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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1264723
審判番号 不服2010-29229  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-24 
確定日 2012-10-10 
事件の表示 特願2006-522704「クロストークキャンセルのための方法とシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月24日国際公開、WO2005/018134、平成19年 2月 1日国内公表、特表2007-502054〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年8月5日(パリ条約に基づく優先権主張 2003年8月7日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年8月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年12月24日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。


第2.本願発明
本願の請求項29に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年12月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項29に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項29】
データ通信システムにおいて、クロストークを補正する装置は、
クロストークレスポンスをモデル化するクロストークモデリングフィルタと、
前記クロストークを備える通信信号から、モデル化された前記クロストークレスポンスを減じて、クロストーク補正された信号をもたらす差分ノードと、
前記クロストーク補正された信号を処理して、前記クロストーク補正された信号の残余クロストークを減らすように前記クロストークモデリングフィルタを調整する制御回路
を備える。」


第3.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特表2002-507076号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。ただし、下線は当審において付加した。

(a)段落番号【0010】
「【0010】
こうした雑音障害信号の結果、通信システムの性能は劣化する。システムによって伝えられる信号は歪められ、システムは高い信号誤差率を経験する。従って、当業技術分野では、雑音障害信号によって発生する通信システム性能の劣化を補償する方法と装置を提供し、かつ、ギガビット・イーサネットのような高スループット・システムにおいてこの種の雑音を低減する方法と装置を提供する必要が存在する。本発明の態様はこうした必要を満たすものである。」

(b)段落番号【0011】
「【0011】
通信線路の1つの終端の4つの送受信機が図6に例示されている。送受信機の構成要素は、各層が1つの送受信機に対応する、重なり合うブロックとして示されている。図6のGMII、PCS及びハイブリッドは図2のGMII、PCS及びハイブリッドに対応し、送受信機とは独立したものと考えられる。送受信機とハイブリッドの組合せは通信システムの1つの「チャネル」を形成する。従って、図6は、各々同様の方法で動作する4つのチャネルを例示している。各送受信機の送信機部分にはパルス整形フィルタとデジタル・アナログ(D/A)変換器が含まれる。各送受信機の受信機部分には、アナログ・デジタル(A/D)変換器、先入れ先出し(FIFO)バッファ、フィードフォワード等化器(FFE)を含むデジタル適応等化器システム及び検出器が含まれる。受信機部分にはまた、タイミング回復システムと、NEXTキャンセル・システム及びエコー・キャンセラを含む近端雑音低減システムも含まれる。NEXTキャンセル・システムとエコー・キャンセラには通常非常に多くの適応フィルタが含まれる。」

(c)段落番号【0047】
「【0047】
前に言及したように、通信システム中の送信機22(図2)によって送信された記号は各チャネルの受信信号中にNEXT、エコー及びFEXT障害を発生する。各受信機24はこの干渉を発生する他の3つのチャネルのデータへのアクセスを有するので、こうした影響の各々をほぼ打ち消すことが可能である。NEXTキャンセルは、図11の構成図に示されるように3つの適応NEXTキャンセル・フィルタ84を使用して達成される。各NEXTキャンセル・システム38は、通信線路18の、NEXTキャンセル・システムが関連する受信機と同じ終端の各送信機から3つのTXDatax記号36を受信する。各NEXTキャンセル・システム38には、各TXDatax記号36について1つの3つのフィルタ84が含まれる。これらのフィルタ84は送信機からのNEXT雑音のインパルス応答をモデル化し、例えば、LMSアルゴリズムを利用する適応トランスバーサル・フィルタ(ATF)として実現される。フィルタ84は各TXDatax記号36についてNEXT障害信号の複製を生成する。合計装置86は3つの個別複製NEXT障害信号92を結合し、NEXTキャンセル・システム38が関連する受信機によって受信される組合せ信号内に含まれるNEXT障害信号の複製を生成する。複製NEXT障害信号88は第2装置50(図9)に導入され、そこで組合せ信号48と結合されて、NEXT障害信号がほとんどない第1ソフト決定信号52が生成される。」

(d)段落番号【0048】
「【0048】
エコー・キャンセルは、図12の構成図に示されるような適応エコー・キャンセル・フィルタ85によって達成される。各エコー・キャンセラ40は、ツイスト・ワイヤ・ペア18のエコー・キャンセラが関連する受信機と同じ終端の送信機からTXDatax記号36を受信する。図12に示されるように、各エコー・キャンセラ40には1つのフィルタ85が含まれる。このフィルタ85は送信機からのエコー雑音のインパルス応答をモデル化し、例えば、LMSアルゴリズムを利用するATFとして実現される。このフィルタは、エコー・キャンセラ40が関連する受信機によって受信される組合せ信号中に含まれるエコー障害信号の複製を生成する。複製エコー障害信号90は第2装置50(図9)に導入され、組合せ信号48と結合されて、エコー障害信号がほとんどない第1ソフト決定信号52が生成される。」

したがって、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ギガビット・イーサネットのような高スループット・システムにおける通信線路の1つの終端の送受信機に設けられたNEXTキャンセル・システムであって、
NEXTキャンセルは、適応NEXTキャンセル・フィルタ84を使用して達成され、
フィルタ84は送信機からのNEXT雑音のインパルス応答をモデル化し、例えば、LMSアルゴリズムを利用する適応トランスバーサル・フィルタ(ATF)として実現され、
フィルタ84は各TXDatax記号36についてNEXT障害信号の複製を生成し、合計装置86は3つの個別複製NEXT障害信号92を結合し、NEXTキャンセル・システムが関連する受信機によって受信される組合せ信号内に含まれるNEXT障害信号の複製を生成し、複製NEXT障害信号88は第2装置50に導入され、そこで組合せ信号48と結合されて、NEXT障害信号がほとんどない第1ソフト決定信号52が生成される、
NEXTキャンセル・システム。」


第4.本願発明と引用発明の一致点・相違点

引用発明のギガビット・イーサネットのような高スループット・システムは、データ通信システムである。また、引用発明のNEXTキャンセル・システムは、「Near End Crosstalk キャンセラ・システム」の略であるから、クロストークを補正する装置である。
したがって、引用発明のギガビット・イーサネットのような高スループット・システムにおける通信線路の1つの終端の送受信機に設けられたNEXTキャンセル・システムは、本願発明の「データ通信システムにおいて、クロストークを補正する装置」に相当する。

引用発明のNEXT雑音のインパルス応答が、本願発明の「クロストークレスポンス」に相当し、引用発明の適応NEXTキャンセル・フィルタ84は、NEXT雑音のインパルス応答をモデル化するから、本願発明の「クロストークレスポンスをモデル化するクロストークモデリングフィルタ」に相当する。

引用発明のNEXT障害信号が、本願発明の「クロストーク」に相当する。引用発明の組合せ信号は、NEXT障害信号を含むから、本願発明の「クロストークを備える通信信号」に相当する
引用発明のNEXT障害信号の複製が、本願発明の「モデル化された前記クロストークレスポンス」に相当する。引用発明では、第2装置50において、組合せ信号48と複製NEXT障害信号88とが結合されて、NEXT障害信号がほとんどない第1ソフト決定信号52が生成される。
したがって、第2装置50における結合とは、組合せ信号48から複製NEXT障害信号88を減ずる処理であり、引用発明のNEXT障害信号がほとんどない第1ソフト決定信号52が、本願発明の「クロストーク補正された信号」に相当する。
よって、引用発明の、組合せ信号48から複製NEXT障害信号88を減じて、NEXT障害信号がほとんどない第1ソフト決定信号52を生成する第2装置50は、本願発明の「前記クロストークを備える通信信号から、モデル化された前記クロストークレスポンスを減じて、クロストーク補正された信号をもたらす差分ノード」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明の一致点・相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「データ通信システムにおいて、クロストークを補正する装置は、
クロストークレスポンスをモデル化するクロストークモデリングフィルタと、
前記クロストークを備える通信信号から、モデル化された前記クロストークレスポンスを減じて、クロストーク補正された信号をもたらす差分ノードと、
を備える。」点。

[相違点]
本願発明は、「前記クロストーク補正された信号を処理して、前記クロストーク補正された信号の残余クロストークを減らすように前記クロストークモデリングフィルタを調整する制御回路」を備えるのに対して、引用発明では、NEXTキャンセル・システムが、そのような制御回路を備えることが明記されていない点。


第5.相違点についての検討

[相違点について]

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2(特開平9-55687号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(e)段落番号【0002】
「【0002】
【従来の技術】従来技術による第1のエコーキャンセラ装置20の1構成例を図2に示す。長距離電話回線では、2線4線変換器11におけるインピーダンス不整合の為、受信側から送信側に信号が漏れ込むエコーパスが形成されエコーが発生する。エコーキャンセラ装置20は、基本的にエコー推定器23と減算器4とから構成され、エコー推定器23内のトランスバーサルフィルタ21により受信入力信号を元に疑似エコーを生成し、エコー推定器23から出力する。減算器4では、エコーが含まれている送信入力信号から疑似エコーを差し引くことにより、残留エコーを得て、送信出力信号として出力する。更に、フィルタ係数更新処理器22において残留エコー信号の電力が最小となるようエコーパス特性を推定するトランスバーサルフィルタ21のフィルタ係数を適応的に更新した後、再度トランスバーサルフィルタ21に設定する。以上の処理を繰り返すことにより、送信入力信号内のエコーの消去を図っている。」

刊行物2のエコーキャンセラ装置20では、エコー推定器23内のトランスバーサルフィルタ21により受信入力信号を元に疑似エコーを生成しているから、トランスバーサルフィルタ21は、エコーパスの伝達関数を模擬しており、「エコーレスポンスをモデル化するエコーモデリングフィルタ」であると言える。刊行物2の減算器2は、エコーが含まれている送信入力信号から疑似エコーを差し引くことにより、残留エコーを得て、送信出力信号として出力しているから、「エコーを備える通信信号から、モデル化されたエコーレスポンスを差し引くことにより、エコー補正された信号をもたらす差分ノード」と言える。刊行物2の図2では、減算器2の出力、すなわち残留エコー(換言すれば「エコー補正された信号」とも言える。)がフィルタ係数更新処理器22に入力されている。そして、フィルタ係数更新処理器22は、残留エコー信号の電力が最小となるように、エコーパス特性を推定するトランスバーサルフィルタ21のフィルタ係数を適応的に更新するから、「エコー補正された信号を処理して、エコー補正された信号の残余エコーを減らすようにエコーモデリングフィルタを調整する制御回路」と言える。
まとめれば、刊行物2のトランスバーサルフィルタ21、減算器2及びフィルタ係数更新処理器22を備えたエコーキャンセラ装置20は、「エコーレスポンスをモデル化するエコーモデリングフィルタ」、「エコーを備える通信信号から、モデル化されたエコーレスポンスを差し引くことにより、エコー補正された信号をもたらす差分ノード」、及び「エコー補正された信号を処理して、エコー補正された信号の残余エコーを減らすようにエコーモデリングフィルタを調整する制御回路」を備えていると言える。そして、このエコーキャンセラ装置20は、刊行物2に従来技術として記載されているものであり、周知技術である。

他方、摘記事項(c)として摘記したように、刊行物1におけるNEXTキャンセルは、適応NEXTキャンセル・フィルタ84を使用して達成され、フィルタ84は送信機からのNEXT雑音のインパルス応答をモデル化し、例えば、LMSアルゴリズムを利用する適応トランスバーサル・フィルタ(ATF)として実現される。
また、摘記事項(d)として摘記したように、刊行物1におけるエコー・キャンセルは、適応エコー・キャンセル・フィルタ85によって達成され、フィルタ85は送信機からのエコー雑音のインパルス応答をモデル化し、例えば、LMSアルゴリズムを利用するATFとして実現される。
したがって、刊行物1におけるNEXTキャンセル・システムの適応NEXTキャンセル・フィルタは、エコー・キャンセル・システムの適応エコー・キャンセル・フィルタと同様に、送信機からのインパルス応答をモデル化し、例えば、LMSアルゴリズムを利用する適応トランスバーサル・フィルタ(ATF)として実現される。

また、Runsheng HE et al.,“A DSP based receiver for 1000BASE-T PHY”,2001 IEEE International Solid-State Circuits Conference,2001年,pages 308,309,458 の第308頁左欄第1段落に次のように記載されている。ただし、下線は当審において付加した。

「The IEEE Standard 802.ab 1000BASF-T [1] specifies the physical layer(PHY) for Gigabit Ethernet over CAT-5 cabling systems. Operating over the widely-deployed CAT-5 cabling systems currently used for 100BASE-TX, 1000BASE-T provides a smooth way to increase the data rate by ten times over 100BASE-TX. As shown in Figure 19.6.1, for every data byte, for every incoming data byte, the trellis encoder outputs four PAM-5 symbols to four pairs of wires at 125MBaud/s. The trellis code has an eight- states radix-4 trellis, it provides 6dB coding gain for an ISI free channel. In practice, the gain could be less than 6dB due to the ISI. Signals are transmitted on both directions on each of the four wires, therefore, echo must be removed on each wire. In addition, near-end cross-talk(NEXT) can also be removed in a way similar to removal of echo cancellation. The architectural features of a 0.18 μm CMOS IC implementing the 1000BASE-T PHY are presented here. Decision feedback equalization(DFE) removes ISI.」
(当審訳:IEEEの標準の802.ab 1000BASF-Tは、CAT-5ケーブリングシステムに関するギガビット・イーサネット用の物理層(PHY)を規定する。100BASE-TXに現在使用された、広く展開したCAT-5ケーブリングシステム上で作動して、1000BASE-Tは、データ転送速度を100BASE-TXの上の10倍に増加させる、スムーズな方法を提供する。図19.6.1に示されるように、すべてのデータ・バイトについては、すべての入来データ・バイトについては、トレリスエンコーダは125MBaud/sで4組のワイヤーに4つのPAM-5シンボルを出力する。トレリスコードには基数4の8状態のトレリスがあり、それはISIの自由なチャンネルに6dBのコーディング利得を提供する。実際上、利得はISIにより6dB未満であり得る。信号は、4本のワイヤーの各々上で双方向に送信され、したがって、エコーは各ワイヤー上で削除されるに違いない。さらに、近端クロス・トーク(NEXT)も、エコーキャンセルの除去に似ている方法で削除することができる。1000BASE-T PHYをインプリメントする0.18μm CMOS ICの構造上の特徴は、ここで示される。決定フィードバック等化(DFE)はISIを削除する。)
してみれば、「近端クロス・トーク(NEXT)が、エコーキャンセルの除去に似ている方法で削除することができること」は、本願優先日前に周知であったと認められる。
以上を前提に、以下検討する。

刊行物2のトランスバーサルフィルタ21は、フィルタ係数が適応的に更新されるから、適応トランスバーサル・フィルタ(ATF)である。
引用発明のNEXTキャンセル・システムと刊行物2のエコーキャンセラ装置20とは、不必要な信号がNEXT障害信号かエコーかという違いがあるものの、どちらも不必要な信号の複製を適応トランスバーサル・フィルタ(ATF)で作成し、不必要な信号が混入した信号から前記複製を減算するという原理において共通している。また、上記したように、近端クロス・トーク(NEXT)が、エコーキャンセルの除去に似ている方法で削除することができることが周知である。そして、引用発明の適応NEXTキャンセル・フィルタ84が適応制御されることは自明である。
したがって、引用発明の適応NEXTキャンセル・フィルタ84を適応制御するために、刊行物2の「エコー補正された信号を処理して、エコー補正された信号の残余エコーを減らすようにエコーモデリングフィルタを調整する制御回路」を引用発明に適用し、引用発明が「クロストーク補正された信号を処理して、クロストーク補正された信号の残余クロストークを減らすようにクロストークモデリングフィルタを調整する制御回路」を備えるようにすることは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願の請求項29に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-09 
結審通知日 2012-05-15 
審決日 2012-05-29 
出願番号 特願2006-522704(P2006-522704)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 昌秋  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 小曳 満昭
近藤 聡
発明の名称 クロストークキャンセルのための方法とシステム  
代理人 三好 秀和  
代理人 原 裕子  
代理人 伊藤 正和  

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