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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1264810
審判番号 不服2010-26761  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-29 
確定日 2012-10-17 
事件の表示 特願2006-536520「コレステリック液晶光学体、ならびに製造および使用の方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月10日国際公開、WO2004/077106、平成20年 6月 5日国内公表、特表2008-519288〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2004年 1月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年 2月24日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成21年10月28日付けで拒絶理由が通知され、それに応答して、平成22年 5月 7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年 7月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月29日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成23年10月 7日付けで審尋がなされ、それに応答して、平成24年4月10日付けで回答書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成22年11月29日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)

「 【請求項1】
光学体を製造する方法であって、
第1のコレステリック液晶組成物と、第2のコレステリック液晶組成物と、溶媒とを含む1つの混合物を、基材上にコーティングする工程であって、前記第1のコレステリック液晶組成物が前記第2のコレステリック液晶組成物と異なる工程と、
前記混合物から前記溶媒の少なくとも一部を除去して、前記混合物から前記基材上に配置された第1の層および前記第1の層上に配置された第2の層を形成する工程と
を含み、前記第1の層が前記第1のコレステリック液晶組成物の大部分を含み、前記第2の層が前記第2のコレステリック液晶組成物の大部分を含む、方法。」

3 先願及び先願明細書に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前の他の出願(以下「先願」という。)であって、その出願後に出願公開された特願2003-2866号(特開2004-212911号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」という。)には、つぎの(1)?(4)に示す事項及び図面が記載されている(下線は当審で付した。)。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 コレステリック液晶ポリマーを溶媒に溶解した溶液を、配向基材上に塗布する工程、
当該コレステリック液晶ポリマーのコレステリック螺旋軸が前記配向基材面に対し垂直方向になるように配向させる工程、および、
前記配向による液晶状態を維持しながら乾燥成膜する工程を有するコレステリック液晶フィルムの製造方法であって、
コレステリック液晶ポリマーとして、溶媒不存在下において非相溶性であり、かつ捻れピッチ長が異なる、2種以上のコレステリック液晶ポリマーの混合物を用いることを特徴とする広帯域コレステリック液晶フィルムの製造方法。
【請求項2】 2種以上のコレステリック液晶ポリマーが、いずれも重合性ネマチック剤(a)および重合性カイラル剤(b)を含む液晶組成物から得られるポリマーであって、
それぞれのコレステリック液晶ポリマーは、重合性ネマチック剤(a)と重合性カイラル剤(b)の組成比が異なり、
かつコレステリック液晶ポリマーの少なくとも1つには、結晶性成分がブロック体として導入されていることを特徴とする請求項1記載の広帯域コレステリック液晶フィルムの製造方法。
【請求項3】 請求項1または2記載の製造方法により得られる広帯域コレステリック液晶フィルムであって、当該コレステリック液晶フィルムは、
コレステリック液晶ポリマーの混合物が、コレステリック液晶ポリマーとして、溶媒不存在下において非相溶性であり、かつ捻れピッチ長が異なる、2種以上のコレステリック液晶ポリマーであることから、
各々のコレステリック液晶ポリマーが相分離構造を形成し、捻れピッチ長の異なる微小領域を各々固定化していることを特徴とする広帯域コレステリック液晶フィルム。
(以下省略。)」

(2)「 【0034】
(作用効果)
以上のように、本発明のコレステリック液晶フィルムの製造方法は、コレステリック液晶ポリマーまたはコレステリック液晶ポリマーを形成する重合性の液晶組成物として、非相溶性であり、かつ捻れピッチ長の異なる2種以上のものを用いることで、これらが溶媒揮発時または硬化時において、相分離構造を形成し、捻れピッチ長の異なる微小領域を各々固定化したコレステリック液晶層を形成したものである。このように本発明のコレステリック液晶フィルムは、コレステリック液晶層を形成する材料の相溶性の悪さから、当該液晶層が相分離構造を有するとともに、各相の捻れピッチ長が異なることで、微小領域において各々異なる選択反射中心波長を有する広帯域化を実現している。かかる手法によれば、従来の手法よりコレステリック液晶層の厚みを低減することができる。また、製造工程数の低減でき、積層枚数の低減できることから、簡易かつ低コストで、コレステリック液晶フィルムを製造することができ、ライン速度の向上により、生産速度の向上を図ることができる。
【0035】
得られたコレステリック液晶フィルムは、広帯域で円偏光の選択反射機能を有し、円偏光板として有用であり、当該広帯域円偏光板にはλ/4板や吸収型偏光子を組み合わせることで広帯域直線偏光子を得ることができる。
【0036】
【発明の実施の形態】
本発明の広帯域コレステリック液晶フィルムの製造方法(1)では、コレステリック液晶フィルムの形成材として、コレステリック液晶ポリマーを溶媒に溶解した溶液を用いる。コレステリック液晶ポリマーとしては、溶媒不存在下において非相溶性である2種以上を用いる。「非相溶性」は、溶媒不在の環境下では混合せずに相分離構造を形成するものである。非相溶性のコレステリック液晶ポリマーは、たとえば、コレステリック液晶ポリマーを形成するモノマーの種類等を適宜に変えることにより、非相溶性とすることができる。また、コレステリック液晶ポリマーは、捻れピッチ長が異なる2種以上を用いる。捻れピッチ長は、コレステリック液晶ポリマーに導入されるカイラル成分の含有量により適宜に調整される。」

(3)「 【0062】
前記コレステリック液晶ポリマー混合物の溶液は、配向基材上に塗布する工程、当該コレステリック液晶ポリマーのコレステリック螺旋軸が前記配向基材面に対し垂直方向になるように配向させる工程、前記配向による液晶状態を維持しながら乾燥成膜する工程を施す。
【0063】
上記溶液の、配向基材上への塗布方法は特に限定されず、バーコーター、スピナー、ロールコーターなどの適宜な塗工機にて行うことができるが、キャスト法が成膜面の品質から好適である。
【0064】
配向基材としては、従来知られているものを採用できる。たとえば、基板上にポリイミドやポリビニルアルコール等からなる薄膜を形成して、それをレーヨン布等でラビング処理したラビング膜、斜方蒸着膜、シンナメートやアゾベンゼンなど光架橋基を有するポリマーあるいはポリイミドに偏光紫外線を照射した光配向膜、延伸フィルムなどが用いられる。その他、磁場、電場配向、ずり応力操作により配向させることもできる。
【0065】
なお、前記基板としては、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ノルボルネン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンやポリエーテルスルホン等のプラスチックからなるフィルム、ガラス板、石英シートが用いられる。
【0066】
前記配向は、コレステリック液晶ポリマーの液晶転移温度以上で行う。配向温度、時間はコレステリック液晶ポリマーの種類に応じて適宜に決定される。
【0067】
前記コレステリック液晶ポリマーは、配向による液晶状態を維持しながら乾燥成膜する。乾燥温度としては、溶媒の沸点以上の温度であればよい。乾燥成膜は前記配向工程とともに、行うことができる。乾燥成膜を前記配向工程とともに、行う場合には、溶媒およびコレステリック液晶ポリマーの種類に応じて温度を設定する。
【0068】
広帯域コレステリック液晶フィルムの製造方法(2)では、重合性ネマチック剤(a)および重合性カイラル剤(b)を含む液晶組成物を用いる。当該液晶組成物は、少なくとも1種の重合性ネマチック剤(a)および少なくとも2種の重合性カイラル剤(b)を含有する液晶組成物、または、少なくとも2種の重合性ネマチック剤(a)および少なくとも1種の重合性カイラル剤(b)を含有する液晶組成物であり、かつ、前記液晶組成物は、配向時において、非相溶性であり、かつ捻れピッチ長の異なる2成分以上の液晶組成物となるものである。
【0069】
重合性ネマチック剤(a)および重合性カイラル剤(b)は前記と同様のものを使用できる。液晶組成物は、これら成分の種類等を適宜に変えることにより、非相溶性とすることができる。また、重合性カイラル剤(b)の使用量により、捻れピッチ長を異なるものとすることができる。重合性カイラル剤(b)の使用量は前記と同様の範囲で調整される。
【0070】
前記液晶組成物には、配向基材上に塗布する工程、液晶組成物のコレステリック螺旋軸が前記配向基材面に対し垂直方向になるように配向させる工程、前記配向による液晶状態を維持しながら光または熱重合により硬化成膜する工程を施す。配向基材上への塗布方法、配向方法は、製造方法(1)と同様の方法を採用することができる。
【0071】
光または熱重合により硬化成膜する工程は、従来各種方法により行うことができる。光重合硬化は、配向基材上に塗布、配向した液晶組成物に紫外線等の放射線を照射することにより行う。前記液晶組成物を紫外線硬化する場合には光重合開始剤が含まれる。光重合開始剤は各種のものを特に制限なく使用できる。光重合開始剤としては、たとえば、チバスペシャルティケミカルズ社製のイルガキュア(Irgacure)907,同184、同651、同369などを例示できる。また、熱重合硬化は、配向基材上に塗布、配向した液晶組成物に加熱処理を施すことにより行う。熱硬化する前記液晶組成物には、通常、熱重合開始剤が含まれる。
【0072】
本発明のコレステリック液晶フィルム(溶液の場合は溶媒乾燥後の塗布厚み)の厚みは特に規定する物ではないが、通常0.5?20μm、望ましくは1?10μmである。塗布厚が薄いと光学的効果が少なく、また塗布厚が厚いと配向しにくくなるためである。
【0073】
本発明で得られるコレステリック液晶フィルムは、各々のコレステリック液晶ポリマー(製造方法(2)では、液晶組成物から得られた硬化物)が相分離構造を形成して広帯域化しており、捻れピッチ長の異なる微小領域を各々固定化している。したがって、コレステリック液晶フィルムの相分離構造として、厚み方向に2種以上の捻れピッチを持つ層が存在する場合には、1層のコレステリック液晶フィルムで十分な偏光度を得ることができる。かかるコレステリック液晶フィルムは、多層積層品と等価であるからである。
【0074】
一方、コレステリック液晶フィルムの相分離構造として、厚み方向に1種の捻れピッチしか存在せず、異なるピッチは隣接する横方向にのみ存在する場合には、かかる1層のコレステリック液晶フィルムの相分離構造として、厚み方向に2種以上の捻れピッチを持つ層を1回透過/反射するだけでは十分な偏光度を得ることはできない。1回の透過/反射では1ピッチ分の影響しか受けず、その選択反射域外の光線は偏光分離を受けていないからである。このような場合には2層以上の積層を行うことで偏光度の向上を得ることができる。積層品は同一品の積層でも、各々異なる組成の成分で作製したコレステリック液晶フィルムの積層でも良い。同一品であっても相分離構造が全く同一形状を再現することはないので積層品の厚み方向に同一ピッチの構造が連続して重なり続ける可能性は低いからである。」

(4)「 【0113】
得られたコレステリック液晶フィルムの偏光顕微鏡写真(50倍)を、図1に示す。偏光板を回転させて観察したところ、連続相、分離層がそれぞれ均一に一様に変化しており、相分離構造を確認した。
【0114】
コレステリック液晶フィルムは捻れピッチ長の異なる微小領域を有しており、連続相の捻れピッチ長は370nm、分離層の捻れピッチ長は280nmであった。なお、捻れピッチ長はTEM(透過型電子顕微鏡)にて断面撮像により測定される。」

上記摘記事項(1)?(4)を含む先願明細書全体の記載からは、先願明細書にはつぎの発明(以下、これを先願発明という。)が記載されていると認められる。

「コレステリック液晶ポリマーを溶媒に溶解した溶液を、配向基材上に塗布する工程、
当該コレステリック液晶ポリマーのコレステリック螺旋軸が前記配向基材面に対し垂直方向になるように配向させる工程、および、
前記配向による液晶状態を維持しながら溶媒の沸点以上の乾燥温度で乾燥成膜する工程を有するコレステリック液晶フィルムの製造方法であって、
コレステリック液晶ポリマーとして、溶媒不存在下において非相溶性であり、かつ捻れピッチ長が異なる、2種以上のコレステリック液晶ポリマーの混合物を用い、各々のコレステリック液晶ポリマーが相分離構造を形成して広帯域化しており、捻れピッチ長の異なる微小領域を各々固定化している、広帯域コレステリック液晶フィルムの製造方法。」

4 対比
そこで、本願発明と先願発明とを対比すると、本願発明の「光学体」が実質は「コレステリック液晶を含有する光学体」(本願明細書の【0001】参照。)であり、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているのは、もっぱら「コレステリック液晶偏光子」の製造方法のみであるから、先願発明の「コレステリック液晶フィルムの製造方法」は、本願発明の「光学体を製造する方法」に相当する。
先願発明の「コレステリック液晶ポリマーを溶媒に溶解した溶液を、配向基材上に塗布する工程」「コレステリック液晶ポリマーとして、溶媒不存在下において非相溶性であり、かつ捻れピッチ長が異なる、2種以上のコレステリック液晶ポリマーの混合物を用い」は、本願発明の「第1のコレステリック液晶組成物と、第2のコレステリック液晶組成物と、溶媒とを含む1つの混合物を、基材上にコーティングする工程であって、前記第1のコレステリック液晶組成物が前記第2のコレステリック液晶組成物と異なる工程」に相当する。
先願発明の「(前記)配向による液晶状態を維持しながら溶媒の沸点以上の乾燥温度で乾燥成膜する」は、本願発明の「前記混合物から前記溶媒の少なくとも一部を除去し」に相当する。
「層」は領域の一形態であるから、先願発明と本願発明は、「(前記)混合物から(前記)基材上に配置された第1の領域および第2の領域を形成する工程」の点で一致する。
先願発明の「各々のコレステリック液晶ポリマーが相分離構造を形成して広帯域化しており、捻れピッチ長の異なる微小領域を各々固定化している」は、「各々のコレステリック液晶ポリマー」が「捻れピッチ長が異なる、2種以上のコレステリック液晶ポリマー」であって、「相分離構造」の連続相の捻れピッチと分離層の捻れピッチが異なるものなのであるから(上記3(4)【0114】参照。)、本願発明の「(前記)第1の層が(前記)第1のコレステリック液晶組成物の大部分を含み、(前記)第2の層が(前記)第2のコレステリック液晶組成物の大部分を含む」において「層」を「領域」に置き換えたものに相当する。
したがって、本願発明と先願発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「光学体を製造する方法であって、
第1のコレステリック液晶組成物と、第2のコレステリック液晶組成物と、溶媒とを含む1つの混合物を、基材上にコーティングする工程であって、前記第1のコレステリック液晶組成物が前記第2のコレステリック液晶組成物と異なる工程と、
前記混合物から前記溶媒の少なくとも一部を除去して、前記混合物から前記基材上に配置された第1の領域および第2の領域を形成する工程と
を含み、前記第1の領域が前記第1のコレステリック液晶組成物の大部分を含み、前記第2の領域が前記第2のコレステリック液晶組成物の大部分を含む、方法。」

[形式上の相違点]
本願発明では、領域は「層」であり、かつ、「第2の層」は「第1の層上に配置された」ものであるのに対し、先願発明では、「捻れピッチ長の異なる微小領域を各々固定化」している「相分離構造を形成して」いる点

5 当審の判断
上記形式上の相違点について検討する。
本願の図1、図3に示されたような、第1の層と第2の層が共に横方向に広がっており、厚み方向の断面をとったとき、どの断面で観察しても第1の層の上に第2の層が存在する二層構造を、以下「横方向に連続した二層の構造」というものとする。先願発明の製造方法により得られたものが、横方向に連続した二層の構造ではなく、微小領域である連続相と分離層(請求人のいう「分離相」。以下同様。)が均一に一様に散在する構造でしかないとしても、先願明細書の段落【0073】の「コレステリック液晶フィルムの相分離構造として、厚み方向に2種以上の捻れピッチを持つ層が存在する場合」との記載からして、基材から厚み方向にそれぞれ異なる距離に、ある層(例えば捻れピッチ長が370nmの連続相の領域)と別の層(例えば捻れピッチ長が280nmの分離層の領域)の少なくとも二つの層が存在する断面が必ずあるはずである。すなわち、少なくとも当該断面とその近傍では、ある層の上に別の層が存在するのであり、局所的な二層(又は多層、以下同様。)構造をなしており、「第1の層上に配置された」「第2の層」があるといえるのである。

さらに、「連続相、分離層がそれぞれ均一に一様に変化」する(上記3(4)の【0113】参照。)ところ、「均一に一様に」は技術常識から、完全な均一又は一様を意味しているとまでは考えられない(なお、先願の図1は均一、一様の程度が判別できるほどには明瞭でない。)ことからすると、いくつかの断面を取った場合、そのうちの複数の断面で上記のような二層構造が観察され、その隣の断面では二層構造は観察されない場合(上記3(3)の【0074】の下線部参照。)もあるだろうが、逆に、隣接した複数の断面に亘って二層構造が観察される場合もあるであろう。このように、先願発明の製造方法により得られるコレステリック液晶フィルムは、捻れピッチ長の異なる微小領域を各々固定化している相分離構造を形成している、「厚み方向にも2種以上の捻れピッチを持つ層が存在する」ところと「厚み方向に1種の捻れピッチしか存在せず、異なる(捻れ)ピッチは隣接する横方向にのみ存在する」ところとが混在する、部分的に二層のコレステリック液晶フィルムである(以下、上記のような構造を「部分的に二層の構造」という。)。
ところで、本願請求項1の記載を仔細に点検すると、「(前記)混合物から(前記)溶媒の少なくとも一部を除去して、前記混合物から前記基材上に配置された第1の層および前記第1の層上に配置された第2の層を形成する工程」において、光学体が横方向に連続した二層の構造になるための製造条件を特定しているとみられる事項はないのであるから、本願請求項1に係る発明が、本願図1、図3等に示されたような横方向に連続した二層の構造を製造する方法に限定されているということはできない。すなわち、部分的に二層の構造の光学体の製造方法が本願請求項1の記載から規定される範囲から外れているということはできず、むしろ、部分的に二層の構造の光学体の製造方法は本願請求項1に係る発明の範囲に含まれると解するのが相当である。そうであれば、本願発明と先願発明とは同一であるというほかはない。

なお、先願明細書の段落【0073】の「1層のコレステリック液晶フィルムで十分な偏光度を得ることができる」との記載や「かかるコレステリック液晶フィルムは、多層積層品と等価である」との記載は、請求人がいうように、先願の出願人が先願発明の製造方法により得られたものは「一層構造」であると認識していたことを示唆しているものかも知れない。
しかし、仮に先願の出願人が先願発明の上記のような構造を「一層構造」と認識し、あるいは「一層構造」に分類していたとしても、そのことをもって、先願発明の製造方法により得られたものが上記のような部分的に二層の構造であったことが否定されるわけではなく、また、先願発明の製造方法が本願請求項1に係る発明の範囲に含まれないことを意味するわけでもない。

6 むすび
したがって、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-16 
結審通知日 2012-05-22 
審決日 2012-06-04 
出願番号 特願2006-536520(P2006-536520)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 慎平  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 金高 敏康
清水 康司
発明の名称 コレステリック液晶光学体、ならびに製造および使用の方法  
代理人 永坂 友康  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 加藤 憲一  
代理人 小林 良博  

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