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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1265049
審判番号 不服2010-5010  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-08 
確定日 2012-10-25 
事件の表示 特願2004- 13643「有害物質検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月 4日出願公開、特開2005-204548〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年1月21日の出願であって、平成21年10月21日付けで手続補正がなされ、同年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

そして本願発明は、平成21年10月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであり、本願の請求項1に係る発明(以下、これを「本願発明」という。)は以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
微生物に発光遺伝子を導入した組換え微生物を固定化してなる冷凍保存された微生物膜を用い、該微生物膜に固定化された微生物を活性化させた後、前記微生物の発光反応による発光量から試料水中の有害物質を検出する有害物質検出方法であって、
遺伝子損傷性物質によりDNAが損傷を受けたときに発現されるSOS遺伝子とその下流に配置されたルシフェラーゼ活性を発現する遺伝子とそのルシフェラーゼ活性の基質の生産を触媒する酵素を発現する遺伝子とを含んでなる組換え遺伝子により形質転換されたサルモネラ菌からなる、通常は消光しており、遺伝子損傷性物質が存在すると発光する遺伝子損傷性物質検出用微生物を固定化した遺伝子損傷性物質検出用微生物膜と、ルシフェラーゼ活性を発現する遺伝子とそのルシフェラーゼ活性の基質の生産を触媒する酵素を発現する遺伝子とを含み、常時ルシフェラーゼ活性を発現する組換え遺伝子により形質転換されたサルモネラ菌からなる、通常は発光しており、生育阻害物質が存在すると消光する生育阻害物質検出用微生物を固定化した生育阻害物質検出用微生物膜の少なくとも2種類の微生物膜が同時に同一の試料水に接触できるように一つのサンプル容器内に収納されてなるセンサユニットを用い、
前記サンプル容器内に培養液と酸素とを供給して前記微生物膜に固定化された微生物を活性化させた後、前記サンプル容器内に試料水と酸素とを供給して前記微生物膜の発光量を測定し、
前記遺伝子損傷性物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも小さく、前記生育阻害物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも大きい場合は試料水が正常であると判定し、前記遺伝子損傷性物質検出用微生物膜の発光量が設定値を超え、前記生育阻害物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも大きい場合は試料水中に遺伝子損傷性物質が混入していると判定し、前記遺伝子損傷性物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも小さく、前記生育阻害物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも下回った場合は試料水中に生育阻害物質が混入していると判定することを特徴とする有害物質検出方法。」


第2.原査定
原査定において、本願発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とされた。

第3.当審の判断
1.引用文献
(1)原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(田口和之他,最終処分場浸出水バイオモニタリング用バイオセンサの開発,第37回日本水環境学会年会講演集,2003年 3月 4日,p.538)には、以下a,bの事項が記載されている。
a.「2.実験方法
(1)発光umu試験菌株^(1)2))
遺伝子損傷性物質検出用菌株(TL210株)は、umuDC遺伝子の下流に発光遺伝子群(luxCDABE)を連結した組換え遺伝子をもつプラスミドをSalmonella typhimurium TA1535株に導入した菌株であり、遺伝子損傷性物質に応答して発光する。
リファレンンス株(TL210ctl 株)は、プラスミドベクターpBR322のテトラサイクリンORFに発光遺伝子群を挿入した組換え遺伝子をもつプラスミドをTA1535株に導入した菌株である。この菌株は、常にルシフェラーゼを合成し発光するため、微生物に対する生育阻害作用を示す物質の検出および固定化膜の状態確認のリファレンスとして用いた。」
(2)固定化微生物膜による有害物質の検出
上記、発光umu試験株の2菌株をそれぞれ、一方を酸素や栄養分が透過できかつ菌体を捕捉できる微多孔性膜、他方を菌体からの発光を観察可能な光透過性膜とで挟み込み膜状に固定した。バイオセンサーはこの固定化微生物膜とフローセル、光検出器から構成され、チューブポンプおよびエアポンプにより連続的に培地と空気が供給される。」

b.「3.結果および考察
(1)TL210株固定化膜による遺伝子損傷性物質の測定
TL210株固定化膜を用いたバイオセンサに4-Nitoroquinoline-N-oxide(4-NQO)を暴露した結果を図1に示す。・・・よって、 TL210株固定化膜を用いたバイオセンサにより遺伝子損傷性物質が検出可能であることがわかった。
(2)TL210ctl 株固定化膜を用いた有害物質の検出
TL210ctl 株固定化膜を取り付けたバイオセンサに培地を連続的に送液したところセンサ出力が上昇し、発光していることが確認できた。ここに、微生物の成育阻害物質としてシアン化カリウムを暴露したところセンサ出力(発光量)の低下が観察された(図2)。
よって、TL210ctl 株固定化膜を用いたバイオセンサは成育阻害物質を検出可能であることがわかった。また本バイオセンサは培地のみを送液したとき発光状態を維持していたことから、TL210株固定化膜を用いたバイオセンサのリファレンスとして適用可能と考えられる。」

(2)原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2(Analytica Chimica Acta,2002年,Vol.456,p.31-39)には、以下a、bの事項が記載されている。
a.「重金属塩の遺伝毒性および/または細胞傷害性影響の定量化のためのSOS-LUXとLAC-フルオロ-テスト」(タイトル)

b.「SOS-LUXプラスミドまたは蛍光を媒介するLac-GFPuvプラスミドのいずれかを有する組換えS. typhimurium株のパネル が、1マイクロプレート上で並行培養され、K_(2)Cr_(2)O_(7)、CrCl_(3)、ZnSO_(4)、硫酸銅、NiSO_(4)、KH_(2)AsO_(4)とAs_(2)O_(3)のような重金属塩の遺伝毒性と細胞傷害能を同時に決定するために使用された。未処理および化学処理した細胞の光と蛍光発光を、マイクロプレートルミノメーター-蛍光光度計の組み合わせで測定し、発光の誘導と、同様に蛍光減少が、重金属塩の遺伝毒性および/または細胞傷害性の可能性を決定するために使用された。」(アブストラクト、第16?21行)

2.対比・判断
上記1.(1)で摘記したとおり、引用文献1に記載される遺伝子損傷性物質検出用菌株(TL210株)は、遺伝子損傷性物質に応答して発光するものであって、サルモネラ菌にumuDC遺伝子の下流に発光遺伝子群(luxCDABE)を連結した組換え遺伝子をもつプラスミドを導入したものであり、発光遺伝子群(luxCDABE)を持つものであるから、ルシフェラーゼ活性を発現する遺伝子とそのルシフェラーゼ活性の基質の生産を触媒する酵素を発現する遺伝子を有するものである。そして、umu遺伝子は、本願明細書の【0031】【0032】段落にも記載されるように、DNAが損傷を受けたときに発現されるSOS遺伝子である。
そうすると、引用文献1の遺伝子損傷性物質検出用菌株は、本願発明に特定される「遺伝子損傷性物質によりDNAが損傷を受けたときに発現されるSOS遺伝子とその下流に配置されたルシフェラーゼ活性を発現する遺伝子とそのルシフェラーゼ活性の基質の生産を触媒する酵素を発現する遺伝子とを含んでなる組換え遺伝子により形質転換されたサルモネラ菌」に相当するといえる。
また、引用文献1に記載されるリファレンス株(TL210ctl 株)は、サルモネラ菌に発光遺伝子群を挿入した組換え遺伝子をもつプラスミドを導入した菌株であり、常にルシフェラーゼを合成し発光し、微生物に対する生育阻害作用を示す物質の検出に用いられるものである。そしてこの菌株は、シフェラーゼを合成し発光するものであるから、ルシフェラーゼ活性を発現する遺伝子とそのルシフェラーゼ活性の基質の生産を触媒する酵素を発現する遺伝子とを含むものであることは明らかである。
そうすると、引用文献1に記載されるリファレンス(生育阻害作用物質検出用菌)株は、本願発明に特定される「ルシフェラーゼ活性を発現する遺伝子とそのルシフェラーゼ活性の基質の生産を触媒する酵素を発現する遺伝子とを含み、常時ルシフェラーゼ活性を発現する組換え遺伝子により形質転換されたサルモネラ菌からなる、通常は発光しており、生育阻害物質が存在すると消光する生育阻害物質検出用微生物」に相当するといえる。
さらに引用文献1には、遺伝子損傷性物質検出用菌株と生育阻害作用検出用菌株とを、微多孔性膜と光透過性膜とで挟み込んで膜状に固定化すること、これら固定化された微生物膜を用いて、有害物質の検出が可能であったことが記載されている。
また引用文献1には、TL210ctl 株固定化膜を取り付けたバイオセンサに培地を連続的に送液した後、検出に供したことが記載されており、上記1.(1)aに摘記したとおり、培地と一緒に空気も供給されるから、これは本願発明の、「培養液と酸素とを供給して前記微生物膜に固定化された微生物を活性化させた後」に検出すること、に相当するといえる。

したがって、本願発明と引用文献1に記載された発明を対比すると、両者は、
「微生物に発光遺伝子を導入した組換え微生物を固定化してなる微生物膜を用い、前記微生物の発光反応による発光量から試料水中の有害物質を検出する有害物質検出方法であって、
遺伝子損傷性物質によりDNAが損傷を受けたときに発現されるSOS遺伝子とその下流に配置されたルシフェラーゼ活性を発現する遺伝子とそのルシフェラーゼ活性の基質の生産を触媒する酵素を発現する遺伝子とを含んでなる組換え遺伝子により形質転換されたサルモネラ菌からなる、通常は消光しており、遺伝子損傷性物質が存在すると発光する遺伝子損傷性物質検出用微生物を固定化した遺伝子損傷性物質検出用微生物膜と、ルシフェラーゼ活性を発現する遺伝子とそのルシフェラーゼ活性の基質の生産を触媒する酵素を発現する遺伝子とを含み、常時ルシフェラーゼ活性を発現する組換え遺伝子により形質転換されたサルモネラ菌からなる、通常は発光しており、生育阻害物質が存在すると消光する生育阻害物質検出用微生物を固定化した生育阻害物質検出用微生物膜の少なくとも2種類の微生物膜を用い、
試料水と酸素とを供給して前記微生物膜の発光量を測定する、有害物質検出方法。」である点で一致し、本願発明において、
(1)検出が、「冷凍保存された微生物膜を用い、該微生物膜に固定化された微生物を活性化させた後」に行われること、
(2)2種類の微生物膜が「同時に同一の試料水に接触できるように一つのサンプル容器内に収納されてなるセンサユニット」として用いられること、および、
(3)「前記遺伝子損傷性物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも小さく、前記生育阻害物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも大きい場合は試料水が正常であると判定し、前記遺伝子損傷性物質検出用微生物膜の発光量が設定値を超え、前記生育阻害物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも大きい場合は試料水中に遺伝子損傷性物質が混入していると判定し、前記遺伝子損傷性物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも小さく、前記生育阻害物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも下回った場合は試料水中に生育阻害物質が混入していると判定すること」が特定されているのに対して、引用文献1には、これらの点に関して記載されていない点で相違している。

そこで、相違点(1)?(3)について以下検討する。
相違点(1)について
微生物を冷凍保存することは周知技術であり、固定化された微生物を冷凍保存することも周知技術(必要であれば、特開2000-210098号公報参照)であると認められるから、引用文献1に記載の検出において、微多孔性膜と光透過性膜との間に固定化された微生物を保存するために、微生物が固定化された膜全体を冷凍保存することは、当業者が容易になし得ることである。そして、微生物膜を冷凍保存した場合、検出に使用する前に微生物を活性化することは、当業者にとって自明である。

相違点(2)について
引用文献1には、生育阻害作用物質検出用菌株が固定化膜の状態確認のリファレンスとして使用されること、TL210ctl株固定化膜のバイオセンサが、TL210株固定化膜のバイオセンサのリファレンスとして適用可能であることが記載されている。
つまり、引用文献1には、生育阻害作用物質検出用バイオセンサを遺伝子損傷性物質検出用バイオセンサのリファレンスとして使用することが示されており、このリファレンスとしての機能は、試料に対して生育阻害作用物質検出用バイオセンサと遺伝子損傷性物質検出用バイオセンサの両者を同時に検出に用いることで発揮されるものであると考えられる。
そして、そのような同時に検出に用いる場合に、両センサをわざわざ別の容器内に収納する必要がないことは明らかであるから、「一つのサンプル容器内に収納されてなるセンサユニット」とすることは、当業者が容易になし得ることである。そして、一つのユニットとすれば、同時に同一の試料水に接触できることは、当業者にとって自明である。

なお、引用文献2には、上記1.(2)摘記したように、SOS-LUXプラスミドを有する組換えS. typhimurium株と蛍光を媒介するLac-GFPuvプラスミドを有する組換えS. typhimurium株とを、1つのマイクロプレート上で並行培養して、化学物質の遺伝毒性および/または細胞傷害性の検出を行ったことが記載されている。そして、上記SOS-LUXプラスミドを有する組換えS. typhimurium株は、遺伝毒性(遺伝子損傷性)物質の検出に用いられ、また上記蛍光を媒介するLac-GFPuvプラスミドを有する組換えS. typhimurium株は細胞傷害性(生育阻害)物質の検出に用いられるものと認められる。
したがって、遺伝子損傷性物質検出微生物株と生育阻害作用物質検出微生物株とを同時に検出に用いることは、引用文献2にも示されている事項である。

相違点(3)について
引用文献1に記載される検出において、遺伝子損傷性物質検出用微生物膜(TL210株固定化膜;(A)と呼ぶ。)は通常は消光しているものであり、生育阻害物質検出用微生物膜(TL210ctl固定化膜;(B)と呼ぶ。)は通常は発光していものである。
そうすると、遺伝子損傷性物質、生育阻害物質いずれもが存在しなければ(A)は消光状態のままであり、(B)は発光状態のままである。
そして、遺伝子損傷性物質が存在すれば、(A)は発光し、(B)は発光状態のままである。
反対に、生育阻害物質が存在すれば、(A)は消光状態のままであり、(B)は消光する。
また、発光、消光を測定する際に、測定の基準となる設定値を設けることは、当該技術分野の常套手段である。
したがって、
「遺伝子損傷性物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも小さく、前記生育阻害物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも大きい場合」とは、(A)は消光状態のままであり、(B)は発光状態のままであって、遺伝子損傷性物質、生育阻害物質いずれもが存在しないことを示すから、「試料水が正常であると判定」され、
「遺伝子損傷性物質検出用微生物膜の発光量が設定値を超え、前記生育阻害物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも大きい場合」とは、(A)は発光するが、(B)は発光状態のままであり、遺伝子損傷性物質が存在することを示すから、「試料水中に遺伝子損傷性物質が混入していると判定」され、
「遺伝子損傷性物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも小さく、前記生育阻害物質検出用微生物膜の発光量が設定値よりも下回った場合」とは、(A)は消光状態のままであり、(B)は消光することであり、生育阻害物質が存在することを示すから、「試料水中に生育阻害物質が混入していると判定」されることは、引用文献1に記載される検出においても同様である。
よって、相違点(3)に特定される事項は、引用文献1に記載されるバイオセンサを用いた検出を行う際に当業者が採用する判定方法を単に記載しただけものであって、実質的な相違点とはいえないか、あるいは当業者が容易になし得ることに過ぎない。

そして、本願発明において、固定化された微生物を冷凍保存したことや、2種類の微生物膜(センサ)を一つのサンプル容器内に収納されたセンサユニットとするによって、当業者が予期できないような格別の効果が奏されたとも認められない。

以上のとおり、本願発明は、引用文献1,2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.請求人の主張について
請求人は審判請求書において、以下の主張をしている。
「本願発明の有害物質検出方法によれば、遺伝子損傷性物質検出用微生物及び生育阻害物質検出用微生物の宿主微生物としてサルモネラ菌を用い、かつ、それぞれの微生物を固定した微生物膜が、同時に同一の試料水に接触できるように一つのサンプル容器内に収納されてなるセンサユニットを用いるので、各微生物膜の培養条件及び測定条件を同一にできる。
このため、遺伝子損傷性物質検出用微生物は通常は消光しているので、冷凍状態から活性を回復させるに際し、遺伝子損傷性物質検出用微生物膜に保持されている遺伝子損傷性物質検出用微生物が、生存しているか死滅しているかの判断や、活性が回復しているか否かの判断は困難であったものの、生育阻害物質検出用微生物は、活性が低下している状態では消光し、活性が回復するに伴い強く発光するので、生育阻害物質検出用微生物の発光状態を確認することで、遺伝子損傷性物質検出用微生物及び生育阻害物質検出用微生物のそれぞれの活性状態や微生物の生存状態を確認できる。(審判請求書4?5頁)」

しかし、2.で述べたとおり、引用文献1には、生育阻害作用物質検出用バイオセンサを遺伝子損傷性物質検出用バイオセンサの状態確認のリファレンスとして使用することが示されている。そしてこのリファレンスによる状態確認には、遺伝子損傷性物質検出用微生物<対象>に対して、生育阻害物質検出用微生物を<リファレンス>として同時に用いることで、例えば検出前に<リファレンス>の発光状態(通常状態は発光しているから、発光していれば活性化され検出に使用可能な状態である)を観察することで、(通常状態は消光しているため発光の観察による状態確認はできない)<対象>の状態を確認できる、という機能が含まれていると考えられる。
なぜなら、<対象>が<リファレンス>と同様のサルモネラ菌であって、<対象>が<リファレンス>と同様の条件で取り扱われた場合(凍結保存の後に活性する場合や、他の検出に使用された後さらに検出に用いようとする場合など)の状態については、<リファレンス>が検出に使用可能な状態である(発光している)ことが確認されれば、<対象>も<リファレンス>と同様に検出に使用可能な状態と考えられるからである。
したがって、請求人の主張する、遺伝子損傷性物質検出用微生物及び生育阻害物質検出用微生物のそれぞれの活性状態や微生物の生存状態を確認できるという効果は、引用文献1の記載から当業者が予期し得るものであって、格別のものではない。

また請求人は、「有害物質の検出を行う際において、遺伝子損傷性物質検出用微生物、生育阻害物質検出用微生物のそれぞれの発光状態を確認することにより、試料水中の遺伝子損傷性物質、生育阻害物質の有無を確認でき、遺伝子損傷性物質が存在しても生育阻害物質が存在するために遺伝子損傷性物質が検出できない場合など、毒性メカニズムの異なる幅広い有害物質の有無を正確に検出できる。(審判請求書5頁)」と、主張してる。

しかし、有害物質の検出を行う際に、発光状態を確認することにより、試料水中の遺伝子損傷性物質、生育阻害物質の有無を確認できることは、上記2.において相違点(3)について述べたとおり、引用文献1に記載される検出方法においても同様である。
そして、たとえ引用文献1に記載される検出方法では、試料中に遺伝子損傷性物質が存在し、かつ、生育阻害物質も存在する場合には、生育阻害物質が遺伝子損傷性物質検出用微生物の生育も同時に阻害するため、遺伝子損傷性物質が存在していても発光せず、遺伝子損傷性物質が検出できないとしても、その場合には、本願発明においても、同様に遺伝子損傷性物質検出用微生物は生育阻害物質の影響を受けると考えられ、遺伝子損傷性物質が検出できないことになる。
したがって請求人の主張が、本願発明の方法は、引用文献1の方法よりも、毒性メカニズムの異なる幅広い有害物質の有無を正確に検出できる、というものであるとするなら、この主張は誤りである。

4.むすび
本願発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-15 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-03 
出願番号 特願2004-13643(P2004-13643)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 新留 豊
中島 庸子
発明の名称 有害物質検出方法  
代理人 松井 茂  

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