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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1264905 |
審判番号 | 不服2007-5810 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-02-23 |
確定日 | 2012-10-10 |
事件の表示 | 平成10年特許願第536871号「壊死性全腸炎の発生を減少させるための方法及び組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月27日国際公開、WO98/36745、平成13年 9月25日国内公表、特表2001-516343〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.本件発明 本願は、1998年2月19日(優先権主張 1997年2月21日、同年3月28日及び同年10月3日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年2月17日付けで拒絶理由が通知され、同年8月31日付けで意見書、手続補正書が提出されたが、同年11月17日付けで拒絶査定がなされたのち、平成19年2月23日に拒絶査定不服審判が請求され、同年3月23日付けで手続補正書が提出され、その後、平成22年8月4日付けで平成19年3月23日付けの手続補正を却下する旨の補正却下の決定がなされるとともに、同日付で拒絶理由が通知され、平成23年2月10日付けで意見書、手続補正書が提出されたものである。 本願の請求項1?19に係る発明は、平成23年2月10日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は、 「壊死性全腸炎に罹りやすい乳児に投与することによって乳児における壊死性全腸炎の発生を減少させるための製剤の製造における少なくとも1つのn-6長鎖多不飽和脂肪酸及び少なくとも1つのn-3長鎖多不飽和脂肪酸の使用であって、n-6長鎖多不飽和脂肪酸とn-3長鎖多不飽和脂肪酸の重量比が 0.25:1?27:1である使用。」 と認められる。 2.拒絶理由の概要 当審の拒絶の理由の概要は、「請求項1に係る発明は、有効成分としてn-6多不飽和脂肪酸を含有するもので、その配合形態は、「遊離の脂肪酸のエステル、すなわちモノ-、ジ-、及びトリ-グリセリド、レシチンを含むホスホグリセリド、及び/又はこれらの混合物の形態で組成物に提供され得る」(本願明細書19頁4?6行)であるが、モノ-、ジ-、及びトリ-グリセリド形態であるものは、『壊死性全腸炎の発生を減少させる』という医薬用途の薬理効果を当業者が正確に理解することができないし、発明の詳細な説明に医薬用途発明として記載されていると認められない。」と、本願が特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない点を指摘するものである。 3.請求人の主張 上記の点について、請求人は、平成23年2月10日に提出された意見書の理由IIについてにおいて、 (i)請求項1を上記のように補正したこと、 (ii)当該製剤が医薬として使用できることは実施例IIにおいて製造された製剤を使用した実施例IVにおいて実証されていること、 から、本願発明における製剤の薬理効果は明確であり、医薬用途発明として発明の詳細な説明に記載されていることは明らかであり、理由IIは解消していると主張している。 4.判断 請求項1には、「壊死性全腸炎に罹りやすい乳児に投与することによって乳児における壊死性全腸炎の発生を減少するための製剤の製造における少なくとも1つのn-6長鎖多不飽和脂肪酸及び少なくとも1つのn-3長鎖多不飽和脂肪酸の使用であって、n-6長鎖多不飽和脂肪酸とn-3長鎖多不飽和脂肪酸の重量比が 0.25:1?27:1である使用。」と記載されているが、製剤の製造における具体的な処理については何ら特定する記載がないのであって、本願発明は、製剤を製造する点に特徴を有する発明であるというより、むしろn-6多不飽和脂肪酸とn-3長鎖多不飽和脂肪酸の特定の重量比で含む製剤が壊死性全腸炎の発生を減少させるという薬理効果を専ら利用するという点に特徴を有する医薬用途発明であると認められる。 特許法第36条第4項は、「発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と規定し、また、経済産業省令に相当する特許法施行規則24条の2は、明細書に「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきことを規定する。 医薬用途発明は、ある化合物等が新たな属性(薬理作用)を有することを見出したことに基づいて、当該化合物等の新たな医薬用途を提供するものであるから、その発明の効果とは、当該化合物等が当該医薬用途である特定の疾病の治療等において有用性があるということに他ならず、また、医薬用途発明の実施をすることができるというためには、当該化合物等が実際に当該医薬用途である疾病の治療等に使用できることが必要である。 したがって、明細書の発明の詳細な説明の記載から、当該化合物等が当該医薬用途において実際に有用性があると当業者が認識することができない場合には、当業者がその発明を実施することができる程度に、その発明の効果が発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、そのような発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないものであるというべきである。 また、特許法第36条第6項第1号は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 本願発明は、上記したとおり、製剤の医薬用途発明であるから、本願の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するためには、発明の詳細な説明には、当該物質(有効成分)が当該医薬用途において有用であることが記載されている必要があるということになる。 以下、上記の観点に立って、本願について検討する。 本願明細書の発明の詳細な説明には、「n-6長鎖多不飽和脂肪酸」及び「n-3長鎖多不飽和脂肪酸」に関して、また当該化合物を有効成分とする医薬の発明に関して、以下の記載がある。 (1) この発明に有用な組成物は、n-6及び/又はn-3長鎖PUFAを含んでいる。長鎖PUFA源は決定的なものではない。…………新しい長鎖PUFA源は、野菜及び油を含む植物の遺伝子操作によって開発することができ、このような組換え物質の使用もまた、本発明において企図されている。長鎖PUFAは遊離脂肪酸のエステル、すなわちモノ-、ジ-、及びトリ-グリセリド、レシチンを含むホスホグリセリド、及び/又はこれらの混合物の形態で組成物に提供され得る。(18頁12行?19頁6行) (2) この発明において用いうる非経腸組成物を製造するために、通常の滅菌非経腸組成物製造技術を用いることができる。この場合、卵ホスファチドを避け、その代わりに、組換え又は単細胞油源に見られるようなトリグリセリド油又は脂肪酸エステルを用いるのが好ましいであろう。(24頁5?9行) (3) この発明の追加の側面は、リン脂質の、特にAA及び/又はDHAのトリグリセリドを有する組成物に比較して、ヒトにおける脂肪酸AA及びDHAの血液血清レベルを容易に増加させるAA及び/又はDHAを含むリン脂質の、ヒトへの経腸投与に関する。(26頁9?13行) (4) 実施例Iの卵ホスファチドを用いた「実験用」乳児処方物とそれを用いない「対照用」乳児処方物の成分(表II)、「実験用」乳児処方物の脂質の成分としてMCT(中鎖トリグリセリド)、ココヤシ油、大豆油、卵リン脂質が含まれていること(表III)、両処方物の平均脂肪酸プロフィル、また「実験用」の総LCPUFA n-3と総LCPUFA n-6がそれぞれ0.21、0.48重量%であること(表IV)が記載されている。(実施例II、31頁1行?36頁9行) (5) 実施例Iの卵レシチンの脂肪酸プロフィルは総長鎖PUFA n-6 7.22重量%、総長鎖PUFA n-3 1.33重量%であることが記載されている(30頁、表1)。 (6) 実施例IIの「実験用」乳児処方物と「対照用」乳児処方物を全身疾患のない1500グラムより小さい乳児に投与した結果、「対照用」では15人、「実験用」では1人が壊死性全腸炎(NEC)が存在するか又はその疑いがあると考えられたことが記載されている。(実施例IV、38頁末5行?41頁末行) (7) AA及びDHAを栄養の非経腸(静脈内供給)投与に含めたものを評価する。この非経腸溶液は、この分野で知られている様々な成分を含んでいてもよく、AA及びDHAは、リン脂質、トリグリセリド、又はメチルエステルの形態で供給される。AA及びDHAは、通常の非経腸組成物の担体及び賦形剤と混合された単一の活性成分であってもよい。あるいはより好ましくはAA及びDHAは、乳児の総栄養補給物を補うため又は供給するための非経腸処方物に含まれている。典型的な非経腸栄養溶液は、約2g/kg/日となる脂質レベルを含んでいる。脂質ブレンド中のAA及びDHAのレベルは、好ましくはAAについては10から30mg/kg/日、及びDHAについては3から15mg/kg/日の投与となるものであるべきである。(実施例V、42頁1?14行) (8) 乳児用処方物におけるAA及びDHAを含むリン脂質の使用が、AA及びDHAを含むトリグリセリドの使用と比較される。実施例IIの処方物が、卵リン脂質が匹敵しうるレベルのAA及びDHAを含む単細胞微生物トリグリセリドの混合物と替えられている同様な乳児処方物と比較される。………リン脂質処方物が与えられている乳児は、AA及びDHAをトリグリセリド形態で含む対照用処方物よりも、母乳栄養乳児のレベルと非常に似ている、AA及びDHAの血液血清レベルに達するものと予測される。この実験は、AA及びDHAを含むリン脂質が、AA及びDHAを含むトリグリセリドよりも好ましい投与形態であることを証明するであろう。従ってAA及びDHA血液血清レベルを高めるための改良された経腸処方物及び方法が、ここでは企図される。(実施例VII,43頁8行?44頁5行) 上記 (1)には、長鎖PUFA(=長鎖多不飽和脂肪酸)という用語には、遊離脂肪酸のエステル、すなわちモノ-、ジ-及びトリ-グリセリド、レシチンを含むホスホグリセリド、及び/又はこれらの混合物を含むことが定義されており、上記 (2)には、本願発明の組成物が非経腸組成物である場合、卵ホスファチドでなくトリグリセリド油又は脂肪酸エステルの方が好ましいことが記載されていることから、本願発明における有効成分であるn-6長鎖多不飽和脂肪酸及びn-3長鎖多不飽和脂肪酸は、卵リン脂質だけでなく、長鎖多不飽和脂肪酸のモノ-、ジ-及びトリ-グリセリドを包含していることは明らかである。 ところで、脂肪酸について、本願明細書に「例えば約6個より少ない炭素鎖は、「短鎖」と考えられ、約6から18個の炭素鎖は「中鎖」であり、20個又はそれ以上の、炭素鎖は「長鎖」と考えられる。・・・「長鎖PUFA」という用語は、少なくとも2つの炭素-炭素二重結合(多不飽和)を有する20個又はそれ以上の炭素原子の脂肪酸を意味する。」(本願明細書15頁13行?16頁1行)と記載があるように、本願発明においては長鎖脂肪酸は20個以上の炭素原子の脂肪酸を意味するものである。そうすると、「実験用」乳児処方物に含有される成分であるMCT、ココヤシ油、大豆油には、その脂肪酸組成からみて、長鎖PUFAがほとんど含まれていないことは周知の事実といえるから(第九改正 日本薬局方解説書 D・E・F 1976 ダイズ油 D539-D540;ヤシ油 D889-D891(特に、解説の成分の項を参照のこと) 財団法人 日本公定書協会編 株式会社 廣川書店発行)、上記の(4)及び(5)の記載によれば、「実験用」乳児処方物における長鎖PUFAは卵リン脂質に由来するものであり、また上記 (6)の臨床試験の結果はリン脂質であるn-6長鎖多不飽和脂肪酸及びn-3長鎖多不飽和脂肪酸を含む「実験用」乳児処方物の効果を示したものである、と当業者は理解することができる。 また、本願明細書には、トリグリセリド形態のものを乳児に投与した記載はなく、たとえば、上記 (3)、(7)及び(8)には、AA及び/又はDHAのトリグリセリドの形態のものをリン脂質と比較する旨の記載があるものの、「……好ましい投与形態であることを証明するであろう。」や「……企図される。」などと記載されているように、発明者の推測であることを窺わせる記載があるにすぎないし、上記(3)の「 この発明の追加の側面は、リン脂質の、特にAA及び/又はDHAのトリグリセリドを有する組成物に比較して、ヒトにおける脂肪酸AA及びDHAの血液血清レベルを容易に増加させるAA及び/又はDHAを含むリン脂質の、ヒトへの経腸投与に関する。」との記載や、(8)の「リン脂質処方物が与えられている乳児は、AA及びDHAをトリグリセリド形態で含む対照用処方物よりも、母乳栄養乳児のレベルと非常に似ている、AA及びDHAの血液血清レベルに達するものと予測される。この実験は、AA及びDHAを含むリン脂質が、AA及びDHAを含むトリグリセリドよりも好ましい投与形態であることを証明するであろう。」との記載をみると、リン脂質処方物のほうがトリグリセリド形態のものより好ましいことが記載されているのであるから、より優れたリン脂質処方物が所期の効果を奏し得たからといって、その試験結果をもって直ちにトリグリセリド形態の製剤の薬理試験結果が示されているといえるものではない。 以上のとおりであるから、リン脂質の形態のn-6及びn-3長鎖多不飽和脂肪酸を含む製剤について、実施例IVとして、壊死性全腸炎の発生を減少させたことが臨床試験結果をもって記載されているが、モノ-又はトリグリセリドの形態のn-6及びn-3長鎖多不飽和脂肪酸を含む製剤については、本願の発明の詳細な説明にその医薬用途が形式的に記載されているにすぎないものと認める。 一方、当審の拒絶理由通知で引用した国際公開第93/20717号には、遊離の炭素数16?22の脂肪酸と生体内で遊離の脂肪酸及びモノグリセリドに代謝するトリグリセリドは未熟児の腸内上皮細胞を損傷すること、及びトリグリセリドが壊死性全腸炎のような疾患をもたらしうること(1頁末2?7行)が示されている。 このことは、モノ-及びトリ-グリセリドの形態のn-6長鎖多不飽和脂肪酸及びn-3長鎖多不飽和脂肪酸についてはむしろ逆に腸粘膜を損傷することが本出願優先日前に知られているのであって、モノ-及びトリ-グリセリド形態のn-6長鎖多不飽和脂肪酸及びn-3長鎖多不飽和脂肪酸が、リン脂質の形態のn-6長鎖多不飽和脂肪酸及びn-3長鎖多不飽和脂肪酸と同様に、本願発明の医薬用途における有用性を当業者が認識しうる程度に記載されているか、すなわち、本願発明の詳細な説明に、当業者が特許請求の範囲に係る製剤を壊死性全腸炎に罹りやすい乳児に投与することによって乳児における壊死性全腸炎の発生を減少させるための製剤として使用しうることができるように記載されているものと認めることはできない。 そうすると、上記 (1)?(8)の記載によっては、本願明細書の発明の詳細な説明に、本願発明に包含されることが明らかなモノ-及びトリ-グリセリドの形態のn-6及びn-3長鎖多不飽和脂肪酸を含む製剤が、リン脂質形態のものと同等の作用を有するとはいえないのであって、本願明細書の発明の詳細な説明には、「壊死性全腸炎の発生を減少させる」という本願発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載されているとはいえないのであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が容易に本願発明の実施をすることができる程度に、本願発明の目的、構成及び効果を記載したものであるとは認められない。 また、上記のとおり、本願明細書の記載によっては、モノ-及びトリ-グリセリドの形態のn-6長鎖多不飽和脂肪酸及びn-3長鎖多不飽和脂肪酸を含む製剤が「壊死性全腸炎の発生を減少させる」という本願発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載されているとはいえず、出願時の技術常識に照らしても本願発明に係る医薬用途をもつことが当業者に理解できないのであるから、当該医薬用途を規定する本願発明は、発明の詳細な説明に記載されているものとは認められない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項及び第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-01 |
結審通知日 | 2012-02-07 |
審決日 | 2012-05-25 |
出願番号 | 特願平10-536871 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(A61K)
P 1 8・ 536- WZ (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長部 喜幸、安居 拓哉 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
上條 のぶよ 穴吹 智子 |
発明の名称 | 壊死性全腸炎の発生を減少させるための方法及び組成物 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 大崎 勝真 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 渡邉 千尋 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 渡邉 千尋 |
代理人 | 大崎 勝真 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 金山 賢教 |