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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16J
管理番号 1265086
審判番号 不服2011-21823  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-07 
確定日 2012-10-25 
事件の表示 特願2005-364972「ガスケット」拒絶査定不服審判事件〔平成19年6月7日出願公開、特開2007-139177〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成17年12月19日(優先権主張 平成17年10月20日)の出願であって、平成23年7月6日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年10月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成23年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年10月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
燃焼室孔が開口すると共にその燃焼室孔を囲むようにビードが設けられた基板と、その基板の燃焼室周りに積層配置され且つ当該基板よりも板厚が薄いシム板と、を備え、上記シム板は、基板における上記基板ビード形成位置と当該基板ビード形成位置を挟んで燃焼室側の平坦部分である第1平坦部及び燃焼室から離間した側の平坦部分である第2平坦部に対向するガスケットにおいて、
上記シム板は、上記基板に設けられたビードの凸部側を覆うように当該基板に積層配置され、
上記シム板における上記第1平坦部と対向する位置に、燃焼室孔周縁に沿って延びる補助ビードを2条以上設け、その2条以上の補助ビードは全て、基板側にだけ凸となるように厚さ方向に屈曲して成型されて厚さ方向に弾性変形可能となっているとともに、
上記2条以上の補助ビードは全て、上記基板に設けられたビードよりも高さが低く且つ当該基板に設けられたビードよりも幅が狭く設定されたことを特徴とするガスケット。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
燃焼室孔が開口すると共にその燃焼室孔を囲むようにビードが設けられた基板と、その基板の燃焼室周りに積層配置され且つ当該基板よりも板厚が薄いシム板と、を備え、上記シム板は、基板における上記基板ビード形成位置と当該基板ビード形成位置を挟んで燃焼室側の平坦部分である第1平坦部及び燃焼室から離間した側の平坦部分である第2平坦部に対向するガスケットにおいて、
上記シム板は、上記基板に設けられたビードの凸部側を覆うように当該基板に積層配置され、
上記シム板における上記第1平坦部と対向する位置に、燃焼室孔周縁に沿って延びる補助ビードを2条以上設け、その2条以上の補助ビードは全て、基板側にだけ凸となるように厚さ方向に屈曲して成型されて厚さ方向に弾性変形可能となっているとともに、
上記シム板は、隣り合う補助ビード間における上記基板側とは反対側を向く面が平坦に形成され、
上記2条以上の補助ビードは全て、上記基板に設けられたビードよりも高さが低く且つ当該基板に設けられたビードよりも幅が狭く設定されたことを特徴とするガスケット。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明特定事項である「シム板」を「上記シム板は、隣り合う補助ビード間における上記基板側とは反対側を向く面が平坦に形成され」とすることにより、その構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)の図2?4等から、シム板は、隣り合う補助ビード間における基板側とは反対側を向く面が平坦に形成されている構成が看取できる。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、同特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開2002-5292号公報
(2)刊行物2:特開2005-207536号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「金属ガスケット」に関して、図面(特に、図1?7を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「【請求項1】燃焼室孔の周囲にビードが設けられた基板と、該基板より薄肉に形成されて前記基板に積層されたシム板とを備え、シリンダブロックとシリンダヘッドとの接合面間に介装して締結ボルトで締め付けることにより、前記接合面間をシールするようにした金属ガスケットにおいて、前記シム板を前記燃焼室孔の周囲に前記基板のビードを覆うように配置し、且つ、該基板のビードの前記燃焼室孔側及び該燃焼室孔から離間する側の内の少なくとも一方の側の前記シム板に補助ビードを設けたことを特徴とする金属ガスケット。」(第2頁第1欄第2?12行、【請求項1】)
(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、燃焼室孔の周囲にビードが設けられた基板と、該基板より薄肉に形成されて前記基板に積層されたシム板とを備え、シリンダブロックとシリンダヘッドとの接合面間に介装して締結ボルトで締め付けることにより、前記接合面間をシールするようにした金属ガスケットに関する。」(第2頁第1欄第24?30行、段落【0001】参照)
(c)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の金属ガスケットにおいては、締結ボルト近傍に比べて締結ボルト間の方が面圧が低くなるため、特に、運転時に高温/高圧ガスを発生して大きな振動振幅を発生する最近のエンジンに使用する場合には、締結ボルト間の低面圧域の振動振幅の増大により基板の燃焼室孔の周囲に設けられたビードだけでは十分なシール性能が得られないという不都合がある。
【0004】また、一方で、最近のアルミニウム製エンジンのように剛性の低いエンジンでは、エンジンの変形を防止する観点から燃焼室孔の周縁部に過大な面圧をかけられないため、上述した締結ボルト間の面圧低下に起因するシール性能の低下を助長する原因になっている。本発明はかかる不都合を解消するためになされたものであり、燃焼室孔の周縁に過大な面圧をかけなくても燃焼室孔の全周にわたって十分なシール性能を得ることができる金属ガスケットを提供することを目的とする。」(第2頁第1欄第43行?第2欄第10行、段落【0002】?【0004】参照)
(d)「【0009】図1及び図2を参照して、この金属ガスケットは、燃焼室孔2の周囲にフルビード3が形成された基板1と、基板1より薄肉に形成されて該基板1に積層されたシム板4とを備えている。シム板4は、基板1の燃焼室孔2の周囲にフルビード3の凸部側を覆うように配置されており、これにより、燃焼室孔2の周囲と他の部分との間に板厚差を設けている。なお、図1では、シム板4は裏面に配置されている。
【0010】ここで、この実施の形態では、シム板4のフルビード3の燃焼室孔2側及び該燃焼室孔2から離間する側の両方の側に補助ビード5a,5bを設けている。補助ビード5a,5bは共にフルビードとされて基板1のフルビード3より低く且つ厚さ方向に弾性変形可能とされており、凸部側が基板1を向くように配置されている。
【0011】また、シム板4の補助ビード5a,5bは、ボルト締結時の締め付け力が大きい締結ボルトのボルト孔6近傍の高さ寸法が、締め付け力が小さい各ボルト孔6間の高さ寸法より低く設定されている。ボルト孔6近傍の補助ビード5a,5bの内で燃焼室孔2側の補助ビード5bの高さ寸法は0(平坦)でもよく、この実施の形態では、図示は省略するが、補助ビード5a,5bの高さ寸法をボルト孔6近傍から各ボルト孔6間に向けて次第に高くなるようにして燃焼室孔2の周方向に沿って抑揚を付けている。なお、図1において、符号7は水孔、8はオイル孔である。
【0012】そして、かかる構成の金属ガスケットをシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装して締結ボルトで締め付けると、フルビード3、補助ビード5a,5bの順に板厚方向に圧縮変形し、締め付け終了時においては、シム板4を配置した燃焼室孔2の周囲の厚肉部分と他の薄肉部分(基板1の外周縁部)との板厚差により、燃焼室孔2の周囲に面圧が集中してシール条件が一番厳しいシリンダボア端部周囲に最大荷重が作用し、該端部周囲のシールがなされる。
【0013】ここで、この実施の形態では、シム板4を基板1の燃焼室孔2の周囲にフルビード3を覆うように配置して他の部分との板厚差を設けているため、従来のように、基板ビードの燃焼室孔側にシム板を配置して他の部分との板厚差を設けた場合に比べて、シリンダボア端部周囲に作用する最大荷重が低くなる一方で、圧縮変形したフルビード3の弾性反発力よるシール圧、フルビード3の燃焼室孔2側に設けられた補助ビード5aのシール圧及び燃焼室孔2から離間する側に設けられた補助ビード5bの弾性反発力によるシール圧によって高温高圧の燃焼ガスに対して補助ビード5aによる一次シール、フルビード3による二次シール及び補助ビード5bによる三次シールがなされると共に、補助ビード5bによるシール圧で水孔7からの冷却水のフルビード3側への浸入を阻止することができる。
【0014】また、上述したように、補助ビード5a,5bは、ボルト締結時の締め付け力が大きい締結ボルトのボルト孔6近傍の高さ寸法が、締め付け力が小さい各ボルト孔6間の高さ寸法より低く設定されて燃焼室孔2の周方向に沿って抑揚が付けられているため、周方向におけるシール圧の均一化を図ることができる。なお、上記実施の形態では、補助ビード5a,5bの高さを同一にした場合を例に採ったが、これに代えて、フルビード3の燃焼室孔2側に設けられた補助ビード5aの高さ寸法を燃焼室孔2から離間する側に設けられた補助ビード5bの高さ寸法より高くするようにしてもよい。このようにすると、ボルト締結位置から離れた位置(面圧が低くなる側)での補助ビードの圧縮変形量を多くすることができるので、補助ビード5a,5bによる燃焼室孔2の径方向におけるシール圧の均一化を図ることができる。
【0015】また、上記実施の形態では、シム板4の補助ビード5a,5bと基板1のフルビード3との間隔を周方向に沿って略均一にしているが、これに代えて、補助ビード5a,5bの周方向の軌跡をボルト孔6近傍はフルビード3に接近させ、各ボルト孔6間はフルビード3から離間させることにより、面圧を調整して周方向におけるシール圧の均一化を図るようにしてもよい。
【0016】更に、上記実施の形態では、フルビード3の燃焼室孔2側及び燃焼室孔2から離間する側の両方の側に補助ビード5a,5bを設けた場合を例に採ったが、必ずしもこのようにする必要はなく、補助ビード5a,5bの内のいずれか一方を設けるようにしてもよい。この場合、補助ビード5aを設ける方が好ましいが、フルビード3の燃焼室孔2側の基板幅が狭い場合には、補助ビード5bのみを設けるようにしてもよい。
【0017】更に、上記実施の形態では、補助ビード5a,5b共にフルビードとした場合を例に採ったが、必ずしもフルビードにする必要はなく、例えば図3に示すように、何れか一方をステップビード(補助ビード5b側)としてもよく、また、両方をステップビードとしてもよい。
【0018】図4?図7は上下の二枚の基板1間にシム板4を配置した例であり、上下の基板1のフルビード3は凸部側が互いに対向配置されている。図4はシム板4のフルビード3の燃焼室孔2側のみに補助ビード5aを設けた例であり、該補助ビード5aはステップビードとされている。図5はシム板4のフルビード3の燃焼室孔2側及び燃焼室孔2から離間する側の両方に補助ビード5a,5bを設けた例であり、各補助ビード5a,5bは共にステップビードとされ、且つ、補助ビード5aの高さが補助ビード5bより高くなっている。図6も同様に、シム板4のフルビード3の燃焼室孔2側及び燃焼室孔2から離間する側の両方に補助ビード5a,5bを設けた例であり、各補助ビード5a,5bは共にフルビードとされ、且つ、補助ビード5aの高さが補助ビード5bより高くなっている。図7も同様に、シム板4のフルビード3の燃焼室孔2側及び燃焼室孔2から離間する側の両方に補助ビード5a,5bを設けた例であり、補助ビード5aがフルビードとされ、補助ビード5bがステップビードとされている。」(第2頁第2欄第41行?第3頁第4欄第47行、段落【0009】?【0018】参照)
(e)図1?7の記載から、シム板4は、基板1におけるフルビード3形成位置とフルビード3形成位置を挟んで燃焼室側の平坦部分である第1平坦部及び燃焼室から離間した側の平坦部分である第2平坦部に対向する構成、シム板4は、基板1に設けられたフルビード3の凸部側を覆うように基板1に積層配置された構成、及び、補助ビード5aは、基板1に設けられたフルビード3よりも高さが低く且つ基板1に設けられたフルビード3よりも幅が狭く設定された構成が看取できる。
刊行物1の、「該基板のビードの前記燃焼室孔側及び該燃焼室孔から離間する側の内の少なくとも一方の側の前記シム板に補助ビードを設けた」(第2頁第1欄第9?11行、【請求項1】、上記摘記事項(a)参照)、及び「上記実施の形態では、フルビード3の燃焼室孔2側及び燃焼室孔2から離間する側の両方の側に補助ビード5a,5bを設けた場合を例に採ったが、必ずしもこのようにする必要はなく、補助ビード5a,5bの内のいずれか一方を設けるようにしてもよい。この場合、補助ビード5aを設ける方が好ましい」(第3頁第4欄第14?19行、段落【0016】、上記摘記事項(d)参照)の記載からみて、刊行物1には、フルビード3の燃焼室孔2側のみに補助ビード5aを設ける態様が記載されているから、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
燃焼室孔2が開口すると共にその燃焼室孔2を囲むようにフルビード3が設けられた基板1と、その基板1の燃焼室周りに積層配置され且つ当該基板1よりも板厚が薄いシム板4と、を備え、上記シム板4は、基板1における上記フルビード3形成位置と当該フルビード3形成位置を挟んで燃焼室側の平坦部分である第1平坦部及び燃焼室から離間した側の平坦部分である第2平坦部に対向する金属ガスケットにおいて、
上記シム板4は、上記基板1に設けられたフルビード3の凸部側を覆うように当該基板1に積層配置され、
上記シム板4における上記第1平坦部と対向する位置に、燃焼室孔2周縁に沿って延びる補助ビード5aを設け、その補助ビード5aは、基板1側にだけ凸となるように厚さ方向に屈曲して成型されて厚さ方向に弾性変形可能となっているとともに、
上記補助ビード5aは、上記基板1に設けられたフルビード3よりも高さが低く且つ当該基板1に設けられたフルビード3よりも幅が狭く設定された金属ガスケット。

(刊行物2)
刊行物2には、「メタルガスケット」に関して、図面(特に、図2を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(f)「【0001】
本発明は、自動車用エンジンに好適に利用可能なメタルガスケットに関する。」(第2頁第28及び29行、段落【0001】参照)
(g)「【0017】
ガスケット構成板10には、燃焼室6を取り囲む燃焼室ビード15と、燃焼室ビード15の内側に配置される複数の内側補助ビード16からなる内周側ストッパー17と、燃焼室ビード15の外側に配置される複数の外側補助ビード18からなる外周側ストッパー19と、ボルト挿通孔12を取り囲むボルト孔ビード20と、ボルト挿通孔12と油孔13とを併せて取り囲むボルト油孔ビード21と、これら複数のボルト孔ビード20やボルト油孔ビード21全体を取り囲む外周ビード22が形成されている。尚、外周ビード22は、冷却水孔を取り囲むように配置されていれば、ボルト孔ビード20やボルト油孔ビード21を取り囲まないように配置することも可能である。また、ボルト孔ビード20とボルト油孔ビード21と外周ビード22とは円弧状の丸ビードで構成してもよいし、段状のステップビードで構成してもよい。
【0018】
ガスケット構成板10における、開口部11や冷却水孔やボルト挿通孔12や油孔13の形状や個数や配置、燃焼室ビード15やボルト孔ビード20やボルト油孔ビード21や外周ビード22の形状や個数や配置はエンジンの構成等に応じて任意に設定することになる。
【0019】
内周側ストッパー17及び外周側ストッパー19は3つの補助ビード16、18をそれぞれ燃焼室ビード15と略同心状に設けた断面三角波状に形成され、補助ビード16、18の波の振幅は燃焼室ビード15の幅よりも小さく設定されるとともに、波の高さは自然状態における燃焼室ビード15よりも低く設定され、両補助ビード16、18はシリンダヘッド3をシリンダブロック2にヘッドボルトにて締結したときの荷重ではほとんど圧縮変形しないように構成されている。
【0020】
両ストッパー17、19と燃焼室ビード15とはウォータジャケット7よりも燃焼室6側に配置される、シリンダブロック2における円筒状のシリンダ内周壁2aの上面に対面させて配置され、燃焼室ビード15はシリンダ内周壁2aの厚さ方向の略中央部に配置され、内周側ストッパー17と外周側ストッパー19とは燃焼室ビード15から略同じ間隔をあけて配置されている。
【0021】
両ストッパー17、19の断面形状は三角波状以外に、サイン波状や矩形波状など、任意の断面形状の波形状に形成することができる。両補助ビード16、18の個数は任意に設定できるが、ストッパーとしての機能を確保するため、少なくとも2個以上設けることが好ましい。両補助ビード16、18の高さは同じに設定してもよいが、燃焼室6の気密性を高めるため、内側補助ビード16の高さを外側補助ビード18の高さよりもやや高く設定することが好ましい。両補助ビード16、18の突出方向は、燃焼室ビード15の突出方向とは反対側に設定してもよいが、燃焼室ビード15に対するストッパーとしての機能を十分に発揮できるように、燃焼室ビード15と同じ側に突出させることが好ましい。
【0022】
このメタルガスケット1においては、シリンダブロック2とシリンダヘッド3間にメタルガスケット1を介装した状態で、シリンダヘッド3をシリンダブロック2にヘッドボルトにて締結してエンジンに組み付けることになるが、燃焼室ビード15付近には両ストッパー17、19により補助ビード16、18の略高さ分の隙間が形成され、燃焼室ビード15が密着するまで圧縮されないので、エンジン駆動時の燃焼室ビード15の応力振幅が減少するため、燃焼室室ビード15のヘタリやクラックによるシール性能の低下が防止される。また、ヘッドボルトの締結荷重が、燃焼室ビード15と両ストッパー17、19によりシリンダ内周壁2aの上面に分散してバランスよく作用することになるので、シリンダ内周壁2aの半径方向への変形を少なくして、シリンダ孔の真円度を向上し、エンジン性能を向上できる。更に、このようなストッパー17、19は、プレス成形等によりガスケット構成板10に一体的に形成できるので、容易に設けることができる。しかも、剥離等の問題が発生することもないので、エンジンの耐久性を向上できる。」(第4頁第36行?第5頁第36行、段落【0017】?【0022】参照)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「燃焼室孔2」は本願補正発明の「燃焼室孔」に相当し、以下同様にして、「フルビード3」は「ビード」に、「基板1」は「基板」に、「シム板4」は「シム板」に、「金属ガスケット」は「ガスケット」に、「補助ビード5a」は「補助ビード」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点、並びに相違点1及び2を有する。
<一致点>
燃焼室孔が開口すると共にその燃焼室孔を囲むようにビードが設けられた基板と、その基板の燃焼室周りに積層配置され且つ当該基板よりも板厚が薄いシム板と、を備え、上記シム板は、基板における上記基板ビード形成位置と当該基板ビード形成位置を挟んで燃焼室側の平坦部分である第1平坦部及び燃焼室から離間した側の平坦部分である第2平坦部に対向するガスケットにおいて、
上記シム板は、上記基板に設けられたビードの凸部側を覆うように当該基板に積層配置され、
上記シム板における上記第1平坦部と対向する位置に、燃焼室孔周縁に沿って延びる補助ビードを設け、その補助ビードは、基板側にだけ凸となるように厚さ方向に屈曲して成型されて厚さ方向に弾性変形可能となっているとともに、
上記補助ビードは、上記基板に設けられたビードよりも高さが低く且つ当該基板に設けられたビードよりも幅が狭く設定されたガスケット。
(相違点1)
上記補助ビードに関し、本願補正発明は、「2条以上」であるのに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
(相違点2)
上記補助ビードに関し、本願補正発明は、「隣り合う補助ビード間における上記基板側とは反対側を向く面が平坦に形成され」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
以下、上記相違点1及び2について検討する。
(相違点1について)
刊行物1には、「最近のアルミニウム製エンジンのように剛性の低いエンジンでは、エンジンの変形を防止する観点から燃焼室孔の周縁部に過大な面圧をかけられないため、上述した締結ボルト間の面圧低下に起因するシール性能の低下を助長する原因になっている。本発明はかかる不都合を解消するためになされたものであり、燃焼室孔の周縁に過大な面圧をかけなくても燃焼室孔の全周にわたって十分なシール性能を得ることができる金属ガスケットを提供することを目的とする。」(第2頁第2欄第2?10行、段落【0004】、上記摘記事項(c)参照)と記載されている。
上記記載からみて、刊行物1には、金属ガスケットにおいて、燃焼室孔の周縁に適切な面圧をかけて燃焼室孔の全周にわたって十分なシール性能を得る必要があるという技術的課題が記載又は示唆されている。
また、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともにガスケットに関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「内周側ストッパー17及び外周側ストッパー19は3つの補助ビード16、18を・・・形成」(第5頁第3及び4行、段落【0019】、上記摘記事項(g)参照)、及び「両補助ビード16、18の個数は任意に設定できるが、ストッパーとしての機能を確保するため、少なくとも2個以上設けることが好ましい。」(第5頁第17?19行、段落【0021】、上記摘記事項(g)参照)と記載されている。
補助ビードの数を増やして複数とすれば、補助ビードが発生する面圧が高くなり、シール性能の向上、ラビリンス効果やストッパーとしての機能をより発揮できることは技術的に自明の事項である。
してみれば、引用発明のシム板4の補助ビード5aに、刊行物2に記載された技術手段を適用して、補助ビードを2条以上として面圧を高め、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
刊行物2には、「両ストッパー17、19の断面形状は三角波状以外に、サイン波状や矩形波状など、任意の断面形状の波形状に形成することができる。」(第5頁第16及び17行、段落【0021】、上記摘記事項(g)参照)と記載されている。この記載からみて、補助ビードの形状を、三角波状以外に、サイン波状や矩形波状など、任意の断面形状の波形状に形成することは、当業者における設計変更の範囲内の事項にすぎない。補助ビードの形状が「矩形波状」の断面形状の場合には、隣り合う補助ビード間における基板側とは反対側を向く面が平坦となることは、技術的に自明の事項にすぎない。
そして、複数の補助ビードの形状が「矩形波状」の断面形状の場合には、補助ビードの裏側及び補助ビード間に空間ができることは技術的に明らかである。
してみれば、上記(相違点1について)の判断の前提下において、引用発明のシム板4の補助ビード5aに、刊行物2に記載された技術手段を適用して、隣り合う補助ビード間における基板側とは反対側を向く面を平坦に形成して、空間を確保し、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び刊行物2に記載された発明が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成24年4月4日付けの回答書において、「本願発明(注:本審決の「本願補正発明」に対応する。以下同様。)は、上記のように低剛性エンジンにおいて高燃焼圧シールのために、ビードにシム板を重ねた構成とし(構成b)、それに付随する問題点を解決するために2条以上の補助ビードを配置することで(構成e?h)低いばね性と高い面圧を実現したものであって、シム板、ビード、2条以上の補助ビードの単体で論じられるものではなく、上述の全ての構成を組み合わせることで初めて格別な効果を得ることが出来ると思料している。すなわち、本発明は、上述のように2条以上の連続する補助ビードを上述の位置に且つシム板側に形成することによって格別な効果を奏するものであって、このような組合せの構成は、いずれの先行文献にも記載がない。」と主張している。
しかしながら、審判請求人は、引用発明のシム板4の補助ビード5aに、刊行物2に記載された複数の補助ビードによりシール機能の向上を図るという技術手段を適用することに関しては特段の主張をしていない。そして、本願補正発明は、上記(相違点1について)及び(相違点2について)において述べたように、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成23年10月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成23年2月16日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
燃焼室孔が開口すると共にその燃焼室孔を囲むようにビードが設けられた基板と、その基板の燃焼室周りに積層配置され且つ当該基板よりも板厚が薄いシム板と、を備え、上記シム板は、基板における上記基板ビード形成位置と当該基板ビード形成位置を挟んで燃焼室側の平坦部分である第1平坦部及び燃焼室から離間した側の平坦部分である第2平坦部に対向するガスケットにおいて、
上記シム板は、上記基板に設けられたビードの凸部側を覆うように当該基板に積層配置され、
上記シム板における上記第1平坦部と対向する位置に、燃焼室孔周縁に沿って延びる補助ビードを2条以上設け、その2条以上の補助ビードは全て、基板側にだけ凸となるように厚さ方向に屈曲して成型されて厚さ方向に弾性変形可能となっているとともに、
上記2条以上の補助ビードは全て、上記基板に設けられたビードよりも高さが低く且つ当該基板に設けられたビードよりも幅が狭く設定されたことを特徴とするガスケット。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「シム板」に関する「上記シム板は、隣り合う補助ビード間における上記基板側とは反対側を向く面が平坦に形成され」を削除することにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その優先日前に日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?5に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-25 
結審通知日 2012-06-26 
審決日 2012-09-10 
出願番号 特願2005-364972(P2005-364972)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16J)
P 1 8・ 575- Z (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 道広  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 所村 陽一
常盤 務
発明の名称 ガスケット  
代理人 森 哲也  
代理人 田中 秀▲てつ▼  

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