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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1264693
審判番号 不服2011-19241  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-06 
確定日 2012-10-09 
事件の表示 特願2007-254217「財務会計システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月23日出願公開、特開2009- 86895〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年9月28日の出願であって,平成22年3月26日付けの拒絶理由通知に対して同年6月4日付けで手続補正がなされ,同年8月24日付けの最後の拒絶理由通知に対して同年11月1日付けで手続補正がなされたが,平成23年5月24日付けで補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年9月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされ,さらに平成24年1月26日付けで審尋がなされ,同年3月27日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年9月6日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年9月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容について
平成23年9月6日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)により,平成22年6月4日付けの手続補正による補正前の請求項1?3は,補正後の請求項1?2のとおりに補正された。
具体的には,本件補正により,補正前の請求項1は補正後の請求項1のとおりに補正され,補正前の請求項2は補正後の請求項2とされ,補正前の請求項3は削除された。
補正前の請求項1?3及び補正後の請求項1?2はそれぞれ以下のとおりである。
(なお,下線は,補正の個所を示すものとして当審で付加したものである。)

<補正前>
「 【請求項1】
単式簿記会計情報を用いて複式簿記会計情報を生成し,所要の財務諸表を作成する財務会計システムであって,
記憶装置に,単式簿記・現金主義機能要素から収集した前記単式簿記会計情報を,歳出と歳出に必要な財源のそれぞれについてキー項目に応じて予算額と支出額とが関連付けられた単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報として格納する一方,前記キー項目と複式簿記勘定項目および前記財務諸表の作成に必要な複式簿記勘定項目であることを示す区分とを対応付けし,前記単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報の前記キー項目に応じた予算額と支出額とを前記キー項目と対応する複式簿記勘定項目に振り分けて前記複式簿記会計情報に変換する変換テーブルを格納し,この変換テーブルを用いて前記単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を変換して前記複式簿記会計情報を得る情報収集手段と,
入力装置から前記所要の財務諸表を作成する要求を受け取り,当該作成要求のあった財務諸表を示す区分に従って作成に必要な複式簿記勘定項目を仕訳する仕訳手段と,
予め記憶装置に格納しておいた財務諸表のフォーマットデータを読み出し,前記仕訳手段が仕訳した複式簿記勘定項目に振り分けられた金額を,前記財務諸表内の対応する複式簿記勘定項目に当て嵌めることによって前記作成要求のあった財務諸表を作成する財務諸表出力手段と,
前記変換テーブルの内容に誤りがあることによって正しく変換されない場合,前記変換テーブルに当初記憶されていた第1のデータと逆に対応付けられ前記第1のデータを相殺する第2のデータと,正しい変換内容のデータである第3のデータとをさらに書き加えて,前記第1のデータ,第2のデータおよび第3のデータを有する前記変換テーブルの内容を全体として正しい変換内容に訂正する一括打消し手段と,を備えたことを特徴とする財務会計システム。
【請求項2】
前記仕訳手段の仕訳結果を,前記作成要求のあった財務諸表と対応付けたデータベースを前記記憶装置に格納しており,
財務諸表出力手段は,所要の財務諸表について作成要求があった場合,前記記憶装置に格納されるデータベースを参照し,前記作成要求に対応する仕訳結果を読み出し,読み出した仕訳結果を用いて前記作成要求のあった財務諸表を作成することを特徴とする請求項1記載の財務会計システム。
【請求項3】
前記単式簿記・現金主義機能要素は,予算を管理する少なくとも一以上の予算管理手段を備え,各予算管理手段は,それぞれ管理する予算についての単式簿記会計情報を前記情報収集手段へ入力するものであり,
前記財務諸表出力手段が作成する財務諸表は,正味資産増減計算書および純資産増減計画書の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1または2記載の財務会計システム。」

<補正後>
「 【請求項1】
単式簿記会計情報を用いて複式簿記会計情報を生成し,所要の財務諸表を作成する財務会計システムであって,
記憶装置に,単式簿記・現金主義機能要素から収集した前記単式簿記会計情報を,歳出と歳出に必要な財源のそれぞれについてキー項目に応じて予算額と支出額とが関連付けられた単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報として格納する一方,前記キー項目と複式簿記勘定項目および前記財務諸表の作成に必要な複式簿記勘定項目であることを示す区分とを対応付けし,前記単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報の前記キー項目に応じた予算額と支出額とを前記キー項目と対応する複式簿記勘定項目に仕訳して前記複式簿記会計情報に変換する変換テーブルを格納し,この変換テーブルを用いて前記単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を変換して前記複式簿記会計情報を得る情報収集手段と,
入力装置から前記所要の財務諸表を作成する要求を受け取り,当該作成要求のあった財務諸表を示す区分に従って,作成に必要な複式簿記勘定項目を仕訳する仕訳手段と,
予め記憶装置に格納しておいた財務諸表のフォーマットデータを読み出し,前記仕訳手段が仕訳した結果を,所定の複式簿記勘定項目に当て嵌めることによって,前記作成要求のあった財務諸表であって,少なくとも,入力された前記複式簿記会計情報から任意の種類の複式簿記に係る正味資産増減計算書の縦軸の増減内容と横軸の該当科目とを前記正味資産増減計算書の任意の座標にマトリックス座標位置情報として嵌め込む作業をなされた,前記正味資産増減計算書を作成する財務諸表出力手段と,
前記変換テーブルの内容に誤りがあることによって正しく変換されない場合,前記変換テーブルに当初記憶されていた第1のデータと逆に対応付けられ前記第1のデータを相殺する第2のデータと,前記変換テーブルに記憶されるデータから正しい変換内容として前記入力装置から指定されたデータを読み出し,第3のデータとしてさらに書き加えて,前記第1のデータ,第2のデータおよび第3のデータを有する前記変換テーブルの内容を全体として正しい変換内容に訂正する一括打消し手段と,を備えたことを特徴とする財務会計システム。
【請求項2】
前記仕訳手段の仕訳結果を,前記作成要求のあった財務諸表と対応付けたデータベースを前記記憶装置に格納しており,
財務諸表出力手段は,所要の財務諸表について作成要求があった場合,前記記憶装置に格納されるデータベースを参照し,前記作成要求に対応する仕訳結果を読み出し,読み出した仕訳結果を用いて前記作成要求のあった財務諸表を作成することを特徴とする請求項1記載の財務会計システム。」

なお,上記本件補正前の請求項1?3及び本件補正後の請求項1?2において,「正味資産増減計算書」と「正味資産増減計画書」とは,明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,同じものであると認められるから,本件補正前の請求項1?3及び本件補正後の請求項1?2における「正味資産増減計画書」との記載は,「正味資産増減計算書」との記載の誤記であると判断し,上記のとおり認定した。

2.補正の目的について
本件補正は,本件補正前の請求項1に係る発明における,「振り分けて」との事項を,「仕訳して」との事項に補正(以下「補正事項A」という。)し,「前記仕訳手段が仕訳した複式簿記勘定項目に振り分けられた金額を,前記財務諸表内の対応する複式簿記勘定項目に当て嵌める」との事項を,「前記仕訳手段が仕訳した結果を,所定の複式簿記勘定項目に当て嵌める」との事項に補正(以下「補正事項B」という。)し,「前記作成要求のあった財務諸表」との事項を,「前記作成要求のあった財務諸表であって,少なくとも,入力された前記複式簿記会計情報から任意の種類の複式簿記に係る正味資産増減計算書の縦軸の増減内容と横軸の該当科目とを前記正味資産増減計算書の任意の座標にマトリックス座標位置情報として嵌め込む作業をなされた,前記正味資産増減計算書」との事項に補正(以下「補正事項C」という。)し,「正しい変換内容のデータである第3のデータとをさらに書き加えて」との事項を,「前記変換テーブルに記憶されるデータから正しい変換内容として前記入力装置から指定されたデータを読み出し,第3のデータとしてさらに書き加えて」との事項に補正(以下「補正事項D」という。)するものである。

(1)上記補正事項Bについて,審判請求人は審判請求書で補正の目的について記載していないが,補正後の「仕訳手段が仕訳した結果」は,補正前の「仕訳手段が仕訳した複式簿記勘定項目に振り分けられた金額」を概念的に下位にしたものではなく,また,補正後の「所定の複式簿記勘定項目に当て嵌める」ことは,補正前の「前記財務諸表内の対応する複式簿記勘定項目に当て嵌める」ことを概念的に下位にしたものではないから,補正事項Bは,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものとは認められない。
また,上記補正事項Bは,改正前特許法第17条の2第4項第1号に規定される「請求項の削除」,同項第3号に規定される「誤記の訂正」,及び同項第4号に規定される「明りょうでない記載の釈明」のいずれを目的とするものとも認められない。

よって,補正事項Bを含む本件補正は,改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2)仮に上記補正事項Bが適法になされた補正であるとして,その他補正事項について,以下さらに検討する。
(2-1)補正事項Aについて,審判請求人は審判請求書で「新請求項1の特定事項Bに係る「仕訳」の箇所は,誤記である「仕分け」を正しい記載「仕訳」に訂正することを目的とする補正であります(特許法第17条の2第4項第3号)。そして,当該記載事項は,当初明細書に記載した事項の範囲内であります(特許法第17条の2第3項)。」と記載しているが,補正前の請求項1には,「仕分け」の語はないので,審判請求人の審判請求書における説明は誤りである。正しくは,上記補正事項Aのとおり,本件補正前の請求項1に係る発明における,「振り分けて」との事項を,「仕訳して」との事項に補正するものであるが,『誤記である「振り分けて」を正しい記載「仕訳して」に訂正することを目的とする補正である』と認められるので,補正事項Aは,誤記の訂正を目的とするものである。
(2-2)補正事項Cは,審判請求人が審判請求書で「新請求項1の特定事項Dに係る「財務諸表であって,少なくとも,入力された前記複式簿記会計情報から任意の種類の複式簿記に係る正味資産増減計算書の縦軸の増減内容と横軸の該当科目とを前記正味資産増減計画書の任意の座標にマトリックス座標位置情報として嵌め込む作業をなされた,前記正味資産増減計画書」に関する補正は,平成22年6月4日付の手続補正書で補正された請求項1の「財務諸表」に関する限定的減縮を目的とするものであります(特許法第17条の2第4項第2号)。そして,当初明細書の段落[0048]の「複式簿記会計エンジン113は,入力した発生主義・複式簿記仕訳データcから任意の種類の複式簿記フォーマットY,例えば図2に示す正味資産増減計算書Y1の縦軸の増減内容xと横軸の該当科目y(y1?y3)の任意の座標に嵌め込む作業をなす機能要素を備える。そして,この正味資産増減計算書Y1の該当するマトリックス座標位置情報を該当科目y1?y3が嵌め込まれて正味資産増減計算書Y1が作成される。」および平成22年6月4日付の手続補正書で補正された請求項3等に基づくものであります。(途中省略)当該補正は,平成22年6月4日付の手続補正書で補正された請求項1の「財務諸表」を限定するための補正であって,発明の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題が同一となるものでありますから(特許法第17条の2第4項第2号かっこ書),特許法第17条の2第4項第2号の要件(いわゆる限定的減縮を目的とする補正)を満たすと思料いたします。」と記載しているとおりであるから,限定的減縮を目的とするものである。
(2-3)補正事項Dは,審判請求人が審判請求書で「新請求項1の「前記変換テーブルに記憶されるデータから正しい変換内容として前記入力装置から指定されたデータを読み出し,第3のデータとしてさらに書き加えて,」に関する補正は,平成22年8月31日付で審査官殿から発送された拒絶理由通知の理由Aについて示す事項についての補正であって,明りょうでない記載の釈明(特許法第17条の2第4項第4号)を目的とするものであります。上記の補正後の記載内容は,当初明細書の段落[0149]等に記載される内容であります。より詳細には,当初明細書の段落[0149]には,「仕訳データh1が記憶されていたとする」との記載は,仕訳データh1を含む仕訳データは,一括打消手段による仕訳データ打ち消し(相殺)のために作成される仕訳データ(当初明細書に記載した例では,仕訳データh1を打ち消すための仕訳データh2)を除いて,予め記憶されているものであることを意味しており,その中の一つとして仕訳データh1を例にしたものであります。加えて,当初,どのデータを変換内容のデータとして使用するかを指定する必要がある点は,本発明の技術分野における通常の知識を有する者(いわゆる当業者)であれば,自明な事項であると思料いたします。従って,正しい変換内容のデータである第3のデータが変換テーブルに記憶されている点及び第3のデータが正しい変換内容のデータとして指定される点は当初明細書に記載されているといえると考えます(明示的に記載はされていなくても,記載されているに等しい事項であると思料いたします)。」と記載しているとおりであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

上記(2-2)に記載したように,請求項1に係る本件補正のうち,補正事項Cに係る補正は,本件補正前の請求項1に記載される発明を特定するために必要な事項を限定的に減縮する補正であり,改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件について
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(4)引用例

(4-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された「松下 邦彦,公会計改革とソリューション技術,東芝レビュー,株式会社東芝,2005年4月1日,第60巻,第4号,p52?55」(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の(ア)?(ウ)の事項が記載されている。
なお,原文の丸付き数字は,カッコ()で囲んだ数字で表記した。

(ア)「3 公会計改革を実現する財務会計システム
公会計改革のうねりが高まるなかで,当社は,自治体が公会計改革を導入する際の障壁を低くする財務会計システムの開発を進めている。ポイントは,一般職員の事務作業負荷を増やさないように,単式簿記のデータを複式簿記に自動的に変換することである。当社は,他社に先駆けて現実に動作するシステムの設計を完了した。
3.1 基本方針
以下の基本的な考え方で発生主義・複式簿記を自治体向けの財務会計システムに実装する。
(1)現行の法規・制度が規定している現金主義・単式簿記の会計事務はそのまま踏襲する。この部分は独立した機能とする。
(2)現金主義・単式簿記のシステムで執行されたデータを,自動的に仕訳変換する。
(3)仕訳変換したデータを発生主義・複式簿記機能の総勘定元帳に取り込み,財務諸表を出力する。
3.2 システムの基本構成
前節の基本方針に記したように,公会計改革に対応した財務会計システムは,現金主義・単式簿記機能,情報収集機能,発生主義・複式簿記機能から構成される(図3)。
このようなモジュール構成をとることによって,発生主義・複式簿記機能だけをパッケージ化することが容易である。
現金主義・単式簿記機能が保持する取引データ(執行データ)を,自動的に複式簿記のデータに仕訳変換し,発生主義・複式簿記機能に取り込む。
その際,現金主義・単式簿記の財務会計システムでばらばらに管理されている,予算情報・充当財源情報,公有財産管理情報,物品管理情報,公債管理などの情報を収集して執行データと関連付け,発生主義・複式簿記の仕訳データを生成する。
また,引当金の増減など,歳入・歳出以外で現金の流出入がない非現金取引については,財務諸表を作成する時点で入力する。」(第53頁左欄下から13行?同頁右欄第21行)

(イ)「4 システムの処理方式
次に,(1)歳入仕訳,(2)歳出仕訳,(3)財産(資産・物品)仕訳,(4)公債仕訳,(5)引当金入力(整理入力)の各々について複式簿記の仕訳データを生成する処理の概要を述べる。
4.1 歳入仕訳生成 単式簿記システムの歳入管理機能から歳入伝票データを収集するため,以下のデータベースにアクセスする。
(1)調定伝票(更正を含む)
(2)収納伝票(更正を含む)
(3)戻出伝票 収集した歳入仕訳対象データは,内部取引を相殺するなど普通会計調整を行い,それから仕訳変換を行って複式簿記の仕訳データを生成する。執行された予算科目のうち,“款・項”を判断基準として,仕訳パターンに対応させる。このとき,いったん執行した伝票内容を修正するために作成された更正伝票(赤伝票)については,逆の仕訳を起こして相殺する。歳入の仕訳変換には約50のパターンがある。
4.2 歳出仕訳生成 単式簿記システムの歳出管理機能から歳出伝票データを収集するため,以下のデータベースにアクセスする。
(1)支出伝票(更正を含む)
(2)公金振替支出伝票(更正を含む)
(3)戻入伝票 収集した仕訳対象データは,内部取引を相殺するなどの普通会計調整を行い,目的別・性質別の区分を付加し,それから仕訳変換を行って複式簿記の仕訳データを生成する。執行された予算科目のうち,“節”を判断基準として仕訳パターンに対応させる。このとき,いったん執行した伝票内容を修正するために作成された更正伝票(赤伝票)については,逆の仕訳を起こして相殺する。歳出の仕訳変換には約200のパターンがある。なお,資産形成に対する中間払いでは,資産として“建設仮勘定”という勘定科目を発生させる。
4.3 財産(資産・物品)仕訳生成
道路や建物の建造など,支出に伴って資産が形成される場合,複式簿記の仕訳データを生成するには,支出伝票と形成された資産とを関連させる必要がある。そのため,資産の登録時に,資産と支出伝票(建設仮勘定など)との紐(ひも)付けを行い,それから資産計上された資産の自動仕訳を行う。また,資産の売却については,売却によって得られた歳入金額と簿価を比較して,収益ないしは費用の取引を発生させる。
単式簿記システムの公有財産管理機能と物品管理機能から財産会計データ(資産計上データ)を収集するため,以下のデータベースにアクセスする。
(1)財産管理マスタ(異動を含む)
(2)財産管理会計情報(異動を含む)
なお,対象となる資産は以下である。
(1)インフラ資産(道路,橋りょう,河川,など)
(2)事業用資産(建物,土地)
(3)物品(自動車,美術品,など)
また,資産に関する取引は以下である。
(1)歳入・歳出や実物資産の移転が発生する取引として,取得(完成),除売却,寄付,移管
(2)歳入・歳出や実物資産の移転が発生しない取引として,資産再評価,減価償却
収集した資産仕訳対象データには,資産計上処理や資産売却損益調整・資産再評価損益調整を行い,それから仕訳変換を行って,複式簿記の仕訳データを生成する。資産の仕訳変換には約800のパターンがある。
なお,建設中の資産が完成した場合は,建設仮勘定を資産本勘定に振り替える。
4.4 公債仕訳生成
目的別・事業別に公債を把握するため,公債管理システムにて,目的別・事業別に管理し,借入金・償還金の目的別・事業別案分を行う。
単式簿記システムの公債管理機能から目的別・事業別の案分率データを収集するため,以下のデータベースにアクセスする。
(1)公債管理マスタ
(2)公債明細マスタ
収集した公債案分データによって,借入金(歳入),償還元金(歳出),償還利子(歳出)のそれぞれを目的別・事業別に案分し,それから仕訳変換を行って,複式簿記の仕訳データを生成する。
4.5 引当金入力(整理入力)
引当金の増減など,現金の移動が伴わない取引については,財務諸表を作成する時点で,整理入力として入力する。入力する情報は以下である。
(1)退職給付引当金
(2)貸倒引当金
(3)不納引当金
(4)債務免除
入力された各引当金データは,仕訳変換によって複式簿記の仕訳データを生成する。」(第54頁左欄第1行?第55頁右欄第10行)

(ウ)図3には,現金主義・単式簿記機能,情報収集機能,発生主義・複式簿記機能から構成される公会計改革型財務会計システムにおいて, 発生主義・複式簿記機能の中の複式簿記会計システムによって,発生主義・複式簿記仕訳データから貸借対照表,行政コスト計算書,純資産変動計算書,資金収支計算書,試算表等の複式簿記財務諸表を作成して出力することが記載されている。

上記摘記事項(ア)?(ウ)の記載及び図面の記載を総合すると,引用例1には次のとおりの発明(以下,「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「現金主義・単式簿記機能,情報収集機能,発生主義・複式簿記機能から構成され,現金主義・単式簿記機能が保持する取引データ(執行データ)を,自動的に複式簿記のデータに仕訳変換し,仕訳変換したデータを発生主義・複式簿記機能の総勘定元帳に取り込み,財務諸表を出力する財務会計システムであって
複式簿記の仕訳データ生成処理のうち,歳入仕訳生成処理では,単式簿記システムの歳入管理機能から歳入伝票データを収集するために,(1)調定伝票,(2)収納伝票,(3)戻出伝票のデータベースにアクセスし,収集した歳入仕訳対象データは,仕訳変換を行って複式簿記の仕訳データを生成し,
ここでは,執行された予算科目のうち,“款・項”を判断基準として,仕訳パターンに対応させるようにし,
複式簿記の仕訳データ生成処理のうち,歳出仕訳生成処理では,単式簿記システムの歳出管理機能から歳出伝票データを収集するために,(1)支出伝票,(2)公金振替支出伝票,(3)戻入伝票のデータベースにアクセスし,収集した仕訳対象データは,目的別・性質別の区分を付加し,それから仕訳変換を行って複式簿記の仕訳データを生成し,
ここでは,執行された予算科目のうち,“節”を判断基準として仕訳パターンに対応させるようにし,
発生主義・複式簿記機能の中の複式簿記会計システムによって,発生主義・複式簿記仕訳データから貸借対照表,行政コスト計算書,純資産変動計算書,資金収支計算書,試算表等の複式簿記財務諸表を作成して出力する,
財務会計システム。」

(4-2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-155233号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,次の(エ)?(オ)の事項が記載されている。

(エ)「【0013】
請求項3による発明は,(途中省略)将来償還すべき負担の増減額を含む損益外純資産変動計算書,貸借対照表,損益計算書,資金収支計算書の内,少なくとも1つ以上の財務諸表を作成する工程と,作成した財務諸表を表示する工程とを有する会計処理方法である。」

(オ)「【0033】
図2に,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の一実施例を示す。
(途中省略)
【0034】
図2において,左側上部の行政コスト(経常損益)すなわち行政にかかる費用は,当期中に損益勘定(行政コスト計算書勘定)で処理すべき総費用及び総収益を計上する。この表では,とりあえず通常の企業会計で用いられる発生形態別分類に準拠して経常費用を計上することとしているが,勘定科目の設定は,現在,政府で用いている歳入・歳出項目であっても差し支えない。
【0035】
行政コスト(経常損益)の小計,すなわち経常損益財源の変動は,図1で示した損益勘定(行政コスト計算書勘定)の収支尻(貸借差額)である純経常費用に一致する。その金額は,純経常費用を補填するための財源措置として図1の(C)で表される損益外純資産変動計算区分の最上部に計上される。
【0036】
損益勘定(行政コスト計算書勘定)は,主として行政レベルの業務執行上の意思決定を対象とするので,行政コスト(損益)計算区分に計上される行政コスト(経常損益)は少なければ少ないほど効率的な行政運営であることを意味する。
【0037】
図2において,左側中段にある財源の使途(損益外財源の減少)に属する勘定科目群は,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の借方側に計上される科目である。ここは主として国家の政策レベルの意思決定として,どこにどれだけの資源を配分するかということを表示する部分である。これは現役世代によって構成される内閣及び国会が,予算編成上,どこにどれだけの資源を配分すべきかを意思決定し,当該会計期間中に費消する資源の金額である。
【0038】
(途中省略) 財源の使途(損益外財源の減少)とは,当該会計期間中における損益勘定(行政コスト計算書勘定)に計上されない純資産(国民持分)の減少原因であって,当期に費消可能な資源の流出をいう。この表では,その金額を損益外純資産変動計算区分において財源措置(当期費消する資源の総額)として計上している。【0039】
具体的には,まず資本形成への財源措置として,固定資産形成のための資本的支出額を計上している。例えば文教関連であれば,国立大学法人で施設整備する場合の資本的支出額を計上する。通常の公共事業の場合は道路や橋への資本的支出額を計上する。次に,貸付金・出資金への財源措置として,金融資産を形成することとなる貸付・出資金額を計上する。例えば中小企業対策として国民金融公庫などの連結対象特殊法人等を経由して,当期に(期間一年以上の)貸付を行った金額を計上する。経済協力の場合も,例えば円借款でどの国にいくら貸付を行ったか,その金額を計上する。さらに預金保険機構を通じて金融機関に対する資本注入を行った場合も,その出資金額を計上することとなる。これらは,国民の純資産として将来に残る資産の科目からなる財源措置と区分される。
【0040】
そして補助金・社会保障給付等の移転支出への財源措置については,非交換性の支出(対価なき移転支出)金額を計上する。その他,国債整理基金のような減債基金を設定している場合には,減債基金への繰入額(元本分)を計上する。これらは,国民の純資産として将来に残る資産の科目以外の科目からなる財源措置と区分される。
【0041】
この表では財源の使途(損益外財源の減少)の勘定科目分類として,とりあえず性質別に固定資産形成,金融資産形成,非交換性の支出という形式としているが,この他にももちろん事務事業・施策単位など別の勘定科目分類を設定することも可能であり,国民の純資産として将来に残る資産の科目とそれ以外の科目に区分できればよい。
【0042】
図2における中央部には,財源措置,すなわち財源の使途(損益外財源の減少)に対応する財源の調達(損益外財源の増加)を,科目別に区分して記載する。これについては,損益外純資産変動計算区分の財源の調達(損益外財源の増加)の欄において,その金額が,財源の種類別(税収からの一般財源,他会計からの繰入,その他の財源)としてその金額が計上される。」

(4-3)引用例3
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-155214号公報(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに,次の(カ)?(コ)の事項が記載されている。

(カ)「【0001】
本発明は,単式簿記の会計データを用いて複式簿記の会計データを生成し,財務諸表を作成する財務諸表出力装置に関する。」

(キ)「【0014】
上記課題を解決するために,本発明の特徴は,単式簿記の会計データを用いて複式簿記の会計データを生成し,財務諸表を作成する財務諸表出力装置に関する。即ち,本発明の特徴に係る財務諸表出力装置は,単式簿記の会計データを複式簿記の会計データに変換する仕訳変換テーブルを記憶装置に記憶する手段と,単式簿記の歳出情報および財源情報を含む仕訳情報を記憶装置に記憶する手段と,記憶装置から仕訳変換テーブルと仕訳情報とを読み出して,総勘定元帳データを作成し,記憶装置に記憶する手段と,記憶装置から総勘定元帳データを読み出し,財務諸表を出力する手段とを備える。」

(ク)「【0027】
仕訳情報21は,執行システム250,公有財産管理システム200などから取得した単式簿記の歳出情報および財源情報を含む情報である。
【0028】
仕訳変換テーブル22は,単式簿記の会計データを複式簿記の会計データに変換する変換ルールとなる情報である。
【0029】
仕訳手段11は,記憶装置107から仕訳変換テーブル22と仕訳情報21とを読み出して,総勘定元帳データ23を作成し,記憶装置107に記憶する手段である。」

(ケ)「【0031】
次に図3を参照して,本発明の最良の実施の形態に係る財務諸表出力装置1の仕訳手段11について詳述する。
【0032】
執行システム250において,財務会計の歳出処理として,支出負担行為/支出負担行為兼支出命令情報が単式簿記歳出情報251に登録される。この単式簿記歳出情報251には,歳出のキー項目となる款・項・目,事業・細事業・細々事業,節などに応じて,予算額と支出額が関連づけられている。
【0033】
このとき,この支出負担行為/支出負担行為兼支出命令情報の歳出に必要な財源情報が単式簿記財源情報252に入力される。この単式簿記財源情報252には,財源のキー項目となる款・項・目,事業・細事業・細々事業,節などに応じて,予算額と支出額が関連づけられている。ここで,財源情報とは,地方自治体の場合,国からの交付金,税金,借金などである。ここで,予算編成段階で利用している財源充当情報は共通化されているものとする。
【0034】
本発明の最良の実施の形態に係る財務諸表出力装置1は,執行システム250や公有財産管理システム200などから単式簿記歳出情報251および単式簿記財源情報252を取得すると,仕訳情報21として記憶装置107に記憶する。一方,本発明の最良の実施の形態に係る財務諸表出力装置1の管理者の端末である管理端末51における入力装置からの指示に基づいて,仕訳変換テーブル22が作成され,記憶装置107に記憶される。この仕訳変換テーブル22は,歳入は款のレベルで,歳出は節のレベルで仕訳情報として判断できる変換ルールである。
【0035】
仕訳手段11は,このように生成された仕訳情報21および仕訳変換テーブル22に基づいて,複式簿記の会計データである総勘定元帳データ23を出力する。」

(コ)「【0037】
次に,図4を参照して,本発明の最良の実施の形態に係る財務諸表出力装置1において,仕訳をリカバリする場合について説明する。この機能は,仕訳変換テーブル22に記憶された変換ルールに誤りが含まれており,この仕訳変換テーブル22を用いて,総勘定元帳データ23へ会計データが登録された場合に対応するものである。具体的には,一括打ち消し手段13は,打ち消し仕訳情報を一括で作成して,元の情報に戻す作業と,新しい仕訳の変換ルールに基づいて,新たな仕訳情報を生成して,総勘定元帳へ登録する。
【0038】
例えば,総勘定元帳データ23に,図5(a)に示すように,「2004/5/1」に借方として適用Aに100,貸方として適用Bに100が記憶された第1の仕訳データ41が記憶されていたとする。第1の仕訳データ41を作成するための変換ルールに誤りがあった場合,この第1の仕訳データ41を相殺するための変換ルールを作成し,第2の仕訳データ42を作成する。具体的には,「2004/5/1」に借方として適用Bに100,貸方として適用Aに100が記憶された第2の仕訳データ42を作成して,総勘定元帳データ23に記憶する。第2の仕訳データ42によって,第1の仕訳データ41は相殺される。更に,新しく作成された正しい変換ルールに基づいて第3の仕訳データ43を作成して,総勘定元帳データ23に記憶する。」

上記摘記事項(カ)(ケ)の記載によれば,引用例3には,「単式簿記の会計データを用いて複式簿記の会計データを生成し,財務諸表を作成する財務諸表出力装置において,単式簿記歳出情報には,歳出のキー項目となる款・項・目,事業・細事業・細々事業,節などに応じて,予算額と支出額が関連づけられており,また,単式簿記財源情報には,財源のキー項目となる款・項・目,事業・細事業・細々事業,節などに応じて,予算額と支出額が関連づけられており,これらの単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を仕訳情報として記憶装置に記憶する。」との事項(以下,「引用例3記載事項A」という。)が記載されている。
また,上記摘記事項(キ)?(ケ)の記載によれば,引用例3には,「単式簿記の会計データを用いて複式簿記の会計データを生成し,財務諸表を作成する財務諸表出力装置において,単式簿記の会計データを複式簿記の会計データに変換する変換ルールとなる情報であって,歳入は款のレベルで,歳出は節のレベルで仕訳情報として判断できる変換ルールである仕訳変換テーブルと,単式簿記の歳出情報および財源情報を含む仕訳情報とに基づいて,複式簿記の会計データである総勘定元帳データを出力する。」との事項(以下,「引用例3記載事項B」という。)が記載されている。
また,上記摘記事項(コ)の記載によれば,引用例3には,「仕訳変換テーブル22に記憶された変換ルールに誤りが含まれており,この仕訳変換テーブル22を用いて,総勘定元帳データ23へ会計データが登録された場合に仕訳をリカバリする一括打ち消し手段13であって,第1の仕訳データ41を作成するための変換ルールに誤りがあった場合,この第1の仕訳データ41を相殺するための変換ルールを作成して,第2の仕訳データ42を作成し,この第2の仕訳データ42によって,第1の仕訳データ41を相殺し,更に,新しく作成された正しい変換ルールに基づいて第3の仕訳データ43を作成して,総勘定元帳データ23に記憶する,一括打ち消し手段13。」との事項(以下,「引用例3記載事項C」という。)が記載されている。

(5)対比
本件補正発明と引用例1発明とを対比する。

(a)引用例1発明の「現金主義・単式簿記機能が保持する取引データ(執行データ)」「複式簿記のデータ」「財務諸表」「財務会計システム」が,本件補正発明の「単式簿記会計情報」「複式簿記会計情報」「財務諸表」「財務会計システム」にそれぞれ相当し,引用例1発明の「現金主義・単式簿記機能が保持する取引データ(執行データ)」を「複式簿記のデータ」に「仕訳変換」することが,「現金主義・単式簿記機能が保持する取引データ(執行データ)」を「用いて」複式簿記のデータを「生成」することに相当し,また,「財務諸表」を「出力」するために,「財務諸表」を「作成」していることは明らかであるから,引用例1発明の「現金主義・単式簿記機能が保持する取引データ(執行データ)を,自動的に複式簿記のデータに仕訳変換し,仕訳変換したデータを発生主義・複式簿記機能の総勘定元帳に取り込み,財務諸表を出力する財務会計システム」が本件補正発明の「単式簿記会計情報を用いて複式簿記会計情報を生成し,所要の財務諸表を作成する財務会計システム」に相当する。

(b)引用例1発明の「現金主義・単式簿記機能」が本件補正発明の「単式簿記・現金主義機能要素」に相当する。
引用例1発明の歳入仕訳対象データである「歳入伝票データ」,仕訳対象データである「歳出伝票データ」は,それぞれ,仕訳変換を行って複式簿記の仕訳データを生成するものであって,執行された予算科目のうち,“款・項”を判断基準として仕訳パターンに対応させるものであり,又は,“節”を判断基準として仕訳パターンに対応させるものであるから,それぞれ,本件補正発明の「単式簿記財源情報」「単式簿記歳出情報」に相当する。
また,引用例1発明の歳入仕訳対象データである「歳入伝票データ」,仕訳対象データである「歳出伝票データ」は,それぞれ「単式簿記システムの歳入管理機能」「単式簿記システムの歳出管理機能」から「収集」されるものであり,引用例1発明の「単式簿記システムの歳入管理機能」「単式簿記システムの歳出管理機能」は,図3の記載を参照すれば,「現金主義・単式簿記機能」に含まれるものであるから,引用例1発明の「歳入伝票データ」及び「歳出伝票データ」が本件補正発明の「単式簿記・現金主義機能要素から収集した単式簿記会計情報」に相当する。
そして,引用例1発明では,歳入仕訳生成処理において,収集した歳入仕訳対象データは,仕訳変換を行って複式簿記の仕訳データを生成し,また,歳出仕訳生成処理において,収集した仕訳対象データは,仕訳変換を行って複式簿記の仕訳データを生成しているから,引用例1発明には,「単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を変換して複式簿記会計情報を得る手段」が記載されているといえる。
してみれば,引用例1発明の財務会計システムは,「単式簿記・現金主義機能要素から収集した単式簿記会計情報である単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を変換して複式簿記会計情報を得る手段」を備えているということができる。

(c)引用例1発明の「複式簿記会計システム」は,「発生主義・複式簿記仕訳データから貸借対照表,行政コスト計算書,純資産変動計算書,資金収支計算書,試算表の各複式簿記財務諸表を作成して出力する」ものであるから,「財務諸表の作成に必要な複式簿記勘定項目を仕訳する」機能を備えており,「仕訳する手段が仕訳した結果によって,財務諸表を作成する」機能を備えていることは明らかである。
してみれば,引用例1発明の財務会計システムは,「財務諸表の作成に必要な複式簿記勘定項目を仕訳する手段」を備え,さらに,「仕訳する手段が仕訳した結果によって,財務諸表を作成する手段」を備えている。

そうすると,本件補正発明と引用例1発明とは,

「単式簿記会計情報を用いて複式簿記会計情報を生成し,所要の財務諸表を作成する財務会計システムであって,
単式簿記・現金主義機能要素から収集した前記単式簿記会計情報である,単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を変換して前記複式簿記会計情報を得る手段と,
財務諸表の作成に必要な複式簿記勘定項目を仕訳する手段と,
前記仕訳する手段が仕訳した結果によって,財務諸表を作成する手段と,
を備えたことを特徴とする財務会計システム。」

の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本件補正発明では,情報収集手段が,単式簿記・現金主義機能要素から収集した単式簿記会計情報を,「記憶装置に,歳出と歳出に必要な財源のそれぞれについてキー項目に応じて予算額と支出額とが関連付けられた単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報として格納する」のに対して,引用例1発明では,そのような構成となっていない点。

[相違点2]
本件補正発明では,情報収集手段が,「キー項目と複式簿記勘定項目および財務諸表の作成に必要な複式簿記勘定項目であることを示す区分とを対応付けし,単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報の前記キー項目に応じた予算額と支出額とを前記キー項目と対応する複式簿記勘定項目に仕訳して複式簿記会計情報に変換する変換テーブルを格納し,この変換テーブルを用いて」,前記単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を変換しているのに対して,引用例1発明は,そのような構成となっていない点。

[相違点3]
本件補正発明では,仕訳手段が,「入力装置から前記所要の財務諸表を作成する要求を受け取り,当該作成要求のあった財務諸表を示す区分に従って」作成に必要な複式簿記勘定項目を仕訳し,財務諸表出力手段が,「前記作成要求のあった財務諸表を作成する」のに対して,引用例1発明は,そのような構成となっていない点。

[相違点4]
本件補正発明では,財務諸表出力手段が「予め記憶装置に格納しておいた財務諸表のフォーマットデータを読み出し」,前記仕訳手段が仕訳した結果を「所定の複式簿記勘定項目に当て嵌めることによって」て財務諸表を作成しているのに対して,引用例1発明は,そのような構成となっていない点。

[相違点5]
財務諸表が,本件補正発明では,「財務諸表であって,少なくとも,入力された前記複式簿記会計情報から任意の種類の複式簿記に係る正味資産増減計算書の縦軸の増減内容と横軸の該当科目とを前記正味資産増減計算書の任意の座標にマトリックス座標位置情報として嵌め込む作業をなされた,前記正味資産増減計算書」であるのに対して,引用例1発明には,財務諸表の例として純資産変動計算書の記載はあるものの,その具体的な内容は不明である点。

[相違点6]
本件補正発明は,「変換テーブルの内容に誤りがあることによって正しく変換されない場合,前記変換テーブルに当初記憶されていた第1のデータと逆に対応付けられ前記第1のデータを相殺する第2のデータと,前記変換テーブルに記憶されるデータから正しい変換内容として入力装置から指定されたデータを読み出し,第3のデータとしてさらに書き加えて,前記第1のデータ,第2のデータおよび第3のデータを有する前記変換テーブルの内容を全体として正しい変換内容に訂正する一括打消し手段」を備えているのに対して,引用例1発明は,そのような手段を備えていない点。

(6)当審の判断
上記各相違点について検討する。

[相違点1]について
引用例3には,「単式簿記の会計データを用いて複式簿記の会計データを生成し,財務諸表を作成する財務諸表出力装置において,単式簿記歳出情報には,歳出のキー項目となる款・項・目,事業・細事業・細々事業,節などに応じて,予算額と支出額が関連づけられており,また,単式簿記財源情報には,財源のキー項目となる款・項・目,事業・細事業・細々事業,節などに応じて,予算額と支出額が関連づけられており,これらの単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を仕訳情報として記憶装置に記憶する。」との事項(引用例3記載事項A)が記載されている。
そして,引用例3は,引用例1発明と同様に,「単式簿記の会計データを用いて複式簿記の会計データを生成し,財務諸表を作成する」技術に関するものであるから,引用例1発明に上記引用例3記載事項Aの構成を適用することには何ら困難性がない。
してみれば,引用例1発明に引用例2記載事項Aの構成を適用して,単式簿記・現金主義機能要素から収集した単式簿記会計情報を,「記憶装置に,歳出と歳出に必要な財源のそれぞれについてキー項目に応じて予算額と支出額とが関連付けられた単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報として格納する」ように構成することには何ら困難性がなく,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,相違点1に係る本件補正発明の構成は,引用例1発明及び引用例3記載事項Aに基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点2],[相違点3]について
引用例3には,「単式簿記の会計データを用いて複式簿記の会計データを生成し,財務諸表を作成する財務諸表出力装置において,単式簿記の会計データを複式簿記の会計データに変換する変換ルールとなる情報であって,歳入は款のレベルで,歳出は節のレベルで仕訳情報として判断できる変換ルールである仕訳変換テーブルと,単式簿記の歳出情報および財源情報を含む仕訳情報とに基づいて,複式簿記の会計データである総勘定元帳データを出力する。」との事項(引用例3記載事項B)が記載されている。
引用例3記載事項Bの「仕訳変換テーブル」が本件補正発明の「変換テーブル」に相当する。そして,引用例3記載事項Bの仕訳変換テーブルは,「単式簿記の会計データを複式簿記の会計データに変換する変換ルールとなる情報であって,歳入は款のレベルで,歳出は節のレベルで仕訳情報として判断できる変換ルール」であり,単式簿記歳出情報や単式簿記財源情報が,「キー項目」に応じて「予算額と支出額とが関連付けられ」ていることを考慮すれば,引用例3記載事項Bの仕訳変換テーブルが,「キー項目と複式簿記勘定項目とを対応付けし」たものであり,かつ,「単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報のキー項目に応じた予算額と支出額とを前記キー項目と対応する複式簿記勘定項目に仕訳して複式簿記会計情報に変換する」ためのものであることは明らかである。
してみれば,引用例1発明の仕訳変換の処理に引用例3記載事項Bの仕訳変換テーブルを用いるように構成し,記憶装置に,「キー項目と複式簿記勘定項目とを対応付けし,単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報の前記キー項目に応じた予算額と支出額とを前記キー項目と対応する複式簿記勘定項目に仕訳して複式簿記会計情報に変換する変換テーブルを格納し」,この変換テーブルを用いて,前記単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を変換するように構成することには何ら困難性がなく,当業者が適宜なし得たことである。
また,引用例1発明は,貸借対照表,行政コスト計算書,純資産変動計算書,資金収支計算書,試算表等の複数種類の複式簿記財務諸表を作成して出力することが可能であるシステムであるところ,これらの財務諸表のうちのいずれの財務諸表を作成するかを「入力装置から要求」できるようにすることは当業者が適宜なし得る設計的事項である。
そして,当該要求された財務諸表を作成するのに必要なデータを識別するために,変換テーブルにおいて,「キー項目と複式簿記勘定項目」に加えて,さらに,「財務諸表の作成に必要な複式簿記勘定項目であることを示す区分」を対応付けるように構成し,この「作成要求のあった財務諸表を示す区分に従って,作成に必要な複式簿記勘定項目を仕訳する」ように構成し,これにより,「作成要求のあった財務諸表を作成する」ように構成することには何ら困難性がない。
してみれば,引用例1発明において,情報収集手段が,記憶装置に,「キー項目と複式簿記勘定項目および財務諸表の作成に必要な複式簿記勘定項目であることを示す区分とを対応付けし,単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報の前記キー項目に応じた予算額と支出額とを前記キー項目と対応する複式簿記勘定項目に仕訳して複式簿記会計情報に変換する変換テーブルを格納し,この変換テーブルを用いて」,前記単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を変換するように構成し,仕訳手段が,「入力装置から所要の財務諸表を作成する要求を受け取り,当該作成要求のあった財務諸表を示す区分に従って」作成に必要な複式簿記勘定項目を仕訳するように構成し,さらに,財務諸表出力手段が,「前記作成要求のあった財務諸表を作成する」ように構成することには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到し得たことである。

したがって,相違点2及び相違点3に係る本件補正発明の構成は,引用例1発明及び引用例3記載事項Bに基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点4],[相違点5]について
引用例1発明には,複式簿記財務諸表として,「純資産変動計算書」を出力することが記載されている。
ここで,引用例1発明では,純資産変動計算書の具体的内容については記載されていないものの,上記引用例2の図2には,損益外純資産変動計算書の例が記載されており,その縦軸には「純資産の変動原因」として,「行政コスト(経常損益)」「財源の使途(損益外財源の減少)」「資産形成充当財源の変動」の項目があり,このうちの「財源の使途(損益外財源の減少)」の項目には,「資本形成への財源措置(整備新幹線,道路,ダム・堤防等)」「貸付金・出資金」といった,本願の第2図に記載される「当期資本形成(道路,橋梁,河川)」「貸付金・出資金」に対応する項目が記載されていることから,引用例2の図2の「純資産変動計算書」の「縦軸の財源の使途(損益外財源の減少)」が,本件補正発明における「正味資産増減計算書」の「縦軸の増減内容」に相当する。
また,引用例2には,「図2における中央部には,財源措置,すなわち財源の使途(損益外財源の減少)に対応する財源の調達(損益外財源の増加)を,科目別に区分して記載する。これについては,損益外純資産変動計算区分の財源の調達(損益外財源の増加)の欄において,その金額が,財源の種類別(税収からの一般財源,他会計からの繰入,その他の財源)としてその金額が計上される。」(上記摘記事項(オ))と記載されており,「横軸」は所定の「科目」に区分されるものである。
してみれば,引用例2には,純資産変動計算書を「縦軸の増減内容と横軸の該当科目」からなる「マトリックス」で表すことが記載されている。
一方で,財務諸表等の所定の形式を有する帳票を作成して出力する際に,当該帳票に対応した所定の「フォーマットデータ」にデータを「当て嵌める」ことによって作成することは,常套手段である。
してみれば,引用例1発明において,財務諸表として出力される純資産変動計算書の具体的内容として,引用例2記載の「純資産変動計算書」を採用し,その出力の際に上記常套手段を採用することにより,財務諸表出力手段が「予め記憶装置に格納しておいた財務諸表のフォーマットデータを読み出し」,仕訳手段が仕訳した結果を,「所定の複式簿記勘定項目に当て嵌めることによって」,「少なくとも,入力された複式簿記会計情報から任意の種類の複式簿記に係る正味資産増減計算書の縦軸の増減内容と横軸の該当科目とを前記正味資産増減計算書の任意の座標にマトリックス座標位置情報として嵌め込む作業をなされた,前記正味資産増減計算書」を作成するように構成することには何ら困難性がなく,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,相違点4及び相違点5に係る本件補正発明の構成は,引用例1発明,引用例2記載の事項,及び常套手段に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点6]について
引用例3には,「仕訳変換テーブル22に記憶された変換ルールに誤りが含まれており,この仕訳変換テーブル22を用いて,総勘定元帳データ23へ会計データが登録された場合に仕訳をリカバリする一括打ち消し手段13であって,第1の仕訳データ41を作成するための変換ルールに誤りがあった場合,この第1の仕訳データ41を相殺するための変換ルールを作成して,第2の仕訳データ42を作成し,この第2の仕訳データ42によって,第1の仕訳データ41を相殺し,更に,新しく作成された正しい変換ルールに基づいて第3の仕訳データ43を作成して,総勘定元帳データ23に記憶する,一括打ち消し手段13。」との事項(引用例3記載事項C)が記載されている。
引用例3記載事項Cにおける,「仕訳変換テーブル22に記憶された変換ルールに誤りが含まれており,この仕訳変換テーブル22を用いて,総勘定元帳データ23へ会計データが登録された場合」が,本件補正発明の「変換テーブルの内容に誤りがあることによって正しく変換されない場合」に相当し,また,引用例3記載事項Cにおける「第1の仕訳データ41を作成するための変換ルールに誤りがあった場合,この第1の仕訳データ41を相殺するための変換ルールを作成して,第2の仕訳データ42を作成し,この第2の仕訳データ42によって,第1の仕訳データ41を相殺し,更に,新しく作成された正しい変換ルールに基づいて第3の仕訳データ43を作成して,総勘定元帳データ23に記憶する,一括打ち消し手段13」が本件補正発明の「前記変換テーブルに当初記憶されていた第1のデータと逆に対応付けられ前記第1のデータを相殺する第2のデータと,前記変換テーブルに記憶されるデータから正しい変換内容として前記入力装置から指定されたデータを読み出し,第3のデータとしてさらに書き加えて,前記第1のデータ,第2のデータおよび第3のデータを有する前記変換テーブルの内容を全体として正しい変換内容に訂正する一括打消し手段」に相当する。
してみれば,引用例1発明に上記引用例3記載事項Cの構成を採用することにより,「変換テーブルの内容に誤りがあることによって正しく変換されない場合,前記変換テーブルに当初記憶されていた第1のデータと逆に対応付けられ前記第1のデータを相殺する第2のデータと,前記変換テーブルに記憶されるデータから正しい変換内容として入力装置から指定されたデータを読み出し,第3のデータとしてさらに書き加えて,前記第1のデータ,第2のデータおよび第3のデータを有する前記変換テーブルの内容を全体として正しい変換内容に訂正する一括打消し手段」を備えるように構成することには何ら困難性がなく,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,相違点6に係る本件補正発明の構成は,引用例1発明及び引用例3記載事項Cに基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

そして,本件補正発明の作用効果も,引用例1発明,引用例2記載の事項,引用例3記載事項A?C,及び常套手段から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,本件補正発明は,引用例1発明,引用例2記載の事項,引用例3記載事項A?C,及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(7)独立特許要件についてのむすび
したがって,本件補正は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(8)本件補正についてのむすび
上記(1)に記載したとおり,補正事項Bを含む本件補正は,改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また,仮に上記補正事項Bが適法になされた補正であるとしても,上記(2)?(7)に記載したとおりであるから,本件補正は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年9月6日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成22年6月4日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。)

「 【請求項1】
単式簿記会計情報を用いて複式簿記会計情報を生成し,所要の財務諸表を作成する財務会計システムであって,
記憶装置に,単式簿記・現金主義機能要素から収集した前記単式簿記会計情報を,歳出と歳出に必要な財源のそれぞれについてキー項目に応じて予算額と支出額とが関連付けられた単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報として格納する一方,前記キー項目と複式簿記勘定項目および前記財務諸表の作成に必要な複式簿記勘定項目であることを示す区分とを対応付けし,前記単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報の前記キー項目に応じた予算額と支出額とを前記キー項目と対応する複式簿記勘定項目に振り分けて前記複式簿記会計情報に変換する変換テーブルを格納し,この変換テーブルを用いて前記単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を変換して前記複式簿記会計情報を得る情報収集手段と,
入力装置から前記所要の財務諸表を作成する要求を受け取り,当該作成要求のあった財務諸表を示す区分に従って作成に必要な複式簿記勘定項目を仕訳する仕訳手段と,
予め記憶装置に格納しておいた財務諸表のフォーマットデータを読み出し,前記仕訳手段が仕訳した複式簿記勘定項目に振り分けられた金額を,前記財務諸表内の対応する複式簿記勘定項目に当て嵌めることによって前記作成要求のあった財務諸表を作成する財務諸表出力手段と,
前記変換テーブルの内容に誤りがあることによって正しく変換されない場合,前記変換テーブルに当初記憶されていた第1のデータと逆に対応付けられ前記第1のデータを相殺する第2のデータと,正しい変換内容のデータである第3のデータとをさらに書き加えて,前記第1のデータ,第2のデータおよび第3のデータを有する前記変換テーブルの内容を全体として正しい変換内容に訂正する一括打消し手段と,を備えたことを特徴とする財務会計システム。」

2.原査定の拒絶の理由について
原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

「【拒絶理由】
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この出願は,次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら,この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。
理 由
A.(省略)
B.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項:1-3
・引用文献等:
1.松下 邦彦 Kunihiko MATSUSHITA,公会計改革とソリューション技術 Public Sector Accounting Reform and Solution Technology,東芝レビュー 第60巻 第4号 TOSHIBA REVIEW,株式会社東芝 TOSHIBA CORPORATION,2005年 4月 1日,第60巻,第52-55頁
2.特開2006-155233号公報
3.特開2006-155214号公報
(途中省略)
・備考:
(請求項1-3)
引用文献1の第53,54頁には,情報収集機能,発生主義・複式簿記機能を備えたシステムが記載されている。
また,引用文献2の第13段落には,仕訳する工程及び,純資産変動計画書を作成する工程を備えたシステムが記載されている。
そして,引用文献3の第37,38段落には,第1の仕訳データ41を作成するための変換ルールに誤りがあった場合における第1の仕訳データ41を相殺するための変換ルール,新しく作成された正しい変換ルールに基づいて第3の仕訳データ43を作成との記載がなされていることから,本願の一括打ち消し手段自体に格別の進歩性を有しない。
拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。
------------------------------------
最後の拒絶理由通知とする理由
この拒絶理由通知は,最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知するものである。

【補正の却下の決定】
結 論
平成22年11月 1日付け手続補正書でした明細書,特許請求の範囲又は図面についての補正は,次の理由によって却下します。
理 由
請求項1についての補正は限定的減縮を目的としている。この場合,補正後の請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
請求項の仕訳手段は,拒絶理由通知で通知した引用文献と,マトリックス表示しつつ仕訳することについて相違点を有する。
しかしながら,請求項の仕訳手段は,マトリックス表示しつつ仕訳すると記載されてはいるものの,表示しつつ仕訳をどのように行われるのか具体的に記載されているものではない。換言すると,表示,仕訳の処理の関係が明確でなく,仕訳手段としての処理のながれが明確でない。
また,マトリックスを表示することと,そのほかの手段との処理の関係について,特段の記載はなされていない。
そして,マトリックスを表示すること自体は,簿記会計分野における周知な事項に該当する。
したがって,上記相違点を検討しても,請求項の記載が格別のものと認めることができない。
したがって,当該補正後の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって,この補正は同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから,同法第53条第1項の規定により上記結論のとおり決定する。
【拒絶査定】
この出願については,平成22年 8月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
平成22年11月1日付け手続補正は,本拒絶査定と同日付けで補正却下となった。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1?3(それぞれ,上記引用例1?3に対応する。)には,上記「第2 [理由]2.(4)」に記載したとおりの事項が記載されている。

4.対比
本願発明と引用例1発明とを対比すると,次の点で相違する。

[相違点A]
本願発明では,情報収集手段が,単式簿記・現金主義機能要素から収集した単式簿記会計情報を,「記憶装置に,歳出と歳出に必要な財源のそれぞれについてキー項目に応じて予算額と支出額とが関連付けられた単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報として格納する」のに対して,引用例1発明では,そのような構成となっていない点。

[相違点B]
本願発明では,情報収集手段が,「キー項目と複式簿記勘定項目および財務諸表の作成に必要な複式簿記勘定項目であることを示す区分とを対応付けし,単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報の前記キー項目に応じた予算額と支出額とを前記キー項目と対応する複式簿記勘定項目に振り分けて複式簿記会計情報に変換する変換テーブルを格納し,この変換テーブルを用いて」,前記単式簿記歳出情報および単式簿記財源情報を変換しているのに対して,引用例1発明は,そのような構成となっていない点。

[相違点C]
本願発明では,仕訳手段が,「入力装置から前記所要の財務諸表を作成する要求を受け取り,当該作成要求のあった財務諸表を示す区分に従って」作成に必要な複式簿記勘定項目を仕訳し,財務諸表出力手段が,「前記作成要求のあった財務諸表を作成する」のに対して,引用例1発明は,そのような構成となっていない点。

[相違点D]
本願発明では,財務諸表出力手段が「予め記憶装置に格納しておいた財務諸表のフォーマットデータを読み出し,前記仕訳手段が仕訳した複式簿記勘定項目に振り分けられた金額を,前記財務諸表内の対応する複式簿記勘定項目に当て嵌めることによって」て財務諸表を作成しているのに対して,引用例1発明は,そのような構成となっていない点。

[相違点E]
本願発明は,「変換テーブルの内容に誤りがあることによって正しく変換されない場合,前記変換テーブルに当初記憶されていた第1のデータと逆に対応付けられ前記第1のデータを相殺する第2のデータと,正しい変換内容のデータである第3のデータとをさらに書き加えて,前記第1のデータ,第2のデータおよび第3のデータを有する前記変換テーブルの内容を全体として正しい変換内容に訂正する一括打消し手段」を備えているのに対して,引用例1発明は,そのような手段を備えていない点。

5.判断
上記各相違点について検討する。

[相違点A]について
相違点Aは,上記「第2 [理由]2.(6)」で検討した相違点1と同一の内容であるから,上記「第2 [理由]2.(6)」の「[相違点1]について」で検討したとおりである。

[相違点B]及び[相違点C]について
相違点Bは,上記「第2 [理由]2.(5)」の相違点2において,「仕訳して」と記載されているところが,「振り分けて」と誤記されているものであり,実質的に相違点2の内容と変わるものではないから,上記「第2 [理由]2.(6)」の「[相違点2],[相違点3]について」で検討したとおりである。

[相違点D]について
財務諸表等の所定の形式を有する帳票を作成して出力する際に,当該帳票に対応した所定の「フォーマットデータ」にデータを当て嵌めることによって作成することは,常套手段である。
してみれば,財務諸表出力手段が「予め記憶装置に格納しておいた財務諸表のフォーマットデータを読み出し」,仕訳手段が仕訳した結果である「複式簿記勘定項目に振り分けられた金額」のデータを,「財務諸表内の対応する複式簿記勘定項目に当て嵌めることによって」財務諸表を作成するように構成することには何ら困難性がなく,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,相違点Dに係る本願発明の構成は,引用例1発明及び常套手段に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点E]について
引用例3には,「仕訳変換テーブル22に記憶された変換ルールに誤りが含まれており,この仕訳変換テーブル22を用いて,総勘定元帳データ23へ会計データが登録された場合に仕訳をリカバリする一括打ち消し手段13であって,第1の仕訳データ41を作成するための変換ルールに誤りがあった場合,この第1の仕訳データ41を相殺するための変換ルールを作成して,第2の仕訳データ42を作成し,この第2の仕訳データ42によって,第1の仕訳データ41を相殺し,更に,新しく作成された正しい変換ルールに基づいて第3の仕訳データ43を作成して,総勘定元帳データ23に記憶する,一括打ち消し手段13。」との事項(引用例3記載事項C)が記載されている。
引用例3記載事項Cにおける,「仕訳変換テーブル22に記憶された変換ルールに誤りが含まれており,この仕訳変換テーブル22を用いて,総勘定元帳データ23へ会計データが登録された場合」が,本願発明の「変換テーブルの内容に誤りがあることによって正しく変換されない場合」に相当し,また,引用例3記載事項Cにおける「第1の仕訳データ41を作成するための変換ルールに誤りがあった場合,この第1の仕訳データ41を相殺するための変換ルールを作成して,第2の仕訳データ42を作成し,この第2の仕訳データ42によって,第1の仕訳データ41を相殺し,更に,新しく作成された正しい変換ルールに基づいて第3の仕訳データ43を作成して,総勘定元帳データ23に記憶する,一括打ち消し手段13」が本願発明の「前記変換テーブルに当初記憶されていた第1のデータと逆に対応付けられ前記第1のデータを相殺する第2のデータと,正しい変換内容のデータである第3のデータとをさらに書き加えて,前記第1のデータ,第2のデータおよび第3のデータを有する前記変換テーブルの内容を全体として正しい変換内容に訂正する一括打消し手段」に相当する。
してみれば,引用例1発明に上記引用例3記載事項Cの構成を採用することにより,「変換テーブルの内容に誤りがあることによって正しく変換されない場合,前記変換テーブルに当初記憶されていた第1のデータと逆に対応付けられ前記第1のデータを相殺する第2のデータと,正しい変換内容のデータである第3のデータとをさらに書き加えて,前記第1のデータ,第2のデータおよび第3のデータを有する前記変換テーブルの内容を全体として正しい変換内容に訂正する一括打消し手段」を備えるように構成することには何ら困難性がなく,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,相違点Eに係る本願発明の構成は,引用例1発明及び引用例3記載事項Cに基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

以上のことから,本願発明は,引用例1発明,引用例3記載事項A?C,及び常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして,本願発明の作用効果も,引用例1発明,引用例3記載事項A?C,及び常套手段から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1発明,引用例3記載事項A?C,及び常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-07 
結審通知日 2012-08-10 
審決日 2012-08-24 
出願番号 特願2007-254217(P2007-254217)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 正信  
特許庁審判長 清田 健一
特許庁審判官 松尾 俊介
須田 勝巳
発明の名称 財務会計システム  
代理人 藤原 康高  
代理人 藤原 康高  

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