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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B |
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管理番号 | 1265064 |
審判番号 | 不服2011-4029 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-02-23 |
確定日 | 2012-10-25 |
事件の表示 | 特願2005-257379「無線通信システムおよび基地局」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月22日出願公開、特開2007- 74189〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成17年9月6日の出願であって、平成22年11月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年2月23日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。 そして平成24年3月29日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成24年5月30日付けで、意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年5月30日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次の事項により特定されるものである。 「【請求項1】 複数の送信アンテナを備えた複数のユーザ端末と、複数の受信アンテナを備えた基地局とで構成され、複数の無線経路を使って前記ユーザ端末が空間多重送信した信号を前記基地局において空間分割受信する無線通信システムであって、 ひとつの前記ユーザ端末と前記基地局との間の前記無線経路を使って送信されるサブストリーム信号として、別の前記ユーザ端末と前記基地局との間の前記無線経路を使って送信されるサブストリーム信号に対して直交する関係を有する信号を使用し、 前記基地局は、複数の前記ユーザ端末からそれぞれ送信されてきたパイロットデータに基づき無線経路情報を推定し、この推定された無線経路情報に基づき前記ユーザ端末ごとのサブストリーム信号に直交する関係を持たせるために前記ユーザ端末が使用すべき送信ウェイトを生成し、生成した前記送信ウェイトを前記ユーザ端末に通知することを特徴とする無線通信システム。」 第3.引用発明 平成24年3月29日付けの拒絶理由通知に引用された刊行物1(田中豊久 外3名、CS2004-189 W-CDMA上り回線へのMIMO適用に関する検討、電子情報通信学会信学技報、日本、2005.01.21発行、VOL.104,No.599、p.37-42)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 (a)第37頁右欄第14行-第38頁左欄第12行 「図1に今回検討評価したW-CDMA上り回線用MIMOシステムの構成を示す。システムは移動局(MS)にN素子の送信アンテナと基地局(BTS)にM素子の受信アンテナを備えており、N本のストリームが伝送できるMIMOシステムである。送信部では、サブストリームに分割された送信データをチャネルコーディングし、拡散変調処理が行われる。N本のアンテナから送信された信号は、MIMOチャネルを経てM本のアンテナで受信され、受信機の熱雑音によるガウス過程のノイズがアンテナ毎独立に付加される。受信信号はMIMO復調処理によりサブストリーム毎に分割復調された後、チャネルデコーディング部で誤り訂正され復調データとして後段に渡される。」 (b)第39頁左欄第19行-第39頁右欄第1行 「W-CDMAの上り回線へのMIMO方式適用にあたり、各ストリームのチャネル推定を行うための仕組みが必要になる。そこでチャネル推定用のパイロット信号シンボルとしてストリームごとに階層化直交符号を利用して直交するシンボルデータを用いた。パイロットシンボルは、スロット毎にPシンボル(シミュレーションでは8)とした。チャネル推定では、まず制御チャネルのパイロットシンボルを次式の逆拡散処理により求める。」 (c)第39頁右欄第26-36行 「2.4 MIMOアルゴリズム チャネル分離を行うSpace Division Multiplexing(SDM)方式のアルゴリズムとして、空間フィルタリング手法であるZero Forcing(ZF)、Minimum Mean Square Error(MMSE)、さらにMLD、およびE-SDMについて評価した。E-SDMはMIMOチャネルを特異値分解し、得られた固有ベクトルを送信ウェイトに用いて直交固有ビームを形成する手法であり、周波数選択性フェージングを軽減することが可能である[4],[5]。チャネル行列のランクをNとすると、H^(H)Hを対角化するユニタリ行列Uを用いてN個の固有値が得られる^(*2)。」 (d)図1のBTS側に「Channel Estimation / MIMO Weight Genaration」と書かれたブロックが存在するので、基地局がチャネル推定とMIMOのウェイトを発生していると認められる。 したがって、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「移動局(MS)にN素子の送信アンテナと基地局(BTS)にM素子の受信アンテナを備えており、N本のストリームが伝送できるW-CDMA上り回線用MIMOシステムであって、 チャネル推定用のパイロット信号シンボルとしてストリームごとに階層化直交符号を利用して直交するシンボルデータを用いて、基地局が各ストリームのチャネル推定を行い、 チャネル分離を行うSpace Division Multiplexing(SDM)方式のアルゴリズムとして、MIMOチャネルを特異値分解し、得られた固有ベクトルを送信ウェイトに用いて直交固有ビームを形成するE-SDM手法を用いた、 W-CDMA上り回線用MIMOシステム。」 第4.本願発明と引用発明の一致点・相違点 引用発明の移動局と本願発明のユーザ端末は、「複数の送信アンテナを備えたユーザ端末」である点で一致している。 刊行物1の摘記事項(a)に、「システムは移動局(MS)にN素子の送信アンテナと基地局(BTS)にM素子の受信アンテナを備えており、」との記載に引き続き、「N本のアンテナから送信された信号は、MIMOチャネルを経てM本のアンテナで受信され、受信機の熱雑音によるガウス過程のノイズがアンテナ毎独立に付加される。」と記載されている(下線は、当審が付加した。)から、引用発明の「M素子の受信アンテナ」は、「M本の受信アンテナ」という意味である。したがって、引用発明のM素子の受信アンテナを備えた基地局が、本願発明の「複数の受信アンテナを備えた基地局」に相当する。 MIMOシステムは、元々、空間を多重化するシステムであるから、引用発明と本願発明とは、「複数の無線経路を使って前記ユーザ端末が空間多重送信した信号を前記基地局において空間分割受信する無線通信システム」である点で一致している。 引用発明では、チャネル推定用のパイロット信号シンボルを用いて、基地局が各ストリームのチャネル推定を行っているから、引用発明の基地局と本願発明の基地局とは、「前記ユーザ端末から送信されてきたパイロットデータに基づき無線経路情報を推定し」ている点で一致している。 刊行物1の図1のBTS側に「Channel Estimation / MIMO Weight Genaration」と書かれたブロックが存在するから、刊行物1の図1では基地局が、MIMOのウェイトを発生している。したがって、引用発明のMIMOチャネルを特異値分解し、送信ウェイトに用いられる固有ベクトルを得る処理は、基地局が行っていると解される。したがって、引用発明の基地局と本願発明の基地局とは、「この推定された無線経路情報に基づき、前記ユーザ端末が使用すべき送信ウェイトを生成し」ている点で一致している。 したがって、本願発明と引用発明の一致点・相違点は、次のとおりである。 [一致点] 「複数の送信アンテナを備えたユーザ端末と、複数の受信アンテナを備えた基地局とで構成され、複数の無線経路を使って前記ユーザ端末が空間多重送信した信号を前記基地局において空間分割受信する無線通信システムであって、 前記基地局は、前記ユーザ端末から送信されてきたパイロットデータに基づき無線経路情報を推定し、この推定された無線経路情報に基づき前記ユーザ端末が使用すべき送信ウェイトを生成することを特徴とする無線通信システム。」である点。 [相違点1] 本願発明は、ユーザ端末が複数であるのに対して、引用発明は、ユーザ端末が一台である点。 [相違点2] 本願発明では、ひとつの前記ユーザ端末と前記基地局との間の前記無線経路を使って送信されるサブストリーム信号として、別の前記ユーザ端末と前記基地局との間の前記無線経路を使って送信されるサブストリーム信号に対して直交する関係を有する信号を使用しているのに対して、引用発明には、かかる内容が記載されていない点。 [相違点3] 本願発明では、複数の前記ユーザ端末からそれぞれ送信されてきたパイロットデータに基づき無線経路情報を推定するのに対して、引用発明では、一台のユーザ端末から送信されてきたパイロットデータに基づき無線経路情報を推定する点。 [相違点4] 本願発明では、基地局が、生成した前記送信ウェイトを前記ユーザ端末に通知するのに対して、引用発明には、基地局が、生成した前記送信ウェイトを前記ユーザ端末に通知することは明記されていない点。 第5.相違点についての検討 [相違点1?相違点3について] 平成24年3月29日付けの拒絶理由通知に引用された刊行物2(大河原純哉 外3名、RCS2005-36 マルチユーザMIMO上り回線における送信アンテナ選択の効果、電子情報通信学会信学技報、日本、2005.06.10発行、Vol.105,No.121、p.53-58)の第53頁左欄第6-12行に、 「MIMOシステムにSDMA方式を適用した環境(以下、マルチユーザMIMO環境と呼ぶ)は、複数のアンテナを持つ基地局に対し、複数のアンテナを持つ端末が複数存在し、同一チャネル内に存在する複数の端末と基地局間において同時に信号を送受信する環境(図1参照)である。このようなマルチユーザMIMO環境により大容量かつ高速伝送システムを構築できる可能性がある。」 と記載されているように、複数のアンテナを持つ基地局に対し、複数のアンテナを持つ端末が複数存在するマルチユーザMIMO環境は、周知の環境である。 したがって、引用発明を、周知のマルチユーザMIMO環境に適用することは、容易に想到できたことである。 上述のように、引用発明を、周知のマルチユーザMIMO環境に適用すれば、ユーザ端末が複数となり(相違点1)、チャネル推定用のパイロットデータは、複数のユーザ端末それぞれから送信されること(相違点3)は明らかである。 また、マルチユーザMIMO環境において、E-SDM手法を用いて、MIMOチャネルを特異値分解することにより、複数のユーザ端末の各送信アンテナからのビームが直交固有ビームとなるから、異なる端末からのデータストリーム信号が互いに直交することは明らかである。(相違点2) また、マルチユーザMIMO環境における、各ユーザ端末からの送信信号は、それぞれ別個の意味を持った信号であるから、各ユーザ端末からの送信信号が互いに干渉しないように、異なる端末からのデータストリーム信号を互いに直交させることは、通信技術としては極めて自然な考え方である。 [相違点4について] 平成24年3月29日付けの拒絶理由通知に引用された刊行物3(特開2005-236481号公報)の特許請求の範囲の請求項2に、 「【請求項2】 複数のアンテナを持つ送信機と複数のアンテナを持つ受信機が対となって信号を多重化して通信する空間分割多重通信方式を採用し、 空間分割多重通信の送信機から受信機へ向かうチャネル行列Hを取得し、該チャネル行列をUDV^(H)に特異値分解して、送信アンテナ毎の送信重みベクトルを要素ベクトルとする送信アンテナ重み行列Vを求める特異値分解手段と、 送信アンテナ重み行列Vを構成する各要素ベクトルを信号空間上の信号点に割り当てて符号化し、前記受信機から前記送信機へフィードバックする送信アンテナ重み行列フィードバック手段と、 前記送信機において、受信した信号点における振幅と位相の組み合わせから各要素ベクトルを復号し、送信アンテナ重み行列Vを復元する重み行列受信手段と、 を備えることを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。」 と記載されている。ただし、下線は当審が付した。 刊行物3の請求項2では、複数のアンテナを持つ送信機と複数のアンテナを持つ受信機が対となって信号を多重化して通信する空間分割多重通信方式において、受信機側でチャネル行列をUDV^(H)に特異値分解して送信アンテナ重み行列Vを求め、該送信アンテナ重み行列Vを受信機から送信機へフィードバックしている。 引用発明において、MIMOチャネルを特異値分解して固有ベクトルを得るのは基地局であるのに対して、固有ベクトルを送信ウェイトとして用いるのは移動局である。したがって、引用発明において、刊行物3の請求項2のように、MIMOチャンネルを特異値分解して得られた、送信ウェイトとして用いられる固有ベクトルを移動局にフィードバックすることは、容易に想到できたことである。 そして、本願発明の作用効果も、引用発明、刊行物3に記載された発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願発明は、引用発明、刊行物3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1、3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-08-23 |
結審通知日 | 2012-08-28 |
審決日 | 2012-09-11 |
出願番号 | 特願2005-257379(P2005-257379) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 清水 祐樹 |
特許庁審判長 |
江口 能弘 |
特許庁審判官 |
吉村 博之 近藤 聡 |
発明の名称 | 無線通信システムおよび基地局 |
代理人 | 稲葉 忠彦 |
代理人 | 村上 加奈子 |
代理人 | 中鶴 一隆 |
代理人 | 高橋 省吾 |