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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1264820
審判番号 不服2011-6443  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-24 
確定日 2012-10-18 
事件の表示 特願2007-265981「圧電薄膜共振子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月 3日出願公開、特開2008- 79328〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年8月27日の出願である特願2003-303707号の一部を平成19年10月12日に特願2007-265981号として新たな特許出願としたものであって、平成22年12月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年3月24日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。


第2.平成23年3月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年3月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲(平成22年11月4日付けで補正)の請求項1:
「【請求項1】
基板の第1の面上に形成された圧電薄膜と、該圧電薄膜を挟むように形成された下部電極及び上部電極とを有する圧電薄膜共振子であって、
前記圧電薄膜が窒化アルミニウムで形成され、
前記上部電極及び下部電極はそれぞれルテニウム層、ルテニウム及び銅の合金層、ルテニウム及びアルミニウムの合金層、並びにルテニウム及びクロムの合金層の少なくとも1つを含み、
前記下部電極には、その下に形成された空隙に全体が露出しているとともに、クロムによる薄膜層が形成されており、前記下部電極は前記空隙に露出していないことを特徴とする圧電薄膜共振子。」を、

「【請求項1】
基板の第1の面上に形成された圧電薄膜と、該圧電薄膜を挟むように形成された下部電極及び上部電極とを有する圧電薄膜共振子であって、 前記圧電薄膜が窒化アルミニウムで形成され、
前記上部電極及び下部電極はそれぞれルテニウム層、ルテニウム及び銅の合金層、ルテニウム及びアルミニウムの合金層、並びにルテニウム及びクロムの合金層の少なくとも1つを含み、
前記下部電極には、その下に形成された空隙に全体が露出しているとともに、クロムによる薄膜層が形成されており、前記下部電極は前記空隙に露出しておらず、
前記ルテニウム層、前記ルテニウム及び銅の合金層、前記ルテニウム及びアルミニウムの合金層、並びに前記ルテニウム及びクロムの合金層の少なくとも1つの層は、前記薄膜層上に直接形成されていることを特徴とする圧電薄膜共振子。」

と補正することを含むものである。なお、下線は、平成23年3月24日付けの手続補正書において付されているものである。

すなわち、本件補正は、請求項1において、

a.「前記ルテニウム層、前記ルテニウム及び銅の合金層、前記ルテニウム及びアルミニウムの合金層、並びに前記ルテニウム及びクロムの合金層の少なくとも1つの層は、前記薄膜層上に直接形成されている」という事項を加入している。


2.補正の目的
上記補正事項a.は、「前記ルテニウム層、前記ルテニウム及び銅の合金層、前記ルテニウム及びアルミニウムの合金層、並びに前記ルテニウム及びクロムの合金層の少なくとも1つの層」と「薄膜層」の位置関係を限定したものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものである。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


3.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特開2003-204239号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。ただし、下線は、当審が付した。

(a)段落番号【0014】
「【0014】本発明において、第1電極膜および第2電極膜の形成には、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、白金(Pt)などを用いることができる。圧電膜の形成には、窒化アルミニウム(AlN)や酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO3)などを用いることができる。また、基板としては、例えばシリコン基板を用いることができる。」

(b)段落番号【0039】-【0041】
「【0039】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の第1の実施形態に係る圧電薄膜共振子100を表す。図2は、図1の線II-IIに沿った断面図である。
【0040】圧電薄膜共振子100は、シリコン基板110と、その上に形成された積層共振体120とを有する。シリコン基板110は、(111)カットされた単結晶シリコン基板であり、(111)面に相当する第1の面111および第2の面112を有する。積層共振体120は、第1電極膜121と、第2電極膜122と、これらに挟まれた圧電膜123とからなる。本実施形態では、第1電極膜121は、100nmの厚みを有し、(111)の一軸配向構造をとるAlまたはCuにより形成されている。第2電極膜122は、100nmの厚みを有し、AlまたはCuにより形成されている。圧電膜123は、500nmの厚みを有し、(002)の一軸配向構造をとるAlNまたはZnOにより形成されている。
【0041】シリコン基板110には、積層共振体120の下方に空隙部110aが形成されている。空隙部110aは、第1の面111および第2の面112に対して垂直にシリコン基板110を貫通しており、第2の面112における空隙部110aの開口部112aは、第1の面111における開口部111aと同一の面積および形状を有する。」

(c)段落番号【0054】
「【0054】次に、図7(c)に示すように、シリコンウエハ10に対して、レジストパターン20を介してドライエッチングであるDeep-RIEを施す。これによって、各素子ごとに空隙部110aが形成される。本実施形態のDeep-RIEでは、エッチングと側壁保護膜形成とを交互に繰り返して行い、例えば、SF6ガスによるエッチングを10秒間とし、C4F8ガスによる側壁保護膜形成を10秒間とし、ウエハに印加するバイアスは20W程度とする。これによって、シリコンウエハ10の第1の面11および第2の面12に対して垂直な空隙部110aが形成される。また、このとき、このようなフッ素系ガスを用いたドライエッチングによっては、Al,Cu,AlN,ZnOはエッチングされないため、第1電極膜121および圧電膜122に損傷を与えることなく、信頼性よく空隙部110aを形成することができる。すなわち、Al,Cu,AlN,ZnOは、このドライエッチングの際のエッチングストッパ層として機能していることにな
る。」

(d)段落番号【0056】
「【0056】図8は、本発明の第2の実施形態に係る圧電薄膜共振子200の断面図である。圧電薄膜共振子200は、圧電薄膜共振子100のそれとは異なる第1電極膜221および第2電極膜222を有する。圧電薄膜共振子100の第1電極膜121および第2電極膜122は、AlまたはCuよりなる単層導電膜である。これに対し、圧電薄膜共振子200の第1電極膜221は第1導電層221aおよび第2導電層221bからなる2層導電膜である。第1導電層221aは、50nmの厚みを有し、(111)の一軸配向構造をとるAlまたはCuよりなる。第2導電層221bは、100nmの厚みを有し、(110)の一軸配向構造をとるMoよりなる。また、第2電極膜222は、100nmの厚みを有し、Moよりなる。」

(e)図8から次の事項が見て取れる。
(イ)空隙部110aは、第2導電層221bの下に形成されている。
(ロ)第1導電層221aの全体が、空隙部110aに露出している。
(ハ)第2導電層221bは、空隙部110aに露出していない。
(ニ)第1導電層221aの上面と、第2導電層221bの下面が接している。


したがって、刊行物1には、図8の第2の実施形態に係る圧電薄膜共振子200として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「シリコン基板110と、その上に形成された積層共振体120とを有する圧電薄膜共振子200であって、
シリコン基板110は、(111)カットされた単結晶シリコン基板であり、(111)面に相当する第1の面111および第2の面112を有し、
積層共振体120は、第1電極膜221と、第2電極膜222と、これらに挟まれた圧電膜123とからなり、
第1電極膜221は第1導電層221aおよび第2導電層221bからなる2層導電膜であって、第1導電層221aは、50nmの厚みを有し、(111)の一軸配向構造をとるAlまたはCuよりなり、第2導電層221bは、100nmの厚みを有し、(110)の一軸配向構造をとるMoよりなり、
また、第2電極膜222は、100nmの厚みを有し、Moよりなり、
圧電膜123は、500nmの厚みを有し、(002)の一軸配向構造をとるAlNにより形成されており、
シリコン基板110には、積層共振体120の下方に空隙部110aが形成されており、
前記第2導電層221bには、その下に形成された空隙部110aに全体が露出している第1導電層221aが形成されており、前記第2導電層221bは前記空隙部110aに露出しておらず、
第1導電層221aの上面と、第2導電層221bの下面が接している、
圧電薄膜共振子200。」


4.本願補正発明と引用発明の一致点・相違点

引用発明において、積層共振体120は、シリコン基板110の上に形成されており、該積層共振体120は、第1電極膜221と、第2電極膜222と、これらに挟まれた圧電膜123とからなる。したがって、引用発明のシリコン基板110が、本願補正発明の「基板」に相当し、引用発明の圧電膜123が、本願補正発明の「基板の第1の面に形成された圧電薄膜」に相当する。

引用発明では、第1導電層221aの上面と、第2導電層221bの下面が接しているから、第2導電層221bと第2電極膜222とで、圧電膜123が挟まれている。したがって、引用発明の第2導電層221b、第2電極膜222が、各々、本願補正発明の下部電極、上部電極に相当し、引用発明と本願補正発明とは、「該圧電薄膜を挟むように形成された下部電極及び上部電極とを有する圧電薄膜共振子」である点で一致している。

引用発明では、圧電膜123は、AlNにより形成されているから、引用発明と本願補正発明とは、「前記圧電薄膜が窒化アルミニウムで形成され」ている点で一致している。

引用発明では、前記第2導電層221bには、その下に形成された空隙部110aに全体が露出している第1導電層221aが形成されており、前記第2導電層221bは前記空隙部110aに露出していないから、引用発明の第1導電層221aが、本願補正発明の薄膜層に相当し、引用発明と本願補正発明とは、「前記下部電極には、その下に形成された空隙に全体が露出している薄膜層が形成されており、前記下部電極は前記空隙に露出して」いない点で一致している。

引用発明では、第1導電層221aの上面と、第2導電層221bの下面が接しているから、第2導電層221b上に、第1導電層221aが直接形成されている。したがって、引用発明と本願補正発明とは、「下部電極は、薄膜層上に直接形成されている」いる点で一致している。

したがって、本願補正発明と引用発明の一致点・相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「基板の第1の面上に形成された圧電薄膜と、該圧電薄膜を挟むように形成された下部電極及び上部電極とを有する圧電薄膜共振子であって、
前記圧電薄膜が窒化アルミニウムで形成され、
前記下部電極には、その下に形成された空隙に全体が露出している薄膜層が形成されており、前記下部電極は前記空隙に露出しておらず、
前記下部電極は、前記薄膜層上に直接形成されていることを特徴とする圧電薄膜共振子。」である点。

[相違点1]
本願補正発明では、上部電極及び下部電極はそれぞれルテニウム層、ルテニウム及び銅の合金層、ルテニウム及びアルミニウムの合金層、並びにルテニウム及びクロムの合金層の少なくとも1つを含むのに対して、引用発明の上部電極及び下部電極は、Moよりなる点。

[相違点2]
本願補正発明の薄膜層はクロムによるのに対して、引用発明の薄膜層は、AlまたはCuよりなる点。


5.相違点についての検討

[相違点1について]

特開2001-251159号公報の段落番号【0011】に、
「【0011】この発明の実施の形態1の薄膜圧電体素子の製造方法を説明する。まず、シリコン酸化膜12が表面に形成されたシリコン基板11のシリコン酸化膜12上に下部電極13を形成する。下部電極13は、金属膜を全面に形成した後、エッチングにより所望のパターンとする方法が望ましいが、所望のパターンを有するマスクを介して金属膜を形成する方法でもよい。下部電極13としては、イリジウム、ルテニウム等を用いることができる。」と記載されている。(下線は、当審が付した。以下同じ。)

また、 特開2001-168675号公報の段落番号【0022】に、
「【0022】また、上部電極4a、下部電極層4を形成する際、絶縁体膜および圧電体膜との密着性を確保するためにチタンを介在させて主伝導層を堆積させたが、絶縁体および圧電体の材質によっては特に設ける必要はない。また、主伝導層としては白金の他にイリジニウム、ルテニウム、あるいは酸化イリジウム、ストロンチウム、ルテニウム酸化物などの導電性酸化膜、またはこれらの組み合わせが有効である。」と記載されている。

また、圧電素子に関する文献である特開2003-46160号公報の段落番号【0060】、【0063】に、
「【0060】本発明において、下部電極3は、ペロブスカイト等の酸化物を形成する際の酸化性雰囲気に耐える金属材料であることが好ましく、特に、白金(Pt),パラジウム(Pd),イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)から選択される金属あるいはそれらの酸化物によって構成されていることがより好ましい。」、
「【0063】本発明において、上部電極4は、酸化性雰囲気に耐える金属材料であることが好ましく、特に、白金(Pt),パラジウム(Pd),イリジウム(Ir),ルテニウム(Ru)及び金(Au)から選択される金属あるいはそれらの酸化物によって構成されていることがより好ましい。」と記載されている。

このように、「圧電薄膜素子の下部電極及び上部電極の材料として、ルテニウムを採用すること」は、周知である。
したがって、引用発明のMoからなる第2導電層221b及び第2電極膜222を、ルテニム層を含む下部電極及び上部電極に置換することは、容易に想到されたことである。

[相違点2について]

特開平10-50667号公報の第7頁の段落番号【0020】に、
「【0020】なお、本実施形態においては、エッチングストップ層としてシリコン酸化膜2を形成したが、これに限定される必要はなく、エッチングをストップできる層であれば良く、例えば、クロム膜等でも良い。また、本実施形態においては、エッチングマスク層としてシリコン窒化膜4を形成したが、これに限定される必要はなく、例えば、フォトレジスト,シリコン酸化膜,アルミニウム(Al),クロム(Cr)等でも良い。」と記載されている。

また、複合圧電基板振動子に関する文献である特開2000-357931号公報の段落番号【0019】に、
「【0019】その後、図1(d)に示すように、シリコン基板20の中央部に、Cr膜11’が露出するまでシリコンを除去し、溝部25を形成する。すなわち、厚み加工された複合基板のシリコン基板20側において、KOH液を用いた異方性エッチング等を行うことによりSiを除去し、いわゆる逆メサ構造を形成する。このとき、Cr膜11’は、エッチングに対するストッパー膜として作用するため、これにより圧電基板10までエッチングされずCr膜11’のところでエッチングが停止するので、容易に除去面と圧電基板10の表面とを合致させることができる。」と記載されている。

このように、エッチングされない材料として、クロムが周知である。

刊行物1の上記摘記事項(b)に「また、このとき、このようなフッ素系ガスを用いたドライエッチングによっては、Al,Cu,AlN,ZnOはエッチングされないため、第1電極膜121および圧電膜122に損傷を与えることなく、信頼性よく空隙部110aを形成することができる。すなわち、Al,Cu,AlN,ZnOは、このドライエッチングの際のエッチングストッパ層として機能していることになる。」と記載されている。この記載は、刊行物1に記載された第1の実施の形態に関するものであるが、Al,Cuの役割は、刊行物1に記載された第1の実施の形態と第2の実施の形態とで共通であると解される。したがって、引用発明におけるAlまたはCuよりなる第1導電層221aの役割は、エッチングストッパ層として機能することであると解される。

また、刊行物1の上記摘記事項(a)に、「本発明において、第1電極膜および第2電極膜の形成には、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、白金(Pt)などを用いることができる。」と記載されているから、第1電極膜および第2電極膜の材料として、アルミニウム(Al)、銅(Cu)とともに、クロム(Cr)が列挙されている。

したがって、引用発明の第1導電層221aの材料として、エッチングストッパ層として機能するアルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)の中から、どれを選択して使用するかは、設計的事項であったと認められる。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

なお、審判請求書の「(3)本願発明に特有の効果」では、(3-1)音響インピーダンスの改善と(3-2)メンブレン領域における破壊の抑制について説明している。具体的には、(3-2)メンブレン領域における破壊の抑制において、以下のように説明している。
「本願発明では、薄膜層に音響インピーダンスがルテニウムより低い(軟らかい)材料であるクロムを用い、その上に下部電極を形成することで、上記メンブレン領域における破壊を抑制することができます(図4)。」

上記説明は本願発明の効果に関する説明であるから、上記説明の「メンブレン領域における破壊を抑制することができます」とは、引用発明のように薄膜層にAlまたはCuを使用した場合と比較してのことであると推測される。
しかし、AlまたはCuは、クロムよりも更に音響インピーダンスが低い(軟らかい)から、引用発明のように薄膜層にAlまたはCuを使用した方が、本願発明のように薄膜層にクロムを用いるよりも、メンブレン領域における破壊を抑制することができる。

当審の見解では、(3-1)音響インピーダンスの改善という観点からは、薄膜層に音響インピーダンスが大きい材料を使用する方が有利である。他方、(3-2)メンブレン領域における破壊の抑制という観点からは、薄膜層に音響インピーダンスが小さい材料を使用する方が有利である。
したがって、(3-1)音響インピーダンスの改善と(3-2)メンブレン領域における破壊の抑制とはトレードオフの関係にあり、アルミニウム及び銅と、クロムのどちらを薄膜層に用いるのが有利かは一概には言えない。
また、本願の発明の詳細な説明の段落番号【0072】には、「【0072】薄膜層16の材料としては、例えばアルミニウム(Al),銅(Cu)若しくはクロム(Cr)の純金属、又はアルミニウム(Al),銅(Cu)若しくはクロム(Cr)の合金、又はアルミニウム(Al),銅(Cu)若しくはクロム(Cr)の酸化物、又はアルミニウム(Al),銅(Cu)若しくはクロム(Cr)の窒化物等を適用することができる。但し、これらに限らず、フッ素系のガスによるエッチングに対して比較的安定した材料であれば如何なるものも適用することができる。」と記載されており、薄膜層16の材料として、アルミニウム及び銅よりもクロムが有利である旨の記載はない。

また、回答書の「4.上記認定に対する反論」において「しかし、ルテニウムは柔らかく、製造工程におけるエッチングにより損傷してしまうため、これを防止するための層(薄膜層)を設ける必要があります。」と説明している。
しかし、この説明は、審判請求書の「(3-2)メンブレン領域における破壊の抑制」の「図4に示すように、本願発明では電極材料に音響インピーダンスの高い(硬い)材料であるルテニウムまたはその合金を使用している」及び本願の発明の詳細な説明の段落番号【0018】の「また、ルテニウム又はルテニウム合金は、一般的にエッチングで使用されるフッ素系のガスや酸系の薬品に対して安定である、すなわちエッチングされにくいという特性を有するため、下部電極と上部電極にそれぞれルテニウム又はルテニウム合金の層を含めることで、エッチングによる下部電極と上部電極の損傷を低減することが可能となり、」と矛盾している。
よって、本願発明の効果に関する請求人の各説明やそれに基づく主張は、採用できない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


6.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
平成23年3月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年11月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。

1.刊行物及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び引用発明は、前記「第2.3.」に記載したとおりである。


2.対比・判断
本願発明は、前記「第2.」で検討した本願補正発明から補正事項a.の構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.5.」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


3.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-14 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-03 
出願番号 特願2007-265981(P2007-265981)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
P 1 8・ 575- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 崎間 伸洋橋本 和志  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 小曳 満昭
飯田 清司
発明の名称 圧電薄膜共振子及びその製造方法  
代理人 片山 修平  

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