別して測定しており、またたとえ宇宙線ノイズがカウントされたとしてもアナログ検出器と異なり1カウントと数えられるだけであるために、超微弱信号の検出にはこれがもっとも適当である。 しかしながら、従来においてはこの位置検出型光電子増倍管の特性が十分吟味検討されておらず、このためにその最高性能ばII-PDAやCCDと同水準にあると考えられてきた。ここで我々は位置検出型光電子増倍管の原理に帰り、超高感度ラマン分光を可能とする超低ノイズのラマン分光装置を構成できることを見い出して本発明を完成した。」(5頁左下欄7行?同頁右下欄19行) (甲1-カ) 「そこで、前記目的を達成するために、本発明の高感度ラマン測定装置は、ラマン光の集光光学系とトリプル・ポリクロメータの入射スリットの間に、スリットの溝に沿った軸の方向に集光することのできるシリンドリカル・レンズを備えた非点収差補正光学系を配置し、このシリンドリカル・レンズをその光軸に沿って微動可能とし、切り替えミラーによって検出器受光面と等価な位置に置かれた、CCDカメラを備えたテレスコープを使用して、非点収差補正光学系の微調を行うことができる。これにより、ポリクロメータの出口の位置検出型光電子増倍管の検出器の受光面上での、分光器の凹面鏡から来る非点収差による像の広がりを完全に補正して、通常は帯状をなすスペクトルを細い直線上のスペクトルとし、さらに分光器に対する検出器の前後上下左右の位置と上下左右のあおりと光軸まわりの回転の六自由度を微調整できるような微動機構を備えて、この線状スペクトル全体がちょうど検出器の受光平面上に来るようにすることができ、かつ位置検出型光電子増倍管のイメージを構成するビクセルの二次元配列のX方向にちょうど線状スペクトルが観測されるように精密調整を行い、さらにこのイメージ全体もしくは必要な部分を二次元イメージとしてつまりスペクトル情報をX方向に、空間分布情報をY方向に持つ二次元データとしてコンピュータのメモリ上に取り込んで、長時間の積算と各種のデジタル・データ処理ができるようにしたので、以上のような適切な調整を行い、適切な測定方法を行うことによって本発明の目的を完全に達成することができる。」(6頁右下欄3行?7頁左上欄13行) (甲1-キ) 「第1図は、本発明の一実施例を適用した超高感度ラマン分光測定装置の構成図である。 このラマン分光装置は、 単色レーザ7から集光レンズ8とビーム入射用小ミラー(または小プリズム)9を経て試料10に至る照射光学系1と、 試料10から散乱された信号光を集光レンズ系11で入射スリット12に導く集光光学系2と、集光光学系2の途中に設置された非点収差補正用シリンドリカル・レンズ13とその回転、平行移動、あおりを再現性よく調整する微動機構14からなる非点収差補正用光学系3と、 入射スリットを直視するCCDカメラを備えたテレスコープ15を持つ差分散型ダブル分光器16にシングル分光器17を接続したトリプル・ポリクロメータの分光光学系4と、 位置検出型光電子増倍管(PS-PMT)の検出器18とその回転、平行移動、あおりを再現性よ(調整し固定する微動機構19と検出器位置での非点収差が最小になるよう非点補正光学系を調整するためのCCD付き微調機構付きテレスコープ20からなる検出系5と、 検出器18の信号を受けて位置特定型データ信号として蓄積する信号処理装置21から二次元データ解析用計算機22に至る信号処理回路系6とからなる。」(7頁右上欄5行?同頁左下欄10行) (甲1-ク) 「第2図は、位置検出型光電子増倍管(PS-PMT)の検出器18の一例を示す概略図である。12乃至25mm径の受光面23に入射されたフォトンは、光電子に変換され、3-5枚のマイクロ・チャンネル・プレート24により位置情報を保ったまま多段増幅され、最後にレジステイブ・アノード25に生じる抵抗分割比から電子の到達位置を計算しつつフォトン・カウンティングにより検出される。 レジステイブ・アノードによる位置検出は12乃至25mm角の正方形に対し、25ミクロン単位で512×512乃至1024×1024ピクセルの座標として求められるが、位置分解能は主としてマイクロ・チャンネルの太さによって決まり、40-70ミクロン程度である。通常は入射スリット幅を100ミクロン以上に取って測定することが多く、検出器の分解能は十分である。」(7頁左下欄11行?同頁右下欄8行) (甲1-ケ) 「照射光学系1によって試料10上に照射されるレーザ光のスポットを微小な円形とする。マクロな集光系2では10-100ミクロンぐらいの径、顕微鏡を用いた集光系2では1-10ミクロンぐらいの大きさが利用できる。簡単のために、100倍の対物レンズを持つ顕微鏡を利用した場合を考えると、試料上の1ミクロンのレーザ・スポットが幅100ミクロンに開いた分光器入口スリット上に100ミクロン径で転送できる。」(8頁右下欄7?15行) (甲1-コ) 「本発明においては、この位置検出型光電子増倍管18の最高性能を引き出すべく、検出器5の微調機構19、非点収差補正用光学系3、同光学系の微調機構14、二次元データ解析装置22などを適切に組合わせ用いた点に本発明の特徴があリ、これによって従来よりも2-3桁以上弱い信号の検出が可能となった。この2-3桁という数字は応用上大変重要であり、サブモルイヤ・レベルの超薄膜などからの微弱なラマン信号検出がこれによって初めて可能となった。」(9頁右下欄16行?10頁左上欄5行) 上記記載事項(甲1-ア)?(甲1-コ)および図1?10に示された内容を総合すると,甲1には,次の発明が記載されていると認められる。 「励起光を試料に照射してラマン信号の検出を行うラマン分光装置において, 単色レーザから集光レンズとビーム入射用小ミラー(または小プリズム)を経て試料に至る照射光学系と, 前記試料からの散乱光を集光する集光光学系と、 前記集光光学系からの出力光を入射スリットを介して受光し,その受光した光に対して,ラマン・シフトが10?1000cm^(-1)と比較的に低波数のスペクトル領域でも,レイリー散乱による迷光を十分除去して良好なスペクトルを測定することができる,フィルタ用の差分散型ダブル分光器および該ダブル分光器の次段に配置されたシングル分光器を有するトリプル・ポリクロメータの形態の分光光学系と, マイクロ・チャンネルプレートおよびその後段の二次元の位置検出機構を有し,高エネルギー粒子線などによるパルス・ノイズの影響をうけないフォトン・カウンティング用の低雑音光電子増倍管であって,前記マイクロ・チャンネル・プレートによって前記分光光学系からの出力光を受光して増幅し,その増幅出力信号を二次元の位置検出機構に導き,微小領域の二次元配列としてイメージを検出して各微小領域でのダーク・ノイズを著しく低く抑えた位置検出型光電子増倍管と, 前記試料上の微小な照射領域からの各波長の信号光が,前記分光器の収差による像ぼけを受けることなく前記位置検出型光電子増倍管の受光面上の各微小領域上に1対1対応で転送されるようにするシリンドリカル・レンズを有する非点収差補正光学系と, 前記非点収差補正光学系の微調を行うときに切り替えミラーで位置検出型光電子増倍管の前記受光面と等価な位置に配置される調整用テレスコープと, 前記位置検出型光電子増倍管の受光面が前記分光器の焦点面に正確に位置するように位置と方位について微調整を行う微調整機構と を具え,前記位置検出型光電子増倍管の受光面上の各微小領域が各波長の信号に相当する形で,極限的に低いノイズ・レベルでラマンスペクトルが同時計測されるようにした高感度ラマン分光装置。」(以下,「甲1発明」という。) イ 対比 そこで,本件発明7と甲1発明とを対比すると,その機能ないし構造からみて,甲1発明における「試料」,「励起光」,「試料上の微小な照射領域」および「トリプル・ポリクロメータの形態の分光光学系」は,それぞれ,本件発明7における「サンプル」,「光」,「サンプルの所与の面」および「スペクトルを分析する手段」に相当することが明らかである。 また,本件特許明細書に「本発明は、例えばラマン効果を利用してサンプルを分析するのに分光分析が使用される装置および方法に関するものである。」(特許公報2頁3欄44?46行)と記載されていることからみて,本件発明7の「散乱光」には「ラマン散乱光」が含まれるといえるから,甲1発明の「高感度ラマン分光装置」は,本件発明7の「分光分析装置」に相当するといえる。そして,甲1発明は,「受光した光に対して,ラマン・シフトが10?1000cm^(-1)と比較的に低波数のスペクトル領域でも,レイリー散乱による迷光を十分除去して良好なスペクトルを測定することができる」のであるから,本件発明7と同様に「散乱光のスペクトルを得る手段」を具備しているといえる。また,甲1発明は「前記試料上の微小な照射領域からの各波長の信号光が,前記分光器の収差による像ぼけを受けることなく前記位置検出型光電子増倍管の受光面上の各微小領域上に1対1対応で転送されるようにするシリンドリカル・レンズを有する非点収差補正光学系」を具備しているのであるから,本件発明7と同様に「前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段」を具備しているといえる。 さらに,甲1発明の「位置検出型光電子増倍管」は,「分光光学系からの出力光を受光して増幅し,その増幅出力信号を二次元の位置検出機構に導き,微小領域の二次元配列としてイメージを検出して」いるのであるから,該「位置検出型光電子増倍管」と本件発明7の「電荷結合素子」である「光検出器」とは,「光検出器」の点にて共通する。 そうすると,両者は, (一致点) 「サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と、 前記スペクトルを分析する手段と、 光検出器と、 前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段と を具備する分光分析装置。」 である点で一致し,次の点で相違するといえる。 (相違点1-1) 本件発明7では「前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし」「前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記スリットを通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記スリットにおいて焦点を結ばず」であるのに対して,甲1発明ではそのような構成か否か不明である点。 (相違点1-2) 本件発明7では「前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されてお」るのに対し,甲1発明ではそのような構成か否か不明である点。 (相違点1-3) 本件発明7では「サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ」ているのに対し,甲1発明では「単色レーザから集光レンズとビーム入射用小ミラー(または小プリズム)を経て試料に至る照射光学系」である点。 (相違点1-4) 「光検出器」について,本件発明7では「電荷結合素子である」のに対し,甲1発明では「マイクロ・チャンネルプレートおよびその後段の二次元の位置検出機構を有し,高エネルギー粒子線などによるパルス・ノイズの影響をうけないフォトン・カウンティング用の低雑音光電子増倍管」としての「位置検出型光電子増倍管」である点。 ウ 相違点の検討 そこで,相違点1-1について検討する。 まず,本件発明7においては「散乱光のスペクトルを得る手段と、前記スペクトルを分析する手段と、光検出器と、・・・・・前記光検出器の所与の領域に合焦させ・・・・・前記光検出器に合焦させない手段とを具備する分光分析装置であって、前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし」と特定されているのみであって,「一次元空間フィルタ」と他の手段との配置関係が明確に特定されているとはいえないものの,本件特許の優先日前に頒布された刊行物である国際公開90/14589号(特表平4-500274号公報参照)のFIG-1に記載されているように,このような「空間フィルタ」を対物レンズ(散乱光のスペクトルを得る手段)と分光器(スペクトルを分析する手段)を間に配置することは技術常識であるといえる。また,本件特許明細書には「入力レーザビーム10は同様に非常に小さいスポットに絞り込まれてスリット30を通過する。このスリット30の効果は顕微鏡対物レンズ16が共焦点的に作用することにある。」(特許公報4頁7欄7?10行)と記載され,「一次元空間フィルタ」と「スペクトルを分析する手段」との間に光源からの光を入力することを実施例としていることからみて,本件発明7の「一次元空間フィルタ」が「スペクトルを分析する手段」の一部を構成するのではなく,両者は光学的に直列に配置される別の構成部材であると解釈するのが自然である。そして,該解釈は,本件特許明細書の「空間フィルタとして動作するためには、スリット30の幅は非常に小さく、典型的には10μm以下でなければならない。最大値は50μmになろう。このように、スリット30は、十分量の光を集めるために例えば最低200μmのようにずっと大きな従来のモノクロメータに普通に設けられている入口スリット、出口スリットと混同されるべきでない。」(特許公報4頁8欄7?13行)との記載とも矛盾しない。 さらに,例えば,特開昭63-306413号公報には「スリット41の細長開口の幅は、スポット光の回折径より小さくても良いし、大きくても良い。小さい場合には理論的に焦点深度方向の分解能(断面像の厚さ)を小さくできる。大きくすれば、それに従って焦点面以外の面の情報も徐々に入ってくる。」(公報4頁左下欄1?6行)と記載され,特開平3-61918号公報には「ところが、この従来の走査型顕微鏡では、共焦点系光学系の特徴、特典を十分に活かすためには、スリットの幅或いはピンホールの径は、集光スポットサイズよりも十分に小さくする必要があった。」(公報2頁右上欄11?15行)と記載され,また,特開昭63-306414号公報には「断面像を明確に得る為にはピンホール5の穴径を集光レンズ4によって絞られるスポット径より小さくする必要があり・・・・・ピンホール径と同程度の細いスリットを用いることにより、深さ方向の分解能をピンホールを用いた場合とほとんど同程度に維持できる。」(公報2頁左上欄16行?同頁右上欄19行)と記載されているように,一般的に,十分な共焦点作用をもたらすには,ピンホールの径あるいはスリットの幅が,より小さいことが望ましいのは技術常識である。 それに対し,そもそも甲2には共焦点作用に関する記載はなく,前記記載事項(甲1-ク)の「通常は入射スリット幅を100ミクロン以上に取って測定することが多く、検出器の分解能は十分である。」および同(甲1-ケ)の「試料上の1ミクロンのレーザ・スポットが幅100ミクロンに開いた分光器入口スリット上に100ミクロン径で転送できる。」からみて,甲1発明における分光光学系の「入射スリット」は,より小さい方が望ましいものとはなっておらず,上記本件特許公報に記載されている「入口スリット」に相当するものであるというべきである。 してみると,甲1発明は,本件発明7の「スリットを備えた一次元空間フィルタ」に相当するものを具備するとはいえず,また,該「空間フィルタ」を具備することが周知慣用の事項あるいは自明な事項であるともいえない。 エ まとめ したがって,相違点1-2?1-4について検討するまでもなく,本件発明7と甲1発明とは,相違点1-1の点にて実質的に相違し,同一の発明と到底いえない。また,本件発明7を引用する発明8?13も,同様に,甲1発明と同一の発明であるとはいえない。 (3)甲2発明に対する進歩性(29条2項の規定)について ア 甲2の記載内容 甲2は,本件特許の優先日前に頒布された刊行物であって,「高感度ラマン分光法の最近の動向と半導体超薄膜への応用」に関して,図面とともに,以下の事項が記載されている。 (甲2-ア) 「今日、様々なタイプのマルチ・チャンネル検出器が市販されてきている。代表的なものとして、イメージ・インテンシファイヤ付きフォトダイオード・アレイ検出器(以下IPDAと略す)、チャージ・カップルド・デバイス(以下CCDと略す)、位置検出型光電子倍増管(以下PS-PMTと略す)の三種があげられる。^(3,4))現在マルチ・ラマン測光用にもっとも普及しているのはIPDAであり、他の2種は最近やっと普及し始めたところである。表1に主要なパラメータを比較して示した。^(5))これらの検出器んはいずれも一長一短あり、現在のところまだ相対的な評価は定まっていない。これらの検出器を用いると、通常の光電子倍増管換算で毎秒0.1カウント程度の信号も容易に検出可能である。ここでPS-PMTのダークについては、後述のように一次元検出器としての値であることに注意されたい。 このようなシステムによって、様々な薄膜のラマン検出が行われるようになった。たとえばラングミュア・プロジェット膜の1モノレイヤからの信号検出について、トリプル分光器とIPDA、あるいはトリプル分光器と冷却された電化(「電荷」の誤記)結合素子検出器(以下CCDと略す)による報告がある。^(6-9))またゲルマニウムの数モノレイヤからのラマン信号検出がトリプル分光器と位置検出型光電子倍増管によりなされている。^(10.11)) 表1 多チャンネル検出器の性能比較 ────────────────────────────────── IPDA CCD PS-PMT ────────────────────────────────── 量子効率 5-15% 40-80% 15% 波長領域 400-800nm 300-1000nm 300-900nm 読みだしノイズ 1500e 10e なし 空間歪み 1% なし 5% 感度の移動変動 20% 2-7% 5% 線形性 1%以下 2%以下 2-5% ダーク 0.005 c/s 0.01 c/s 0.002-0.008 c/s 読みだし時間 10-20ms 1-10s 1ms 空間分解能 50-100μm 18-30μm 40-70μm ──────────────────────────────────」(2頁23行?3頁表1) (甲2-イ) 「3.1 検出器の選択 多重検出器のうち、アナログ検出器であるIPDAやCCDは、強いパルス・ノイズに対してそのエネルギーに比例した応答を示すので、通常は、長時間微弱な信号を積算しているうちにパルス・ノイズがスペクトルのあちこちに現れ、無視できない数になってしまう。経験的にはこれは光電子倍増管換算でチャンネルあたり毎秒0.001-0.01カウントのノイズになる。これらは主として宇宙からの高エネルギー粒子線によるものなので、避けることは困難である。ひとつの対策として測定を数回繰り返し、再現しないピークについてはこれを取り除く、ソフトウエアによる解決方法があるにはあるが、信号そのものを損なうおそれもあり、抜本的な解決策とはいえない。これに対して、PS-PMTのようなデジタル検出器においては、信号は常にフォトン・カウンティングによってひとつひとつ数えられている。普通は波高弁別器によってエネルギーの高いもしくは低いノイズと正しい信号とを選別して測定しており、またたとえ宇宙線ノイズがはいったとしても1カウントと数えられるだけである。今回我々は超微弱信号の検出を目的としているので、以上の理由によりPS-PMTを採用することにした。但し、量子効率の絶対値や赤外域の感度などを重んじるならばCCD検出器の方が優れているなど、目的によって選択はことなってくることを注意しておく。」(3頁12行?4頁8行) (甲2-ウ) 「3.2 二次元検出器と非点収差補正 グレーティングを使用した分光器では、レンズのような透過型光学素子ではなく球面鏡のような反射型光学素子を使わざるを得ないので、同軸光学系を使用することができず、非点収差の問題が生じる。球面鏡の法線方向と光の入射方向のなす角αが0でない場合には、入射面内とそれに垂直な方向とで、焦点距離が異なってくる。焦点距離をfとする時、この焦点距離の差はf・sin^(2)αで与えられる。本来ならばそれぞれに対応した曲率半径を持つ楕円面鏡を使用することにより、非点収差のない光学系を形成すべきである。しかし、通常の分光器ではこれを省略し、上記の入射面内の焦点がスリットの位置に来るように設計する。入口スリット上の点光源は、出口スリット上でスリットの長さ方向(以下Y方向と呼ぶ)に線状に広がるが、光の分散方向(以下X方向と呼ぶ)に対しては焦点が得られているので、sin^(2)α《1の近似が成り立つ範囲で、分光器の性能としては一応問題がない。光学系をできるだけコンパクトに設計し明るさは損なわない範囲でαを小さくするとか、ダブル分光器ではふたつの分光器によって生じる非点収差が互いにキャンセルするように光学系を立体的に折り返すように配置するなどの工夫が知られている。出口スリットの像は厳密には線状ではなく少し弓形の像になるので、弓形のスリットを使用するなどの技術も開発されている。 単チャンネルの検出器や一次元検出器の場合には、このようなY方向への像の広がりは、検出器の受光面の広がりの範囲内に納まってさえいれば、これを全て積算できるので問題はない。しかし二次元検出器の場合にはこのことは装置全体の感度限界を考える上で重要である。二次元検出ではY方向に信号を積算して、X方向の一次元検出器に変換して使用する。例えばCCD検出器の場合には、この積算過程のことをビンニングと呼んでいる。ビンニングされる素子の数をできるだけ減らすことにより、ノイズの取り込みを抑えることができる。この効果はPS-PMT検出器の場合により顕著である。非点収差による像の広がりのため、Y方向に数百チャンネル積算しなければならない場合には、第1表の比較に見られる通り、IPDAなどの一次元検出器に比べて著しく高感度というわけではない。しかし、非点収差を補正して検出器位置でのY方向の像の広がりを抑えることにより、この積算チャンネル数を減少させることができれば、実効的な感度ははるかに向上する。 PS-PMTのノイズは通常の光電子倍増管と同様に主として光電面付近での何らかの光または電子ノイズによっており、これを通常、毎秒10-20カウント程度である。従って、1024×1024ピクセルの二次元配列でピクセル位置を特定すると、そこでのノイズはピクセルあたり毎秒1-2×10^(-3)カウントである。さて多重検出によるラマン分光においては、PS-PMTは単なる一次元の多重検出器として用いられてきた。PS-PMTの受光面上でスペクトルの方向をX軸にそれに垂直な方向をY軸に取ると、通常の分光器では、スペクトルは各波長でY軸方向に200-400ピクセル分広がっており、これを足し合わせて一次元のデータとしている。Y軸方向に全1024ピクセル足し合わせたとしたら、各チャンネルでのノイズは毎秒1-2×10^(-2)カウントとなり、信号の存在する中央の200-400ピクセル分のみ足し合わせたとしても毎秒2-8×10^(-3)カウントとなる。このようなノイズ・レベルはIPDAや高感度CCDの値とそれほど違わず、これまで特にPS-PMTが他よりもとりわけて超高感度であるとは考えられていなかったのはうなずける。 ところがもし、スペクトルのY軸方向への広がりを極端にせばめることができたとしたら、チャンネルあたりのノイズは著しく減少するはずである。たとえばY軸方向への広がりを5ピクセル以下にすることができれば、チャンネルあたり毎秒5-10×10^(-5)カウントのノイズ・レベルとすることができ、IPDAやCCDにおける0.001-0.01カウントのパルス・ノイズも存在しないことから、極限的な微弱光の高感度ラマン分光が可能となる。」(4頁9行?5頁22行) (甲2-エ) 「3.3 高感度ラマン分光光学系 図1に我々の使用している分光光学系の概略を示す。トリプル・ポリクロメータ分光器としてはDilor社のモデルXYを使用した。前段フィルタ・ステージの差分散型ダブル分光器は50cmと比較的長い焦点距離を持ち、低波数側でのレイリー散乱光などの除去率が良いと考えられる。後段のポリクロメータは入射側が50cm、出射側が60cmの焦点距離の集光系を用いている。αは約6°と比較的小さく、ダブル分光器は互いに収差を打ち消すように設計されている。 検出器としては、ストレート側にIPDA検出器(Dilor社のゴールドモデル)を、サイド側に切り替え用の反射鏡を使ってPS-PMT(ITT社のモデルF4146M)を設置した。両検出器の性能はミラーを切り替えて直接比較することができる。PS-PMTのフォトカソード面はマルチアルカリを使用し、300-900nmで感度を持つ。500nmでの量子効率は14%、位置分解能は半値全幅で52μm(約2チャンネル分)である。ペルチェ冷却器を用いて-30℃に冷却した時のダーク・カウントは25mmφ径のフォトカソード領域全体で毎秒約9カウントである。この値は、25μm角の各ピクセルあたりで、毎秒7-9×10^(-6)カウントに相当する。 非点収差補正は、入口スリットの手前にシリンドリカル・レンズの光学系を導入する外部補正方式に依った。調整は、IPDAの代わりにモニター用のCCDカメラを設置して、Hgランプなどの単色光を光源とし、試料位置に置いたグリッド・パターンの像を観察して行った。非点収差補正光学系の調整が完全に行われると、入口スリットのところでのグリッドの像がそのまま検出器の位置ではっきりした像に転送される。その精度は10μm以下であり、検出器のピクセル・サイズ25μmよりもずっと小さくできる。またレンズの色収差を考えると、波長の変化に伴って補正レンズ径の位置を変化させる必要があるが、この値は実は400nmと900nmの間で1mm以下と非常に小さい。従って通常は多チャンネル検出器で一度に測定できる領域が最大500-1000cm^(-1)であることから、受光面上での色収差による像のぼけは無視できる。むしろ検出器の受光面をどれだけ正確にポリクロメータの焦点面に一致させることができるかで測定精度が決まる。この時、PS-PMTの移動の自由度としては、焦点を合わせるための前後の移動とあおり2種、分光器の分散方向に正確に合わせるための回転の計4軸が重要である。そらに、有効受光面を適切な位置に置くためのXY方向の平行移動と合わせて、計6軸を再現性良く微調整できるように設計されている。」(5頁23行?6頁19行) (甲2-オ) 「3.4 性能評価 先に述べたようなダーク・カウント数でノイズ・レベルを論じるやり方は、実は適正とはいえない。ラマン装置の性能は、単に分光器や検出器の性能だけできまるものではなく、試料からの散乱光の集光光学系の能率をはじめ、試料に対する入射方法の工夫などがむしろ重要であることも多い。また、ダブル分光器はトリプル分光器よりもずっと明るいので、ダークの絶対値のみから論じることは危険である。そこで我々は、単結晶シリコンのフォノン・モードの測定による分光器性能の評価法を提案した。今日、純度の高いシリコン・ウエーハを入手することは容易であり、またその520cm^(-1)のピークのスペクトルは試料によらず不変である。従って、以下のような測定を行うことにより、あらゆる装置の実効的な性能比較が可能になると考えられる。 図2の(a)と(b)は、Ar^(+)レーザの515nm線による励起で、シリコン(100)ウエーハの520cm^(-1)付近のピークの測定を行った時の、PS-PMTの二次元画像である。(b)は(a)の一部を拡大してある。レーザ用のフィルター分光器をわざと取り外し、Ar^(+)レーザからのプラズマ発光線をも測定するようにしてある。全スペクトル領域で、Y方向への信号の広がりは3-4ピクセルすなわち100μm以下である。この広がりは、測定時の入射スリット幅100μm(検出器位置で125μmに相当)と検出器の分解能52μmの和よりも小さい。図2の(c)は、(b)のデータを用いてY方向に5ピクセルずつ加算して得たラマン・スペクトルである。 図3と図4は、単結晶シリコンの520cm^(-1)付近のピークについて、試料に入射されるレーザの強度を一桁づつ下げ、同時に測定時間を十倍づつ増大させながら測定した例である。このようにすれば、非常に微弱なラマン信号を再現性良く作り出すことができ、入射光学系を含めた装置を定量的に評価することができる。ここでは入射光学系として顕微集光光学系を用い、ビーム径を試料上で1μmに絞って測定した。100倍の対物レンズにより幅100μmの入口スリット上に転送される。図3はPS-PMTを用いた測定結果で、図4には比較のため、ポリクロメータ出口のストレート方向に設置されたIPDAによる測定結果を示す。PS-PMTの場合には図2の時と同様に方向に5ピクセルを加算した。IPDAによる測定では、10μW励起の時パルス・ノイズが無視できなくなってきており、1μW励起ではノイズのため測定不能になっている。これらはそれぞれ光電子倍増管換算で毎秒0.1カウントと毎秒0.01カウントの信号強度に対応している。一方、PS-PMTでは、100nW励起の時には非常に高いSN比で良好なスペクトルが得られており、10nW励起の時でも十分なSN比で信号が検出されている。これらはそれぞれ毎秒0.001カウント、毎秒0.0001カウントの信号強度に相当している。10nW励起のデータからノイズ・レベルは毎秒4-5×10^(-5)カウントと見積もられる。これは非点収差補正を行わなかった場合に比べて30乃至60分の1のノイズになっている。補正のない場合には1μW励起でも信号とノイズの強度がほぼ等しくなり、従ってIPDAの場合とけた違いに高感度というわけではない。このことは従来からの報告と整合している。」(7頁3行?8頁14行) 上記記載事項(甲2-ア)?(甲2-エ)および図1?6に示された内容を総合し,特に,甲2の図1が甲1の図1を簡略化したものであることを考慮すると,甲1発明と実質的に同一の発明(以下「甲2発明」という)が記載されていると認められる。 イ 対比 そうすると,本件発明7と甲2発明とは,「(2)先願同一(29条の2の規定)について」にて述べたように, (一致点) 「サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と、 前記スペクトルを分析する手段と、 光検出器と、 前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段と を具備する分光分析装置。」 である点で一致し,次の点で相違するといえる。 (相違点2-1) 本件発明7では「前記光はスリット30を備えた一次元空間フィルタ31を通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし」,「前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記スリット30を通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記スリットにおいて焦点を結ばず」であるのに対して,甲2発明ではそのような構成か否か不明である点。 (相違点2-2) 本件発明7では「前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されて」いるのに対し,甲2発明ではそのような構成か否か不明である点。 (相違点2-3) 本件発明7では「サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ」ているのに対し,甲2発明では「単色レーザから集光レンズとビーム入射用小ミラー(または小プリズム)を経て試料に至る照射光学系」である点。 (相違点2-4) 「光検出器」について,本件発明7では「電荷結合素子である」のに対し,甲2発明では「マイクロ・チャンネルプレートおよびその後段の二次元の位置検出機構を有し,高エネルギー粒子線などによるパルス・ノイズの影響をうけないフォトン・カウンティング用の低雑音光電子増倍管」としての「位置検出型光電子増倍管」である点。 ウ 相違点の検討 (ア)そこで,先ず,相違点2-1について検討する。 光学要素として「スリットを備えた一次元空間フィルタ」は,前掲した国際公開90/14589号(特表平4-500274号公報参照)のFIG-1に記載されており,このような「スリットを備えた一次元空間フィルタ」が,共焦点作用をもたらすことも,例えば,前述の特開昭63-306413号公報,特開平3-61918号公報あるいは特開昭63-306414号公報に記載されているように,技術常識であるといえる。 また,ラマン散乱光測定装置において,必ずしもスリットを備えたものではないないものの,ラマン分光器の光路前に共焦点作用をもたらす空間フィルタを設けることも,本件特許の優先日前に頒布された刊行物である特公昭56-44371号公報(特に,第1図の集光レンズL_(2),L_(3)間を参照)に記載されている。 一方,本件発明7では「前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし」「前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記スリットを通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記スリットにおいて焦点を結ばず」と特定され,また,本件特許明細書には「第5図は、CCDを第4図の実施例で使用したときの第2図および第3図に対応する平面図である。スリット30を通過する光は回折格子分析器20によりラマンスペクトルの個々のバンド28に分散される。スリット30がないと、バンド28に対応するが焦点19の外側から散乱された光が破線対48,50の間にあるもっと広い領域に現れる。スリット30は一次元空間フィルタリングのみを提供し、ラマンバンド28のそれぞれが第5図の水平方向に空間的にフィルタリングされるようにしていることが認められるであろう。」(特許公報4頁7欄15?24行)と記載されていることからみて,該「一次元空間フィルタ」の技術的意義は,共焦点作用であり,CCD光検出器におけるラマンスペクトルの個々のバンドを狭くすることにあるといえる。 また,前述したように,本件発明7においては「前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし」と特定されているのであるから,該「一次元空間フィルタ」は,その「スペクトルを分析する手段」とは光学的に直列に配置される別の構成部材であり,十分な共焦点作用をもたらすために,そのスリットの幅は,より小さいことが望ましいものである。 それに対し,前述したように甲2発明における分光光学系の「入射スリット」は,100ミクロン以上であって,より小さい方が望ましいものとはなっていないから,共焦点作用をもたらすものとはいえず,本件発明7の「一次元空間フィルタ」に相当するものではない。 また,甲2発明における「シリンドリカル・レンズを有する非点収差補正光学系」は,共焦点作用をするものではなく,「非点収差を補正して検出器位置でのY方向の像の広がりを抑える」ものであり,その技術的意義は,本件発明7の「一次元空間フィルタ」と異にする。 そうすると,光学要素として「一次元空間フィルタ」が周知であるとしても,甲2発明において,その「入射スリット」あるいは「非点収差補正光学系」を該「一次元空間フィルタ」に置き換える,すなわち,相違点2-1における本件発明7の構成とすることには,動機付けがなく,当業者が容易に想到し得たものとは到底いえない。 (イ)次に,相違点2-2について検討する。 本件特許明細書には「CCDをコンピュータと組み合わせると、このように、従来の空間フィルタにおけるピンホールと同じ効果を与える。レンズ16がサンプルの表面に焦点を結ぶと、サンプル内の表面の背後から散乱された光をフィルタリングして取り除くことができ、表面自体の分析も行うことができる。あるいは、レンズ16を故意にサンプル内の点に焦点を結ばせて表面から散乱された光をフィルタリングして取り除くことができる。このように、余分の空間フィルタを使用しないでも共焦点作用が達成されていた。」(特許公報3頁6欄18?26行,下線は当審にて付与する)と記載され,また,特開昭61-272714号公報,特開平2-267512号公報,特開平2-221909号公報あるいは特開平3-33711号公報の記載からみて,「光検出器の所与の領域で受ける光が,前記所与の領域外で受ける光を含まずに,またはこの光と分離して検出され,前記所与の領域は共焦点作用をもたらすように形成される」ことは,本件特許の優先日前周知の事項であるといえる。 しかしながら,前記周知の「空間ファイルタを使用しない共焦点作用」はピンホール,すなわち,二次元の共焦点作用をもたらすものの代替であって,一次元の共焦点作用をもたらすものではない。まして,「第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらす」ものではないことは明らかである。 そうすると,「空間ファイルタを使用しない共焦点作用」が周知であるとしても,甲2発明において,前記周知の事項を適用して,相違点2-2における本件発明7の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項であるとは到底いえない。 そして,相違点2-2は,相違点1を前提として,甲2の記載および前記周知の事項からは予測し得ない,本件特許明細書に記載された格別の効果を奏するといえる。 (ウ)更に,相違点2-3について検討する。 そもそも,ラマン分光装置において,「サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられている照射系」を採用することは,本件特許の優先日前周知の事項であるといえる。例えば,特開昭63-95329号公報の1頁右下欄6?13号には「アルゴンイオンレーザ1より放出されたレーザ光は顕微鏡のハーフミラ-2で折り曲げられ、試料用対物レンズ3で被測定用試料4に照射される。この照射光がラマン分光用励起光となる。試料4から出てくるラマン散乱光を再び対物レンズ3でコリメート(collimate)し、ハーフミラ-2を通過させ、レンズ5で分光器6の入射スリットに入れる。」と記載され,特開昭62-297746号公報の2頁右上欄1?7号には「そしてレンズ17により試料5上に焦点を結ぶよう集光される。そして、試料5からはレーザ光12とエネルギーの異なる光がラマン散乱光として放射される。該ラマン散乱光はレンズ17により集光され、ミラー20で方向を曲げられ、検光子21に入る。」と記載されている。 そして,甲2発明において,その「単色レーザから集光レンズとビーム入射用小ミラー(または小プリズム)を経て試料に至る照射光学系」を上記周知の「サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられている照射系」に置換することには,何ら阻害要因がなく,構成を簡単化するという十分なる動機付けが存在するといえる。 してみると,甲2発明において,相違点2-3における本件発明7の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものといえる。 (エ)最後に,相違点2-4について検討する。 本件特許公報の2頁4欄15?18行には「WO90/07108号公報は生じたラマン散乱光は2次元光検出アレイである電荷結合素子(CCD)上に合焦、つまり焦点を結ばせてもよいことも開示している。」と記載され,また,特表平3-501518号公報の14頁左上欄1?5行に「代替的には、検出器219は、光子カウンティングまたはフォトダイオード、強化されたダイオードアレイ、電荷連結装置もしくは線221を介して適切な電源220により電力を与えられた光電子倍増管等の充電流電子工学を使用するどのような適当な検出器でもよい。」と記載され,あるいは特開平2-85750号公報の8頁左下欄14?17行に「かくして1例えば、検出手段として作用する強力CCD(電荷連結装置)アレイ又は位置検出光電子倍増管を用いてベルトを横切って像を作ることができ」と記載されていることみて,「光検出器の所与の領域で受ける光が,前記所与の領域外で受ける光を含まずに,またはこの光と分離して検出され,前記所与の領域は共焦点作用をもたらすように形成される」ことは,本件特許の優先日前周知の事項であるといえる。 そして,上記記載事項(甲2-イ)の「今回我々は超微弱信号の検出を目的としているので、以上の理由によりPS-PMTを採用することにした。但し、量子効率の絶対値や赤外域の感度などを重んじるならばCCD検出器の方が優れているなど、目的によって選択はことなってくることを注意しておく。」からみて,甲2発明において,その「位置検出光電子倍増管」の替わりに「CCD検出器」を採用することには,十分な動機付けが存在しているといえ,また,該置換に何ら困難性もない。 してみると,甲2発明において,相違点2-4における本件発明7の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものといえる。 オ まとめ そうすると,本件発明7は,相違点2-1および相違点2-2において,甲2発明に基づいて当業者が容易に想到できたとはいえず,本件発明7をさらに限定する発明である本件発明8?13も,同様に,甲2発明に基づいて当業者が容易に想到できたとはいえない。 4 独立特許要件2 前記侵害訴訟の被告であるナノフォトン株式会社(以下「上申者」という)は,平成24年8月10日付け上申書を提出するとともに,以下の参考資料1?17-4を提出している。 参考資料 1:上記侵害訴訟の被告第1準備書面の写し 参考資料 2:上記侵害訴訟の原告準備書面(3)の写し 参考資料 3:上記侵害訴訟の被告第2準備書面の写し 参考資料 4:上記侵害訴訟の原告準備書面(4)の写し 参考資料 5:上記侵害訴訟の被告第3準備書面の写し 参考資料 6:上記侵害訴訟の原告準備書面(5)の写し 参考資料 7:上記侵害訴訟の被告第4準備書面の写し 参考資料 8:上記侵害訴訟の被告第5準備書面の写し 参考資料 9:上記侵害訴訟の乙第7号証(「赤外・ラマン・振動[II]」 ,133?145頁)の写し 参考資料10:上記侵害訴訟の乙第8号証(特開昭61-272714号公 報)の写し 参考資料11:上記侵害訴訟の乙第9号証(特開平2-267512号公報 )の写し 参考資料12:上記侵害訴訟の乙第10号証(特開平3-33711号公報 )の写し 参考資料13:上記侵害訴訟の乙第11号証(「Mapping materials proper ties with Raman spectroscopy utilizing a 2-D detector 」と題する論文)の写し 参考資料14:上記侵害訴訟の乙第12号証(被告技術説明会資料)の写し 参考資料15:上記侵害訴訟の乙第18号証(特開昭63-131115号 公報)の写し 参考資料16-1:NATURE Vol.347 No.20 (1990) p301-303 の写し 参考資料16-2:NATURE Vol.347 No.20 (1990) p301-303 の抄訳 参考資料17-1:JOURNAL OF RAMAN SPECTROSCOPY, Vol.22 (1991) p217-225 の写し 参考資料17-2:JOURNAL OF RAMAN SPECTROSCOPY, Vol.22 (1991) p217-225 の抄訳 参考資料17-3:参考資料17-1の出版社のウェブサイトの写し 参考資料17-4:科学技術振興機構が1991年5月22日に参考資料 17-1を受け入れたことの証明書 (1)参16発明に対する進歩性(29条2項の規定)について 上申者は,「本件訂正後発明は、参考資料16に記載された発明(参考資料16発明)に、別訴の乙18(特開昭63-131115号公報:参考資料15)に記載された発明(乙18発明)を適用することによって、当業者が容易に発明できたものであり,進歩性を欠如する。」(上申書第4頁20?23行)旨を上申している。そこで,以下,検討する。 ア 参考資料16の記載内容 参考資料16は,本件特許の優先日前に頒布され,本件特許の審査段階において引用された刊行物であって,「Studying single living cells and chromosomes by confocal Raman microspectroscopy」に関して,図1とともに,以下の事項が記載されている。(以下の記載事項は,参考資料16-2に基づく) (参16-ア) 「図1共焦点ラマン顕微分光器。DCM色素レーザー(Spectra Physics, 375B)からの波長660nmのレーザー光が、高開口数の顕微鏡対物レンズを用いて分析対象の物体に集光される。物体により散乱された光は、同じ対物レンズにより集められ、共焦点検出を可能とするピンホールを通して、分光器に導入される。この共焦点ラマン顕微鏡の面内空間分解能は、レーザーの集光サイズによって決まり、0.5μmよりも小さい。直径100μmのピンホールにより深さ分解能は1.3μmとなる。分光器は、効率的な迷光の抑制(10^(9)程度)とラマン光に対して高い透過率(400-1800cm^(-1)の分光範囲で80-90%)を兼ね揃えたシェブロン型誘導体バンドパスフィルタセット(G.J.Puppets,A.Huizinga,H.W.Krabbe,H.A.de Boer,G,Gijsbers, とF.F.M.de Mul, 原稿準備中)と、波長分散ステージからなる。信号の検出には液体窒素冷却CCDカメラ(Emglish Electric Valve Co. P8603B CCDチップを備える。Wright Instruments Ltd 製)が用いられる。このCCDカメラは高い量子効率(700nmで?40%)と、ほとんどノイズフリーの動作(無視できる暗電流および、二乗平均平方根で10個の電子(10個の光子に相当する)の読み出しノイズ)を兼ね備えている。顕微分光器のスペクトル分解能は約6?7cm^(-1) である。略語、M:ミラー、L:レンズ」 上記記載事項(参16-ア)および図1に示された内容を総合すると,参考資料16には以下の発明(以下「参16発明」という)が記載されていると認められる。 「DCM色素レーザーからの波長660nmのレーザー光を,高開口数の顕微鏡対物レンズを用いて分析対象の物体に集光し,物体により散乱された光が同じ対物レンズにより集められ,共焦点検出を可能とするピンホールを通して,分光器に導入され,レーザーの集光サイズは0.5μmよりも小さいく,直径100μmのピンホールにより深さ分解能は1.3μmとなり,前記分光器は,シェブロン型誘導体バンドパスフィルタセットと,波長分散ステージからなり,信号の検出には液体窒素冷却CCDカメラが用いられる共焦点ラマン顕微鏡。」 イ 対比 そこで,本件発明7と参16発明とを対比すると,その機能ないし構造からみて,参16発明における「分析対象の物体」,「波長660nmのレーザー光」,「レーザー光が集光された物体の面」,「対物レンズ」,「波長分散ステージ(Grating)」および「液体窒素冷却CCDカメラ」は,それぞれ,本件発明7における「サンプル」,「光」,「サンプルの所与の面」,「散乱光のスペクトルを得る手段(レンズ)」,「スペクトルを分析する手段」および「光検出器」に相当することが明らかである。 また,参16発明の「ピンホール」は,「二次元空間フィルタ」であり,二次元で共焦点作用をもたらすから,本件発明7の「スリットを備えた一次元空間フィルタ」とは,共焦点作用をもたらす「空間フィルタ」である点で共通する。 そうすると,両者は, (一致点) 「サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と, 前記スペクトルを分析する手段と, 光検出器と, 前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段と を具備する分光分析装置であって, 前記光は空間フィルタを通過して共焦点作用をもたらし, 前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記空間フィルタにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記空間フィルタを通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記空間フィルタにおいて焦点を結ばず, 前記サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ, 前記光検出器は電荷結合素子である分光分析装置。」 である点で一致し,次の点で相違するといえる。 (相違点3-1) 「空間フィルタ」が,本件発明7では「スリットを備えた一次元空間フィルタ」であるのに対して,参16発明では「ピンホール」である点。 (相違点3-2) 本件発明7では「前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されてお」るのに対し,参16発明ではそのような構成か否か不明である点。 ウ 相違点の検討 (ア)そこで,先ず,相違点3-1について検討する。 本件特許の優先日前に頒布され刊行物である参考資料15には,「〔問題点を解決するための手段〕上記の目的を達成するために、2個のスリットとレンズとを使用して、ピンホールの役割をする光学系を構成する。スリットに微小な光を入射させるようにスリットの位置を調整するのは、一方向の動きだけで済むので容易である。2個のスリットを調整することで、目的は達成される。」(2頁左上欄10?16行)と記載されていることからみて,「ピンホールの替わりに直交する2個のスリットとレンズを使用する」ことが記載されているといえるものの,「ピンホールの替わりに1個のスリットとレンズを使用するとともに光検出器の読み出し領域を制限する」ことが記載されているとまではいえない。 また,前述したように,光検出器の読み出し領域を制限して得られる周知の「空間ファイルタを使用しない共焦点作用」は,ピンホール,すなわち,二次元の共焦点作用をもたらすものの代替であって,一次元の共焦点作用をもたらすものではないから,一次元の共焦点作用をもたらす「1個のスリット」を使用する替わりに「光検出器の読み出し領域を制限する」ようにすること,すなわち,2つの異なる原理に基づく手段の組み合わせにより二次元の共焦点作用をもたらすことは,自明の事項でもなく,また,このことが公知であることを示す証拠も示されていない。 そうすると,参考資料15と参考資料16とは類似の技術分野に属する発明が記載され,「調整を容易にする」という課題は共通するといえるから,参16発明の「ピンホール」を参考資料15記載の「直交する2個のスリットとレンズ」に置き換えることは,動機は十分に存在し容易であるといえるものの,参考資料15記載を参16発明に適用しても,「直交する2個のスリットとレンズ」に置き換わるまでであって,「1個のスリットとレンズを使用するとともに光検出器の読み出し領域を制限する」という構成には到達しないというべきである。 したがって,参16発明において,参考資料15記載の事項を適用して,相違点3-1における本件発明7の構成とすることは,当業者が容易になし得た程度のことであるとはいえない。 (イ)つぎに,相違点3-2について検討する。 相違点3-2は,実質的に相違点2-2と同一である。 してみると,相違点2-2について検討したと同様に,「空間ファイルタを使用しない共焦点作用」が周知であるとしても,参16発明において,前記周知の事項を適用して,相違点3-2における本件発明7の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項であるとは到底いえない。 そして,相違点3-2は,相違点3-1を前提として,参16発明および参考資料15の記載からは予測し得ない,本件特許明細書に記載された格別の効果を奏するといえる。 エ まとめ そうすると,本件発明7は,参16発明に基づいて当業者が容易に想到できたとはいえず,本件発明7をさらに限定する発明である本件発明8?13も,同様に,甲2発明に基づいて当業者が容易に想到できたとはいえない。 (2)参17発明に対する進歩性(29条2項の規定)について 上申者は,「本件訂正後発明は、参考資料17に記載された発明(参考資料17発明)に、別訴の乙18(特開昭63-131115号公報:参考資料15)に記載された発明(乙18発明)を適用することによって、当業者が容易に発明できたものであり,進歩性を欠如する。」(上申書9頁22行?同書10頁1行)旨を上申している。そこで,以下,検討する。 ア 参考資料17の記載内容 参考資料17は,本件特許の優先日前に頒布された刊行物であって,「Description and Performance of a Highly Sensitive Confocal Raman Microspectrometer」に関して,図面とともに,以下の事項が記載されている。(以下の記載事項は,参考資料17-2に基づく) (参17-ア) 「共焦点ラマン顕微分光器の光学系を図1に示す。DCM色素レーザーからの波長660nmのレーザー光が、狭帯域バンドパスフィルタ(BPF)を透過した後、高倍率の対物レンズで試料に集光される。BPFはレーザー光に対して84%の透過率をもつ。対物レンズに入射するレーザー光の光円錐の幅は、アポダイゼーションにより大きさが30%失われる程度である。これにより対物レンズの開口数を最大限に利用することができる。以下で示すように、レーザー焦点における強度の半値幅は0.5μmより小さい。散乱光および反射光は(訳注:レーザー光を集光したもの)同じ対物レンズで集められる。BPFはラマン散乱光を反射する。(反射率はスペクトル区間300-3000cm^(-1)において98%より大きい)反射されたラマン散乱光は対物レンズの像面に焦点を結ぶ。この位置にピンホールが配置される。このピンホールは測定体積を制限する役割を果たす(共焦点の性質の項で述べられている)。ピンホールを透過した光は正レンズによって集められる。この正レンズはシェブロン型バンドパスフィルターセットを使用するために必要な平行光に変換する。このフィルターセットは平行に取り付けられた2枚の狭帯域バンドパスフィルターで構成されている。光は2枚のフィルター間を往復して反射される。それぞれの反射で、レーザー光は80%より多くが透過し、効率的にラマン散乱光と分離される。ラマン散乱光は非常に高い効率(ストークラマンシフトが600?2600cm^(-1)の間において99%以上の反射率)で反射される。12回反射させることによって、レーザーの輝線を10^(8)-10^(9)消光できる。 ラマン信号のスループットを図2に示す。レーザー光を広げた後(L_(3)とL_(4))、格子周波数300本/mm、ブレーズ波長600nm(Jobin Yvon)のルールドグレーティングが分散に用いられる。ラマンスペクトルは、焦点距離0.45mの凹面鏡によって、液体窒素冷却低速走査CCDカメラ(Wright Instruments,EEV P8603B CCDchip)に焦点を結ぶ。したがって、我々の応用に最も重要なスペクトル区間(600-1750cm^(-1)のストークラマンシフト)は、一回の測定で得られる。波長の分散方向には、カメラの385ピクセルのみが利用可能である。これは1ピクセルが平均して3cm^(-1)に相当することを意味する。狭いラマン線の場合は、これはエイリアシング効果を引き起こし、分光分解能の低下をもたらす。しかしながら、今回の応用においてこのことは特に重要ではないと考えられる。波数軸を線形にするため、また更なるデータ処理におけるソフトウェアの互換性のために、測定されたスペクトルは、毎回、385点から1000点へ補間した。測定されたレーザー線幅(補間後)は6-7cm^(-1)であった。エイリアシング効果を無視すれば、分光分解能は6-7cm^(-1)である。 CCDカメラの量子効率は波長700nm付近において約40%のピーク値をもつ。CCDカメラは140Kに冷却された。これは暗電流を取り除くためである。カメラの電子回路で使用されている相関二重サンプリング法によってリセット雑音は防がれた。一測定箇所あたり、10電子の読み出しノイズ(検出される光子10個に相当する)が残った。したがって、測定における信号雑音比は、実質どんな信号レベルでも光子(ショット)ノイズ限界である。宇宙線事象の検出は、測定されたスペクトルに、平均して2000個の光子の検出に相当するスパイクを引き起こす。宇宙線事象検出の可能性を最小化するため、分光方向に対して垂直方向には、最小限のピクセルだけを使うべきである。凹面鏡で光軸外に集光されることにより生じる非点収差を補正するために、CCDカメラの前に円柱レンズ(図1に図示されない)が用いられた。この方法により、すべてのラマン信号が10ピクセル(分光方向に対して垂直方向、90%の信号は5ピクセル)以内に含まれる。これらの(ビニング)されたピクセルのみが読みだされるので、宇宙線事象はほとんど検出されない。1画素ごとの感度の違いは、HowardとMaynardによって示されたものと類似の方法によって、毎回、ラマンスペクトルから補正される。 図3に、共焦点ラマン顕微分光器の(偏光および無偏光に対する)ラマン信号の総合的な検出効率を波数の関数として示す。絶対的な検出効率の計算結果(一部、グレーティングやCCDカメラ、は供給元のデータシートに基づいている)は、顕微鏡対物レンズにより集められたすべての光のうち、最大で15%が実際に検出されることを示している。(表1)スペクトルの大部分において、検出効率はほぼ偏光方向に無依存である。これにより、ラマン散乱光の2つの偏光成分をそれぞれ測定する、あるいは、分光器の入り口に偏光解消子を用いる必要がなくなり、測定されたスペクトルの、検出効率の波数依存性を容易に校正することができる。図3の検出効率曲線を得るために用いた方法と同じ方法が、この目的のために用いることができる(実験項を見よ)。」 (参17-イ) 「さらなる改良の別の可能性は、CCDカメラが2次元検出器である事実を利用することである。これは、Bowdennらに示されたように、スポット照明の代わりにサンプルのライン照明によって実現される。ピンホールはこの場合スリットに置き換えられる。しかし深さ方向分解能は低下する。深さ方向分解能の低下は、より弱い信号強度を代償として、スリット幅を狭めることで補償できる。ライン照明はサンプルの異なる部分からのラマンスペクトルを同時に記録することを可能にするだろう。これは、例えば染色体のBanding patternsの研究を促進するだけでなく、細胞の変化がおこる状況、例えば細胞-細胞間または細胞-薬剤の相互作用の重要な局所的情報ももたらすだろう。」 上記記載事項(参17-ア)および図1に示された内容を総合すると,参考資料17には以下の発明(以下「参17発明」という)が記載されていると認められる。 「DCM色素レーザーからの波長660nmのレーザー光を,高倍率の対物レンズを用いて分析対象の物体に集光し,物体により散乱された光が同じ対物レンズにより集められ,共焦点検出を可能とするピンホールを通して,分光器に導入され,レーザーの集光サイズは0.5μmよりも小さいく,直径100μmのピンホールにより深さ分解能は1.3μmとなり,前記分光器は,シェブロン型バンドパスフィルタセットと,ルールドグレーティングからなり,信号の検出には液体窒素冷却低速走査CCDカメラが用いられ,宇宙線事象検出の可能性を最小化するため、分光方向に対して垂直方向には、最小限のピクセルだけを使う共焦点ラマン顕微分光器。」 イ 対比 そこで,本件発明7と参17発明とを対比すると,その機能ないし構造からみて,参17発明における「分析対象の物体」,「波長660nmのレーザー光」,「レーザー光が集光された物体の面」,「対物レンズ」,「波長分散ステージ(Grating)」および「液体窒素冷却CCDカメラ」は,それぞれ,本件発明7における「サンプル」,「光」,「サンプルの所与の面」,「散乱光のスペクトルを得る手段(レンズ)」,「スペクトルを分析する手段」および「光検出器」に相当することが明らかである。 また,参17発明の「ピンホール」は,「二次元空間フィルタ」であり,二次元で共焦点作用をもたらすから,本件発明7の「スリットを備えた一次元空間フィルタ」とは,共焦点作用をもたらす「空間フィルタ」である点で共通する。 そうすると,両者は, (一致点) 「サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と, 前記スペクトルを分析する手段と, 光検出器と, 前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段と を具備する分光分析装置であって, 前記光は空間フィルタを通過して共焦点作用をもたらし, 前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記空間フィルタにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記空間フィルタを通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記空間フィルタにおいて焦点を結ばず, 前記サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ, 前記光検出器は電荷結合素子である分光分析装置。」 である点で一致し,次の点で相違するといえる。 (相違点4-1) 「空間フィルタ」が,本件発明7では「スリットを備えた一次元空間フィルタ」であるのに対して,参17発明では「ピンホール」である点。 (相違点4-2) 本件発明7では「前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されてお」るのに対し,参17発明ではそのような構成か否か不明である点。 ウ 相違点の検討 (ア)そこで,先ず,相違点4-1について検討する。 相違点4-1は,実質的に相違点3-1と同一である。 そして,前述したように,参考資料15には「ピンホールの替わりに直交する2個のスリットとレンズを使用する」ことが記載されているといえるものの,「ピンホールの替わりに1個のスリットとレンズを使用するとともに光検出器の読み出し領域を制限する」ことが記載されているとまではいえない。 また,前述したように,光検出器の読み出し領域を制限して得られる周知の「空間ファイルタを使用しない共焦点作用」は,ピンホール,すなわち,二次元の共焦点作用をもたらすものの代替であって,一次元の共焦点作用をもたらすものではないから,一次元の共焦点作用をもたらす「1個のスリット」を使用する替わりに「光検出器の読み出し領域を制限する」ようにすること,すなわち,2つの異なる原理に基づく手段の組み合わせにより二次元の共焦点作用をもたらすことは,自明の事項でもなく,また,このことが公知であることを示す証拠も示されていない。 そうすると,参考資料15と参考資料17とは類似の技術分野に属する発明が記載され,「調整を容易にする」という課題は共通するといえるから,参17発明の「ピンホール」を参考資料15記載の「直交する2個のスリットとレンズ」に置き換えることは,動機は十分に存在し容易であるといえるものの,参考資料15記載を参17発明に適用しても,「直交する2個のスリットとレンズ」に置き換わるまでであって,「1個のスリットとレンズを使用するとともに光検出器の読み出し領域を制限する」という構成には到達しないというべきである。 また,(参17-イ)によれば,「ピンホールをスリットに置き換え,スリット幅を狭めることにより深さ方向分解能の低下を補償する」こと,すなわち,「ピンホールを一次元共焦点もたらすスリットに置換する」ことが参考資料17に記載されているといえるものの,この置換は,「スポット照明の代わりにサンプルのライン照明」とすることに対応するものであって,本件発明7の「スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれ」に対応せず,二次元の共焦点作用をもたらすものではないことは明らかである。 したがって,参17発明において,参考資料15記載の事項を適用して,相違点4-1における本件発明7の構成とすることは,当業者が容易になし得た程度のことであるとはいえない。 (イ)つぎに,相違点4-2について検討する。 相違点4-2は,実質的に相違点2-2と同一である。 そして,参17発明においては,「分光方向に対して垂直方向には、最小限のピクセルだけを使」っているものの,これは「宇宙線事象検出の可能性を最小化するため」であって,一次元の共焦点作用をもたらすものとはいえない。 してみると,相違点2-2ついて検討したと同様に,「空間ファイルタを使用しない共焦点作用」が周知であるとしても,参17発明において,前記周知の事項を適用して,相違点4-2における本件発明7の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項であるとは到底いえない。 そして,相違点4-2は,相違点4-1を前提として,参17発明および参考資料15の記載からは予測し得ない,本件特許明細書に記載された格別の効果を奏するといえる。 エ まとめ そうすると,本件発明7は,参17発明に基づいて当業者が容易に想到できたとはいえず,本件発明7をさらに限定する発明である本件発明8?13も,同様に,甲2発明に基づいて当業者が容易に想到できたとはいえない。 (3)参15発明に対する進歩性(29条2項の規定)について 上申者は,「本件訂正後発明は、別訴の乙18発明に、参考資料16発明を適用することによって、当業者が容易に発明できたものであるので,進歩性を欠如する。」(上申書14頁23?24行)旨を上申している。そこで,以下,検討する。 ア 参考資料15の記載内容 参考資料15は,本件特許の優先日前に頒布された刊行物であって,「走査レ-ザ顕微鏡」に関して,図面とともに,以下の事項が記載されている。 (参15-ア) 「2.特許請求の範囲 1.レーザと、該レーザにより出射されたレーザ光を収束させポイントソースとするための第1のレンズと、このレーザ光を再び収束し、試料をポイントソースの像面に置くための第2のレンズと、試料を透過したレーザ光を収束するための第3のレンズと、該第3のレンズによる試料の像面に位置し移動可能とした第1のスリットと、該第1のスリットを通過したレーザ光を収束するための第4のレンズと、該第4のレンズによる上記第1のスリットの像面に位置し、上記第1のスリットの方向と交叉しかつ移動可能とした第2のスリットと、該第2のスリットを透過したレーザ光を検出する光検出器からなることを特徴とする走査レーザ顕微鏡。」(1頁左下欄4?18行) (参15-イ) 「〔産業上の利用分野〕 本発明は、共焦点タイプの走査レーザ顕微鏡に係り、特に光学系の調整が容易な、共焦点タイプの走査レーザ顕微鏡に関する。」(2頁左下欄20行?同頁3行) (参15-ウ) 「〔発明が解決しようとする問題点〕 共焦点タイプの走査レーザ顕微鏡におけるピンホール5の役割は分解能を上げることであり、微小な口径のピンホールが要求される。このため、位置合せをして、この微小なピンホールに光を入射させるのが難しい。」(2頁左上欄1?6行) (参15-エ) 「〔問題点を解決するための手段〕上記の目的を達成するために、2個のスリットとレンズとを使用して、ピンホールの役割をする光学系を構成する。スリットに微小な光を入射させるようにスリットの位置を調整するのは、一方向の動きだけで済むので容易である。2個のスリットを調整することで、目的は達成される。」(2頁左上欄10?16行) (参15-オ) 「スリット81の方向と交叉するように、スリット82を光検出器6の前に置き、光検出器6の出力が最大になるように、スリット82を調整する。」(2頁右上欄5?7行) (参15-カ) 「レーザ1から出射したレーザ光2をレンズ31で絞りポイントソースとする。迷光を遮断するために、適宜、絞り込まれたところにピンホールを置いてよい。試料4は、レンズ32によるポイントソースの像面に置く。試料4はステージ71によシ走査することができる。試料4を透過したレーザ光をレンズ33で集光し、スリット81上へ絞り込む。」(2頁右上欄13?20行) (参15-キ) 「スリット81の調整はスリット82をはずした状態で行ない、光検出器6の出力が最大になるようにする。スリット82も光検出器6の出力が最大になる位置に合わせられるように、ステージ73により移動できる。」(2頁左下欄7?12行) (参15-ク) 「〔発明の効果〕 本発明によれば、共焦点タイプの走査レーザ顕微鏡におけるピンホールの位置合せを必要とせず、その代わりに、2個のスリットの位置合せをすることになる。スリットの位置合せは一次元方向だけなので、ピンホールの位置合せと比べて非常に容易になる。このため、走査レーザ顕微鏡の調整に要する時間を短縮することが可能になる。」(2頁左下欄16行?同頁右下欄3行) 上記記載事項(参15-ア)?(参15-ク)および図1,2に示された内容を総合すると,参考資料15には以下の発明(以下「参15発明」という)が記載されていると認められる。 「レーザと,該レーザにより出射されたレーザ光を収束させポイントソースとするための第1のレンズと,このレーザ光を再び収束し,試料をポイントソースの像面に置くための第2のレンズと,試料を透過したレーザ光を収束するための第3のレンズと,該第3のレンズによる試料の像面に位置し移動可能とした第1のスリットと,該第1のスリットを通過したレーザ光を収束するための第4のレンズと,該第4のレンズによる上記第1のスリットの像面に位置し,上記第1のスリットの方向と交叉しかつ移動可能とした第2のスリットと,該第2のスリットを透過したレーザ光2を検出する光検出器からなる走査レーザ顕微鏡。」 イ 対比 そこで,本件発明7と参15発明とを対比すると,その機能ないし構造からみて,参15発明における「試料」,「レーザ光」,「第3のレンズ」および「光検出器」は,それぞれ,本件発明7における「サンプル」,「光」,「散乱光のスペクトルを得る手段(レンズ)」,および「光検出器」に相当することが明らかである。 また,参15発明の「第1のスリットと,該第1のスリットを通過したレーザ光を収束するための第4のレンズと,該第4のレンズによる上記第1のスリットの像面に位置し,上記第1のスリットの方向と交叉しかつ移動可能とした第2のスリット」は,「二次元空間フィルタ」であり,二次元で共焦点作用をもたらすから,本件発明7の「スリットを備えた一次元空間フィルタ」とは,共焦点作用をもたらす「空間フィルタ」である点で共通する。 さらに,参15発明の「走査レーザ顕微鏡」と本件発明7の「分光分析装置」とは,「光学装置」の点で共通する。 そうすると,両者は, (一致点) 「サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と, 光検出器と, 前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段と を具備する光学装置であって, 前記光は空間フィルタを通過して共焦点作用をもたらし, 前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記空間フィルタにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記空間フィルタを通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記空間フィルタにおいて焦点を結ばない光学装置。」 である点で一致し,次の点で相違するといえる。 (相違点5-1) 「光学装置」が,本件発明7では「スペクトルを分析する手段」を具備する「分光分析装置」であるのに対して,参15発明では透過型の「走査レーザ顕微鏡」である点。 (相違点5-2) 「空間フィルタ」が,本件発明7では「スリットを備えた一次元空間フィルタ」であるのに対して,参15発明では「第1のスリット81と,該第1のスリット81を通過したレーザ光2を収束するための第4のレンズ34と,該第4のレンズ34による上記第1のスリット81の像面に位置し,上記第1のスリットの方向と交叉しかつ移動可能とした第2のスリット82と」である点。 (相違点5-3) 本件発明7では「前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されてお」るのに対し,参15発明ではそのような構成か否か不明である点。 (相違点5-4) 本件発明7では「前記サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ」るの対して,参15発明では「レーザにより出射されたレーザ光を収束させポイントソースとするための第1のレンズと,このレーザ光を再び収束し,試料をポイントソースの像面に置くための第2のレンズと」が用いられる点。 (相違点5-5) 「光検出器」が,本件発明7では「電荷結合素子である」の対して,参15発明では不明である点。 ウ 相違点の検討 (ア)そこで,先ず,相違点5-1について検討する。 本件特許明細書をおける「背景技術」欄に記載されているように,「スペクトルを分析する手段」を具備する「分光分析装置」は,本件特許の優先日前周知であり,また,本件特許の優先日前に頒布された刊行物である特開平1-188816号公報に記載されているように,分光機能のない走査顕微鏡に分光機能を付加することも,本件特許の優先日前に知られている。 してみると,参15発明を本件発明7と同様の「分光分析装置」に変更することは,当業者において十分な動機付けが存在し,また,何ら困難性もなく,容易に想到し得たものといえる。 (イ)相違点5-2について検討する。 参15発明の「二次元空間フィルタ」は,「第1のスリット」と「第4のレンズ」と「第2のスリット」とを必須の構成とするものであり,その「第1のスリット」が本件発明7の「一次元空間フィルタ」に相当するといえるとしても,それ以外の「第4のレンズ」と「第2のスリット」を除くあるいは他の手段に変更することについては,阻害要因が存在するというべきである。また,「第4のレンズ」と「第2のスリット」を除くあるいは他の手段に変更する参考資料15には記載も示唆もないから,動機付けもないといえる。 してみると,参15発明において,相違点5-2における本件発明7の構成とすることは,相違点1は,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (ウ)相違点5-3について検討する。 相違点2-2の検討にて前述したように,「光検出器の所与の領域で受ける光が,前記所与の領域外で受ける光を含まずに,またはこの光と分離して検出され,前記所与の領域は共焦点作用をもたらすように形成される」ことは,本件特許の優先日前周知の事項であるといえる。 しかしながら,前記周知の「空間ファイルタを使用しない共焦点作用」はピンホール,すなわち,二次元の共焦点作用をもたらすものの代替であって,一次元の共焦点作用をもたらすものではない。まして,「第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらす」ものではないことは明らかである。 そうすると,「空間ファイルタを使用しない共焦点作用」が周知であるとしても,参15発明において,前記周知の事項を適用して,相違点5-3における本件発明7の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項であるとは到底いえない。 そして,相違点5-3は,相違点5-2を前提として,参考資料15の記載および前記周知の事項からは予測し得ない,本件特許明細書に記載された格別の効果を奏するといえる。 (エ)相違点5-4について検討する。 相違点2-3の検討にて前述したように,ラマン分光装置において,「サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられている照射系」を採用することは,本件特許の優先日前周知の事項であるといえる。 また,前述の特開平1-188816号公報に記載されているように,分光型走査顕微鏡において透過型を反射型に変更することも,適宜選択し得る設計的事項であるといえる。 してみると,参15発明において,反射型に変更するとともに,「サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられている照射系」を採用し,相違点5-4における本件発明7の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものといえる。 (オ)相違点5-5について検討する。 本件特許明細書をおける「背景技術」欄に記載されているように,「電荷結合素子である」「光検出器」は,本件特許の優先日前周知であるといえる。 してみると,参15発明を本件発明7と同様の「電荷結合素子である」「光検出器」に特定することは,当業者において十分な動機付けが存在し,また,何ら困難性もなく,容易に想到し得たものといえる。 エ まとめ そうすると,本件発明7は,相違点5-2および5-3において,参15発明に基づいて当業者が容易に想到できたとはいえず,本件発明7をさらに限定する発明である本件発明8?13も,同様に,甲2発明に基づいて当業者が容易に想到できたとはいえない。 第3 むすび 以上のとおり,本件審判の請求は,特許法第126条第1項に掲げる事項を目的とし,かつ,同条第5項および第6項に適合するとともに,訂正後の発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができ,特許法第126条第7項の規定にも適合するものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 共焦点分光分析 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】サンプルに光を照射して散乱光スペクトルを得るステップと、 前記スペクトルを分析するステップと、 前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱する光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ、前記サンプルの他の面から散乱する光を前記光検出器に合焦させないステップと を具備する分光分析方法であって、 前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし、 前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されていることを特徴とする分光分析方法。 【請求項2】前記光検出器の前記所与の領域が細長いことを特徴とする請求項1に記載の分光分析方法。 【請求項3】前記光検出器の前記所与の領域が前記スリットを横切る方向に延在していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の分光分析方法。 【請求項4】前記光検出器はピクセルのアレイを備え、前記所与の領域の前記光が前記ピクセルの一部からのデータを選択的にまとめて貯蔵することにより検出されることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の分光分析方法。 【請求項5】前記光検出器はピクセルの二次元アレイを備え、前記合焦する前記光は前記アレイにより与えられるイメージを表すデータを処理することによって検出されることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の分光分析方法。 【請求項6】前記スペクトルがラマン散乱光のスペクトルであることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の分光分析方法。 【請求項7】サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と、 前記スペクトルを分析する手段と、 光検出器と、 前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段と を具備する分光分析装置であって、 前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし、 前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されており、 前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記スリットを通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記スリットにおいて焦点を結ばず、 前記サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ、 前記光検出器は電荷結合素子であることを特徴とする分光分析装置。 【請求項8】前記光検出器の前記所与の領域が細長いことを特徴とする請求項7に記載の分光分析装置。 【請求項9】前記光検出器の前記所与の領域が前記スリットを横切る方向に延在していることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の分光分析装置。 【請求項10】前記光検出器はピクセルのアレイを備えたことを特徴とする請求項7から請求項9の何れかに記載の分光分析装置。 【請求項11】前記所与の領域の前記ピクセルの一部からのデータを選択的にまとめて貯蔵する手段を有することを特徴とする請求項10に記載の分光分析装置。 【請求項12】前記光検出器はピクセルの二次元アレイを備え、前記アレイにより与えられるイメージを表すデータを受け、このイメージデータを処理して合焦される前記光を検出する計算手段を有することを特徴とする請求項10または請求項11に記載の分光分析装置。 【請求項13】前記スペクトルがラマン散乱光のスペクトルであることを特徴とする請求項7から請求項12の何れかに記載の分光分析装置。 【発明の詳細な説明】 技術分野 本発明は、例えばラマン効果を利用してサンプルを分析するのに分光分析が使用される装置および方法に関するものである。 背景技術 ラマン効果はサンプルが所与の周波数の入射光を散乱して入射光とサンプルを構成する分子との相互作用により惹起される線を有する周波数スペクトルにする現象である。分子種が異なると特徴的ラマンスペクトルが異なり、そのためこの効果はサンプル中に存在している分子種の分析に使用することができる。 ラマン分析装置の従来構成は「ラマンマイクロプローブおよびレーザ励起顕微鏡」(Raman Microprobe and Microscope with Laser Excitation)(M Delhaye and P Dhamelincourt,Journal of Raman Spectroscopy,3 (1975),33-43)および本出願人の国際特許公開明細書WO90/07108号公報にも記載されている。サンプルがレーザからの単色光を照射され、散乱光が分析されて、得られたラマンスペクトルの特定の線が選択される。この分析は回折格子、例えばモノクロメータのような分散性装置、により行ってもよく、あるいはWO90/07108号公報に記載のように非分散性の波長可変なフィルタを使用して行ってもよい。WO90/07108号公報は生じたラマン散乱光は2次元光検出アレイである電荷結合素子(CCD)上に合焦、つまり焦点を結ばせてもよいことも開示している。 サンプルが単色光または多色光さえも照射され、散乱光が分析される他の分光分析技術も知られている。例としては蛍光分光分析および赤外分光分析がある。本発明はそのような技術にも応用できる。そのような技術を共焦点法で使用してサンプルの一定の面から散乱された光のみを分析することも可能である。これは散乱された光をレンズ系の焦点に非常に小さなピンホール(典型的には10μm)を備えた空間フィルタを通過させることを含む。要求された面から散乱された光はピンホールにおいて緊密に焦点を絞られて通過するが、他の面からの光は焦点がそれほど緊密(tight)に絞られず遮断される。しかしながら、そのような空間フィルタは正確に構成するのが難しい。というのは、光学要素を注意深く整合(アラインメント)させて散乱された光を非常に小さなピンホール上に緊密に焦点合わせすることを保証する必要があるからである。同じ理由で、最初に組み立てた後、光学要素を正確に整合状態に維持するのが難しく、この系は、また、振動に対して敏感である。ラマン系のような非常に低レベルの散乱された光しか分析に利用できない系では、焦点に集められた光を目で見ることができないので、整合を行うのが特に困難である。 発明の開示 本発明は、サンプルに光を照射して散乱光スペクトルを得るステップと、前記スペクトルを分析するステップと、前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱する光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ、前記サンプルの他の面から散乱する光を前記光検出器に合焦させないステップとを具備する分光分析方法であって、前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし、前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されていることを特徴とするものである。 また、本発明は、サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と、前記スペクトルを分析する手段と、光検出器と、前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し、前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段とを具備する分光分析装置であって、前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用をもたらし、前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が、前記所与の領域外で受ける光を含まずに、またはこの光と分離して検出され、前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されており、前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は、前記スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記スリットを通過し、前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は、前記スリットにおいて焦点を結ばず、前記サンプルに光を照射するのと、前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ、前記光検出器は電荷結合素子であることを特徴とする分光分析装置を提供する。 図面の簡単な説明 第1図はラマン分析装置の第1の実施例の概略図である。 第2図および第3図は、それぞれ、第1図の装置とともに使用されるCCDの部分の概略平面図である。 第4図はラマン分析装置の別の実施例の概略図である。 第5図は第4図の実施例とともに使用されるCCDの部分の概略平面図である。 第6図および第7図は、それぞれ、ラマン分析装置の他の実施例を説明するために使用されるCCDの平面図である。 発明を実施するための最良の形態 第1図に示される装置の第1の実施例はWO90/07108号公報に示された装置に基づいており、引用によりここに導入される(詳細については同公報参照)。入力レーザビーム10は光路に45°に置かれたダイクロイックフィルタ12により90°反射される。次いで、このレーザビームは顕微鏡対物レンズ16に送られる。このレンズはこのレーザビームをサンプル18上の焦点19におけるスポットに焦点を結ばせる。光はこの照射されたスポットでサンプルにより散乱され、顕微鏡対物レンズ16により集光され、平行ビームに平行化(コリメート)され、ダイクロイックフィルタ12に戻る。フィルタ12は入力レーザビーム10と同じ周波数を持つレーリー散乱光を遮断し、ラマン散乱光を伝送する。ラマン散乱光は次いでラマン分析器20に送られる。 ラマン分析器20はWO90/07108号公報に記載のように、関心のあるラマン線を選定するための波長可変非分散性フィルタを1つまたは複数個備えている。あるいは、従来のモノクロメータ構成または英国特許出願第9124408.7に記載の構成のいずれかの構成の回折格子のような分散性エレメントを備えていてもよい。いずれの場合も、分析器20からの光はレンズ22により適当な光検出器上に焦点を結ぶ。2次元光検出器アレイが好ましい。本実施例では、電荷結合素子(CCD)24が使用される。CCDはピクセルの2次元アレイからなり、コンピュータに接続される。コンピュータは各ピクセルからデータを獲得し、それを必要に応じて分析する。ラマン分析器20が波長可変非分散性フィルタを備えている場合、選定されたラマン周波数の光がCCD24の26に焦点を結ぶ。回折格子のような分散性エレメントが使用されている場合、分析器20は単一のスポットではなく、CCD24に沿って線上に広がる破線28で示される種々のバンドを持つスペクトルを生じる。 レンズ16の焦点19からの光はCCD上に緊密な焦点を結ぶ。しかしながら、破線36で示されるように、焦点19の前または後の光はより拡散した焦点になる。分析器20に非分散性フィルタが使用される場合、効果はCCD24の部分の平面図である第2図に示されている。CCDの個々のピクセルが正方形40として示されている。ピクセルのピッチは典型的には22μm以下でよい。円26は焦点19から散乱された光の分布を表し、円38はサンプルの他の場所から散乱された光のより拡散した焦点を表す。データを分析するときは、コンピュータは、26に焦点を結んだ光を受ける、影をつけて示された数個のピクセル42をまとめて貯蔵する。円38の他の場所からの外光(無関係の光)はコンピュータにより無視される。これは、データを各ピクセル42から順番に読取、ピクセル42からのデータを一緒に加え、残りを無視するコンピュータソフトウェアにより容易に達成される。 CCDをコンピュータと組み合わせると、このように、従来の空間フィルタにおけるピンホールと同じ効果を与える。レンズ16がサンプルの表面に焦点を結ぶと、サンプル内の表面の背後から散乱された光をフィルタリングして取り除くことができ、表面自体の分析も行うことができる。あるいは、レンズ16を故意にサンプル内の点に焦点を結ばせて表面から散乱された光をフィルタリングして取り除くことができる。このように、余分の空間フィルタを使用しないでも共焦点作用が達成されていた。 回折格子その他の分散性エレメントが第1図の分析器20として使用され、単一のラマンバンドでなく完全なラマンスペクトルを見ることが望まれているときは、完全な共焦点分光分析はそのような単純なソフトウェアでは不可能である。しかしながら、第3図に示すようにCCD24とコンピュータ25を操作することにより部分的共焦点作用を達成することができる。回折格子はサンプルからのラマンスペクトルをCCDを横切って一つの線に分散させる。この線の幅は例えば第3図のCCD上の線44同士の間の影を付けてない領域の焦点19から散乱された光に対して最も小さい。焦点19を含む焦点面の外側の面からの光は第3図の線46同士の間に定義されるようなもっと幅広な線に散乱される。従って、部分的共焦点作用を得るには、コンピュータ25は、線44同士の間の領域にあるCCDのピクセルからだけデータを獲得し、CCDの他の場所で受領された光を排除するように(上述したのと同様の仕方で)プログラムされる。これにより、焦点19の外側からの第3図の影を付けた領域で受領された光が排除される。 第3図の構成が部分的共焦点作用のみを発揮する理由は、CCDとコンピュータにより提供される空間フィルタリングが一次元でのみ起こり、二次元では起きないからである。これは、第1図のものと同じエレメントに空間フィルタ14を加えた第4図の実施例を使用することにより克服できる。第1図で使用したのと同じ参照番号が使用されている。 空間フィルタ14は2つのレンズ32,34と、紙面に鉛直に延びるスリット30を有するスクリーン31とを備えている。レンズ32は散乱された光の平行ビームをスリット30を通過する非常に緊密な焦点に絞り込まれ、レンズ34はこの光を再び平行化して平行ビームに戻す。入力レーザビーム10は同様に非常に小さいスポットに絞り込まれてスリット30を通過する。このスリット30の効果は顕微鏡対物レンズ16が共焦点的に作用することにある。すなわち、実質的にレンズ16の焦点19で散乱された光だけがスリット30を通過する。破線36で示したように、焦点19の前または後で散乱される光は穴30で焦点を結ばないため、実質的にスクリーン31により遮断される。 第5図は、CCDを第4図の実施例で使用したときの第2図および第3図に対応する平面図である。スリット30を通過する光は回折格子分析器20によりラマンスペクトルの個々のバンド28に分散される。スリット30がないと、バンド28に対応するが焦点19の外側から散乱された光が破線対48,50の間にあるもっと広い領域に現れる。スリット30は一次元空間フィルタリングのみを提供し、ラマンバンド28のそれぞれが第5図の水平方向に空間的にフィルタリングされるようにしていることが認められるであろう。しかしながら、焦点19の外側からの若干の光が依然としてスリット30を通過し第3図の影を付けた領域に対応する第5図の領域において受領されることがある。これを克服するには、コンピュータ25を第3図の実施例におけると同様にプログラムして、線44同士の間にあるピクセルからのデータだけを処理し、線46同士の間にある他のピクセルを排除する。これにより、垂直方向における空間フィルタリングが得られ、スリット30により与えられる水平空間フィルタリングと一緒に、完全な二次元共焦点作用が達成される。 スリット30の代りにピンホールを使用した構成に対するこの構成の利点はピンホールよりもスリットの方が整列するのがより容易であることにある。 所望により、12で示す位置の代りに第4図の12Aにおいて破線で示す位置にダイクロイックフィルタを設けることが可能である。レーザビームはそのとき10の代りに10Aで系に入射する。この構成は入力レーザビームは空間フィルタ14を通過する必要がないという利点を有する。その結果、レーザビームが穴30の縁に当り、そこからの散乱を生じるという危険がない。そのような散乱は望ましくない。というのは、穴の縁が極端に清浄に保たれない限り、汚れが少しでもあると未知のラマン散乱光を生じて分析器20を通過してCCD24上に記録されるからである。逆に、ダイクロイックフィルタを位置12に配置することは、装置を設定するときに容易に視ることのできる光を使用して穴30の位置を調整できるという利点を有する。12Aにおけるダイクロイックフィルタでは、ダイクロイックフィルタを通過して空間フィルタ14に至るラマン散乱光は満足に視ることができない。さらに、ダイクロイックフィルタを12に置くことは、空間フィルタ14はWO90/07108号公報に記載のような既存の装置に対して顕微鏡と装置の残りとの間に容易に追加でき、調整のために容易に接近できることを意味する。 空間フィルタとして動作するためには、スリット30の幅は非常に小さく、典型的には10μm以下でなければならない。最大値は50μmになろう。このように、スリット30は、十分量の光を集めるために例えば最低200μmのようにずっと大きな従来のモノクロメータに普通に設けられている入口スリット、出口スリットと混同されるべきでない。 上述した本発明の種々の例ではCCDを検知器として使用した。しかし、第2図において円26内に光を検出し、この円の外側の光を遮断するには、正しいサイズの、例えば雪崩型フォトダイオードの単一の光検出器を使用することが可能である。この構成も回折格子により生成される単一のラマンバンドを検出するのに使用することができる。第3図および第5図において線44同士の間の光を検出し、他の光を遮断するには、適当な幅を持つ一次元(すなわち、線形)光検出器アレイを使用することができる。 さらなる可能性は、他に使用されていないCCDのピクセル(例えば、円38(第2図)の外側または線46(第3図および第5図)の外側のピクセル)を使用して背景光のDCレベルを検出することである。これは、ついで、関心のあるピクセルにより生成された信号からコンピュータ25により減算される。 上述した第4図および第5図は回折格子のような分散性素子が分析器20として使用されるときにいかに完全な共焦点作用が得られるかを説明したものである。第6図および第7図を用いて、同様の結果が達成されるが空間フィルタ14を必要としない(すなわち、第1図に示すハードウェアを使用する)技法を説明する。これらの技法は、コンピュータ25内でもっと複雑なイメージ処理ソフトウェアを使用してCCD24から受領したデータを分析している。従って、第4図および第5図の実施例と比べて、これらの技法はより単純でより安価な光学的-機械的構成の利点を有するが、これと引き替えに、より時間のかかり、より大きなコンピュータや、コンピュータ処理を必要とする可能性がある。 第6図は第3図に相当するCCD24の図であるが、より詳細に示している。分散性分析器20(理想化された場合)により生成されたラマンスペクトルのバンドは線44内にある小さなスポット60により示される。そのような理想化された描図は、しかしながら、下記の3つの仮定が満たされる場合にのみ得られる。すなわち、 (a)サンプル18の光照射は小領域にわたるというよりも点状であることが必要であり; (b)すべての散乱は、焦点の上または下の隣接平面からではなくレンズ16の焦点面からでなくてはならず;かつ (c)ラマン散乱は光子と非常に精密に規定された周波数値を有するフォノンの相互作用により惹起され、各ラマンバンドは鋭く、非常に狭い幅(すなわち、精密に規定された波数)を有することが必要である。 もちろん、現実には、これらの仮定が完全には満たされることはない。仮定(a)および(b)が満たされないと、その結果、線46の間で、第6図の大きい方の円62により示されるように、イメージのぼけが生じる。精密に規定されたフォノン周波数(仮定(c))を持たない効果は、ラマンバンドのそれぞれを広げて、第6図に示すスポット60の代りに第7図に示す線60Aを与えることがあるこれに対応するぼけは、円62の代りに楕円62Aによって示される。本発明の好適な実施例におけるような共焦点技法の目的は、特に仮定(b)満たされない場合のぼけ効果を低減させることである。 コンピュータ25内のソフトウェアにより実行することができるイメージ処理アルゴリズムはぼけを低減または除去する効果があり、円62からスポット60を回復し、または楕円62Aから線60Aを回復する。いずれの場合も、このアルゴリズムの第1の工程はCCDからのイメージのすべてのデータをコンピュータ25のメモリー(またはハードディスクのような適当な格納媒体)内に読み込むことである。データはコンピュータ内でCCDの各ピクセルに対応して1つの格納位置を持つアレイとして格納される。 このアルゴリズムの次の工程は第6図および第7図に示されるX方向に相当する方向に格納されたデータを走査することである。これは線44内の一列のピクセルに対応する一列の格納されたデータのアレイに沿って行うことができる。この走査から、アルゴリズムは各円62の真中で最大照度点を決定する。円62が真円であり、かつ、各個別のラマンバンドの幅についての情報は必要がない単純な場合、アルゴリズムは各最大照度点の位置を対応するラマンバンドの波数としてアウトプットすることができる。この単純な場合、アルゴリズムは、次いで、(円62のそれぞれについて)円62内で走査されたばかりの照度の値の合計(または平均)を決定することができる。この値もアウトプットされて各ラマンバンドに関連した強度値を与える。 もっと込み入ったアルゴリズムは線46の間のすべてのピクセルを走査することができる(すなわち、前の一次元走査の代りの二次元走査)。円62のそれぞれについて、このアルゴリズムは図心(centroid)を決定してその図心のX方向の位置を対応するラマンバンドの波数としてアウトプットする。再び、このラマンバンドの強度は該当する円62内で走査されたばかりの値を合計または平均することにより決定することができる。 しかしながら、上述した2種のアルゴリズムのいずれも第7図の線60Aにより示されるラマンバンドの幅についての情報を与えない。また、それらはラマンバンドの形(すなわち、線60A内の強度分析)についての情報も与えない。そのような情報が要求されるときは、もっと複雑なイメージ処理技術を利用することができる。このために、ソフトウェアはつぎのようなアルゴリズムを行う。このアルゴリズムは、楕円62Aは多数の仮想の重なり合う円62Bであって、各仮想円は線60A内の異なるピクセルを中心としており、各仮想円はぼけ(第6図の円62におけると同じ仕方で生起する)に対応しているものと考えてよい、とする仮定に基づいている。 このアルゴリズムは以下のように進行する。まず、楕円62Aのデータが前と同様に走査されてこの楕円の最大照度の図心または点を決定する。次に、この点を含むピクセルの列(コラム)についてのデータがY方向に走査されてこの中心点からの種々の異なる半径での強度分布を決定する。近似として、この強度分布は楕円の図心のピクセル上に中心を置く仮想円の分布に対応するものと、かつ、この仮想円はX方向には同じ分布をしているものと仮定してもよい。しかしながら、この測定された分布は、また、すべての他の仮想円からの寄与を含んでいるので、X方向に測定された分布は対応しない。 このアルゴリズムの次の工程は、従って、他の仮想円のそれぞれについて、この走査をY方向に繰り返すことである。すなわち、Y分布は線60Aに沿う各ピクセルに対応して決定される。線60Aの所与のピクセルについての真の強度値を得るには、アルゴリズムは、次に、その所与のピクセルの測定された強度値からすべての他の仮想円からの寄与を減算する。仮想円のそれぞれについて、減算されるべき値は、その円に対応するY分布走査から決定される。円内の適当な半径に対する強度値である。使用すべき適当な半径は問題としているピクセルと問題としている円の中心との間の距離に相当する。そのような減算は仮想円のそれぞれについて行われる。全工程が線60Aに沿う各ピクセルに対して繰り返される。 このアルゴリズムの最終工程は線60A内の各ピクセルに対して得られた強度値を対応する波数(X方向の位置)とともにアウトプットすることである。 もちろん、所望により、もっと複雑なイメージ処理アルゴリズムを考案することも可能である。例えば、アルゴリズムは円62または楕円62Aで示したものよりも複雑なぼけを処理するように考案してもよい。例としてはサンプル18の照射された領域19が不均一な表面粗さを有していたり、刻み面のある表面(例えばダイアモンドフィルム)を有する場合である。 産業上の利用可能性 上述した方法はラマン分光分析以外の分光分析技法、例えば蛍光分光分析および赤外分光分析にも類似の仕方で使用することができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2012-09-11 |
出願番号 | 特願平4-511305 |
審決分類 |
P
1
41・
856-
Y
(G01N)
P 1 41・ 851- Y (G01N) P 1 41・ 853- Y (G01N) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 樋口 宗彦 |
特許庁審判長 |
岡田 孝博 |
特許庁審判官 |
後藤 時男 樋口 信宏 |
登録日 | 2002-12-06 |
登録番号 | 特許第3377209号(P3377209) |
発明の名称 | 共焦点分光分析 |
復代理人 | 窪田 郁大 |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |
復代理人 | 新開 正史 |
復代理人 | 窪田 郁大 |
復代理人 | 梅田 幸秀 |
復代理人 | 梅田 幸秀 |
代理人 | 特許業務法人谷・阿部特許事務所 |
復代理人 | 新開 正史 |