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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B81B |
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管理番号 | 1264707 |
審判番号 | 不服2010-9977 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-05-11 |
確定日 | 2012-10-10 |
事件の表示 | 特願2001-356891「マイクロアセンブリ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 6日出願公開、特開2002-219698〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件出願は平成13年11月22日(パリ条約に基づく優先権主張2000年11月29日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成16年11月16日に審査請求されると同時に手続補正がなされ、平成19年8月23日付拒絶理由通知に対して同年11月21日に意見書と手続補正書が、平成20年12月26日付拒絶理由通知に対して平成21年4月1日に意見書と手続補正書が、それぞれ提出されたが、平成22年1月29日付で拒絶査定がなされたものである。本件審判は該査定の取消を求めて平成22年5月11日に請求されたものであり、当審の平成23年3月22日付拒絶理由通知に対して同年7月8日に意見書と手続補正書が提出されたのに関し、当審は同年7月26日に電話にて請求人代理人石田純に対し明細書の説明不足について連絡した上で、同年8月16日に同人と面接を行い、当審の平成24年1月4日付拒絶理由通知に対して同年4月9日に意見書と手続補正書が提出されたものである。 本件出願の請求項1,2に係る発明は、平成24年4月9日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1の記載は次のとおりである。 「電力源から供給される電力を用いるマイクロアセンブリであって、 下部基板層、中間埋め込み酸化物層及び単結晶シリコンデバイス層を含むシリコンオンインシュレータウェハと、 前記シリコンオンインシュレータウェハ中の前記デバイス層に形成され、前記デバイス層の厚さよりも薄い厚さを有し、 前記デバイス層に形成されたアンカー部に一体的に取り付けられる一方端と、 前記デバイス層の平面外に亘って動作可能な他方端とを有し、前記一端側から一旦下部基板層から離れる方向に曲がった後下部基板層に向けて曲がるS字形状で可撓性のリボンヒンジ構造と、 前記リボンヒンジ構造の前記他方端に接続され、下部基板層およびデバイス層を含む単結晶シリコン基板中のデバイス層の上又は中に形成されたマイクロデバイスと、 前記リボンヒンジの表面の少なくとも一部により担持された導体と、 を備えることを特徴とするマイクロアセンブリ。」(以下、「本件発明」という。) 2.刊行物記載の発明または事項 本件出願の優先日前に頒布された刊行物であって、当審の平成24年1月4日付拒絶理由通知に引用した次の刊行物には、それぞれ以下の記載が認められる。 刊行物1: 特開平9-17300号公報 刊行物2: 特開平10-325935号公報 刊行物3: 特開2000-188049号公報 2.1 刊行物1 a.(【発明の詳細な説明】、段落【0001】) 「【0001】 【技術分野】この発明は、微細電気機械システム(micro electromechanical system(MEMS))に関し、特に、DCから少なくとも4ギガヘルツまでの信号周波数で機能する微細に機械加工された電気機械RFスイッチに関する。」 b.(同、段落【0004】) 「【0004】 【発明の概要】この発明は、ギガヘルツ信号周波数を扱い、一方で「オン」状態において最小の挿入損および「オフ」状態において質の良い電気的分離を維持できる微細に製造された小型電気機械RFスイッチを含む。好ましい実施例では、RFスイッチは、半絶縁性ガリウム砒素(GaAs)基板上に製造され、片持梁式のアクチュエータアームとして懸垂式二酸化シリコン微細梁を備える。片持アームは、基板上に金属マイクロストリップによって形成された接地線およびギャップを作られた信号線の上に延在するようにアンカー構造に取付けられている。好ましくは白金、金、または金パラジウムなどの容易に酸化しない金属を含む金属接触部が片持アームの下部にアンカー構造から離れて形成され、信号線のギャップより上でかつそれに面して位置づけられている。片持アーム上の上部電極は、基板上の接地線より上にキャパシタ構造を形成する。キャパシタ構造は上部電極および片持アームを貫いて延びる穴のグリッドを含み得る。好ましくは片持アームと下部電極との間のギャップに匹敵する寸法を有する穴は、構造上の質量、およびスイッチ動作の間の片持アームと基板との間の空気のスクィーズ膜減衰効果(squeezefilm damping effect )を低減する。スイッチは上部電極への電圧の印加によって動作する。電圧が印加されると、静電力がキャパシタ構造を接地線の方に引きつけ、それによって金属接触部が信号線のギャップを閉じることを引き起こす。(以下省略)」 c.(同、段落【0009】?【0013】) 「【0009】好ましい実施例では、スイッチ10は、たとえばマスキング、エッチング、堆積、およびリフトオフなどの一般的に既知の微細製造技術を用いて半絶縁性GaAs基板などの基板12上に製造される。スイッチ10はアンカー構造14によって基板12に取付けられ、アンカー構造14はたとえば堆積かまたは周囲の材料をエッチングして取除くかによって基板12上にメサ型として形成され得る。典型的には接地に接続された下部電極16、および信号線18もまた、基板12上に形成される。電極16および信号線18は一般的に、基板12上に堆積された、たとえば金などの容易に酸化しない金属のマイクロストリップを含む。信号線18は図4に最良に示されているようなギャップ19を含み、ギャップ19は矢印11によって示されているようにスイッチ10の動作によって開けられたり閉じられたりする。 【0010】スイッチ10の動作部分は、典型的にはたとえば二酸化シリコンまたは窒化シリコンなどの半導電性、半絶縁性、または絶縁性材料からなる片持梁式のアーム20を含む。片持アーム20は、アンカー構造14の上面上の一方端に取付けられかつ基板12の上の下部電極16および信号線18より上で延在する、懸垂式マイクロビームを形成する。典型的には容易に酸化しないたとえば金、白金、または金パラジウムなどの金属を含む電気的接触部22は、片持アーム20のアンカー構造14から離れた端部上に形成される。接触部22は、信号線18のギャップ19上で延在して基板12の上面に面するように片持アーム20の下側に位置づけられる。 【0011】典型的にはたとえばアルミニウムまたは金などの金属を含む上部電極24は片持アーム20の上面上に形成される。上部電極24は、アンカー構造14より上から始まって片持アーム20の上面に沿って延び下部電極16より上の位置で終端する。片持アーム20および上部電極24は下部電極16より上で幅広くなりキャパシタ構造26を形成する。スイッチ動作性能を高めるための選択案として、キャパシタ構造26は、上部電極24および片持アーム20を貫いて延びる穴のグリッド28を含むように形成され得る。典型的にはたとえば1μm?100μmの寸法を有する穴は、片持アーム20の構造上の質量と、矢印11によって示されているようなスイッチ10の動作の間の空気のスクィーズ膜減衰効果とを低減する。 【0012】動作において、スイッチ10は図2に示されているように通常「オフ」位置にある。オフ状態のスイッチ10では、信号線18はギャップ19と接触部22の信号線18からの分離とに起因して開回路である。スイッチ10は上部電極24への電圧の印加によって「オン」位置に動作する。絶縁性の片持アーム20によって下部電極16から分離されている上部電極24およびキャパシタ構造26への電圧で、静電力がキャパシタ構造26(および片持アーム20)を下部電極16の方に引きつける。矢印11によって示されるような下部電極16の方への片持アーム20の動作によって、接触部22が信号線18と接触するようになり、それによってギャップ19を閉じて信号線18をオン状態にする(すなわち回路を閉じる)。 【0013】(設計トレードオフ)以下の説明は、例であって、限定するものではないが、微細電気機械スイッチ10を構成する上でのさまざまな部品寸法および設計トレードオフを説明する。RFスイッチ10の一般的な設計に関して、二酸化シリコン片持アーム20は典型的には、10μmから1000μmまでの長さであって、1μmから100μmまでの幅、1μmから10μmまでの厚みである。キャパシタ構造26は100μm^(2)から1mm^(2)までの典型的な面積を有する。二酸化シリコン片持アーム20の下面と基板12上の金属線16および18との間のギャップは典型的には1μm?10μmである。金マイクロストリップ信号線18は、所望の信号線インピーダンスを与えるために一般的に厚み1μm?10μm、幅10μm?1000μmである。金接触部22は典型的には厚み1μm?10μmであって、10μm^(2) ?10,000μm^(2) の接触面積を有する。」 d.(同、段落【0019】?【0022】) 「【0019】(製造)この発明のRFスイッチ10は5つのマスキングレベルを用いる表面微細製造技術によって製造される。いかなる厳密な重ね合わせも必要でない。好ましい実施例の開始時の基板は3インチの半絶縁性GaAsウエハである。プラズマ励起化学蒸着(PECVD)を用いて堆積された二酸化シリコン(SiO_(2) )が片持アーム20に好ましい構造材料として用いられ、ポリイミドが好ましい犠牲材料として用いられる。図5(A)-(E)および図6(A)-(E)は、それぞれ図1に示されたスイッチ10の断面3--3および4--4にプロセスのシーケンスが影響を及ぼすときのそのプロセスシーケンスの断面概略図である。スイッチ10のSiO_(2) PECVD形成の間の処理温度を250℃と低くすることによって、MMICとのモノリシックな集積能力を確実にする。 【0020】 アンカー構造14は多くの異なるエッチング技術および/または堆積技術を用いて製造されてもよい。図2に示されたような突出アンカー構造14を形成するには、典型的にはアンカーの面積が片持アーム20の寸法よりずっと大きくなければならない。一方法では、片持アーム20は基板12上に堆積された犠牲層の上部上に形成される。たとえば酸素プラズマを用いることによって片持アーム20がリリースされ横方向に犠牲層を除去するとき、アンカー構造14を形成する犠牲材料はアンダーカットされるが完全には除去されない。別の方法においては、片持アーム20を形成する材料の堆積に先行してエッチングステップが用いられて犠牲層に凹領域を生み出し、そこにアンカー構造14が形成される。この構成では、片持アーム20の材料は実際には犠牲層のエッチングされた凹領域の基板12の上に堆積され、アンカー構造14を形成する。 【0021】 片持アーム20、電極16および18、ならびに接触部22を形成するとき、(たとえばDuPont PI2556などの)熱硬化ポリイミドの層30などの犠牲材料が基板12上に堆積される。ポリイミドは、250℃以下の温度において数回のオーブンベーキングによって硬化され得る。そして、第1の犠牲材料から選択的に取除かれ得る(たとえばOCG Probeimide285などの)予めイミド化されたポリイミドの層32などの第2の犠牲材料が堆積される。OCG Probeimide285は回転加工され170℃の最も高いベーキング温度でベーキングされ得る。そして1500Åの厚みの窒化シリコン層34が堆積され、CHF_(3) とO_(2) との化学作用での反応性イオンエッチング(RIE)およびフォトリソグラフィを用いてパターニングされる。このパターンは、図6(A)において最良に示されているようにO_(2) RIEによって下層ポリイミド層の方にさらに転写する。これは、ポリイミドの2層が用いられる点を除いて、3層のレジストシステムと同様のリフトオフプロファイルを生み出す。図5(B)および図6(B)に示されるように、金の層が熱硬化ポリイミド層30の厚みと等しい厚みで電子ビーム蒸着され、下部電極16および信号線18を形成する。図6(B)に最良に示されるように、予めイミド化されたOCG ポリイミドを溶解するために塩化メチレンを用いて金のリフトオフが完了し、平坦な金/ポリイミド表面を残す。架橋したDuPontポリイミド30は塩化メチレンに対して良好な耐薬品性を有する。 【0022】(たとえばDuPont PI2555などの)熱硬化ポリイミドの第2の層38が回転加工され熱的に架橋される。1μmの金の層が、図6(C)に最良に示されるように、電子ビーム蒸着およびリフトオフを用いて堆積され、接触金属22を形成する。そして図5(D)および図6(D)に示されるように、2μmの厚みのPECVD二酸化シリコンの膜が堆積され、CHF_(3) とO_(2) との化学作用においてRIEおよびフォトリソグラフィを用いてパターニングされ、片持アーム20を形成する。そして図5(D)に示されるように、アルミニウム膜の薄い(2500Å)層が電子ビーム蒸着およびリフトオフを用いて堆積され、動作キャパシタ構造に上部電極24を形成する。最後に、Branson O_(2) バレルエッチャーにおいてポリイミド膜30および38をドライエッチングすることによって全RFスイッチ構造がリリースされる。起こり得る粘着性の問題を回避するにはドライリリースがウェット化学リリース方法よりも好ましい。」 e.(図1,2) 微細電気機械システムが下部のガリウム砒素基板、中間の犠牲材料層及び上部の二酸化シリコン層を含む積層体となっていること、アンカー構造14が二酸化シリコン層にも形成されること、及び、片持アーム20が平板状であって、その一端はアンカー構造14に一体的に取り付けられ、他端の上面にはキャパシタ構造26の上部電極24が形成されること、が理解される。 上記を、本件発明の記載に沿って整理すると、刊行物1には次の発明が記載されているということができる。 「上部電極への電圧の印加によって動作する微細電気機械システムであって、 下部ガリウム砒素基板層、中間犠牲材料層及び、キャパシタ構造が形成された二酸化シリコン層を含む積層体と、 前記二酸化シリコン層に形成され、 前記二酸化シリコン層に形成されたアンカー構造に一体的に取り付けられる一方端と、 前記二酸化シリコン層の平面外に亘って動作可能な他方端とを有し、 平板状で可撓性の片持アームと、 前記片持アームの前記他方端に接続され、下部ガリウム砒素基板層および二酸化シリコン層を含む基板中の二酸化シリコン層の上に形成されたキャパシタ構造と、 前記片持アームの表面の少なくとも一部により担持された上部電極と、 を備える微細電気機械システム。」(以下、「刊行物1記載発明」という。) 2.2 刊行物2 a.(【発明の詳細な説明】、段落【0001】) 「【0001】 【発明の分野】この発明は光スキャナの分野に関し、特にマイクロ電気機械(micro-electromechanical )(MEM)光共振器に基づいた光スキャナに関する。」 b.(同、段落【0044】?【0046】) 「【0044】図14から図21の断面図には、好ましい新規な製造プロセスシーケンスが示される。図14に示されるように、基板120が得られ、この基板120は「シリコン-オン-インシュレータ」(SOI)ウエハとして公知である、特定的な深さでその中に埋込まれた酸化物層122を有する。このような基板は基板に酸化物層を注入するか、または2つのウエハから始めてウエハのうち一方の上に酸化物層を成長させ、間に酸化物を介在させて他方のウエハに結合し、次いで上部ウエハを所望の厚さにまで研磨することかのいずれかによって得られる。SOIウエハはたとえばミズーリ州セントピーターズ(St. Peters, Missouri)にあるMEMCエレクトロニックマテリアル社(MEMC Electronic Materials Co. )から入手可能である。上述の処理工程と同様に、SiO_(2) 層123がまず基板の上部および下部上に成長する。第1のマスクによりメサ構造124(図14)が確立し、第2のマスクにより切削チャネル126(図15)が規定され、これらはいずれもTMAHを用いてエッチングされる。酸化物層123は除去され第1および第2のマスキング工程の間に新しい酸化物層125が成長する。第2のマスク工程の後に酸化物層125が除去され新しい酸化物127が成長し、その部分128はその後の処理工程時にそれを保護するように切削チャネルの下部を覆う。図16において、背面129がマスキングされTMAHによってエッチングされ、酸化物層の下のシリコンの全部ではないが大部分を除去する。図17、図18および図19のマスク4、5および6はそれぞれ、先程と同じように下部電極130、バイモルフ材料層132および上部電極134を規定および堆積する。上部電極を規定するマスクおよび堆積はまた、その反射率を高めるように反射表面124の上にチタン/金の層を置くために用いることもできる。図20では、切削チャネルの下部にある保護酸化物層128は梁を自由にするのに備えて除去されている。」 【0045】図21では、背面129上の残りのシリコンの厚さがX_(2)F_(2)(これは非常に優れたエッチ液であるため好ましい)またはSF_(6)ガスエッチ液を用いてRIEによってエッチング除去され、これにより埋込まれたSiO_(2) 層122まで正確に、それを超えることなくシリコンを除去し、梁の端部を自由にする。こうして、片持ち梁の厚さは正確に既知の厚さとなり、この結果、剛性、共振周波数および有用な反射表面領域のパラメータははるかに予測可能となり、埋込まれた酸化物層122の深さを単に特定することにより容易に制御可能となる。 【0046】片持ち梁の製造時にSOIウエハを用いることに起因する別の大きな利点は、光学的平面性の改善である。梁の両側に対称的な酸化物層を設けることにより梁の残留応力が低減し、このため梁が自由になったときに生ずる湾曲が低減する。」 上記において、基板120の「下部」、「上部」及び「埋込まれた酸化物層」は、それぞれ「基板層」、「単結晶シリコンデバイス層」及び「中間埋め込み酸化物層」と呼ぶことができるから、刊行物2には次の事項が記載されていると認められる。 「マイクロ電気機械を構成する基板を、基板層、中間埋め込み酸化物層及び単結晶シリコンデバイス層を含むシリコン-オン-インシュレータウエハとすること。」(以下、「刊行物2記載事項」という。) 2.3 刊行物3 a.(【発明の詳細な説明】、段落【0001】) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、マイクロマシンスイッチおよびその製造方法に関し、特にDC(直流)からギガヘルツ以上の広い信号周波数をオン/オフ可能とするマイクロマシンスイッチおよびその製造方法に関するものである。」 b.(同、段落【0045】?【0048】) 「【0045】[第1の実施の形態]図1は、本発明の第1の実施の形態の平面図(a)およびそのA-A’線断面図(b)を示す。同図に示すように、本実施の形態では、誘電率の大きなガラス製の基板1上に、シリコンからなるスイッチ本体部14と、金からなる下部電極4と、金からなる信号線3が設けられている。また、基板1の裏面にはアース板2が形成されている。 【0046】スイッチ本体部14は、支持部材7と、片持ちアーム8と、上部電極9との一体構造となっている。支持部材7からは、シリコンからなる二本の片持ちアーム8が基板面に対してほぼ水平に延びている。二本の片持ちアーム8は、従来例における一本のアームと比べてアームの回転運動を低く抑えることができ、スイッチの片当たり接触を防止するのに役立つ。ただし、条件に応じて片持ちアーム8の本数を変えればよいのであって、本発明には1本および2本以上の片持ちアーム8を有する構造が含まれる。 【0047】ところで、支持部材7と片持ちアーム8と接続部分においては、その表面におけるなす角α,βが、それぞれ鈍角(90°<α,β<180°)となるように調整することが好ましい。このようにすることにより、片持ちアーム8の強度を高めることができ、1MHz以上といった高周波数のスイッチング動作を可能とする。 【0048】片持ちアーム8の先端には、シリコンからなる上部電極9が設けられている。上部電極9は、下部電極4と空間的な隙間を介して対向している。 支持部材7は、基板1上に形成されている信号線3aに接続されており、この信号線3aは、支持部材7および片持ちアーム8を介して上部電極9と電気的に接続されている。」 c.(同、段落【0051】) 「【0051】このように、接触電極5と対向する絶縁性部材6の上側には、片持ちアーム8よりも厚みのある上部電極9が設けられているため、接触電極5と絶縁性部材6との間に生じる歪みによる反りを小さく抑えることができる。したがって、接触電極5は絶えず基板1に対して平行な状態を保つことができ、片当たりによる接触抵抗の増大を抑えることができる。」 d.(同、段落【0056】) 「【0056】また、以下の作製方法に述べるように片持ちアーム8の厚さを、他の構成要素に比べて薄く制御することも容易である。このように個々の要素の厚さを制御することによって、剛性の大きな構成要素の中に柔らかい片持ちアーム8を作製することができる。したがって、剛性の大きな要素では電圧印加時の変形が基板1に対して水平に行われ、変形のほとんどが薄い片持ちアーム8によってなされることになる。これは、スイッチの片当たりを低く抑えることに役立つものである。」 e.(同、段落【0059】【表1】) 片持ちアーム8の厚さが、上部電極9の厚さよりも小さいことが理解される。 上記を整理すると、刊行物3には次の事項が記載されていると認められる。 「マイクロマシンスイッチにおいて、片持ちアームの厚さを上部電極の厚さよりも薄く柔らかいものとすること。」(以下、「刊行物3記載事項」という。) 3.対比 本件発明を刊行物1記載発明と対比すると、以下のとおりである。 後者の「微細電気機械システム」、「キャパシタ構造」、「アンカー構造」が、前者の「マイクロアセンブリ」、「マイクロデバイス」、「アンカー部」にそれぞれ相当することは明らかである。 後者の「微細電気機械システム」は上部電極への電圧の印加によって動作するものであるから、「電力源から供給される電力を用いる」ものということができる。 後者の「下部ガリウム砒素基板層」は、下部の基板層である限りにおいて前者の「下部基板層」と共通し、同様に後者の「中間犠牲材料層」は中間層である限りにおいて前者の「中間埋め込み酸化物層」と共通し、後者の「二酸化シリコン層」は中間層の上部にあってマイクロデバイスが形成されたデバイス層である限りにおいて前者の「単結晶シリコンデバイス層」と共通する。そして、後者の「積層体」は、前記3層からなりマイクロデバイスを構成する基板である限りにおいて前者の「シリコンオンインシュレータウェハ」と共通する。 後者の「片持アーム」は、一方端をアンカー部に一体的に取り付けられ、デバイス層の平面外に亘って動作可能な他方端をマイクロデバイスに接続された、可撓性の部材である限りにおいて、前者の「リボンヒンジ構造」と共通する。 後者の「上部電極」が「導体」であることは明らかである。 上記をまとめると、本件発明と刊行物1記載発明とは、以下の点において一致及び相違するということができる。 <一致点> 「電力源から供給される電力を用いるマイクロアセンブリであって、 下部基板層、中間層及びデバイス層を含む基板と、 前記基板中の前記デバイス層に形成され、 前記デバイス層に形成されたアンカー部に一体的に取り付けられる一方端と、 前記デバイス層の平面外に亘って動作可能な他方端とを有する可撓性の部材と、 前記可撓性の部材の前記他方端に接続され、デバイス層の上又は中に形成されたマイクロデバイスと、 前記可撓性の部材の表面の少なくとも一部により担持された導体と、 を備えるマイクロアセンブリ。」である点。 <相違点1> マイクロデバイスを構成する基板が、前者では基板層、中間埋め込み酸化物層及び単結晶シリコンデバイス層を含むシリコンオンインシュレータウェハであるのに対し、後者ではそのようなものでない点。 <相違点2> 可撓性の部材の厚さが、前者ではデバイス層の厚さよりも薄いのに対し、後者ではそのようなものでない点。 <相違点3> 可撓性の部材が、前者ではアンカー部に取り付けられた一端側から一旦下部基板層から離れる方向に曲がった後下部基板層に向けて曲がるS字形状のリボンヒンジ構造をなすのに対し、後者ではそのようなものでない点。 4.当審の判断 以下に、上記各相違点について検討する。 4.1 <相違点1>について 刊行物2記載事項の「マイクロ電気機械」がマイクロアセンブリであることは明らかである。刊行物1記載発明と刊行物2記載事項はともにマイクロデバイスに関するものであり、刊行物2には基板層、中間埋め込み酸化物層及び単結晶シリコンデバイス層を含むシリコンオンインシュレータウエハを用いることによる有利な効果も記載されている(例えば、段落【0045】参照)ことから、刊行物2記載事項を刊行物1記載発明に適用することは、当業者が普通に試みるものである。 4.2 <相違点2>について 刊行物3記載事項の「マイクロマシンスイッチ」も、刊行物1記載発明同様のマイクロアセンブリであることは明らかであり、刊行物3記載事項の「片持ちアーム」、「上部電極」が、刊行物1記載発明の「可撓性の部材」、「マイクロデバイス」にそれぞれ相当することも明らかである。刊行物3には可撓性の部材の厚さを薄くして柔らかいものとすることの有利な効果も記載されている(段落【0056】参照)ため、刊行物3記載事項を刊行物1記載発明に適用することは、当業者が容易に想到し得る。 4.3 <相違点3>について 平成24年1月4日付拒絶理由通知書でも指摘したとおり、本件出願の明細書及び図面には、可撓性の部材を一端側から一旦下部基板層から離れる方向に曲がった後下部基板層に向けて曲がるS字形状とすることについて、十分な柔軟性をもつことを示す以外に、技術的な意義の説明を見いだすことはできない。平成23年8月16日の面接において請求人代理人が説明したように、マイクロアセンブリの自由端を外力により押し込むことによって平板状のリボンヒンジをS字形状に変形させるのであれば、可撓性部材がS字形状となるのは本件発明のマイクロアセンブリの構造に起因するものではなく外力の結果であり、刊行物1記載発明でも可撓性の部材が十分な柔軟性を有するのであれば、同様に自由端を押し込むことによりS字形状のリボンヒンジ構造とすることは可能であることは、容易に理解し得る。可撓性の部材の柔軟性は、その長さ、幅及び長さを選択することによって当業者が適宜設計し得るものであり、可撓性の部材をS字形状とすることには技術的な意味が認められないから、<相違点3>は単なる設計上の事項というほかない。 なお、請求人は平成24年4月9日付意見書において、「S字形状の自由端についての移動を行うことによるS字形状の変化は、物理的に特定できます。すなわち、S字状のリボンヒンジ構造について、自由端側を移動することによって、S字形状のリボンヒンジはS字形状の角度が変化して、マイクロデバイスの角度が変化することは容易に理解されることであり、このようなマイクロデバイスの角度変化は、引用文献1?3に記載された単なる自由端をぶらぶらさせるのと異なることは全く明らかです。」、「S字形状の場合の自由端の移動に伴う変化はS字形状の具体的な形状、弾性係数などが決まれば決まります。このS字形状のヒンジの動きが、単なる片持ちの自由端の移動と異なることは自明のことです。」、「例えば、マイクロデバイスがミラーの場合、その角度変更は片持ち自由端でも行うことは可能です。しかし、この場合の移動の仕方と、本願発明のS字形状のヒンジの場合のマイクロデバイスの移動の仕方は根本的に異なります。」と主張しているが、S字形状の具体的な形状、弾性係数等に関する特定もなく、移動の仕方または角度変化の仕方の違いについて、具体的な説明も何ら見当たらない。また、「例えば、S字形状の場合、マイクロデバイスの自由端を基板表面に位置させることができ、これを基板表面に平行に移動することでヒンジはそれに応じた変形をして、マイクロデバイスの角度を変更できます。一方、引用文献1?3の場合には、自由端を基板に垂直方向に移動させることによる移動になります。このような効果が得られることは、本願請求項1の記載から当業者に自明です。」とも主張しているが、本件出願の明細書にも図面にも、基板表面に位置させたマイクロデバイスの自由端を基板表面に平行に移動することについては、そのための駆動手段も含め、記載も示唆もされていないため、この主張を採用することはできない。 4.4 まとめ 本件発明には、刊行物1記載発明、刊行物2記載事項及び刊行物3記載事項に基づいて普通に予測される範囲を超える格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本件発明は刊行物1記載発明、刊行物2記載事項及び刊行物3記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は、刊行物1記載発明、刊行物2記載事項及び刊行物3記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 . |
審理終結日 | 2012-05-09 |
結審通知日 | 2012-05-15 |
審決日 | 2012-05-28 |
出願番号 | 特願2001-356891(P2001-356891) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B81B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高山 芳之、横山 幸弘 |
特許庁審判長 |
千葉 成就 |
特許庁審判官 |
藤井 眞吾 豊原 邦雄 |
発明の名称 | マイクロアセンブリ |
代理人 | 石田 純 |
代理人 | 吉田 研二 |