• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1264565
審判番号 不服2010-13087  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-16 
確定日 2012-10-11 
事件の表示 特願2002-359903号「水硬性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年7月8日出願公開、特開2004-189546号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年12月11日の出願であって、平成20年2月26日付けの拒絶理由の通知に対して同年4月18日付けで意見書および手続補正書が提出され、平成21年3月16日付けの最後の拒絶理由の通知に対して同年5月21日付けで意見書が提出され、平成22年3月19日付けで拒絶査定され、これに対して同年6月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正書が提出され、その後、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した平成23年12月28日付けの審尋を通知したものの回答書が提出されなかったものである。

2.平成22年6月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年6月16日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(2-1)補正事項
平成22年6月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に係る補正を含み、補正前後の請求項1の記載は、次のとおりである。
(補正前)
「【請求項1】
都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造した焼成物の粉砕物、石膏、高炉スラグ粉末および石灰石粉末を含む水硬性組成物であって、
前記焼成物が、3CaO・Al_(2)O_(3)を10?25質量%、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を10?20質量%かつ3CaO・Al_(2)O_(3)と4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)の合計量が20?35質量%、塩素量が0.1質量%以下で、
さらに、2CaO・SiO_(2)及び/又は3CaO・SiO_(2)を含むものであり、
焼成物の粉砕物100質量部に対して、石膏量がSO_(3)換算で1.0?6.5質量部、高炉スラグ粉末量が5?150質量部、石灰石粉末量が2?60質量部であることを特徴とする水硬性組成物。」
(補正後)
「【請求項1】
都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造した焼成物の粉砕物、石膏、高炉スラグ粉末および石灰石粉末を含む水硬性組成物であって、
前記焼成物が、3CaO・Al_(2)O_(3)を10?25質量%、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を10?20質量%かつ3CaO・Al_(2)O_(3)と4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)の合計量が20?35質量%、塩素量が0.1質量%以下で、
さらに、2CaO・SiO_(2)及び/又は3CaO・SiO_(2)を含むものであり、
焼成物の粉砕物100質量部に対して、石膏量がSO_(3)換算で1.0?6.5質量部、高炉スラグ粉末量が15?100質量部、石灰石粉末量が2?60質量部であることを特徴とする水硬性組成物。」

(2-2)補正の適否
請求項1に係る補正の補正事項は、補正前の「高炉スラグ粉末量が5?150質量部」を、補正後の「高炉スラグ粉末量が15?100質量部」にするものであって、数値範囲を狭める(限定する)ものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、請求項1に係る補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的にするものである。
そして、願書の最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には、「【0012】
高炉スラグ粉末の量は、焼成物の粉砕物100質量部に対して5?150質量部が好ましく、15?100質量部がより好ましい。高炉スラグ粉末の量が、焼成物の粉砕物100質量部に対して5質量部未満では、モルタルやコンクリートの流動性が低下するうえ、流動性の経時変化も大きくなるので好ましくない。150質量部を越えると、モルタルやコンクリートの初期強度発現性が低下するので好ましくない。・・・」との記載があり、これからして、請求項1に係る補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満足するものである。

(2-3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか)について以下に検討する。

(2-3-1)本願補正発明
本願補正発明は、上記(2-1)において示した補正後の請求項1に記載された事項により特定されるものである。

(2-3-2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用した特開2002-316858号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載・表示がある。
(a)「【0006】そこで、本発明は、空隙つぶれを減少することにより連続空隙率を保持して良好な透水係数と十分な曲げ強度を有するポーラスコンクリートおよび舗装面からの粗骨材の剥離を低減でき供用性に問題がなく、歩道から交通量の多い車道までの広い範囲の道路に適用することができる現場打ち透水性コンクリート舗装を提供することを目的とする。」

(b)「【0019】
【発明の実施の形態】以下に、本発明について更に詳細に説明する。本発明のポーラスコンクリートおよび現場打ち透水性コンクリート舗装において使用するセメントは、都市ごみ焼却灰および下水汚泥焼却灰の1種以上を原料としてなる焼成物であって、カルシウムクロロアルミネート、カルシウムフルオロアルミネートまたはカルシウムアルミネートの1種または2種以上を10?40質量%およびカルシウムシリケートを含む焼成物と石膏を主成分としてなるエコセメントである。ここで、カルシウムクロロアルミネートは11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaCl_(2)(C_(11)A_(7)CaCl_(2)と略記)、カルシウムフルオロアルミネートは11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)(C_(11)A_(7)CaF_(2)と略記)、カルシウムアルミネートは3CaO・Al_(2)O_(3)(C_(3)Aと略記)の組成式で表される。また、カルシウムシリケートは、ジカルシウムシリケート(2CaO・SiO_(2)、C_(2)Sと略記)またはトリカルシウムシリケート(3CaO・SiO_(2)、C_(3)Sと略記)の1種以上が含まれるものである。」

(c)「【0021】また、可使時間や運搬時間を十分確保したい場合は、特に、C_(3)Aを10?25質量%およびカルシウムシリケートを含み、かつ塩化物イオン含有量が0.1質量%以下の焼成物と石膏を主成分としてなるエコセメントが好ましい。C_(3)A含有量が10?25質量%で塩化物イオン含有量が0.1質量%以下の範囲なら、凝結時間は普通ポルトランドセメントと同様になる。」

(d)「【0026】本発明のポーラスコンクリートおよび現場打ちコンクリート舗装において使用するエコセメントを含む粉体混合物とは、エコセメントに高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石灰石粉、珪石粉、シリカフューム等の無機質粉末の1種以上を添加してなるものをいう。特に、本発明の現場打ち透水性コンクリート舗装においては、エコセメントと高炉スラグ粉末の粉体混合物が施工性に優れ好ましい。なお、エコセメントを含む粉体混合物中に占めるエコセメントの割合は、強度発現性の点から50質量%以上とすることが好ましい。」

(e)「【0029】本発明のポーラスコンクリートにおける水の添加量は、流動性を確保する上で、エコセメントまたはエコセメントを含む粉体混合物100重量部に対し16?80重量部が好ましい。水の添加量が16重量部未満では、セメントペーストまたはモルタルを粗骨材に被覆するのに十分な流動性が得られない。一方、水の添加量が80重量部を超えると、コンクリート中に連続する空隙率を保持することができず、ポーラスコンクリートとしての機能を果たすことができなくなる。また、本発明の現場打ち透水性コンクリート舗装における水の添加量は、エコセメントまたはエコセメントを含む粉体混合物100重量部に対し16?28重量部が好ましい。水の添加量が16重量部未満では、5.0N/mm^(2)以上の曲げ強度が得られ難く、交通量の多い車道に適用することが困難となる。一方、水の添加量が28重量部を超えると、粗骨材を被覆し結合するセメントペーストもしくはモルタルの強度が低下し、その結果コンクリートの曲げ強度が目標値(5.0N/mm^(2))を満たすことができなくなる。また、造粒後の粉体同士の結合が起こり、互いに独立した粉体とならず、セメントペーストまたはモルタルの流れ落ちも起こるので、目標とする透水係数(0.1cm/sec)を得ることができなくなる。」

(f)「【0035】本発明のポーラスコンクリートおよび現場打ち透水性コンクリート舗装において、エコセメントまたはエコセメントを含む粉体混合物に更に添加する石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏およびこれらの混合物が挙げられる。中でも、強度発現性の点から、無水石膏を使用するのが好ましい。石膏の添加量は無水物換算で、いずれにおいてもエコセメントまたはエコセメントを含む粉体混合物100重量部に対し0.05?5.0重量部、コストの点から好ましくは0.05?2.0重量部である。」

(g)「【0047】
【実施例】以下に本発明の実施例を示す。なお、これらは例示であり本発明を限定するものではない。
【0048】(製造例)セメントの製造にあたっては含有塩化物イオン量の少なく普通形エコセメントの製造に適した都市ゴミ焼却灰aと、塩化物イオン量が多く速硬形エコセメントの製造に適した都市ゴミ焼却灰bを使用してそれぞれエコセメントaおよびエコセメントbを製造した。以下に製造方法を示す。
【0049】エコセメントaの製造方法
表1に示す乾燥した都市ゴミ焼却灰a29.7質量%、石灰石粉68.6質量%、アルミ灰1.5質量%、粘土0.2質量%を原料として、ロータリーキルンを用いて1300?1450℃でクリンカーを焼成した。得られたクリンカーは竪型ミルで粉砕し、ブレーン比表面積4000cm^(2)/gに粉砕し、この焼成物100重量部に対して二水石膏を8.4重量部、半水石膏を3.6重量部添加してブレーン比表面積4700cm^(2)/gのエコセメントaを製造した。」

(h)【0051】【表1】、


(i)【0052】【表2】


(j)【0053】【表3】


(k)【0055】【表4】


(l)上記(g)には「・・・エコセメントaの製造方法
表1に示す乾燥した都市ゴミ焼却灰a29.7質量%、石灰石粉68.6質量%、アルミ灰1.5質量%、粘土0.2質量%を原料として・・・この焼成物100重量部に対して二水石膏を8.4重量部、半水石膏を3.6重量部添加してブレーン比表面積4700cm^(2)/gのエコセメントaを製造した。」との記載があり、また、上記(j)の【表3】には、エコセメントaの組成について、「SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、Fe_(2)O_(3)、CaO、MgO、SO_(3)、Na_(2)O、K_(2)OおよびCl以外の組成は、100-(17.3+8.6+4.6+63.1+1.4+1.9+0.6+0+0.06)=2.44質量%」であり、「SO_(3)が1.9質量%」であるとの表示があり、さらに、上記(h)の【表1】には、焼却灰a・石灰石粉に1.9質量%・1.0質量%のSO_(3)が含まれていることの表示があり、これらからして、エコセメントaは焼成物と石膏の混合物であるとみることができ、エコセメントaの上記2.44質量%が石膏(仮に無水石膏)であると想定したときにSO_(3)換算で1.4質量%となり、これとエコセメントaのSO_(3)の上記1.9重量%とを合算した3.3質量%のSO_(3)の一部が石膏由来のものであって、エコセメントaにおいて「石膏由来のSO_(3)は3.3質量%より少ない量」であるということができる。

(m)上記(l)で示したように、エコセメントaは焼成物と石膏の混合物であるとみることができ、エコセメントaにおいて「石膏由来のSO_(3)は3.3質量%より少ない量」であるということができるので、焼成物と石膏の混合物であるエコセメントa100重量部中の石膏のSO_(3)換算量は3.3重量部より少ない量であり、
上記(k)の【表4】には「実施例No1、エコセメントEaが80重量部、Gy(石膏)が1重量部」との表示があり、また、上記(d)には「・・・エコセメントまたはエコセメントを含む粉体混合物に更に添加する石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏およびこれらの混合物が挙げられる。中でも、強度発現性の点から、無水石膏を使用するのが好ましい。・・・」との記載があり、これらからして、更に添加される無水石膏の量はエコセメントa100重量部に対して1.25重量部である。
つまり、焼成物と石膏の混合物であるエコセメントa100重量部中の石膏のSO_(3)換算量は3.3重量部より少ない量であり、更に添加される無水石膏の量はエコセメントa100重量部に対して1.25重量部であることから、無水石膏が更に添加されたエコセメントa中の焼成物の100重量部に対するトータル石膏のSO_(3)換算量は、概算、1.0?6.5重量部の範囲内に収まるということができる。

(n)上記(m)で示したように、焼成物と石膏の混合物であるエコセメントa100重量部中の石膏のSO_(3)換算量は3.3重量部より少ない量であり、
上記(k)の【表4】には、「実施例No1、エコセメントEaが80重量部、高炉スラグが20重量部」との表示があることから、エコセメントa100重量部に対する高炉スラグ(粉末)の量は25重量部である。
つまり、焼成物と石膏の混合物であるエコセメントa100重量部中の石膏のSO_(3)換算量は3.3重量部より少ない量であり、エコセメントa100重量部に対する高炉スラグ粉末の量は25重量部であることから、エコセメントa中の焼成物の100重量部に対する高炉スラグ粉末の量は、概算、25?30重量部の範囲内に収まるということができる。

上記(a)ないし(k)の記載事項・表示内容および上記(l)ないし(n)の検討事項より、引用例の実施例No1には、
「都市ゴミ焼却灰を原料として製造した焼成物の粉砕物、石膏、高炉スラグ粉末を含むセメントであって、
焼成物が、3CaO・Al_(2)O_(3)を15.1質量%、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を14.0質量%かつ3CaO・Al_(2)O_(3)と4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)の合計量が29.1質量%、塩素量が0.06質量%で、
さらに、2CaO・SiO_(2)及び3CaO・SiO_(2)を含むものであり、
焼成物の粉砕物100重量部に対して、トータル石膏量がSO_(3)換算で1.0?6.5重量部の範囲内の量、高炉スラグ粉末量が25?30重量部の範囲内の量である、セメント。」の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が開示されている。

(2-3-3)対比・判断
本願補正発明と引用例記載の発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「セメント」、「重量部」は、本願補正発明の「水硬性組成物」、「質量部」にそれぞれ相当する。

○引用例記載の発明の「トータル石膏量がSO_(3)換算で1.0?6.5重量部の範囲内の量」と本願補正発明の「石膏量がSO_(3)換算で1.0?6.5質量部」とは、「石膏量がSO_(3)換算で1.0?6.5質量部の範囲内の量」という点で共通している。

○引用例記載の発明の「高炉スラグ粉末量が25?30重量部の範囲内の量」と本願補正発明の「高炉スラグ粉末量が15?100質量部」とは、「高炉スラグ粉末量が25?30質量部の範囲内の量」という点で共通している。

上記より、引用例記載の発明と本願補正発明とは、
「都市ゴミ焼却灰を原料として製造した焼成物の粉砕物、石膏、高炉スラグ粉末を含む水硬性組成物であって、
焼成物が、3CaO・Al_(2)O_(3)を15.1質量%、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を14.0質量%かつ3CaO・Al_(2)O_(3)と4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)の合計量が29.1質量%、塩素量が0.06質量%で、
さらに、2CaO・SiO_(2)及び3CaO・SiO_(2)を含むものであり、
焼成物の粉砕物100質量部に対して、石膏量がSO_(3)換算で1.0?6.5質量部の範囲内の量、高炉スラグ粉末量が25?30質量部の範囲内の量である、水硬性組成物。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
本願補正発明では、焼成物の粉砕物100質量部に対して「石灰石粉末量が2?60質量部である」のに対して、引用例記載の発明では、上記の点を発明特定事項にしていない点。

<相違点>について検討する。
(α)引用例には、上記(2-3-2)(b)「【0019】
【発明の実施の形態】以下に、本発明について更に詳細に説明する。本発明のポーラスコンクリートおよび現場打ち透水性コンクリート舗装において使用するセメントは、都市ごみ焼却灰および下水汚泥焼却灰の1種以上を原料としてなる焼成物であって、カルシウムクロロアルミネート、カルシウムフルオロアルミネートまたはカルシウムアルミネートの1種または2種以上を10?40質量%およびカルシウムシリケートを含む焼成物と石膏を主成分としてなるエコセメントである。・・・」、同(d)「【0026】本発明のポーラスコンクリートおよび現場打ちコンクリート舗装において使用するエコセメントを含む粉体混合物とは、エコセメントに高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石灰石粉、珪石粉、シリカフューム等の無機質粉末の1種以上を添加してなるものをいう。特に、本発明の現場打ち透水性コンクリート舗装においては、エコセメントと高炉スラグ粉末の粉体混合物が施工性に優れ好ましい。なお、エコセメントを含む粉体混合物中に占めるエコセメントの割合は、強度発現性の点から50質量%以上とすることが好ましい。」との記載があり、これらからして、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石灰石粉、珪石粉、シリカフューム等の無機質粉末の1種以上を、石膏を含むエコセメント100質量部に対して0?100質量部の範囲内で添加できることが示されており、
(β)上記(2-3-2)(a)、(d)、(e)、(f)の記載からして、引用例には、流動性と強度が良好である、石膏を含むエコセメントを提供することが記載されているということができ、
(γ)一般に、石膏を含むエコセメントの流動性を良好にするために石灰石粉末を添加する(石灰石粉末の添加による強度低下は少ない)ことは、本願出願前周知の事項(例えば、前置報告で引用文献12として引用した特開平11-228209号公報の特に下記で示す【0009】ないし【0014】参照)である。
「【0009】エコセメントの原料は、貝殼や下水汚泥に生石灰を混合した下水汚泥乾粉、その他の一般廃棄物や産業廃棄物、さらには普通のセメント原料である石灰石、粘土、珪石、アルミ灰、ボーキサイ卜、鉄等と混台して成分調整した原料であってもよい。係る原料を1200?1500℃で焼成して得たクリンカーを粉砕後、この焼成物に石膏を添加してエコセメントを製造する。
【0010】この焼成物中のアルミニウム源は主に焼却灰から由来する。従って、C_(11)A_(7)CaCl_(2)、C_(11)A_(7)CaF_(2)、C_(3)A等のアルミニウム化合物の含有量が10重量%未満では、焼却灰の使用量が少なくなり、廃棄物の有効利用および再資源化の観点から好ましくない。また、この量が40重量%を上回るとその水和の進行によってセメント硬化体が過大に膨張する場合がある。
【0011】上記焼成物に添加される石膏は、無水石膏、二水石膏、半水石膏のいずれでもよい。強度発現性から、石膏の添加量は焼成物100重量部に対して1?30重量部が好ましい。石膏の添加量が1重量部未満ではセメントが必要以上に早く凝結してしまい、施工上、十分な可使時間が得られない。また、30重量部を上回るとセメントの凝結が必要以上に遅くなり、強度発現性が低下する。
【0012】本発明の水硬性セメント組成物は、上記エコセメントに石灰石粉末を混合したものである。添加する石灰石粉末は、粒度がブレーン比表面積3000cm^(2)/g以上であり、1μm以下の微粒分を10重量%以上含むものが好ましい。このような石灰石粉末を添加することによりエコセメントの流動性が顕著に改善される。ここで、石灰石粉末の作用は以下のように考えられる。即ち、石灰石粉末はセメント粒子に比較して粉砕されやすく、一般に微粒分が多く粒度分布もブロードである。このため、石灰石粉末を混合することによって石灰石粉末の微粒分がセメント粒子間の空隙に充填され、本来この空隙に存在していた水が自由水となるため流動性が改善される。また、石灰石粉末の添加により水硬性セメント組成物全体の粒度分布がよりブロードになるので上記薬剤の使用によって充填性が改善され、水硬性セメント組成物の嵩が小さくなる。この結果、水セメント比が一定の条件下では、やはり自由水の量が増えることになり、この点からも流動性が改善される。更には、石灰石粉末の添加によって顕著な初期水和活性を有するアルミニウム化合物の比率が低下するため、初期の水和反応で消費される水が減少し、自由水となることも流動性の向上に寄与する。
【0013】なお、石灰石粉末の添加は流動性を改善する作用を有する一方で、添加量に見合った強度低下を引き起こす可能性が指摘される。ところが、石灰石粉末はアルミニウム化合物と反応して水和物を生成するため、アルミニウム化合物を多く含有するエコセメントでは石灰石の添加による強度低下は少なく、アルミニウム含有量の低い他のセメントに比べて、石灰石添加による強度低下を抑制する上で有利である。
【0014】石灰石粉末の添加量は内割で5?40重量%が好ましい。5重量%未満では実質的に流動性の改善効果がなく、一方、この添加量が40重量%を越えると、流動性は改善されるものの、強度低下が大きくなるためである。なお、石灰石粉末の成分のうち、粘度鉱物等は流動性の改善を阻害するので出来るだけ少ないことが望ましいが、流動性の改善効果を有し、強度への悪影響がなければ低純度の石灰石粉末でもかまわない。一般に、CaCO_(3)含有量が90重量%以上であれば概ね問題はない。」
そして、引用例記載の発明と上記周知の事項(γ)とは、石膏を含むエコセメントの特に流動性を良好にするという点で共通している。
そうすると、引用例記載の発明の「焼成物の粉砕物100質量部に対して、石膏量がSO_(3)換算で1.0?6.5質量部の範囲内の量、高炉スラグ粉末量が25?30質量部の範囲内の量である」「エコセメント(水硬性組成物)」について、上記(α)ないし(γ)に基いて、石膏を含むエコセメントの特に流動性を良好にするために石灰石粉末を添加することは、当業者であれば容易に想起し得ることであり、焼成物の粉砕物100質量部に対する石膏量、無機質粉末量(高炉スラグ粉末量および石灰石粉末量)をどれくらいにするか、例えば、石膏量がSO_(3)換算で1.0?6.5質量部、高炉スラグ粉末量が15?100質量部、石灰石粉末量が2?60質量部であるようにすることは、特に上記(α)、(γ)からして、当業者であれば適宜決定する設計的事項であるということができる。
したがって、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、引用例記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。
そして、本願補正発明の「流動性に優れ、流動性の経時変化も小さく、強度発現性も良好であるモルタルやコンクリートを製造する」という作用効果は、引用例記載の発明および本願出願前周知の事項より当業者であれば十分に予測し得ることである。
よって、本願補正発明は、引用例記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2-3-4)補正却下についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(3-1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年4月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記2.(2-1)で補正前として示したとおりのものである。

(3-2)引用例記載の発明
引用例記載の発明は、上記2.(2-3-2)で示したとおりである。

(3-3)対比・判断
上記2.(2-2)で示したように、請求項1に係る補正は、特許請求の範囲の減縮を目的にするものであることから、本願発明は、本願補正発明を包含している。
そうすると、本願補正発明が、上記2.(2-3-3)で示したように、引用例記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願補正発明を包含する本願発明も同じく、引用例記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-4)むすび
したがって、本願発明は、引用例記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-10 
結審通知日 2012-08-14 
審決日 2012-08-27 
出願番号 特願2002-359903(P2002-359903)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 末松 佳記  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 國方 恭子
斉藤 信人
発明の名称 水硬性組成物  
代理人 古川 秀利  
代理人 大宅 一宏  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ