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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1264873
審判番号 不服2012-874  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-17 
確定日 2012-10-15 
事件の表示 特願2006-292258号「眼用保護具」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月21日出願公開、特開2008-62009号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年10月27日(優先権主張 平成18年8月10日)の出願であって、平成23年3月8日付けで拒絶理由が通知され、平成23年4月28日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成23年10月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成24年1月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2.平成24年1月17日付け手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。
[理由]
1.補正後の本件発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「芳香環をふくむポリカーボネート樹脂、あるいは同ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂のポリマーアロイのいずれかでできたフロントレンズとバックレンズが、平行的に対置された状態でガスケットによって固定されており、かつ、フロントレンズとバックレンズとガスケットで囲まれた空間をそなえているダブルレンズ部分と、フレーム部分と、顔面固定部分からなるものとし、前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を15000以上のものとし、さらに前記バックレンズのバックカーブ側に、バックレンズとほぼおなじ非球面形状あるいは球面形状あるいは円筒面形状をした防曇性能のある樹脂シートを積層したことを特徴とする眼用保護具。」と補正された。

上記の補正は、発明を特定するために必要な事項である「バックレンズ」について、「バックカーブ側に、バックレンズとほぼおなじ非球面形状あるいは球面形状あるいは円筒面形状をした防曇性能のある樹脂シートを積層した」ことを限定するものであり、かつ、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされている同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号において規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに相当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものでもない。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という)が独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載内容
引用刊行物:特開2006-154571号公報

原査定の理由に引用され、本件優先日前に頒布された引用刊行物には、「眼用光学構造物」に関して以下の記載がある。

ア.「【請求項1】
外レンズと内レンズとを平行に対置し、前記外・内レンズ相互の周縁又はその近傍を全周シールして外・内レンズ相互間に空室を形成して成る眼用光学構造物において、空室を構成する外レンズの後面側と内レンズの前面側のうち少なくとも一方に無機膜を形成してあることを特徴とする眼用光学構造物。」(下線は、当審にて付与。以下同様。)

イ.「【請求項5】
内レンズの内面側に防曇膜を設けてあることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の眼用光学構造物。」

ウ.「【0001】
この発明は、眼鏡、スキー用ゴーグル、乗り物用ゴーグル、遮光ゴーグル、防災面、遮光面等の眼用光学構造物に関するものである。」

エ.「【0006】
(請求項1記載の発明)
この発明の眼用光学構造物は、外レンズと内レンズとを平行に対置し、前記外・内レンズ相互の周縁又はその近傍を全周シールして外・内レンズ相互間に空室を形成して成る眼用光学構造物において、空室を構成する外レンズの後面側と内レンズの前面側のうち少なくとも一方に無機膜を形成してある。
【0007】
「外・内レンズ」
レンズは、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリアミド系、アクリル系、環状オレフィン系、繊維基系、ポリスルフォン系、ポリフェニレンスルフィッド系、塩化ビニル系、ポリスチレン系の樹脂等と、それらの透明アロイ樹脂等により構成でき、また、ウレタン系、ポリエポキシ系、アクリル系、アリル系等の熱硬化性樹脂より構成できる。なお、強靱性からすると、ポリカーボネート系熱可塑性樹脂とウレタン系熱硬化性樹脂が好ましい。」

オ.「【0024】
(請求項5記載の発明)
この発明の眼用光学構造物は、上記請求項1乃至4のいずれかに記載の発明に関し、内レンズの内面側に防曇膜を設けてある。
【0025】
眼の方と対向する内レンズの後面側が、水分によって曇りやすいが、防曇膜により前記曇りが阻止される。
【0026】
「防曇膜」
防曇膜は親水性ポリマーや界面活性剤が主成分になる。フィルム状或いは平板状のシートの片面にロールコータ等で防曇液を片面塗布するか、レンズの状態で防曇液に浸漬し、両面塗布する方法がある。防曇膜と金属膜の密着性がわるい場合は、内レンズの前面側に金属膜を付与した後に防曇膜を付与する方が好ましいことがある。」

カ.「【0028】
「止水性緩衝材」
止水性緩衝材は、弾性力と可撓性、及び耐水性を有する樹脂により構成されている。耐水性とは、水に溶けたり膨潤したり、水を通したりしない性質をいう。
【0029】
止水性緩衝材は、天然ゴム系、合成ゴム系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリスルフォン系、ポリフェニレンスルフィッド系、塩化ビニル系、ポリスチレン系、繊維素系等と、それらのポリマーアロイ樹脂で構成される。なお、いずれも独立気泡を含んでいてもよいが、独立気泡を含む場合はポリオレフィン系、或いはポリウレタン系樹脂が、弾力性と可撓性、および耐水性において特に好ましい。
【0030】
止水性緩衝材の厚さは、0.4?10mm、好ましくは1?6mmとしてある。このような厚さに設定してあるのは、0.4mm以下では外レンズと内レンズが接触する可能性が高くなり、10mmを超えると、眼用光学曲面構造物の厚みが大きくなり見栄えを損なう傾向があるからである。
【0031】
レンズへの止水性緩衝材の接着は、適度の耐水性のある樹脂用接着剤を緩衝材とレンズの間に塗布し、接着するか、適度の耐水性のある両面粘着テープまたはシートを緩衝材とレンズの間に用いて接着する。」

キ.「【0056】
以下に、このスキー用ゴーグルGの各構成について詳述する。
(ゴーグル枠1について)
ゴーグル枠1は弾性合成樹脂、ゴム等の軟質材から成り、図1や図3に示すように、レンズ嵌込縁10と、顔面当座11と、前記レンズ嵌込縁10と顔面当座11とを連絡する周壁部12とから成り、レンズ嵌込縁10にはゴーグルレンズ3が着脱自在に嵌め込まれている。【0057】
顔面当座11には、図2や図3に示すように、その左右部分に伸縮弾性ゴムバンド2を連結するための連結部11aが穿孔されており、また、顔面との密接を良好なものとするためのスポンジ、モントプレーン等の密接用材11bが貼着されている。」

ク.「【0060】
(ゴーグルレンズ3について)
ゴーグルレンズ3は、図3や図5に示すように、透明性のある樹脂から成る二枚の外・内レンズ30,31と、前記外・内レンズ30,31のうち隣り合うレンズの周縁を全周シールすべく設けられた止水性緩衝材33とから構成されており、前記止水性緩衝材33とこれらを挟み込むレンズとを両面テープにより接着してある。ここで、このゴーグルレンズ3では、外・内レンズ30,31相互間距離をそれぞれ2mmに設定してあり、外・内レンズ30,31相互間側に形成される空室Rを断熱層としてある。また、これら外・内レンズ30,31はそれぞれ0.6mm程度に設定してあり、中央部が両端部よりも突出する凸形状に形成されている。」

ケ.「【0064】
また、内レンズ31には、その前面側に銀やクロム等の金属膜5(無機膜)を形成してあり、これにより、明るい側から見るとミラー膜となり、暗い側から見ると半透明となるようにしてある。そして、前記内レンズ31の後面側には防曇膜7を形成してある。」

コ.図3(図2のA-A断面図)の記載からは、外レンズ30、内レンズ31の断面が空間を隔てて互いに直線状であって、かつ平行であり、図2のゴーグル上面図の記載からは、上記ク.にも記載されているように、中央部が両端部よりも突出する凸形状に形成されていることから、図2と図3の記載を併せみると、外レンズ30、内レンズ31は円筒面形状に形成されていることが窺える。

以上のア.ないしケ.の記載、コ.の図2、3の記載を総合すると、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という)が記載されている。

「ポリカーボネート系樹脂から構成された外・内レンズ30,31が平行に対置され、止水性緩衝材33とこれらを挟み込む外・内レンズ30,31とが接着してあり、かつ、外・内レンズ30,31相互の周縁又はその近傍を止水性緩衝材33によって全周シールして外・内レンズ30,31相互間に空室を形成している部分と、ゴーグル枠1と、顔面当座11からなるものであって、円筒面形状に形成された内レンズ31の後面側に防曇液を塗布することによる防曇膜7を形成してある眼用光学構造物。」

3.発明の対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ポリカーボネート系樹脂」は、技術常識から、ポリカーボネートは芳香環を含むものであるから、本件補正発明の「芳香環をふくむポリカーボネート樹脂」に相当し、引用発明の「外レンズ30」は、本件補正発明の「フロントレンズ」に相当し、引用発明の「内レンズ31」は、本件補正発明の「バックレンズ」に相当し、引用発明の「止水性緩衝材33」は、本件補正発明の「ガスケット」に相当し、引用発明の「外・内レンズ30,31が平行に対置され、止水性緩衝材33とこれらを挟み込む外・内レンズ30,31とが接着」されることは、本件補正発明の「フロントレンズとバックレンズが、並行的に対置された状態でガスケットによって固定」されることに相当し、引用発明の「外・内レンズ30,31相互の周縁又はその近傍を止水性緩衝材33によって全周シールして外・内レンズ30,31相互間に空室を形成」することは、本件補正発明の「フロントレンズとバックレンズとガスケットで囲まれた空間をそなえているダブルレンズ部分」を形成することに相当し、引用発明の「ゴーグル枠」は、その機能からみて、本件補正発明の「フレーム部分」に相当し、引用発明の「顔面当座11」は、その機能からみて、本件補正発明の「顔面固定部分」に相当し、引用発明の「内レンズ31の後面側」は、本件補正発明の「バックレンズのバックカーブ側」に相当し、引用発明の「眼用光学構造物」は、本件補正発明の「眼用保護具」に相当する。
そして、引用発明の「円筒面形状に形成された内レンズ31の後面側に防曇液を塗布することによる防曇膜7を形成」することと、本件補正発明の「バックレンズのバックカーブ側に、バックレンズとほぼおなじ非球面形状あるいは球面形状あるいは円筒面形状をした防曇性能のある樹脂シートを積層」することは、「バックレンズのバックカーブ側に防曇処理を行った」ことにおいて共通する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「芳香環をふくむポリカーボネート樹脂でできたフロントレンズとバックレンズが、平行的に対置された状態でガスケットによって固定されており、かつ、フロントレンズとバックレンズとガスケットで囲まれた空間をそなえているダブルレンズ部分と、フレーム部分と、顔面固定部分からなるものとし、さらにバックレンズのバックカーブ側に防曇処理を行ったことを特徴とする眼用保護具。」

[相違点1]
本件補正発明においては、「ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を15000以上のもの」としたのに対し、引用発明においては、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量につきどの程度のものか不明である点。

[相違点2]
バックレンズのバックカーブ側に防曇処理を行うに際して、本件補正発明においては、「バックレンズとほぼおなじ非球面形状あるいは球面形状あるいは円筒面形状をした防曇性能のある樹脂シートを積層した」のに対して、引用発明においては、「内レンズ31の後面側に防曇液を塗布することによる防曇膜7を形成」した点。

4.当審の判断
そこで、上記相違点について判断する。

[相違点1について]
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量につき、成形性や強度などを勘案して15000以上の数値範囲とすることは、周知(特開2006-199791号公報、段落【0015】の記載参照/特開2006-154783号公報、段落【0041】の記載参照)であって、粘度平均分子量を15000以上とすることに特段の臨界的意義も認められないから、引用発明におけるポリカーボネート樹脂においても、上記周知の技術的事項を適用して、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を15000以上とすることにより、上記本件補正発明の相違点1に係る発明とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2について]
プラスチック製の板やプラスチック製のレンズの表面等に防曇処理を行うにあたり、防曇性のフィルムを積層することは、周知(実願昭61-39773号(実開昭62-152722号)のマイクロフィルム、実用新案登録請求の範囲、実施例の記載/特開2000-175956号公報、段落【0005】の記載/特開平1-207060号公報、第2ページ右上欄第9?11行の記載)であって、引用発明において、上記周知の技術的事項を適用し、内レンズ31の後面側に、防曇液を塗布することにより防曇膜7を形成することに代えて、防曇性能のある樹脂シートを積層することにより防曇処理を行い、さらに、積層するにあたって樹脂シートを内レンズ31の後面側に沿った形状である円筒面形状とすることにより、上記本件補正発明の相違点2に係る発明とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本件補正発明の奏する効果についてみても、引用発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者であれば容易に予測し得た範囲内のものである。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許をうけることができない。

5.結び
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本件発明について
1.本件発明
本件補正は、上述のように却下されたので、本件の請求項1に係る発明は、平成23年4月28日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された以下のとおりのものである。(以下「本件発明」という)

「芳香環をふくむポリカーボネート樹脂、あるいは同ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂のポリマーアロイのいずれかでできたフロントレンズとバックレンズが、平行的に対置された状態でガスケットによって固定されており、かつ、フロントレンズとバックレンズとガスケットで囲まれた空間をそなえているダブルレンズ部分と、フレーム部分と、顔面固定部分からなるものとし、前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を15000以上のものとしたことを特徴とする眼用保護具。」

2.引用刊行物とその記載
引用刊行物とその記載内容は、上記「第2.2.」に記載したとおりのものである。

3.発明の対比・判断
本件発明は、上記「第2.」で検討した本件補正発明から、「バックレンズ」についての限定を省いたものである。そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2.4.」に記載したとおり、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明も、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

4.結び
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-21 
結審通知日 2012-08-22 
審決日 2012-09-04 
出願番号 特願2006-292258(P2006-292258)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61F)
P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 敏長宮部 愛子  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 松下 聡
田合 弘幸
発明の名称 眼用保護具  
代理人 辻本 一義  

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