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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
管理番号 1265091
審判番号 不服2011-25289  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-24 
確定日 2012-10-25 
事件の表示 特願2008-318154号「空気調和方法及び空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔平成21年3月19日出願公開、特開2009-58220号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年9月18日に出願した特願2002-271193号の一部を平成20年12月15日に新たな特許出願としたものであって、平成23年8月15日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年8月30日)、これに対し、平成23年11月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
そして、平成24年1月17日付けで審尋がなされ、それに対して平成24年3月19日に回答書が提出され、さらに、平成24年4月25日付けで拒絶理由通知がなされ、それに対して平成24年7月6日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年7月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「居室内の側壁上部に空気調和機を取り付けて、居室内の空気を前記空気調和機の上部に設けられた吸込口から吸い込み、調和した空気を前記空気調和機の下部に設けられた吹出口から送出して居室内の空気を調和する空気調和方法において、
前記空気調和機の冷房運転時に、
冷気の気流が天井壁に到達するように前記吹出口から冷気を天井壁に向けて斜め上方に送出した後に、
冷気を天井壁、前記側壁に対向する壁面、床面、前記側壁面に順次伝わせた後、前記吸込口から吸い込んで居室内を空気調和し、
前記吹出口から冷気を送出する際に、前記吹出口の近傍において斜め上方へ向かうほど前記空気調和機の前面から離れるように気流を流通させることを特徴とする空気調和方法。」

第3 引用例
1.当審の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開2002-61938号公報(以下「引用例1」という。)には、「空気調和機」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与。以下、同様。)

ア.段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、天寄式空気調和機に係わり、より詳細には、吹出口に回動自在に軸支された上下風向変更板により風向を天井方向に効果的に偏向できるようにした構造に関する。」
イ.段落【0004】
「【発明が解決しようとする課題】本発明は以上述べた問題点を解決し、風向を効果的に天井方向に変更することにより、効率的により遠くまで調和空気を送風することのできる空気調和機を提供することを目的としている。」
ウ.段落【0014】
「【発明の実施の形態】以下、図面に基づいて本発明による空気調和機を詳細に説明する。図1は本発明による天寄式空気調和機の一実施例を示す外観斜視図、図2は本発明による天寄式空気調和機の他の実施例を示す図で、(a)は正面図、(b)は要部側断面図、図3は要部拡大図である。図に示すように、本体1の前面には、水平方向から手前に高く傾斜する前方傾斜部2aと、同前方傾斜部2aの上端を後方に折曲して後方に高く傾斜する後方傾斜部2bとでなる前面パネル2を備えている。そして、前記後方傾斜部1bに吸込口3を、前記前方傾斜部2aの下部に吹出口4をそれぞれ設け、これら吸込口3および吹出口4を結ぶ空気通路5の吸込口3近傍に熱交換器6を配設し、同熱交換器6の風下側に送風ファン7を配設している。そして、前記吹出口4に、回動自在に軸支された上下風向板8を配設している。そして、前記前方傾斜部2aを天井に向かってなだらかに傾斜する形状とし、同時に、前記上下風向板8を同前方傾斜部2aに対応して略水平方向またはやや上方向に回動できるようにして、吹出口4より吹出された調和空気を上下風向板8により前方傾斜部2a側に偏向し、同前方傾斜部2aに沿わせて天井方向に導き、天井面に沿ってより遠くへ送風するようにしている。」
エ.記載事項ア、ウの「天寄式空気調和機」によれば、この空気調和機は居室内の側壁上部に取り付けられるものと認められる。また、記載事項ウ及び図1?3の記載から、空気調和機は、居室内の空気を空気調和機の上部に設けられた吸込口3から吸い込み、熱交換器6で調和した空気を空気調和機の下部に設けられた吹出口4から吹き出して居室内の空気を調和するものと認められる。

上記記載事項、認定事項を総合して、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「居室内の側壁上部に空気調和機を取り付けて、居室内の空気を前記空気調和機の上部に設けられた吸込口3から吸い込み、熱交換器6で調和した空気を前記空気調和機の下部に設けられた吹出口4から吹き出して居室内の空気を調和する空気調和方法において、
調和空気を上下風向板8により前方傾斜部2a側に偏向し、同前方傾斜部2aに沿わせて天井方向に導き、天井面に沿ってより遠くへ送風する空気調和方法。」

2.当審の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開平8-270977号公報(以下「引用例2」という。)には、「空調設備」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は建築物室内に居住する人体にとって快適性に優れる空調(暖房及び冷房)設備に関するものである。」
イ.段落【0008】、【0009】
「【課題を解決するための手段及び作用】本発明は夏の冷房時には、室内窓側壁の窓上から吹込まれた冷風の流れが、天井面に沿って窓側とは反対の側壁まで水平に這うように流れる天井付着噴流を形成するとともに、窓からの日射により発生する上昇流の暖気を効率的に吸込むように構成し、また冬の暖房時には、室内窓側壁の窓上から吹込まれた温風の流れが、鉛直下向きに床まで達して室内を循環するとともに、天井付近に停滞する暖気を効率的に吸込むように構成することによって、不快な高速の空気を人間に接触させず、また室内に停滞する暖気を効率良く解消して室内全体を快適な空間にする。
室内への吹込み空気は顕熱調整(冷却または加熱)されるのは勿論であるが、必要に応じて潜熱調整(特に夏の除湿)されることも効果的である。また、夏の冷房時には冷風の天井付着噴流を形成することになるが、天井室内側面を高輻射処理(皮膜コーティング,高輻射塗装や高輻射クロス仕上げなど)をしておけば、対流冷却のみならず天井面を有効に使った輻射冷却も行える。」
ウ.段落【0015】
「このように形成された二次元的な天井付着噴流は、天井面5近傍を通過後、窓側とは反対の側壁面近傍を緩やかに下降した後、室内下方部を反転する流れ7を作り、窓側に戻ってくる。一般に夏の冷房時には、窓から侵入する日射により窓近傍の暖気の上昇流域が形成されるが、室内空気の吸込み口8をスロット吹出し口4より下部で窓との間の位置に設置することにより、室内側から戻る反転流7とともにこの暖気上昇流9を効率良く吸込み口8に吸込んで、室内全域にわたる冷却効果を高めることができる。」

上記記載事項を総合すると、引用例2には、次の事項が記載されている。

「室内全域にわたる冷却効果を高めるために、冷風の流れを、室内窓側壁の窓上から、天井面5に沿った天井付着噴流とし、窓側とは反対の側壁面近傍を下降した後、室内下方部を反転する流れ7を作り、窓側に戻し、窓近傍の上昇流9を吸込み口8に吸込むものとして室内を冷房する方法。」

3.当審の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開平10-9657号公報(以下「引用例3」という。)には、「空気調和装置の室内機」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.段落【0074】
「次に、図18(a)に示すように、上下風向板60がA位置にあり、上下風向板70がD位置にある状態においては、空調空気が吹出口1からやや上向き前方に吹出されるようになっている。この場合、図18(b)に示すように、空調空気bは吹出口1から略天井に沿う方向へ流れ、冷房運転におけるいわゆる天井吹出の状態を形成する。」

4.本件出願前に頒布された刊行物である、実願昭60-180352号(実開昭62-88238号)のマイクロフィルム(以下「周知例1」という。)には、「空気調和機」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.明細書4ページ18行?5ページ4行
「従ってこのようなエアコンによって冷房を行う場合、上記ルーバー16を水平方向より上に向けておけば、吹出風は第3図に示すように吹出口15より上昇しながら遠方へ到達すると共に吹出口15より上部側に滞留する空気を拡散することになり、室内の温度分布を遠方まで均一にし、快適な冷房を行うことができる。」

5.本件出願前に頒布された刊行物である、特開平7-4683号公報(以下「周知例2」という。)には、「空気調和機」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.段落【0016】
「風向変更装置44の羽根には、横方向(吹出通路43の長手方向)に空気を案内する縦羽根(垂直ルーバ)45と、縦方向(吹出通路43の短手方向)に空気を案内する水平羽根(水平ルーバ)46とが設けられており、これらの縦羽根45と水平羽根46を組み合わせることにより、右斜め下方向や右斜め上方向等、種々の吹き出し方向に送風することができるようになっている。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、作用からみて、引用発明の「吸込口3」は、本願発明の「吸込口」に相当し、以下同様に、「熱交換器6で調和した空気」は「調和した空気」に、「吹出口4から吹き出して居室内の空気を調和する」ことは「吹出口から送出して居室内の空気を調和する」ことに、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「調和空気を上下風向板8により前方傾斜部2a側に偏向し、同前方傾斜部2aに沿わせて天井方向に導き、天井面に沿ってより遠くへ送風する」ことは、本願発明の「冷気の気流が天井壁に到達するように前記吹出口から冷気を天井壁に向けて斜め上方に送出」することと、「気流が天井壁に到達するように前記吹出口から気流を天井壁に向けて斜め上方に送出」することで共通する。

そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「居室内の側壁上部に空気調和機を取り付けて、居室内の空気を前記空気調和機の上部に設けられた吸込口から吸い込み、調和した空気を前記空気調和機の下部に設けられた吹出口から送出して居室内の空気を調和する空気調和方法において、
気流が天井壁に到達するように前記吹出口から気流を天井壁に向けて斜め上方に送出する空気調和方法。」

[相違点]
本願発明では、空気調和機の冷房運転時に、冷気の気流が天井壁に到達するように吹出口から冷気を天井壁に向けて斜め上方に送出した後に、冷気を天井壁、前記側壁に対向する壁面、床面、前記側壁面に順次伝わせた後、吸込口から吸い込んで居室内を空気調和し、前記吹出口から冷気を送出する際に、前記吹出口の近傍において斜め上方へ向かうほど前記空気調和機の前面から離れるように気流を流通させるのに対し、引用発明では、調和空気を上下風向板8により前方傾斜部2a側に偏向し、同前方傾斜部2aに沿わせて天井方向に導き、天井面に沿ってより遠くへ送風するものである点。

第5 当審の判断
引用発明は、調和空気を天井面に沿ってより遠くへ送風するものであるから、空気調和機の冷房運転時においても同様に送風するものである。また、引用発明は調和空気を遠くへ送風するものであるが、遠くへ送風することによって室内の空気調和を効果的に行うためのものということができる。
ところで、引用例2に記載された事項(冷風の流れを、室内窓側壁の窓上から、天井面5に沿った天井付着噴流とし、窓側とは反対の側壁面近傍を下降した後、室内下方部を反転する流れ7を作り、窓側に戻し、窓近傍の上昇流9を吸込み口8に吸込むものとして室内を冷房する方法。)についてみると、その文言の意味、作用からみて、引用例2に記載された事項の「冷風の流れ」は、本願発明の「空気調和機の冷房運転時」の「冷気の気流」に相当し、同様に「冷気を天井面5に沿った天井付着噴流とし、窓側とは反対の側壁面近傍を下降した後、室内下方部を反転する流れ7を作り、窓側に戻し、窓近傍の上昇流9を吸込み口8に吸込む」ことは、「冷気を天井壁、前記側壁に対向する壁面、床面、前記側壁面に順次伝わせた後、吸込口から吸い込」むことに、「室内を冷房する」ことは、「居室内を空気調和」することに、それぞれ相当する。
そうすると、引用例2に記載された事項は「空気調和機の冷房運転時に、」「冷気を天井壁、前記側壁に対向する壁面、床面、前記側壁面に順次伝わせた後、吸込口から吸い込んで居室内を空気調和」することと言い換えることができる。
また、空気調和機による冷房時の略天井方向への吹き出しを空気調和機の前面に沿わせることなく斜め上方へ向かうほど空気調和機の前面から離れるように気流を流通させることは、冷気の吹き出し方向と空気調和機の形状により定まるものであり、例えば引用例3,周知例1,2に記載されているように特別な気流の流れでもない。
してみると、引用例2に記載された事項は一般的な課題である冷房効果を高めるためのものであるから、引用発明においても、その適用は考慮される事項であり、また、冷気の流れを斜め上方へ向かうほど空気調和機の前面から離れるようにすることは空気調和機の形状によるものであるから、引用発明において、冷房効果を高めるために、空気調和機の冷房運転時に冷気の流れを本願発明のようにすることは、引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
なお、引用発明は調和空気を空気調和機の前面壁に沿わせることで、天井方向に導くものであるが、上記引用例3,周知例1,2に記載のように水平方向の風向板(ルーバー)を用いて、調和空気を斜め上方に導くことは従来より周知であることから、その適用を阻害するものではない。

そして、本願発明の奏する効果についてみても、引用発明、引用例2に記載された事項から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。

したがって、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-21 
結審通知日 2012-08-28 
審決日 2012-09-12 
出願番号 特願2008-318154(P2008-318154)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 直欣  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 亀田 貴志
長浜 義憲
発明の名称 空気調和方法及び空気調和機  
代理人 佐野 静夫  
代理人 井上 温  

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