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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1265068
審判番号 不服2011-10280  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-17 
確定日 2012-10-25 
事件の表示 特願2005- 89017「リフローハンダ付け用キャパシタおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日出願公開、特開2006-269946〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許出願は、平成17年3月25日の出願であって、平成22年4月28日付け及び同年9月15日付けの各拒絶理由通知に対して、平成22年7月9日付け、及び同年11月18日付けでそれぞれ手続補正されたが、平成23年2月16日付けで、平成22年9月15日付けで通知した拒絶の理由によって拒絶査定され、これに対し、平成23年5月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで特許請求の範囲について手続補正がされたものである。
その後、前置報告の内容を利用した審尋に対し、平成24年2月16日付けで回答書が提出された。


第2 平成23年5月17日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成23年5月17日付けの手続補正を却下する。

〔理 由〕
1.本件補正
平成23年5月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正前に、

「 【請求項1】
正極及び負極として作用する一対の電極と、電解液と、前記電極と前記電解液とを収納する耐熱容器と、前記耐熱容器を溶接により封止する蓋とを有するリフローハンダ付け用キャパシタであって、
前記電解液は、常温溶融塩を10重量%以上含み、
前記蓋の接合面と、前記耐熱容器の側壁端部または前記耐熱容器の側壁端部に設けられた金属リング上にはニッケルメッキが施され、
前記蓋の接合面のニッケルメッキと前記耐熱容器の側壁端部または前記耐熱容器の側壁端部に設けられた金属リング上のニッケルメッキが、溶接部に電解液が接した状態で溶接され、
かつ、内部抵抗値が110Ω以下であることを特徴とするリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項2】
前記常温溶融塩のカチオンがイミダゾリウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピロリウムカチオン、ピロリニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項3】
前記常温溶融塩のカチオンが1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンであることを特徴とする請求項2に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項4】
前記溶接は、抵抗シーム溶接であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項5】
前記溶接は、レーザーシーム溶接であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項6】
前記溶接は、真空中で行う電子ビーム溶接であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項7】
前記耐熱容器がセラミック、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンのいずれかからなり、かつ前記蓋と接する面に金属リングを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け
用キャパシタ。
【請求項8】
前記電解液は、前記常温溶融塩を溶媒に溶解させる場合には、有機溶媒を用いることを特徴とする請求項1に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項9】
前記有機溶媒が、プロピレンカーボネートである請求項8に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項10】
耐熱容器に、第一の電極と、セパレータと、第二の電極と、常温溶融塩を10重量%以上含んだ電解液とを収納する第一工程と
蓋の接合面のニッケルメッキと、前記耐熱容器の側壁端部または前記耐熱容器の側壁端部に設けられた金属リング上のニッケルメッキを、溶接部に電解液が接した状態で溶接して封止し、前記キャパシタの内部抵抗値が110Ω以下である第二工程からなるリフローハンダ付け用キャパシタの製造方法。
【請求項11】
前記第二工程は、電解液が蒸発する状態で溶接することを特徴とする請求項10に記載のリフローハンダ付け用キャパシタの製造方法。
【請求項12】
前記第二工程の溶接が抵抗シーム溶接またはレーザーシーム溶接で行う請求項10または11のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタの製造方法。
【請求項13】
前記第二工程を真空下で電子ビーム溶接により行う請求項10から12のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタの製造方法。」
とあったものを、

「 【請求項1】
正極及び負極として作用する一対の電極と、電解液と、前記電極と前記電解液とを収納する耐熱容器と、前記耐熱容器を溶接により封止する蓋とを有するリフローハンダ付け用キャパシタであって、
前記電解液は、常温溶融塩を10重量%以上含み、
前記蓋は、ニッケル、銅、ステンレス、またはアルミニウムが用いられ、 前記蓋の接合面と、前記耐熱容器の側壁端部または前記耐熱容器の側壁端部に設けられた金属リング上にはニッケルメッキが施され、
前記蓋の接合面のニッケルメッキと前記耐熱容器の側壁端部または前記耐熱容器の側壁端部に設けられた金属リング上のニッケルメッキが、溶接部に電解液が接した状態で溶接され、
かつ、内部抵抗値が110Ω以下であることを特徴とするリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項2】
前記常温溶融塩のカチオンがイミダゾリウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピロリウムカチオン、ピロリニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項3】
前記常温溶融塩のカチオンが1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンであることを特徴とする請求項2に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項4】
前記溶接は、抵抗シーム溶接であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項5】
前記溶接は、レーザーシーム溶接であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項6】
前記溶接は、真空中で行う電子ビーム溶接であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項7】
前記耐熱容器がセラミック、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンのいずれかからなり、かつ前記蓋と接する面に金属リングを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項8】
前記電解液は、前記常温溶融塩を溶媒に溶解させる場合には、有機溶媒を用いることを特徴とする請求項1に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項9】
前記有機溶媒が、プロピレンカーボネートである請求項8に記載のリフローハンダ付け用キャパシタ。
【請求項10】
耐熱容器に、第一の電極と、セパレータと、第二の電極と、常温溶融塩を10重量%以上含んだ電解液とを収納する第一工程と
ニッケル、銅、ステンレス、またはアルミニウムが用いられた蓋の接合面のニッケルメッキと、前記耐熱容器の側壁端部または前記耐熱容器の側壁端部に設けられた金属リング上のニッケルメッキを、溶接部に電解液が接した状態で溶接して封止し、前記キャパシタの内部抵抗値が110Ω以下である第二工程からなるリフローハンダ付け用キャパシタの製造方法。
【請求項11】
前記第二工程は、電解液が蒸発する状態で溶接することを特徴とする請求項10に記載のリフローハンダ付け用キャパシタの製造方法。
【請求項12】
前記第二工程の溶接が抵抗シーム溶接またはレーザーシーム溶接で行う請求項10または11のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタの製造方法。
【請求項13】
前記第二工程を真空下で電子ビーム溶接により行う請求項10から12のいずれか一項に記載のリフローハンダ付け用キャパシタの製造方法。」
と補正しようとするものである。

すると、本件補正は、補正前の請求項1及び10の特定事項における「蓋」について、「ニッケル、銅、ステンレス、またはアルミニウムが用いられ」との限定を加えるものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。

2.引用例
(1)第1引用例
本件特許出願出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-227959号公報(以下、「第1引用例」という)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(a)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面実装可能な非水電解質電池および電気二重層原理を利用した電気二重層キャパシタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
非水電解質電池および電気二重層キャパシタは、従来、時計機能のバックアップ電源や半導体のメモリのバックアップ電源やマイクロコンピュータやICメモリ等の電子装置予備電源やソーラ時計の電池やモーター駆動用の電源などとして使用されており、近年は電気自動車の電源やエネルギー変換・貯蔵システムの補助貯電ユニットなどとしても検討されている。
【0003】
非水電解質電池および電気二重層キャパシタは、半導体メモリは不揮発化、時計機能素子の低消費電力化により、容量、電流ともそれほど大きなものの必要性が減ってきている。むしろ、非水電解質電池および電気二重層キャパシタのニーズとしては、薄型やリフローハンダ付け(あらかじめプリント基板上のハンダ付を行う部分にハンダクリーム等を塗布しておきその部分に部品を載置するか、あるいは、部品を載置後ハンダ小球(ハンダバンプ)をハンダ付部分に供給し、ハンダ付部分がハンダの融点以上、例えば、200?260℃となるように設定された高温雰囲気の炉内に部品を搭載したプリント基板を通過させることにより、ハンダを溶融させてハンダ付を行う方法)に対する要求が強くなっている。

(b)
【0010】
【課題を解決するための手段】
前述の課題を解決するために、非水電解質電池および電気二重層キャパシタの凹状容器縁部に熱膨張係数の近い金属リングとろう材からなる金属層を設け、更に封口板も金属リングと近い性質の金属であって、接着面にろう材層を有するものを用いた。
【0011】
さらに、正極および負極からなる対電極、セパレータ、電解質とを凹状容器に収納し、封口板をその上部にのせ、抵抗溶接法を用いたシーム溶接を行った。それにより、高信頼性の封口を達成できるようになった。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の代表的な構造として図1を用いて説明する。本発明の非水電解質電池または電気二重層キャパシタは、主に直方体にする事が、表面実装での場所占有率を下げることにおいて効果がある。
【0013】
図1は、直方体である本発明の非水電解質電池または電気二重層キャパシタの断面図である。凹状の容器101はアルミナ製で、グリーンシートにタングステンプリントし、コバール(Co:17、Ni:29、Fe:残の比率の合金)製の金属リング109を載せ焼成した。さらに、接続端子A103、接続端子B104には、ニッケル、金めっきを施し、金属リング109の上部には接合剤1081(ろう材)となるニッケルおよび金めっきを施した。 これは、一般の水晶振動子のセラミックスパッケージと同じ方法により作製した。また、凹状容器101縁部に位置する金属層(金属リング109と接合剤108)の厚さを負極活物質107とセパレータ105の合計の厚さより薄くした。もし、金属層の厚さが負極活物質107とセパレータ105の合計の厚さより厚くなってしまうと金属層と正極活物質106が接触し、非水電解質電池または電気二重層キャパシタとして機能しなくなってしまう可能性がある。図3に、金属層の厚さが負極活物質107とセパレータ105の合計の厚さより厚くなる場合の断面図を示した。製造工程のばらつきで正極活物質106の位置がずれてしまうと金属リング1091と接触して内部ショートとなってしまうためである。

(c)
【0017】
封口板102の容器側の部分には、接合剤1082(ろう材)となるニッケルめっきを施した。封口板102と負極活物質107は、あらかじめ炭素を含有する導電性接着剤1112で接着した。
【0018】
容器内部に正負極電極、セパレータ105、電解液を収納し、封口板102で蓋をした後、抵抗溶接の原理を利用したパラレルシーム溶接機により、封口板102の向かい合う2辺ずつ溶接を行った。この方法により信頼性の高い封口が得られた。
【0019】
凹状の容器101は耐熱樹脂、ガラス、セラミックスまたはセラミックスガラス等の耐熱材料がよい。製法としては、低融点のガラスやガラスセラミックスに導体印刷により配線を施し、積層し低温で焼成することも可能である。また、アルミナのグリーンシートと導体印刷により積層し、焼成することも可能である。
【0020】
金属リング109の材質は、凹状の容器101に熱膨張係数の近いものが望まれる。
【0021】
たとえば、凹状の容器101が熱膨張係数6.8×10^(-6)/℃のアルミナを用いる場合金属リングとしては熱膨張係数5.2×10^(-6)/℃のコバールを用いることが望ましい。
【0022】
また、封口板102も溶接後の信頼性を高めるため、金属リングと同じコバールを用いることが望ましい。溶接後、機器の基板に表面実装されるとき、すなわちリフローハンダ付けのとき再び加熱されるためである。

(d)
【0026】
金属リング109および封口板102の接合される面には、ろう材としてニッケル及び/または金の層を設けることが有効である。金の融点は1063℃、ニッケルの融点は1453℃であるが、金とニッケルの合金にすることにより融点を1000℃以下に下げることができるためである。層の形成方法としては、めっき、蒸着などの気相法、印刷を用いた厚膜法等がある。特にめっき、印刷を用いた厚膜法がコスト的に有利である。

(e)
【0031】
使用するセパレータは耐熱性のある不織布であることが好ましい。たとえば、ロール圧延したポーラスフィルム等のセパレータにおいては、耐熱性があるものの、抵抗溶接法を利用したシーム溶接時の熱で圧延方向に縮んでしまう。その結果、内部ショートを起こしやすい。耐熱性のある樹脂またはガラス繊維を用いたセパレータの場合縮みが少なく良好であった。樹脂としてはPPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)が良好であった。特にはガラス繊維が有効であった。また、セラミックスの多孔質体を用いることもできる。

(f)
【0034】
【発明の効果】
本発明の非水電解質電池および電気二重層キャパシタは、接続端子を収納容器と一体化し、容器下部に配置したため、基板状のスペースを削減することが可能となった。また、耐熱性の部材により構成することによりリフローハンダ付けに対応できる。

上記引用例記載事項及び図面を総合勘案すると、第1引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「リフローハンダ付けにより表面実装可能電気二重層キャパシタであって、
正極および負極からなる対電極、セパレータ、電解質とを例えばアルミナのような耐熱材料の凹状容器に収納し、封口板をその上部にのせ、抵抗溶接法を用いたシーム溶接を行うものであり、
前記凹状容器縁部には、凹状の容器と熱膨張係数の近い、例えばコバール製の金属リングとニッケルメッキのろう材からなる金属層を設け、
前記封口板も金属リングと同じコバールを用い、同封口板の容器側の部分には、ろう材となるニッケルめっきを施した、
電気二重層キャパシタ。」

(2)第2引用例
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-273832号公報(以下、「第2引用例」という)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(g)
【0001】
【発明の属する分野】
本発明は、例えば、電気二重層キャパシタの材料として好適に用いられる電解液常温溶融塩と有機溶媒とからなる非水系電解液に係る。

(h)
【0004】
固体状の電解質を溶媒に溶解させた非水電解液系では、電解液の電気伝導性は電解質の濃度とともに変化する。濃度の上昇とともに解液中のイオン濃度が増加することによって電気伝導度が増加するがやがて極大点に達する。電気伝導度が極大点に達し減少し始めるのは電解液中にイオンの数が増すにつれて、溶媒-イオン、イオン-イオン間の相互作用の増大によって電解質が解離しにくくなり、同時に電解液の粘度が増加するためと考えられている。電解質濃度がさらに増加するとそれ以上解離できなくなり、電解質濃度が飽和する。したがって電解質濃度を高めようとした場合には電解質が溶解しにくくなるといった問題があった。
【0005】
一方、常温溶融塩はイオンのからなることから蒸気圧が低く、難燃性であることが知られている。また液状であることから混合時にハンドリングしやすい。

(j)
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を解決すべく本発明者らが鋭意検討した結果、特定の常温溶融塩と特定の有機溶媒とからなる電解液が高い電気伝導性を有することを見出し、さらには特定の濃度範囲で混合することによって低温において凝固せず、さらに特定の範囲では難燃性が得られることを見出し、本発明を達成した。
【0010】
本発明の非水系電解液は、常温溶融塩と有機溶媒とからなる非水系電解液において、電解液が凝固しない濃度範囲で該常温溶融塩を含有することを特徴とする。
該電解液が難燃化する濃度範囲で該常温溶融塩を含有することを特徴とする。

(k)
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明に係る電解液は常温溶融塩と有機溶媒とからなることを特徴とする。
本発明の常温溶融塩は1-アルキル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートである。1位に付いたアルキル基がプロピル基以上になるとイオンの移動度が低下するため電気伝導性が低下するので、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートが好ましく、さらには1,3-ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートであることが好ましい。

(l)
【0026】
(実施例1)
常温溶融塩として1-エチル3-メチルイミダゾリウムテトラフロロボレート(EMIBF4)、有機溶媒としてプロピレンカーボネートを用いた溶液を調整した。常温溶融塩の濃度を変えて、電気伝導度測定・難燃性評価・低温熱特性の評価を行った。
結果を表1に示した。
【0027】
常温溶融塩を30wt%から90wt%の範囲でプロピレンカーボネート溶媒に混合すれば低温でも良好な電気伝導性の電解液が得られ、さらに60wt%から90wt%の範囲で混合すれば難燃性を有するとともに低温でも固化しない電解液が得られる。
【0028】
【表1】


(3)周知例1
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-39256号公報(以下、「周知例1」という)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(m)
【0001】
本発明は非水電解質電池および電気二重層原理を利用した電気二重層キャパシタ等の電気化学セルおよびその製造方法に関する。

(n)
【0042】
図1および図2、図3においては、11は凹部11aを有する箱状に形成された樹脂材料からなるベース部材で、ベース部材11の凹部11aの内側から外側に、ベース部材11の壁面を貫通する導電性端子15と、ベース部材11と接合された枠部材12で容器を構成する。また、正極活物質101と導電性端子15とは導電性接着剤で貼りあわせ、凹部11aにセパレータ102と図示しない電解質を収納する。また、負極活物質102とカバー部材13とは導電性接着剤で貼りあわせ、枠部材12とカバー部材13とを重ね合わせて溶接する。また、導電性端子15にはステンレス、もしくは、アルミニウムを用い、枠部材12とカバー部材13にはステンレス、もしくは、アルミニウム、FeNi合金が用いられる。
【0043】
ここで、導電性端子の材質としては、ステンレスであれば19Cr-9Ni鋼、18Cr-12Ni-Mo-Cu鋼など、アルミニウム、アルミニウム合金などから、プレス性や切削性、溶接性に適合する金属が用いられる。枠部材とカバー部材の材質としては、ステンレスであれば19Cr-9Ni鋼、18Cr-12Ni-Mo-Cu鋼など、アルミニウム、アルミニウム合金など、FeNi合金であれば、42アロイ、FeNiCo合金などが含まれる。また、カバー部材と枠部材とを溶接する方法としては、YAGレーザ、半導体レーザ、ランプ加熱などの光吸収を用いる方法、カバー部材に超音波振動子を押し当てて枠部材との間を擦り合わせ、摩擦熱を用いる方法、カバー部材もしくはカバー部材と枠部材に通電して加熱する抵抗加熱を用いる方法が用いられる。また、カバー部材と枠部材の接合材としてロー材を用いることも含まれており、ロー材としては、Niめっき、Snメッキ、もしくはAgCu合金などが用いられる。ここで、カバー部材と枠部材それぞれのロー材を接合しやすくするため、ロー材の表面にAu、もしくは、Pt、などのフラッシュめっきを施すことも含まれる。
【0044】
また、ベース部材の材料は絶縁性の樹脂であれば適用できるが、エポキシ系、ポリイミド系の耐熱を有する熱硬化性樹脂や、ポリスチレン系、ポリフェニレンサルファイド系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリエーテル系の熱可塑樹脂が、剛性、耐熱性の面から適している。ここで、ポリスチレン系としてはシンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド系としてはリニア型および架橋型ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル系としては液晶ポリマーの呼称の全芳香族ポリエステル、ポリアミド系としてはナイロン、ポリエーテル系としてはポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、などが選択される。また、これら樹脂にガラス繊維、マイカ、セラミックス微粉等を添加したものも用いられる。

(o)
【0048】
電解質としては、(C_(2)H_(5))_(4)PBF_(4)、(C_(3)H_(7))_(4)PBF_(4)、(CH_(3))(C_(2)H_(5))_(3)NBF_(4)、(C_(2)H_(5))_(4)NBF_(4)、(C_(2)H_(5))_(4)PPF_(6)、(C_(2)H_(5))_(4)PCF_(3)SO_(4)、(C_(2)H_(5))_(4)NPF_(6)、過塩素酸リチウム(LiClO_(4))、六フッ化リン酸リチウム(LiPF_(6))、ホウフッ化リチウム(LiBF_(4))、六フッ化砒素リチウム(LiAsF_(6))、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF_(3)SO_(3))、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)]、チオシアン塩、アルミニウムフッ化塩などのリチウム塩、 等の一種以上の塩を用いることができる。ポリエチレンオキサイド誘導体かポリエチレンオキサイド誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体やポリプロピレンオキサイド誘導体を含むポリマー、リン酸エステルポリマー、PVDF等と非水溶媒、支持塩と併用しゲル状または固体状で用いることが含まれる。また、LiS/SiS_(2)/Li_(4)SiO_(4)の無機固体電解質を用いることが含まれる。またピリジン系や脂環式アミン系、脂肪族アミン系のイオン性液体やアミジン系などの常温溶融塩でもよい。これらを用いると、カバー部材と枠部材との溶接をおこなう際の蒸気の発生を抑えることに効果がある。


3.対比
引用発明の
「リフローハンダ付けにより表面実装可能電気二重層キャパシタであって、
正極および負極からなる対電極、セパレータ、電解質とを耐熱材料の凹状容器に収納し、封口板をその上部にのせ、抵抗溶接法を用いたシーム溶接を行うものであり」からすると、引用発明は、本願補正発明の
「正極及び負極として作用する一対の電極と、電解液と、前記電極と前記電解液とを収納する耐熱容器と、前記耐熱容器を溶接により封止する蓋とを有するリフローハンダ付け用キャパシタ」との特定事項を備えている。
引用発明の、「前記凹状容器縁部には、金属リングとニッケルメッキのろう材からなる金属層を設け、
前記封口板の容器側の部分には、ろう材となるニッケルめっきを施した」
との要件と、先に示した「封口板をその上部にのせ、抵抗溶接法を用いたシーム溶接を行う」との要件とから、引用発明は、本願補正発明の、
「前記蓋の接合面と、前記耐熱容器の側壁端部に設けられた金属リング上にはニッケルメッキが施され、
前記蓋の接合面のニッケルメッキと前記耐熱容器の側壁端部に設けられた金属リング上のニッケルメッキが」「溶接され」
の点で一致する。

以上のことからすると、本願補正発明と、引用発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
正極及び負極として作用する一対の電極と、電解液と、前記電極と前記電解液とを収納する耐熱容器と、前記耐熱容器を溶接により封止する蓋とを有するリフローハンダ付け用キャパシタであって、
前記蓋の接合面と、前記耐熱容器の側壁端部に設けられた金属リング上にはニッケルメッキが施され、
前記蓋の接合面のニッケルメッキと前記耐熱容器の側壁端部に設けられた金属リング上のニッケルメッキが溶接される
リフローハンダ付け用キャパシタ。」

一方で、以下の各相違点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明は、電解液について「常温溶融塩を10重量%以上含み」と特定するのに対し、引用発明は、電解液の材料について特定がない点。

(相違点2)
本願補正発明は、蓋について「ニッケル、銅、ステンレス、またはアルミニウムが用いられ」と特定するのに対し、引用発明の蓋(封口板)は、異なる材料で形成されている点。

(相違点3)
本願補正発明は、蓋と容器の溶接の際に「溶接部に電解液が接した状態で溶接され」と特定するのに対し、引用発明は、溶接部と電解液が接するか否か特定がない点。

(相違点4)
本願補正発明は、キャパシタの「内部抵抗値が110Ω以下である」と特定するのに対し、引用発明は、内部抵抗について特定がない点。


4.判断
1)相違点1について
電気二重層キャパシタの電解液に常温溶融塩を用いることは、第2引用例の他周知例1にも(上記(o)参照)記載されているように周知技術にすぎないと認められるところ、特に、第2引用例では、電解液中の常温溶融塩の比率について検討し、常温溶融塩を少なくとも10重量%以上含む電解液を用いることが記載されている。このような電解液を引用発明のキャパシタに用いることに格別の困難な事情も認められないから、常温溶融塩を10重量%以上含む電解液を用いることは、第2引用例に記載された発明、及び周知技術を参照することにより当業者が容易に想到しうることである。

2)相違点2について
第1引用例には、凹状の容器の耐熱性材料としてアルミナを用いた場合に、凹状容器の縁部に形成される金属リング及び同金属リングと溶接される封口板にコバールを用いる例が示されているが、同時に、凹状容器を形成する耐熱材料として「耐熱樹脂、ガラス、セラミックスまたはセラミックスガラス等の耐熱材料がよい」との記載があるところ、周知例1には、引用発明の凹状の容器及び本願補正発明の耐熱容器に相当するベース部材にエポキシ系等の耐熱性の樹脂を用いる前提で(0044段落)、「枠部材とカバー部材の材質としては、ステンレスであれば19Cr-9Ni鋼、18Cr-12Ni-Mo-Cu鋼など、アルミニウム、アルミニウム合金など、FeNi合金であれば、42アロイ、FeNiCo合金などが含まれる。」と、本願補正発明の選択肢であるステンレス、又はアルミニウムを含む金属・合金材料用いることが記載されている。
また、特開2004-356009号公報(審査における一回目の拒絶理由通知で引用。以下、「周知例2」という。)の0010段落に「カソード腐食に強い材料(例えば、アルミニウム、ステンレス及びニッケル)の外装フタ」とあるように、本願補正発明の選択肢であるニッケル、ステンレス、及びアルミニウムを電気二重層キャパシタの蓋に用いることは周知技術にすぎないものである。
一方で、本件特許出願の発明の詳細な説明を検討すると、蓋の材料については0070段落に、
「蓋は、集電体を兼ねるため、鉄-コバルト合金、鉄-ニッケル合金、ニッケル、銅、ステンレス、アルミニウム等の金属を用いることができる。」
との記載があるにすぎない。
本願補正発明においては、耐熱容器の材料が特定されておらず、金属リングについては、設けること自体択一的な選択肢の一つにすぎず、同金属リングの材料についても何ら特定されていない。前記蓋の材料についても、前記0070段落に記載された材料以外の材料との比較がされているわけでもなく、耐熱容器の材料や金属リングの材料との関係が特定されているわけでもない。すると、前記0070段落の記載は、集電体として使用可能な周知の金属・合金材料が単に列記された程度のものと解するほかなく、したがって、本願補正発明における金属・合金材料の特定は、周知技術に基づいて当業者が適宜選択しうる範囲のものにすぎないとするのが技術的に妥当である。

3)相違点3について
本願補正発明において、「溶接部に電解液が接した状態で溶接され」と特定される点は、「特に図1及び図2には電解液5が溶接部7に接している状態が示されて」いることを根拠としている(平成22年7月9日付け意見書)ところ、第1引用例においても、特に図1を参照すると、セパレータ105の上下空間に、注入された電解液が収納されることが明らかで、特に、電解液に周知の常温溶融塩を用いた場合には、温度上昇による電解液の劣化の恐れが少ないことから、溶接部に接した状態とすることに特段困難な事情は認められないから、相違点3については、実質的な相違点ではないとすることができるか、または、当業者が引用発明を実施する際に当然の状態を特定したにすぎないものである。

4)相違点4について
コンデンサにいおて、内部抵抗を小さくしたいとの課題は、ごく普通に存在するものにすぎず、周知例2の0036段落(表1)を参照すると、実施例1,2が比較例より著しく小さい内部抵抗を持つことから、良好な封止状態が保たれるとの効果を奏すると記載されている。そして、実施例1,2において実現されている内部抵抗の値は、いずれも本願補正発明の「110Ω以下」との要件を満たすものである。
すると、引用発明のコンデンサに、第2引用例及び周知例1等に示される周知技術を参酌し、電解液として常温溶融塩を用いた場合にも、電解液の劣化の恐れが少なく、良好な封止状態が期待できるから、その結果得られるキャパシタの内部抵抗についても、周知例2の実施例に示された60ないし80Ω程度、すなわち「110Ω以下」の内部抵抗を実現することに格別困難があったと認めるべき根拠がない。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても、本願発明が顕著な効果を奏すると認めるべき根拠もない。

5.本件補正についての結び
以上のとおり、本願補正発明は、第1及び第2引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年5月17日付け付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件特許出願の請求項1ないし13に係る発明は、平成22年11月18日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 〔理由〕1.」に本件補正前の請求項1として掲げたとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 〔理由〕2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2 〔理由〕」で検討した本願補正発明から、
「前記蓋は、ニッケル、銅、ステンレス、またはアルミニウムが用いられ、」
との限定を削除したものに相当する。

そうすると、本願発明を特定する事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 〔理由〕4.」に記載したとおり、引用発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本件特許出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本件特許出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-21 
結審通知日 2012-08-28 
審決日 2012-09-13 
出願番号 特願2005-89017(P2005-89017)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01G)
P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐久 聖子井上 弘亘  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 齊藤 健一
大澤 孝次
発明の名称 リフローハンダ付け用キャパシタおよびその製造方法  
代理人 久原 健太郎  
代理人 内野 則彰  
代理人 木村 信行  

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