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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2012800048 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65G
管理番号 1265029
審判番号 無効2012-800047  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-04-04 
確定日 2012-10-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第4626302号発明「単一の軌道位置から高架ホイスト搬送手段により材料収納棚の一つまたはそれ以上のレベルへ到達する方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成14年10月11日 米国出願(優先権主張の基礎)
平成15年10月 9日 国際出願(特願2004-543686号)
平成22年11月19日 設定登録(特許第4626302号)
平成24年 4月 4日 無効審判請求
平成24年 7月13日 答弁書
平成24年 7月23日 通知書(審理事項通知)
平成24年 8月17日 両者・口頭審理陳述要領書
平成24年 8月21日 通知書(審理事項通知(2))
平成24年 8月31日 両者・口頭審理陳述要領書(2)及び(3)
平成24年 8月31日 口頭審理

本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。
原文の丸囲み数字は、丸1のように置き換えた。

第2.本件発明
本件特許の請求項1ないし28に係る発明(以下「本件発明1ないし28」という。)は、以下のとおりである。
なお、独立請求項1、12における分説符号は、請求人が付したものであるが、争いがなく、妥当と認められるので、そのまま採用した。

「【請求項1】
A.自動材料搬送システムであって、
B.懸架軌道、高架ホイストおよび高架ホイスト搬送手段を具備する少なくとも一つの高架ホイスト搬送サブシステムであって、前記高架ホイスト搬送手段は移動ステージを備え、この移動ステージに前記高架ホイストが取り付けられている前記高架ホイスト搬送サブシステムと、
C.少なくとも一つの材料収納棚を含む材料収納部であって、この材料収納部は、少なくとも一つの材料ユニットを収納すると共に前記懸架軌道の第1の側に固定配置されている前記材料収納部と、を有し、
D.前記高架ホイスト搬送手段は、前記高架ホイストを懸架軌道に沿って移動させると共に、前記高架ホイストが加工ツールロードポートの真上に来たとき前記高架ホイストを真下に降ろして前記材料ユニットを加工ツールロードポートに載置するか、又は、前記高架ホイストが加工ツールロードポートにある前記材料ユニットを真上に引き上げるようになっており、
E.前記高架ホイスト搬送手段は、前記高架ホイストを懸架軌道に沿って前記材料収納部に隣接する第1の位置に移動させるようになっていて、さらに、前記材料収納部が高架ホイストのレベルよりも低いレベルに配置されている場合には、高架ホイストを前記材料収納部の前記低いレベルまで低下させるものであり、
F.前記高架ホイストは、前記材料収納部の前記低いレベルにまで低下される間、前記高架ホイスト搬送手段から降りるようになっており、
G.前記移動ステージは、前記懸架軌道に対して横に延びる構造を持ち、材料収納部所において材料ユニットを取り上げて前記第1の位置に移動させるか、又は、材料ユニットを前記第1の位置から材料収納部へ移動させて載置するようになっている自動材料搬送システム。
【請求項2】
前記少なくとも一つの材料収納部が、複数の材料収納部であり、これらの複数の材料収納部は複数の列と複数の行を含む配列となっている請求項1記載の自動材料搬送システム。
【請求項3】
前記複数の材料収納部が、軌道の第1の側にそれぞれ複数の列と行をなして配列してなる第1の複数の材料収納部と、軌道の第2の側にそれぞれ複数の列と行をなして配列してなる第2の複数の材料収納部とを有する請求項2の自動材料搬送システム。
【請求項4】
前記第1の複数の材料収納部は、軌道の第1の側に懸架され、そして第2の複数の材料収納部は軌道の第2の側に懸架されている請求項3記載の自動材料搬送システム。
【請求項5】
第1と第2の複数の材料収納部は天井から懸架されている請求項4記載の自動材料搬送システム。
【請求項6】
少なくとも一つの材料収納部が軌道の第1の側から懸架されることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項7】
少なくとも一つの材料収納部が天井から懸架されている請求項6記載の自動材料搬送システム。
【請求項8】
材料ユニットは、前開き一体型ポッド(FOUP)である請求項1記載の自動材料搬送システム。
【請求項9】
材料ユニットは、少なくとも一つの仕掛品(WIP)部品である請求項1記載の自動材料搬送システム。
【請求項10】
少なくとも一つの材料収納部は、複数の材料収納部からなり、これらの複数の材料収納部は、軌道の第2の側に配置される少なくとも一つの材料収納部を含み、前記軌道の第2の側は軌道の第1の側の反対側である請求項1記載の自動材料搬送システム。
【請求項11】
前記高架ホイスト搬送手段は、前記高架ホイストを懸架軌道に沿って前記材料収納部に隣接する第2の位置に移動させるようになっていて、前記移動ステージは、前記懸架軌道に対して横に延びる構造を持ち、材料収納部において材料ユニットを吊上げて前記第2の位置に移動させるか、又は、材料ユニットを前記第2の位置から材料収納部へ移動させて載置するようになっている請求項10記載の自動材料搬送システム。
【請求項12】
S.自動材料搬送システムであって、
T.懸架軌道、高架ホイストおよび高架ホイスト搬送手段を具備する少なくとも一つの高架ホイスト搬送サブシステムであって、前記高架ホイスト搬送手段は移動ステージを備え、この移動ステージに前記高架ホイスト及びホイスト把持部が取り付けられており、この高架ホイスト搬送手段が、高架ホイストを懸架軌道に沿って複数の位置へ搬送し、高架ホイストを複数のレベルへ上昇または低下させる前記高架ホイスト搬送サブシステムと、
U.少なくとも一つの材料ユニットを収納する少なくとも一つの材料収納部であって、この少なくとも一つの材料収納部は懸架軌道の第1の側の所定のレベルに固定配置されている前記材料収納部と、を有し、
V.前記高架ホイスト搬送手段は、前記高架ホイストを懸架軌道に沿って移動させると共に、前記高架ホイストが加工ツールロードポートの真上に来たとき前記高架ホイストを真下に降ろして前記材料ユニットを加工ツールロードポートに載置するか、又は、前記高架ホイストが加工ツールロードポートにある前記材料ユニットを真上に引き上げるようになっており、
W.前記高架ホイスト搬送手段は、移動ステージ、高架ホイスト、ホイスト把持具を懸架軌道に沿って材料収納部に隣接する第1の位置へ搬送し、そしてホイスト把持具を材料収納部とほぼ同じレベルに位置させるために高架ホイストを低下または上昇させものであり、
X.移動ステージは、少なくともホイスト把持具が材料収納部とほぼ同じレベルに位置する間は、ホイスト把持具を高架ホイスト搬送手段に隣接する第1の位置から材料収納部の第2の位置に向かって横に延びることにより移動させるものであり、これにより、ホイスト把持具が少なくとも一つの材料ユニットを材料収納部において吊持するかまたは材料収納部へ載置することが可能となる自動材料搬送システム。
【請求項13】
少なくとも一つの材料収納部は、懸架軌道の第1の側の所定レベルに配置された第1の材料収納部と、懸架軌道の第2の側の所定レベルに配置された第2の材料収納部を含み、前記懸架軌道の第2の側は懸架軌道の第1の側の反対側である請求項12に記載の自動材料搬送システム。
【請求項14】
移動ステージは、さらに、懸架軌道の第2の側に向かって横に延びることにより、ホイスト把持具を、高架ホイスト搬送手段に隣接する第1の位置から第2の材料収納部の第3の位置へ移動させるものであり、これにより、ホイスト把持具が少なくとも一つの材料ユニットを、第2の材料収納部において吊持するかまたは材料収納部へ載置することが可能となる請求項13に記載の自動材料搬送システム。
【請求項15】
前記少なくとも一つの材料収納部が懸架軌道の側で実質的に並行に一つの列となって配列される複数の材料収納部からなる請求項12記載の自動材料搬送システム。
【請求項16】
前記少なくとも一つの材料収納部が懸架軌道の側で実質的に並行に多重列となって配列される複数の材料収納部からなる請求項12記載の自動材料搬送システム。
【請求項17】
前記複数の材料収納部が、複数の列と複数の行を含むように配列されている請求項16記載の自動材料搬送システム。
【請求項18】
前記少なくとも一つの材料収納部は、懸架軌道の第1の側に列で配置される第1の複数の材料収納部と、懸架軌道の第2の側に列で配置される第2の複数の材料収納部からなり、懸架軌道の第2の側は、懸架軌道の第1の側の反対側である、請求項12の自動材料搬送システム。
【請求項19】
第1の複数の材料収納部は懸架軌道の第1の側で懸架され、そして第2の複数の材料収納部は懸架軌道の第2の側で懸架される請求項18記載の自動材料搬送システム。
【請求項20】
第1と第2の複数の材料収納部が天井から懸架される請求項19記載の自動材料搬送システム。
【請求項21】
前記少なくとも一つの材料収納部は、懸架軌道の第1の側で多重列で配置される第1の複数の材料収納部と懸架軌道の第2の側で多重列で配置される第2の複数の材料収納部からなり、懸架軌道の第2の側は懸架軌道の第1の側の反対側である請求項12記載の自動材料搬送システム。
【請求項22】
前記第1と第2の複数の材料収納部がそれぞれ列に配列し、それぞれは複数の列と複数の行を含む請求項21記載の自動材料搬送システム。
【請求項23】
前記第1の複数の材料収納部が懸架軌道の第1の側で懸架され、前記第2の複数の材料収納部が懸架軌道の第2の側で懸架される請求項21記載の自動材料搬送システム。
【請求項24】
第1と第2の複数の材料収納部が天井から懸架される請求項23記載の自動材料搬送システム。
【請求項25】
前記少なくとも一つの材料収納部が高架ホイストの第1の側で懸架される請求項12記載の自動材料搬送システム。
【請求項26】
少なくとも一つの材料収納部が天井から懸架される請求項25記載の自動材料搬送システム。
【請求項27】
材料ユニットは、前開き一体型ポッド(FOUP)からなる請求項12記載の自動材料搬送システム。
【請求項28】
材料ユニットは、少なくとも一つの仕掛品(WIP)部品からなる請求項12記載の自動材料搬送システム。」

第3.請求人の主張
1.条文
特許法第29条第2項(第123条第1項第2号)

2.証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証 特開平3-177205号公報
甲第2号証 特開2000-53237号公報
甲第3号証 特開平10-45213号公報
甲第4号証 特開平10-250835号公報
甲第5号証 特開2001-354302号公報
参考文献1 特開2000-188316号公報
参考文献2 特開2001-144169号公報
参考文献3 特開平5-77906号公報
参考文献4 特開平3-31103号公報

なお、参考文献1ないし4は、請求人・口頭審理陳述要領書とともに提出された。

3.概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)審判請求書第17ページ第2行?第21ページ下から2行
「丸2 先行技術発明が存在する事実及び証拠の説明
1)甲第1号証(特開平3-177205号公報、平成3年8月1日発行)
・・・
ア)本件請求項1に係る特許発明の構成要件Aについて
甲第1号証は吊下式スタッカクレーンを有する倉庫設備及び搬入出設備に関するものであり、その第1頁右下欄第19行?第2頁左上欄第1行には、「本発明は、吊下式のスタッカクレーンを有する倉庫設備およびこのスタッカクレーンを利用して立坑内に物品を搬出入する搬出入設備に関する。」とあり、また、第2頁右下欄第9行?第20行には、「入庫作業は走行レールに沿ってスタッカクレーンの走行架台を走行させ、搬入出部の上方で停止させて昇降体を下降させ保持台車の保持アームで荷を保持させる。そして、昇降体を上昇させるとともに走行架台を走行させて、棚前方で昇降体のクレーン側レールが棚側レールに連続する位置で停止する。そして、保持台車を移動してクレーン側レールから棚側レールに乗り移らせた後、保持アームから荷を解放して棚に収納させ、保持台車を棚側レールからクレーン側レールに戻す。出庫作業は入庫作業と逆の手順で行う。」とある。
これらの記載から、甲第1号証のものは、荷を吊下式のスタッカクレーンにより倉庫設備に自動的に搬出入する自動材料搬送システムに関するものである。よって、甲第1号証には、本件請求項1に係る特許発明の構成要件Aに相当する構成が明らかに記載されている。
イ)本件請求項1に係る特許発明の構成要件Bについて
甲第1号証の第3頁左下欄第10行?同頁右下欄第8行には、「このセグメント搬送経路1に沿って左右一対の走行レール4がそれぞれ支柱5およびレール支持材6を介して地盤7上方の所定高さでかつ一定間隔をあけて配設される。走行レール4上にはスタッカクレーン8の自走式走行架台9が走行車輪を介して矢印A,B方向に走行自在に配設される。この走行架台9には走行車輪を駆動する走行駆動装置10と、走行架台9の下方に配設される昇降体11をワイヤロープ12を介して昇降駆動するウインチ13とが配設される。
前記昇降体11は第2図、第5図に示すように走行架台9に昇降自在に案内される4本のガイドポスト14が四隅に立設された昇降枠15と、この昇降枠15に離脱可能に嵌合固定され前記ワイヤロープ12がシーブ16を介して連結される吊下体17と、この吊下体17の下面でセグメント搬送経路1と直交する横方向に形成された凹部18内に横方向に出退自在なトングス台車(保持台車)21とを備えている。」とあり、また、第3頁右下欄第17行?第4頁左上欄第6行には、「また、吊下体17の凹部18両側面には、それぞれ開口面が対向する断面コの字形のクレーン側レール24が取付けられている。トングス台車19の上面には凹部18に遊嵌する凸部25が形成され、凸部25両側面にはクレーン側レール24に案内される鍔付の出退車輪26A,26Bが配設される。そして、一方の出退車輪26Aは、凸部25内に配設された出退駆動モータ27に減速機や歯車を介して連動連結され矢印C,D方向に出退移動される。」とある。
これらの記載から、甲第1号証のものは、走行レール4(本件発明の「懸架軌道」に対応)と、スタッカクレーン8の走行架台9、ウインチ13及び昇降体11(本件発明の「高架ホイスト」「高架ホイスト搬送手段」に対応)と、トングス台車(保持台車)19(本件発明の「移動ステージ」に対応)の各構成を備えている。ただ、甲第1号証のものは、ウインチ13により昇降駆動される昇降体11にトングス台車19を備えている点で、本件発明の「移動ステージに高架ホイストが取り付けられている」構成とは異なるものである。よって、甲第1号証には、この構成の異なる点を除く他の構成が記載されていることから、本件請求項1に係る特許発明の構成要件Bに対応するB´なる構成が記載されている。
ウ)本件請求項1に係る特許発明の構成要件Cについて
甲第1号証の第4頁右上欄第15行?第19行には、「41は走行レール4下方でセグメント搬送経路1の両側に配設された棚で、枠組状に形成され、各収納部42にはセグメント受台43と、吊下体17のクレーン側レール24に対向して連続可能な左右一対の棚側レール44とが配設される。」とある。
上記記載及び第1図の記載から、甲第1号証のものにおいては、材料ユニットとしてのセグメント31を収納する固定配置の棚41を備え、この棚41が走行レール4側方に配置されている。よって、甲第1号証には、本件請求項1に係る特許発明の構成要件Cに相当する構成が明らかに記載されている。
エ)本件請求項1に係る特許発明の構成要件Dについて
甲第1号証の第4頁右上欄第20行?同頁左下欄第第19行には、「セグメント搬送経路1の一端部下方にはセグメント搬入部45に形成され、第1図に示すように、地盤7上を後退侵入させたセグメント搬送トラック46の荷台からスタッカクレーン8により直接セグメント31を把持して棚41側に搬入できる。47は検査作業台である。
なお、第6図に示すように、セグメント搬入部45から側方に延びチェンコンベヤからなる受入作業台48を設けて並列位置のセグメント搬入トラック46からセグメント31を受け入れることもできる。
セグメント搬送経路1の他端部の発進坑3内には、第1図、第5図に示すように、上下方向にわたってガイド枠49が配設され、ガイド枠49内には吊下体17の四隅コーナ部を案内する4本のセルガイド50が垂設される。このセルガイド50はアングル状に形成され、その上端部には外方に広がる挿入ガイド部50aが設けられる。このセルガイド50の下方には、トンネル2内に延びる搬送レール51上を走行自在なセグメント台車52が配置されている。」とある。
上記記載から、甲第1号証のものにおいては、スタッカクレーン8の走行架台9は走行レール4に沿って移動され、この走行架台9がトラック46の荷台の真上又は発進坑入口3aの真上に来たとき昇降体11を真下に降ろしてセグメント31の取り上げ/載置を行うように構成されている。ただ、甲第1号証のものは、加工ツールロードポートに対する材料の取り上げ/載置を行うものではない。よって、甲第1号証には、この点を除く他の構成が記載されていることから、本件請求項1に係る特許発明の構成要件Dに対応するD´なる構成が記載されている。
オ)本件請求項1に係る特許発明の構成要件Eについて
甲第1号証の第4頁右下欄第9行?同第15行には、「そして、昇降体11を上昇してトラック46の荷台上からセグメント31を持ち上げ、走行架台9を矢印B方向に走行させる。そしてストックする棚41の収納部42位置に停止させ、ウインチ13および走行駆動装置10によりクレーン側レール24が収納部42の棚側レール44に対向するように位置決めする。」とある。
上記記載から、甲第1号証のものにおいて、スタッカクレーン8の走行架台9は走行レール4に沿って収納部42に隣接する位置に移動し、収納部42の位置が走行架台9のレベルより低いレベルに配置されている場合には、昇降体11を低下させるようになっているものである。よって、甲第1号証には、本件請求項1に係る特許発明の構成要件Eに相当する構成が明らかに記載されている。
カ)本件請求項1に係る特許発明の構成要件Fについて
甲第1号証の第4頁右下欄第9行?同第15行には、「そして、昇降体11を上昇してトラック46の荷台上からセグメント31を持ち上げ、走行架台9を矢印B方向に走行させる。そしてストックする棚41の収納部42位置に停止させ、ウインチ13および走行駆動装置10によりクレーン側レール24が収納部42の棚側レール44に対向するように位置決めする。」とある。
上記記載から、甲第1号証のものにおいて、収納部42の位置が走行架台9のレベルより低いレベルに配置されている場合には、昇降体11を低下させるようになっているものである。よって、甲第1号証には、本件請求項1に係る特許発明の構成要件Fに相当する構成が明らかに記載されている。
キ)本件請求項1に係る特許発明の構成要件Gについて
甲第1号証の第4頁右下欄第15行?第5頁左上欄第6行には、「そして、トングス台車19の出退駆動モータ27により、出退車輪26Aを駆動し、トングス台車19を矢印C方向に突出移動させてクレーン側レール24から棚側レール44に乗り移らせ、伸縮シリンダ30により保持アーム29を伸長してセグメント31をセグメント受台43上に載せる。さらに、保持爪32を矢印I方向に解放位置(ニ)まで回動させるとともに保持アーム29を短縮し、保持アーム29を矢印E方向に待機位置(ロ)まで回動させる。その後、トングス台車19を矢印C方向に後退移動させてクレーン側レール24に戻す。これを複数回繰り返してセグメント31のストック作業は終了する。」とあり、また、第5頁左上欄第7行?同第12行には、「セグメント31をトンネル2内に供給する場合は、スタッカクレーン8によりストック作業と逆の手順で収納部42からセグメント31を取出した後、走行架台9を矢印B方向に走行させて発進坑入口3a上方で停止させ、セルガイド50に昇降体11を対向させる。」とある。
これらの記載から、甲第1号証のものにおいて、トングス台車19(本件発明の「移動ステージ」に対応)は、走行レール4に対して横に延びる構造を持ち、材料収納部所においてセグメント31を取り上げて所定位置に移動させるか、又は、セグメント31を材料収納部へ移動させて載置するようになっているものである。よって、甲第1号証には、本件請求項1に係る特許発明の構成要件Gに相当する構成が明らかに記載されている。」

(2)審判請求書第31ページ第14行?第34ページ第9行
「2)甲第2号証(特開2000-53237号公報、平成12年2月22日発行)
・・・
イ)本件請求項1に係る特許発明の構成要件Bについて
甲第2号証の段落【0012】には、「この搬送システムS´は、例えばクリーンルームの天井等に配置されて、搬送台車を誘導するための軌道13を有する搬送設備14を備えた構成とされている。」とあり、また、段落【0018】には、「移載装置40は、カセット収納体39の天井部39aに固定されたアーム(腕部)42と、アーム42によって支持されたホイスト(保持機構)43を備えた構成とされている。アーム42は、図中に二点鎖線で示すように、搬送台車21の走行方向と直交する水平方向(図中A方向)に進出・後退自在な構成とされている。」あり、また、段落【0019】には、「ホイスト43は、ワイヤー45を巻き取り・巻き出し自在なウインチ46と、ワイヤー45の先端に設けられたチャック機構47とを備えた構成となっている。チャック機構47は、図2に示すように、半導体ウェハが収納されたカセットボックス(被搬送物)49の取っ手50と係合離脱自在な構成となっており、これによりカセットボックス49を保持することが可能となっている。」とあり、また、段落【0020】には、「この移載装置40によれば、図1中鎖線で示すように、アーム42を搬送台車21の側方に延出させた状態で、ウインチ46によってワイヤー45を巻きだし、チャック機構47を降下させることが可能である。そして、チャック機構47を軌道13外に降下させた状態で、軌道13外に位置するカセットボックス49の取っ手50を図2に示すようにチャックし、さらに、チャックされたカセットボックス49を吊り上げて、アーム42を後退させれば、軌道13外に位置していたカセットボックス49を、図1中に実線で示したように、カセット収納体39内部に保持したまま収納することができる。また、これと逆の手順を行うことによって、カセット収納体39内部に保持されたカセットボックス49を軌道13外に移載することが可能である。」とある。
これらの記載から、甲第2号証のものにおいて、ホイスト43を備える移載装置40は、搬送台車21に設けられて軌道13上を走行するように構成されており、ホイスト43は、カセットボックス49を把持するチャック機構47を備え、このチャック機構47がアーム42(本件発明の「移動ステージ」に対応)によって水平移動可能に構成されている。よって、甲第2号証には、本件請求項1に係る特許発明の構成要件Bに相当する構成が明らかに記載されている。
ウ)・・・
エ)本件請求項1に係る特許発明の構成要件Dについて
甲第2号証の段落【0012】には、「軌道13の周囲には、カセットを収納するためのストッカ15,・・・や、上記ウェハを加工する製造装置16,・・・等が配置されている。」とあり、また、段落【0020】には、「チャック機構47を軌道13外に降下させた状態で、軌道13外に位置するカセットボックス49の取っ手50を図2に示すようにチャックし、さらに、チャックされたカセットボックス49を吊り上げて、アーム42を後退させれば、軌道13外に位置していたカセットボックス49を、図1中に実線で示したように、カセット収納体39内部に保持したまま収納することができる。また、これと逆の手順を行うことによって、カセット収納体39内部に保持されたカセットボックス49を軌道13外に移載することが可能である。」とある。さらに、段落【0022】には、「この搬送設備14においては、ストッカ15にカセットボックス49を移載する際に、搬送台車21側に取り付けられた移載機構40を利用できるために、ストッカ15側に移載機構(ローダ)を設ける必要がない。」とあり、また、段落【0023】には、「搬送設備14においては、搬送台車21に設けられた移載装置40を搬送台車21から側方に張り出した状態でカセットボックス49の受け渡しを行うことができる」とある。
これらの記載から、甲第2号証のものにおいては、ホイスト43(本件発明の「高架ホイスト」に対応)が製造装置16(本件発明の「加工ツールロードポート」に対応)の真上に来たときホイスト43を真下に降ろしてカセットボックス49を製造装置16に載置するか、又は製造装置16にあるカセットボックス49を真上に引き上げるように構成されている。よって、甲第2号証には、本件請求項1に係る特許発明の構成要件Dに相当する構成が明らかに記載されている。」

(3)審判請求書第46ページ第13行?第59ページ第7行
「丸3 本件特許発明と先行技術発明との対比
(請求項1)
本件請求項1に係る特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比するに、本件特許発明と甲第1号証に記載の発明との相違点は次の点にあり、その余の点において両者は一致するものである。
a)相違点1:本件特許発明においては、高架ホイスト搬送手段に設けられる移動ステージに高架ホイストが取り付けられているのに対し、甲第1号証のものでは、ウインチ13及び昇降体11等で構成される高架ホイストに、本件発明の「移動ステージ」に対応するトングス台車19が取り付けられている点。
b)相違点2:本件発明においては、高架ホイストが加工ツールロードポートの真上に来たとき該高架ホイストを真下に降ろして材料ユニットを加工ツールロードポートに載置するか、又は、高架ホイストが加工ツールロードポートにある材料ユニットを真上に引き上げるように構成されているのに対し、甲第1号証のものでは、高架ホイストがトラック46の荷台の真上又は発進坑入口3aの真上に来たとき該高架ホイストを真下に降ろして材料の取り上げ/載置を行うように構成されている点。
上記本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との上記相違点について以下に検討する。
a)相違点1について
甲第2号証には、天井に沿って走行する搬送台車21に設けられた移載装置40が、搬送台車21の走行方向と直交する水平方向に進出・後退自在な構成のアーム42を備えるとともに、アーム42によって支持されたホイスト(保持機構)43を備え、このホイスト43が、ワイヤー45を巻き取り・巻き出し自在なウインチ46と、ワイヤー45の先端に設けられたチャック機構47とを備え、チャック機構47によりカセットボックス49が保持されるようにされた構成が記載されていることが認められるから、上記相違点1、言い換えれば移動ステージに高架ホイストを取り付ける技術手段は、甲第2号証に記載されていると認めることができる。しかも甲第2号証に記載されたものはマテリアル取扱システムに関する技術であり、本件特許発明及び甲第1号証に記載された発明と同一の技術分野に属するものであるから、甲第1号証に記載の発明において、昇降体11(高架ホイスト)にトングス台車19(移動ステージ)を取り付ける構成に代えて、甲第2号証に記載のように、アーム42(移動ステージ)にホイスト43(高架ホイスト)を取り付ける構成を用い、本件特許発明のように構成することは当業者が容易に推考し得るものである。
b)相違点2について
甲第2号証には、高架ホイストにて把持した材料を直接製造装置のロードポートに載置するか、又はそのロードポートにある材料を引き上げることができるようにした技術手段が記載されている。しかも甲第2号証に記載されたものは上述のように本件特許発明及び甲第1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、甲第2号証に記載された上記の点の構成を甲第1号証に記載されたものに適用することは当業者が容易に推考し得るものである。
また、本件特許発明の効果も、甲第1号証及び甲第2号証記載のものから予測できる効果以上のものはない。
(請求項2)
・・・、甲第1号証には、請求項2に記載の「H.前記少なくとも一つの材料収納部が、複数の材料収納部であり、これらの複数の材料収納部は複数の列と複数の行を含む配列となっている」点の構成についても記載されている・・・。
(請求項3)
・・・、甲第1号証には、請求項3に記載の「I.前記複数の材料収納部が、軌道の第1の側にそれぞれ複数の列と行をなして配列してなる第1の複数の材料収納部と、軌道の第2の側にそれぞれ複数の列と行をなして配列してなる第2の複数の材料収納部とを有する」点の構成についても記載されている・・・。
(請求項4)
・・・、甲第3号証には、材料収納部としての物品載置台11が天井から懸架されるとともに、案内レール1の側方に配置されるように構成された点が記載されており、・・・。
(請求項5)
・・・、甲第3号証には、複数の物品載置台11が天井から懸架されるように構成された点が記載されており、・・・。
(請求項6)
・・・、甲第4号証には、材料収納部の機能を備えたベルトコンベア42がレール1(軌道)の第1の側から懸架された点が記載されており、・・・。
(請求項7)
・・・、甲第3号証には、複数の物品載置台11が天井から懸架されるように構成された点が記載されており、・・・。
(請求項8)
・・・、甲第5号証には、前開き一体型ポッド(FOUP)の構成が記載されており、・・・。
(請求項9)
・・・、甲第2号証には、請求項9に記載の「O.材料ユニットは、少なくとも一つの仕掛品(WIP)部品である」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項10)
・・・、甲第1号証には、請求項10に記載の「P.少なくとも一つの材料収納部は、複数の材料収納部からなり、これらの複数の材料収納部は、軌道の第2の側に配置される少なくとも一つの材料収納部を含み、前記軌道の第2の側は軌道の第1の側の反対側である」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項11)
・・・、甲第1号証には、請求項11に記載の「Q.前記高架ホイスト搬送手段は、前記高架ホイストを懸架軌道に沿って前記材料収納部に隣接する第2の位置に移動させるようになっていて、」及び「R.前記移動ステージは、前記懸架軌道に対して横に延びる構造を持ち、材料収納部において材料ユニットを吊上げて前記第2の位置に移動させるか、又は、材料ユニットを前記第2の位置から材料収納部へ移動させて載置するようになっている」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項12)
本件請求項12に係る特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比するに、本件特許発明と甲第1号証に記載の発明との相違点は次の点にあり、その余の点において両者は一致するものである。
a)相違点1:本件特許発明においては、高架ホイスト搬送手段に設けられる移動ステージに高架ホイスト及びホイスト把持部が取り付けられているのに対し、甲第1号証のものでは、ウインチ13及び昇降体11等で構成される高架ホイストに、トングス台車19(本件発明の「移動ステージ」に対応)及び保持アーム29(本件発明の「ホイスト把持具」に対応)が取り付けられている点。
b)相違点2:本件発明においては、高架ホイストが加工ツールロードポートの真上に来たとき該高架ホイストを真下に降ろして材料ユニットを加工ツールロードポートに載置するか、又は、高架ホイストが加工ツールロードポートにある材料ユニットを真上に引き上げるように構成されているのに対し、甲第1号証のものでは、高架ホイストがトラック46の荷台の真上又は発進坑入口3aの真上に来たとき該高架ホイストを真下に降ろして材料の取り上げ/載置を行うように構成されている点。
上記本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との上記相違点について以下に検討する。
a)相違点1について
甲第2号証には、天井に沿って走行する搬送台車21に設けられた移載装置40が、搬送台車21の走行方向と直交する水平方向に進出・後退自在な構成のアーム42を備えるとともに、アーム42によって支持されたホイスト(保持機構)43を備え、このホイスト43が、ワイヤー45を巻き取り・巻き出し自在なウインチ46と、ワイヤー45の先端に設けられたチャック機構47とを備え、チャック機構47によりカセットボックス49が保持されるようにされた構成が記載されていることが認められるから、上記相違点1、言い換えれば移動ステージに高架ホイスト及びホイスト把持部を取り付ける技術手段は、甲第2号証に記載されていると認めることができる。しかも甲第2号証に記載されたものはマテリアル取扱システムに関する技術であり、本件特許発明及び甲第1号証に記載された発明と同一の技術分野に属するものであるから、甲第1号証に記載の発明において、昇降体11(高架ホイスト)にトングス台車19(移動ステージ)及び保持アーム29(ホイスト把持具)を取り付ける構成に代えて、甲第2号証に記載のように、アーム42(移動ステージ)にホイスト43(高架ホイスト)及びチャック機構47(ホイスト把持具)を取り付ける構成を用い、本件特許発明のように構成することは、当業者が容易に推考し得るものである。
b)相違点2について
甲第2号証には、高架ホイストにて把持した材料を直接製造装置のロードポートに載置するか、又はそのロードポートにある材料を引き上げることができるようにした技術手段が記載されている。しかも甲第2号証に記載されたものは上述のように本件特許発明及び甲第1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、甲第2号証に記載された上記の点の構成を甲第1号証に記載されたものに適用することは当業者が容易に推考し得るものである。
また、本件特許発明の効果も、甲第1号証及び甲第2号証記載のものから予測できる効果以上のものはない。
(請求項13)
・・・、甲第1号証には、請求項13に記載の「Y.少なくとも一つの材料収納部は、懸架軌道の第1の側の所定レベルに配置された第1の材料収納部と、懸架軌道の第2の側の所定レベルに配置された第2の材料収納部を含み、前記懸架軌道の第2の側は懸架軌道の第1の側の反対側である」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項14)
・・・、甲第1号証には、請求項14に記載の「Z.移動ステージは、さらに、懸架軌道の第2の側に向かって横に延びることにより、ホイスト把持具を、高架ホイスト搬送手段に隣接する第1の位置から第2の材料収納部の第3の位置へ移動させるものであり、これにより、ホイスト把持具が少なくとも一つの材料ユニットを、第2の材料収納部において吊持するかまたは材料収納部へ載置することが可能となる」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項15)
・・・、甲第1号証には、請求項15に記載の「AA.前記少なくとも一つの材料収納部が懸架軌道の側で実質的に並行に一つの列となって配列される複数の材料収納部からなる」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項16)
・・・、甲第1号証には、請求項16に記載の「AB.前記少なくとも一つの材料収納部が懸架軌道の側で実質的に並行に多重列となって配列される複数の材料収納部からなる」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項17)
・・・、甲第1号証には、請求項17に記載の「AC.前記複数の材料収納部が、複数の列と複数の行を含むように配列されている」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項18)
・・・、甲第1号証には、請求項18に記載の「AD.前記少なくとも一つの材料収納部は、懸架軌道の第1の側に列で配置される第1の複数の材料収納部と、懸架軌道の第2の側に列で配置される第2の複数の材料収納部からなり、懸架軌道の第2の側は、懸架軌道の第1の側の反対側である」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項19)
・・・、甲第3号証には、材料収納部としての物品載置台11が天井から懸架されるとともに、案内レール1の側方に配置されるように構成された点が記載されており、・・・。
(請求項20)
・・・、甲第3号証には、複数の物品載置台11が天井から懸架されるように構成された点が記載されており、・・・。
(請求項21)
・・・、甲第1号証には、請求項21に記載の「AG.前記少なくとも一つの材料収納部は、懸架軌道の第1の側で多重列で配置される第1の複数の材料収納部と懸架軌道の第2の側で多重列で配置される第2の複数の材料収納部からなり、懸架軌道の第2の側は懸架軌道の第1の側の反対側である」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項22)
・・・、甲第1号証には、請求項22に記載の「AH.前記第1と第2の複数の材料収納部がそれぞれ列に配列し、それぞれは複数の列と複数の行を含む」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(請求項23)
・・・、甲第4号証には、複数の材料収納部の機能を備えたベルトコンベア42がレール1(軌道)の第1の側及び第2の側で懸架された点が記載されており、・・・。
(請求項24)
・・・、甲第3号証には、複数の物品載置台11が天井から懸架されるように構成された点が記載されており、・・・。
(請求項25)
・・・、甲第3号証には、移動体3(高架ホイスト)の第1の側で物品載置台11が天井から懸架されるように構成された点が記載されており、・・・。
(請求項26)
・・・、甲第3号証には、少なくとも一つの物品載置台11が天井から懸架されるように構成された点が記載されており、・・・。
(請求項27)
・・・、甲第5号証には、前開き一体型ポッド(FOUP)の構成が記載されており、・・・。
(請求項28)
・・・、甲第2号証には、請求項28に記載の「AN.材料ユニットは、少なくとも一つの仕掛品(WIP)部品からなる」点の構成についても記載されていることから、・・・。
(5)結び
以上のとおり、本件の請求項1?3,9?18,21,22,28に係る特許発明は、甲第1,2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件の請求項4,5,19,20,25,26に係る特許発明は、甲第1?3号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件の請求項6,23に係る特許発明は、甲第1,2,4号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件の請求項7,24に係る特許発明は、甲第1?4号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件の請求項8,27に係る特許発明は、甲第1,2号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきものである。」

(4)口頭審理陳述要領書第3ページ第10行?第9ページ第19行
「3)相違点1に関し、「甲2は吊り下げではなく、基本構造が異なるが、なぜ適用可能か」について
本件発明が対象とする半導体製造のためのマテリアル取扱システムの技術分野において、甲2のようにレール上を走行するタイプの天井搬送車(OHS;Over Head Shuttle)と、吊り下げ式の天井搬送車(OHT;Overhead Hoist Transfer)とは共に採用されております。このことを示す資料として、参考文献1(特開2000-188316号公報)および参考文献2(特開2001-144169号公報)を提示します。・・・
これらの記載から明らかなように、甲1のように天井に配されたレールに吊り下げられて走行する形式の天井走行用搬送車と、甲2のように天井に配されたレール上を走行する形式の天井走行用搬送車とは、相互に代替可能な並列的な手段であり、しかも、甲1のものと甲2のものとは、貯蔵部(倉庫)に隣接する天井に設置されたレールに沿って走行して該貯蔵部に対して被搬送物の搬出入を行うという作用、機能が共通していて、十分な動機付けを有していることから、搬送台車の基本構造が異なることを理由に、甲1に甲2に適用したり、甲1と甲2とを結びつけたりすることを否定し得るものではないと判断されます。
4)相違点1に関し、「甲2のアーム42の進退は下方にある台車21が邪魔なためではないのか」について
・・・
これらの記載から明らかなように、甲2においてアーム42を進退させるのは、軌道12の周囲に配置されたストッカ15や製造装置16にカセットボックス49を移載したり、それらストッカ15や製造装置16からカセットボックス49を保持してカセット収納体39内部に収納するためであり、言い換えればストッカ15等の側に移載装置を設けることなく、カセットボックス49を軌道13外に移載することができるようにするためであります。したがって、アーム42の下方にある台車21が邪魔になるから該アーム42を進退させるものであるという被請求人の解釈は妥当性を欠いているものであります。
5)相違点1に関し、「甲1のものを置き換える『積極的』動機はあるか」について
「甲1のものを置き換える」という意味は、「甲1の移載装置を、甲2の移載装置に置き換える」という主旨であると解釈して、以下に、請求人の見解を述べることとします。
一般に、自動倉庫におけるマテリアル取扱システムの技術分野において、甲1のように、高架ホイスト搬送手段(走行架台9)に高架ホイスト(昇降体11)を配設し、この高架ホイストに横方向に出退自在な移動ステージ(トングス台車19)を備えた構造のものは周知慣用であり、また、その移動ステージにて物品をラック(棚)に搬入するのに、この移動ステージをラックの位置まで水平移動させた後、下方へ垂直移動させるようにすることも、周知慣用技術であります。ここで、周知例として、参考文献3(特開平5-77906号公報)および参考文献4(特開平3-31103号公報)を提示します。
・・・
これらの周知技術等を踏まえれば、甲1の移載機構は、セグメント31を収納部42のセグメント受け台43上に移載するのに、トングス台車19を横方向に移動させた後、下方へ垂直移動させる構成を採り得るというのがごく自然な解釈であります。
・・・
甲2の移載機構40においても、チャック機構47にて保持されたカセットボックス49を例えばストッカ15に移載する際には、アーム42を搬送台車21の側方に延出(水平移動)させた状態で、ウインチ46によってワイヤー45を巻きだし、チャック機構47を降下させるようにしてカセットボックス49を垂直移動させるように構成されているものであります。
したがって、甲1の移載装置も、甲2の移載装置も、貯蔵部に被搬送物を移載するのに、その被搬送物を把持する把持部を所定位置まで水平移動させた後、その所定位置から下方へ垂直移動させるという作用、機能において共通性があると解することができるので、甲1の移載装置を甲2のものに置き換える積極的動機を有しているものと判断されます。
・・・
7)相違点1に関し、「甲1に甲2を適用すると、高架ホイストの昇降機構と棚とが干渉してしまうのではないか。」について
例えば参考文献3に示されているように、甲1のトングス台車に相当するドーリ台車6において、物品吊り下げ機構(アーム部17)を上下動させる構造のものが従来周知であるから、甲1に甲2を適用するに際して、高架ホイストの昇降機構と棚とが干渉しないような構成とすることは、当業者が当然に選択し得る設計上の事項に過ぎないものと判断されます。
8)相違点3に関し、「甲1はレールを対向させており、基本構造が異なるが、なぜ適用可能か。」について
本件発明1においては、請求項上、「前記移動ステージは、前記懸架軌道に対して横に延びる構造を持ち」と規定されているに過ぎず、甲1のような「クレーン側レール24と棚側レール44とを対向させた」構成を除外している訳ではないので、本件発明1と甲1発明の1との相違点として、相違点3を挙げることは妥当ではないと判断されます。また、たとえ相違点3が存在していると認められたとしても、既に説明したとおり、甲1のトングス台車を、甲2のアーム42に置き換えることは、周知技術等を踏まえると、当業者が容易になし得ることであって、基本構造の差異は本質的な差異ではないと判断されます。」

(5)口頭審理陳述要領書(2)第2ページ第6行?第7ページ第19行
「第2 本件発明1(請求項1)について
「甲1発明の1、一致点、相違点の認定についての見解。」について
甲1発明の1、一致点、相違点の認定については異存ありません。
第3 本件発明12(請求項12)について
「甲1発明の2、一致点、相違点の認定についての見解。」について
甲1発明の2、一致点、相違点の認定については異存ありません。
第4 判断
1)相違点1について
1-1)進歩性欠如の主張の主旨
相違点1に関しての請求人の主張の主旨は、「甲2には、移動ステージ(アーム42)に高架ホイスト(ホイスト43)を取り付ける手段が記載されているから、甲1の高架ホイストに移動ステージを取り付けるものに代え、移動ステージに高架ホイストを取り付ける構成とすることは当業者が容易になし得ることである。」という点にあります。そして、その進歩性の存在を否定する動機づけの根拠として、丸1 技術分野の関連性、及び、丸2 課題の共通性を挙げることができます。なお、要領書の「積極的動機」に関し、参考文献3,4を提出し、作用、機能の共通性を主張したのは、上記丸1丸2の動機づけの根拠に加えて、更に作用、機能の共通性の点でも積極的動機があるということを主張する主旨であり、元々の主張の主旨を変更するものではありません。
・・・
1-2)甲1と甲2の移動経路の違いについて
要領書第8頁第18行?第22行における説明は、以下の主旨に基づくものであります。
すなわち、甲1は、高架ホイスト搬送手段に上下動のための高架ホイストを設けるとともに、高架ホイストに横方向に出退自在な移動ステージを設けた構造であり、・・・
移動ステージ(トングス台車19)を横方向に移動させた後、物品(セグメント31)を棚上に載置する際に、物品保持具(保持アーム29)を伸長させるように構成されたものであります。なお、この種の自動倉庫に関する分野において、物品を棚に載置するのに、物品保持部を棚上まで水平移動させた後、下方へ垂直移動させるという技術は、当業者にとって自明のことであり、例えば参考資料3,4に記載のように周知技術に属するものであります。この点に鑑み、甲1の移載装置においても、甲2と同様の移動経路を採り得ると解されるので、甲1と甲2とでは移動経路は異なることがないと判断されます。
1-3)置き換えの積極的動機について
上記1-1)進歩性欠如の主張の主旨にて言及しましたように、甲1と甲2とは、丸1技術分野の関連性、及び、丸2課題の共通性を有しており、甲1のものを甲2に置き換える積極的動機を有しております。
また、以下に説明するように、荷が軽量であることは、甲1の昇降体にトングス台車を取り付ける構成に代えて、甲2のアームにホイストを取り付ける構成を採用する積極的動機になると判断されます。
すなわち、参考文献3,4は、「多段の棚設備に対してスライドフォークをラックの中に入れて物品を載置する天井走行車が公知であること」を示しています。
一方、甲2には、片持ち荷重の問題につき、カウンターウェイトやアウトリガーの採用可否はカセットボックス(荷)の重量によって選択すべき旨の記載(段落【0024】【0025】参照)があります。つまり、荷が軽量の場合には、スライドフォークをラックの中へ入れて物品を載置する公知の天井走行車の構成に、スライドフォークに高架ホイストを取り付ける甲2の技術手段を採用することに困難性はありません。
・・・
したがって、甲1及び甲2の開示をもって、荷が軽量の場合、スライドフォークをラックの中へ入れて物品を載置する公知の天井走行車の構成に、スライドフォークに高架ホイストを取り付ける甲2の技術手段を採用することは容易であると判断されます。寧ろ、「移載する物品が軽量であること」が、甲1に甲2の構成を採用する「積極的動機」になっていると言うべきであります。
1-4)棚との干渉について
甲2に記載された「カセットを収納するためのストッカ15」(段落【0012】)や、「各工程2,・・・毎に設けられたストッカ3,・・・」(段落【0002】)の棚に移載装置40にて移載する際には、チャック機構47によりカセットボックス49を吊り上げて、アーム42を棚上まで延出させた状態で、チャック機構47を降下させることで棚にカセットボックス49を載置してチャックを解除するという手順が採られることになります。参考文献3に言及したのは、この甲2と同様の作用をする物品吊り下げ機構が周知であるということを示すためであり、上下動機構を2つ設けることを意図するものではありません。
2)相違点3について
・・・
しかしながら、被請求人が主張するように、甲1の台車・レール形が、「横に延びる構造」から除外されると判断できたとしても、以下に述べる理由によって、そのような構成の変更は当業者が容易に想到し得るものであります。
すなわち、甲1のトングス台車19による移載機構も、甲2のアーム42による移載機構も、吊り下げた物品を収納棚の所定位置まで水平移動させてその収納棚上に載置するという共通の機能を有しており、しかも、従来より、自動倉庫と搬送装置との間で物品の移載を行う場合に、その移載の過程で収納棚等に載置する際に物品を昇降移動させる必要があることは当業者にとって自明の事項である(例えば参考文献3,4参照)から、甲1のトングス台車を、甲2のアーム42に置き換えることは当業者が容易に想到し得る事項であると判断されます。」

(6)口頭審理陳述要領書(3)第2ページ第2行?第4ページ第15行
「1)相違点1及び4
1-1)「被請求人主張の『吊下形にアーム等を設ける必要性はない』点」について
・・・、甲2及び参考文献1,2のいずれの天井走行車においても、被搬送物を棚に載置するために用いられていることからすると、馬乗り形の天井走行車OHSであっても、吊り下げ形の天井走行車OHTであっても、棚内に被搬送物を入れるためのアームは必要なものであります。したがって、吊り下げ形の天井走行車OHTの場合にはアームを用いる必要性はないとする上記主張は明らかに誤っております。
1-2)「甲2においてストッカ15、製造設備16が軌道側方に配置されているのは、馬乗形ゆえの必然的なものという点についての見解。」について
ストッカ等を天井走行車の軌道側方に配置することは、この種の搬送システムを設計する際に通常採用される一般的な手段であり、参考文献1,2のものも、そのような配置となっていることからも明らかであります。その理由は、搬送台車とストッカとの間で被搬送物をスムーズかつ速やかに移載できるようにするためであり、これは天井走行車の形式が、吊り下げ形であっても、馬乗り形であっても、その形式に関係するものではありません。・・・。
1-3)「参考文献3,4は、保持部が棚内部に侵入するような水平移動後、棚内部で載置のために上下移動するものであるから、「棚」との関係において、技術的意義が異なるのではないか。」について
被搬送物の「棚」へのスムーズな移載のために、水平移動後に上下移動する機能を有している点において、同義と言え、技術的意義が異なるものではありません。
1-4)・・・。
2)相違点3及び6
・・・
2-1)『共通の機能』は理解できるが、台車・レール形である参考文献3、4がなぜ根拠となるのか。
参考文献3の図8に着目いただきたい。図8に記載された従来例のものは、台車・レール形ではなく、軽量物を移載するスライドフォーク形であります。
2-2)相違点3と昇降移動の必要性と、いかなる関係があるのか。
棚へのスムーズな載置及び棚からのスムーズな取り出しを行うには昇降移動は必要であり、この点においても甲1と甲2は共通の機能を有しているものでありますから、甲1を甲2に置き換える動機付けを有しております。」

(7)口頭審理調書の請求人欄
「2 無効2012-800047について
(1)甲第1号証に甲第2号証を適用する動機は、分野、機能、課題が共通する点である。
(2)甲第1号証の実施例は複数棚であるが、甲第1号証の移載装置としては棚の形態と無関係である。」

第4.被請求人の主張
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。
その主張の概要は、以下のとおりである。

(1)答弁書第13ページ第20行?第19ページ第21行
「第5 本件発明1と甲第1号証の発明との対比
・・・。
2.相違点1及び相違点2
(1) 相違点1
本件発明1においては、構成要件Bに規定したように、移動ステージに高架ホイストが取り付けられているが、甲第1号証の発明では、昇降体11がトングス台車19を備えている点。
(2) 相違点2
本件発明1においては、構成要件Gに規定したように、移動ステージが、懸架軌道に対して横に延びる構造を持ち、材料収納部所において材料ユニットを取り上げて第1の位置に移動させるか、又は、材料ユニットを第1の位置から材料収納部へ移動させて載置するようになっているが、甲第1号証の発明では、トングス台車(保持台車)19が、クレーン側レール24から棚側レール44に乗り移り、又は、棚側レール44からクレーン側レール24に戻るようになっている点。
3.相違点1を得ることの困難性
(1) 甲第2号証には、上述したように、軌道13と、この軌道13の底面上を走行する搬送台車21と、この搬送台車21の上方に設けられた移載装置40を備えた搬送設備が記載されている。この甲第2号証の移載装置40は、アーム42と、このアーム42により支持されたホイスト43を備えている。アーム42は、水平方向に進出・後退自在である。このアーム42が水平方向に進出した場合には、図2において二点鎖線で示されているように、「片持ち」状態となっている。ホイスト43は、ワイヤー45を巻き取り・巻き出し自在なウインチ46と、ワイヤー45の先端に設けられたチャック機構47とを備え、チャック機構47は、半導体ウェハが収納されたカセットボックス49と係合離脱可能となっており、これにより、カセットボックス49を保持することができるようになっている。さらに、アーム42が水平方向に進出した状態で、カセットボックス49を保持したホイスト43が下降上昇(垂直方向移動が)できるようになっている。
このように、甲第2号証の搬送システムでは、水平方向に進出・後退自在のアーム42に、垂直方向移動可能なホイスト4が取り付けられ、このホイスト4がカセットボックス49を保持している。
(2) 次に、この甲第2号証に記載されたアーム42を甲第1号証に適用して相違点1を得ることが容易でない(困難である)ことを説明する。
第1に、甲第2号証に記載された搬送設備は、搬送台車21が軌道13の底面上を走行し、さらに、カセットボックス49を移載するための移載装置40が、搬送台車21の上方で懸架されたものであり、本件発明1のマテリアル・ユニットを吊り下げるタイプの「オーバーヘッド搬送車」、及び、同様な構造の甲第1号証の「自走式走行架台9」とは、基本構造が異なるものである。それゆえ、相違点1を得るために、甲第2号証の搬送設備の技術を搬送台車(搬送車)の基本構造の異なる甲第1号証の搬送システムに適用することが容易であると言うためには、何らかの動機付けが必要である。しかしながら、甲第2号証には、マテリアル・ユニットを吊り下げるタイプの「オーバーヘッド搬送車」に適用出来る等の示唆は何ら記載されていない。
第2に、甲第2号証の搬送設備において、移載装置40が、水平方向に進出・後退自在なアーム42と、このアーム42によって支持されたホイスト(保持機構)43を備え、このホイスト43を上下移動(垂直移動)させることにより、カセットボックス49を搬送するようになっている。甲第2号証の搬送設備において、アーム42を水平方向に進出・後退自在な構成としたのは、カセットボックス49を移載するための移載装置40が、搬送台車21の上方で懸架されているので、本来的に必要な動作であるホイスト43を上下移動させるために、その前提として、先ず、アーム2により、ホイスト43を搬送台車21から横方向に離間した位置に移動させる必要があるからである。このように、甲第2号証のアーム42は、移載装置40が、搬送台車21の上方で懸架された形式のものに、固有で且つ必須のものである。一方、甲第1号証の倉庫設備は、本件発明1と同様な、マテリアル・ユニットを吊り下げるタイプの「オーバーヘッドホイスト搬送車」を用いており、マテリアル・ユニットを垂直移動させるために、その前提として、昇降体11を横方向に移動させる必要がないものである。従って、甲第1号証の倉庫設備においては、甲第2号証のアーム42を設ける必要性がないので、甲第2号証のアーム42をトングス台車19の代わりに設けようとすることを想定するのは困難である。
第3に、甲第1号証の倉庫設備においては、トングス台車19が設けられ、このトングス台車31により、搬送経路1の横方向に配置された棚41に、セグメント31を移載するようになっている。それゆえ、甲第1号証の倉庫設備においては、セグメント31を横方向に移動するためにトングス台車19が既に設けられているので、このトングス台車に代えて、甲第2号証のアーム42を用いる必要性がなく、また、それゆえ、当然に、それを示唆する記載もない。
第4に、甲第1号証には、上述したように、その3頁左上欄2行?6行に「また、荷は保持台車を棚側レールに突出移動させて棚に積み卸しするのでスタッカクレーンの昇降体に片持ち荷重が加わることがなく、大重量の荷もスムーズに移動することができる。」との記載がなされている。
この記載は、甲第1号証の倉庫設備において、トングス台車(保持台車)を使用することにより、大重量の荷を移動するとき昇降体に片持ち荷重が加わることを防止した、ことを意味している。
甲第1号証の倉庫設備において、昇降体11に設けられたトングス台車18に代えて、甲第2号証に記載のアーム42を設けた場合には、アーム42がセグメントを保持するので、「片もち荷重が加わる」ことになるので、上述した甲第1号証の記載は、まさに、阻害要因となるべきものである。
第5に、仮に、甲第1号証の倉庫設備において、昇降体11に設けられたトングス台車18に代えて、甲第2号証に記載のアーム42を設けた場合には、トングス台車18に取り付けられている保持アーム29がアーム42にも取り付けられることになり、その結果、保持アーム29が取り付けられたアーム42がウインチ13により垂直移動することになる。しかしながら、この保持アーム29が取り付けられたアーム42が上下動する構造は、本件発明1とは異なるものである。
以上説明したように、上述した第1、第2、第3、第4、第5の理由から、相違点1を得ることは困難である。
4.相違点2を得ることの困難性
(1) 本件発明1の移動ステージは、懸架軌道に対して横に延びる構造を持ち、材料収納部所において材料ユニットを取り上げて第1の位置に移動させるか、又は、材料ユニットを第1の位置から材料収納部へ移動させて載置するようになっており、さらに、移動ステージは、材料ユニットを搬送するとき常に高架ホイスト搬送手段から離れることはない。これに対し、甲第1号証の倉庫設備におけるトングス台車19は、クレーン側レール24から棚側レール44に乗り移り、又は、棚側レール44からクレーン側レール24に戻るようになっており、トングス台車19自体が、クレーン側から棚側に移動するものである。このように、本件発明1の「移動ステージ」と、甲第1号証の「トングス台車」は、機械構造や機能が異なるものである。それゆえ、甲第1号証のトングス台車を移動ステージに代えることが容易であるとするためには、何らかの動機付け、示唆等が必要であるが、このようなものは、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにもなされていない。
(2) 甲第1号証には、セグメント31を横方向に移動して棚41に移すために、トングス台車19を使用し、このトングス台車19が、クレーン側レール24から棚側レール44に乗り移り、又は、棚側レール44からクレーン側レール24に戻るようになっている。このようなトングス台車19を使用した理由は、甲第1号証3頁左上欄2行?6行に「また、荷は保持台車を棚側レールに突出移動させて棚に積み卸しするのでスタッカクレーンの昇降体に片持ち荷重が加わることがなく、大重量の荷もスムーズに移動することができる。」と記載されているように、大重量の荷を移動するとき昇降体に片持ち荷重が加わることを防止するためである。一方、甲第2号証のアーム42には、水平方向に進出した状態では、「片持ち荷重が加わる」ことは明らかである。それゆえ、この甲第1号証の記載は、甲第1号証の倉庫設備において、トングス台車18に代えて、甲第2号証に記載のアーム42を適用しようとする場合には、まさに、阻害要因となるべきものである。
以上説明したように、上述した理由から、相違点2を得ることは困難である。
・・・
第7 本件発明12について
・・・
相違点1
本件発明12においては、構成要件Tに規定したように、移動ステージに高架ホイスト及びホイスト把持部が取り付けられているが、甲第1号証の発明では、昇降体11がトングス台車19を備えている点。
相違点2
本件発明12においては、構成要件Xに規定したように、移動ステージが、少なくともホイスト把持具が材料収納部とほぼ同じレベルに位置する間は、ホイスト把持具を高架ホイスト搬送手段に隣接する第1の位置から材料収納部の第2の位置に向かって延びることにより移動させるものであり、これにより、ホイスト把持具が少なくとも一つの材料ユニットを材料収納部において吊持ちするかまたは材料収納部へ載置することが可能となっているが、甲第1号証の発明では、トングス台車(保持台車)19が、クレーン側レール24から棚側レール44に乗り移り、又は、棚側レール44からクレーン側レール24に戻るようになっている点。
(2) これらの相違点1と相違点2を得ることが容易でない(困難である)理由は、上述した本件発明1と甲第1号証との相違点1及び相違点2で述べた理由と同様である。」

(2)口頭審理陳述要領書第5ページ第21行?第8ページ下から2行
「1.相違点1について
丸1 審理事項通知書6頁10行?17行において、以下の3つの事項を指摘している。
「移動ステージ、高架ホイストにより直交2方向に移動する場合、高架ホイスト搬送手段に、移動ステージと高架ホイストのいずれを備えるかは、二者択一にすぎないのではないか。」(第1の指摘事項)
「甲2も、軌道の第1の側にあるストッカ15との搬入出を行うから、アーム42の進退の目的は、甲1同様ではないか(答弁書5.3.(2)の「第2」。)」(第2の指摘事項)
「片持ち荷重の問題は、搬送物の重量にもよるから、阻害要因とまでは言えないのではないか(同「第4」)。」(第3の指摘事項)
これらの指摘事項に対し、被請求人は、以下の意見を述べる。
丸2 第1の指摘事項について
・・・。しかしながら、高架ホイスト搬送手段に移動ステージを備える(本件発明1)か、高架ホイスト搬送手段に高架ホイストを備える(甲1)かは、以下説明するように、二者択一とは言えない。
先ず、高架ホイスト搬送手段に高架ホイストのみを設け、高架ホイスト搬送手段を移動させながら、高架ホイストにより物品を昇降させることにより、物品を所望の場所に搬送するのが、材料搬送システムの基本構造である。材料搬送システムにおいて、横方向移動可能な移動ステージは、原則、不要である。
この基本構造である材料搬送システムを前提に考えると、高架ホイストのホイスト把持具は下端に取り付けられているので、ホイスト把持具の取り付け箇所を横方向に移動させるのが、普通である。甲1の自動倉庫においても、この構造が採用されている。もっとも、甲1の自動倉庫においては、大重量の荷物を搬送するために、トングス台車19を用い、さらに、棚41上に棚側レール44を設け、トングス台車19が棚側レール44に乗り移るようにすることにより、片持ち荷重による問題を解決している。
さらに、甲2の搬送設備も、ホイスト43を垂直移動させてカセットボックス49を所定の場所に積み卸し且つ所定の場所から取り上げるものであり、ホイスト43による昇降動作が基本である。しかしながら、甲2の搬送設備は、ホイスト43を備えた移載装置40が搬送台車21の台車本体22の真上に搭載されているので、ホイスト43を垂直移動させる際、真下にある台車本体22が邪魔になるので、アーム42により、ホイスト43を邪魔にならない位置まで横方向に移動させているのである。このように、甲2の搬送設備も、ホイスト43による昇降動作が基本であり、この基本の昇降動作が可能となるように、アーム42によりホイスト43を横方向に移動させているのである。
以上から、高架ホイスト搬送手段に、移動ステージと高架ホイストのいずれを備えるかが、二者択一ではないことは、明らかである。
丸3 第2の指摘事項について
この第2の指摘事項も、以下説明するように、認められない。
先ず、被請求人提出の答弁書15頁下から3行?16頁14行において既に説明しているように、甲第2号証の搬送設備において、カセットボックス49を移載するためのホイスト43を備えた移載装置40が、搬送台車21の台車本体22の真上に搭載されているので、カセットボックス49をホイスト43により上下移動(垂直移動)させて所定の場所に積み卸し且つ所定の場所から取り上げるためには、真下にある台車本体22が邪魔になる。そのため、甲2の搬送設備では、最初に、アーム42により、ホイスト43を備えた移載装置40を搬送台車21から横方向に離間した位置まで移動させ、この状態で、ホイスト43を上下移動させるようにしている。このように、甲2のアーム42の進退は、ホイスト43による昇降動作が可能となるように行うものであり、移載装置40が台車本体22の上方に搭載されている搬送台車21に固有の機能である。
一方、甲1の倉庫設備は、本件発明1と同様な、マテリアル・ユニットを吊り下げるタイプの「オーバーヘッドホイスト搬送車」を用いており、マテリアル・ユニットを垂直移動させるために、その前提として、昇降体11を横方向に移動させる必要がないものである。従って、甲2のアーム42を設けた目的と、甲1のトングス台車19を設けた目的とは、異なっている。
丸4 第3の指摘事項について
答弁書16頁22行?17頁3行に記載したように、甲1の倉庫設備においては、トングス台車(保持台車)19を使用し、さらに、このトングス台車19が棚41に設けられた棚側レール44に乗り移ることにより、大重量の荷を移動するとき昇降体11に片持ち荷重が加わることを防止するようになっている。この甲1の倉庫設備において、昇降体11に設けられたトングス台車19に代えて、甲2のアーム42を設けた場合には、アーム42がセグメントを保持することになり、その結果として、「片もち荷重が加わる」ことになるので、これが、甲1に甲2を適用することに関し「阻害要因」となると考えられる。甲1の倉庫設備は、大重量の荷を搬送するものであり、この甲1を主引例にする限り、「片もち荷重が加わる」ことは「阻害要因」となるのは明らかである。
仮に、甲1の記載内容と異なるが、荷重が小さい場合には、「片もち荷重が加わる」ことにはならないが、この場合であっても、甲1のトングス台車19に代えて甲2のアーム42を設けても、移動ステージに高架ホイストを設けた本件発明1とは成り得ないものである。
2.相違点3について
合議体は、相違点3に関し、審理事項通知書6頁24行?25行に「甲1がレールによるとしても、請求項上、除外していないのでは。甲2のものを適用すれば、おのずと、レールは不要となるのでは。」と指摘している。しかしながら、この指摘も、以下に説明するように認められない。
先ず、本件発明1は「前記移動ステージは、前記懸架軌道に対して横に延びる構造を持ち」と限定されているように、「横に延びる構造」のものに限られている。一方、甲1の倉庫設備では、クレーン側レール24から棚側レール44に乗り移るトングス台車19を用いているが、このような走行する台車は、明らかに「横に延びる構造」ではなく、さらに、台車が棚側レール44に乗り移るので、このようなトングス台車19を用いたものは、本件発明1には含まれない、即ち、除外しているのである。
さらに、甲1に甲2のものを適用すれば、おのずと、レールは不要となると指摘されているが、甲1のトングス台車19に代えて甲2のアーム42を適用することが容易でない理由は、答弁書17頁14行?18頁12行において説明済みである。」

(3)口頭審理陳述要領書(2)第4ページ第1行?第7ページ第6行
「2.本件発明1(請求項1)について
「甲1発明の1の認定」、「一致点の認定」及び「相違点の認定」は、いずれも認める。
3.本件発明12(請求項12)について
「甲1発明の2の認定」、「一致点の認定」及び「相違点の認定」は、いずれも認める。
4.判断
(1) 相違点1
丸1「吊下げ走行、レール上走行は、いずれも周知で、相互置換可能とする請求人主張についての見解」
・・・。もっとも、参考文献1及び2のいずれにも、吊り下げ形の天井走行車OHTは、昇降機構により、容器を昇降させることが具体的に記載されているが、馬乗り形の天井走行車OHSについては、昇降機構等の具体的な構造は何も記載されていない。馬乗り形の天井走行車OHSにおいて、吊り下げ形の天井走行車OHTと同様な昇降機能を達成するためには、容器の昇降に台車が邪魔になるので、例えば、甲2に記載されたようなアームが必要となる。一方、吊り下げ形の天井走行車OHTには、容器の昇降のために、台車が邪魔になることはないので、あえて、アームを用いる必要性はない。それゆえ、当業者であれば、吊り下げ形の天井走行車OHTと馬乗り形の天井走行車OHSに互換性があるような使用状況下では、馬乗り形の天井走行車OHSにのみにアーム等が必要である、即ち、吊り下げ形の天井走行車OHTにアーム等を設ける必要性はない、と理解するのが普通である。
次に、甲2において、アーム42によりホイスト43を移動させているのは、ホイスト43を昇降動作させる際に台車が邪魔になるからであり、これにより、ホイスト43の基本動作である昇降動作が可能となる。一方、甲1においては、昇降する昇降体11に横方向に走行するトングス台車19が既に設けられているので、さらに、甲2のアームのようなものを設ける必要性(動機付け)がない。仮に、甲1において、トングス台車の代わりに甲2のアームを設けたとしても、昇降体にアームを設けることになり、移動ステージに高架ホイストを取り付けた本件発明1とは、異なる構造のものとなる。
このように、参考文献1及び2に、吊り下げ形の天井走行車OHTと馬乗り形の天井走行車OHSが相互に使用可能なことが記載されていても、そのことから、直ちに、甲2のアームを甲1に適用するのは容易であるとするのは、飛躍があり、合理的な理由を見出すことはできない。
丸2「請求人主張のとおり、甲2も、軌道の第1の側にあるストッカ15との搬入出を行うから、アーム42の進退の目的は、甲1と共通性があるのではないか。」
甲2において、アーム42によりホイスト43を横方向に移動させているのは、ホイスト43を昇降させる際、台車22が邪魔になるからであり、このアーム42により、ホイスト43の基本動作である昇降動作を可能としているのである。
・・・。甲2の搬送台車21を使用する場合には、台車の真下にストッカや製造設備を配置すると、ホイスト43が台車の上に搭載されているので、真下にあるストッカや製造設備にカセットボックスを搬送することができない。そのため、甲2の製造設備14においては、ホイスト43を台車の上に搭載する搬送台車21を使用する関係で、ストッカ15や製造設備16は、必然的に、軌道の側に配置されることになる。また、甲2においては、アーム42を側方に突出した後には必ずホイスト43が昇降するようになっている。
・・・。
このように、甲2のアーム42の進退は、台車が邪魔になるので行われており、それゆえ、その後のホイストの昇降を伴うものであるので、甲1のようにトングス台車19が単に横方向に移動するものとは、目的が異なっているのである。
(2) 相違点3
「甲1は移動ステージ(トングス台車19)がレールにより、横方向に張り出すことから「横方向に延びる構造」と解しうるのではないか。甲1の台車・レール形を「除外している」とする明細書上の根拠は何か。」
先ず、本件特許の請求項1には、「前記移動ステージは、前記懸架軌道に対して横に延びる構造を持ち」と規定されているように、移動ステージは、横に延びる構造のものに限られる。レール上を走行する台車(トングス台車)が、「横に延びる構造」に該当しない、即ち、「横に延びる構造」から除外されていることは、文言上から、明らかである。
次に、本件発明1の「横に延びる構造」は、本件明細書の段落【0036】に記載され且つ図14に示された移動ステージ412のように、例えば、複数の部材が重なって設けられており、各部材が連結を保持しながら横方向に移動することにより横に延びるようなものを意味している。それゆえ、それ自体がレール上を移動するような台車が除外されることは、明らかである。」

(4)口頭審理陳述要領書(3)第2ページ末行?第4ページ第13行
「丸2『仮に、本件発明の上下移動が、棚内部における微少上下移動を含むのであれば、甲1に参考資料3,4の周知技術を適用することで容易ではないか。』について
被請求人は、「本件発明の上下移動が、棚内部における微少上下移動を含まない」と考えている。それゆえ、甲1へ参考文献3,4を適用して本件発明1を得ることは容易ではない。
・・・
(2) 相違点3及び相違点6
『甲2も甲1と「共通の機能」であり、材料ユニットが重量物でなければ、機構の簡素化の観点から、適用の動機があるのではないか。』について
上述したように、甲1の倉庫設備は、クレーン側レールと棚側レールを走行するトングス台車を使用することにより、片持ち荷重が加わることなく、大重量の荷もスムーズに移載することができるようにしたものである。一方、甲2の搬送設備においては、段落【0024】に記載されているように、移載装置40を進出させた側と反対側にカウンターウエイト51を進出させることにより、カセットボックス49の重量が大であるような場合にも、搬送台車21が傾くことを防止することができ、カセットボックス14の受け渡し時の安全を確保することができるようになっている。即ち、甲2の搬送設備は、片持ち荷重は許容するがそれにより生じる搬送台車の傾きをカウンターウエイトで防止するものであり、台車を用いることにより片持ち荷重をなくした甲1のものとは、構成及び機能が異なっている。このため、甲2を甲1に適用する動機付けはないと考えられる。
なお、上述したように、主引例である甲1は大重量の荷を搬送するためのものであるので、甲1に甲2を適用する際、「材料ユニットが重量物でなければ」ということを想定すること自体困難であると考える。」

(5)口頭審理調書の被請求人欄
「2 無効2012-800047について
(1)参考文献1の図12ではレールの真下から移載しており、吊り下げ型はアプローチを最短とするよう水平移動しないことが常識である。」

第5.当審の判断
1.本件発明
本件発明1ないし28は、上記第2.のとおりと認められる。

2.証拠記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載がある。

ア.第1ページ右下欄第19行?第2ページ左上欄第1行
「本発明は吊下式のスタッカクレーンを有する倉庫設備およびこのスタッカクレーンを利用して立坑内に物品を搬入出する搬入出設備に関する。」

イ.第2ページ右下欄第9?末行
「上記第1の発明の構成において、入庫作業は走行レールに沿ってスタッカクレーンの走行架台を走行させ、搬入出部の上方で停止させて昇降体を下降させ保持台車の保持アームで荷を保持させる。そして、昇降体を上昇させるとともに走行架台を走行させて、棚前方で昇降体のクレーン側レールが棚側レールに連続する位置で停止する。そして、保持台車を移動してクレーン側レールから棚側レールに乗り移らせた後、保持アームから荷を解放して棚に収納させ、保持台車を棚側レール上からクレーン側レールに戻す。出庫作業は入庫作業と逆の手順で行う。」

ウ.第3ページ左下欄第8行?右下欄第8行
「第1図において、1はシールド工法により掘削されるトンネル2の発進坑3の入口3a上方を通るセグメント搬送経路で、このセグメント搬送経路1に沿って左右一対の走行レール4がそれぞれ支柱5およびレール支持材6を介して地盤7上方の所定高さでかつ一定間隔をあけて配設される。走行レール4上にはスタッカクレーン8の自走式走行架台9が走行車輪を介して矢印A、B方向に走行自在に配設される。この走行架台9には走行車輪を駆動する走行駆動装置10と、走行架台9の下方に配設される昇降体11をワイヤロープ12を介して昇降駆動するウインチ13とが配設される。
前記昇降体11は第2図、第5図に示すように走行架台9に昇降自在に案内される4本のガイドポスト14が四隅に立設された昇降枠15と、この昇降枠15に離脱可能に嵌合固定され前記ワイヤロープ12がシーブ16を介して連結される吊下体17と、この吊下体17の下面でセグメント搬送経路1と直交する横方向に形成された凹部18内に横方向に出退自在なトングス台車(保持台車)21(当審注、正しくは19)とを備えている。」

エ.第3ページ右下欄第17行?第4ページ左上欄第12行
「また、吊下体17の凹部18両側面には、それぞれ開口面が対向する断面コの字形のクレーン側レール24が取付けられている。トングス台車19の上面には凹部l8に遊嵌する凸部25が形成され、凸部25両側面にはクレーン側レール24に案内される鍔付の出退車輪26A、26Bが配設される。そして、一方の出退車輪26Aは、凸部25内に配設された出退駆動モータ27に減速機や歯車を介して連動連結され矢印C、D方向に出退移動される。トングス台車19の四隅には、トングス台車19の出退方向に沿う回転軸28を介して保持アーム29が矢印E、F方向に垂直の保持位置(イ)と水平の待機位置(ロ)との間で往復回動自在に取付けられ、前記回転軸28はトングス台車19内に配設された電動モータを有する回動装置(図示せず)により駆動される。」

オ.第4ページ右上欄第15行?第5ページ左上欄第12行
「41は走行レール4下方でセグメント搬送経路1の両側に配設された棚で、枠組状に形成され、各収納部42にはセグメント受台43と、吊下体17のクレーン側レール24に対向して連続可能な左右一対の棚側レール44とが配設される。
セグメント搬送経路1の一端部下方にはセグメント搬入部45に形成され、第1図に示すように、地盤7上を後退侵入させたセグメント搬送トラック46の荷台からスタッカクレーン8により直接セグメント31を把持して棚41側に搬入できる。47は検査作業台である。
なお、第6図に示すように、セグメント搬入部45から側方に延びチェンコンベヤからなる受入作業台48を設けて並列位置のセグメント搬入トラック46からセグメント31を受け入れることもできる。
セグメント搬送経路1の他端部の発進坑3内には、第1図、第5図に示すように、上下方向にわたってガイド枠49が配設され、ガイド枠49内には吊下体17の四隅コーナ部を案内する4本のセルガイド50が垂設される。このセルガイド50はアングル状に形成され、その上端部には外方に広がる挿入ガイド部50aが設けられる。このセルガイド50の下方には、トンネル2内に延びる搬送レール51上を走行自在なセグメント台車52が配置されている。
次にこのセグメント搬入装置の作用を説明する。
・・・。そして、昇降体11を上昇してトラック46の荷台上からセグメント31を持ち上げ、走行架台9を矢印B方向に走行させる。そしてストックする棚41の収納部42位置に停止させ、ウインチ13および走行駆動装置10によりクレーン側レール24が収納部42の棚側レール44に対向するように位置決めする。そして、トングス台車19の出退駆動モータ27により、出退車輪26Aを駆動し、トングス台車19を矢印C方向に突出移動させてクレーン側レール24から棚側レール44に乗り移らせ、伸縮シリンダ30により保持アーム29を伸長してセグメント31をセグメント受台43上に載せる。さらに、保持爪32を矢印I方向に解放位置(ニ)まで回動させるとともに保持アーム29を短縮し、保持アーム29を矢印E方向に待機位置(ロ)まで回動させる。その後、トングス台車19を矢印C方向に後退移動させてクレーン側レール24に戻す。これを複数回繰り返してセグメント31のストック作業は終了する。
セグメント31をトンネル2内に供給する場合は、スタッカクレーン8によりストック作業と逆の手順で収納部42からセグメント31を取出した後、走行架台9を矢印B方向に走行させて発進坑入口3a上方で停止させ、セルガイド50に昇降体11を対向させる。」

カ.第1図
棚41が、走行レール4の第1の側の所定のレベルに固定配置されていること、
走行架台9が、昇降体11、ワイヤロープ12を走行レール4に沿って棚41に隣接する第1の位置に移動可能であること、が看取できる。

キ.第2図
トングス台車19は、保持アーム29が棚41とほぼ同じレベルに位置する間、保持アーム29を走行架台9に隣接する第1の位置から棚41の第2の位置に向かって走行しうること、が看取できる。

これらを、技術常識を踏まえ、本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明の1」という。)が記載されている。
「a.搬入出設備であって、
b.走行レール4、昇降体11、ワイヤロープ12および走行架台9、走行駆動装置10を具備する高架ホイストスタッカクレーン8であって、前記走行架台9はワイヤロープ12を介して昇降体11を配設し、この昇降体11には横方向に出退自在なトングス台車19を備え、
c.収納部42を含む棚41であって、この棚41は、セグメント31を収納すると共に前記走行レール4の第1の側に固定配置されている前記棚41と、を有し、
d.前記走行架台9、走行駆動装置10は、前記昇降体11、ワイヤロープ12を走行レール4に沿って移動させると共に、前記昇降体11がセグメント台車52の真上に来たとき前記昇降体11を真下に降ろして前記セグメント31をセグメント台車52に載置するか、又は、前記昇降体11が搬入部45にある前記セグメント31を真上に引き上げるようになっており、
e.前記走行架台9は、前記昇降体11、ワイヤロープ12を走行レール4に沿って前記棚41に隣接する第1の位置に移動させるようになっていて、さらに、前記棚41が昇降体11のレベルよりも低いレベルに配置されている場合には、昇降体11を前記棚41の前記低いレベルまで低下させるものであり、
f.前記昇降体11は、前記棚41の前記低いレベルにまで低下される間、前記走行架台9から降りるようになっており、
g.前記トングス台車19は、クレーン側レール24により移動自在とされ、クレーン側レール24と棚側レール44を対向させ両レールを走行することで、前記走行レール4に対して横方向に出退自在な構造を持ち、棚41においてセグメント31を取り上げて前記第1の位置に移動させるか、又は、セグメント31を前記第1の位置から棚41へ移動させて載置するようになっている搬入出設備。」

また、本件発明12に照らして整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明の2」という。)が記載されている。
「s.搬入出設備であって、
t.走行レール4、昇降体11、ワイヤロープ12および走行架台9、走行駆動装置10を具備する高架ホイストスタッカクレーン8であって、前記走行架台9はワイヤロープ12を介して昇降体11を配設し、この昇降体11には横方向に出退自在なトングス台車19を備え、トングス台車19には保持アーム29が取り付けられ、この走行架台9が、昇降体11、ワイヤロープ12を走行レール4に沿って複数の位置へ搬送し、昇降体11を複数のレベルへ上昇または低下させる前記高架ホイストスタッカクレーン8と、
u.セグメント31を収納する棚41であって、この棚41は走行レール4の第1の側の所定のレベルに固定配置されている前記棚41と、を有し、
v.前記走行架台9、走行駆動装置10は、前記昇降体11、ワイヤロープ12を走行レール4に沿って移動させると共に、前記昇降体11がセグメント台車52の真上に来たとき前記昇降体11を真下に降ろして前記セグメント31をセグメント台車52に載置するか、又は、前記昇降体11が搬入部45にある前記セグメント31を真上に引き上げるようになっており、
w.前記走行架台9、走行駆動装置10は、トングス台車19、昇降体11、ワイヤロープ12、保持アーム29を走行レール4に沿って棚41に隣接する第1の位置へ搬送し、そして保持アーム29を棚41とほぼ同じレベルに位置させるために昇降体11を低下または上昇させるものであり、
x.前記トングス台車19は、クレーン側レール24により移動自在とされ、保持アーム29が棚41とほぼ同じレベルに位置する間は、保持アーム29を走行架台9に隣接する第1の位置から棚41の第2の位置に向かって、クレーン側レール24と棚側レール44を対向させ両レールを走行することで、横方向に出退自在とすることにより移動させるものであり、これにより、保持アーム29がセグメント31を棚41において吊持するかまたは棚41へ載置することが可能となる搬入出設備。」

なお、甲1発明の1、甲1発明の2の認定について、両者に争いはない(上記第3.3.(5)及び第4.(3))

(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載がある。

ア.段落0012
「【0012】図3に示すものは、上記クリーンルーム内における半導体ウェハ等のカセットの搬送システムS’の全体概要である。この搬送システムS’は、例えばクリーンルームの天井等に配置されて、搬送台車を誘導するための軌道13を有する搬送設備14を備えた構成とされている。また、軌道13の周囲には、カセットを収納するためのストッカ15,…や、上記ウェハを加工する製造装置16,…等が配置されている。」

イ.段落0014?0020
「【0014】図1は、この軌道13を走行する搬送台車21の概略構成を示す図である。図中に示すように、軌道13は、ボックス断面型に形成されており、軌道13の内部空間13aには、搬送台車21の台車本体22が収納された状態となっている。
【0015】台車本体22は、軌道13の底面上を走行する車輪24と、・・・、このリニアモータ30を推進手段として軌道13内を走行するようになっている。
【0016】また台車本体22の上部には、支柱31が設けられており、・・・。
【0017】また、支柱31は、その上端部31aが、軌道15に設けられたスリット36から上に延び、軌道13の上方に位置する荷台38を支持する構成となっている。荷台38の上方には、ボックス断面型のカセット収納体(被搬送物収納部)39が設けられており、カセット収納体39の天井部39aには、移載装置40が懸架された状態で設けられている。
【0018】図中に示すように移載装置40は、カセット収納体39の天井部39aに固定されたアーム(腕部)42と、アーム42によって支持されたホイスト(保持機構)43を備えた構成とされている。アーム42は、図中に二点鎖線で示すように、搬送台車21の走行方向と直交する水平方向(図中A方向)に進出・後退自在な構成とされている。
【0019】一方、ホイスト43は、ワイヤー45を巻き取り・巻き出し自在なウインチ46と、ワイヤー45の先端に設けられたチャック機構47とを備えた構成となっている。チャック機構47は、図2に示すように、半導体ウェハが収納されたカセットボックス(被搬送物)49の取っ手50と係合離脱自在な構成となっており、これによりカセットボックス49を保持することが可能となっている。
【0020】したがって、この移載装置40によれば、図1中鎖線で示すように、アーム42を搬送台車21の側方に延出させた状態で、ウインチ46によってワイヤー45を巻きだし、チャック機構47を降下させることが可能である。そして、チャック機構47を軌道13外に降下させた状態で、軌道13外に位置するカセットボックス49の取っ手50を図2に示すようにチャックし、さらに、チャックされたカセットボックス49を吊り上げて、アーム42を後退させれば、軌道13外に位置していたカセットボックス49を、図1中に実線で示したように、カセット収納体39内部に保持したまま収納することができる。また、これと逆の手順を行うことによって、カセット収納体39内部に保持されたカセットボックス49を軌道13外に移載することが可能である。」

ウ.段落0022?0023
「【0022】以上のような構成とされた搬送設備14においては、搬送台車21に移載機構が備えられているために、軌道13上を搬送されたカセットボックス49をダイレクトに製造装置16,…に移載することができ、したがって、従来、被搬送物の移載に必要とされていた一部のストッカや移載ロボットを不要とすることができる。・・・。また、この搬送設備14においては、ストッカ15にカセットボックス49を移載する際に、搬送台車21側に取り付けられた移載機構40を利用できるために、ストッカ15側に移載機構(ローダ)を設ける必要がない。したがって、ストッカ15,…の設備コストの低減化を図ることができ、また、従来、移載機構を設けていたスペースを利用してストッカ15の棚数の増加を図ることができる。・・・。
【0023】さらに搬送設備14においては、搬送台車21に設けられた移載装置40を搬送台車21から側方に張り出した状態でカセットボックス49の受け渡しを行うことができるために、カセットボックス49の受け渡しにあたって高さ方向の制約が生じることがない。・・・。」

これらを、図面を参照し、技術常識を踏まえ整理すると、甲第2号証には、以下の事項(以下「甲2事項」という。)が記載されている。
「半導体ウェハ等のカセットボックス49の搬送システムS’であって、
軌道13を走行する搬送台車21の台車本体22の上部に、カセット収納体(被搬送物収納部)39が設けられており、カセット収納体39の天井部39aに固定されたアーム(腕部)42と、アーム42によって支持されたホイスト(保持機構)43を備えた移載装置40が設けられ、
アーム42は、搬送台車21の走行方向と直交する水平方向に進出・後退自在とされ、
ホイスト43は、ワイヤー45を巻き取り・巻き出し自在なウインチ46と、ワイヤー45の先端に設けられ、カセットボックス49の保持が可能なチャック機構47とを備え、
軌道13外に位置していたカセットボックス49を、カセット収納体39内部に保持したまま収納すること、また、カセット収納体39内部に保持されたカセットボックス49を軌道13外に移載することが可能としたもの。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項(以下「甲3事項」という。)が記載されている。
「案内レール1を走行する移動体3と、天井CL近くの案内レール1の両側に配置され、一端側を天井CLに揺動自在に取り付けられたリンク機構10と、そのリンク機構10の他端側が揺動自在に取り付けられて水平揺動自在の物品載置台11と、移動体3と物品載置台11との間で物品Bの移載を行う手段とを有する物品搬送設備。」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項(以下「甲4事項」という。)が記載されている。
「レール1に沿って走行する天井走行車2と、レール1の上部で支持フレーム30により吊持されワーク6が載置されるベルトコンベア42とを有し、天井走行車2の昇降台5がワーク6を把持してベルトコンベア42上に着床させて荷降ろしする天井走行車システム。」

(5)甲第5号証
甲第5号証には、以下の事項(以下「甲5事項」という。)が記載されている。
「ウェハのようなワークピースを保持した容器を、一の作業設備から他の作業設備に搬送する無人搬送装置であり、容器として、密閉型容器、代表的な例としては、FOUP(front open unified pod:前面開放型密閉容器)を用いるもの。」

3.本件発明1
(1)対比
本件発明1と甲1発明の1とを対比する。
甲1発明の1の「搬入出設備」は本件発明1の「自動材料搬送システム」に相当し、同様に「走行レール4」は「懸架軌道」に、「昇降体11、ワイヤロープ12」は「高架ホイスト」に、「走行架台9、走行駆動装置10」は「高架ホイスト搬送手段」に、「高架ホイストスタッカクレーン8」は「高架ホイスト搬送サブシステム」に、「収納部42」は「材料収納棚」に、「棚41」は「材料収納部(所)」に、「セグメント31」は「材料ユニット」に、「トングス台車19」は「移動ステージ」に、相当する。
甲1発明の1の「セグメント台車52」、「搬入部45」と本件発明1の「加工ツールロードポート」とは「搬入出部」である限りにおいて、一致する。
甲1発明の1の「横方向に出退自在」と本件発明1の「横に延びる」とは「横方向に出退自在」である限りにおいて、一致する。

本件発明1と甲1発明の1は、以下の点で一致する。
「A.自動材料搬送システムであって、
B.懸架軌道、高架ホイストおよび高架ホイスト搬送手段を具備する高架ホイスト搬送サブシステムであって、
C.材料収納棚を含む材料収納部であって、この材料収納部は、材料ユニットを収納すると共に前記懸架軌道の第1の側に固定配置されている前記材料収納部と、を有し、
D.前記高架ホイスト搬送手段は、前記高架ホイストを懸架軌道に沿って移動させると共に、前記高架ホイストが搬入出部の真上に来たとき前記高架ホイストを真下に降ろして前記材料ユニットを搬入出部に載置するか、又は、前記高架ホイストが搬入出部にある前記材料ユニットを真上に引き上げるようになっており、
E.前記高架ホイスト搬送手段は、前記高架ホイストを懸架軌道に沿って前記材料収納部に隣接する第1の位置に移動させるようになっていて、さらに、前記材料収納部が高架ホイストのレベルよりも低いレベルに配置されている場合には、高架ホイストを前記材料収納部の前記低いレベルまで低下させるものであり、
F.前記高架ホイストは、前記材料収納部の前記低いレベルにまで低下される間、前記高架ホイスト搬送手段から降りるようになっており、
G.前記移動ステージは、前記懸架軌道に対して横方向に出退自在な構造を持ち、材料収納部所において材料ユニットを取り上げて前記第1の位置に移動させるか、又は、材料ユニットを前記第1の位置から材料収納部へ移動させて載置するようになっている自動材料搬送システム。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:高架ホイスト搬送サブシステムについて、本件発明1では「高架ホイスト搬送手段は移動ステージを備え、この移動ステージに高架ホイストが取り付けられている」ものであるが、甲1発明の1では「高架ホイスト搬送手段(走行架台9)は高架ホイスト(昇降体11)を配設し、この高架ホイストには横方向に出退自在な移動ステージ(トングス台車19)を備え」るものである点。
相違点2:搬入出部について、本件発明1では「加工ツールロードポート」であるが、甲1発明の1では「セグメント台車52」、「搬入部45」である点。
相違点3:移動ステージについて、本件発明1では「横に延びる構造」であるが、甲1発明の1では「クレーン側レール24により移動自在とされ、クレーン側レール24と棚側レール44を対向させ両レールを走行することで」、「横方向に出退自在な構造」である点。

なお、甲1発明の1との一致点、相違点について、両者に争いはない(上記第3.3.(5)及び第4.(3))

(2)判断
ア.相違点1
相違点1について検討する。
甲1発明の1は、「吊下形」搬送機構であり、上記のとおり、「収納部42(材料収納棚)を含む棚41(材料収納部)」を有し、「棚41が昇降体11(高架ホイスト)のレベルよりも低いレベルに配置されている場合には、昇降体11を前記棚41の前記低いレベルまで低下させるもの」であり、棚には「棚側レール44」を設けている。
甲第1号証の第1図からも明らかなとおり、甲1発明の1は、「棚」の上方に「棚側レール44」が形成される部材、典型的には上部の棚が存在するものである。そして、上下方向に複数の棚という構造上、まず昇降体11(高架ホイスト)を所定の高さの収納部42(材料収納棚)に移動させ、次いで「トングス台車19(移動ステージ)を横方向に出退自在としている。
すなわち、甲1発明の1の移動ステージは、上下方向に複数の棚があるものにおいて、棚上の材料ユニットを搬送するためのものである。

甲2事項は、上記2.(2)のとおりであり、本件発明1に照らすと、甲2事項の「半導体ウェハ等のカセットボックス49」は本件発明1の「材料ユニット」に相当し、同様に「アーム42」は「移動ステージ」に、「ホイスト43」は「高架ホイスト」に、「搬送台車21」は「高架ホイスト搬送手段」に、「半導体ウェハ等のカセットボックス49の搬送システムS’」は「自動材料搬送システム」に、相当する。
よって、甲2事項の相違点1関係部分を本件発明1に照らし、書き改めると以下のとおりである。
「自動材料搬送システムであって、軌道を走行する搬送台車の上部に高架ホイスト搬送手段を設け、高架ホイスト搬送手段は移動ステージを備え、この移動ステージに高架ホイストが取り付けられているもの。」
ここで、甲2事項は「搬送台車の上部に高架ホイスト搬送手段」を有する「馬乗形」のものであるから、高架ホイストを利用して、軌道下に存する材料ユニットを上下動させるにあたり軌道が障害物となることは明らかである。
すなわち、甲2事項の移動ステージは、「馬乗形」に不可避な機構であると言える。

甲1発明の1と甲2事項とは、ともに懸架軌道を走行する高架ホイスト搬送手段であり、技術分野が共通し、その機能も懸架軌道材料ユニットの搬送という点で共通する。
しかし、両者の「移動ステージ」は、甲1発明の1では「棚上の材料ユニットを搬送するため」のものであり、甲2事項では「馬乗形に不可避な機構」であって、その技術的意義が異なるから、置き換えることは想定しがたい。
請求人は、搬送機構として、「吊下形」、「馬乗形」は置換可能である旨、主張する(上記第3.3.(4))。
しかし、上記のとおり、移動ステージ、高架ホイストをも含めてまで、置換可能とは認められないから、請求人の主張は根拠がない。
仮に、甲1発明の1の移動機構を甲2事項に置き換えることを検討する。
甲2事項は、「高架ホイスト搬送手段は移動ステージを備え、この移動ステージに高架ホイストが取り付けられている」ものであるから、その移動機構を「上下方向に複数の棚」という甲1発明の1に適用した場合、下方の棚への出し入れに際し、上方の棚が障害となり、出し入れを行うことができない。
してみると、甲1発明の1の移動機構を甲2事項に置き換えることに、阻害要因があることは明らかである。
請求人は、甲1発明の1は、棚の形態と無関係である旨、主張する(上記第3.3.(7))。
しかし、上記のとおり、甲1発明の1は「棚」の上方に「棚側レール44」が形成される部材、典型的には上部の棚が不可欠であるし、甲第1号証に請求人の主張を裏付ける記載もないから、棚の形態と無関係とする請求人の主張は根拠がない。

イ.相違点2
相違点2について検討する。
搬入出部については、単なる用途の差違にすぎず、この点に争いはない(調書の両当事者欄1の(3))。

ウ.相違点3
相違点3について検討する。
甲2事項において「アーム42は、搬送台車21の走行方向と直交する水平方向に進出・後退自在」であるから、アーム42(移動ステージ)は「横に延びる構造」に相当する。
相違点1における検討と同様、甲2事項の相違点3関係部分を本件発明1に照らし、書き改めると以下のとおりである。
「自動材料搬送システムであって、懸架軌道、高架ホイストおよび高架ホイスト搬送手段を具備し、高架ホイスト搬送手段は横に延びる構造の移動ステージを備え、この移動ステージに高架ホイストが取り付けられているもの。」
相違点1における検討と同様、甲1発明の1と甲2事項とは、技術分野、機能が共通する。
そして、甲2事項の移動ステージは、甲1発明の1のように「クレーン側レール24と棚側レール44」とを有しないから、構造上簡便で製造工数が少なく、製造費用も安価であることは明らかである。
してみると、製造上の観点から、移動ステージを、甲1発明の1における「クレーン側レール24と棚側レール44」に代え、甲2事項の「横に延びる構造」とすることに困難性は認められない。
被請求人は、甲第1号証は、片持ち荷重の問題を解決するために「クレーン側レール24と棚側レール44」を採用するものであるから、これを廃することには阻害要因がある旨、主張する(上記第4.3.(4))。
しかし、搬送対象には種々のものがあり、その中には片持ち荷重の問題が重要でない軽量のものもありうることから、阻害要因があるとは言えない。

本件発明1については、相違点1を容易とすることはできない。よって、提出された証拠によっては、本件発明1について容易に発明をすることができたとすることはできない。

4.本件発明2ないし11
本件発明2ないし11は、本件発明1に従属し、本件発明1をさらに限定するものである。
上記のとおり、本件発明1は、容易に発明をすることができたとすることはできない。
よって、同様の理由により、提出された証拠によっては、本件発明2ないし11について容易に発明をすることができたとすることはできない。

5.本件発明12
(1)対比
甲1発明の2と本件発明12とは、甲1発明の1と本件発明1と同様の関係がある。
甲1発明の2の「保持アーム29」は本件発明12の「ホイスト把持具(把持部)」に相当する。

本件発明12と甲1発明の2は、以下の点で一致する。
「S.自動材料搬送システムであって、
T.懸架軌道、高架ホイストおよび高架ホイスト搬送手段を具備する高架ホイスト搬送サブシステムであって、この高架ホイスト搬送手段が、高架ホイストを懸架軌道に沿って複数の位置へ搬送し、高架ホイストを複数のレベルへ上昇または低下させる前記高架ホイスト搬送サブシステムと、
U.材料ユニットを収納する材料収納部であって、この材料収納部は懸架軌道の第1の側の所定のレベルに固定配置されている前記材料収納部と、を有し、
V.前記高架ホイスト搬送手段は、前記高架ホイストを懸架軌道に沿って移動させると共に、前記高架ホイストが搬入出部の真上に来たとき前記高架ホイストを真下に降ろして前記材料ユニットを搬入出部に載置するか、又は、前記高架ホイストが搬入出部にある前記材料ユニットを真上に引き上げるようになっており、
W.前記高架ホイスト搬送手段は、移動ステージ、高架ホイスト、ホイスト把持具を懸架軌道に沿って材料収納部に隣接する第1の位置へ搬送し、そしてホイスト把持具を材料収納部とほぼ同じレベルに位置させるために高架ホイストを低下または上昇させるものであり、
X.移動ステージは、ホイスト把持具が材料収納部とほぼ同じレベルに位置する間は、ホイスト把持具を高架ホイスト搬送手段に隣接する第1の位置から材料収納部の第2の位置に向かって横方向に出退自在とすることにより移動させるものであり、これにより、ホイスト把持具が材料ユニットを材料収納部において吊持するかまたは材料収納部へ載置することが可能となる自動材料搬送システム。」

そして、以下の点で相違する。
相違点4:高架ホイスト搬送サブシステムについて、本件発明12では「高架ホイスト搬送手段は移動ステージを備え、この移動ステージに高架ホイスト及びホイスト把持部が取り付けられている」ものであるが、甲1発明の2では「高架ホイスト搬送手段(走行架台9)は高架ホイスト(昇降体11)を配設し、この高架ホイストには横方向に出退自在な移動ステージ(トングス台車19)を備え、移動ステージにホイスト把持具(保持アーム29)が取り付けられている」ものである点。
相違点5:搬入出部について、本件発明12では「加工ツールロードポート」であるが、甲1発明の2では「セグメント台車52」、「搬入部45」である点。
相違点6:移動ステージについて、本件発明12では「横に延びる」であるが、甲1発明の2では「クレーン側レール24により移動自在とされ」、「クレーン側レール24と棚側レール44を対向させ両レールを走行することで」、「横方向に出退自在とする」である点。

なお、甲1発明の2との一致点、相違点について、両者に争いはない(上記第3.3.(5)及び第4.(3))

(2)判断
相違点4ないし6については、相違点1ないし3と実質的に同様であり、この点に争いはない(調書)。
よって、相違点1ないし3と同様の理由により、本件発明12については、相違点4を容易とすることはできない。よって、提出された証拠によっては、本件発明12について容易に発明をすることができたとすることはできない。

6.本件発明13ないし28
本件発明13ないし28は、本件発明12に従属し、本件発明12をさらに限定するものである。
上記のとおり、本件発明12は、容易に発明をすることができたとすることはできない。
よって、同様の理由により、提出された証拠によっては、本件発明13ないし28について容易に発明をすることができたとすることはできない。

第7.むすび
以上、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし28に係る特許を無効とすることはできない。
また、他に本件発明1ないし28に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-09-10 
出願番号 特願2004-543686(P2004-543686)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B65G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 嶋田 研司近藤 裕之八板 直人  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 刈間 宏信
藤井 眞吾
登録日 2010-11-19 
登録番号 特許第4626302号(P4626302)
発明の名称 単一の軌道位置から高架ホイスト搬送手段により材料収納棚の一つまたはそれ以上のレベルへ到達する方法  
代理人 辻居 幸一  
代理人 高石 秀樹  
代理人 井上 勉  
代理人 弟子丸 健  
代理人 板垣 孝夫  
代理人 富岡 英次  
代理人 山本 泰史  

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