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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1264818
審判番号 不服2011-3028  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-09 
確定日 2012-10-18 
事件の表示 特願2004-142992「定着装置および画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月24日出願公開、特開2005-326524〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成16年5月13日の出願であって、平成21年9月28日及び平成22年7月30日付けで手続補正がなされ、平成22年7月30日付け手続補正が同年11月1日付けで却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年2月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、平成23年2月9日付け手続補正が平成24年4月27日付けで却下され、同日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月29日付けで手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成24年6月29日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載の事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、平成24年6月29日付け手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。
「定着ベルトと、
該定着ベルトと対向して定着ニップを形成する加圧回転体と、
前記定着ニップ以外の位置にて局所的に前記定着ベルトを電磁誘導による誘導方式で加熱する加熱源とを有し、前記定着ニップで記録材上の未定着画像を定着する定着装置において、
前記加圧回転体を前記定着ベルトより離すための加圧回転体接離機構を有し、
前記加圧回転体接離機構は、前記定着ニップの下流側に支点を、前記定着ニップの上流側に力点を有する加圧レバーを備え、該加圧レバーは、前記支点と前記力点との間で前記加圧回転体を支え、
立上り時においては、前記加圧回転体を前記定着ベルトより離間した状態で前記定着ベルトを回転しながら前記定着ベルトを加熱し、前記定着ベルトが所定の温度になってから前記加圧回転体を前記定着ベルトに加圧接触させる定着装置であって、
前記加圧回転体を前記定着ベルトより離間した状態で前記定着ベルトが所定の温度に達するまで加熱回転を実施する立ち上がり第一モードと、その後前記加圧回転体を前記定着ベルトへ接触させて加熱回転する立ち上がり第二モードとの二段階の回転モードを経て立ち上がりが完了することを特徴とする定着装置。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
当審拒絶理由で引用した「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-311745号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)「【請求項1】 周回可能な無端状周面を有し、該周面が未定着トナー像を担持した記録媒体に当接される加熱定着体と、
前記加熱定着体の周面を加熱する加熱装置と、
前記加熱定着体に当接され、該加熱定着体の周面の幅方向にほぼ均等な力で押圧される加圧部材とを有し、
前記加熱定着体と前記加圧部材との間に送り込まれる記録媒体上の未定着トナー像を、加熱及び加圧して該記録媒体に定着する定着装置であって、
前記加熱定着体は、該加熱定着体の周面に沿って導電性層を有するものであり、
前記加熱装置は、電磁誘導電流によって前記導電性層を発熱させるものであり、
定着動作開始前のウォームアップ時に前記加熱装置によって前記加熱定着体の表面温度が所定の温度に加熱されるまで、該加熱定着体が、定着動作中に回転する速度より遅く回転することを特徴とする定着装置。
【請求項2】 前記加熱定着体は、ロール状部材であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】 前記加熱定着体は、無端状ベルトであることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】 前記加圧部材は、定着動作開始前のウォームアップ時に前記加熱装置によって前記加熱定着体の表面温度が所定の温度に加熱されるまで、該加熱定着体から離間していることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。」

(2)「【0002】
【従来の技術】一般に、粉状のトナーを用いる画像形成装置においてトナー像を定着する工程は、トナー像を記録媒体上に静電的に転写した後、定着装置によってトナー像を記録媒体に溶融圧着する方法が広く採用されている。
【0003】この定着装置は、定着ロール又は無端状の定着ベルトと、該定着ロール又は定着ベルトに圧接された加圧部材とで構成されている。そして、定着ロール又は定着ベルトと加圧部材との間に、未定着トナー像を担持した記録媒体を挟み込んで加熱押圧し、トナー像を記録媒体に融着させて定着画像を形成する。
【0004】上記定着ロールは、一般に、芯金の内部にハロゲンランプ等の発熱体が配置されており、該芯金の表面に弾性層及び離型層が設けられている。そして、この発熱体の熱が芯金及び表面の各層に伝達し、定着ロールの表面がトナー像を加熱溶融するのに適切な温度となる。また、上記定着ベルトは、耐熱性を有する基層の上に離型層が設けられており、テンションフリーの状態で支持されたり、複数のロールによって張架されている。そして、この定着ベルトは、該定着ベルトの内側に備えられたハロゲンランプ等を内蔵する加熱源によって加熱される。
【0005】しかし、上記のようにハロゲンランプ等の発熱体を加熱源として用いる場合、該発熱体に電力を投入後、発熱体の熱が定着ロール又は定着ベルト等の定着部材の表面に伝達し、該定着部材が所定の温度に達するまでに時間を要する。また、定着部材と加圧部材とが接触しているため、該定着部材の熱が加圧部材へ伝達する。このため、装置の起動時や待機状態から復帰する時に定着部材のウォーミングアップに時間がかかり、消費電力が大きくなってしまう。
【0006】このような事情から、定着部材を加熱する手段として、定着部材に導電性層を設け、電磁誘導加熱装置によって導電性層を発熱させるものが提案されている電磁誘導加熱は、導電性層に変動磁界を発生する励磁コイルを対向配置し、導電性層を貫通する磁束を発生させることにより、導電性層に渦電流が生じ発熱するものである。
【0007】上記定着部材は、回転又は周回移動によって電磁誘導加熱装置の加熱領域を通過する際、該定着部材が有する導電性層が加熱される。電磁誘導加熱によれば、極めて短い時間で導電性層を発熱させることができ、定着部材を直接加熱することができる。このため、加熱源としてハロゲンランプ等の発熱体を用いる場合に比べ、効率良く装置のウォーミングアップを行うことができる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記電磁誘導加熱を用いた定着装置にも、次のような事情がある。電磁誘導加熱を用いた定着装置では、短い時間で定着部材の温度を上昇させることができるが、定着時に電磁誘導加熱装置に供給する電力量のピークを抑えるために、装置の起動時や待機状態から復帰する時に定着部材の温度を瞬時に定着可能温度温度まで上昇させることができない場合がある。このような場合には、定着部材を周回駆動しながら徐々に定着に必要な温度まで加熱していく。このようなウォーミングアップ時に、定着部材は電磁誘導加熱装置との対向位置を通過する毎に徐々に加熱される。ところが、加熱された定着部材が周回する間に放熱が生じ、電磁誘導加熱装置との対向位置を通過した後、次に加熱されるまでに温度が低下してしまう。また、加圧部材との圧接部を通過する際に、定着部材の有する熱が加圧部材に移動してしまう。このため、効率よくウォーミングアップを行い、消費電力を低減するためには、上記放熱及び熱移動を小さくする必要がある。
【0009】本願発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電磁誘導加熱装置を用いた定着装置において、装置のウォーミングアップ時における定着ロール又は定着ベルトからの放熱、及び他の部材への熱移動を抑え、ウォーミングアップ時間を短縮し、消費電力を低減することである。」

(3)「【0023】次に、上記定着装置の動作について説明する。上記定着ロール1及び加圧ロール2は、それぞれ図示しない駆動モータにより回転しており、該定着ロール1は、電磁誘導加熱装置3の加熱領域を通過するときに加熱される。このとき加熱領域では、励磁回路から励磁コイルに交流電流が供給されており、定着ロール1の導電性を有する円筒状芯金1aに渦電流が発生し発熱する。これにより、円筒状芯金1a及び表面離型層1bは、トナー像の定着を行うことができる温度まで加熱される。そして、定着ロールと加圧ロールとの圧接部に未定着トナー像を担持した記録紙Pが送り込まれ、トナー像は加熱溶融されて記録紙Pに圧着し、定着画像が形成される。【0024】上記定着装置は、起動時及び待機中などで定着動作を開始する前に、トナー像を加熱溶融するのに適した温度まで定着ロール1を予め加熱しておく、いわゆるウォーミングアップを行う。つまり、電磁誘導加熱装置3との対向位置を一度通過するだけでは、トナー像の定着に必要な温度まで加熱することができず、予め定着ロール1の温度を上昇させておく。このとき、定着ロール1は通常の定着動作時より遅い速度で回転しており、加圧ロール2は定着ロール1から離間している。定着ロール1は電磁誘導加熱装置3によって加熱された後、加圧ロール2と接触することなく、該加圧ロール2と対向する位置を通過する。このため、定着ロール1から加圧ロール2に熱が伝達するのを防止できる。また、定着ロール1の表面と周囲の空気とが接触する速度が遅くなるため、定着ロール1から空気へ放射される熱量が抑えられる。このため、定着ロール1は短い時間で定着に必要な所定の温度に達し、ウォーミングアップの時間を短縮することができる。また、電磁誘導加熱装置3への供給電力量を低減することができる。」

(4)「【0026】次に、請求項1、請求項3及び請求項4に係る発明の一実施形態である定着装置を図3に基づいて説明する。この定着装置は、駆動ロール11と、この駆動ロール11と平行に支持された支持ロール12と、該支持ロール12と駆動ロール11とに張架された定着ベルト13と、この定着ベルト13を介して駆動ロール11に圧接される加圧ロール14と、定着ベルト13の内周面に沿って設けられた電磁誘導加熱装置15と、記録紙Pを定着ベルト13と加圧ロール14との間に送り込むための搬送ガイド16と、離型剤塗布ロール17とで構成されている。
【0027】上記定着ベルト13は、駆動ロール11の駆動にともなって周回移動しており、電磁誘導加熱装置15と対向する加熱領域を通過するときに加熱される。そして、定着ベルト13と加圧ロール14との間に未定着トナー像を担持した記録紙Pが送り込まれ、トナー像は記録紙Pに溶融圧着され、定着画像が形成される。なお、上記加圧ロール14及び電磁誘導加熱装置15は、図1に示す定着装置と同様のものが用いられている。」

(5)「【0029】上記定着装置は、図1に示す定着装置と同様に、起動時及び待機状態から定着動作を開始する前に、定着ベルト13の周回速度を遅くし、加圧ロール14を定着ベルト13から離間させてウォーミングアップを行う。このため、定着ベルト13が電磁誘導加熱装置15によって加熱された後、定着ベルト13から加圧ロール14に熱が伝達するのを防止できる。また、該定着ベルト13から空気への放熱量を低く抑えることができる。このため、ウォーミングアップの時間を短縮することができ、ウォーミングアップ時の消費電力を低減することができる。」

(6)「【0036】
【発明の効果】以上説明したように、本願発明によれば、定着装置が起動した時や待機状態から定着動作を開始する前にウォーミングアップを行う時、定着部材の回転速度は通常の定着動作時に比べて遅くなっている。このため、ウォーミングアップ完了までに、加熱された定着部材が加圧部材と接触する回数が減少し、定着部材から加圧部材に伝達する熱量を抑えることができる。また、定着部材が周囲の空気と接する相対速度が遅くなるため、定着部材から空気へ放出される熱量を低減できる。従って、ウォーミングアップ時間を短縮することができるとともに、ウォーミングアップ時の加熱装置への供給電力量を低減することができる。また、ウォーミングアップ時に、加圧部材を定着部材から離間することによって、該定着部材から加圧部材に熱が伝達するのを防止でき、更にウォーミングアップ時間を短縮することができる。」

(7)上記(1)ないし(6)から、引用例には、
「駆動ロールと、該駆動ロールと平行に支持された支持ロールと、該支持ロールと前記駆動ロールとに張架され、前記駆動ロールの駆動にともなって第1の周回速度で周回移動して加熱領域を通過するときに加熱される定着ベルトと、該定着ベルトを介して前記駆動ロールに圧接される加圧ロールと、前記加熱領域に前記定着ベルトの内周面に沿って設けられ、対向する加熱領域の前記定着ベルトを加熱する前記電磁誘導加熱装置と、記録紙を前記定着ベルトと前記加圧ロールとの間に送り込むための搬送ガイドと、離型剤塗布ロールとで構成され、
前記定着ベルトと前記加圧ロールとの間に未定着トナー像を担持した記録紙が送り込まれると、トナー像を記録紙に溶融圧着して定着画像を形成する電磁誘導加熱装置を用いた定着装置において、
定着動作開始前に、定着ベルトを周回駆動しながら徐々に定着に必要な温度まで加熱していくウォーミングアップ時に、定着ベルトは電磁誘導加熱装置との対向位置を通過する毎に徐々に加熱されるが、加熱された定着ベルトが周回する間に放熱が生じ、電磁誘導加熱装置との対向位置を通過した後、次に加熱されるまでに温度が低下してしまい、また、加圧ロールとの圧接部を通過する際に、定着ベルトの有する熱が加圧ロールに移動してしまうため、効率よくウォーミングアップを行い、かつ、消費電力を低減するためには、上記放熱及び熱移動を小さくする必要があるという事情に鑑み、
ウォーミングアップ時における定着ベルトからの放熱及び加圧ロールへの熱移動を抑え、ウォーミングアップ時間を短縮し、消費電力を低減することを目的として、
待機状態から定着動作を開始する際には、定着動作の開始前に、前記加圧ロールを前記定着ベルトから離間させ、かつ、第1の周回速度より遅い周回速度で前記定着ベルトを周回させて定着に必要な温度まで加熱していくウォーミングアップを行うことにより、前記定着ベルトが前記電磁誘導加熱装置によって加熱された後、該定着ベルトから前記加圧ロールに熱が伝達するのを防止するとともに、該定着ベルトから空気への放熱量を低く抑えて、ウォーミングアップの時間を短縮し、ウォーミングアップ時の消費電力を低減するようにした、電磁誘導加熱装置を用いた定着装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「定着ベルト」、「『定着ベルトと、該定着ベルトを介して前記駆動ロールに圧接される加圧ロールとの間』、『加圧ロールとの圧接部』」、「加圧ロール」、「電磁誘導加熱装置によって加熱」、「電磁誘導加熱装置」、「記録紙」、「トナー像」、「定着装置」、「定着ベルトを介して前記駆動ロールに圧接される加圧ロール」、「定着ベルトと前記加圧ロールとの間に未定着トナー像を担持した記録紙が送り込まれると、トナー像を記録紙に溶融圧着して定着画像を形成する」、「『ウォーミングアップ』、『待機状態から定着動作を開始する際』」、「定着に必要な温度まで」、「『周回』させて『加熱』していく」、「定着ベルトを周回させて定着に必要な温度まで加熱していくウォーミングアップ」及び「定着動作が開始する」は、それぞれ、本願発明の「定着ベルト」、「定着ニップ」、「加圧回転体」、「電磁誘導による誘導方式で加熱」、「加熱源」、「記録材」、「未定着画像」、「定着装置」、「定着ベルトと対向して定着ニップを形成する加圧回転体」、「定着ニップで記録材上の未定着画像を定着する」、「立上り」、「所定の温度に達するまで」、「加熱回転を実施する」、「定着ベルトが所定の温度に達するまで加熱回転を実施する立ち上がり第一モード」及び「立ち上がりが完了」に相当する。

(2)引用発明において、「定着ベルト」は「加熱源(電磁誘導加熱装置)」との対向位置を通過する毎に徐々に加熱され、また、「定着ニップ(加圧ロールとの圧接部)」を通過する際に、「定着ベルト」の有する熱が「加圧回転体(加圧ロール)」に移動してしまうのであるから、前記「加熱源」が「定着ベルト」を加熱する場所である加熱領域は、「定着ベルト」の一部分であって、「定着ニップ(加圧ロールとの圧接部)」とは異なる場所であることが当業者に自明である。
したがって、引用発明の「『加熱源』が『定着ベルト』を『電磁誘導による誘導方式で加熱(電磁誘導加熱装置によって加熱)』する場所」と本願発明の「『加熱源』が『定着ベルト』を『電磁誘導による誘導方式で加熱』する場所」とは「『局所的』であって、かつ『定着ニップ以外の位置』」である点で一致する。

(3)引用発明において、「定着装置」は、駆動ロールの駆動にともなって第1の周回速度で周回移動して加熱領域を通過するときに加熱される「定着ベルト」と「加圧回転体(加圧ロール)」との間に未定着トナー像を担持した記録紙が送り込まれると、トナー像を記録紙に溶融圧着して定着画像を形成するものであって、「立上り時(待機状態から定着動作を開始する際)」には、定着動作の開始前に、前記「加圧回転体」を前記「定着ベルト」から離間させ、かつ、第1の周回速度より遅い周回速度で「定着ベルトが所定の温度に達するまで加熱回転を実施する立ち上がり第一モード(定着ベルトを周回させて定着に必要な温度まで加熱していくウォーミングアップ)」を行うものであり、「定着ベルト」は、「加圧回転体」との圧接部を通過するものであり、また、このことからみて、引用発明の「定着装置」は、定着ベルトから「加圧回転体」を離間させたり、「定着ベルト」に「加圧回転体」を圧接させるための機構を有していること、及び、「立ち上がり第一モード」で離間していた「加圧回転体」は「立ち上がりが完了(定着動作が開始する)」時には「定着ベルト」と「加圧回転体」との間でトナー像を記録紙に溶融圧着できるように「定着ベルト」に「加圧回転体」が圧接されて第1の周回速度で周回移動していることが当業者に自明である。
したがって、引用発明の「定着装置」と本願発明の「定着装置」とは「加圧回転体接離機構」を有している点、「立上り時においては、前記加圧回転体を前記定着ベルトより離間した状態で前記定着ベルトを回転しながら前記定着ベルトを加熱し、前記定着ベルトが所定の温度になってから前記加圧回転体を前記定着ベルトに加圧接触させる」点、及び、「『前記加圧回転体を前記定着ベルトより離間した状態で前記定着ベルトが所定の温度に達するまで加熱回転を実施する立ち上がり第一モード』と、『その後前記加圧回転体を前記定着ベルトへ接触させて加熱回転する立ち上がり第二モードとの二段階の回転モード』を経て立ち上がりが完了する」点で一致するといえる。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明と引用発明とは、
「定着ベルトと、
該定着ベルトと対向して定着ニップを形成する加圧回転体と、
前記定着ニップ以外の位置にて局所的に前記定着ベルトを電磁誘導による誘導方式で加熱する加熱源とを有し、前記定着ニップで記録材上の未定着画像を定着する定着装置において、
前記加圧回転体を前記定着ベルトより離すための加圧回転体接離機構を有し、
立上り時においては、前記加圧回転体を前記定着ベルトより離間した状態で前記定着ベルトを回転しながら前記定着ベルトを加熱し、前記定着ベルトが所定の温度になってから前記加圧回転体を前記定着ベルトに加圧接触させる定着装置であって、
前記加圧回転体を前記定着ベルトより離間した状態で前記定着ベルトが所定の温度に達するまで加熱回転を実施する立ち上がり第一モードと、その後前記加圧回転体を前記定着ベルトへ接触させて加熱回転する立ち上がり第二モードとの二段階の回転モードを経て立ち上がりが完了する定着装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
前記加圧回転体接離機構が、本願発明では「前記定着ニップの下流側に支点を、前記定着ニップの上流側に力点を有し、前記支点と前記力点との間で前記加圧回転体を支える加圧レバー」を備えるのに対して、引用発明ではそのようなレバーを備えていない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)「ニップ部のシート搬送方向下流側に支点軸を有する基端を、該ニップ部のシート搬送方向上流側に揺動付勢により圧接する接離カムが配置された揺動端を有し、前記基端と前記揺動端との間で加圧ローラの支軸が当接する接離駆動レバーを揺動させて加圧ローラと定着ローラとを立ち上げ時には離間させ定着ローラの表面温度が所定の定着温度に達したら揺動付勢して押圧させるようになっている定着装置」は、本願の出願前に周知である(以下「周知技術」という。例.特開2004-54225号公報(【0048】【0080】、【0081】、図2、図9参照。「ニップ部を形成」が「押圧」に相当する。)、特開昭64-44967号公報(第2頁左上欄第18行?同右上欄第15行、図4、図5参照。「固定ピボット」、「一端部」、「カム」、「他端部」、「支持アーム」が、それぞれ「支点軸」、「基端」、「接離カム」、「揺動端」、「接離駆動レバー」に相当する。))。

(2)引用例には、「定着ロール又は定着ベルト等の定着部材」(上記3(2)の【0005】参照。)と記載されている。この記載からみて、引用例では、定着ロールと定着ベルトとが定着部材として同様に扱われていることがわかる。

(3)上記(1)及び(2)からみて、引用発明の「『加圧回転体(加圧ロール)』を『定着ベルト』より離すための『加圧回転体接離機構』」として、加圧ローラと定着ローラとを立ち上げ時には離間させ定着ローラの表面温度が所定の定着温度に達したら揺動付勢して押圧させるための周知技術の構成を採用して、引用発明の加圧回転体接離機構を、加圧ローラと定着ベルトとを立ち上げ時には離間させ定着ベルトの表面温度が所定の定着温度に達したら揺動付勢して押圧させるために、ニップ部のシート搬送方向下流側に支点軸を有する基端を、該ニップ部のシート搬送方向上流側に揺動付勢により圧接する接離カムが配置された揺動端を有し、前記基端と前記揺動端との間で加圧ローラの支軸が当接する接離駆動レバーを備えたものとなすことは、当業者が引用例の記載事項及び周知技術に基づいて容易に想到することができた程度のことである。

(4)上記(3)の「シート搬送方向下流側」、「支点軸を有する基端」、「シート搬送方向上流側」、「揺動付勢により圧接する接離カムが配置された揺動端」、「接離駆動レバー」は、それぞれ本願発明の「下流側」、「支点」、「上流側」、「力点」、「加圧レバー」に相当するから、引用発明に
おいて、上記(3)のとおりになすことは、引用発明において上記相違点に係る本願発明の構成となすことに相当する。
したがって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、上記(3)からみて、当業者が引用例の記載事項及び周知技術に基づいて容易になし得た程度のことである。

(5)本願発明が奏する効果は、引用発明が奏する効果、引用例に記載された事項及び周知技術の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

6 むすび
本願発明は、当業者が引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-13 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-03 
出願番号 特願2004-142992(P2004-142992)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (G03G)
P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 目黒 光司  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 住田 秀弘
立澤 正樹
発明の名称 定着装置および画像形成装置  
代理人 工藤 修一  
代理人 樺山 亨  
代理人 本多 章悟  

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