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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1264547
審判番号 不服2009-1035  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-13 
確定日 2012-10-10 
事件の表示 特願2001-537936「静脈注入のためのブドウ糖およびインスリン含有液体配合物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月25日国際公開、WO01/35943、平成15年 4月15日国内公表、特表2003-514014〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2000年11月10日(優先権主張 1999年11月15日、インド)を国際出願日とする出願であって、本願の請求項1に係る発明は、平成23年11月9日付け誤訳訂正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)

「静脈注入治療のための液体配合物であって、水500ml当たりの量で表して
(i) 16から40I.U.のインシュリン、
(ii) 10%から20%のブドウ糖、
(iii) 水、
(iv) 0.6875から1.375gのグルコン酸カルシウム、および
(v) 0.75から1.5gの塩化カリウム、を含むことを特徴とする液体配合物。」

2.拒絶の理由の概要
当審が通知した拒絶の理由の概要は、「この出願は、発明の詳細な説明の記載が、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項(以下、単に「特許法第36条第4項」と表記する。)に規定する要件を満たしていない。」 及び「本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」という理由を含み、以下の点を指摘している。

本願明細書には、本願の液体配合物の用途及び処方例は記載されているが、本願液体配合物が静脈注入治療に使用できるものであることを具体的に裏付けるものについては何ら記載されておらず、本願発明のような医薬の用途発明が、一般に、当業者が実施をすることができる程度に記載されているというためには、明細書において、有効成分として記載されている液体配合物が当該医薬用途に利用できることを裏付ける記載、すなわち、薬理データ又はそれと同視すべき記載が必要である。

3.判断
(1)特許法第36条第4項について
(1-1)本願発明は、「静脈注入治療のため」の、「液体配合物」の発明であるということができる。そして、「静脈注入治療」は、この語句からは治療対象の疾患は明らかではないが、「液体配合物」について、発明の詳細な説明の【0004】?【0008】の記載を検討すると、「ストレス、ショック、および重態状態」の治療に対して、現在利用できる液体は、
1.患者のカロリーの必要性を満たすことができず、これらの必要とされるカロリーは、ブドウ糖、アミノ酸、および脂質から生じる必要がある、
2.品種および量に関して、患者により要求される電解質を満たすことができない、
3.体は、インスリンの定性的かつ定量的欠乏、および乱れたホルモンレベルと共に、高レベルのカテコールアミンに関して、入手できるエネルギー基質および電解質を使用できない、
ので、患者は異化作用の状態に至り、このことの発生又は継続を停止又は防止するするために、つまり治療、改善、生き返り及び正常な状態に回復するために、可能かつ使用できる、カロリー、電解質、ビタミン及び他の必須成分に関する体の要求を与える注入物が重要視される」旨記載され、続いて、必要とされる液体の処方例が【0010】?【0027】に記載され、これらの処方例は、本願発明の規定する要件、つまり、インシュリン、ブドウ糖、水、グルコン酸カルシウム及び塩化カリウムの配合量を満足していることから、「静脈注入治療」の対象とする疾患は、「ストレス、ショック、および重態状態」を含むものとと認められる。
そうすると、本願発明において、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度の明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる実施可能要件)とは、発明の詳細な説明が、「液体配合物」を少なくとも「ストレス、ショック、および重態状態の治療」という用途に有効なものとして使用できることを、当業者が理解できるように記載されていることが必要があると認められる。

(1-2) ところで、本願出願時、本願発明の個々の成分は輸液成分として周知であるが、これらの成分を規定する配合量とすることにより「ストレス、ショック、および重態状態の治療」ができることは知られてはいない。
事実、この用途について、審査段階(平成19年12月17日付け意見書)において請求人は、
「本願発明は、斯かる構成を採用することによって、ストレス状態等にある患者において亢進されている異化作用を抑制して同化作用を高め、供給したエネルギー源を生体が適切に利用できるようにすると共に、生体の恒常性を正常な方向に回復させることを可能にし、重篤な状態からより自然で正常な状態に患者を回復させることを可能にするという、顕著な作用効果を奏することができます。…………本願発明者は、そのようなストレス状態、ショック状態および重篤状態等にある患者において、インシュリン依存性糖尿病の症状に似た生理状態となり、定性的および定量的なインシュリンの欠乏と共に、過剰なカテコールアミンやコルチゾンが存在しており、インシュリン分泌をもたらす物質(高濃度のグルコース、カルシウム等)を与えると共に、生体が異化状態から同化作用に変化できるようにインシュリンを捕捉する必要があることを発見し、本願発明を達成するに至りました。」と新たな医薬用途であることを主張している。

したがって、本願出願時の技術常識からは、当業者は、本願発明における液体配合物が「ストレス、ショック、および重態状態の治療」という医薬用途に有効であると理解することができないものであり、そうである以上、該液体配合物が上記医薬用途において有効なものであることが、明細書の発明の詳細な説明の記載から理解できなければ、当業者は該液体配合物が静脈注入治療用、つまり「ストレス、ショック、および重態状態の治療」という医薬用途に有効であることは理解することができないのである。

以下、本願明細書の発明の詳細な説明の医薬用途について、該液体配合物が有効なものであることが理解できるように記載されているか、特に医薬用途に関する記載について検討する。

(1-3)
(a)「現在、エネルギー基質により、必要とされるカロリーの制限された供給源から、不十分かつ不適切なカロリーを与えてきたのが明らかなようである。電解質、ビタミンおよび他の必要な要素も同様である。ストレス、ショック、および重態状態の治療について必要とされることへの不適切な知識がこのように遅れて認識されたことにより、多くの中央施設が、それらの影響を研究および評価するために注意および労力を増すことになった。このような労力によって、より特異的かつ関連した配合物が得られるようになり、組織の灌流および酸塩基バランスを正常な方向に回復することにより、生体恒常性を正常な方向に回復する必要性を強調している。これにより、研究者達により強調されてきたように、状態を改善し、生き返り、正常に快復することができるようになる。」(【0004】)
(b)「現在利用できる液体は、
1. 患者のカロリーの必要性を満たすことができない。これらの必要とされるカロリーは、ブドウ糖、アミノ酸、および脂質から生じる必要がある。
2. 品種および量に関して、患者により要求される電解質を満たすことができない。
3. 体は、インスリンの定性的かつ定量的欠乏、および乱れたホルモンレベルと共に、高レベルのカテコールアミンに関して、入手できるエネルギー基質および電解質を使用できない。」(【0005】?【0007】)
(c)「これらの影響全てにより、異化作用の状態に至る。体へのそれらの重大な影響は、自食(auto cannibalism)の状態としてうまく説明されている。このことが発生または継続することを停止するまたは防ぐ必要がある。これにより、治療、改善、生き返りおよび正常な状態に快復するために、可能かつ使用できる、カロリー、電解質、ビタミンおよび他の必須成分に関する体の要求を与える注入物が重要視される。主な手術方法のような予測される状況においてこの系統の手法への予防処置により、その方法のリスクをかなり最小にすることができる。」(【0008】)
(d)非糖尿病と言われている患者を治療するための液体の処方例(表1?8)(e)明白な糖尿病のケースを治療する液体の処方例(表9?16)
(f)本願発明における液体配合物の個々の成分の作用【0031】?【0071】
(g)「ストレス、外傷、ショックの重態状態、手術感染のために、神経ホルモン応答が乱れて、ホルモンカテコールアミンレベル、生体恒常性状態が変更され、防衛機構および代謝のレベルが変えられてしまうと感じている。正常な状態に快復するような適切な生理的応答を与えるために、全ての必要性に対処すべきである。延命治療の必要なく、ほぼ自然な正常な生活を得るために、この手法を、よく釣り合いがとれ、ゆるやかであり、予測でき、適度なものにする必要がある。」(【0075】)
(h)「 1) 全ての個人は潜在的に糖尿病や高血圧であり、ストレスや同類の状況下ではよりその傾向が強いことがかなり多くのものに今では確証されていると感じている。
2) ストレスおよび重態状態の元では、代謝が活発になり、多器官機能障害症候群に至る最悪の状態である、自食に至る。
そのような発生を最小にするための予防処置として、以下において、これらの液体が用いられる:
1) ストレス-原発性高血圧狭心症、
2) ショック、
a) 多発性外傷、
b) 穿孔性腹膜炎、
c) 膵炎、
d) 大手術方法、
e) 血管大手術、
血栓内膜摘出、
門脈圧亢進症における腸間膜静脈下大静脈解剖等、
3) 肝硬変、
4) サソリに刺される、蛇に噛まれる、
5) 細菌耐性感染-敗血症性ショック、
6) 以下の条件
a) 冠状動脈疾患、
b) 心筋梗塞、
c) 心臓血管手術後、
7) 成人呼吸困難症候群/多器官機能障害症候群、
8) 癌の治療、
9) 多発性嚢胞腎、
10) アルツハイマー病および重態状況に関連する多くの他の臨床状態
11)
これらの液体は、ことによると、HIVおよびオーストラリア抗原ウイルス感染狂犬病、および破傷風のような状況に併用することにより、ほぼ正常なレベルまで、細胞および器官の環境を回復することにより、よりよい結果を与え、体の防衛機構を補助して、細胞膜に有益な影響を有するであろう。」(【0076】?【0078】)
(i)「請求項1から4により、これらの液体は上述した状態を治療するのに効果的であると主張できる。
上述した配合物は、配合して直ちに使用して、最初から効果的であると証明された。配合物の安定性に問題が生じる場合、使用の直前に混合するのに適した組合せ(別々の)パッケージにする必要がある。」(【0079】?【0080】)

上記(a)は、出願時に使用されている液体配合物がストレス、ショック及び重態状態の治療に不十分・不適切であって、多くの施設で液体配合物の研究及び評価をする方向であり特異的かつ関連した配合物が得られることを推測する記載に留まり、本願発明における液体配合物についての上記用途に対しての薬理試験について何ら記載するのものではない。
上記(b)には、現在利用できる液体の欠点が記載されているだけである。
上記(c)には、異化作用の状態に至る疾患、すなわち、「ストレス、ショック、および重態状態」の治療のために注入物が重要であり、リスクを最小にできるとの記載があるだけで、薬理試験方法も、その結果のデータも何ら記載されていない。
上記(d)及び(e)には、液体配合物の処方例が記載されているだけで、薬理試験方法及びそのデータは何ら記載されていない。
上記(f)には、液体配合物の個々の成分の作用が記載されているだけで、液体配合物の薬理試験方法もその結果のデータも何ら記載されていない。
上記(g)には、「ストレス、ショック、および重態状態」の症状及びその対処方法を示唆する旨が記載されているだけで、液体配合物の薬理試験方法もその結果のデータも何ら記載されていない。
上記(h)には、「ストレス、ショック、および重態状態」の具体的な疾患名が羅列され、液体配合物がよい結果を与えるであろうとの発明者の推測が記載されているものの、液体配合物の薬理試験方法もその結果のデータも何ら記載されていない。
上記(i)には、液体配合物が上記疾患の治療に効果的あるとの発明者の主張と配合物の使用方法に関する記載のみで液体配合物の薬理試験方法及びその結果のデータは何ら記載されていない。

してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の(a)?(i)の記載は、液体配合物の具体的な処方例、「ストレス、ショック、および重態状態」の具体的な疾患名は記載されているが、液体配合物を上記疾患の治療に用いることについての発明者の推測が記載されているだけであり、液体配合物が、少なくとも「ストレス、ショック、および重態状態」の治療という用途に有効であることは客観的に裏付けられているとは認められない。

なお、請求人は、参考資料1及び2を提出して、液体配合物が静脈注入治療に使用できるという主張が正当であることを支持するものであると主張しているが、これらの文献は2005年、2006年に頒布されたものであって本願出願時の技術水準を示すものではなく、更に、本願発明の必須成分であるグルコン酸カルシウムを含有する液体配合物に言及するものではないから、採用できない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、液体配合物が、静脈注入治療の主たる対象疾患である「ストレス、ショック、および重態状態」治療用という医薬用途に有効であることが、当業者が理解できるように記載されているとは認められないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項第1号には、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」でなければならない旨が規定されており(サポート要件)、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

これに対し、本願発明における液体配合物は、上記(1-2)に述べたように、本願出願時の技術常識からは、当業者は、本願発明における液体配合物が「ストレス、ショック、および重態状態の治療」という医薬用途に有効であると理解することができないものであり、かつ、上記(1-3)で述べたように、本願明細書の発明の詳細な説明には、液体配合物が、静脈注入治療の主たる対象疾患である「ストレス、ショック、および重態状態」治療用という医薬用途に有効であることが、当業者が理解できるように記載されているとは認められない。
そうすると、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明の記載によって、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるとはいえず、また、発明の詳細な説明の記載によらずとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとも認められないから、本件特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合しない。

したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-08 
結審通知日 2012-05-15 
審決日 2012-05-29 
出願番号 特願2001-537936(P2001-537936)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 忍  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 中村 浩
内藤 伸一
発明の名称 静脈注入のためのブドウ糖およびインスリン含有液体配合物  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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