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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K |
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管理番号 | 1264792 |
審判番号 | 不服2010-4386 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-03-01 |
確定日 | 2012-10-18 |
事件の表示 | 特願2000- 1998「抗LCAT抗体及びLCATの測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月17日出願公開、特開2001-192400〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.本願発明 本願は、2000年1月7日の出願であって、その請求項1?8に係る発明は、平成22年3月1日付け手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「ヒト由来LCATに反応し、かつ配列番号1?5のいずれか1の配列を認識する抗LCAT抗体又はそのフラグメント。」 2.引用例の記載事項 本願出願日前に頒布された刊行物である、Biochim. Biophys. Acta, 1986, Vol.878, p.127-130(原審における文献1。以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付加した(以下、同様とする。)。 (a)(要約) 「精製されたヒトレシチン-コレステロール アシルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.43)に対して作成されたモノクローナル抗体であるB_(10)は、当該酵素のエステル分解活性及びコレステロールのエステル化活性を阻害した。この抗体は幾つかの膵臓及びヘビ毒ホスホリパーゼA_(2)種とも反応したが、ホスホリパーゼA_(1)とは反応しなかった。・・・(中略)・・・したがって、レシチン-コレステロール アシルトランスフェラーゼ及びホスホリパーゼA_(2)ファミリーの幾つかの酵素は、おそらくエステル分解活性部位の近傍にある共通の抗原決定部位を有する。」 (b)(第127ページ左欄第1?10行) 「レシチン-コレステロール アシルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.43)はホスファチジルコリン(PC)のsn-2位からの脂肪酸のエステル分解活性及びコレステロールの3-ヒドロキシ基への転移、並びにこの反応の逆反応を触媒する酵素である[1、2]。この酵素は、血清中のコレステロールエステル合成、高密度リポタンパク(HDL)の構造的成熟、並びにコレステロールの逆輸送において、重要である[3、4]。」 (c)(第128ページ右欄第8行?第128ページ左欄第11行) 「この目的のために、我々は慣用のハイブリドーマ法を用いて、精製されたレシチン-コレステロール アシルトランスフェラーゼに対して作成されたモノクローナル抗体(B_(10))を用いた。」 3.対比 引用例の記載事項(a)?(c)から、引用例には「標準的なハイブリドーマ法を用いて、精製されたヒトレシチン-コレステロール アシルトランスフェラーゼに対して作成されたモノクローナル抗体(B_(10))。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 本願の請求項1に係る発明のうち、(抗体フラグメントではなく全体の)抗LCAT抗体を選択した発明(以下、「本願発明」という。)と、上記引用発明とを対比すると、後者の「レシチン-コレステロール アシルトランスフェラーゼ」の略称が「LCAT」であることは明らかである。 したがって、両者は「ヒト由来LCATに反応する、抗LCAT抗体。」である点で一致するが、本願発明の抗体が、ヒト由来LCATの部分配列である、配列番号1?5のいずれか1の配列を認識するものであるのに対し、引用発明の抗体は配列番号1?5のいずれか1の配列を認識するものかどうかが特定されていない点で、両者は相違する。 4.判断 ヒト由来LCATが血清中のコレステロールエステル合成、高密度リポタンパク(HDL)の構造的成熟、並びにコレステロールの逆輸送において重要な役割を果たしていることは、引用例の記載事項(b)に記載されるとおり公知であり、ヒト由来LCATのアミノ酸配列も当業者に周知である(例えば、Proc.Natl. Acad. Sci. USA, 1986, Vol.83, p.2335-2339等参照)。 そして、一般に、生体において重要な役割を果たすタンパク質について研究するため、その解析、存在部位の確認、定量、機能解析又は精製などに有用である、当該タンパク質に特異的な抗体を作成することは、当業者に自明の課題であり、またそのために当該タンパク質の全長、あるいは適当な部分断片を抗原として特異的抗体を作成する方法も、当業者に周知の技術である(例えば、富山,安藤編,「単クローン抗体マニュアル」,株式会社講談社,1991年,p.175-177等参照)。 してみれば、当業者に周知の技術に基づき、ヒト由来LCATに特異的な複数の抗体を作成することは、当業者が容易になし得たことである。 そして、本願配列番号1?5のアミノ酸配列を認識する抗体も、全長のヒト由来LCATを認識するものであるから、引用発明に基づき、上記の周知技術を用いて作成されうる複数の抗体に含まれるものにすぎない。 そして、「本願配列番号1?5のアミノ酸配列を認識する」抗体であると特定する本願発明の奏する効果について、本願明細書を参酌すると、 (ア)本願実施例1で得られた抗体の、LCAT部分ペプチド及び全長LCATに対する結合能力の確認試験の結果(試験例1、表1)、 (イ)サンドイッチELISA法によるヒト由来LCATの定量及びLCT活性に基づく従来法との相関性の検討(実施例3)、 (ウ)ウサギ血清中のLCATの検出(試験例2)、配列番号1?5のペプチドを用いた、抗LCATポリクローナル抗体の調製(実施例4)、並びに (エ)ウシ膵臓、ブタ膵臓及びミツバチ毒由来のホスホリパーゼA2に対して、実施例1で得られた抗体が反応しないことの確認(試験例3) が記載されている。 しかしながら、(ア)について、そもそもLCATに対する特異的抗体をスクリーニングするのであるから、スクリーニングされた抗体が全長LCATに対する結合能力を有するのは当然のことである。 また、本願明細書の表1によれば、ペプチド6(配列番号4)に結合する抗体(ペプチド6との結合を示す値は2.275)は、全長LCATとも同様に強く結合するが(同1.967)、その他のペプチドと結合する抗体は、全長LCATとの結合を示す値が0.329?0.901と、ペプチド6に結合する抗体の半分から6分の1以下の値を示すに過ぎず、抗体によって全長LCATとの親和性に相当のばらつきがあり、必ずしもそのすべてが全長LCATと格別顕著な親和性を示すものとはいえない。 したがって、上記の結果から、配列番号1?5のいずれかの配列を認識する抗体を選択したことによって、格別顕著な効果があったとはいえない。 また、上記(イ)について、ヒト由来LCATに特異的な抗体を用いれば、サンドイッチELISA法によるヒト由来LCATの定量が高感度でできることは、当然予測されることであり、格別顕著な効果とはいえない。 さらに、上記(ウ)について、配列番号1?5のいずれかの配列を認識する抗体そのものの効果が示されているわけではなく、当該を選択したことによって、格別顕著な効果があったとはいえない。 上記(エ)についても、ヒトなどのホスホリパーゼA_(2)が、アミノ酸配列レベルでヒト由来LCATと部分的にも同一性を有しているという知見はなく、また引用例の抗体が認識するエピトープは、440アミノ酸からなるヒト由来LCATに存在すると予想される複数のエピトープのうちの一つに過ぎないものであるから、引用例に基づいて作成される抗体が、ホスホリパーゼA_(2)を認識する蓋然性はそもそも低いものといえる。 したがって、上記(エ)の効果は、当業者が予測しうる程度のものであり、格別顕著なものとは認められない。 よって、本願明細書の記載を参酌しても、本願発明が配列番号1?5のいずれかの配列を認識する抗体であることにより、格別顕著な効果が奏されるものとはいえない。 以上より、本願発明は、当業者が引用例及び周知技術に基づいて、容易に発明することができたものである。 5.請求人の主張 これに対して請求人は、審判請求書の請求の理由についての、平成22年4月13日付け手続補正書において、以下の(あ)?(う)の主張をし、また平成24年5月7日の回答書において、以下の(え)及び(お)の主張をしている。 (あ)引用例の記載を勘案すれば、一般的な手法でLCATの酵素活性を阻害する抗体を取得する場合には、ホスホリパーゼA_(2)をも認識する抗LCAT抗体が得られる蓋然性が高い。 (い)引用例には、本願発明の如く、ホスホリパーゼA_(2)を認識せず、「ヒト由来LCATに対して高い結合特異性を有する抗LCAT抗体」という課題(動機付け)は全く存在しない。 (う)引用例には、本願発明の配列番号1?5のアミノ酸配列からなる部分が、LCATを特異的に認識し、かつホスホリパーゼA_(2)を認識しない抗体が結合するエピトープとなり得ることに関しては、これを示唆する記載は全くない。 (え)抗体を用いてLCATを定量する方法の研究が、少なくとも1977年からされていた中において、本願出願前において、LCATを放射性同位体を用いることなく、特異的に定量できる系の構築は成し遂げられていなかった。ヒト由来LCATに対するモノクローナル抗体は、引用例(1986年)のB_(10)が唯一報告されていただけであり、このB_(10)はLCATだけでなくホスホリパーゼA_(2)をも認識してしまうもので、特異的な抗体とは言いがたく、LCATを特異的に定量することはできないものである。 (お)特開平11-310537号公報の段落〔0047〕に於いて、「親水性の高い部位の探索にはHopp&Woodsらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:3824(1981)]などを用いて解析しているが、あらゆるタンパク質にあてはまるとは限らない。」と記載されているように、当該方法があらゆる蛋白質に有用とはいえず、所期の目的が達成できるか否か当業者でも容易に予測できるものではなく、多くの実験を待たなければ判明し得ない。 以下、上記主張について検討する。 (上記(あ)について) 上記「4.判断」で問題としているのは、ヒト由来LCATを特異的に認識する抗体を得ることの容易性であり、「LCATの酵素活性を阻害する抗体」の取得はこれとは無関係であるから、上記主張は当を得ないものである。 また、上述のとおり、ヒト由来LCATには、引用例の抗体が認識するエピトープ以外にも多くのエピトープが存在するといえることなどから、ヒトLCATに特異的な抗体はホスホリパーゼA_(2)と交差反応性がある蓋然性は低いものである。 よって、上記(あ)の主張は採用できない。 (上記(い)について) 上記4.でも述べたとおり、「ヒト由来LCATに対して高い結合特異性を有する抗LCAT抗体」という課題は自明の課題であるといえる。 よって、上記(い)の主張は採用できない。 (上記(う)について) 上述のとおり、本願発明の抗体は、引用例に基づいて容易に作成されうる、多数の抗体の幾つかであり、それらが結合するエピトープのアミノ酸配列により特定したに過ぎず、配列番号1?5のアミノ酸配列について引用例に個別の記載や示唆がなくとも、当業者が容易に発明できたものである。 よって、上記(う)の主張は採用できない。 (上記(え)について) 本願発明を妨げる明確な阻害事由や、本願発明が奏する格別顕著な効果が認められない以上、今までそのような抗体がなかったことのみをもって、進歩性を肯定することはできない。 よって、上記(え)の主張は採用できない。 (上記(お)について) 請求人が挙げた特開平11-310537号公報の段落番号【0047】は、タンパク質に対する特異的抗体を作成する際に抗原として用いる、当該タンパク質の部分ペプチドを選択するための周知の方法である、Hopp&Woodsらの方法を適用した場合に、例外的な結果があることを記載したに過ぎず、そのような例外があったとしても、当該方法を用いることを妨げるものとはいえない。 また、上述のとおり、当業者はヒト由来LCATに特異的な抗体を得るために、全長ヒト由来LCATや、Hopp&Woodsらの方法以外の周知の方法によって選択されたヒト由来LCATの部分ペプチドを抗原として用いることもできるから、上記主張をもって本願発明の進歩性を肯定することはできない。 6.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-08-15 |
結審通知日 | 2012-08-21 |
審決日 | 2012-09-03 |
出願番号 | 特願2000-1998(P2000-1998) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鶴 剛史、長井 啓子 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 新留 豊 |
発明の名称 | 抗LCAT抗体及びLCATの測定方法 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 有賀 三幸 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 山本 博人 |