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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1265090
審判番号 不服2011-23950  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-07 
確定日 2012-10-25 
事件の表示 平成11年特許願第323900号「防水・透湿性不織布」拒絶査定不服審判事件〔平成13年5月22日出願公開、特開2001-138425〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年11月15日の出願であって、平成23年8月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年11月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がなさるとともに、同時に同日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.平成23年11月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年11月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
2-1.本件補正
本件補正は、平成21年7月28日付けで補正された明細書の特許請求の範囲
(ア)「【請求項1】平均繊維径0.1?5μmの極細繊維層と平均繊維径6?50μmの合繊長繊維層が全面を熱圧着して積層一体化された不織布であって、該不織布を形成する前記極細繊維層は、単繊維同志が単繊維形状を実質的に保ちつつ密着して極細繊維層と合繊長繊維層からなる緻密構造を有し、かつ該不織布は、耐水圧が4.9kPa以上、撥水性が50以上、透湿度が1000g/m^(2)・24hr以上であることを特徴とする防水・透湿性不織布。
【請求項2】前記極細繊維層と合繊長繊維層との間に該合繊長繊維の軟化点より低い軟化点を有するシート状物を介在させたことを特徴とする請求項1記載の防水・透湿性不織布。
【請求項3】前記積層一体化された不織布の極細繊維層上にさらに平均繊維径6?50μmの合繊長繊維層を積層したことを特徴とする請求項1記載の防水・透湿性不織布。」
を、
(イ)「【請求項1】平均繊維径0.1?5μmのメルトブロー方式の極細繊維層と、平均繊維径6?50μmのスパンボンド法の合繊長繊維不織布との間に、前記合繊長繊維の軟化点より低い軟化点を有するシート状物介在させ、更に、前記極細繊維不織布の上に、平均繊維径6?50μmのスパンボンド法の合繊長繊維層を積層し、一対の熱圧着ロール間で、加熱、加圧してなる全面を熱圧着して積層一体化された不織布であって、該不織布を形成する前記極細繊維層は、単繊維同志が単繊維形状を実質的に保ちつつ密着して極細繊維層と前記シート状物と合繊長繊維層からなる緻密構造を有し、かつ該不織布は、耐水圧が4.9kPa以上、撥水性が50以上、透湿度が1000g/m^(2)・24hr以上であることを特徴とする防水・透湿性不織布。」
とする補正を含んでいる。

2-2.本件補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであったか否かについて
(1)本件補正後の請求項1に係る発明の不織布は、以下の構成を備える。
(A)平均繊維径0.1?5μmのメルトブロー方式の極細繊維層
(B)平均繊維径6?50μmのスパンボンド法の合繊長繊維不織布
(C)上記(A)と(B)との間に介在する前記合繊長繊維の軟化点より低い軟化点を有するシート状物
(D)上記(A)の上に積層される平均繊維径6?50μmのスパンボンド法の合繊長繊維層(合繊長繊維層としては(B)と同じ)
の4層を、一対の熱圧着ロール間で、加熱、加圧してなる全面を熱圧着して積層一体化された不織布。

(2)これに対し、本件補正前の特許請求の範囲の【請求項1】、【請求項2】、【請求項3】に係る発明の不織布は、それぞれ、以下のとおりのものである。
【請求項1】
(A')平均繊維径0.1?5μmの極細繊維層(メルトブロー、すなわち、不織布の特定なし)
(B')平均繊維径6?50μmの合繊長繊維層(不織布の特定なし)
の2層が全面を熱圧着して積層一体化された不織布。
【請求項2】
上記(A')(B')と、それらの間に介在する前記合繊長繊維の軟化点より低い軟化点を有するシート状物(C)
の3層が全面を熱圧着して積層一体化された不織布。
【請求項3】
上記(A')(B')の2層が全面を熱圧着して積層一体化された不織布の(A')上にさらに平均繊維径6?50μmの合繊長繊維層(B')を積層してなる3層の不織布。[(A)(A')等の符号は、便宜上当審で付与した。]

(3)そして、本願出願当初の明細書の段落番号【0007】には、「前記極細繊維層には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、共重合ポリプロピレン樹脂、共重合ポリエステル樹脂などの1種または2種以上の熱可塑性樹脂を用いてメルトブロー法により得られる極細の繊維が用いられ、不織布の形態で得ることができる。」、同じく【0008】には、「前記合繊長繊維層には、公知の合繊長繊維、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、共重合ポリプロピレン繊維、共重合ポリエステル繊維、共重合ポリアミド繊維、複合繊維などの1種または2種以上からなる長繊維が用いられ、これらを公知のスパンボンド法、サーマルボンド法などにより不織布を形成させて得ることができる。」と記載され、【0010】には、「熱圧着時には、極細繊維層と合繊長繊維層の積層面の全面を均等に押圧し、極細繊維が長繊維層の空隙中に密着し、埋没する如く一体化させて緻密構造とする。…(中略)…該熱圧着には、公知の一対の平滑ロール、フェルトカレンダー等を用いることができ、熱圧着の条件は…(中略)…通常、構成繊維の軟化点以上で融点以下の温度、好ましくは軟化点に20℃を加算した温度で、融点から20℃を引いたの温度の範囲(例えば、80?240℃)に設定され、圧力は5?100kg/cm^(2)の範囲に設定される。」と記載されており、【0012】には、「本発明おいて、…(中略)…防水・透湿性不織布は、カール性などの加工性、強度などの機械物性等を向上させる点から三層構造とすることができる。このような三層構造の不織布としては、例えば、極細繊維層と合繊長繊維層との間に該合繊長繊維の軟化点より低い軟化点を有するシート状物を介在させた防水・透湿性不織布、または極細繊維層と合繊長繊維層とを積層一体化した不織布の極細繊維層上にさらに平均繊維径6?50μm、好ましくは8?30μmの合繊長繊維層を積層した防水・透湿性不織布が挙げられる。」と記載されている。

(4)上記の段落番号【0007】、【0008】及び【0010】の記載から見て、補正前の請求項1に記載された「極細繊維層(A')」及び「合成長繊維層(B')」を「メルトブロー方式の極細繊維層(A)」及び「スパンボンド法の合繊長繊維不織布(B)」とする補正、及び「全面を熱圧着」を「一対の熱圧着ロール間で、加熱、加圧してなる全面を熱圧着」とする補正は、出願当初の明細書に記載された事項の範囲内の補正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正ということができる。しかし、不織布の層構造及びその形成手段としては、補正前の【請求項2】に、(A')-(C)-(B')の3層を全面を熱圧着して積層一体化することが、【請求項3】に(B')-(A')を全面を熱圧着して積層一体化した上にさらに(B')を積層することが記載されているものの、本件補正後の請求項1に係る発明の(D)-(A)-(C)-(B)の4層を全面を熱圧着して積層一体化することは記載されていない。そして出願当初の明細書【0012】にも、上記のように3層構造とその形成手段が選択的に例示されているのみで、4層を全面を熱圧着して積層一体化することについては何も記載されていない。

(5)すると、本件補正後の請求項1に記載された上記「4層を一対の熱圧着ロール間で、加熱、加圧してなる全面を熱圧着して積層一体化された不織布」は、出願当初の明細書に記載されておらず、また、出願当初の明細書の記載から自明の事項ということもできない。
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内ではない事項を含むものであるので、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成14年改正前特許法」という。)第17条の2第3項の規定に違反する。

2-3.補正後の発明が出願の際に独立して特許を受けることができるか否かについて
(1)本件補正後の、請求項1に記載された不織布は、補正前の請求項1に記載された「不織布」を、補正前の請求項2に記載された事項、及び補正前の請求項3に記載された事項によって技術的に限定して特定しようとするものであり、平成14年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正ということもできる。そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項によって特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について検討する。

(2)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、上記2-1.(イ)に示した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下「本願補正発明」という。)。

(3)引用文献等
ア.原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-11716号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「透湿・防水性シート」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。

(a)「【請求項1】平均繊維径5ミクロン以下の繊維からなり、目付15g/m^(2)以上、見掛け密度0.40g/cm^(3)以下に構成されたメルトブロー極細繊維不織布(A)の少なくとも片面に、平均繊維径10ミクロン以上の繊維から目付15g/m^(2)以上に構成された長繊維不織布(B)を接着一体化した積層不織布であり、前記不織布(B)は非接着側の表面が表面粗さ4ミクロン以下であるとともに、該表面から深さ40ミクロンまでの表層部における繊維充足率が60%以上である透湿・防水性シート。
【請求項2】前記不織布の透湿度が4000(g/m^(2)・24時間)以上、耐水度が600(mm水柱)以上である透湿・防水性シート。」(【特許請求の範囲】)
(b)「本発明は、平滑表面を有する透湿・防水性シートに関する。さらに詳しくは、主として、木造住宅の外壁通気構法において、透湿・防水性や断熱性などの目的でハウスラップ材料や屋根下地シート材料等として利用する場合に好適な透湿・防水性シートに関するものである。」(段落番号【0001】)
(c)「上述のように構成された本発明の透湿・防水性シートは、メルトブロー極細繊維不織布(A)と長繊維不織布(B)とが接着一体化した積層構造からなることに特徴があり、前者の不織布(A)は主として透湿性、防水性等の機能特性を与え、又後者の不織布(B)は主としてハウスラップ材料等への使用に対する強度特性等を与える作用を行う。」(段落番号【0010】)
(d)「不織布(A)と(B)とを積層一体化する手段としては、熱的作用による接合や樹脂による接着などを採用することができる。また、その接着は部分接着、全面接着のいずれでもよく、目的の機能特性が損われない範囲であれば、特に限定されるものではない。」(段落番号【0018】)
(e)「比較例1 メルトフローインデックス(荷重2.16kg、230℃)60g/10分のポリプロピレン(融点157.6℃)からメルトブロー紡糸法にて平均繊維径1.3ミクロンで30g/m^(2)の目付のメルトブロー極細繊維不織布(A)を得た。
次いで該不織布(A)を上層、目付50g/m^(2)のポリプロピレン製スパンボンド不織布(B)(日本不織布(株)製品、平均繊維径27ミクロン)を下層として積層しつつ、140℃の凹凸シボロール(上ロール)と140℃のプレーンロール(下ロール)に挟持しつつ、90kg/cm圧にて接着面積25%の熱接着シートを得た。また、これらシートの不織布(B)側の表面から深さ40ミクロンまでの表層部における繊維充足率の測定結果を表1に、物性および機能性評価結果を表2に、そして結露性評価結果を表3に示した。」(段落番号【0031】?【0032】)
(f)「実施例1 比較例1で得た熱接着シートの不織布(B)側が125℃の鉄プレーンロール(上ロール)とし、不織布(A)側が常温のゴムロールとなるよう挟持しつつ、ニップ圧力が30kg/cm圧、クリアランスが0mm、ロール速度が5m/分の条件にて加工した。このシートの不織布(B)側の表面層の大部分は繊維間融着していた。また、このシートの不織布(B)側の表面から深さ40ミクロンの表層部における繊維充足率の測定結果を表1に、物性および機能性評価結果を表2に、そして結露性評価結果を表3に示した。」(段落番号【0033】)
(g)「比較例2 比較例1で得た30g/m^(2)の目付のメルトブロー極細繊維不織布(A)を中層、目付30g/m^(2)のポリプロピレン製スパンボンド不織布(B)(日本不織布(株)製品、平均繊維径27ミクロン)を上下層として積層しつつ、140℃の凹凸シボロール(上ロール)と140℃のプレーンロール(下ロール)に挟持しつつ、90kg/cm圧にて接着面積25%の3層構造熱接着シートを得た。また、このシートの物性および機能性評価結果を表2に、そして結露性評価結果を表3に示した。」(段落番号【0034】)
(h)「実施例2 比較例2で得た3層構造の熱接着シートを125℃の鉄プレーンロールと常温のゴムロールに挟持しつつ、ニップ圧力が30kg/cm圧、クリアランスが0mm、ロール速度が5m/分の条件にて加工した。このシートの鉄プレーンロール側の不織布(B)の表面層の大部分は繊維間融着していた。また、このシートの物性および機能性評価結果を表2に、そして結露性評価結果を表3に示した。」(段落番号【0035】)
(i)「【表1】

(段落番号【0038】)」
(j)「【表2】

(段落番号【0039】)」
(k)表2には、実施例2に記載された3層構造熱接着シートについて透湿度が7510(g/m^(2)・24時間)、耐水度が1510(mmAq)であることが示されている。

イ.以上の記載から、引用文献1には、実施例2である3層構造熱接着シートとして、
「平均繊維径1.3ミクロンのメルトブロー極細繊維不織布(A)と平均繊維径27ミクロンのポリプロピレン製スパンボンド不織布(B)と前記メルトブロー不織布(A)の上にスパンボンド不織布(B)を積層し、140℃の凹凸シボロール(上ロール)と140℃のプレーンロール(下ロール)に挟持しつつ、90kg/cm圧にて積層一体化した後、さらに、125℃の鉄プレーンロールと常温のゴムロールに挟持しつつ、ニップ圧力が30kg/cm圧、クリアランスが0mm、ロール速度が5m/分の条件にて加工してなる透湿度が7510(g/m^(2)・24時間)、耐水度が1510(mmAq)である透湿・防水性シート。」
が記載されている(以下、「引用発明」という。)。

(4)対比
ア.引用発明の「透湿・防水性シート」は、メルトブロー極細繊維不織布(A)とスパンボンド不織布(B)とを積層一体化してなるもので、本願補正発明の「防水・透湿性不織布」に相当する。
引用発明の「平均繊維径1.3ミクロンのメルトブロー極細繊維不織布(A)」は、本願補正発明の「平均繊維径0.1?5μmのメルトブロー方式の極細繊維層」に相当し、同様に、「平均繊維径27ミクロンのポリプロピレン製スパンボンド不織布(B)」は、「平均繊維径6?50μmのスパンボンド法の合繊長繊維不織布」に相当する。
引用発明では、「平均繊維径1.3ミクロンのメルトブロー極細繊維不織布(A)と平均繊維径27ミクロンのポリプロピレン製スパンボンド不織布(B)と前記メルトブロー不織布(A)の上にスパンボンド不織布(B)を積層」しているから、本願補正発明の「平均繊維径0.1?5μmのメルトブロー方式の極細繊維層と、平均繊維径6?50μmのスパンボンド法の合繊長繊維不織布と」及び「更に、前記極細繊維不織布の上に、平均繊維径6?50μmのスパンボンド法の合繊長繊維層を積層し」という要件を満たす。
また、引用発明の積層一体化手段は、「140℃の凹凸シボロール(上ロール)と140℃のプレーンロール(下ロール)に挟持しつつ、90kg/cm圧にて積層一体化した後、さらに、125℃の鉄プレーンロールと常温のゴムロールに挟持しつつ、ニップ圧力が30kg/cm圧、クリアランスが0mm、ロール速度が5m/分の条件にて加工」するものであるから、本願補正発明の「一対の熱圧着ロール間で、加熱、加圧してなる熱圧着」という要件を満たす。
引用発明の「透湿度が7510(g/m^(2)・24時間)」は、本願補正発明の「透湿度が1000g/m^(2)・24hr以上」という要件を満たす。
また、耐水度について本願明細書の段落番号【0011】に、「耐水圧は4.9kPa(500mmH_(2)O)以上、好ましくは6.86?19.6kPa(700?2000mmH_(2)O)であり」と記載されており、上記括弧内の単位「mmH_(2)O」は、引用発明の耐水度の単位「mmAq」と同義であるので、引用発明の耐水度が1510(mmAq)は、本願補正発明が規定する数値範囲「4.9kPa以上」という要件を満たす。

イ.してみれば、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
平均繊維径0.1?5μmのメルトブロー方式の極細繊維層と、平均繊維径6?50μmのスパンボンド法の合繊長繊維不織布と、前記極細繊維不織布の上に、平均繊維径6?50μmのスパンボンド法の合繊長繊維層を積層し、一対の熱圧着ロール間で、加熱、加圧して積層一体化された不織布であって、耐水圧が4.9kPa以上、透湿度が1000g/m^(2)・24hr以上である防水・透湿性不織布。

[相違点1]
本願補正発明が、メルトブロー方式の極細繊維層と、スパンボンド法の合繊長繊維不織布との間に、前記合繊長繊維の軟化点より低い軟化点を有するシート状物介在させているのに対し、引用発明は、そのようなシート状物を介在していない点。

[相違点2]
本願補正発明が、「全面を熱圧着」としているのに対し、引用発明は、「全面」とはしていない点。

[相違点3]
本願補正発明が、「不織布を形成する前記極細繊維層は、単繊維同志が単繊維形状を実質的に保ちつつ密着して極細繊維層と前記シート状物と合繊長繊維層からなる緻密構造を有し」としているのに対し、引用発明は、そのような規定がされていない点。

[相違点4]
本願補正発明が、「撥水性が50以上」と規定しているのに対し、引用発明は、撥水性について規定していない点。

(5)判断
そこで上記の相違点について検討する。
ア.[相違点1]について
接着すべき繊維層を基材となる繊維層上に重ねて積層一体化したシート状物となす際に、両層の間に融点の低いシート状物を介在して接着性及び一体化の向上を図ることは、例えば、実願平5-18765号(実開平6-75739号)のCD-ROMの段落番号【0021】の実施例4に示されているように本願出願前周知の技術的事項である。「融点」と「軟化点」との関係は、一意に定まるものではないが、一般的に「融点」が低ければ「軟化点」も低い関係にあることが、周知の技術的事項である。そうすると、引用発明において、メルトブロー方式の極細繊維層と、スパンボンド法の合繊長繊維不織布との間に、前記合繊長繊維の軟化点より低い軟化点を有するシート状物を介在させて接着性及び一体化の向上を図ることにより、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が適宜採用し得る単なる設計的事項である。

イ.[相違点2]について
(ア)本願明細書には、「全面を熱圧着」及び「緻密構造」に関して、次の記載がある。
(a1)「本発明における防水・透湿性不織布は、例えば、極細繊維層と合繊長繊維層との二層積層ウェッブの全面を熱圧着するか、または極細繊維不織布と合繊長繊維不織布とを重ね合わせた全面を熱圧着して積層一体化することにより得られる。本発明において、極細繊維層が、上記熱圧着により単繊維同志が押し潰された場合でも、単繊維の形状を実質的に保った状態で密着し、緻密構造を形成するように熱圧着することが必要である。極細繊維層を上記のような緻密構造とすることにより、優れた防水性、透湿性、通気性を得ることができる。」(段落【0009】)
(b1)「上記の熱圧着時には、極細繊維層と合繊長繊維層の積層面の全面を均等に押圧し、極細繊維が長繊維層の空隙中に密着し、埋没する如く一体化させて緻密構造とする。このように細い繊維と太い繊維が一体化した緻密構造とすることにより、不織布の厚みを薄くすることができるとともに、優れた透湿性と耐水性が得られ、また強度の向上を図ることができる。該熱圧着には、公知の一対の平滑ロール、フェルトカレンダー等を用いることができ、熱圧着の条件は、構成する繊維素材や繊維径等により適宜選定することが好ましいが、通常、構成繊維の軟化点以上で融点以下の温度、好ましくは軟化点に20℃を加算した温度で、融点から20℃を引いたの温度の範囲(例えば、80?240℃)に設定され、圧力は5?100kg/cm^(2)の範囲に設定される。熱圧着は一対の平滑ロール(例えば、金属ロールと樹脂ロール、金属ロールとゴムロール、金属ロールとペーパーロール、一対の金属ロールなど)やフェルカレンダーなどの1種または2種以上を組合せて行うことができる。」(段落【0010】)
(c1)「本発明の防水・透湿性不織布によれば、特定の平均繊維径を有する極細繊維層と合繊長繊維層が全面に積層一体化され、また該極細繊維層が単繊維同志が単繊維の形状を実質的に保って緻密構造を形成するようにしたことにより、不織布の厚みを薄くし、繊維の平均見掛け密度を高くすることができ、優れた防水性と透湿性と通気性を得ることができるとともに、強度の向上を図ることができる。」(段落【0014】)
(d1)「参考例 公知のスパンボンド法により得られた目付40g/m^(2)のポリプロピレン長繊維不織布(平均繊維径23μm、融点173℃)に、メルトブロー方式で目付40g/m^(2)のポリプロピレン極細繊維不織布(平均繊維径1.7μm、融点168℃)を積層して一対の熱圧着ロール(金属ロールとペーパーロールの組合せ、加工条件:金属ロール表面温度140℃、圧力30kg/cm^(2)、速度20m/分、極細繊維不織布と金属ロールが接触)で、加熱、加圧して積層一体化された不織布を得た。…(中略)…また該不織布の平均見掛け密度は0.65g/cm^(3)であり、全面積層一体化により、極細繊維不織布が単繊維形状を実質的に保ちつつ密着され、緻密構造を有していることが確認された。」(本件補正後の段落【0016】)
(e1)「実施例1 スパンボンド法により得られた目付30g/m^(2)のポリエステル長繊維不織布(平均繊維径26μm、融点260℃)と、鞘がポリエチレン、芯がポリエチレンテレフタレートからなるスパンボンド法による目付30g/m^(2)の複合繊維不織布(平均繊維径16μm、融点120℃(鞘)、255℃(芯))と、メルトブロー方式で得られた目付30g/m^(2)のポリプロピレン極細繊維不織布(平均繊維径1.7μm、融点168℃)との3枚を順に重ね、一対の熱圧着ロール(金属ロールと樹脂ロールとの組合せ、加工条件:金属ロール表面温度150℃、圧力15kg/cm^(2)、速度20m/分、極細繊維不織布と金属ロールが接触)で、加熱、加圧して積層一体化された三層からなる不織布を得た。…(中略)…また平均見掛け密度は0.58g/cm^(3)であり、全面積層一体化により、極細繊維不織布が単繊維形状を実質的に保ちつつ密着され、緻密構造を有していることが確認された。」(本件補正後の段落【0017】)

(イ)これら記載から見て、本願補正発明における「全面を熱圧着」とは、「公知の一対の平滑ロール(例えば、金属ロールと樹脂ロール、金属ロールとゴムロール、金属ロールとペーパーロール、一対の金属ロールなど)、フェルトカレンダー等を用い」「極細繊維層と合繊長繊維層の積層面の全面を均等に押圧」することと認められる(上記(b1)参照)。

(ウ)一方、引用発明の加工(熱圧着)は、「メルトブロー方式の極細繊維層(メルトブロー極細繊維不織布(A))と、スパンボンド法の合繊長繊維不織布(ポリプロピレン製スパンボンド不織布(B))を積層し」「140℃の凹凸シボロール(上ロール)と140℃のプレーンロール(下ロール)に挟持しつつ、90kg/cm圧にて積層一体化した後」「さらに、125℃の鉄プレーンロールと常温のゴムロールに挟持しつつ、ニップ圧力が30kg/cm圧、クリアランスが0mm、ロール速度が5m/分の条件にて加工してなる」ものである。
引用発明の「125℃の鉄プレーンロールと常温のゴムロールに挟持しつつ、ニップ圧力が30kg/cm圧、クリアランスが0mm、ロール速度が5m/分の条件にて加工」は、一対の平滑ロール(金属ロールとゴムロール)を用いて、加熱・加圧しているから、「極細繊維層と合繊長繊維層の積層面の全面を均等に押圧」していると認められる。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

ウ.[相違点3]について
(ア)まず、相違点3に係る本願補正発明の特定事項のうち、「極細繊維層は、単繊維同志が単繊維形状を実質的に保ち」との構成について検討する。
本願明細書の記載等から見て、本願補正発明では、「極細繊維層は、単繊維同志が単繊維形状を実質的に保ち」との構成を得るため、熱圧着の条件を「構成する繊維素材や繊維径等により適宜選定する」が、「通常、構成繊維の軟化点以上で融点以下の温度、好ましくは軟化点に20℃を加算した温度で、融点から20℃を引いたの温度の範囲(例えば、80?240℃)に設定され、圧力は5?100kg/cm^(2)の範囲に設定される」ものと認められる(上記イ.(ア)(b1)参照)。特に、「極細繊維層の構成繊維の融点以下の温度」であることが、「極細繊維層は、単繊維同志が単繊維形状を実質的に保」つために重要と認められる。
一方、引用発明では、熱ローラの温度が、140℃及び125℃であり、メルトブロー極細繊維不織布を構成するポリプロピレンの融点157.6℃(上記2-3.(3)ア.(e)参照)より低い。したがって、メルトブロー極細繊維は、熱圧着の際に溶融せず、メルトブロー極細繊維不織布(A)の単繊維同志は、単繊維形状を実質的に保つと認められる。そして、引用文献1の図2(イ)には、「極細繊維層は、単繊維同志が単繊維形状を実質的に保」っている構成が図示されている(審決の末尾に添付した参考図参照)。したがって、引用発明は、相違点3に係る構成のうち、「極細繊維層は、単繊維同志が単繊維形状を実質的に保ち」との要件を満たすと認められる。

(イ)次に、相違点3に係る構成のうち、「不織布を形成する前記極細繊維層は」「密着して極細繊維層と前記シート状物と合繊長繊維層からなる緻密構造を有し」について検討する。本願明細書段落【0014】によれば(上記イ.(ア)(b1)参照)、この構成は、「極細繊維が長繊維層の空隙中に密着し、埋没する如く一体化させて緻密構造とする」ことを意味すると認められる。そして、本願補正発明では、この構成を得るために上記イ.(イ)で述べたとおり「一対の平滑ロール…等を用い」、上記(ア)で述べたとおりその際の熱圧着の条件は、「通常、構成繊維の軟化点以上で融点以下の温度、好ましくは軟化点に20℃を加算した温度で、融点から20℃を引いたの温度の範囲(例えば、80?240℃)に設定され、圧力は5?100kg/cm^(2)の範囲に設定される」ものと認められる。
上記イ.(ウ)で述べたとおり、引用発明も一対の平滑ロール(金属ロールとゴムロール)を用いて、加熱・加圧しており、その際の熱圧着の条件も、熱ローラの温度が125℃であり、構成繊維であるメルトブロー極細繊維の融点157.6℃(上記2-3.(3)ア.(e)参照)より20℃以上低く、かつ、80℃より高いから、温度条件は、本願補正発明の好ましい温度範囲に一致しているといえる。
熱圧着の際の圧力については、本願補正発明の好ましい圧力は5?100kg/cm^(2)の範囲であり、引用発明では「ニップ圧力が30kg/cm圧」であり、単位が「kg/cm^(2)」と「kg/cm圧」で異なるため、両者を直ちに比較することはできないが、本願補正発明では、好ましい圧力は5?100kg/cm^(2)の範囲であって、相当に広い範囲であり、かつ、熱圧着の際に一般的に用いられる範囲と認められるから、引用発明の熱圧着の際の圧力と、格別な相違があるとはいえない。
さらに、引用文献1の図2(イ)には、「極細繊維が長繊維層の空隙中に密着し、埋没する如く一体化」した構造が図示されている。この構成を明確に示すため、引用文献1の図2(イ)に、「極細繊維が長繊維層の空隙中に埋没」している部分を網掛けした図を、参考図として、審決の末尾に添付する。

(ウ)また、引用発明は、「125℃の鉄プレーンロールと常温のゴムロールに挟持しつつ、ニップ圧力が30kg/cm圧、クリアランスが0mm、ロール速度が5m/分の条件にて加工」することにより、見掛密度が0.17g/cm^(3)から、0.41g/cm^(3)に増加している(上記2-3.(3)ア.(j)の表2の「見掛密度」の行の「比較例2」と「実施例2」の列参照)。したがって、引用発明のものは、「極細繊維層と」「合繊長繊維層からなる緻密構造を有し」ているといえる。
そして、上記ア.で述べたように、メルトブロー方式の極細繊維層と、スパンボンド法の合繊長繊維不織布との間に、前記合繊長繊維の軟化点より低い軟化点を有するシート状物を介在させることが、当業者が適宜採用し得る単なる設計的事項であるところ、このようなシート状物を介在させて、一対の平滑ロール(金属ロールとゴムロール)を用いて、加熱・加圧加工を行えば、「不織布を形成する前記極細繊維層は」「密着して極細繊維層と前記シート状物と合繊長繊維層からなる緻密構造を有」する構成となる、若しくはそのような構成にできることは、当業者にとって明らかである。
したがって、引用発明に、上記ア.で述べた周知の技術的事項を適用することにより、相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に推考し得たことである。

エ.[相違点4]について
繊維製品の「防水性」は、JIS L1092に「耐水性」、「撥水性」、「漏水性」などの総称であるとされているように、防水性不織布は、耐水度とともに、撥水性に優れていることも好ましいことは当業者にとって自明の事項である。
そして、本願明細書の段落番号【0011】に「撥水性は50以上、好ましくは70?100である。不織布の耐水圧が4.9kPa未満または撥水性が50未満の場合は、屋外の環境下に耐えられず、風雨にさらされた場合に充分な防水性が得られない。」と記載されているが、本願補正発明に相当する層構造(4層)の不織布の実施例は記載されておらず、2層構造の参考例、及び3層構造の実施例1においても、得られた不織布が「撥水性100」とされているのみで、「撥水性が50以上」と規定したことに格別の技術的意義を認めることはできない。
してみれば、前者の「撥水性が50以上」は防水不織布に求められる一般的要求を単に示したに過ぎず、その下限をどの程度にするかは当業者が不織布の用途や使用態様に応じて適宜決定しうる設計的事項である。

(6)むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものである。

2-4.まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものである。よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下する。

3.本願発明について
3-1.本願発明
平成23年11月7日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至3に係る発明は、平成21年7月28日付で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は以下のとおりである(以下、これにより特定される発明を「本願発明」という。)。
「 平均繊維径0.1?5μmの極細繊維層と平均繊維径6?50μmの合繊長繊維層が全面を熱圧着して積層一体化された不織布であって、該不織布を形成する前記極細繊維層は、単繊維同志が単繊維形状を実質的に保ちつつ密着して極細繊維層と合繊長繊維層からなる緻密構造を有し、かつ該不織布は、耐水圧が4.9kPa以上、撥水性が50以上、透湿度が1000g/m^(2)・24hr以上であることを特徴とする防水・透湿性不織布。」

3-2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-11716号公報(引用文献1)及びそれらの記載事項は、前記「2-3.(3)引用文献等」に記載したとおりである。

3-3.対比・判断
本願発明は、前記「2-3.(2)本願補正発明」に記載した本願補正発明から、極細繊維層及び合成長繊維層の形態、熱圧着手段、積層構造などに関する限定事項を省いたものであり、他の構成については本願補正発明と実質的な差異がない。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2-3.補正後の発明が出願の際に独立して特許を受けることができるか否かについて」に記載したとおり、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

3-4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲




 
審理終結日 2012-08-23 
結審通知日 2012-08-28 
審決日 2012-09-11 
出願番号 特願平11-323900
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
P 1 8・ 561- Z (B32B)
P 1 8・ 575- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 進  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 熊倉 強
紀本 孝
発明の名称 防水・透湿性不織布  
代理人 川北 武長  

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